1 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 20:58:55.36 ID:EQ4NiwvpO

 一人は長髪の色男。
 一人は武骨な大男。
 一人は寡黙な優男。

 一匹は金色の狐様。
 一匹は凛々し大狸。
 一匹は奇妙な狢殿。


 町の中央、女郎屋たるは盛岡屋。
 其処に出入りす三人の有名な男達。



     ( ^ω^)百鬼夜行のようです。

      【第一話 百伶百利な御仁の元へ。 後編】



 其の内の一人、色男。
 彼の君の元へ御知恵、御力、お借り致しに参ろうか。



4 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:00:25.33 ID:EQ4NiwvpO

 からん、下駄が一つ鳴いては地を蹴る。

 下駄の音に草履の音、時折聞こえる奇妙な声。
 揃って歩けば皆は振り返り、片手を上げてご挨拶。

 そうしてそれに、にこやか応えるお人とは。


( ^ω^)「おー、そう嫌そうな顔をするなお、どくお」

('A`)「……嫌なんだよ、実際」

(;^ω^)「お……」

(´・ω・`)「むきゅー?」

( ^ω^)「どくおが着いてきたく無いって我が儘云うんだおー」

(´・ω・`)「むきゅ!」

(;'A`)「語弊のある云い方すンなよ……」


8 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:02:59.72 ID:EQ4NiwvpO

 ふやけた笑顔に焦茶の羽織、首に巻くは管狐。
 大地主内藤の姓を持つ、坊っちゃんと呼ばれる男は、閉じた扇子で隣を歩く男をつつく。

 隣に居るのは青灰色の浴衣を纏い、頭に手拭いを巻いた痩身の男。
 名をどくおと云い、人になろうとする餓鬼である。


(´・ω・`)「むきゅっ」


 この梵天眉毛の管狐は、しょぼん。
 坊っちゃんが首から下げる竹筒が住み処で、柔らかな毛並みが特徴的。


 さて、この二人と一匹が向かう場所は、町の中央に存在するある店で。
 店の名は盛岡屋、昼は遊技場、夜は女郎屋。

 今は日も傾いた夕暮れ時。
 溢れる客はいろめきだった男共ばかりである。


 何故に坊っちゃん達がこの様な場所に居るか。
 それは、少しばかり時を遡る事になる。


10 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:04:52.24 ID:EQ4NiwvpO

 数時間ほど前の事。
 坊っちゃん達は、百鬼夜行の協力を仰ぎに甘味処、可愛屋に居た。



ξ゚听)ξ「これから、どちらへ行かれるんですか?」

( ^ω^)「お、どうしようか考えてたところだお」

ξ゚听)ξ「それでしたら、あのお方の所に行かれてはどうですか?」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「町でも有名な、種の大将であるあの方です」

