- 2 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:23:58.89 ID:37qqvym+O
-
代理ありがとうございます。
http://stupidrabbits.web.fc2.com/
http://nagixnagi.blog38.fc2.com/
総合で投下した短編をまとめて下さってます、ありがとうございます
http://nanabatu.web.fc2.com/boon.html
まとめて下さってます、本当にありがとうございます。
今回は長い&ちょっと閲覧注意だよ!
- 3 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:25:42.19 ID:37qqvym+O
-
花も恥じらう程に愛らしく
心優しい少女が居た。
その少女は遊廓生まれ遊廓育ち
母の顔も父の顔も知らずに育ったが
少女は欠片も歪む事無く遊女になり
天神と呼ばれる位へと成る。
穏やかで和やかで、少女は誰からも好かれる女となり
そして、何時しか彼女は
lw´- _-ノv春の日々、のようです
『女は呼ばれた、“怒髪天神”と 後編』
そして女は、己を殺した。
- 4 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:27:14.22 ID:37qqvym+O
-
(#゚;;-゚)「くー姐様……」
川 ゜-゚)「ん、何だ?」
(#゚;;-゚)「あの、そのぅ……貞子姉様は、その、なんで……」
川 ゜-゚)「ああ、貞子の事、か……そうだな、でぃは酷い目にあった、貞子を恨むも道理だ」
(#゚;;-゚)「いえっ、ちやうんです、あれはうちが勝手に部屋に入ったからあかんかったんです……」
川 ゜-゚)「……それでも、何故ああまで貞子が怒ったか、知りたいのか」
(#゚;;-゚)「……へぇ」
川 ゜-゚)「良いだろう、話してあげようか……貞子がああなった理由を」
それは数年前
よくある、悲劇でも何でもない話。
- 6 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:29:03.55 ID:37qqvym+O
- ◎
春の陽気を全身に浴びて、女は間抜けな顔を晒して昼寝をして居た。
半開きの口に垂れる涎、だらしなく開かれた脚と広がる着物。
縁側で大の字になって眠る女の元へ、足音が迫って行く。
ざかざか、と畳を踏みしめて歩いてきた一人の女は昼寝中の人物を見付け、一つ溜め息をはらり。
そして板張りの床に降りると、女の頭の横に立ち。
むぎゅう
从; ー 从「むぇあ!?」
奇っ怪な声を上げて目を覚ました女の顔を踏んでいた足を退け、黒い着物の女は二度目の溜め息を吐いた。
从 ゚∀从「手前なア渡辺、こんな所で阿呆面ァ晒してンじゃアねェよ……」
从'ー'从「むぁ、び、びっくりしたよぉ……顔が凹むかと思ったぁ」
从 ゚∀从「凹め」
从'ー'从「あ、はいんだぁ! 御早うはいん、お日様気持ち良いねぇー」
从 ゚∀从「……」
- 8 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:31:03.84 ID:37qqvym+O
-
へにゃりへにゃりと力の抜けた笑顔を振り撒く女の姿に、黒衣の遊女、はいんは三度目の溜め息を転がすのであった。
昼寝をして居た女は上半身を起こして目一杯に伸びをし、大きな欠伸をしてから立ち上がった。
鮮やかな桃色の着物は着崩れており、肩や脚がはだけた着物から覗いている。
ひどく官能的な姿の筈なのだが、この気の抜けた女の顔では色気は欠片も覗く事は無く。
はいんは呆れた顔で女の着物の襟を正してやり、早くも四度目の溜め息を投げ棄てる様に吐いて、女の頭を がいん!と力一杯に殴り付けた。
从;ー;从「い、痛いよはいんん……いきなり何するのぉ?」
