53 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/11(日) 03:57:59.65 ID:2vd5svUAO
 ぎらり煌めくネオンには、負けじと灯る行灯に
 結った黒髪、挿すは簪
 かんこん二枚歯、朱塗りの下駄が高らか響く

 赤に黒に青緑、色とりどりの振り袖が翻っては白粉の香りを振り撒いて
 ほらあれが名物、花魁だ

 かんこんかんこん、石の畳に下駄が鳴く
 見るも麗し我らが花魁、美しや美しや、長い煙管を振り回して花魁が駆けておられるよ

 そこかしこで春を売って夜に泣く、女達に笑顔を振り撒く花魁だ
 ほらお前さんにも笑顔を向ける、可愛らしや花魁が


(*゚∀゚)「ィよう旦那、今宵も華が綺麗だねェ! あひゃひゃひゃひゃァ!」


 ほうら、花魁「おつう」のお通りだ。


54 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/11(日) 04:00:10.66 ID:2vd5svUAO


 紫檀の寝台は天外つきで、垂れる薄布が横たわる女を隠していた。
 もうもうと煙る室内には、甘ったるくも気高い香が満ち溢れる。

 そして寝台の上には、だらしのない腰巻姿で惰眠をむさぼる女が一人。
 長い長い黒髪を“しぃつ”の上に広げ、長い煙管を握ったまますやすやと心地良さそうに眠っているのだ。

 この幸せそうな顔を見ると、起こしてしまうのは気が引ける。
 まあそれでも、赤い振り袖姿で準備運動をしているお子は女を叩き起こそうと

 宙を舞うのだが。


 ずどんっ!!

(;*゚∀゚)「あびゃァッ!?」


55 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/11(日) 04:02:07.01 ID:2vd5svUAO

(*゚ー゚)「お起きなすった? つう姉様」

(;*゚∀゚)「あ……あひゃ…おはようさん、しぃちャんよォ……」

(*゚ー゚)「ほらほら、はよう顔を洗っておいでませ。あァっと言う間にお客がずんずんいらっしゃいますよ」

(*゚∀゚)「もォちっと優しィく起こしてくれても良いじゃァないさ…売り物の身体に痣でもついたらどうしてくれるんだい?」

(*゚ー゚)「生傷ばァっかりこさえてる癖によう言いますねェ、その膝ッ小僧の擦り傷は何ですか?」


 幼子しぃ、己の禿に腹の上へ飛び乗られると言うトンでもない起こし方をされた花魁つう。
 一つ文句でも垂れてやろうと口を開くが、妙に頭の切れるしぃに、逆に追いやられると言う何とも間抜けな姿。

 さっさと口喧嘩にも発展しない内に敗けを認め、つうは手拭い片手に部屋を飛び出してしまわれた。

 ふぅ、とため息を散らかった姉女郎の部屋に転がして、しぃは脱ぎ捨てられた着物をせっせと畳んで片付ける。


56 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/11(日) 04:04:06.89 ID:2vd5svUAO

 未だ片手で足りる様な歳のお子様と、手足の指を足しても少し余裕がある様な歳の女。
 二人はこの遊郭一の妓楼武雲屋の名物こんび。

 いっつもいつも人様を振り回してはあっけらかんと笑う花魁おつう。
 そのおつうの帯をがっしと掴んで引き留め、こんこんと説教を垂れ流す禿、しぃ。

 姉女郎と揃いの真っ赤な振り袖。その袖をたくしあげながら、しぃは黙々と部屋の掃除をする。
 そんなしぃの背中を見つけた女が一人、廊下を音もなく進んで、小さな首筋に

 ふぅっ

(;*゚ー゚)「ひゃぁあああっ!?」

lw´- _-ノv「良いお声」

 生暖かい吐息を首筋に受けたしぃ。びくんと身体を震わせて声をあげ、振り返ると女の姿。
 髪も結ってしっかりめかし込んだ女は、薄い唇を少しだけ持ち上げて笑った。

 紫がかった髪と濃い紫の着物、あさぎの打ち掛けの女は花魁。
 花魁、しゅう。


(;*゚ー゚)「何をなさいますかいきなりっ!」

lw´- _-ノv「ふむふむ、お稚児は元気がなによりなにより」


57 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/11(日) 04:06:06.31 ID:2vd5svUAO

(*゚ー゚)「しゅう姉様……あんた様はもう…」

lw´- _-ノv「部屋の主は米か」

(*゚ー゚)「違います」

lw´- _-ノv「なら────ふむ、ふむ、何やら下が騒がしい。米か」

(*゚ー゚)「まず違います、何ですか米って」

lw´- _-ノv「米はよきかなよきかな、人類が産み出した

(*゚ー゚)「見に行きましょうか」

 突然の来室者に、しぃは片付けを中断して部屋を出る。
 おかっぱ頭がさらりと揺れる後ろ姿を、紫の花魁がのったのたと追い掛けて。

 朱に塗られた廊下と階段をとことこ降りていると、いつのまにか隣に並んでいたしゅうがしぃに問いかけた。


lw´- _-ノv「あのおつうの禿、嫌になったりせんのかお稚児よ」

(*゚ー゚)「慣れっこです、それにおつう姉様も良いとこあるんでございますよ」

lw´- _-ノv「ほうほう、それはいずこぞ」

60 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/11(日) 04:08:18.03 ID:2vd5svUAO
(*゚ー゚)「うーん……強くて優しいです」

lw´- _-ノv「ほほほう、なかなかその図を想像しづらくおもう」

(*゚ー゚)「そりゃねぇ、ところでしゅう姉様の禿さんは?」

lw´- _-ノv「寝ておる」

 特別楽しいわけでも、つまらないわけでもない会話。けれど悪い空気ではない会話。
 華が咲くでも散るでもない、そんな会話をざっくり斬り壊す


 _
(#゚∀゚)「おいてめーらァ! 女つれてこいつってんだよォッ!!」

(;^ω^)「申し訳御座いやせんお、まだ時間が…」
 _
(#゚∀゚)「知るかァ! こちとら金ェ出すんだぞ!! さっさと女郎の一匹や二匹つれてこんかァッ!!」

( ^ω^)「いっ………ぴき…?」

 _
(#゚∀゚)「ァアッ!?」


61 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/11(日) 04:10:12.84 ID:2vd5svUAO

