36 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:42:09.97 ID:hZRVSBiDO

 暗い部屋には行灯一つ

 蝶が描かれた紙を透かして灯火ちりちり

 それを黙って眺めているのは男と女

 女は白肌、朱に染めて
 男は女の髪を梳く



 lw´- _-ノv春の日々、のようです

   『遊び女とて恋をする』



37 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:44:16.38 ID:hZRVSBiDO

 行灯の火がチリチリ鳴く。
 それ以外は微かな吐息しか聞こえない、そんな薄暗きはうれっこ花魁しゅうの部屋。

 静かに行灯で揺らめく炎を眺めては、床に脚を投げ出し、寝台の足元に背を預ける。

 男の投げ出した脚に頭を乗せる目の細い女、その髪を何度も何度も撫で付ける大きな手のひら。

 女が身じろぎ、ゆっくりと瞼を持ち上げて。
 少々色素の薄い黒目が覗き、それらを縁取る長い睫毛をはさはさと。

 目をさました花魁しゅうに、脚枕を提供していた男は少ォしだけ笑った。


( ΦωΦ)「起きたか」

lw´- _-ノv「うむ……」

( ΦωΦ)「客を放り出して眠るとは、酷い女も居たものだ」

lw´- _-ノv「……ぬぅ」

( ΦωΦ)「良かろう、眠りたければ眠るが良い良い。我輩はこうしておるぞ」

lw´- _-ノv「…………ん、」


38 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:46:43.51 ID:hZRVSBiDO

 花魁しゅうには間夫が居る。


 未だ幼い頃に流行り病で両親を亡くしたしゅう。
 その幼子の面倒を見てくれた体格の良い遠縁の青年は、今や奉行所のお偉いさん。
 しゅうが武雲屋に身を置く様になってからは、時おり様子を見にいらっしゃる。

 何度もしゅうの髪を撫で付ける武骨な手は、何も変わっていないのに。
 二人の立ち位置はずいぶんと変わってしまったのだ。

 初めは親子か兄妹の様であった。
 親子にしては歳が近く、兄妹にしては歳が離れる、そんな二人であった。

 そして男は娘が成長しきって女となる前に、娘を武雲屋楼主へと差し出したのだ。


( ΦωΦ)「……」

lw´- _-ノv

( ΦωΦ)「……ふむ、」


39 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:48:30.59 ID:hZRVSBiDO

 男の膝を枕に眠るしゅうを見下ろして、男はほんのりと溜め息を転がす。
 赤い灯りに照らされる白い肌が、首筋が、時の流れを浮き彫りにさせる。

 いつのまにやら“女”になったしゅう。
 その艶やかな後ろ姿を見続ける事は、男にとって堪え難き事であった。

 しゅうの初潮は平均より二年ほど早く、大人へと進む歩幅も大きくて。
 男は苦しそうな顔で、友人でもある楼主ぶーんにしゅうを預けたのだ。

 けれど細く頼りない手足も、しゅっとしたうなじも
 こうして寝顔だけを見ていれば、あの頃と何ら変わりはない。
 幼く残酷なあの頃から、変わっていない筈なのだ。


( ΦωΦ)「変わってしもうたは我輩か───ふむ、ふむむ」


 右手をしゅうの頭に乗せて、左手で己の短い顎髭を撫でる。
 少しの間を親として生きた男は、しゅうの肉付きの良い身体を眺めた。


41 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:50:08.82 ID:hZRVSBiDO

 出るべき所は出て、腰は良く括れているしゅうの体格は、息を飲む程に美しい。

 けれど、けれど


( ΦωΦ)「この娘は預かりもの……」


 己の顎を撫でていた手は目元へ移動し、両目についた傷を撫でる。
 癇癪持ちだったしゅうにつけられた傷跡は、消える事なくそこに居る。

 外では雀が囀ずり、朝の始まりを知らせていた。

 男はそっとしゅうを抱き上げ、寝台に横たわらせる。
 その身に薄い布団を掛けてやり、荷物を持って静かに静かに部屋を後にした。


43 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:52:08.13 ID:hZRVSBiDO


  姉様、しゅう姉様


lw´- _-ノv「ん……」

ζ(゚ー゚*ζ「姉様、おはようございまぁす」

lw´- _-ノv「うむ……ん、?」

ζ(゚ー゚*ζ「ん?」

lw´- _-ノv「……杉浦殿、は」


 禿の声で目をさましたしゅうは、明るくなった室内を見回して客の姿を探す。
 しかし部屋には己とでれ以外は居らず、客の姿は見当たらない。

 しゅうは寝台から飛び起きて、髪を下ろしたまま窓を開け放つ。


44 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:54:12.11 ID:hZRVSBiDO

ζ(゚ー゚*ζ「姉様…?」

lw;´- _-ノv「杉浦殿……っ」

 不思議そうな顔をするでれ。
 その顔を見る事もせず、しゅうは窓に乗り出して外を見下ろす。

 しかし、いくら探せども探していた人物は見つからない。
 下界では、ただただ人々が忙しなく歩くだけ。


 ずる、とその場にへたりこんだしゅう。


ζ(゚−゚;ζ「姉様? しゅう姉様どうしたんですかぁっ?」

lw´- _-ノv「…………何でも、ない……」

ζ(゚−゚;ζ「なんでもなく見えませんよぉっ!」

lw´- _-ノv「わっちをォ……一人にさせちゃア、くれんかえ…」

ζ(゚−゚;ζ「あ……分かり、ましたぁ……」


45 ◆tYDPzDQgtA 2008/05/24(土) 21:56:04.64 ID:hZRVSBiDO

 しゅうの小さな廓詞の呟きを聞き、でれはそれ以上聞き出そうとはせずに部屋を出た。



 ついにたった一人となった部屋の隅

 膝を抱えて嗚咽を漏らす、しゅうの小さな泣き声はらはらり。

 しゅうは小さく囁いた。



 遊び女とて、

 遊び女とて────。




おしまい。

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