从 ゚∀从「やッかましい阿呆面」
从'ー'从「あ、ひっどいよぉ! はいんの狐目ぇ!」
从 ゚∀从「よしよし渡辺、歯ァ食い縛れ」
从;'ー'从「あ、うそ、嘘だからっ! きゃあぁぁぁ止めて許してごめんなさぁあいっ!!」
从#゚∀从「待てこらァッ! 誰が狐目だアアッ!!」
- 9 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:33:03.82 ID:37qqvym+O
-
どたばた、と縁側から中に駆け込む女──渡辺と、拳を作ってその桃色の背を追い掛けるはいん。 楼閣中を駆け回る二人の姿はまるで姉妹か何かの様で、ひどく微笑ましい図であった。
此処、九羽屋の者は皆はいんと渡辺の事をよく知っており、こういった“おいかけっこ”は日常茶飯事である。
故に誰も咎める事無く容認しているのだが
川 ゜-゚)「あ、おい渡なぐふぅっ!!」
从;'ー'从「はわわわわごめんなさい! くー姐様!!」
川 #)- )「お、おい、はいごふぁっ!!」
从#゚∀从「すんませんッ! くー姐さんッ!!」
川#)_(#)
楼主くー、その人に時間差で飛び蹴りを咬ませば話は別である。
川#)_(#)「お前らアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
- 11 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:35:02.98 ID:37qqvym+O
-
どんっ
('、`;川「ひゃっ?」
从;'ー'从「ごめんね伊藤ちゃんっ!」
('、`*川「あ、はい……」
ずどんっ
('、`;川「うひゃっ?」
从#゚∀从「悪いッぺにさすッ!」
('、`*川「あ、いえ……」
ずどばんっ!
('、`;川「ひゃおぅっ!?」
川#)_(#)「すまん伊藤ッ!!」
('、`*川「へ、どちら様…? あ、行ってしまわれたわ……」
- 14 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:37:02.85 ID:37qqvym+O
-
川#)_(#)「はい、言う事は」
从#)ー(#从「すみませんでした」
从#)∀(#从「すみませんでした」
川#)_(#)「見分けがつかんなお前達」
川#)_(#))) ぐっ
川 ゜-゚)=3 ぼむ
川 ゜-゚)「ああそうだ、下に渡辺の間夫(まぶ)が来ていたぞ」
从#)ー(#从)) ぐっ
从'ー'从=3 ぼむ
从*'ー'从「本当ですかぁ!? 行ってきます!!」
从#)∀(#从「おう、行ってこーい」
从#)∀(#从)) ぐっ
从 ゚∀从=3 ぼむ
- 15 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:39:17.56 ID:37qqvym+O
-
从 ゚∀从「ところでくー姐さん、今来てる渡辺の間夫ッてェのはどんな奴なんで?」
川 ゜-゚)「顔はそこそこ性格いまいち、金と拳に物をいわせる傍若無人なその振る舞い、とでも言おうか?」
从 ゚∀从「はァ? 何だってェそんな野郎が渡辺の間夫なんだァ?」
川 ゜-゚)「渡辺の初の客だった男でな、思い入れが強いからか渡辺が男に依存していると言った具合だ」
从 ゚∀从「チッ、面倒な女だなァ……厄介な事にならなきゃア良いが、」
川 ゜-゚)「既に、成り掛けている」
从 ゚∀从「……ア?」
川 ゜-゚)「どうやらあの男、また渡辺に金をせびりに来たらしい」
从 ゚∀从「また、?」
川 ゜-゚)「この間迄は十日に一度、先日迄は七日に一度、最近は三日に一度」
从 ゚∀从「……おい、金持ってンじゃア無いのかよ」
川 ゜-゚)「親にせびるも最近は親に見放され、今は渡辺が金の泉。こればかりは当人達の問題であり、私が口を出す訳にはいかんのだ
つまり、渡辺に近しい誰かが渡辺に忠告する位しか出来ない」
