4 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:04:39.66 ID:33r1FC5dO

 お山の声を聞いてご覧。
 お方は何を囁くか。

 お山の声はいましめの鐘。
 危険を知らせる叫びと思え。

 耳を傾け研ぎ澄ませ。
 何を報せにお山は叫ぶ。



     ( ^ω^)百鬼夜行のようです。

      【第七話 百花斉放 咲き誇れ。 前】



 咲き乱れては散り狂う。
 花か思いか、はたまた命か。

 雀が泣いて烏が泣いて。
 桜の花は散り乱れ。

 お山であやかし狂い笑む。


7 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:07:05.68 ID:33r1FC5dO

|゚ノ ^∀^)「お願いがあるのよう」


 此花花魁と呼ばれる樹木の妖怪が、可愛らしく首を傾げてそう云った。

 明るい色の髪に、肉厚な花弁の様な白い獣耳。
 たおやかな笑顔を惜し気もなく咲かせて、断れない様な愛らしさで云う。

 その姿に、坊っちゃん達はやむを得ず首を縦に振ってしまった。


 坊っちゃん達が居るのは、あの盛岡屋。
 弟者が怪我で来られぬ事を伝えに来たらば、れもなにひょいと取っ捕まってしまったのだ。

 れもなから放たれる甘ったるいかおりは、花の匂いか香の匂いか、女の匂いかは解らぬが。
 粘膜にまとわりつき染み込む様なそれに、頭をじんと酔わされる。


( ^ω^)「お願い、とは?」

|゚ノ ^∀^)「ひとさがしなのよう、れもなは此処を離れられないから、代わりにお願いしたいの」


9 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:10:05.86 ID:33r1FC5dO

( ^ω^)「お、この町の人かお?」

|゚ノ ^∀^)「ええ、最近この町で目撃情報があってねえ、もういてもたっても居られないの」

( ^ω^)「おっおっ、なら引き受けるお!」

|゚ノ ^∀^)「本当っ!? やーん有り難うっ!!」

(;^ω^)「お、だ、抱き着くなお! 人の目が怖いお!」


 れもな曰く、探し人は男。

 細い目に穏やかな笑顔、気品あふるる姿をしており物腰は優しく美青年の好青年。
 一目見ただけど恋に落ちる様な色男なのだがそれを鼻にかける事はなく、にこにこ笑顔。
 獣のあやかしに見えるが実際はそうではなく、煌めく様な白髪と黒い翼が美しい。
 衣服は黒で、相槌を打つのが上手な聞き上手。
 とにもかくにも美しく愛しく穏やか朗らかたおやかな男性。


 と、何の参考にもならぬのろけ話を聞かされた。


11 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:12:55.73 ID:33r1FC5dO

(;´ω`)「……」

('A`)「……どうした坊っちゃん、干からびた大福みてェな面で」

(;´ω`)「どんなんだお……いや、うん……人探し、するお」

(;'A`)「は?」

(;´ω`)「れもなに押しきられたお……」


 ふらふらと盛岡屋から出てきた坊っちゃんに、外で待っていたどくおが呆れた顔を見せる。

 店主に話をしにきて、どうしてれもなの名が出るのか。
 少し悩んだが、何となくは察する事が出来た。


 西の地から飛ばされ戻ってきた坊っちゃん達は、弟者や母に話をした。

 一応は争う気は無いらしいが、油断は出来ない。
 妹の姿を見る事は出来なかったが、兄の無事は確認した、と。

 助ける事は出来なかったと気落ちする坊っちゃんに、弟者は十分だと笑う。
 そして無事だと云う事実に、安堵しては僅かに涙を見せた。


12 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:14:45.65 ID:33r1FC5dO

 弟者は傷が癒えるまで、雷獣邸で世話になる事になり。
 その旨を伝える為に、坊っちゃん達は盛岡屋へと足を運んだのだが。


( ´ω`)「まさかのおつかいもの……」

('A`)「最近、おつかいしかしてねェな……」

( ´ω`)「おつかいゲーかお……」

('A`)「……で、誰を探すんだ?」

( ´ω`)「れもなの恋人さんらしいお……」

('A`)「見た目は?」

( ´ω`)「白髪に黒い着物で笑顔の人」

('A`)「特長ある様なない様な……」

( ´ω`)「探さないと後が怖いから、取り敢えず手分けして探すおー……」

('A`)「はいはい……」


14 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:16:40.06 ID:33r1FC5dO

 そっちは任せた、とどくおと坊っちゃんは二手に別れて町中を練り歩く事に。
 とは云え、そう簡単に見つかるとは思えない。

 大きくはない町だが、人やあやかしにあふれる町。
 今日も今日とてよく賑わい、色んな人が歩いている。

 誰かが通れば誰かが過ぎる、人が途絶える事はない。
 常に誰かが踏んでいる大通り。


 その中でぽつんと、坊っちゃんは立ち尽くしたまま考える。


 本当に、これが平和なのか。



 ひっきぃは云った。
 平和ではあるが人は汚い物を抱えていると。

 それは当然の事なのだろう。
 考えない様にしていたが、人はきれい汚い織り混ぜて作られている。

 透明すぎる水に、魚なんぞ棲みはしない。
 多少の汚れがなければ、魚の餌も棲まんのだ。


17 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:18:40.93 ID:33r1FC5dO
 ひっきぃの様に、澄みすぎた目と耳を持つ者からすれば。
 この町は、淀んだ汚泥の様な湖に見えるのだろうか。


 此処は平和だと、思う。
 他所の町に比べれば、争いも犯罪も少ない。
 それは恐らく町の主と呼ばれる、雷獣の夫妻が居るからだろう。

 悪さをすれば怖い目にあう。
 常に見張られていると感じる町。


 それは、平和か?

 監視された町は、本当に、平和なのか?


 雷獣夫妻は、実際は監視などしない。
 女郎蜘蛛も、必要な時以外は糸を巡らせない。

 ただ、居るだけ。
 何もせず、人と変わらず生きるだけ。

 それなのに、町の者は監視されていると思うのだろう。

 雷獣夫妻の事をろくに知らないから、そう、思うのだろう。

20 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:20:50.27 ID:33r1FC5dO

 坊っちゃんは俯く。

 あやかしがいとおしい。
 町のあやかしは皆、家族。

 皆、可愛がってくれた。
 仲良くしてくれた。

 家族と離れて過ごしていたから、嬉しかった。
 誰かの温もりは幸せだった。


 けれど、それが雷獣夫妻が恐ろしいからそうしていたのだとすれば?

 気を遣って、恐れて、優しくされていたのだとすれば?



