- 2 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:05:14.03 ID:zJZzxIaYO
-
嗚呼、嗚呼、嗚呼!
愛しい人、愛しい人!
私だけの愛しい人!!
やっと逢えたわやっとやっと、やっと逢えたわ!!
もう離さない離さないわ絶対に離さないわ私だけの愛しい人!!
( ^ω^)百鬼夜行のようです。
【第七話 百花斉放 咲き誇れ。 後】
花が狂い咲く様に、愛しき男との再会した者は歓喜に狂う。
喩え同じ時に何が起ころうと。
彼女の狂喜を止められる者は居らず。
町の危機の報せを受けたとしても、彼女は狂喜する。
彼女の狂気を抱き止められる者は、彼だけ。
- 3 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:07:50.33 ID:zJZzxIaYO
-
坊っちゃんは走っていた。
そろそろ帰ると云う長岡と別れを告げ、幼子と男を連れて走っていた。
その理由は、花魁れもなに云われた人探し。
暫し暫し探し続け、諦めようとした所で現れた一人の男。
男の姿形は、れもなより与えられた情報にしっかりと一致し。
れもなの事を云うと、嬉しそうに笑ってくれた。
間違いはない。
子連れではあるが、この男こそがれもなの、おもいびと。
坊っちゃんは焦る様に、喜ぶ様に走る。
これで人探しから解放され、れもなに責められる事もない。
嗚呼、僕は自由だ!
これで任務を全うした!
向こうに探しに行ったどくおにも伝えてやらねば。
これで面倒事から解放されるぞ!
- 4 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:10:05.40 ID:zJZzxIaYO
-
盛岡屋へ駆け込んだ坊っちゃんは、店の者達に挨拶をする事もなく
真っ直ぐに階段を駆け上がって、れもなの座敷を目指す。
片手には幼子の手。
もう片手には男の手。
それをしっかと握って離す事はせず、足で座敷の襖を勢いよく開いた。
(*^ω^)「れもなーっ!!」
|゚ノ;^∀^)「きゃっ!?」
(*^ω^)「つれてきたおー!!」
|゚ノ;^∀^)「へ、へ?」
ばあん! と音をさせて開かれた襖。
れもなは化粧直しをしていた所で、驚きに肩を震わせ声をあげた。
そして何事だと襖の方へ振り返った時、れもなの動きが止まった。
- 5 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:13:00.34 ID:zJZzxIaYO
-
|゚ノ ^∀^)「…………ぇ……?」
(;´∀`)「ぜぇ……ぜぇ……な、内藤さん、もう少しゆっく…………モナ?」
|゚ノ ^∀^)「……もな、君……?」
( ´∀`)「モナ……? …………れ、もな……?」
|゚ノ ^∀^)「本物……? 本物なの……? もなぁ君、なの……?」
( ´∀`)「れもな……モナ?」
男の顔を見て、ふらふらと立ち上がるれもな。
坊っちゃんが男から手を離し、そっと背を押す。
すると男も、ふらふられもなへと近付いて、優しく白い頬を撫でた。
れもなの髪を、頬を撫で、それが確かに存在するかを確かめる。
そして、震える指先で顎の線をなぞった。
ああ、本物だ。
- 6 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:15:55.61 ID:zJZzxIaYO
-
男の優しい愛撫を受けて、れもなは小刻みに震えながらとろんと目を虚ろにさせる。
暖かな指先に、恐る恐る触れる手に、恍惚の表情を浮かべて。
|゚ノ ^∀^)「もなぁ君、なの……?」
( ´∀`)「僕、モナ……れもな」
|゚ノ ^∀^)「ぁ、ああ……あぁああ……っ」
( ´∀`)「やっと、逢えたモナ……僕の愛しい人……」
|゚ノ ^∀^)「もなぁ君……もなぁ君、もなぁ君……ッ!」
( ´∀`)「れもな……」
ぎゅうと男に抱きつくれもな。
腕一杯に伝わる体温。
その幸せを噛み締める二人に、坊っちゃんはもれなの目をそっと隠した。
そして、
- 7 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:18:24.76 ID:zJZzxIaYO
-
|゚ノ ∀ )「あは、あはっ……うふふっ……うふふふふっ……」
( ´∀`)「僕の、れもな」
|゚ノ ∀ )「もなぁ君……逢いたかったわもなぁ君……れもなのれもなだけのもなぁ君もなぁ君もなぁ君」
( ´∀`)「ああ、れもなの僕、僕のれもな……」
|゚ノ ∀ )「貴方を求め早幾年、幾度貴方を想い枕を涙で濡らしたでしょう、我が身を慰めたでしょう
身を売る者とし身を置いて、ただただ貴方を探し探して待ち続け、獣共に身を許したでしょう
嗚呼けれど其の日々も今日で終わりを告げますわ、貴方が私の前へと現れて下さったのですから
長かった長かった途方もない程に長い時でした、貴方が消えたあの時からただただ貴方を待っていた
目を覚ました時に貴方の居ない孤独はもはや耐えられなかったの、貴方だけを愛しているの
私の私の私だけの愛しいお方私だけの愛しき君、私の元へよく戻ってきて下さいました愛しい人
嗚呼何れ程貴方に恋い焦がれたでしょう、貴方の居ない日々などもう我慢ならないの愛しい人
やっとやっとですわ愛しい人、この身を抱く腕をもう離す事などなさらないで絶対によ愛しい人
私だけの方私だけの人私だけのもなぁ君、どうか私の肩に止まり離れる事などもう覚えないで
離さないで離さないで離さないで離さない離さないもう絶対に絶対に絶対に愛しい人愛しい人愛しい人
いとおしいいとおしい私だけのお方どうか私に私の奥に甘いあなたを注いで注ぎ続けて下さいませ
私の体に染み込むものは貴方だけ、貴方の甘い体液しか飲みたくはないのよ愛しい人愛しい人
私の渇きを癒して早く私の中に貴方を注ぎ込んで下さいませ私に貴方を飲み込ませて下さいませ
貴方の全てが愛しいの、貴方に与えられた愛に溢れたあの日々を忘れられないの、貴方の全てが
早く早く私を抱いて抱き壊して体の奥から壊してもなぁ君! 貴方で私を貫いて下さいませ!!