- 16 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:41:06.02 ID:37qqvym+O
-
くーの言葉を聞いたはいんは、眉間に皺を刻んで舌を打つ。
姉妹の様に育った可愛い渡辺が、ろくでもない男に引っ掛かった。
それも自分の知らぬ内に、だ。
はいんが廊下を歩きながら壁を殴り、其処ら中の物を蹴り飛ばして奥歯をぎりりと噛み締める。
どうにかして、どうにかして渡辺に言わなければ。
あの男はお前を本当に愛しているのか、と。
从'ー'从「あ、はいんーん」
从 ゚∀从「……ア?」
从'ー'从「はいんあのね、この人が、」
从 ゚∀从「手前の間夫か」
从*'ー'从「う、うん……えへへぇ」
- 17 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:43:04.75 ID:37qqvym+O
-
九羽屋玄関にやって来たはいん、その横顔に声を掛けたるは桃色の花魁、渡辺だった。
ちょうど渡辺の事で悩んでいたはいんは顔を上げて、渡辺の隣で笑う男を睨む様に見上げた。
_
( ゚∀゚)「おぉ、アンタがはいんか? 渡辺からよく聞く名前だ」
从*'ー'从「長岡さんって言うのぉ、よろしくねぇ? はいん」
从 ゚∀从「……考えておいてやらァよ」
从;'ー'从「へ? は、はいん……どうしたの?」
从 ゚∀从「後で俺様の部屋に来な、渡辺。一人でだ」
从;'ー'从「う……うん……」
从 ゚∀从「あばよ渡辺の間夫」
_
( ゚∀゚)「おお、またなァ」
二度は見たくない面だ。
- 18 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:45:03.40 ID:37qqvym+O
-
部屋に戻ったはいんは幼い禿(かむろ)っ子の髪を結いながら、奥歯を噛み締めていた。
がらら。
障子の開く音がして、控え目に掛けられる言葉。
从'ー'从「はいん……来た、よ?」
从 ゚∀从「……でぃ、暫く、くー姐さん所に行ってな」
(#゚;;-゚)「あい」
五つか其処らのお稚児と入れ違いに入ってきた女に背を向けたまま、はいんの手は草臥れた金の煙管に伸ばされる。
乾いた草と火を入れた煙管から、重い煙がうわりと漏れる。 その煙を吸い込み、吐き出すと言う行為を胸いっぱいに染み渡らせた。
おず、と口を開く渡辺だが、何処か苛立ちに似た物を背負うはいんに、なかなか声を掛けられなくて。
从 ゚∀从「おい渡辺」
- 20 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:47:11.97 ID:37qqvym+O
-
从;'ー'从「な……なぁに?」
从 ゚∀从「手前の間夫、どうなんだ」
从;'ー'从「ふぇ?」
从 ゚∀从「手前の間夫は手前を金蔓としか思ってねェッて、もっぱらの噂だぜ」
从;'ー'从「そ、そんな事っ!」
从 ゚∀从「無いッて言い切れンのか」
从;'ー'从「言い、切れ……る、よ……」
从 ゚∀从「ならァ証明してみせな、あの男は手前を本当に愛しているのか、断言出来るなら証明してくれやァ」
从;'ー'从「はいん、どうしたの? ねぇ、何でそんな事言うのぉ?」
从 ゚∀从「やかァしい、俺様は手前を心配してやってンだ、だから」
从 − 从「やめて」
- 21 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:49:15.27 ID:37qqvym+O
-
渡辺に背を向けたまま、溜め息と煙混じりの言葉を吐き出すはいん。
はいんの言葉に嘘偽りはなく、過度な飾りも存在しない。
そしてそれらは全て、はいんが渡辺を思うからこその言葉である。
けれど渡辺には、はいんの言葉が痛いだけ。
从 ゚∀从「……渡辺?」
从 − 从「だまって、黙ってよはいん」
从 ゚∀从「おい渡辺、どうし」