 目頭と、鼻の奥がぎゅうと痛む。

 誰も疑いたくはない。
 皆を信じて愛したい。

 でも、でも、どうして、胸が、痛い。


21 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:22:07.15 ID:33r1FC5dO

 雷獣夫妻は皆が知る。
 しかし誰も、良くは知らない。

 ただ強くて恐ろしい、怒らせてはいけない腫れ物として認識している。

 その息子も、また、同じ様に。
 腫れ物として、扱わねばならない。


 ぽたり、俯いた坊っちゃんの顔から、しずくが落ちた。


 どうして疑わねばならない。
 こんなにも愛しいこの町を、人々を。

 嗚呼、大人になどなりたくはなかった。
 何も疑わずに済んだ幼い頃のままだったら、僕は今でも幸せだった筈なのに。

 今が不幸とは思わない。
 けれど一度、疑心暗鬼にとらわれれば、幸せとは言い難い。


22 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:24:47.36 ID:33r1FC5dO

 両親も愛しい。
 血の繋がりはなくとも、両親にかわりはない。
 優しくて厳しくて、唯一の両親。

 なのにどうして、どうして。


 むねが、いたいよ。
 かなしいよ。
 くるしいよ。
 くやしいよ。

 僕はどこまでも弱くて、弱くて、弱くて。

 昨日まで信じていたものの正体がわからなくなり泣いてしまうくらい、弱くて。


  _
( ゚∀゚)「お、内藤」

(  ω )「!」
  _
( ゚∀゚)「どうした? 何突っ立ってんだ」


24 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:27:55.76 ID:33r1FC5dO

 俯く背中に声をかけたのは、眉のはっきりした男。
 長岡は腰にさした刀を揺らして、坊っちゃんの側まで歩み寄る。

 慌てて目元を擦る坊っちゃんの顔を覗き込んで、首を傾げた。

  _
( ゚∀゚)「んだよ? 泣いてんのかよ?」

( つω^)「な、泣いてないお!」
  _
( ゚∀゚)「知ってるか? 嘘つくと鼻の頭に血管浮き出るんだぜ」

(;^宦O)「お!?」
  _
( ゚∀゚)「うっそー」

( ´ω`)
  _
( ゚∀゚)「ははっ、騙されやがってだっせぇの。ぷげらっちょ」

(;´ω`)「お、おま……ひでえお……」
  _
( ゚∀゚)「で、何かあったのかよ?」

( ^ω^)「……おー、ちょっと、お」


28 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:30:46.48 ID:33r1FC5dO
  _
( ゚∀゚)「何だよ、取り敢えず邪魔だから歩こうぜ」

( ^ω^)「お」
  _
( ゚∀゚)「大の男が泣く様な事があったんだろ? 何だ、女でもとられたか?」

(;^ω^)「ち、ちげえお……ただ、あの、その」
  _
( ゚∀゚)「ただ?」

( ^ω^)「……この町は、本当に平和なのかお?」
  _
( ゚∀゚)「んあ? 平和じゃねぇか?」

( ^ω^)「おー……その、町の人達は、本当に平和だと思ってるのかお……」
  _
( ゚∀゚)「お前は平和だと思わねぇのか?」

( ^ω^)「……解らんお」
  _
( ゚∀゚)「……」

( ^ω^)「考えれば考える程、解らんのだお……」


29 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:33:26.91 ID:33r1FC5dO

( ^ω^)「この町には、主と呼ばれる妖怪が居るお」
  _
( ゚∀゚)「ふんふん」

( ^ω^)「そして町の人達は、その妖怪に監視されてると思ってるみたいだお」
  _
( ゚∀゚)「本当なのか?」

( ^ω^)「違うお、普通の人と同じ様に過ごしてるお」
  _
( ゚∀゚)「じゃあ良いじゃねぇかよ」

( ^ω^)「良い……のかお? 監視されてると思ったら、気持ちが穏やかじゃないお?」
  _
( ゚∀゚)「……この町に、役人なんかは居ないのか?」

( ^ω^)「おー……多少は居るけど……」
  _
( ゚∀゚)「働いてねんだろ」

( ^ω^)「……お」
  _
( ゚∀゚)「それは職務怠慢だからだと思う? それともただ仕事が無いだけか?」


31 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:36:02.73 ID:33r1FC5dO

( ^ω^)「……いつも暇そうだお」
  _
( ゚∀゚)「何でだと思う?」

( ^ω^)「お……?」
  _
( ゚∀゚)「平和だからだろうがよ」

( ^ω^)「!」
  _
( ゚∀゚)「ここの役人は、多分何かが起きても役立たずだ。平和ぼけしきってるからな」

(;^ω^)「おー……」
  _
( ゚∀゚)「それでも、ここでは犯罪が少ない。その理由は?」

(;^ω^)「お、お?」
  _
( ゚∀゚)「その監視してると思ってる奴が居るからだろうよ」

(;^ω^)「!!」
  _
(;゚∀゚)「お前の町の事だろうがよ……」

(;´ω`)「……お恥ずかしいお」


32 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:38:08.53 ID:33r1FC5dO
  _
( ゚∀゚)「実際、抑止力にはなってんだろうな、ここじゃあほとんど火付けも辻斬りも聞かん」

( ^ω^)「でも辻斬りはたまに出るお」
  _
( ゚∀゚)「他所に比べろよ、ここは刺激が無さすぎるくらい平和だぜ?」

(;^ω^)「そ、そうなのかお?」
  _
( ゚∀゚)「火付け盗人、辻斬り人拐い……他所じゃ溢れてる事だ」

(;^ω^)「おう……すりりんぐ……」
  _
( ゚∀゚)「大体、最近監視されてるとか思い始めた訳じゃあるまいに」

( ^ω^)「まあ、町に移り住んだのはここ数十年らしいけど……
      町の地盤を作ったのはおっとさん達らしいから、まあ相当昔から語り継がれてるかと」
  _
( ゚∀゚)「おっとさん?」

( ^ω^)「この町の主と呼ばれる妖怪だお」
  _
(;゚∀゚)「お前……凄かったのね……」


33 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:38:33.93 ID:33r1FC5dO

( ^ω^)「まあ凄いのはおっとさんとおっかさんだお、僕はただの大地主の息子だお」
  _
(;゚∀゚)「いや充分充分、つか大地主かよ親父さん」

( ^ω^)「いや、苗字違うお」
  _
(;゚∀゚)「じゃあお袋さん?」

( ^ω^)「苗字知らんお」
  _
(;゚∀゚)「誰だよ大地主……」

( ^ω^)「じい様らしいお」
  _
(;゚∀゚)「じい様は何処に?」

( ^ω^)「旅に出たらしいお」
  _
(;゚∀゚)「何なのお前んち……」

( ^ω^)「ははは、かおす」
  _
(;゚∀゚)「自分で云うな」


36 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:41:48.74 ID:33r1FC5dO
  _
( ゚∀゚)「はー、しかしお前、結構良いとこの坊っちゃんだったんだな」

( ^ω^)「らしいおー」
  _
( ゚∀゚)「知らんかったとは云え、ずいぶん失礼な事とか云ったな坊っちゃん」

( ´ω`)
  _
(;゚∀゚)「何その反応」

( ´ω`)「だーれも名前で呼ばんお……みーんな坊っちゃんって呼ぶお……」
  _
(;゚∀゚)「解った、解ったから、内藤!」

( ^ω^)+
  _
( ゚∀゚)(そういやこいつの下の名前しらねぇしな……何か秘密が……? 伏線……?)