( ^ω^)「お…………お!」

ξ゚听)ξ「分かりましたか?」

( ^ω^)「なるほどだお、確かに奴さんに手伝って貰えたら心強いお!」


11 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:06:05.79 ID:EQ4NiwvpO

ξ゚听)ξ「あの方でしたら、相変わらず盛岡屋にいらっしゃると思いますよ」

(;'A`)「…………盛岡屋、か」

( ^ω^)「どうしたんだお? どくお」

(;'A`)「いや……あんまり、行きたくは……」

( ^ω^)「行くお」

(;'A`)「はい……」

( ^ω^)「じゃあつん、行ってくるお!」

ξ゚听)ξ「行ってらっしゃいませ、内藤さん、どくおさん」

(´・ω・`)「むきゅん」

ξ゚听)ξ「しょぼんも、行ってらっしゃいね」

(´・ω・`)「むっきゅう!」


12 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:08:03.17 ID:EQ4NiwvpO


 なんて事がありまして、坊っちゃん達はえっちらおっちら歩き続けて町の中。

 薄暗くなり、町のそこかしこで灯籠やら提灯に火が灯る。
 女郎屋の通りには、派手な色彩のネオンがぎらぎらと輝き始めた。

 それに伴い、女郎屋の客である男達の目の色が変わる。
 どの女を買おうかと、獣に似た目をした男で溢れる女郎屋通り。

 そんな男の気を引こうと、見世に並ぶ女郎達もまたいろめきだって。


(;'A`)「…………」

( ^ω^)「……どくお?」

(;'A`)「……吐きそう」

(;^ω^)「ちょ、おま、待つお、吐くなお!?」

(;'A`)「駄目なんだよ、こう云う雰囲気よォ……気持ち悪いンだよ……」

(;^ω^)「よ、よしよし、吐くなお、よしよし」

(;'A`)「帰りたい……」

(;^ω^)「お前さん、女嫌いなだけじゃ無かったのかお……ほら早く狐どんに会って帰るお」


13 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:09:19.42 ID:EQ4NiwvpO

 ようやっと辿り着いたるは盛岡屋。
 余りこの辺りで長居はしない様にと、坊っちゃんはどくおを引き摺って急ぎ足で暖簾を潜る。


 華々しい女郎達、女や男や化粧の匂いがぶわりと溢れるその世界。
 どくおは一瞬意識を飛ばして、顔色の悪い額を押さえて俯いた。

 そんなどくおの背中を擦りつつ、坊っちゃんは辺りを見回し、見知った顔を見付ける。


( ^ω^)「お、流石の!」

(´<_` )「うん? ……あ、これは内藤さん、今晩は」

( ^ω^)「久し振りだお、調子はどうだお?」

(´<_` )「上々です、ところで珍しいですね、お二人がこんな所へ」

( ^ω^)「お、ちょっと用があってお」

(´<_` )「ご用、ですか?」


15 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:10:05.64 ID:EQ4NiwvpO

 坊っちゃんが声をかけたのは、長身で整った顔立ちの男。
 細い垂れ目と通った鼻筋、着物の背から覗く小さな片羽を持つこの男は、流石の弟者。

 盛岡屋で働く弟者は、坊っちゃんやどくおとも顔見知り。
 普段は言葉も崩しているが、今は客として現れた二人に畏まった言葉で返す。

 弟者はちらりと顔色の悪いどくおを見て、少し笑って肩をすくめた。


(´<_` )「……相変わらずですね、どくおは」

(;^ω^)「おー……大丈夫かお、どくお」

(il A )「……」

(´<_` )「そいつは鼻も良いから、香の匂い何かがきついんでしょう
      ところでご用とは、一体何ですか?」

( ^ω^)「お、百鬼夜行をする事になってお、手伝って貰いたくて」

(´<_` )「あー…………ああ、なるほど」

( ^ω^)「お……お、流石のは手伝ってくれるかお?」

(´<_` )「はいはい、喜んで」

(*^ω^)「お!」