从 − 从「うるさいっ!!」
从 ゚∀从「なッ……」
从 − 从「長岡さんは私を愛してくれてるのっ! だって、だってあんなに『好き』って言ってくれた、たくさん『愛してる』って言ってくれた、ずっと私を抱き締めてくれたっ!!」
从 ゚∀从「……渡、辺」
从;−;从「私は愛されてるの、愛されてるのぉっ!!」
从 ゚∀从「もう良い止めろッ! 俺様が悪かったッ!!」
- 22 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:51:04.17 ID:37qqvym+O
-
泣きじゃくりながら叫ぶ渡辺に向き直ると、投げ付けられた物は渡辺の髪に挿していた簪で。
額にぶつけられたそれに少しだけ眉を寄せ、拳を握って涙を溢す渡辺を、はいんの腕が抱き寄せる。
ぐ、と強く抱き締められた渡辺は声を止ませ、ひぐひぐとしゃくりあげて、はいんの胸にしがみつく。
从;−;从「ごめんなさい……っごめんね、ごめんねぇ……はいんん……」
从 ゚∀从「良い、良いから、俺様が悪かった」
从;−;从「私、ああいう事、言われたの初めてだったの……だから、だからぁ……」
从 ゚∀从「良いから、悪かった渡辺、すまなかった」
从;−;从「違うのはいんん……長岡さんが初めてだったの、初めてだったのっ『愛してる』なんて言ってくれたのぉっ、だから私、私ぃっ」
从 ゚∀从「分かったから渡辺、泣くな、泣くなよ……なァ渡辺ェ……」
从;−;从「ふっ、ふぇえええぇぇんっ……私、長岡さんが好きで、だからっ、はいんにひどい事して、ごめんねっ、黙れなんて言ってごめんねぇっ……」
从 ゚∀从「良い、から……なァ泣くなよ渡辺……泣かれたら、どうすりゃア良いか分かンねェよ俺様ァ」
- 24 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:53:04.58 ID:37qqvym+O
-
从;−;从「ぇえぅっ、ひっ、ぐ、ごめ……ふぇぇえええぇんっ」
从 ゚∀从「ッたく……泣くなッてのによォ……」
渡辺の涙は暫く止む事は無く、はいんの胸に暗く大きな染みを作るばかりだった。
思っていたよりも渡辺の思いは強く、ただ金を巻き上げられているだけだと思っていたはいんに、少なからず衝撃を与えた。
赤子の様に身体を震わせる渡辺の言葉と涙は、確かにあの男、長岡を深く愛している。
はいんにはそれが良い事か悪い事か分からず、ただただ困った様に眉を寄せて祈るばかり。
どうかこの素直で可愛らしい子が
悲しみませんように。
- 25 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:55:11.10 ID:37qqvym+O
- ◎
ある晴れた日の事
出掛けていた渡辺は、頬を腫らせて帰ってきた。
从#)ー 从「ただいまぁ……」
从 ゚∀从「あ、おう渡辺……何だその顔ッ!? どうしたッ!?」
从#)ー 从「ふぇ? ……あ、転んだだけだよぅ」
从#゚∀从「嘘吐け誰に殴られた? 教えな渡辺、俺様がぶん殴ってきてやらァッ!」
从#)ー 从「何でもない、何でもないよぉはいん……本当に転んだだけだからぁ」
从 ゚∀从「……渡辺、まさか」
从#)ー 从「私、お部屋に戻るねぇ?」
从 ゚∀从「あ……渡辺、待ッ……ックソがァアアッ!!」
顔を隠す様に俯く渡辺は足早に自室へと戻って行き、一人残されたはいんは足元にある傘立てを蹴り飛ばす。
苛立ちを隠そうともせずに爪を噛んで居ると、裏口の戸が数回叩かれる。
その音に顔を上げたはいんは、裏口から荷物を抱えて入ってきた男に首をかしげた。
- 27 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:57:03.35 ID:37qqvym+O
-
(; A )「ぉぉぉぉぉぉとどけものでぇぇぇぇぇ…………」
从 ゚∀从「死にそうだなオイ」