嗚呼、嗚呼、嗚呼! やっとやっと渇きが癒される!! 私の全てが満たされる愛しい人!!
うふふふふもなぁ君もなぁ君もなぁ君もなぁ君れもなだけのもなぁ君早く私をもっともっと壊して
我慢できないの貴方を思うだけで疼くの疼くのようもなぁくぅううううううううんッ!!!!」
- 9 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:20:25.10 ID:zJZzxIaYO
-
男、もなぁに抱きついたまま、熱に浮かされた様な眼差しで叫ぶれもな。
うっとりと、とろりと溶けてしまいそうな迄に熱を孕んだその目。
花魁としてではなく、性別を持たぬ身でありながら女として叫んでいる。
その姿は、まさに狂気とも云える愛に満ち溢れていて。
坊っちゃんは着物の袖でもれなの目を隠し、手で耳を押さえていた。
あんなもん、幼子に見せる事も聞かせる事も出来るかい、と。
|゚ノ ∀ )「もなぁ君もなぁ君もなぁ君はやくはやくはやくれもなをッ!!」
( ´∀`)「愛しいれもな、少し落ち着くモナ、ここには客人と幼子が居るモナ」
|゚ノ ^∀^)「あ……」
(;^ω^)「…………」
|゚ノ ^∀^)「……えへっ、ちょっとひぃとしちゃった」
(;^ω^)「……愛し合うのは、僕らが帰るまで少し待って欲しいお」
|゚ノ ^∀^)「…………」
(;^ω^)「……早めに帰りますから」
- 11 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:22:23.53 ID:zJZzxIaYO
-
( ´∀`)「れもな、落ち着いたモナ?」
|゚ノ ^∀^)「ええ、愛しいもなぁ君」
( ´∀`)「じゃあ、紹介をするモナ」
|゚ノ ^∀^)「? お坊っちゃんなら、知ってるわ?」
( ´∀`)「そうじゃないモナ、内藤さん」
(;^ω^)「お? ……お、もれなちゃん」
li*^ヮ^)「ぷはっ、びっくりしたぁ……」
|゚ノ ^∀^)「……? その子、は?」
( ´∀`)「もれな、おいで」
li*^ヮ^)「はぁい、お父さん!」
|゚ノ ^∀^)「おとう……さん……?」
- 12 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:24:57.47 ID:zJZzxIaYO
-
坊っちゃんの腕から解放されたもれなが、父に手招きされ、とことこと歩み寄る。
そして父の隣に立つと、れもなに向かって頭を下げた。
li*^ヮ^)「はじめまして、娘のもれなです!」
|゚ノ ∀ )「……初めまして、お嬢ちゃん」
( ´∀`)「れもな、この子は」
|゚ノ ∀ )「れもなが……れもながもなぁ君を待っている間に……子を作ったの……?」
( ´∀`)「モナ?」
|゚ノ ∀ )「ただただもなぁ君を愛していたのに……なのに……他の女と子をこさえたの……?」
(;´∀`)「も、モナ!?」
|゚ノ ∀ )「まさかもなぁ君……まさか、そんな…………許さないわよう……?」
(;´∀`)「ちょ、ま、ちがっ! 落ち着くモナれもな!」
|゚ノ ∀ )「ふっ、うふっ、うふふふふっ……許さないわ……もなぁ君……」
- 13 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:27:14.96 ID:zJZzxIaYO
-
(;´∀`)「だから落ち着、モナーッ!! 痛い痛いモナッ!!」
|゚ノ ∀ )「その背中の羽根……引きちぎってあげるわよう……」
(;´∀`)「違うモナ違うモナ! 僕はずっとれもなを、モギャーッ!!?」
|゚ノ ∀ )「うふふふふふふ……みしみし千切られて行く気分はどうかしらぁ……」
::((; ω ))::
li*^ヮ^)「…………お父さん、お母さんどうしたの?」
|゚ノ ^∀^)「へ?」
li*^ヮ^)「お母さん……お父さんいじめないであげて欲しいの……」
|゚ノ ^∀^)「……お母さん?」
li*^ヮ^)「うん、お母さん」
|゚ノ ^∀^)「誰、が?」
li*^ヮ^)「れもなお母さん」
|゚ノ ^∀^)
- 15 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:29:06.01 ID:zJZzxIaYO
-
|゚ノ ^∀^)「おかあ……さん……?」
(;´∀`)「わ、解ったモナ? もれなは、れもなと僕の」
|゚ノ#^∀^)「獣と樹木の間を子を宿せると思っているの!?」
(;´∀`)「モナッ!?」
|゚ノ#^∀^)「れもなは子を宿す事のできない無性者よ!? これはれもなに対する当て付け!?」
(;´∀`)「ち、違うモナ! だから少し落ち着くモナ!!」
|゚ノ#^∀^)「落ち着けるわけないでしょ!? 無性者のれもなに子供だなんて、酷い話だわ!?」
(;´∀`)「だぁから少し落ち着くモナ! 僕の話を聞いてくれモナ!!