16 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:11:08.20 ID:EQ4NiwvpO

( ^ω^)「そう云えば、流石のも人間になりたいのかお?」

(´<_` )「まあ、俺は妖怪として中途半端ですので
      カタワモノですから、人間になった方が働きやすいし生きやすい」

( ^ω^)「おー……」

(´<_` )「ま、人間になるまでは妖怪を満喫します。だからお手伝いさせて頂きますよ」

( ^ω^)「お! 有り難うだお!」

(´<_` )「はいはい、で、俺が目的ではないでしょう
      誰に会いに来たんです?」

( ^ω^)「おー、お狐どんは来てるかお?」

(´<_` )「来てますよ、相も変わらず重ねの間に通ってます。まだ会えませんが」

( ^ω^)「じゃ、お邪魔するお」

(´<_` )「いや待ておい」

( ^ω^)「どくお行くおー」

(´<_` )「待ておいこら」


17 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:12:18.29 ID:EQ4NiwvpO

( ^ω^)「何だお? ちょっと退いてくれんと通れんお」

(´<_` )「いやいやいや、だからまだ会えんとだな」

( ^ω^)「大丈夫だお、だってお狐どんだしお」

(´<_` )「あのな内藤の、一応は遊女の部屋に来ている男の元へ乱入するのがどう云う意味か分かるか」

( ^ω^)「お邪魔だお」

(´<_` )「仕置きされてもおかしくはない愚行だぞ」

( ^ω^)「だから大丈夫だお、れもなの所だしお」

(´<_` )「いやいやいやおかしい、何がおかしいってもう全てがおかしい」

( ^ω^)「だってお狐どんだお?」

(´<_` )「ああ、大層お偉いお狐様だ」

( ^ω^)「それにれもなだお?」

(´<_` )「ああ、この盛岡屋の売れっ子である此花花魁だ」

( ^ω^)「だったら大丈夫だお」

(´<_` )「最早イミフ」


18 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:13:05.17 ID:EQ4NiwvpO

( ^ω^)「だってお狐どんだお? れもなだお? 大丈夫だお、おふこぉすだお」

(´<_`#)「だから! 大丈夫じゃ!」

|゚ノ ^∀^)「あれあれ? どうしたのう、賑やかしいわよう」

( ^ω^)「お、れもな」

(´<_`#)「花魁も云って下さい、こいつが花魁とお狐様の所に行くと云ってきかないんです」

|゚ノ ^∀^)「良いんじゃなあい? 座敷に案内しましょっか?」

( ^ω^)「お、良いかお?」

(´<_`#)「だぁから!!」

(´<_`#)

(゜<_゜;)「花魁ンッ!?」

|゚ノ ^∀^)「やほーう、久し振りねえ大福ちゃんに小鬼ちゃん、狐ちゃんもふかふかあ」

( ^ω^)「相変わらず元気そうで何よりだおー」

(゜<_゜;)「うおぉぉぉいッ!?」


20 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:14:08.91 ID:EQ4NiwvpO

 とことこと階段を降りて現れたのは、黄色い髪を結いもせずに降ろしたままの美しい女。
 にこにこと人の良さそうな笑顔で、顔の横に垂らした二つの髪束を組紐でばつの字に結い纏めている。

 艶やかな桃色の着物は崩れ、白い肩がするりと覗く。
 女の名はれもな、彼女もまた妖怪であり、
 盛岡屋いちの売れっ子、此花(このはな)花魁そのお人。

 女と云っても、厳密に云うとれもなには性別は無い。
 元々は樹であり、血を吸った為に妖怪となった、少しばかり異端な存在。

 しかしその美しさに朗らかさ、優しく愛想が良い為に、彼女を求める客は後を絶たない。


 そんなれもなが、お得意様の客を放ったらかしてこんな所に居る。
 それには少し理由があって、決して客を蔑ろにしている訳ではない。


(゜<_゜;)「おおお花魁こんな所に居て何を!?」

|゚ノ ^∀^)「んだってえ、追い出されちゃったんだものう」

(゜<_゜;)

