- 3 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:02:59.20 ID:Db/0yMTUO
- 代理ありがとうございます。
http://stupidrabbits.web.fc2.com/
http://nagixnagi.blog38.fc2.com/
総合で投下した短編をまとめて下さってます、ありがとうございます
http://nanabatu.web.fc2.com/boon.html
まとめて下さってます、本当にありがとうございます。
- 4 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:04:16.15 ID:Db/0yMTUO
-
この遊廓じゃア様々な女が春を売って生きている。
それはお高い女もお安い女も同じ事
花魁だろうが売女だろうが、身体を売り物にしてるんだ。
我らが花魁は数居ても
太夫と呼ばれる女は居ない。
この遊廓には溢れんばかりの女が居て、多くが遊女として生きている。
その中の一握りが花魁になれる
けれど、太夫になれる女は居ない。
lw´- _-ノv春の日々、のようです
『女は呼ばれた、“怒髪天神”と』
誰かに愛されるのなら、
それで良いとも言うけれど。
- 5 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:06:18.71 ID:Db/0yMTUO
-
ぶわりと黒い打ち掛けを翻し、赤い外跳ね髪を揺らしながら女は歩く。
その女は美しい顔立ちに似合わぬ、男顔負けの腕っぷし。
己に喧嘩を売る奴に、親しい人間に喧嘩を売る奴にも、躊躇い無く其の拳を突き出すこの女。
本日の主役は紫の花魁“しゅう”では無く
赤毛の女、“はいん”で御座います。
从 ゚∀从「おい、喧嘩ァ売ってンのかァ手前はよォ」
道行く人々に睨みをきかせての堂々たるその歩みは、女の魅力も相俟って人々の目を引き寄せる。
はいん本人も悪い気はしないのか、にやりとした不敵な笑顔と、鷹の様な鋭い眼光を振り撒いていた。
濃赤の着物が良く似合うはいんは、禿(かむろ)ッ子を連れて歩かない。
それは傷だらけの禿“でぃ”が、その顔に残る痛々しい傷を人の目に晒す事を好まぬ故。
でぃが神社へ出掛ける時は、人の目を盗み裏通りから抜け道を通って行く。 誰にも見られずに行くと言うのは、決して簡単な事ではない。
それでも毎日の様に出掛けるでぃ、毎日の様にでぃを叱るはいんだが、叱るのはうわべだけ。
本当は、楽しそうに帰ってくる自分の禿が、可愛くて可愛くて仕方がないのだ。
- 7 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:08:33.74 ID:Db/0yMTUO
-
从 ゚∀从「何か毎日の様に買ってンなァ、飴」
そう、実は赤毛の女“はいん”は、ひどく情に厚い人間。
心を許した相手を可愛がり、時に叱っては甘やかす。
性格が合わない犬猿の仲である武雲屋いちのうれっこ“おつう”にも、時には優しくなれるのがこの女の良い所。
と言っても、喧嘩の時は本気で罵り本気で殴り付けるのだが。
从 ゚∀从「おいコラ、毎日の様に買ってやってンだから安くしろや」
( ´∀`)「アナタは鬼ですかモナ」
从 ゚∀从「やッかァしい! 安くするかオマケしろや!」
( ´∀`)「うひゃー恐ろしい、んもぅ我儘の花魁モナ……」
从 ゚∀从「ぶん殴るぞ」
( ´∀`)「痛いのは嫌です、どーぞモナー」
目の細いへにょっとした店主から飴細工を買い、袂に仕舞いながら店主の額を軽く小突く。
モナッと妙な声をあげた若い店主を見て、からからと笑って手を振り、はいんはその場を立ち去った。 代金は支払っていない。
- 9 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:10:10.03 ID:Db/0yMTUO
-
袂に感じる飴の重みは土産の重み。