僕だってずっとれもなに逢いたかったモナ! その気持ちは解ってくれモナ!!」
|゚ノ#^∀^)
|゚ノ ^∀^)「解ったわ、それに嘘は無いのよね?」
(;´∀`)「ぼ、僕は嘘なんか吐かんモナ……だから落ち着いて、聞いて欲しいモナ……」
|゚ノ ^∀^)「……うん、ごめんなさい、かっとなって」
- 16 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:31:53.97 ID:zJZzxIaYO
-
何とか落ち着いたらしいれもなが、その場に座って聞く体勢に入る。
もれなの頭を撫でる様子を見ると、どうやらもれなは一応可愛いと思えている様で。
ほっとしたもなぁも座り、坊っちゃんは少し離れた場所で様子を見守る事にした。
そして一つ息を置いてから、もなぁが口を開いた。
( ´∀`)「一度、れもなが斬り倒されかけた事は覚えてるモナ?」
|゚ノ ^∀^)「ええ、随分昔の事だけど……あれから意識を失って、気が付いたらもなぁ君が居なくて」
( ´∀`)「斬り倒されかけ、息絶えかけたれもなを、僕が助けたモナ」
|゚ノ ^∀^)「もなぁ君、が?」
( ´∀`)「そうモナ」
それは随分と昔の事。
ある所に、一本の桃の木があった。
- 17 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:34:10.76 ID:zJZzxIaYO
-
その枝振りは素晴らしく、春には鮮やかな迄に花を咲かせる美しい桃の木だった。
皆から愛しまれる美しい木。
しかしその木は、戦場の真ん中に存在していた。
人々が血を流しあった、遥か昔の戦争。
その血を吸い続けた桃の木。
血を吸いすぎた桃の木は、いつしか妖怪となる。
そんな桃の木によく留まっていた烏が一羽。
烏は奇妙な三本足で、よく桃の木に留まり、羽根を休めていたもので。
よくやって来る烏と桃の木の妖怪は、言葉を交す事が多かった。
他愛もない事から、人の愚かさまで。
何でも話したし、仲良くなったし、一羽と一本は毎日毎日、仲睦まじく会話を繰り返す。
それが恋慕と移り変わる事は、容易い事だった。
- 18 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:36:28.05 ID:zJZzxIaYO
-
戦が終わりて時は流れ、桃の木が血を吸う事は無くなった。
しかし一度味わった血の味、桃の木は雨の恵みでは渇きが癒されなくなってしまっていて。
喉が渇く、身が渇く。
そう嘆く桃の木に、烏は血を届ける。
小さな器を銜えて、遠くの戦で流れた血を酌み、動けぬ桃の木へと血を運ぶ。
それは愛からなせる行動。
始まりはただの暇潰し、妖怪の木が珍しかった。
だから言葉を交わし、桃の木も孤独を紛らわせる為に言葉を交す。
しかし長い時、言葉を交わし続けた。
毎日毎日やって来る烏は、桃の木と話す事が楽しくて。
毎日毎日やって来る烏が、桃の木は楽しみになっていて。
烏と桃の木の間に流れる物は、どこかいびつな愛の時。
結ばれるわけもない、鳥と樹木の愛。
それでも二人は幸せで、長い寿命が尽きるまで、こうして過ごそうと誓いあった。
- 19 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:39:00.20 ID:zJZzxIaYO
-
しかしある時、桃の木が斬り倒される事になった。
血を吸った桃の木は、桃色ではなく赤い花を咲かせる。
それはあまりにも禍々しく、不吉だと云う理由で伐採される事となり。
妖怪と云えども意思を持つだけ。
そこから動けず、人と通う言葉も吐けぬ。
そんな桃の木は、届かぬ悲鳴をあげて、斧に身を許す。
がつ、がつ、と立派な幹に食い込む刃。
誰か助けて、痛い痛い。
それは人には届かず、大きく抉れてゆく身体。
幹が半分ほどまで抉られた所で、烏が血を酌んだ器を持ってやって来た。
何も知らずに何時もの様に、愛らしい声を聞き、枝に留まって羽根を休める為に。
しかしそこに広がる光景は、痛みに泣き叫ぶ愛しい桃の木。
幹を抉る人々の手、やいば。
血の入った器を取り落とし、烏は怒りに震えた。
- 21 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:42:46.18 ID:zJZzxIaYO
-
怒り狂う烏は人々を襲い、目玉を抉って皮膚を裂く。
逃げようとする背中に嘴を突き立て、命を奪う。
黒い身が赤いぬめりで染まるまで、怒りに任せて羽搏いた。
俺の愛しい者に何をする、それが貴様らに何をした。
人の利己で命を奪うと云うのなら、俺も利己で命を奪おう。
貴様らは逃げ惑う事が出来よう。
しかし愛しいあいつは逃げる事すら出来ぬのだ。
あれが何をした。
あれの何が悪だと云う。
愛しいあれを、何故に斬り倒そうとする。
いったい何をした、何をしたと云うのだ!