(´<_` )「ああ……」


21 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:15:09.32 ID:EQ4NiwvpO

|゚ノ ^∀^)「だから、大福ちゃん達連れてくわねえ?」

(´<_` )「…………もう、好きにして下さい……俺は知りませんよ」

|゚ノ ^∀^)「はいはあい、行くわよう」

( ^ω^)「おー、ほら行くおどくお」

(;'A`)「早いとこ済ましてくれ……帰りてェ……」

|゚ノ ^∀^)「んもう、相変わらずねえ小鬼ちゃん」

(;'A`)「ああ……うん……触るな……」

|゚ノ ^∀^)「売れっ子花魁に触るなって、すごい事云ってるのよう? 小鬼ちゃん」

(;'A`)「はい……はい……うん…………触るな……」

( ^ω^)「ほら、何時までしゃがんでんだお」

(;'A`)「おうちかえりたい……」

(;^ω^)「子供かおお前さんは」


22 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:16:06.10 ID:EQ4NiwvpO


 衣紋掛けやら寝台やら、そこらじゅうに散らかされた着物、打ち掛け、帯に簪。
 薄暗い座敷を照らすのは、小さな行灯ただ一つ。

 桃の描かれた行灯から溢れる微かな赤い明かりに、二つの影がゆらりゆらり。

 一つの影は小さな娘。
 もう一つの影は、九本の豊かな尾を持つ狐の物。


 九尾を持つ影は、小さな影の頬を撫でる。
 小さな影は擽ったそうに身を捩り、そっとその身を引く。

 くすくすと洩れる笑い声。
 困った様に俯く影。


 その空間は、とても異様で、無駄に甘美で。

 甘ったるい香のかおりが漂い、鼻孔から流れ込むこれは、頭の芯を痺れさせる程に、甘くて、甘くて。


23 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:17:25.49 ID:EQ4NiwvpO

爪'ー`)y‐「ほら逃げないでぇ、りりちゃあん」

⌒*リ´・-・リ「ぁ……う……」

爪'ー`)y‐「良い子、良い子さ、りりちゃあん」

⌒*リ´・-・リ「ぉ……おきつね、さま……」

爪'ー`)y‐「大丈夫、恐くないさぁ、ほら、こっち、こっちへおいでぇ?
      僕がね、優しぃく抱き締めてあげる、ほらおいで、恐くないよ、その頬を撫でてあげるぅ」


