1 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:07:01.17 ID:RC7B2vAhO
7xさん
ttp://nanabatu.web.fc2.com/boon/miseri_hennna_mori.html
ブーン文丸さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/forest/forest.htm

まとめて下さってます、ありがとうございます。



ミセ*゚ー゚)リ 女子小学生、いわゆる良い子ぶりっこ。

( ノAヽ) 森の人、心は狭いめ。カタカナ。

<ヽ`∀´> 森の人、どちらかと言うと普通。狩人。

( ´ー`) 恐竜、性格は微妙に良くない。主に乗り物。

( [) 森の妖精。喋れないけど意外とお役立ち。ゴェェ。




3 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:10:03.66 ID:RC7B2vAhO

 過去のアヤマチは消せやしない。
 そんな事は分かっているのよ。


 自分がどんな事をして来たか、
 自分がどんなに憎まれているか。


 分かってる、分かってるのよ。


 けれどこの罪は、償えないの。

 だってこのちっぽけな命ひとつで、
 みんなが救われるワケがないコトくらい、分かってるから。


 だから、だからね
 罪を背中に背負ったまま、ずっとずうっと生きるのよ。

 罪に喘いで、怯えながら生き続けるの。


6 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:12:06.84 ID:RC7B2vAhO

 この手で殺した、数多の人々。
 この手で汚した、彼らの村。

 この手を貸した、彼女の涙。


 この手はいつだって血まみれだった。
 短い命、迫害される仲間達。

 この手を血に濡らすコトを選んだのは、自分自身。

 それによって人々がどれだけ傷付いたのか
 分からないほどおバカじゃないの。


 ここで、一人で生きる。
 誰にも触れられない様に、誰とも関われない様に。


 この孤独こそが、一番の罰だと思って。


7 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:14:11.76 ID:RC7B2vAhO


 【ミセ*゚ー゚)リ 変な森のようです】


  第五話 『ひつようあく。』 前編



 魔女だと呼んで、どうかこの身を憎しみで引き裂いて。



9 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:16:49.31 ID:RC7B2vAhO

 てっこらてっこら、森を歩く小さな足。

 その足は緑色で、一人分しか存在しない。

 少しの荷物と伝言を背負い、右手には目的地の場所が書かれた羊皮紙。

 地図にもならないおおよそな地図に目を落とし、緑の彼は首を傾げる。


 おかしいな、この辺りのハズなのに。


 細い目で辺りをきょろきょろ見回して、目的地たる小屋を探す。

 しかしそれらしい物は見当たらなくて、
 緑の彼は、地図を上下左右にひっくり返して回して、やっぱり首を傾げた。


(;`ー´)「んあー……? この地図イミねーんじゃネーノ……?」


 緑の彼、改めネーノは深々と溜め息を吐いた。


11 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:19:29.94 ID:RC7B2vAhO

 彼がここに居る理由は、自分が住む村の村長に「おつかい」を頼まれた為。

 そのおつかいは、ある人物にある言葉を渡すと言う物。
 ネーノはある人物が誰かは教えられておらず、届ける言葉の意味も分からない。

 けれど村長に言われたのだから、それを断る訳にはいかない。
 そうやってネーノは村を出て、一人で遠く離れた小屋まで歩く事に。


 草むらや川を越えて、ここまでは何とか迷わずにやって来た。

 よく自分でも迷わなかった物だ、と
 ミミズがのたうちまわって痙攣しながら死に絶えた様な線の地図を見下ろす。

 木の様な絵と小屋の様な絵と顔らしき物が描かれた地図。
 ネーノはそれを握り潰して、もう地図と呼ぶ事を止めよう、と肩を落とす。


 これからどうしようかなぁ。
 この小屋って見つかるのかなぁ……。