貴様らにあれの何が解る!
ただそこに居るだけだ!
何もしてはいない、何も!
あれを殺そうとするならば、俺があれを守ってみせよう!!
- 22 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:45:48.58 ID:zJZzxIaYO
-
桃の木を斬ろうとした人々は、烏によって没する。
しかし人を殺そうが、桃の木に付いた傷はひどく深く。
烏が血を注いでやろうとも、桃の木はもう何も云わない。
幹に耳を当てれば、僅かな命の音が聞こえるだけ。
ああ、このままでは愛しい者が命を落とす。
そんなものを、ただ黙って見ている事など出来はしない。
そこで烏は、己の足を引きちぎった。
羽根を、足を、嘴を、身体中に傷を付けた。
八咫烏の血は、人にも其処らの妖怪にもない力を持つ。
軽い傷ならば容易く治す、治してみせる。
喩え、己の命を失おうとも。
愛しい桃の木を助けてみせよう。
渇きを癒す様に、傷を治すために、烏はぼたぼた血を流す。
それは地から桃の木へ吸い込まれ、少しずつ、少しずつ潤って。
- 24 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:48:21.17 ID:zJZzxIaYO
-
多くの血を流した事で、息も絶え絶え異形の烏。
しかし癒え行く桃の木に、烏は幸せそうに微笑んだ。
瀕死の状態なのか、桃の木は意識を失い眠っている。
けれど、命は確かに灯ったまま。
その場で暫く蹲っていた烏が、最後に桃の木を見ようと顔を上げた。
すると、そこには。
そこには、たわわに実る一つの果実。
愛らしい寝顔。
愛らしいその姿。
それはまさしく、烏と桃の木の、愛娘。
結ばれざる者達の間で結ばれた幼い果実に、烏はぽろぽろ涙をこぼした。
- 26 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:51:47.65 ID:zJZzxIaYO
-
それから烏は、死ぬる事を諦めた。
二人の間で結んだ我が子をそっともいで、優しく胸に抱いた。
これから、霊山に行って、傷を癒すよ。
お前の傷はもう大丈夫。
けれどいつ目覚めるかわからないから、この子を連れて行くよ。
僕がこの子を育てるよ。
だからそこで待っていて。
すぐに戻ってくるからね。
目を覚ました時に、この子を二人で祝福しよう。
烏は子連れで旅に出る。
桃の木が目覚めたのは、それからすぐの事だった。
桃の木は烏の行動を知らぬまま、人に化ける力を得た。
そして、烏を探す為、町へと身を置くのだった。
- 28 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:53:57.27 ID:zJZzxIaYO
-
( ´∀`)「戻ってきたら、れもなはあの場所に居なかった
だから探し回って、随分と遅くなってしまったモナ」
|゚ノ ^∀^)「もなぁ君……れもなの為に、そんな……」
( ´∀`)「僕の愛しい人、僕らの間で結んだ実が、この子モナ
僕らの娘、可愛い女の子、もれな」
|゚ノ ^∀^)「そんな、れもなの知らない内に……娘が出来ていた、なんて……」
li*^ヮ^)「……おかあさん」
|゚ノ ^∀^)「っ、……なあ、に?」
li*^ヮ^)「わたしを、娘って認めてくれる?」
|゚ノ ^∀^)「!」
li*^ヮ^)「おとうさんから聞かされてたよ、おかあさんがどんなに綺麗で素敵なひとか
ずっとずっと会いたかった、はやくはやく、いっぱいいっぱい甘えたかったの」
|゚ノ ^∀^)「もれな、ちゃん…………れもなの、娘……」
li*^ヮ^)「おかあさん……」
( ;ω;)イイハナシダオー
- 30 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:56:35.19 ID:zJZzxIaYO
-
( ´∀`)「長く流されやっと出逢えた、僕のれもな
どうかこれから、また共に生きよう愛しい人、僕の愛しい細君」
|゚ノ ^∀^)「あ……あぁ……あああ……っ!」
( ´∀`)「僕の、妻」
|゚ノ ∀ )「れもなの……旦那様……!」
( ^ω^)「…………と云うか」
( ´∀`)「モナ?」
( ^ω^)「もれなちゃん、れもなにそっくりだお」
|゚ノ ^∀^)
( ´∀`)
li*^ヮ^)?