 甘ったるく囁く男は、煙管を片手ににっこり微笑む。
 向かいに座る、髪を二つに結った幼子は、困った顔で俯くばかり。


 この幼子は、れもなの禿(かむろ)っ子である、りり。
 未だ片手で足りそうな程の歳で、気が弱くて引っ込み思案。

 しかし顔は愛らしく、心も優しい器量良しで、れもなに良くして貰っている。

 そして、目の前に座する男にも、良く、して貰っていた。


24 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:18:03.60 ID:EQ4NiwvpO

爪'ー`)y‐「怖い事なんてないさぁ、大丈夫、痛い事も無いからぁ」


 りりは、困って居た。

 自分の前でにこにこと微笑んで手招きをする男は、姉女郎れもなの客。
 それも馴染みの、お得意様。

 本来ならば、部屋を追い出されるのはりりの筈なのに
 この男は、りりと二人きりになりたいが為に、れもなを部屋から追い出したのだ。

 申し訳無いやら何やらで、りりはしょんぼりと俯くばかり。


 しかししかし、そんな事を気にもとめず、男は嬉しそうにりりにちょっかいを出す。

 立派な尾の一本で、ふわりとりりの頬を撫でる。
 その度にぴくんと跳ねては困った顔をするりりに、笑みを濃くするのだ。


 そう、男の目的はれもなではなく、この幼子。


25 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:19:04.72 ID:EQ4NiwvpO

 露草色の地味な着物を纏う幼子に手を伸ばし、両腕でその体をきゅうと抱き寄せた。
 きゃあと小さく声を上げたりりに頬擦りをし、男はひたすら幸せそうで。

 男が纏うは絹の手触り、白い着流し。
 赤の細帯をきゅうと締め、長い髪の裾辺りを一つに纏めていた。

 そしてどこから出ているのか、帯の下から溢れる金色の九尾。
 頭の左右には、つんと尖った獣の耳がぴくぴく跳ねる。

 尾で頬をふわふわと撫でられて、りりは男の腕の中であわあわともがいていた。


⌒*リ´・-・リ「ぉ、おきつねさま……ぁの……」

爪'ー`)y‐「名前で呼んでぇ?」

⌒*リ´・-・リ「ふ、ふぇ……?」

爪'ー`)y‐「通り名でなく、名前、ね?」

⌒*リ´・-・リ「ふ……ふぉっくす、さま……」

爪*'ー`)y‐「きたこれぇ!」

⌒*リ;´・-・リ


27 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:20:03.51 ID:EQ4NiwvpO

 幼女の舌足らずなお名前呼びきたぁ等と嬉しそうにはしゃぐ男、ふぉっくす。

 ふぉっくすは、りりにべたべたとくっつき頬擦りをしては頭を撫でる。
 それはどうにも、幼子を愛でると云う物とは違っていて。


爪*'ー`)y‐「可愛いなぁ可愛いなぁ可愛いなぁりりちゃんりりちゃん僕のりりちゃあああああん」

⌒*リ;´・-・リ「は、はわ、ひゃわわわわわわぁ……」

爪*'ー`)y‐「うふふははははははははははははぁ可愛いよぉりりちゃあああああん」

⌒*リ;´・-・リ「はわわわわわわ……」


 ぐりぐりと己の頬をりりに擦り付ける様は、獣の匂い付け行動にも似ていて。
 苦しいまでに抱き締められるりりは、息苦しそうに口をぱくぱく開閉して困り顔。

 このふぉっくすと云う男は、本来ならばなかなかに偉大なお方の筈なのに。
 幼女を相手にへらへらと緩みきった笑顔な姿を見れば、とてもそうとは思えない。


30 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:21:33.79 ID:EQ4NiwvpO

 このふぉっくす、整った顔立ちは色男と云うに相応しく。
 長身で、細身ではあるがしなやかな筋肉が身を覆い、力も強ければ頭も良い。

 美しい九尾は、ふぉっくすの力を示す物。


 妖怪を保ち続ける美しき妖怪、狐共の頂点に君臨する麗しき黄金色。
 狐共を統べるその力、町の女に部下共が、憧れ羨むその男。


 その名は『ふぉっくす』、白面金毛九尾の狐。
 由緒正しき、気高き狐の親玉である。


 が、


爪*'ー`)y‐「ぅふははははははははははははぁりりちゃんりりちゃんもっと呼んでよ可愛いりりちゃあああああん」

⌒*リ;´・-・リ「ひゃ、きゃわああああああああっ」


 どうにも、ふぉっくすは幼女趣味らしい。


32 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:22:20.26 ID:EQ4NiwvpO

 敵対していた大狸とは個人的には仲が良かったが、種族の問題で激しい戦も繰り返したもの。
 それこそ獣妖怪の中では、一二を争う程の強大な力を持って居た。

 二匹の親分が本気の化かし合いをしたならば、側にある物は全て鬼火で燃やし尽くされ。
 獣の姿を見せたなら、其処らの脆弱な妖怪やら人間ならば、卒倒する程の威圧感。

 まさに狐の親分と呼ぶに相応しい力と美しさを持つ、九尾の狐である。


 が、しかし。

 狐の親分とは云え、この町は平和そのもの。
 長年争っていた狸とも平和協定を結び、仲良しこよしの間柄。

 今となってはこの様に


