2 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:00:00.41 ID:hZRVSBiDO
代理ありがとうございます

http://stupidrabbits.web.fc2.com/
http://nagixnagi.blog38.fc2.com/
総合で投下した短編をまとめて下さってます、ありがとうございます

今回は二話ほど投下しますぞー

3 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:01:59.26 ID:hZRVSBiDO

 此ォ処は何ォ処の細道じゃ

 天神様の細道じゃ

 ちィッと通して下しゃんせ

 御用の無い者 通しゃせん

 此の子の七ツの御祝いに

 御札を納めに参ります

 行きはよいよい 帰りはこわい

 こわいながらも

 通りゃんせ 通りゃんせ────



 lw´- _-ノv春の日々、のようです

   『お稚児のお歌』


4 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:03:37.64 ID:hZRVSBiDO

 神社の境内で、トントン手鞠をついて遊ぶ子供達。
 赤や桃の愛らしい振り袖を着た子供達は、皆、禿である。

 そこには花魁“おつう”の禿っ子、しぃも居る。
 しぃも楽しそうに鞠をついたり、関所遊びをしておりまして。


(*゚ー゚)「あ、しゅう姉さん」

ζ(゚ー゚*ζ「あー、おいらーん」

 二人の女児が顔を上げて、蛇腹を片手に歩く女に声をかけた。

 江戸紫の打ち掛けを羽織った、目の細い花魁。
 紫が良く似合うその花魁に向かって手を振りながら、二人はとたとた駆け寄った。


lw´- _-ノv「遊戯かお稚児よ」

(*゚ー゚)「はい、今日はお仕事が無いから遊んでこいって」

ζ(゚ー゚*ζ「おいらーん、遊ぼー」


5 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:05:31.47 ID:hZRVSBiDO

 しぃは黒いおかっぱをさらさら揺らし、もう一人の女児───しゅうの禿、“でれ”は二つに結った薄茶の髪をふわふわ揺らして
 子供らしく笑い、しゅうの着物を引っ張る。

 そんな子供達に絡まれつつも、しゅうは満更じゃア無さそうな顔で口の端を持ち上げて。

 ふと、視界の隅に何かが引っ掛かった。


 顔を上げてお社の影を見ると、そこには



(#゚;;-゚)


 見知らぬ女児がこちらを伺っていた。

 傷だらけの顔を長い黒髪で隠す様に垂らし、破れ汚れた真っ赤な振り袖を纏った女児。


7 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:07:18.78 ID:hZRVSBiDO

 しゅうはその女児と目が合い、軽く首を傾げてみせた。
 この辺りの人間様は大概把握している筈なのに、見た事の無い娘ッ子。

 一体どこの何方であろうか。
 疑問に思ったしゅうは、自分にしがみつく二人へと視線を落とす。


lw´- _-ノv「ふむ、ふむ───あのお稚児は、ぬしらの知り合いか」

(*゚ー゚)「へ?」

ζ(゚ー゚*ζ「んぇ?」

 指差された方を振り返る二人、同時にしゅうも顔をあげる。


 しかし、そこには何も居らず

 時期外れの彼岸の花が一輪ぽつり。


9 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:09:15.26 ID:hZRVSBiDO

 いぶかしげに眉を寄せた花魁しゅうは二人から離れ、砂利を踏み鳴らしてお社の裏へと回り込む。
 蹴っ飛ばした砂利が脚に当たって少し痛んだ。

 じゃっ、と立ち止まってお社の上も下も覗き込んで女児の姿を探すしゅう。
 打ち掛けが汚れようとも、脛の辺りに擦り傷をこさえようとも、
 しゅうは黙ってその女児を探すばかり。