( ^ω^)「どう見てもれもなの子だお」
|゚ノ ^∀^)
- 31 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 21:58:26.15 ID:zJZzxIaYO
-
( ^ω^)「疑う余地はどこだお」
|゚ノ ^∀^)「だ……だってぇ……突然云われてもう……」
( ´∀`)「良いんだモナ、れもな……解ってくれたのなら」
|゚ノ ^∀^)「もなぁ君……!」
( ^ω^)(新たな馬鹿夫婦誕生)
li*^ヮ^)「おかあさんとおとうさん、嬉しそうだね」
( ^ω^)「そうだおねー、ところでもれなちゃんは何の妖怪だお?」
li*^ヮ^)「ごくらくちょう!」
( ^ω^)「あーそれっぽいわー」
li*^ヮ^)?
( ^ω^)「可愛くて幸せそうって意味だおー」
li*^ヮ^)「わーい!」
( ^ω^)(この夫婦の間によくこの純粋な子が生まれたお……)
- 34 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:01:17.93 ID:zJZzxIaYO
-
( ^ω^)「しかしれもな、お前さんは花魁だお?」
|゚ノ ^∀^)「ん? まあそうね」
( ^ω^)「盛岡屋のうれっこが、簡単に抜けて家庭を持てるのかお?」
|゚ノ ^∀^)「大丈夫よう、あの狐の尻尾取っ捕まえてやれば、どうとでも」
(;^ω^)「あー……」
|゚ノ ^∀^)「あ、でもねもなぁ君」
( ´∀`)「モナ?」
|゚ノ ^∀^)「れもなもけじめをつけなきゃいけないから、一緒に暮らすのは少し待ってね?」
( ´∀`)「モナ、解ったモナ」
|゚ノ ^∀^)「……ごめんね、れもなはもう綺麗な身じゃないけど、」
( ´∀`)「それでも、れもなはれもな、僕の愛しい妻モナ」
|゚ノ ^∀^)「もなぁ君……!」
( ^ω^)(同じ台詞でもこうも重みが違うかお……)
- 35 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:03:15.87 ID:zJZzxIaYO
-
|゚ノ ^∀^)「それに、れもなの後を任せる子も居るし」
( ^ω^)「りりちゃんかお?」
|゚ノ ^∀^)「あの子は幼すぎるでしょ、妹分が居るのよう」
( ^ω^)「おー、ここの事情はよう知らんから初耳だお」
|゚ノ ^∀^)「れもなを慕ってくれてる子が居てね、りりちゃんもなついてるし…………黒ちゃーん」
( ^ω^)「黒ちゃん?」
だだだだだだっ
すぱぁん!
|・ノ*"ヮ")「はいお姉様! 呼びまして!?」
|゚ノ ^∀^)「れもなの後は任せるわねぇ」
|・ノ*"ヮ")「? お姉様の後ならば、喜んで!」
- 36 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:06:18.72 ID:zJZzxIaYO
-
( ^ω^)「おおう……そっくり……」
|゚ノ ^∀^)「黒ちゃん、この方はれもなの旦那さんでこの子は娘、ご挨拶してね」
|・ノ*"ヮ")「古椿の霊、黒と申します!
血の繋がりは御座いませぬが、れもなお姉様を姉と尊んでおります!」
|゚ノ ^∀^)「そっくりでしょ、れもなに似させて化けてるらしいの」
( ^ω^)「おー……どこにどう突っ込めば良いのか解らんお……」
|゚ノ ^∀^)「ただの顔見せだから気にしなくて良いわよう」
( ^ω^)「どう考えても数合わせ……」
|゚ノ ^∀^)「百とか無茶云うから……」
( ^ω^)「しょうがねえおね……」
|・ノ*"ヮ")?
li*^ヮ^)?