爪*'ー`)y‐「りりちゃんりりちゃん頭から食べてしまいたい程に可愛いよりりちゃあああああん」

⌒*リ;´・-・リ「ひ、ゃ、た、食べないでくださいぃ……」

爪*'ー`)y‐「食べないさ食べないさぁ食べたら無くなっちゃうから食べないさぁ今はぁ
      ぅふははははははははははははははははははははははぁ」


 ただの、幼女趣味の変態である。


34 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:23:09.96 ID:EQ4NiwvpO

 立派な九尾と親分と云う地位が勿体無く思える程の変態振り。
 色男ではあるが、幼女を相手にでれでれと締まりのない笑みを見せられれば皆が幻滅してもおかしくはない。

 しかしふぉっくすがこの顔を見せるのは、りりにのみ。

 外では甘い色男の顔を崩す事は無いのだが、この変態振りは、実は外でも有名だった。
 知らぬは本人のみである。



 ふと、りりは頭や頬に頬擦りされる感触を感じていたかと思うと、突然、身体がふわりと宙へ舞った。

 僅かに感じた無重力。
 しかし、すぐにぽすんと背中全体で柔らかな衝撃を受け止める。

 目に写るのは、天蓋付きの寝台、その天井。
 木目も見えぬ黒いそれを、きょとんと見ていた。


 しかしそれも、一つの影に直ぐ様のみこまれる。


36 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:24:05.11 ID:EQ4NiwvpO

 己に覆い被さったのは、狐の耳を持つ男の影。
 にっこり人の良さそうな笑みを浮かべながら、白く柔らかな頬に口付けた。


 ああ、寝台に放り投げられたのか。


 そう理解するのと、首筋に舌が這ったのは同時の出来事。

 ぬるると細い首筋を嘗め上げられれば、幼い身体はぴくりと跳ねる。
 少しばかり強く吸い、赤い跡をそこへと残した。

 頬を嘗め、首を嘗め、細い鎖骨に僅かに歯を立て、唾液で濡らす。
 薄玻璃を扱う様に優しい手付きで解かれる帯に、幼き露草は抵抗など出来よう筈も無く。


 己が幼いから抵抗出来ぬのではない。
 この男が、狐の親分だからでも無い。

 気が弱いからでも、力が弱いからでも、ない。


 ただ、恍惚。


39 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:25:04.64 ID:EQ4NiwvpO

 たまらなく優しく甘ったるくていねいに撫でられ、嘗められ、扱われるのだ。

 耳や首筋を撫でる甘い甘い狐の吐息が心地よく、
 細く形の良い指が触れる場所、その全てが疼く様に熱を持つのだ。

 そしてやけに甘ったるい愛撫の合間に訪れる、無駄に甘ったるい愛の言葉が脳髄を蕩けさせるのだ。


 ああ、気持ちの良くない筈が無い。

 指先から唇から、この男の全身から伝わるのはどうしようもない程の愛情で。
 幼いながらにそれに気付いてしまう程、この男は狂っている。

 狂気とも云える愛しい優しさはそのまま愛撫とし、あばら骨に皮膚を張った様な、未発達な胸を撫でる。
 淡い桃色の突起を指先で潰されて、思わず口からは嬌声がこぼれ落ちた。


 耳元ではくすりくすりと笑う聲。

 口から洩れる幼くも砂糖水の様に甘い聲。


 目の前が霞む様な快楽に、こぽりと泡を吐いて沈んでしまいそうで。


40 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:26:08.39 ID:EQ4NiwvpO

 呼吸を荒くし、頬を赤くする幼児に抱く、どうしようもないいとおしさ。

 最早、狂って居ると遠の昔に気付いている。
 狂ったのはこのお稚児を見付けたあの瞬間。

 今の様に息も絶え絶え朽ち果てそうな幼児を、露草にしたのはこの狐。
 己が為に恋が為に、露草は狐による狂気の産物。


 けれどけれど、ほんとはみんなわかってる。
 狐も己の狂気をわかってる。
 露草も全てをわかってる。

 だけど露草が大人になるまで我慢しよう。
 大人になったら貪ろう。

 それまで優しく愛しく育てよう、傷付けないで壊さないで。



   「ごめんねぇ────僕は、もう堪えられない」


 悲しそうに笑う狐に、露草は虚ろな目をして微笑んだ。

 わかっているよ、いとしいよ。
 からだをひきさいたって、かまわないよ。


41 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:27:11.71 ID:EQ4NiwvpO



 ひやり、狐の首に二本の手が絡まって。

 その手はぎりりと首を締め上げて、りりの上から狐を剥がして、散らかった床へと叩き付けた。


爪;'ー`)y‐「い、いってて……良いとこだったのにぃ……」

 「お狐様、蜜を吸いたいとは思うけれど、露草は蜜を流さなくてよ、お狐様」

爪;'ー`)y‐「あー……んっとー……そのお声はー……」

|゚ノ ∀ )「何かお云いになったら? お狐様」

爪;'ー`)y‐「ぇ……えへー……ごめぇん、れもな……」

|゚ノ ∀ )「其の子はあなたの物ですわ、其の子を如何するかもあなたの勝手ですわ
      けれどね 其の子は未だ、れもなのものなの、れもなの御子なの、そうお云いになったは何方様?」