13 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:22:19.48 ID:RC7B2vAhO

(;`ー´)「小屋どこだー……村長エゴコロ皆無なんじゃネーノ……」

( `ー´)゙

( `ー´)「……? なんか、変なニオイ……」


 先端の垂れた耳をぴくんと動かし、鼻を突く不思議な匂いに辺りをきょろきょろ。

 甘い様な苦い様な、胸の辺りがもやりとする匂いがふわりと漂っていて
 ネーノはその匂いの方へと、ゆっくり歩き出した。

 もうどこにあるのかも分からない小屋を探すより、
 人が居そうなところを探して、そっちに行った方が早い。


 深い深い森の奥。
 自分が住む村よりも、暗く感じる森の中。

 自生する植物も生き物も、村の周りとは違う。
 ここは不思議なところだ、森の奥は、とても不思議。


15 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:25:09.18 ID:RC7B2vAhO

 草むらを掻き分けながら、転がる小石やらを避けながら、ネーノはぽてぽて歩く。

 端から見れば可愛らしいその姿。
 けれどその内側は、あの少女達と変わらない、ぐろりとした物が満ちている。

 けれどノーネに比べれば、ネーノはそれを抑え込む理性が強い。
 だからこそ冷静になれるし、人と関わる事が上手い。


 その内側が、本当は憎しみ等でいっぱいなのは、だあれも知らない。

 でも一握りの森の人は、本当は知ってる。

 綺麗なばかりの生き物なんて、居やしない。


( `ー´)「んー…………?」

( `ー´)「…………あ」


16 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:27:08.15 ID:RC7B2vAhO

 てっこらてっこら匂いを頼りに歩いていたネーノが、足を止める。

 その目の前には、煙突から煙を出す、思ったよりは大きな小屋。

 どうやら辺りに満ちる不思議な匂いは、この煙が原因らしい。
 白でも灰色でもない、奇妙な紫の煙。

 木製の小屋。
 もしかしたら村長の家よりも大きなその小屋は、
 木の絶妙な角度や繁り方で、近くに来なければ存在に気付かない。

 天然のカムフラージュをされたその姿に、ネーノはほう、と息を吐いた。

 うまいコト隠されてるなあ、自然に出来たならスゴいぜ。
 そんな事を思いながら、ネーノは小屋に近付き。


 こんこん。

 小さな手を握って、ドアを叩いた。


21 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:30:12.41 ID:RC7B2vAhO

 一度目は、返事はない。
 少しの時間を置いてから、再び

 こんこん。

 耳を澄ませてみても、ドアの向こうから音は聞こえない。
 もう少し間をあけてから、

 こんこん。


 三度目のノックになると、ネーノも少し躊躇いがち。
 あまり叩いても迷惑か、しかしここまで来て留守と言う事は勘弁してほしい。

 んー、と腕を組んで困った顔をしていると、
 ドアの向こうから、少し慌てた様な足音が響く。

 それを聞いたネーノは安堵の表情を浮かべ、小屋の主がドアを開けるのを待った。


23 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:32:29.36 ID:RC7B2vAhO

 とたとたとた。
 足音が近付き、ドアの前までやって来た事が安易に分かった。

 そして、がちゃり。

 ようやく開いたドアにネーノは顔をあげて、
 愛想笑いを浮かべながら、挨拶をしようと口を開き


 「お待たせしてごめんなさーいっ! どちら様ですかっ?」

( `ー´)「あ、こんにち…………ぇ」

 「ぁ…………アレ、アレ……?」


 小屋の主の、高い声とその姿に
 ネーノは表情を固くして、言葉を無くした。


24 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:34:24.91 ID:RC7B2vAhO

 腹の底から沸き上がる、怒りや憎しみといった醜い物。
 地図を握る手に力が入り、ぐしゃりと更に潰れた。


 この顔、この声、忘れていない、忘れる物か。
 甲高くて女性らしい声、優しそうなその笑顔、

 そして、さらりと伸びた長い金髪。