( ^ω^)「あ、下の名前は文太郎だお」
  _
( ゚∀゚)「ふらぐくらっしゅ」

( ^ω^)?


39 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:44:12.46 ID:33r1FC5dO
  _
( ゚∀゚)「ま、良いけどな。あんま気にしすぎんなよ」

( ^ω^)「お、有り難うだお」
  _
( ゚∀゚)「干からびた大福は不味いからな」

(;^ω^)「干からびた大福……長岡は、僕の家の事を知らないお?」
  _
( ゚∀゚)「さっきまで知らなかったな」

( ^ω^)「おー……」
  _
( ゚∀゚)「んあ?」

( ^ω^)「知らなくても、仲良くしてくれたのかお……」
  _
( ゚∀゚)「んあー? 家とお前と仲良くするのが関係あんのかよ?」

( ^ω^)「おー……その、僕の親が怖いから、とかが……その……」
  _
( ゚∀゚)「別に、俺はこの町のモンじゃねぇしよ。どうでも良いぞ」

( ^ω^)「お……」


40 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:46:16.70 ID:33r1FC5dO
  _
( ゚∀゚)「ほら、よく青春物とかで云うだろ、お前はお前だ、って」

( ^ω^)
  _
( ゚∀゚)

( ^ω^)「恥ずかしっ」
  _
( ゚∀゚)「この野郎が」

( ^ω^)「いや、まさかそんなくっさい台詞で来るとは」
  _
( ゚∀゚)「今さら恥ずかしくなってくるから止めろよ」
  _
( ^ω^)「お前は……お前だ……!(キリッ)」
  _
(;*゚∀゚)「や、やめろ! やめろよ!」
  _
( ^ω^)「(キリッ)」
  _
(;*゚∀゚)「その顔やめろよぉぉぉぉぉ!!」
  _
( ^ω^)(キリッ)


42 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:48:51.89 ID:33r1FC5dO

( ^ω^)「いやあ、流石は長岡」
  _
(;゚∀゚)「この野郎……人がせっかくカッコいい事云ったのに……」

( ^ω^)「(キリッ)」
  _
(#゚∀゚)

( ^ω^)「ごめんごめん、でも、有り難うお」
  _
( ゚∀゚)「んあ?」

( ^ω^)「家庭の事情を知らずに仲良くしてくれた友達は、長岡だけだお」
  _
( ゚∀゚)

( ^ω^)「有り難うお長岡、これからも仲良くしてやってくれお」
  _
( ゚∀゚)

( ^ω^)「……長岡?」
  _
( ゚∀゚)「お、おう?」


44 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:50:56.92 ID:33r1FC5dO

( ^ω^)「いや、友達になってくれて有り難うお」
  _
( ゚∀゚)「お、おー……おう、おおう……お、お……おっぱい」

( ^ω^)
  _
( ゚∀゚)「ごめん」

( ^ω^)「何を狂ってんだおお前さんは」
  _
( ゚∀゚)「いや、あの、うん…………俺、友達とか……居ないから……」

( ^ω^)「何そのぼっち」
  _
( ゚∀゚)「うっせ馬鹿うっせ馬鹿、俺だってよ、家庭の事情がよ」

( ^ω^)「おー?」
  _
( ゚∀゚)「……友達とか、初めてだ」

( ^ω^)「お……」


45 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:53:06.01 ID:33r1FC5dO
  _
( ゚∀゚)「うん……あの……何だこれ…………ありがとよ」

( ^ω^)「……僕の方こそ」
  _
( ゚∀゚)「……友達かー」

( ^ω^)「友達だお」
  _
( ゚∀゚)「…………へへっ、今度アレだぜ、お前の他の友達とか、紹介しろよ」

( ^ω^)「おっ」
  _
( ゚∀゚)「……へへっ」

( ^ω^)「……なーに照れてんだお、気色の悪い」
  _
( ゚∀゚)「うっせ、馬ー鹿」

( ^ω^)「おっおっ、そういや長岡はどんな子が好みだお?」
  _
( ゚∀゚)「おっぱい」

( ^ω^)


46 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:55:51.66 ID:33r1FC5dO
  _
( ゚∀゚)「でかいのが良いな、うん」

( ^ω^)「……貴様と袂を別つ事になるとはな……」
  _
( ゚∀゚)「貴様……貧乳派か……」

( ^ω^)「よもや、この様な形で貴様と敵対するとは……」
  _
( ゚∀゚)「ふっ……仕方があるまい……」

( ^ω^)「まあ、好きな子出来たらその子の胸が好みになるお」
  _
( ゚∀゚)「まーなー」

( ^ω^)「居ないのかお?」
  _
( ゚∀゚)「いねー」

( ^ω^)「侘しい野郎だお」
  _
( ゚∀゚)「うっせ馬鹿、お前は居るのかよ」

(*^ω^)
  _
( ゚∀゚)「やっぱ良いわ、むかっ腹」


47 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 21:57:53.19 ID:33r1FC5dO
  _
( ゚∀゚)「そういやよ、お前なんであんなとこで突っ立ってたんだ?」

( ^ω^)「お、そうだお、人探しせにゃならんのだお」
  _
( ゚∀゚)「人探し? 誰探すんだよ?」

( ^ω^)「白髪で黒服の人」
  _
( ゚∀゚)「何だよその漠然とした情報、身の丈やら体格は?」

( ^ω^)「さあ?」
  _
( ゚∀゚)「えぇ……」

( ^ω^)「それだけの情報しかくれなかったんだお……」
  _
( ゚∀゚)「また鬼畜な……まあ、取り敢えず探すか」

( ^ω^)「お? 手伝ってくれるのかお?」
  _
( ゚∀゚)「おうよ、ほら、あの……うん…………友達だし」

( ^ω^)(素直だけど何処と無く気持ち悪いお)
  _
( ゚∀゚)「やっぱ止めようか」

( ^ω^)「わーい長岡アリガトー☆」


49 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:02:26.87 ID:33r1FC5dO

 何時もはどくおが立つ位置に、長岡が立つ。
 そして辺りをきょろきょろと見回しながら、目的の人物を探し始めた。

 黒服を目で追おうとするも、まず黒服自体なかなか見つからない。
 れもなの話から察するに、男はそう老いてはいない筈。

 しかし白髪と云えば老人くらいしか居やしない。


 その辺の人を捕まえて聞き込みをするが、目撃情報も得られない。

 一人捕まえて聞き、二人捕まえて聞き。
 三人捕まえ、四人捕まえ。
 五人、六人、七人、八人。

 聞き込みをする相手も二桁に入り、それでもなお見付からず。

 二桁から暫く過ぎた辺りから、人数を数える事を止めた。

 大きな通り、人も店も多く存在する。
 その内のほとんどに声をかけて聞き込んで、大通りを抜けて次の通りを目指す。

 しかし通り三つ四つと過ぎたとしても、情報なんぞ得られはしなかった。


50 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:04:17.23 ID:33r1FC5dO
 徐々に日が傾き始め、朝から昼へと時は流れる。