 後ろをついてきていた二人の女児は、彼岸の花を挟んでしゃがんでおられた。

(*゚ー゚)「ねぇ、彼岸花って……夏の終わりに咲くものだよね?」

ζ(゚ー゚*ζ「綺麗だけど、何でいま咲いてるんだろうねー」

(*゚ー゚)「……毒々しいね、何だか」

 しぃは眉根を寄せて呟き、でれはそんなしぃを不思議そうに見つめていた。


11 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:11:26.64 ID:hZRVSBiDO

 結局あの女児は見付からず、全身を泥まみれにして帰ったしゅうはこっぴどく叱られてしまわれて。
 口を尖らせながら寝台で足をばたつかせる花魁しゅう。

 ごろん、と天外を見上げて女児の顔を思い出す。


 傷だらけの顔、否、きっと顔だけでは無いのだろう。
 至るところに傷跡を抱き、あの引きずる様に長い長い黒髪。
 目が潰れんばかりの毒々しい赤の振り袖は破れて汚れ、見るも無惨な姿であった。

 しかし、顔の作りは愛らしかった。
 振り袖も、元は鮮やかな赤が美しい物だった筈だ。

 それらがあの様な痛ましい姿になると言う事は、


lw´- _-ノv「───嗚呼、もう、」

 眠ろう。

 見た事の無い子供が居て、少し印象に残っているだけだ。
 見付からなかったのも凄く足が早かっただけなのだ。そう、そうだ。

 もう眠って、明日にも続く休みに備えよう。


13 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:13:37.60 ID:hZRVSBiDO


 しゅうは花魁道中の最中、迷い込んだ。
 きらびやかな花魁道中、その景色は真っ赤に染まり、足元には彼岸の花が咲き乱れる。

 己の下半身が見えなくなる程に密集した花達は、競い合う様に赤が毒々しく脈打つ一面。


 嗚呼、一体ここは何処


 くらくらと揺れる頭の芯に、しゅうは額を押さえながら周囲を見回す。

 けれど一面彼岸の花、空までもが噎せ返る様な赤に染まっている。
 雲は無い、他の色も無い。
 花畑と空の境界線が分からない、そんな赤い世界にぽつりと紫。

 紫の打ち掛けが赤に浮かび、際立たせる。
 それが己の存在を確かにさせる唯一の色。

 白い肌も紫がかった黒髪も、赤に侵食されて行く。


14 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:15:15.74 ID:hZRVSBiDO

 これは、一体


 言葉に出そうとしてもまるで口が動かず、真っ白な喉が少しずつ赤くなる。
 歯の根をカチカチ震わせて、花魁はえもいわれぬ恐怖にその身を強張らせていた。

 彼岸の花が揺れ、地面からじわじわと染み出す様に、黒い何かが盛り上がる。
 その黒は髪であり、徐々に白が、赤が染み出て。


 少女の歌声が、響く。


  「此ォ処は何ォ処の細道じゃ……」

  「天神様の細道じゃ……」

  「ちィッと通して下しゃんせ……」

  「御用の無い者通しゃせん……」

  「此の子の七ツの御祝いに……」

  「御札を納めに参ります……」


15 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:17:07.57 ID:hZRVSBiDO

 目の前の黒い何かは少しずつしゅうの元へとにじり寄り、歌声も近くなって行く。
 しゅうは逃げ出したくてしかたがなかった。
 けれどその身はぴくりとも動く事は無く、迫り来る影の恐怖に心臓は早鐘を打つばかり。

 嗚呼、


  「行きはよいよい 帰りはこわい……」

  「こわい、ながらも……」


 嗚呼、この子は

(#゚;;-゚)「通りゃんせ……通りゃんせ」

 女児の姿は、あの時の、


 首筋にぬるりとした吐息を感じて、しゅうは飛び起きた。


17 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:19:11.32 ID:hZRVSBiDO


lw;´- _-ノv「ッ!!」

 がばり、布団を蹴散らして身体を起こした。
 妙に生暖かい吐息を感じた左の首筋を手で押さえ、枕元を見る。

 けれど枕元には何もいない。
 大体、左を向いて寝ていたのだ。
 髪が首を覆っているのだから、何かが左の首筋に息を吹き掛ける事などありゃアしない。

 それでも鮮明に思い出せるあの感覚は、紛れもない何かに吐息。

 未だ暗い外、暗い部屋。
 木の匂いがするしゅうの部屋にはしゅう一人だけが存在しており、虫の音も人の声も聞こえない。
 まるで外界から切り離された様な世界では、時計の針の位置さえも分からない。