ドンッ
(;'A`)「お届け物です……ゼェハァ……」
从 ゚∀从「先刻も聞いた、ンだァ? コレ」
('A`)「墓石」
从 ゚∀从「……ア?」
('A`)「うちの“しゅう”花魁が、『賭けに負けたから』つって」
从 ゚∀从「負けたから……墓石?」
('A`)「墓石」
从 ゚∀从「また高価なモンくれ……たけど何か嬉しくねェッ!! しゅう殴りてェッ!!」
('A`)「ですよねェ」
- 29 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 22:59:07.48 ID:37qqvym+O
-
从 ゚∀从「じゃ、持って帰れ」
(;゚A゚)
从 ゚∀从「嘘だよ……」
('A`)「ああ驚いた、ところで渡辺さんって帰ってますか?」
从 ゚∀从「ア? ああ……渡辺がどうした?」
('A`)「墓石運んでる途中で、渡辺さんに似た人が殴られてましてね」
从 ゚∀从「助けなかったのか?」
(;'A`)「い、いや、その……言い訳になりやすが、助けようと思ったんだけど、汗拭ってもう一度見たら居なかったんです」
从 ゚∀从「はァン」
('A`)「殴られてた所まで行ってみても誰も居なくて、それで、俺の見間違いなら良いなァ、と」
从 ゚∀从「見間違いじゃアねェけどな」
(; A )そ
- 30 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:01:02.83 ID:37qqvym+O
-
从 ゚∀从「気にすンな。で、殴ってた俺の顔は見たか?」
('A`)「は……あれ、何で男って知って?」
从 ゚∀从「見たのか」
(;'A`)「あ、えぇと、眉がはっきりしたガラの悪そうな男で……」
从 ゚∀从「……そうか、墓石はそこに置いとけ。じゃアな」
(;'A`)「あ、はいん姐さん、どうし」
从 ∀从「……じゃ、な」
裏口にどくおを残し、覚束無い足取りで己の部屋へと戻って行くはいん。
嫌な事ばかりが頭の中を駆け巡り、背中の筋が冷たくて。
- 31 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:03:02.42 ID:37qqvym+O
- ◎
渡辺の怪我は日に日に増えて行くばかり。
顔や身体に傷をこさえる渡辺は、見る見る内に痩せ細り、暗い顔をする事が多くなった。
しかしあの日、渡辺の気持ちを聞いたはいんは、何をしてやれば良いのか、何を言ってやれば良いのかも分からずに居た。
けれど、
从#)− 从
从 ゚∀从「……渡辺」
从#)− 从「な、にぃ? はいんん……」
从 ゚∀从「なァ、その怪我」
从#)− 从「転んだだけ、転んだだけだよぉ」
从 ゚∀从「そ、か……」
白い顔をしてふらふら頼り無く歩く渡辺は、見るに耐えなくて。
- 32 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:05:02.42 ID:37qqvym+O
-
とん、とん。 軽い足音をさせる渡辺は、階段を上る。
辿り着いた自室の襖を細い指でそっと引くと、其処には男が一人座っていた。
_
( ゚∀゚)「よォ、渡辺」
从#)− 从「ぁ……長岡、さん」
_
( ゚∀゚)「ちッと懐が心許なくてなァ」
从#)− 从「も、もう渡せないよぉ……昨日渡したばかりなのに」
_
(# ゚∀゚)「ッせェおらぁっ!!」
从#)− 从「きゃあっ!」
がつっ、と強く頬を殴られた渡辺が畳に倒れ込み、か細く啜り泣く声が部屋を満たす。
けれど長岡はお構い無しに、引き出しから鈴の付いた渡辺の財布を取り出して懐に仕舞うだけ。
_
( ゚∀゚)「じゃあな、渡辺」
从#)− 从「ぁ……あぁ」
- 34 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:07:01.58 ID:37qqvym+O