 昼もずいぶん過ぎて夕方に入ろうとした時、長岡は疲れた様に肩を落とした。

  _
( ゚∀゚)「……居ないなー」
  _
( ゚∀゚)
  _
( ゚∀゚)「内藤?」


 後ろに居るはずの坊っちゃんが返事をしない事に首を傾げて、後ろを振り返る。

 すると、そこには


( ^ω^)「団子うめえ」
  _
( ゚∀゚)「おいこら」

( ^ω^)「長岡も食えお、やっとれんお」
  _
( ゚∀゚)「誰を手伝ってると思ってんだよ……」

( ^ω^)「ほら、みたらし」
  _
( ゚∀゚)「うめぇ」

53 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:06:33.57 ID:33r1FC5dO

( ^ω^)「居らんもんは居らんのだお、しゃあねえお」
  _
( ゚∀゚)「まあ……居ないしな」

( ^ω^)「うむ、次に声かけたら止めるお」
  _
( ゚∀゚)「良いのかよ……」

( ^ω^)「見つからないならしょうがねえお……」
  _
( ゚∀゚)「そうだけどよ……」

( ^ω^)「あー団子うめえ」
  _
( ゚∀゚)「適当だなー……うめぇけど」

li*^ヮ^)ジー

( ^ω^)「お?」
  _
( ゚∀゚)「何だ、ちっこいの」

li*^ヮ^)!


55 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:08:25.19 ID:33r1FC5dO

 甘味処の店先で団子を貪る二人を、こっそりと見つめる幼い娘。
 長い髪を一つのお下げにした娘の視線に気付くと、逃げようとする娘に軽く手招き。

 恐る恐る近づく娘の頭を撫でて、坊っちゃんはにこにこと笑った。


( ^ω^)「逃げなくても良いお、怖くないおー」

li*^ヮ^)「ご、ごめんなさい、じっと見ちゃって」
  _
( ゚∀゚)「何だ、団子食いたいのか?」

li*^ヮ^)「……うん」

( ^ω^)「お、じゃあ食べるお」

li*^ヮ^)「へ……い、いいの……?」

( ^ω^)「良いおー、その代わり一つ聞かせてほしいんだお」

li*^ヮ^)?

( ^ω^)「白い髪に黒服の男の人を知らないかお?」
  _
( ゚∀゚)「お前、本当にもう止めたいんだな……」

( ^ω^)「シッ」


56 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:10:17.91 ID:33r1FC5dO

li*^ヮ^)「白い髪に、黒い服……?」


 坊っちゃんと長岡の間に座り、長岡から渡されたみたらし団子を頬張る娘は首を傾げる。

 まだ一桁の子供の様だが、獣の妖怪なのか、白い獣の耳が髪の隙間から覗いている。
 桃色の着物がよく似合う、可愛らしい風貌と笑顔。

 どこかで見た事のある顔と雰囲気に、坊っちゃんは頭を傾けた。

 この、甘い声と匂い。
 華やかな笑顔に獣耳。
 長い金の髪も、髪を飾るばってん髪飾りも、見覚えがある。

 よく会う、何か、今日も会った様な、


( ^ω^)「……お嬢ちゃん、名前は?」

li*^ヮ^)「ん、むぐ……んとね、わたしは」

  「もれなーっ! どこ行ったモナーっ!?」

li*^ヮ^)「あ」

( ^ω^)「お?」


57 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:12:14.90 ID:33r1FC5dO

  「もれなーっ!!」

li*^ヮ^)「おとーさん! ここだよー!」

( ^ω^)「おっ、お父さんとはぐれてたのかお?」

li*^ヮ^)「え、えへ」

(;´∀`)「もれな!」

li*^ヮ^)「おとーさん、ごめんなさい! 勝手に離れちゃって!」

(;´∀`)「町に来たばかりなんだから、一人で行ってはいかんモナ……」

li*^ヮ^)「ごめんなさい……」

( ^ω^)「おー、もれなちゃんって云うのかお」

(;´∀`)「モナ? あなたは……もれなを保護して下さったモナ?」

( ^ω^)「ま、まあそんな感じですお」
  _
( ゚∀゚)「も一本食うか、ちっこいの」

li*^ヮ^)「食べるー!」

(;´∀`)「こ、これっ!」


60 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:14:13.28 ID:33r1FC5dO

 父親らしき男が娘、もれなの頬をむにと引っ張って叱り付ける。
 もれなは耳を伏せて、きゃーと声をあげながら謝罪をしていた。

 愛らしい見た目とは裏腹に、意外とやんちゃな子供らしく
 父親の男は困った様に肩を落として、二人に頭を下げる。


 もれな。
 名も、似ている。


li*^ヮ^)「あ、お兄ちゃん、さっきのね」

( ^ω^)「お?」

li*^ヮ^)「白い髪に黒い服」

( ^ω^)「おー、見覚えあるかお?」

li*^ヮ^)「うん、それね」


 お父さんの事だと思うよ。


 白髪に穏やかな笑顔、黒い着物を纏った父の前で、もれなはにっこりと笑ってみせた。


62 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:16:43.72 ID:33r1FC5dO



  「次の月が黒くなる前に、行きましょう」


 人気のない山の上、高い男の声が響いた。

 それを聞くのは、もう一人の男。
 目玉の模様が六つあしらわれた面を被る、黒衣の男。


(…∀…)「随分早いなァおい、昨日の月すら殆ど黒いんだぞ?」

(-@∀@)「しょうがないじゃないですか」

(…∀…)「あ? 何がだ?」

(-@∀@)「これ以上待たせたら、警戒して警備が厳しくなるでしょ?」

(…∀…)「お前が逃がすからだろうが、あ? 逃がさず喰っときゃ良かったんだろうが?」

(-@∀@)「それじゃ駄目ですよ駄目ですよ、駄目駄目ですよ、それではこちらに責め入られてしまう」

(…∀…)「あー……あーあー、確かにそれじゃあつまんねェな」


65 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:21:38.82 ID:33r1FC5dO
(-@∀@)「僕らがしたいのは、何です?」