 しゅうは一人で身を抱き、身体を震わせながら朝を待った。


19 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:21:21.22 ID:hZRVSBiDO


 目の下にうっすらと隈をこさえ、棒に刺さった飴を銜えながら花魁しゅうは歩いておられた。
 本日は日頃の疲れを癒すために昼間から温泉に入りに行き、ちょいと冷なんぞを煽って良い気持ち。

 すっきりさっぱり風呂上がり、菖蒲模様の浴衣姿。
 手には風呂敷包み、その中には湯道具と自分へのお土産。

 下駄をからんころんと鳴らしながら、軽く酔ったのか少しばかり陽気に歩くしゅう。
 しかし、その陽気さも、ある場所を前にすると萎れてしまった。

 神社の鳥居と石階段を見上げて、しゅうはウサギの形をした飴を口から出し
 階段を登る。

 頭の芯がすっきりと冷え、酔いはさめてしまった。
 それでもあの女児をもう一目見たくて、彼女が生きた人間である事を確認したくて。


 こつん、こつん。
 しゅうは静かに鳥居を潜った。


20 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:23:24.49 ID:hZRVSBiDO

 耳に届くは風が木々を揺らす音、人の気配は全く無い。
 それでも何かがいる様な、神社だと言うに妖怪の類いでも居そうな空気。

 甘かった口の中は、いつの間にか胃液の様な酸っぱい味に変わっていた。
 じゅわ、と溢れる唾液を飲み込み、足は参道から砂利道へと外れる。

 出来るだけ音を立てないように砂利の上を歩いて進み、煩い心臓の音を聞いた。


 じゃり、
 お社の裏へとたどり着いたしゅうは辺りを伺った。

 そして、柱を背に砂利へと座り込む女児の姿。



(#゚;;-゚)

 風と心の臓が音を成す。


21 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:25:23.48 ID:hZRVSBiDO

 一歩また一歩と女児に歩み寄るしゅう。
 その存在に気付いたらしく、女児は顔をあげてこちらを見やる。

 相変わらず傷だらけの顔や腕、それを覆う真っ赤な振り袖。


 嗚呼、居た。


lw´- _-ノv「お稚児や」

(#゚;;-゚)「……」

lw´- _-ノv「わっちはしゅう、お稚児の名前はなんと申すか」

(#゚;;-゚)「……でぃ」

lw´- _-ノv「良い名」


 思ったよりも普通に話せる。
 しゅうは密かに安堵のため息をふわり、女児───でぃは確かに、生きた人間であった。

 でぃの傍らに立って、その黒髪を撫で付ける。


24 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:27:17.64 ID:hZRVSBiDO

 困った様な顔で俯くでぃを覗き込んで、しゅうは風呂敷に包まれた桶に手を突っ込む。

 そして手を引き出すと、その手には棒に刺さった飴細工。


lw´- _-ノv「お稚児やお稚児、口を開けるがよいよい」

(#゚;听)?


 言われるがままに開かれたでぃの口へ、ぐむ、と取り出した飴を突っ込んだ。
 突然口に入れられたその存在に目を見開いて、白黒させる女児でぃ。

 顔をあげてしゅうのにんまり顔を見たところで、やっと何をされたのか理解した。


(#゚;;-゚)「……むぐ」

lw´- _-ノv「それではそれでは、去らばよお稚児また会おう」

(#゚;;-゚)「ぁ、の……花魁……」

lw´- _-ノv「ふむ?」


25 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:29:57.94 ID:hZRVSBiDO
 立ち上がって埃を払い、去ろうとするしゅうに呼び掛ける。
 頭だけを傾けて、しゅうはでぃを見下ろす。