爪;'ー`)y‐「……僕です」

|゚ノ ∀ )「其の子がれもなの元から巣立つ迄は、れもなの御子とし、手を出さぬとお誓いになったのは?」

爪;'ー`)y‐「……僕……です」

|゚ノ ∀ )「同意の上かも存じませんけれど────其の誓いを、お破りになられると ?」


45 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:28:13.82 ID:EQ4NiwvpO

爪;'ー`)y‐「は、あは、あははぁ……ごめ、れもな、ごめ、ちょ、待っ!!」

|゚ノ ∀ )「れもなは怒りますわ怒りますわお狐様、れもなの御子を壊そうとしたんですものお狐様」

爪;'ー`)y‐「ごめんもうしません! もうしませんから! 今度こそ大人になる迄我慢しますから!!」

|゚ノ# ∀ )「そう仰有ったのは何度目かしらお狐様ぁあっ!!?」

爪;'ー`)y‐「五回以上云ってますごめんなさぁい!!」


( ^ω^)「はい、其処までだおー」

|゚ノ ^∀^)「いてっ」

爪'ー`)y‐「あたっ」


 れもながふぉっくすの首を絞め殺そうと、馬乗りになる様を見ていた坊っちゃんが
 閉じた扇子で、ぺしんぺしんと二人の額を叩いて止めた。

 額を押さえて坊っちゃんに顔を向けた二人は、何時も通りの顔をしていて。


48 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:29:20.22 ID:EQ4NiwvpO

( ^ω^)「まったく、何してるんだお二人して」

|゚ノ ^∀^)「んだってぇ……お狐様が約束破ろうとするんだものう……」

爪;'ー`)y‐「ご、ごめんってばぁ……」

( ^ω^)「約束を破るのは良くないお、お狐どん」

爪;'ー`)y‐「すみません……」

( ^ω^)「あと、人の趣味に口出しはしたくないけど、ぺどもちょっとどうかと思うお」

爪;'ー`)y‐「そ、それはそっとしといてよぉ……」

爪;'ー`)y‐

爪'ー`)y‐「あれ?」

(;'A`)「れもな、服着せといたぞ」

|゚ノ ^∀^)「あっ、ありがと小鬼ちゃん!」

爪'ー`)y‐

爪'ー`)y‐「あれ?」


51 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:30:53.30 ID:EQ4NiwvpO

爪'ー`)y‐「…………何で、二人が居るの?」

( ^ω^)「…………百鬼夜行の手伝いを頼みに」

爪'ー`)y‐「あ、あぁ、そう、うん……て、手伝うけど、あの……」

( ^ω^)「…………」

爪'ー`)y‐「…………」

|ω^)))

爪'ー`)y‐「ちょっと待って無言で引くのは止めていっそ罵って」

(;'A`)「……」

爪'ー`)y‐「……」

|;'A`)))

爪'ー`)y‐「だから無言で引くの止めてお願いだから」

爪'ー`)y‐

:爪寇t):「お願いしますから……」

|;'A`)^ω^)


52 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:32:21.26 ID:EQ4NiwvpO

( ^ω^)「まぁ……ちょっと、頭冷やそうか……?」

爪'ー`)y‐「はい……」

(;'A`)「……」

爪'ー`)y‐「小鬼ちゃん、無言は止めて」

(;'A`)「……ウボァ」

爪'ー`)y‐「ウボァ……」

( ^ω^)「おー……お、れもな」

|゚ノ ^∀^)「はいはぁい?」

( ^ω^)「れもなは手伝ってくれるかお? 百鬼夜行」

|゚ノ ^∀^)「もっちろぉん、りりちゃんと一緒に手伝うわよう」

( ^ω^)「おっおっ、有り難いおー」


54 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:33:17.60 ID:EQ4NiwvpO

( ^ω^)「お狐どんも、狐達に頼むおー」

爪'ー`)y‐「は、把握ぅ……」

( ^ω^)「……ぺど」

爪'ー`)y‐「もうやめて」

( ^ω^)「もう諦めろお、ぺど……」

爪'ー`)y‐「…………まぁ、見られたのが同族で無かっただけマシだよねぇ……」

( ^ω^)「えっ?」

爪'ー`)y‐「えっ?」

(´・ω・`)「むきゅっ?」

爪'ー`)y‐

爪'ー`)y‐「えっ?」

爪'ー`)y‐

爪'ー`)y‐「えっ?」

( ^ω^)「二回すんなお」


55 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:34:05.75 ID:EQ4NiwvpO

(´・ω・`)「むっきゅー!」

爪;'ー`)y‐「む、むきゅーじゃなくて……き、君、……あああ……
      ……よりによってこの子に見られてたあああああああああああああああ!!」

( ^ω^)「おー? しょぼんに見られたら困るのかお?」

爪;'ー`)y‐「知らないの?」

( ^ω^)「お?」

爪;'ー`)y‐「この子、死ぬ程、口が軽いの」

( ^ω^)