(…∀…)「ぶっこわすこと」

(-@∀@)「そう、壊す事、壊されるのを待つんじゃ」

(…∀…)「つまんねェ」

 男が二人、顔を見合わせる。
 そして堪えきれなくなったように、向かい合ってげらげらと笑った。

 二人の黒衣の男。
 片方は眼鏡で、片方は面で顔を隠す。

 しかし身の丈の差は大きく、眼鏡の男、朝日は小娘の様に小柄。
 だが向かいに立つ男は、六尺五寸はあろう大男。

 がっしりとした体格は、かの雷獣公にも劣らぬ力強さを持つ。
 硬い筋肉を纏う腕は太く、しかし筋骨隆々と云う訳ではなく。

 着物に隠されていれば、ただ大柄なだけに見えるのだが。


(…∀…)「明日か、明後日か、明明後日か……ひははははっ、ははっ、はははははっ!」

(-@∀@)「あは、楽しみですね楽しみですね、あははっ」


66 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:22:06.57 ID:33r1FC5dO
(…∀…)「…………なァ」

(-@∀@)「はいはい?」

(…∀…)「あれは、本当か」

(-@∀@)「恐らくは」

(…∀…)「……まだ云ってねェのか」

(-@∀@)「今夜にでも、伝えようかと」

(…∀…)「…………間違いは無いな」

(-@∀@)「あれを持つのは、他には居ないでしょうしねぇ」

(…∀…)「…………何も知らずに、遊び呆けてんな」

(-@∀@)「今日までは、良いでしょう」

(…∀…)「まあ…………明日か明後日か明明後日には……町は無くなってるかも知れねェからなァ」

(-@∀@)「あ、それですけど」

(…∀…)「あん?」

(-@∀@)「二回行くからまだ皆殺しちゃ駄目ですよ」

(…∀…)「えー」

69 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:23:52.18 ID:33r1FC5dO

(…∀…)「何でそんなめんどくせェ……」

(-@∀@)「楽しいでしょう?」

(…∀…)「あん?」

(-@∀@)「恐怖と絶望を植え付けて怯えまどう中で、皆殺しにするんです」

(…∀…)「……」

(-@∀@)「一度目から二度目の間に恐怖に戦かせるんです、いつ殺されるのかと怯えさせて」

(…∀…)「……」

(-@∀@)「……楽しい、でしょう?」

(…∀…)「……ああ、最高に」

(-@∀@)「あはっ」

(…∀…)「ひはっ」


71 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:24:56.86 ID:33r1FC5dO

 げらげらけたけた、甲高い声と低い声がけたたましく笑い。

 暫く笑ってから、大柄な男は先に帰って支度をしておくと朝日に伝えて消えてしまった。
 残された朝日は一人で含み笑いをし、肩を揺らす。


 それを見ていた者がそっと動くと、小石を拾い、


( ∴)「ゴェッ!」

(;[)「ゴェェ!?」


 ごっ、と勢いよく投げつけられた小石に、小さな体が数度跳ね、地面に転がった。

 それは、小さな小さな木霊達。
 青い木霊が地面に転がり、緑の木霊が慌てて駆け寄る。

 小さな肩を揺らして同士の無事を確認しようと、焦る木霊の背後に忍び寄る影。

 びくりと肩を跳ねさせて後ろを振り向いた木霊、びこの体は、ぽんと宙を舞った。


 宙へ投げ出されたびこの目に写るのは、片足を持ち上げて笑う朝日。
 ああ蹴られたのかと気付いた頃には、軽い体が地面に叩き付けられたあと。

 痛みに悲鳴を上げる暇もなく、朝日は手を伸ばしてびこを拾い、木へと叩きつけた。

73 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:26:38.95 ID:33r1FC5dO

 投げられ、蹴られ、また蹴られ。
 玩具の様にぽんぽんと跳ねる小さな体。

 悲鳴を上げる暇も余裕も与えられず、短く濁った声だけを洩らすびこ。

 何とか身を起こした青い木霊、ぜあがびこの姿を探すと
 そこには、朝日の足の裏を頭に当てられたびこの姿があって。



 珍しい妖怪が来たから、好奇心で見ていた。

 そうしたら、物騒極まりない話を始めた。

 だから、大きい方が消えたから、町へ知らせに行こうとした。

 森山から出ると体に障るが、それどころではないと思ったから。

 そうしたら、そうしたら、


 何が、起きたんだ。


74 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:29:24.71 ID:33r1FC5dO

 気が付けば、石をぶつけられていた。

 気が付けば、びこが蹴飛ばされていた。
 投げられていた。
 また蹴飛ばされていた。

 気が付けば、あっと云う間もなくぼろぼろになったびこが、頭を踏み潰されかけていた。


 ぜあは訳が解らないと云う顔をして、石の当たった己の頬を撫でる。

 痛みがある。
 夢じゃない。

 いたい。

 夢じゃない。
 つまり、ええと、夢じゃないなら。

 夢じゃないなら、びこは、あのままだと、


 ふらふらと、ぜあがびこの側へと行こうとした、その時。


(; )「ゴエェェェェェェェェェェェェェッ!!」

(;∴)「ッ!」

78 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:31:37.49 ID:33r1FC5dO

(-@∀@)「おやおやおや、意外と元気ですねこの木霊は」

(; )「ゴェェェェェェッ!! ゴェェェェェェェェェェェェェッ!!」

(-@∀@)「んー……」

(; )「ゴェェェェェェェェェェェェェッ!!」

(-@∀@)「煩い、ですね」

(; )「ゴッ、グェッ!?」

(-@∀@)「あは、意外や意外、良い声を上げる」


 必死に叫ぶびこに、ぜあの足が止まる。

 そして、頭を踏む足に力が込められるのを見て、歪めた顔を背けた。


  良いから行け。
  お前は真面目なんだから、ちゃんといきろ。


 木霊同士でのみ伝わる声。

 ぜあはぽろぽろと堪えきれなかった涙を溢して、山を駆け降りた。

81 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:34:14.86 ID:33r1FC5dO

 その背中を何とか見送ったびこが、悲鳴を上げる事を止めた。


  死ぬのは、意外と突然なんだな。
  もっと真面目な木霊になっとけば良かったかな。

  いや、それはあいつがするだろう。


 みしみしと砕けようとする頭。

 その痛みに悶える事も止めて、暗転してゆく視界の中を泳ぐ。

 動かず声も上げないびこに、朝日はつまらなそうに口を尖らせる。
 踵でごりごりと頭を踏みつけ、暇そうに肩を竦めた


(-@∀@)「おやおやおや、抵抗を止めてしまいましたか」

(-@∀@)「んー……これじゃあ、つまらな……っ!?」


 瞬間、朝日を、無数の火の玉が取り囲んだ。


83 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:36:17.15 ID:33r1FC5dO
 ぶわ、と勢いよく巻き起こる炎。
 その明るさに目を細めて、思わずびこから足を退けた。