-
にやにやと笑う長岡が部屋を出て行き、渡辺はただ泣き崩れるばかり。
それでも、それでもこの思いは変わらない。
私はあの人を愛しているし、あの人も私を愛してくれている。
きっと愛してくれている。愛してくれているんだよ。
嗚呼きっとあの人は不安なんだよ。
私の気持ちが本物か、不安なんだぁ。
だったらこの気持ちが本物である事を証明して見せなくちゃ。
やらなきゃ、やらなきゃあ。
从#)ー 从「あは、ぁ、は、あははははははぁ……あはははははははははははぁっ」
口の端から血を流す渡辺がふらりと身を起こし、鏡台から剃刀を取った。
すると、ふと耳に、誰かの足音が届く。
- 36 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:09:04.45 ID:37qqvym+O
-
从 ゚∀从「おい渡辺ッ! 大丈、夫……」
从#)ー 从「あ、はいんん、私のお願い、きいてくれるかなぁ……」
从 ゚∀从「渡、辺……?」
从#)ー 从「誓うの、あの人への愛を……だから、はいん、」
从#)ー 从「小指を切って」
どたどた部屋へ飛び込んだはいんに、青白い渡辺の微笑みと言葉が浴びせられる。
小さな台に小指を乗せて、はいんに差し出される剃刀。
その鈍い銀に輝く剃刀は、何だか酷く、恐ろしい物に見えて。
- 37 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:11:04.07 ID:37qqvym+O
-
从 ゚∀从「あんな野郎の為に、小指を落とす、ッてのか?」
从#)ー 从「あんな野郎じゃないよぉ、私の愛する人だよぉ……」
从 ゚∀从「……後悔しないのか」
从#)ー 从「うん、しない、約束するよ」
从 ゚∀从「なら……なら、ッ」
剃刀を握る手は震え、そっと渡辺の小指をあてがわれ。
目を瞑り、勢い良く
ことん
- 39 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:13:20.89 ID:37qqvym+O
-
从#)ー 从「───ぁ、ああくぅああああああっ、あぐぅうううううっ! ひっ、ぃ、はぁあうああああああああああああっ!!」
从 ゚∀从「渡辺、渡辺ッ!」
从#)ー 从「あっ、は、ひぁっ、……これで、これで、私の気持ちは、確、か、にっ」
从 ゚∀从「良いから渡辺、……ッ血が、あああっ」
从#)ー 从「あは、は、ぁはあっ、長岡さん……長岡さんっ、私、には、もう長岡さんしか居ないんだよぉ」
从;∀从「渡辺、渡辺ェ……ッ」
小指の断面からぴゅ、と血が吹き出る。
台と手を濡らす赤はぬらぬらと光り、女の愚かさを嘲笑う様に流れ続けていた。
床に転がる主を無くした小指がただ虚しくて、虚しくて。
指切りげーんまん
嘘吐いたら針千本のぉます
ゆぅび、きったぁ
- 42 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:15:20.36 ID:37qqvym+O
- ◎
翌日、未だじくじくと痛む小指を押さえながら長岡を呼んだ。
渡辺は精一杯に着飾って、小さな包みを抱いて待っていた。
早くこれを渡して、あなたへの気持ちは本物だと叫びたくて。
がらら
_
( ゚∀゚)「よう渡辺、何だよ呼び出して」
从'ー'从「え、えへへぇ……あのね長岡さん、これ……」
部屋へとやって来た長岡は、面倒臭そうな顔をして渡辺の前に立つ。
えへへ、と少しばかり困った様に笑う渡辺が、そっと、小さな包みを長岡に手渡した。
_
( ゚∀゚)「これ、って……お前、指ッ!?」
从'ー'从「あのね、凄く痛かったけど、長岡さんとの誓いだからって……我慢したの」
_
( ゚∀゚)「……」
从'ー'从「長岡、さん?」
- 43 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:17:29.11 ID:37qqvym+O