( ^ω^)「知らなくても良い事だおー」
- 39 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:09:06.42 ID:zJZzxIaYO
-
( ^ω^)「さーてと、まあ何とかなったみたいだし、僕はそろそろ行くおー」
|゚ノ ^∀^)「うん、有り難うお坊っちゃん!」
( ^ω^)「おっおっ、まあるく収まったならそれで良いお。僕はどくおに云いに行くお」
( ´∀`)「ご迷惑お掛けしましたモナ、内藤さん」
li*^ヮ^)「またね、おにいちゃん!」
( ^ω^)「よしよし、またおー」
はーやれやれ、と坊っちゃんが己の肩を叩きながら座敷から出て行く。
坊っちゃんへ手を振るれもな一家に、疲れはしたが穏やかな気持ちで。
あとはどくおに終わったと云いに行き、つんの所でお茶でも飲んで、今日は帰ろう。
さきほど団子を食ったが、やはり可愛屋の方が美味い。
そう云えば最近は忙しくて、どくおの菓子も食えていない。
明日にでも、また何か作って貰おう。
火車や陰摩羅鬼にも、食わせてやろう。
いつか長岡にも、食わせてやりたいな。
- 41 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:12:10.70 ID:zJZzxIaYO
-
ぼんやりと穏やかな思考の海を漂いつつ、盛岡屋の暖簾をくぐって外に出る。
すると、ふにゃりと大福の様な面をしていた坊っちゃんの耳に、大きな声が飛び込んで。
(;'A`)「坊っちゃんッ!!」
( ^ω^)「お、どくお? れもなの探し人なら……」
(;'A`)「違うッ! これ見ろよッ!!」
(;^ω^)「お、お? どうしたんだ……お……?」
店を出てすぐに、走って来たのか、肩で息をするどくおに呼び止められ。
その両手に大事そうに包まれた物を見せられて、坊っちゃんは、さっと顔色を無くした。
どくおの手のひらに乗っていたのは、息も絶え絶えな小さな妖怪。
木霊の、ぜあだった。
- 44 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:14:27.44 ID:zJZzxIaYO
-
ぜいぜいと荒い息、小刻みに震える小さな体。
森から出ると寿命を縮める事になる木霊が、町の真ん中に居る。
その事実に、瞬時に理解する事は。
森山で、何かが起きたと云う事。
それもあのやんちゃなびこではなく、真面目なぜあが山を出た。
小さな体を震わせて、何かを訴える様に、ちいさく鳴いて。
(;^ω^)「ぜ……っぜあ!? 何でこんな所に!?」
(;'A`)「俺には解らねェんだよ! だから言葉の解る奴を探してッ!」
|゚ノ ^∀^)「んもう、どうしたのう? お店の前で、帰ったんじゃないのう?」
(;^ω^)「! れもな、れもななら解るかお!?」
|゚ノ;^∀^)「へ、へ? な、何がよう?」
(;^ω^)「樹木子なら、木霊の声が解るかお!?」
|゚ノ;^∀^)「ず……ずいぶん聞いてないけど、たぶん解るかとう……」
- 45 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:17:43.99 ID:zJZzxIaYO
-
(;^ω^)「じゃあ聞いてくれお! 僕らには解らないんだお!!」
|゚ノ;^∀^)「う、うん……って町に木霊!? どうしたのようあなた!?」
( ∴)「……ゴェ……」
|゚ノ;^∀^)「山から出たから衰弱しきって、可哀想に……どうしたの? 何があったの?」
( ∴)「ゴ……ゴェェ…………ゴェ」
|゚ノ;^∀^)「……ぇ?」
( ∴)「ゴェ…………ゴェゴェェ……ゴェ」
|゚ノ; ∀ )「…………そんな、馬鹿な事……」
( ∴)「ゴェェ……ゴェェェ……ゴェ」
|゚ノ ∀ )「…………」
(;^ω^)「れ、れもなっ!」
(;'A`)「何て云ってるんだ!?」
- 48 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:21:04.91 ID:zJZzxIaYO
-
|゚ノ ∀ )「……あなた達のお母様と、お父様を呼びなさい」
(;^ω^)「お?」
|゚ノ ∀ )「蟲を呼びなさい、この町の三匹の蟲を」
(;'A`)「れ、れもな……?」
|゚ノ#^∀^)「早く呼びなさいッ! 蜘蛛と百足と蟻をッ!! あの三匹が居なければお話にならないッ!!」
(;^ω^)「お、お! 把握だお!」
(;'A`)「わ、解った!」
o川*゚ー゚)o「呼んだ?」
(^ω^;)「姐さん!?」
o川*゚ー゚)o「いや、買い出し来たらえらい賑やかやったから……何かあったんか、桃の木」
|゚ノ ^∀^)「急いて残る二匹を呼んで、雷獣殿に蜘蛛を連れてきて貰って」
o川*゚ー゚)o「……解った、せやけど先ずは説明をせんかい、理由を聞かんと走れん」
|゚ノ ^∀^)「……そうね、でも先に誰かは呼びに行って頂戴。雷獣邸は遠いわ」
- 50 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:24:03.61 ID:zJZzxIaYO
-
( ´∀`)「あれは馴染みだから、雷獣の元には僕が行くモナ。蟻の元へは別の誰かを」
|゚ノ ^∀^)「もなぁ君……お願い、盛岡屋へ呼んで」