 何だこの火は、といぶかしむ朝日の耳へ流れ込むのは、少年の様な若い声。


<_フ− )フ「…………何してんだ、お前」

(-@∀@)「おや……?」

<_フ− )フ「何してんだって……聞いてんだよ……」

(-@∀@)「おやおや……おやおやおや、これは火の玉小僧ですか?」
    _,,
<_フ#゚Д゚)フ「答えろてめぇぇぇっ!!」

(-@∀@)「あは……あははっ、あはははっ! あははははははははっ!!」
    _,,
<_フ#゚Д゚)フ「何がおかしいんだよ!? ああっ!? ふざけんなよてめぇ!!」

(-@∀@)「あはっ、は、あははっ、あはははっ、この火はあなたです? 火の玉氏」
    _,,
<_フ#゚Д゚)フ「ッ答えろよてめぇぇ! この山で! そいつに!! 何してんだぁぁぁぁぁっ!!!!」

(-@∀@)「はっ、ひはっ、はは、ぁはっ、あははっ! この木霊氏を、殺そうと、あはっ、してますよ!」
    _,,
<_フ#゚Д゚)フ「ッ!!」

(-@∀@)「ぁは、あはぁははっ! あははははははっ!!」

89 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:38:33.60 ID:33r1FC5dO

 炎を纏い朝日の前に現れたのは、火の玉えくすと。
 怒りにめらめらと炎を揺らめかせ、目一杯に怒鳴り付ける。

 その目は端から見てもわかる程に怒りに溢れており、
 朝日は、楽しくてしょうがないと云う様にけたけたと笑い続けた。


 誰かの怒りに燃える目を見るのは、楽しくて楽しくてしょうがない。
 その後に絶望と恐怖に染まる事を思えば、更に楽しい。

 それだけではない、己の行動で誰かの感情が昂る様子を見るのが、ひたすら楽しいのだ。


 誰かが自分の所為で怒り狂う。
 それを見ると、笑いが込み上げて止まらなくなるのだ。

 それは先日、坊っちゃんに掴みかかられた時も同じ。
 まさに怒り狂うと云うに正しいあの姿は、見ているだけでただただ幸せとさえ思えた。


 感情は、楽しい。
 ひたすらに。


90 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:40:16.66 ID:33r1FC5dO

 誰かに見られる事が幸せだ。
 誰かに己の存在を感じられる事が幸せだ。

 掃き溜めの様な場所で生まれた。
 掃き溜めの様な場所で生きてきた。

 誰もが目を背けた。
 誰も近付こうとすらしなかった。


 寂しかったし悔しかったし空虚だった。
 いつのまにか集まってきた仲間も、同じだった。


 けれど、何かを殺すと誰かが見た。

 だから、殺す事が幸せだった。


 傷付ければ、殺せば、怒らせれば、悲しませれば、怖がらせれば。

 誰かが、自分の存在を、確かなものにしてくれた。


92 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:42:14.29 ID:33r1FC5dO

 虚しいとも、間違っているとも思わなかった。
 その間違いを正す様な者は、あそこには居ないから。

 だから、幸せを感じる事が、自分達の正義になった。

 自分達が幸せだと思う事は、誰かに自分達の存在を認めて貰う事。
 その為には、誰かの感情を揺さぶり何かを傷付け壊さなければいけない。

 幸せを感じれば楽しい、楽しみたいなら傷付ける。


 歪みきった正義だと自覚していても、それを今更正そう等とは思わない。

 別の方法はあるのかも知れない。
 けれど、今となっては傷付ける事自体が楽しいと思う様になった。


 誰かに見られれば幸せ。
 幸せだから楽しい。
 幸せの為に何かを壊す。
 壊す事すら楽しい。
 楽しい事をして誰かに見られる。

 幸せ、幸せ、幸せ、幸せ、幸せ。

 背中が首が頭の芯が身体中が甘く痺れる様に絶頂に達し続けている様にただただ心地よく震えるんだ。
 ただただひたすらに、気持ち良いんだ。


93 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:44:45.95 ID:33r1FC5dO

 余りに楽しくて幸せで気持ちが良いから、笑みを浮かべる事をおさえられない。
 溢れる笑い声を堪える事も出来ない。

 あはあはと呼吸困難に陥りながら笑い転げるその体は、ただ快感に満ちている。

 可笑しいんじゃない、気持ち良いんだ。
 楽しくて幸せで気持ち良くて体が震える。
 だらしなく唾液を足らしながらその場でのたうち回りそうな程に気持ちが良い。

 異常だ何て、もう思わないし、思えない。
 この身を貫く快感に勝る事など、ちっぽけな道徳には不可能。


 ああ、息が出来ないくらいに幸せだ。

 狂っている、狂いすぎている。
 それでも幸せで、幸せで。
 この快楽に勝る物なんて、どこにも────


(-@∀@)「あ…………」


 あった。


96 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:47:10.01 ID:33r1FC5dO

 ああ、そうだ。
 僕らの子、僕らの上に立つ方。

 あの子を得た事、あの子の存在。
 それは、快楽にも勝る幸福だった。


(-@∀@)「…………」

    _,,
<_フ#゚−゚)フ「……おい、」

(-@∀@)「殺しちゃ、だめです?」
    _,,
<_フ#゚Д゚)フ「当たり前だろうが! 殺すぞ!!」

(-@∀@)「どう殺すんです?」
    _,,
<_フ#゚−゚)フ「そっ、そんなもんっ! ……炎で、焼き殺すに決まってるだろうが!!」

(-@∀@)「へぇ…………ところでこの炎、熱く感じませんね」

    _,,
<_フ;゚Д゚)フ「!!」


98 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:49:52.13 ID:33r1FC5dO

 突然笑う事を止めた朝日が、冷静にふわふわと浮かぶえくすとを見て云う。
 それに対してえくすとはびくりと跳ねて、虚勢を張る様に声を荒らげる。

 実際に、えくすとは炎を出す事が出来るが、それは何も燃やせない炎。
 幻の様に明るいだけの炎は、熱さも何も感じない。


 少しの威嚇にはなっても、見破られればどうにもならない。
 触れず触れられず燃やせない、えくすとに出来る事は虚勢を張る事のみ。

 しかし相手が冷静になればなるほど、えくすとの無力さに気付かれてしまう。
 気付かれてしまえば、もう、どうしようもない。

 時間稼ぎにはなったかも知れないが、もう無理か。


 にこにこ笑う朝日は、もう気付いているのだろう。
 焦るえくすとの姿を滑稽に思い、呼吸を整えながら笑顔を浮かべている。

 びこから足は退けたが、すぐにでも踏める距離。

 このままでは、先刻の状況に逆戻りだ。


99 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:52:51.29 ID:33r1FC5dO

(-@∀@)「おかしいですねぇ、熱くないのに燃やせるだなんて」
    _,,
<_フ;゚−゚)フ「……」

(-@∀@)「本当は、何も燃やせないんじゃ……?」
    _,,
<_フ;゚−゚)フ「そん、な、事……」


 駄目だ、もう完全にばれている。
 どうにかしないと、どうにかしないと。

 あの時、置いて行かれてから仲がよくなったんだ。
 それにこの土地で、馬鹿な事はさせたくない。

 なんとかして、こいつを此処から退けないと。

 でもどうする、実際問題、力なんて何もない。
 明るいだけの鬼火野郎には、何も燃やせない。

 誰か、誰か。
 一人じゃどうしようもないよ、こんなの。

 誰か助けてくれよ。


101 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:54:39.69 ID:33r1FC5dO
  『鬼火の炎は、命の炎』