- _
( ゚∀゚)「お前な、鬱陶しいンだよ」
从'ー'从「……へ、?」
_
( ゚∀゚)「そうやってヘラヘラ馬ァ鹿みてぇに笑って、頭の足りてない面ァ晒して」
从'−'从「あ、ぅ? 長岡さん、どう……したのぉ?」
_
( ゚∀゚)「どこでも構わずくっついて来て、お前の面がちょびっとばかし良かったから構ってたが、もう限界だ」
渡辺の指を窓から投げ捨てる長岡と、顔面蒼白の渡辺。
長岡は舌を打ち、渡辺に背を向けた。
_
( ゚∀゚)「あばよ、気狂い女。二度とお前の面なんざ見たくねェ」
从'−'从「ぇ、え? ま、待ってよぉ長岡さんっ! 私、私ぃっ」
_
(# ゚∀゚)「離せオラァッ!」
从 − 从「やぁっ! やだ、やだよぉっ!!」
- 45 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:19:18.06 ID:37qqvym+O
-
立ち去ろうとする長岡の脚にすがり付く渡辺を蹴りながら、長岡は眉を寄せて唾を吐いた。
何度蹴られようが、離れまいとしがみつく渡辺の顎を、力一杯に蹴りあげる。
ぐっ、と呻いて俯せに転がった渡辺の背中を、踏みつけた。
_
(# ゚∀゚)「オラァッ! 蛙みてェに潰れた声で鳴いてみろよ、ァアッ!?」
从 − 从「ぐっ、げほっ、ぇほっ……ぅ、愛してるって、言ってくれた、のに……」
_
(# ゚∀゚)「ああ鬱陶しい愚図がッ! あんなの本気にしてたのかァ? 誰が手前みてェな愚図を愛してやるかよッ!! 畜生みてェに蹴り殺してやらぁッ!!」
从 − 从「ぁうっ! あ、げほっ、げほっ……」
這いつくばりながら、ぼんやりと視線をやった姿見。
姿見に映る自分の姿は、酷くみすぼらしくて、嗚呼これなら蹴られてもしようがないんだな、と渡辺は心の隅で思った。
愛する人に対する、怯えてすがる様な眼差しが、己の物なのに、どうにも悲しくて。
それと同時に、酷く腹立たしくて。
- 46 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:21:23.18 ID:37qqvym+O
- _
(# ゚∀゚)「蛙みてェに這いつくばって、良い様だなァ! 手前みてェな愚図より、“はいん”みてぇなサバサバした女を選んでりゃア良かったぜッ!!」
がんっ! と踏みつけられた頭の中では、悲しみや愛しさよりも怒りがふつふつと沸いて行く。
そして
从# Д 从「ぁ゙あ゙あ゙ぁぁぁあああああああああああ────っ!!!!」
己を踏みつける足を掴んで、引き摺り倒した。
_
(; ゚∀゚)「なッ」
从# Д 从「もう要らない、要らない要らないあなた何かもう要らないっ!! あなたの顔を見ると吐き気がする、側に居ると虫酸が走る! 同じ空気をすっていると思うだけで殺したくなるっ!! さあ出て行け馬鹿がぁあぁっ!!」
- 47 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:23:51.30 ID:37qqvym+O
- 引き摺り倒した長岡に其処ら中の物を投げ付け、箪笥や鏡台を引き倒しながら、渡辺は怒髪衝天して叫んだ。
その叫びは遊郭中に響き渡り、悲しい女の怒りを知らせた。
声を聞いた九羽屋の人間がどたどたと渡辺の部屋に集まり、中を覗き込む。
そして誰かが、ぽつりと
『怒髪天神だ』
小さな一言は瞬く間に広がり、人々は影で渡辺をそう呼んだ。
从# Д 从「ぁあああああああっ!! あああああああああああああああああああああっ!!!!」
「おい退けッ! 退け手前等ァッ!!」
从# Д 从「私は、私はぁああぁあっ!!」
从 ゚∀从「渡辺ェエッ!!」
从# Д 从「っ!!」
从 − 从「はい、ん……」
从 ゚∀从「渡辺……手前等、そいつ連れてェ、あっち行けやァ……」
人混みの中から姿を現したはいんの声に、渡辺の身体から力が抜けた。