(・ω・`;) (^ω^ )


( ^ω^)「mjd?」

爪;'ー`)y‐「君が十になる迄おねしょしてたのも話してるよ」


(・ω・`;) (゚ω゚# )


58 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:35:08.71 ID:EQ4NiwvpO

爪;'ー`)y‐「狐の中じゃねぇ……有名なんだよ、あの管狐は口が軽くて噂好きってぇ……」

( ^ω^)「ほう」
つ;´・ω・と

爪;'ー`)y‐「広めるのは狐の輪の中だけとは云え……」

( ^ω^)「この辺の狐はみんな知ってるのかお?」

爪;'ー`)y‐「まぁ知ってるねぇ」

( ^ω^)「遠くの狐は知らんのかお?」

爪;'ー`)y‐「流石に狐みんなに知れ渡っては無いと思うけどぉ……」

( ^ω^)「ぺどが」

爪'ー`)y‐

爪'ー`)y‐「えっ?」

( ^ω^)「既にこの辺では有名ぺどだお」

爪'ー`)y‐

爪'ー`)y‐「えっ?」


59 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:36:14.84 ID:EQ4NiwvpO

( ^ω^)「これで、遠くの狐にも広まるお」

爪'ー`)y‐

爪; Д )y‐「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」

( ^ω^)「可哀想なぺど……」

|゚ノ ^∀^)「哀れなぺど……」

(´・ω・`)「むっきゅ……」


(・ω・`;) (^ω^ )


(;'A`)「……なァ、いつまで遊んでんだ?」

( ^ω^)「お、じゃあそろそろ帰るかお」

(;'A`)「やっと帰れる……」

|゚ノ ^∀^)「お構いもせずごめんなさいね」

( ^ω^)「おっおっ、気にするなお、それじゃそろそろおいとまするおー」

|゚ノ ^∀^)「はいはぁい、またねー……りりちゃん……は、寝ちゃってるか」


60 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:37:07.95 ID:EQ4NiwvpO

( ^ω^)「さて、しょぼんには帰ってから問い質すお」

(;'A`)「……んだな」

(;´・ω・`)

( #゚ω゚)「場合によっては憎しみで殺す」

(;´ ω `)そ

( #゚ω゚)「素麺の様に喰う」

(´;ω;`)「むぎゅうううう!?」

( #゚ω゚)「めんつゆ付けて薬味と一緒に美味しく頂く」

(´;ω;`)「むぎゅううううん!? むぎゅううむっぎゅううううううううん!!」

( #゚ω゚)「流し管狐として喰う」

(´;ω;`)「むぎゃああああああああああああああああん!!!?」



(;'A`)(……坊っちゃん)

( ^ω^)(ちったあ懲りるべきだお)

62 ◆XCE/Wako2nqi 2010/01/31(日) 21:39:00.22 ID:EQ4NiwvpO



 そうして広まる噂とは、


 ただ一人の娘を思いて、狂ってしもうた我らが狐の親分様。

 その想いは岩をも貫き打ち崩し、永久凍土をも溶かし焦がさん程である。

 さりとて其れを咎めるには、親分様の想いは余りにも美し過ぎる物。

 人の子に恋をし、人の子を助け、其の子の為に其の子の為にと力を駆使した親分様。

 それは、紛れもない純愛と云う物に御座います。

 狂ってしまわれた我らが親分様。
 しかし彼のお方は、やはり偉大なお方であられまするな。

 ちゃんちゃん。



 狐はけらけら楽しそうに笑って、たんこぶをこさえた頭を尾で撫でていた。



 『一話後編 おわり。』


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