(-@∀@)「!?」

  『炎を使うは鬼火の力』

(-@∀@)「誰ですか誰ですか? 何処から僕らを見ています?」

  『鬼火を怒らせてはいけないよ、それは鬼の火、命の炎を揺らすもの』

(-@∀@)「ほう……」

  『鬼の火は命を燃やす、燃やし尽くして消し炭に。急いて急いて此処からお逃げ、鬼火を怒らせてはいけないよ』

(-@∀@)「おやおやおや……それは怖いですねぇ……」

  『鬼火にこれ以上、力を出させてはいけないよ
   さあ急いてお逃げ、此処から早く立ち去りなさい』

(-@∀@)「……良いでしょう、どなたか存じませんが、あなたの言葉に従いましょうね」
    _,,
<_フ;゚−゚)フ「!」

(-@∀@)「良かったですね良かったですね火の玉氏、誰かのお陰で、僕は、立ち去ります」
    _,,
<_フ;゚−゚)フ「……」

(-@∀@)「それではそれでは、ごきげんよう、弱い者」

105 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:56:59.29 ID:33r1FC5dO

 何処からともなく流れ出した声を聞き、朝日は、くすくすと愉快そうに笑う。

 その笑みは、先程までの笑いとは何処か違っていた。


 えくすとを助ける様に囁く謎の声。
 それに対して肩を竦めると、やれやれと云う風に朝日は頷く。

 そして、僕は、と云う言葉を強調し、翼を広げて舞い上がった。

 ばさばさと風を起こして空を舞う朝日。
 軽く手を振り、鳥でも獣でもないそれは、町の山から消えて行った。


<_フ;゚−゚)フ「あ……ぶなかったぁ…………大丈夫か? びこ」

(#)[)「ゴェ……」

<_フ;゚−゚)フ「生きてんな、よしよし」

(#)[)「ゴェェ……」

<_プー゚)フ「ぜあなら大丈夫だって、な?」


106 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 22:59:02.71 ID:33r1FC5dO

 びこの側まで降りて、生きている事を確認しては、胸を撫で下ろし安堵する。
 そして笑って安心させてやると、森の方へと顔を向けた。


<_プー゚)フ「……相変わらず嘘が上手いな、お前が」

  『いひっ、いひひっ、嘘じゃあねぇもん』

<_プー゚)フ「ほざけよ、出てこい」


 木々の隙間から戻ってくる返事。
 えくすとは呆れた様に軽く笑い、声の主を呼んだ。

 すると、ぴょんと姿を現したのは、薄い黄色の小さな小鬼。
 愛嬌のある顔で、けらけら笑ってえくすとの周りを跳ねていた。


(・∀ ・)「よう、鬼火野郎、いひひっ」

<_プー゚)フ「火の玉だよ、鬼」

(・∀ ・)「鬼じゃねえよ、鬼じゃねえもん」

<_プー゚)フ「よく言うぜ天邪鬼、俺の火は何も燃やせないって知ってやがったな」

(・∀ ・)「知らねえ知らねえ、でまかせだ、いひひっ」


107 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 23:02:12.21 ID:33r1FC5dO

<_プー゚)フ「へいへい、まあ何だ、助けてくれてあんがとよ」

(・∀ ・)「ばっか野郎が、おまえらのためじゃねえよ、俺がうるさかったから散らしただけよ」

<_プー゚)フ「へいへい、びこ達が死んだら森が死ぬからな」

(・∀ ・)「勝手におっちんじまっても良かったけどな、いひひっ」

<_プー゚)フ「うるせーなぁ、またんき」

(・∀ ・)「いひっ、この事は誰にも云うなよ、河童にも件にも百々爺にも鉄鼠にも石妖にもだ」

<_プー゚)フ「みーんなこの山の妖怪だなー」

(・∀ ・)「ダイダラや大入道にも見越し入道にもずぇったい云うなよ」

<_プー゚)フ「あいつらはでかくて強いもんなー」

(・∀ ・)「いひっ、俺はあいつら大嫌いだけどなっ」

<_プー゚)フ「めちゃくちゃ仲良いよなー」

(・∀ ・)「いひひっ、町に住んでる獏もでっ嫌いさ」

<_プー゚)フ「親友だもんなーお前ら」


112 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 23:04:50.17 ID:33r1FC5dO

 思っている事と正反対の事を云って笑う小鬼、天邪鬼。
 それを軽く流す様にして相手をするえくすと。

 根は良い奴なのだが、この行動はどうしようもないな。
 そう笑い、助けてくれた事に対して、もう一度礼をした。


<_プー゚)フ「しかし、何もなくて良かったな……」

(・∀ ・)「誰か死んだか?」

<_プー゚)フ「死んでねーよ、だいたい何だったんだあいつら」

(・∀ ・)「知ってるぜ、俺は知ってるぜ」

<_プー゚)フ「何も知らんのね、はいはい」

(・∀ ・)「あいつら、何する?」

<_プー゚)フ「うん? ……あー、町を襲うみたいだ」

(・∀ ・)「へぇ」

<_プー゚)フ「……」

(・∀ ・)「……」


113 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 23:07:43.09 ID:33r1FC5dO

(・∀ ・)「……それは、すげぇ楽しそうだな……」

<_プー゚)フ「……ああ、心配だな」

(・∀ ・)「みーんなしんじまえば良いのにな」

<_プー゚)フ「うん、誰も怪我すらしなきゃ良いんだけどな……」

(・∀ ・)「……」

<_プー゚)フ「……ところであの眼鏡、何で僕はって強調してったんだろうな」

(・∀ ・)「知ってるぜ」

<_プー゚)フ「はいはい、まあ何も無ければ別に、」

(・∀ ・)「おい、木霊置いてそこから動くな」

<_プー゚)フ「は?」

(・∀ ・)「良いから動くな! 絶対!」

<_フ;゚−゚)フ「は、あっ! び、びこ! 動けるか!?」

(#)[)「ゴェ……?」

(・∀ ・)「おい動くな! 絶対、此処か、ぎゃうっ!?」


115 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 23:10:41.83 ID:33r1FC5dO