(#゚;;-゚)「……ぉ、おおきに、飴ちゃん……」

lw´- _-ノv「ほう────ほうほう、ふむむ……西のお稚児であったとは」

(#゚;;-゚)「ほな、またァ……」

 ぺこんとお辞儀をしたならば、口から出した飴を片手に、しゅうとは逆の方向へ走り去って行くでぃ。

 その小さな後ろ姿を見送って、しゅうは気持ち良さげに軽い足取りで、跳ねる様に神社を後にした。


 下駄をカラコロ引っ掻く様に音をさせ、兎の姿の飴細工を口に含んで妓楼武雲屋への帰り道。
 帰り道の途中には、“らいばる店”の妓楼九羽屋も建っており、暖簾をくぐってそこから出てきた赤毛の女を目敏く見つけて、しゅうが手を挙げ声をかける

 その前に


lw´- _-ノv「ふぅっ」

从;゚∀从「うひェッ!?」

lw´- _-ノv「良いお声」

 素早く女の背中に寄り、首筋にふぅっと吐息を吹き掛ける。


27 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:31:24.97 ID:hZRVSBiDO

 間抜けな悲鳴をあげた女が勢い良く振り返り、しゅうを睨んで顔を顰めた。


从 ゚∀从「手前なァ……」

lw´- _-ノv「怒るでないない、お出掛けか」

从 ゚∀从「あア、俺様の禿がどッか行っちまってなァ」

lw´- _-ノv「ほう、ほう────飴をあげよう」

从 ゚∀从「ア? 食い差しじャアねェか……おいッ! 待てよしゅう……あー、行っちまったァ」


 口から出して手に握っていた飴を差し出されたので、はいんは反射的にその飴を受け取った。
 耳や足が溶けて短くなったものの、未だ兎だと判断出来るその形。

 下駄を鳴らしてさっさと行ってしまったしゅうと飴を見比べて、はいんを頭を掻きながら溜め息を地面に落とす。


从 ゚∀从「はー……ま、良いかァ」


30 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:33:14.49 ID:hZRVSBiDO

 ぱく、とその飴を口に含んでしゅうが行った方向とは逆の方へと足を一歩踏み出すと


(#゚;;-゚)


 でぃが飴を銜えて立っておられた。


从 ゚∀从「……ンだ、帰って来たのか」

(#゚;;-゚)「へェ……」

从 ゚∀从「出掛けるンならァ一言寄越しな、阿呆」

(#゚;;-゚)「えろぅ……すんまへん……」

从 ゚∀从「ま、良い……ン? その飴どうした」

(#゚;;-゚)「あ、しゅう花魁が……」


32 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:35:13.78 ID:hZRVSBiDO

 小さなでぃの頭をぐしゃぐしゃに撫で回してから、その口にある飴に気付くはいん。
 でぃが口から飴を出して見せると、それは可愛らしい亀の姿をしていた。


从 ゚∀从「もッしもォし亀よォ、亀さんよォ……ッてか?」

(#゚;;-゚)「姉様は、うさぎ?」

从 ゚∀从「おゥ────そう言やァ……でぃ、もうじき七ツだったな」

(#゚;;-゚)「……へェ」

从 ゚∀从「安心しなァ、俺様は手前を天神様の生け贄になんざアしねェさ」


 にい、と薄い唇が笑った。
 はいんの風に触れる片側の目がとても優しく感じたでぃは、静かにはいんの手を握る。

 一人にならずに済む様に、と二人で顔を見合わせて笑うのだった。


33 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:37:26.64 ID:hZRVSBiDO




  行きはよいよい
  帰りはこわい

  こわいながらも
  通りゃんせ、通りゃんせ




 でぃの背には、
 ある店の名が彫られている。

 それはそれは、哀しい傷跡。

 お稚児でぃは、今は、幸せ。



おしまい。

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