( ´∀`)「御随意に、モナ。僕の細君」
(;^ω^)「どくお、ひぃとを頼むお!」
(;'A`)「おうッ!」
o川*゚ー゚)o「ついでや、巫女と犬神ん所の子と狸と狐と狼も呼んで来ぃ」
(;'A`)「おっす! おらパシり!! いっちょ行ってきやすッ!!」
|゚ノ ^∀^)「狢殿! 聞こえていて!? 今日の商いは取り止めて頂戴な!!」
<うむ
|゚ノ ^∀^)「雇い主だけど殴りたいわあ」
- 54 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:26:59.96 ID:zJZzxIaYO
-
(;^ω^)「…………ぜあ、大丈夫かお?」
( ∴)「ゴェ……」
|゚ノ ^∀^)「おいで木霊ちゃん、れもなの樹木の気を分けてあげるわ」
(;^ω^)「おー……どうしたんだお、いったい……?」
|゚ノ ^∀^)「……後でも話すけれど、先に云うわね」
(;^ω^)「お?」
|゚ノ ^∀^)「西の妖怪が、この町に攻め込む」
(;^ω^)「…………はい?」
|゚ノ ^∀^)「この子曰く、近く西の妖怪が此処へ攻め込む。仲間の木霊ちゃんは……死んだ可能性がある」
(; ω )「な……、な……!? そんな、馬鹿な……ッ!?」
|゚ノ ^∀^)「黒衣の、眼鏡をかけた男が云っていた。仲間の子は、この子を此処にやる為、囮に」
( ω )「…………」
|゚ノ ^∀^)「……お坊っちゃん?」
(# ω )「あの……ッ下衆がァアッ!! よくも僕を謀ったな……ッ蝙蝠めがぁあああああああッ!!!!」
- 57 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:29:58.57 ID:zJZzxIaYO
-
(# ω )「糞、糞がッ! 蝙蝠の戯言など信じるべきでは無かったかッ!!」
|゚ノ;^∀^)「ちょ、ちょっとお坊っちゃん!」
だん! と店先の戸を殴り付けて怒鳴る坊っちゃん。
その姿と声に、辺りは水を打った様にしんと静寂に包まれる。
突然怒りに顔を染めた坊っちゃんに、ぜあを抱いたれもなは驚き声をかける。
しかし坊っちゃんの怒りは収まる事もなく、苛立たしげに戸を殴り続けるばかり。
震える声音から伝わる、騙されたと云う怒り。
そして、蝙蝠の言葉を信じてしまった己の愚かさに対する怒り。
深く俯いて怒鳴り散らす姿に皆は戸惑い、れもなすらも困り果てた顔をする。
と、
すい、と一歩前へと出る、女の姿。
それは、四本腕のきゅう姐さんで。
- 59 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:32:26.29 ID:zJZzxIaYO
-
(# ω )「どくおを嘲り兄者を捕らえるだけではあきたらず僕までも謀るとは外道もがッ!!
許すものか、許すものかあの屑がぁあああああああああッ!!!!」
o川*゚ー゚)o「黙りよ坊っちゃん、今は落ち着け」
(# ω )「落ち着けるものかあの下衆めッ!! 億倍にして返してくれるッ!!」
_,,
o川#゚Д゚)o「黙れ云うとるやろがァッ!! お前が今怒り狂っても意味なんざ無いんじゃクソガキャアッ!!」
(# ω )「ッ!?」
きゅうの言葉に聞く耳を持たず怒鳴る坊っちゃんな胸ぐらを、がっと掴んで
目一杯、拳をその頬へと叩き付けた。
方言の強い言葉で、叱りつける様に声を荒らげるきゅう。
殴られた衝撃で吹き飛び、戸に叩き付けられた坊っちゃんはその場で、俯いたまま黙り込む。
ざわめく事を忘れた様な、静かな町。
そんな中、きゅうは坊っちゃんの前に立ち、襟首を掴んで立ち上がらせた。
- 62 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:36:08.34 ID:zJZzxIaYO
-
o川 ゚−゚)o「あんたは大地主の坊っちゃん、今此処で冷静にならなあかん立場や
それを無視して勝手に怒り狂い怒鳴り散らす、
それが周りへどれだけの混乱をもたらすかも解らん云うんか」
(#) ω )「…………」
o川 ゚−゚)o「あんたは内藤の姓を持つ、それはもはやどうしようも無い事実
重い姓やとは思うが、あんたはもう子供やない、我が儘でどうにかなる事やない
あの両親を持つあんたは、今冷静になって場をまとめなあかん立場やと理解せぇや」
(#) ω )「……すみ、ませんでした……お」
o川 ゚−゚)o「今あんたがする事は、あんたの持ち得る情報を皆に与える事
そして桃の木達から新たな情報を得て、今後の対処法を考える事
皆を守り、皆を安心させる事があんたのすべき事。それを補佐する為に、うちらが居る」
(#) ω )「はい、ですお……すみませんでしたお……」
o川*゚ー゚)o「……解ったらえぇ、殴って悪かった。れもな、話の続きを」
|゚ノ;^∀^)「え、ええ…………流石ね、百足ちゃん」
o川*゚ー゚)o「蠱毒の生き残りきゅう様をなめたらあかん、どんだけ場数踏んできたと思ってんの」
- 63 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:37:44.87 ID:zJZzxIaYO
-
|゚ノ ^∀^)「……先刻も云った通り、町に妖怪が攻め込むらしいわ」