 妓楼武雲屋の主人たる男、人の良い笑顔を浮かべたままの“ぶーん”は男の言いぐさにぴくん、と反応した。

 さして身なりの良くはない男がぶーんに掴み掛かり、今にも一触即発といった空気である。

 ぶーんは自分の店と女郎達に大きな愛情を持っている、たとえ仕事が身を売る行為だとしても、アマッちょろいぶーんは誰にも強請したりはしない。
 それをよく知る女郎や下働き達は、そんなぶーんを尊敬し、誰も己の我儘を通そうだなんて思いやしない。

 それは何故か? そんなことは分からない。
 ただ、ぶーんはそれに値する男と言うだけである。

 しかしまあ、非常に穏和なぶーんも可愛い我が子同然の女郎達を、畜生の様な数え方されれば話は違う。
 こめかみに青筋を立てて拳を震わせる姿に、下男達が慌てて止めに入ろうと

 する、が、


 _
( ゚∀゚)「お…? おいおい可ァ愛らしいお嬢ちゃんが居るじゃァねェか」

(;^ω^)「え? あ、し、しぃ! 下がりなさいおっ!」

(*゚ー゚)「へ?」


63 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/11(日) 04:12:04.58 ID:2vd5svUAO

 酒の臭いを撒き散らしながら主人に喧嘩を売っていた、客らしき男がしぃの姿を見つけた。

 す、とぶーんを離してしぃに近付く男を必死に止めようとするが、相手は今や大虎。なかなか止まっては下さらない。
 涙目で後ずさるしぃ。
 伸ばされる武骨な手のひらに、しゅうがしぃを横から抱く。

 と、



(#*゚∀゚)「ざァッけンじゃアないよォこのチンカスがァあああああああああああッ!!!!」


 どぐっしゃ

 _
(#)∀ ) ゚ ゚
ウロオヴォェエエエエエエエエエッ!!!!


 目にも止まらぬ勢い、疾風の如く飛び蹴り。

 そして見事に、すた、と着地。


(#*゚∀゚)「あたしの禿ッ子に何するンだい、このカスがァアアアッ!!」


66 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/11(日) 04:13:59.70 ID:2vd5svUAO
(;^ω^)「おつう! いや流石にやりすぎだお! 顔の形が変わってるお!」

(#*゚∀゚)「知るかピザァッ! しぃ、何ともないかッ!?」

(;*゚ー゚)「は……はひ…」

 風呂にでも入っていたのか、全身びしょ濡れの状態で適当に一枚着ただけの姉女郎。
 ふうふうと呼吸を荒くし、怒りを隠さずに床に倒れ伏す男の頭をがっつんがっつん踏みつける。
 その姿は鬼の如く。

 水滴をぽたぽた、下ろした黒髪の先から艶やかに滴り落ちる。肌にひたりと吸い付く赤の襦袢。
 怒りに任せて上気した赤い頬にも水がたらり、と。


lw´- _-ノv「ほう、ほう、ほう、確かに確かに。強くて優しいか、ふむ」

(*゚∀゚)「あン?」

lw´- _-ノv「これこれ喜助の流石の兄弟よ、こやつめに仕置きだ仕置きだ、米だ」

(´<_` )「はいはい米は我慢してくださいね、行くぞ兄者」

( ´_ゝ`)「はいはーい女装させて美粧して表にぽーいしますねー」
  _
(#)゚∀゚)「え? え?」

(´<_` )「因みに金輪際ここには入れませんので、アホな事をするのが悪い浅黄裏っと」
  _
(#)゚∀゚)「え? あ、いやあああああああああ─────」

68 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/11(日) 04:15:59.74 ID:2vd5svUAO

 ずるずると引っ張られて行った客、になりそこねた男。
 その姿を見送り、おつうはフンと鼻を鳴らして、しぃを見る。


(*゚∀゚)「何もされなかった?」

(*゚ー゚)「はい」

(*゚∀゚)「ならば良し。さあさァ景気の悪い顔はやめだ! これから稼ぐよォ! あひゃひゃひゃひゃ!!」

lw´- _-ノv「部屋に戻って客を待つ、ふむ、今日はどれだけ来るのやら」

(*゚∀゚)「お前さんの客もあたしのモンさァ!」

lw´- _-ノv「そうは行かないこのぷらいど、米を食おう」

(*゚∀゚)「勝手に食え。あひゃひゃひゃひゃ!」


 騒ぎもやっと一段落、主人のぶーんもしぃの頭を撫でてから流石の兄弟達を追った。

 各々が持ち場に戻り、忙しくなる時間が迫る。
 おつうもしぃも部屋へと戻り、客を迎える準備についた。


69 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/11(日) 04:17:44.69 ID:2vd5svUAO


 して、


lw´- _-ノv「ほうほう、ふむふむ。強くて優しい、ふぅむ────ああ、米でもくろうて落ち着こう、これこれそこの、米を買ってきなさいな、釣りはあげようね」


 二番目“うれっこ”花魁しゅう。

 彼女もまた、細い目を開きながら慌ただしく───。



lw´- _-ノvの春の日々、のようです。


おわり。

inserted by FC2 system