九羽屋の人々がぼろぼろになった長岡を連れ、言われるがままに渡辺の部屋から離れて行く。
- 48 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:25:14.82 ID:37qqvym+O
-
二人きりになった部屋で、はいんは襖を閉めて滅茶苦茶になった部屋を見回す。 箪笥やら衣紋掛けやらが倒され、あちこちが壊れている。
悲惨な室内から渡辺に視線を移し、目の前ではいんが膝をついた。
そ、と渡辺の頬に触れると、涙がこぼれた。
从;ー;从「ねぇ、はいん……私、ね……長岡さんのこと大好きだったんだぁ……」
从 ;∀从「……あァ」
从;ー;从「でもねぇ、はいんの言う通りだったんだよぉ……長岡さん、私のことなんか愛してないって、鬱陶しいって」
从 ;∀从「渡辺、だから、だから言っただろォが……馬鹿」
从;ー;从「あは、あははぁ……馬鹿だよね、私、馬鹿だよねぇ……えへへぇ……だから私より、はいんのが良いって言われるんだよねぇ……」
从 ;∀从「そん、な……」
从;ー;从「でも約束したから、後悔はしないよぉ……ゆびきりげんまん、だから……」
从 ;∀从「渡辺……ッ渡辺ッ!」
从;ー;从「う、うぇえぇぇんっ! ふぇえええええええぇええんっ!!」
- 50 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:27:05.96 ID:37qqvym+O
-
大声で泣いて泣いて、二人で泣き叫んで。
太陽が落ちても、日付が変わっても、二人はひたすら泣き続けた。
そして嗄れた声で、渡辺がささやく。
从 ー 从「ねぇ、はいん」
从 ゚∀从「何だァ、渡辺」
从 ー 从「私は死んだと、思ってほしいの」
从 ゚∀从「……」
从 ー 从「“私”には、もう他のお客は取れない……“私”のままだと、また誰かを好きになる」
从 ゚∀从「だから、“渡辺”を殺すのか?」
从 ー 从「ありがとう、はいん……さよなら、はいん……私の大好きな人、私の姉の様な人、新しい私は、きっとあなたを恨んでしまうから……」
从 ゚∀从
从 ;∀从
从 ;∀从「さよなら、渡辺……それでも俺様は、お前の恨みを受け止めてやらァ」
- 51 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:29:03.99 ID:37qqvym+O
- ◎
渡辺は新たな名を受け、新たな部屋を与えられた。
それは暗く狭い物置の隙間にある様な埃臭い部屋だったが、自分にぴったりだ、と伸びた髪の間から笑って見せた。
そして“渡辺”は“貞子”へと。
川Д川「ん、ぁ……あ……」
从 ゚∀从「起きたか、貞子?」
川Д川「っ!? な、何であなたが、ここにっ」
从 ゚∀从「手前が気絶しちまったんだろうが」
川Д川「ぅ、う……出て行って、よ……」
从 ゚∀从「もう大丈夫なのか?」
川Д川「……夢を見たから、もう、平気よぉ」
从 ゚∀从「そうか、なら良かったぜ……貞子?」
川Д川「ま、まだ何か用?」
从 ゚∀从「……俺様はな、手前が好きだぜ」
- 53 ◆tYDPzDQgtA 2008/06/22(日) 23:31:31.46 ID:37qqvym+O
- 川Д川「な、なっ……わ、私は嫌いよぉ馬鹿女っ! 出て行け早くっ!!」
从 ゚∀从「へいへいッと、ああそうだ」
川Д川「出て行けってばぁ!!」
从 ゚∀从「俺様はな、もう誰も死なせねェ。だから手前は死ぬなよ貞子、ぺにさすや渡辺みてェに」
川Д川「ぁ……う、ぁ……」
从 ゚∀从「じゃあな」
痛む足を引き摺って、はいんは部屋を後にした。
残された貞子は己の右手を見下ろして、悲しそうに左腕で身を抱く。
存在しない小指をそっと握り、口許には笑みを、頬を涙で濡らして、貞子は小さく歌うだけ。
ゆびきりげんまん
うそついたら はりせんぼんのぉます
ゆぅびきったぁ
おしまい。