これを渡した時の、でぃの笑顔がたまらなく愛しいと思うのは、きっとはいんだけではない。
そう思えば頬は勝手に緩んで、だらしのない顔を往来のど真ん中で晒すばかり。
天下のはいんとは思えない緩んだ顔のまま角を曲がると、どん!と何かにぶつかった。
从 ゚∀从「ッてェ……おう悪……あ」
(*゚∀゚)「悪い悪いぶつかっ……あ」
目の前には緋色の着物を纏う女、武雲屋の“おつう”が立っていた。
(*゚∀゚)「なんだィ、やんのかァ? ん?」
从 ゚∀从「いや、土産の飴持ってるから止めろ」
(*゚∀゚)「あ、ならしょうがないねェ……じゃ、ばーかばーか!!」
从 ゚∀从「おう、あーほあーほ!!」
- 13 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:12:08.80 ID:Db/0yMTUO
-
聞き分けが良いのも良い所か、二人は仲が良いやら悪いやら。 頭の良くない罵り合いだが、これも二人の喧嘩の一つ。殴り合えなければ罵ってなんぼでございます。
十数分にわたる馬鹿と阿呆の言い合いは、喉が疲れたと言う理由で終わった。
本当に、子供の喧嘩でしかない。
(*゚∀゚)「ぜぇひぃ……こ、このくらいで勘弁してやらァよ! 大体何だい先刻のにやけ面、シマリがねェったらありゃしないねェ!」
从*゚∀从「あ、いや、それは、でぃが……その……」
(*゚∀゚)「あ、ならしょうがないねェ……ッてぇもうこんな時間だ! あばよォはいん!」
从 ゚∀从「おう、あーほあーほ!!」
(*゚∀゚)「ばーかばーか!!」
立ち去るおつうに手を振りながら阿呆を連呼し、おつうも手を振って馬鹿の連呼をお返しする。
道行く人々はそんな二人を生暖かく見守るだけで。 はいんは子供を見る親の様な眼差しを全身に受けながら、帰路に就くのであった。
- 14 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:14:04.86 ID:Db/0yMTUO
- ◎
从 ゚∀从「ぅおい、でぃ……ンだ、居ねェのかア?」
九羽屋の己の部屋に戻ったはいんが最初に探したのは禿の姿。
何時もならはいんの部屋の隅で御弾きを弾いている筈なのに、何故かその姿は部屋の何処にも見当たらず。
はいんが眉間にきゅう、と皺を寄せて首を傾げば、少し離れた所から物音が聞こえた。
从 ゚∀从「あン? ……上か…?」
天井のゆるい軋みが耳に届き、はいんは飴を置いて部屋を出る。
上の階には物置と、ある女の部屋が存在するだけだ。
何時も物音一つさせずに沈黙している部屋が物音を成し、微か微かに声もする。
そして不在の己の禿。
違和感を感じるには充分すぎる物が揃い、はいんの首筋をざわりざわりと撫で上げた。
- 16 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:16:08.52 ID:Db/0yMTUO
-
軋む階段をゆっくり昇り、近くなる物音と声に耳をすませる。
壁に這わせる手の平から伝わる古い木の感触は生暖かく、はいんの心を掻き毟るばかり。
昼でも薄暗い三階は使わなくなった屏風や布団が適当に積まれており、通路を狭くしている。
どうしようもない埃臭さすら、どうしてか今は感じない。
近くなれば良く聞こえるは、ばたんばたん、と埃を舞わせる音。何かを口汚く罵る声音。
ぎしぎしと歪む襖に手を掛けたはいんは、軽く呼吸を整えてから、ほんの少しだけ襖を開いた。
川Д川「この汚い小娘め、ほら蛙みたく潰れた声をお上げなさいな、さあ!」
(# ;;- )「ひっ……ごめ、なさい、ッごめんなさい、ごめんなさいっ!」
川Д川「人の部屋に勝手に上がり込むなんて、一体どう言う教育をされてるのかしら? ああ汚らわしいったらないわ!」
(# ;;- )「ぁうっ! げほ、げほっ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ……ひぐ、ぅ……ぇほっ、げほっ」
川Д川「私はお前の言葉なんか要りはしない、私が聞きたいのはあの女の謝罪よ!」