 突然、声を荒らげた天邪鬼またんき。

 一瞬その言葉の意味が解らず、えくすとはきょとんとし、
 続けて怒鳴るまたんきの言葉に、やっと慌ててびこに声をかけた。

 その瞬間、またんきが悲鳴をあげた。

 何かに千切られた細い片腕を、地面に放り出しながら。


( ∀ ;)「あぎゃっ……がっ……」

<_フ;゚−゚)フ「またんきっ!?」

( ∀ ;)「うぎっ、ぎ……そこ……動く、な……」

<_フ;゚−゚)フ「うっせぇバカ野郎! んだよ、何がッ」

( ∀ ;)「うぎゃぁあっ!?」


 地面に倒れ、痛みに悶えるまたんき。

 草むらからずいと伸びた細い腕が、その頭を、がしりと掴んで持ち上げた。

 みしみしと頭を締め付けられ、体は力なくぶら下がる。


119 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 23:13:35.10 ID:33r1FC5dO

 人の胸の高さまで持ち上げられたまたんきは、頭を握られる痛みに叫ぶ。

 その叫びに、えくすとはあたふたとただ戸惑うばかり。


 またんきの腕を千切って、頭を掴み持ち上げる人物を
 えくすとは泣きそうな顔で、きっと睨み付けた。

 しかしまたんきを持ち上げる女は、心此処にあらずと云った風で、視線をうろうろ泳がせる。

 そしてふとえくすとに目をやると、またんきを投げ捨てて近付いた。


川 ゚ -゚)「…………どくお、しらない……か?」


 ふらふらと不安定そうな声音で呟く女、くう。
 だらしなく纏った白い着物は、そこらじゅうが汚れ、破れている。

 あれからずっと、ふらふらさ迷って居たのだろう。
 疲れた様な目をくらくら動かし、なんとかえくすとをその双眸に写している。


123 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 23:16:24.42 ID:33r1FC5dO

<_フ;゚−゚)フ「な……ぇ……?」

川 ゚ -゚)「どくお……匂いが、するんだ……」

<_フ;゚−゚)フ「そ、そんな事、誰が……っ」

川 ゚ -゚)「しらない……のか……?」

<_フ;゚−゚)フ「…………しらない」

川 ゚ -゚)「ほんと……か?」

<_フ;゚−゚)フ「ほ、本当だ」

川 ゚ -゚)「……」

<_フ;゚−゚)フ「……」

川 ゚ -゚)「嘘……ついたら…………それを、殺すぞ……?」

<_フ;゚−゚)フ「ッ!」


 それ、と指差すものは。
 地面に倒れたままのびこと、その隣で蹲るまたんきで。


124 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 23:19:06.20 ID:33r1FC5dO

<_フ;゚−゚)フ「…………」

川 ゚ -゚)「ほんと、に……しらない?」

<_フ;゚−゚)フ「……本当は、知ってる」

川 ゚ -゚)「…………おし、えろ……どこに、いる」

<_フ;゚−゚)フ「……この山から、向こうに行ったところ」

川 ゚ -゚)「…………」

<_フ;゚−゚)フ「此処が東の真ん中で、ここから北に行くと山がある、そこに、昨日から行ってる」

川 ゚ -゚)「……ほんと、だな?」

<_フ;゚−゚)フ「もう、怖いから、嘘はつかない」

川 ゚ -゚)「そう……か……」

<_フ;゚−゚)フ「……さっき……嘘ついて、ごめん」

川 ゚ -゚)「いい、よ……もう、つかないって、云ったから……」

<_フ;゚−゚)フ「…………うん」


127 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 23:21:23.96 ID:33r1FC5dO

 ごめん、北の奴等。
 俺は我が儘だから、地元の安全をとりました。

 ごめん、鬼っぽい女。
 俺は天邪鬼と付き合い始めてから、嘘が上手くなりました。

 誰か俺を叱って良いけど、少しだけ褒めてくれ。


 くうがまたんきの腕を拾い、またんきに渡しながらごめんねと呟く。
 つい弾みでやってしまったと、角の生えた頭を、撫でている。

 その姿はただの女にも見えるのだが、くうの目を覗いたえくすとは、ふるふると小刻みに震えていた。


 目の奥が見えなかった。
 感情も考えてる事も見えなかった。

 まっ平らで真っ暗で、何にもない。
 そんな箱の中を覗いた様な、不気味さを味わった。

 あの女、怖い。
 知恵が遅れている様な、ふらふらふわふわした言葉。

 なのによく聞くあの名前を口にした時だけ、箱の中が憎悪で満ちた。


128 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 23:23:09.69 ID:33r1FC5dO

 それじゃあね、と手を振って穏やかな顔をしながら、くうは山を降りて行く。
 それに返事をする様に、えくすとは手らしき場所を振っていた。


 どうしよう。

 町にも北にも知らせに行かなきゃいけない。
 それだけじゃない、びことまたんきの傷も何とかしなきゃ。


 誰かに触れる事が出来ないこの体を、ここまで恨んだのは初めてだ。

 大丈夫か、大丈夫か、と二人に懸命に声をかける。
 言葉をかける事しか出来ないから、ひたすら二人を励ました。

 自分の足で歩いて貰わなければいけない。
 ここから他の誰かが居る場所に行くには、時間がかかりすぎてしまう。

 壁も木もすり抜けられるから、山を下り町へ人を呼びに行くのは容易い。
 しかし人が山を登るには時間がかかる。

 山の、他の妖怪は特定の場所に居る事はない。
 いつもいつでもふらふらと、山の中をうろうろしているのだ。

 それを探すのは骨が折れるし、今から探していては時間がどれだけかかるか解らない。


130 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/18(日) 23:24:56.99 ID:33r1FC5dO

 ああ、どうしようどうしようどうしよう。
 火の玉小僧は慌てふためき涙を浮かべる。


 山を下るは鬼の女。
 山から出て行く黒衣の蝙蝠。

 何も知らずに町ではしゃぐ坊っちゃん達。
 坊っちゃん目指して走り続ける小さな木霊。

 山の上には傷付き倒れる二匹の妖怪。
 何もできずに涙を溢す火の玉一匹。


 どうすれば良いと云うのかと、火の玉はついに声をあげて泣き始めた。
 己の無力さを呪う声は、未だ幼い男児と変わらず。


 その背へと、声をかけたる黒衣の男。
 凛々しい顔立ち優しい笑顔、笠を外して問い掛けた。


   『何か、あったのかい?』



 『七話前編 おわり。』


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