o川*゚ー゚)o「それは真か?」
|゚ノ ^∀^)「この子の言葉を信じるならば」
o川*゚ー゚)o「……木霊は言葉を返す、嘘は吐かんな」
|゚ノ ^∀^)「そう、ならこれは真。数日の内に、早ければ明日にでもやって来る」
o川*゚ー゚)o「……坊っちゃん、何をすべきか解るか?」
( ^ω^)「お……警備を、厳重に……?」
o川*゚ー゚)o「この町には四方に門がある、其処に誰を置くかを考えなあかん」
( ^ω^)「おー……西から来るなら、西門の守りを強くすべきかお……?」
o川*゚ー゚)o「せやね、町の強い奴等を西に」
|゚ノ ^∀^)「ちょい待ち」
( ^ω^)「お?」
|゚ノ ^∀^)「今回で全ての力を注ぐのは良くないわ」
- 66 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:39:34.54 ID:zJZzxIaYO
-
( ^ω^)「お、どう云う……?」
|゚ノ ^∀^)「二度来る」
o川*゚ー゚)o「……ようやるわ」
(;^ω^)「お、お?」
|゚ノ ^∀^)「一度目に力を見せ付けて、二度目に町を壊すつもりなのよう」
(;^ω^)「と、云う事は……」
o川*゚ー゚)o「二度目に守れる様に、力を温存した方がええかも知れんな」
(;^ω^)「おー……しかし、そうなると……」
o川*゚ー゚)o「人死にが出ん様に、皆を一ヶ所に纏めるか」
|゚ノ ^∀^)「でも、それじゃそこを狙われたら……?」
o川*゚ー゚)o「空から来るなら、それを迎え撃つ」
|゚ノ ^∀^)「……そうね、地を守る妖怪は多い」
- 68 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:42:21.20 ID:zJZzxIaYO
-
( ^ω^)「…………町が多少壊されても、人を守るって事かお?」
o川*゚ー゚)o「その辺は、皆が集まってからしっかり話そう。うちらだけどは纏め切れん」
( ^ω^)「おー…………どうして、こんな事になるのかお……」
o川*゚ー゚)o「……西の奴等は、しゃあない」
|゚ノ ^∀^)「……知り合いでも居るのかしら?」
o川*゚ー゚)o「居るよ、蠱毒出の…………妹が」
|゚ノ ^∀^)「…………あなた達は、蟲は、互いを姉妹の様に慕い合っているのね」
o川*゚ー゚)o「同じ蠱毒から生き延びた蟲同士、やからね……ほんまは最後の一匹になるまで殺し合うんやけど
しゅうの姉様が、それを止めさせ、蠱毒の壺を打ち砕いたんや」
( ^ω^)「おっかさん、が?」
o川*゚ー゚)o「うん、うちもしゅう姉様も、あのひぃとも……みんな同じ蠱毒の出やねん」
(;^ω^)「お……こ、蠱毒の出って、初めて知ったお……」
o川*゚ー゚)o「しゅう姉様は喧嘩が好きやないからね、何とか共存しようとしててん
うちやひぃとは、それに惚れて一緒に壺から出る事にした……殺し合いは嫌やしね」
- 69 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:44:38.44 ID:zJZzxIaYO
-
|゚ノ ^∀^)「先刻云った、妹は?」
o川*゚ー゚)o「あー……あれは、なぁ……一緒に出る云うて出たんやけど
……あいつは、根っから狂っとる……外に出てから、うちらに牙を剥くようになった」
|゚ノ ^∀^)「…………西の、妖怪なの?」
o川*゚ー゚)o「……気を付けや、…………蛞蝓くるう、を
あれは、何をしでかすか解らん外道や……溶かし殺す毒を持つ」
|゚ノ ^∀^)「……蟲も、大変ね」
o川*゚ー゚)o「獣には負けるわ」
きゅうが、何処か哀しそうな顔を見せる。
それは妹の様に可愛がってきた蛞蝓の凶行を思い返しての事なのか、
それとも、これから起こるであろう、いくさに思いを馳せてなのか。
遠くから、どくお達の声がする。
蟻や獣をつれてきたのか、大勢の足音も。
空で煌めく稲光。
雷獣の訪れを知らせるそれに、皆が複雑な顔をした。
- 71 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:46:52.43 ID:zJZzxIaYO
-
遠き日の妹よ、今は何処に居ると云う。
姉を愛しすぎて狂った妹よ。
まさかお前の狂気は、このいくさに関わっているのだろうか。
お前は狂気が匂う場所に這いずり回る女蛞蝓。
今も舌なめずりをして、姉の全てを奪おうと狙っているのか?
嗚呼、我らが蠱毒の素直姉妹。
長女のしゅうは麗しき女郎蜘蛛。
次女のきゅうは堅牢なる百の足。
四女のひいとは勇ましき蟻の頭。
三女くるう、お前は全てをとろかす異端の蛞蝓。
蟲の毒壺から共に這い出たお前すら、私達の敵となると云うならば。
私の鎧で全てを守り、妹の力で捩じ伏せて、姉の毒でとどめをさそう。
可愛い妹、お前も敵となるならば────。
- 73 ◆XCE/Wako2nqi 2010/04/25(日) 22:48:55.90 ID:zJZzxIaYO
-
戦が始まる。
己らの悦楽の為の、悪逆非道な行いが。
その戦の理由は一つ。
快楽のみの戦の幕開け。
悪も善も織り混ぜた、町の者共の攻防が。
己の存在を確かめる為。
愛しい町を守る為。
嗚呼、終わりを告げる、穏やかな日々よ。
『七話後編 おわり。』