- 17 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:18:05.57 ID:Db/0yMTUO
-
其処に広がる光景は、女が長い髪を振り乱して口許に歪んだ笑みを浮かべていて。
その白い足の下には、赤いボロの振り袖を着たお稚児が倒れていた。
背を踏みつける足に力をこめて笑う女と、泣きながら謝罪を繰り返す愛しやお稚児。
はいんがギリ、と音がする程に奥歯を噛み締め、襖を横殴りにして開いた。
すぱぁん! と苛立ちを全て其処に込めて開かれた音を聞き、女とお稚児は音の方へと顔を向ける。
从#゚∀从「アにしてンだァ、こら」
片眉を上げて低く唸る様な声は、あからさまな怒りを孕む。
皮膚がぴりぴり刺激される様な空気を放つはいんにさえ、女は長い前髪で顔を隠して、笑っていた。
畳に転がって身を縮めるでぃを細い足が蹴り飛ばし、白い着物を引き摺りながら女ははいんに向き直る。
川Д川「あら、頭の足りない女のお帰りかしら?」
从#゚∀从「おい手前、人の禿を足蹴にしてんじゃアねェよ」
- 18 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:20:03.61 ID:Db/0yMTUO
-
川Д川「なら足蹴にされない教育をなさいな? ああ、愚図のあなたには無理かしら?」
从#゚∀从「あァ゙?」
川Д川「ほら顔を真っ赤にして……っあはははは! 酷いお顔よぉ、はいん!」
はいんの知り合いらしき女が己の細い身体を抱き、はいんの神経を逆撫でる事ばかりを吐き出す。
甲高い嘲りを全身に浴びても手を出そうとしないはいんの様子に、女は髪の隙間から覗く両目に憎しみを宿らせて、口の端を持ち上げるだけ。
そして足元で咳き込むでぃの頭を、がつん! と踏みつけた。
(# ;;- )「きゃうっ!」
从#゚∀从「手前、貞子ォ……ッ大概にしろやァ!!」
川Д川「あははははっ、あっはははははぁ! なぁんて酷い顔ぉ、あははははっ!!」
でぃの頭を踏みにじりながら、狂った様に笑う女、貞子は顔を押さえて嘲る。
- 19 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:22:05.70 ID:Db/0yMTUO
-
从#゚∀从「この…ッ!!」
貞子の足の下で怯え震えるでぃを見て、はいんは拳を握って貞子に詰め寄ろうと部屋に一歩踏み込めば
後ろから、強く肩を引かれた。
川 ゜-゚)「貞子、足を退けろ。はいん、でぃ、来なさい」
从 ゚∀从「くー姐さん……」
川Д川「…………」
川 ゜-゚)「貞子、これは楼主の命令だ、背くならば容赦はしない」
川Д川「……ほら、これでご満足?」
川 ゜-゚)「ああ。でぃ、おいで」
(# ;;- )
川 ゜-゚)「でぃ、……来なさい」
(# ;;- )「ぁ……は、い……」
- 21 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:24:06.66 ID:Db/0yMTUO
- ◎
はいんの部屋へ戻った三人は、先ずでぃの振り袖を脱がせて怪我は無いかと診る事にした。
白い肌の上這い回る無数の傷跡は何れもが過去の物。 しかし幼い裸体の上には、真新しい打撲痕が幾つも増えていた。
殴られて青い痣をこさえた顔を冷やし、白い包帯で小さな身体を飾って俯くでぃ。
長い黒髪を一つに纏めれば、傷だらけでも愛らしい顔が晒される。
川 ゜-゚)「すまない、私がでぃに物置へ行かせたんだ」
从 ゚∀从「……いえ、それより……大事無いか、でぃ」
(# ;;- )「へぇ……」
从 ゚∀从「……くー姐さん、でぃお願いします」
川 ゜-゚)「すまない。だが喧嘩は好まんが、お灸を据えるも必要だ。殴りはするなよ」
从 ゚∀从「わァってますよ」
黒い打ち掛けを脱ぎ捨てて、放心した状態のでぃを抱き寄せて髪を撫でた。
その暖かさに、やっと目に光を戻したでぃがはいんを見上げる。
何処か怯えを持ったままのでぃ、その少しばかり広い額に唇を押し当てて
よっこいせ、と膝に手をやって立ち上がるはいんは“にぃ”と何時も通りの笑顔を見せ、でぃの頭をくしゃくしゃにして部屋を出て行った。
- 22 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:26:03.56 ID:Db/0yMTUO
-
先程とはうってかわって堂々と昇る階段に、板はぎしんぎしん、としっかり音を立てる。
三階の部屋の主にも届く様な足音を引き連れて、はいんは冷えきった頭の片隅にでぃを浮かべた。
まさか、ここまで可愛がるとは自分でも思っていなかった。 なんて、肩を竦めて軽く笑う。
三階に辿り着けば、真っ直ぐに貞子の部屋を目指して暗い廊下を進む。
途中に積み上げられている布団を殴って埃を浮かせ、良く分からない置物を覗いて首を傾げ。
藁人形に自分の似顔絵が五寸釘で打ち付けられているのを見つけて、嫌な顔をしながら貞子の部屋の前に立った。
今度は呼吸を整える事はせず、ごくごく普通に襖を開け放つ。
从 ゚∀从「おいこら貞子ォ」
川Д川「あら、また来たの? 懲りないわねぇ、今度はあなたが蹴られたいの?」
部屋の主は来訪者に対して嘲りを混ぜた笑みを渡し、壁に背を預けながら人形を抱いて座っていた。
良く見れば部屋の至る所には、少女趣味な人形や鮮やかな色の着物に帯が散らかっている。
先刻よりは冷静なはいんの頭は、嵌め殺しにされた飾り窓の彫刻も、部屋の隅にある行灯の模様も良く見える。
部屋全体が描く模様は全てが桃の花で、“今の”貞子には酷く不似合いだった。
- 24 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:28:51.47 ID:Db/0yMTUO
-
行灯の弱い灯で照らされる部屋の中と、兎を模した人形の首を絞める貞子を暫く観察してから、はいんはそっと口を開いた。
从 ゚∀从「手前、何だって俺様の禿に手を出した」
川Д川「あなたの禿が私の部屋へ勝手に入ってきたからでしょう?」
从 ゚∀从「そうじゃアねェ、それだけじゃア無いだろう」
川Д川「───あなたに似て愚図だから、鬱陶しいったらないの」
从 ゚∀从「ッ……」
川Д川「それに、あの怯えてすがる様な目が苛立たしいから、だから蹴り殺そうとしたの、畜生みたいに……蛙みたいに這いつくばって、良いざまだったわぁ?」
くすりくすりと微笑む貞子の小さな口からまろびでる言葉に、はいんが片目を見開いて、ぞわりとした怒りが沸き上がる。
从#゚∀从「あ? ……巫山戯ンな手前、俺様の可愛い禿に手ェ出して、ただで済むと思ッてンのか?」
- 25 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:30:16.12 ID:Db/0yMTUO
-
川Д川「可愛い禿? 良く言うわ、あんな傷だらけの小娘に。 あの傷も何もかも、所詮は身体を売る為の道具でしかないのよ?」
从#゚∀从「喧しいッ! たとえそうだとしても、でぃは俺様の」
川Д川「きもちわるい」
嘲笑う貞子を黙らせる様に、はいんが言葉を荒くした。
貞子の人形の首を絞める手が強まり、ぎちぎちと音をさせるのにも気付かずにはいんは畳を蹴り。
赤い髪を掻き上げて貞子に詰め寄った所で
静かに、貞子が呟く。
その冷たく冴えた呟きにはいんの動きがぴたりと止まって、ほんの少しだけ狼狽させる。
从 ゚∀从「……あ?」
ぎちぎち。ぎちぎち。
川Д川「友情だの仲間だの他人に対する愛情だの……気持ち悪いと、思わない?」
ぎちぎち。ぎち。
ぎちぎち。ぎちぎちぎち。
- 28 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:32:04.98 ID:Db/0yMTUO
-
ぶちん。
と、遂に人形の首が落ちた。
从 ゚∀从「……手前、」
怒りを消したはいんが貞子の手元を見やり、落ちた人形の頭に、悲しげに眉を寄せた。
語尾から伝わる哀れみに気付いたのか、貞子は綿が溢れる人形の身体を抱き締めて顔を下へ向ける。
そして出来る限りの冷静さをもって、開け放たれたままの襖を指差す。
川Д川「哀れまれるのは嫌ぁよ、さっさと出ていって、きもちわるいから」
僅かに震える痩せ細った指先に、はいんの悲しみは濃くなった。
かちかちと貞子の歯が鳴り、寒いのか恐ろしいのか、小刻みだった震えは徐々に強くなるばかり。
貞子の小さな姿は酷く痛々しくて、はいんはどうしようもない胸の苦しさに目を伏せて。
- 30 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:34:08.35 ID:Db/0yMTUO
-
从 ゚∀从「おい、貞子」
川Д川「出ていけ、……ッ出ていけ! あなたの顔を見ると吐き気がする、側に居られると虫酸が走る! 同じ空気を吸っていると思うだけで殺したくなる!! さあ出ていけっ、出ていけ馬鹿女ぁあぁっ!!!!」
顔を上げた貞子の叫びと共に、人形の身体がはいんに投げ付けられた。
濃赤の胸元に当たって畳に落ちる頭を無くした人形の身体。
それに続いて手元にある物を次々に投げられ、はいんの身体に当たって足元に散らばって行く。
しかしそれらは何れもが小さく、はいんの身体に傷を付ける事は無い。
泣き出しそうな顔をした貞子は近くにあった四角い行灯に手を伸ばし 両手で掴んで、
火の入った行灯を、はいんへと。
从 ∀从「ッ」
はいんの額に叩き付けられた行灯は、がしゃあん! と一際大きな音を立てて畳に落ち、壊れた。
- 32 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:36:15.24 ID:Db/0yMTUO
-
行灯の火はその赤い炎で畳をじりじりと焼き、部屋をぼんやりと照らしていた。 このまま放置すれば畳から部屋全体に燃え広がり、この九羽屋を食い潰すであろう炎。
それを踏み消したのは、はいんの裸の足だった。
从 ∀从「……なァ、」
じゅうう、と畳に燃え移った炎を踏みにじって鎮火させた足の裏は焼け爛れ、焦げ付いて激痛を呼んでいる。
それでも顔を歪める事もせず、額から血を流すはいんは、ただ静かに。
从 ∀从「なァ貞子、手前……」
川Д川「き、聞こえないの馬鹿女ッ!? 早く出ていけって、」
从 ゚∀从「そんなに寂しいのか」
川Д川「っ!」
- 34 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:38:10.48 ID:Db/0yMTUO
-
着物に暗い染みを作って、囁く様な優しい声音で問いかけるはいん。
足の裏を焼き、額から血を垂れ流すその姿に合わない哀れむ声に、貞子は自分の頭を抱えて首を左右に振った。
子供がする様な動作で、いやいやをする様に涙を溢して耳を押さえる両手。
はいんはその手を引き剥がす事も殴り付ける事もせずに、ひたすら目尻に涙を浮かべて囁くだけ。
从 ゚∀从「間夫に捨てられたのが、そんなに苦しいのか」
川Д川「黙れ、黙れはいんっ!!」
それでも、たったそれだけの事が、貞子を掻き乱して壊そうとする。
涙ながらに叫ぶ貞子の声は、はいんの耳には届かない。
けれど、はいんの言葉は貞子にいやと言うほど届くのだ。
貞子は存在しない右手の小指を噛もうと口を開いては、はいんの言葉をひたすらにはね除けようとした。
- 36 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/15(日) 20:40:14.84 ID:Db/0yMTUO
-
从 ゚∀从「いつから手前は、そんなになった……昔は可愛かったじゃあねぇか」
川Д川「うるさい……ッ、うるさい、うるさいうるさい! 黙れ黙れそれ以上言うなぁあっ!!」
从 ゚∀从「嗚呼、俺様の所為でもあるんだな……可哀想だなぁ…………」
从 ∀从 渡辺ぇ。
川Д川「黙れぇぇえええぇぇぇえぇえええええええッ!!!!」
女の悲鳴に似た叫びは遊廓中に響き渡り
彼女を知る者は眉を寄せて俯くばかり
悲しい悲しいあの女
“怒髪天神”の咆哮だと
つづく。