(  − )「…………レモ……ナ」

|゚ノ ^∀^)「ぁ、あ…………こん、にちは……」

(  − )「俺の名前……覚え、て……?」

|゚ノ ^∀^)「覚えてる、わ…………ネーノ君……」


 戸惑った声、笑っているけど泣き出しそうなその顔。
 ネーノはぎり、と奥歯を噛み締め、俯いた。


27 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:36:25.71 ID:RC7B2vAhO

|゚ノ ^∀^)「取り敢えず……上がって? レモナにご用、よね?」

( `−´)「……ああ」


 腸が煮え繰り返る様な感情を抑え込み、
 ネーノは頷いて、促されるまま部屋に上がる。

 きし、きし。
 板張りの床が二人分の重みに軋む。


 小屋の中は、広い。

 天井は高いし、非常にしっかりした作り。
 部屋の隅には扉が二つあって、どうやら他にも部屋があるらしい。

 小屋の中に別室があると言う事すら、非常に珍しい、森の人の小屋
 それに比べれば、ここは非常に広い。そして、物珍しい。

 小屋と言うより普通の一軒家とも言えるそこで、レモナはネーノに椅子へ促す。


31 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:38:19.34 ID:RC7B2vAhO

 レモナと呼ばれた白い森の人が、息苦しそうな顔でお茶を入れる。
 背の高い椅子に腰掛けたネーノも、同じ様な顔をして。

 重苦しい静寂に、お茶を淹れる音だけがこぼれていた。


 湯気の立ち上るカップを二つ、お盆に乗せて机まで運ぶ。

 森の人の物にしては背の高い、机と椅子。
 そんな机にカップを置いてから、レモナは無言で椅子に座った。

 開いた窓に近い、机の右側にネーノが座り、
 台所に近い奥の席に、レモナが座る。
 その様子は、子供がぬいぐるみを椅子に座らせた様な格好。

 けれどぬいぐるみの様な彼らは、今にも泣き出しそうな顔で、俯いている。
 それは余りにも、外見に似つかわしくない表情で。

 ただ愛らしいだけではない、森の人。
 彼らもまた、ニンゲンとなんら変わりはしない。


32 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:40:25.19 ID:RC7B2vAhO

 俯けていた顔を上げて、レモナがネーノを見る。
 その拍子に、長い金髪がさらりと揺れた。


 レモナの姿は、少しばかり異様だった。

 姿形はほとんど普通の森の人と変わらない。
 つんと立った三角の耳、丸い尻尾に、小さな白い体。

 例えば、そう、あの村長であるモナーとよく似た姿をしている。

 けれどひとつだけ違うのは、髪。


 レモナには、流れるような長い金髪が生えていた。

 白くまるっこい頭には、どこか不似合いにも感じる長い髪。
 その髪は腰まで届くほどに長く、綺麗に手入れされて枝毛の一本もない艶やかさ。

 頬の横へ流した髪を、バツの字になる様に紐で結んでいる。
 髪の隙間から伸びた耳には、よく見ると傷があった。


34 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:42:32.81 ID:RC7B2vAhO

 強張った笑顔でまたも少しだけ俯き、そっとお茶の入ったカップを差し出す。
 戸惑いを隠せない、異形とも言える森の人は、静かに静かに口を開いた。


|゚ノ ^∀^)「……どう、ぞ……飲んで」

( `−´)「……毒でも入ってんじゃ、ネーノ?」

|゚ノ ^∀^)「は、入って……ない、わよぅ……」

( `ー´)「はは、はっ、はははっ……そう、だよな……」

|゚ノ ^∀^)「あ、あは……」

( `ー´)「……」

|゚ノ ^∀^)「……」


 やっとカップに手を伸ばしたネーノが、湯気がふわふわと昇るそれに口を付ける。

 ず、と一口すすってみれば、香ばしい匂いと優しい甘さを感じた。


37 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:44:40.62 ID:RC7B2vAhO

 その甘さとレモナの泣きそうな顔に、心のタガが外れそうになる。

 顔へ当たる湯気の湿気が涙腺を刺激して、
 お茶の優しい匂いが、甘さが、どうしようもなく胸を締め付けた。

 ぐっとカップを強く握り、涙を堪える。

 それを見ていたレモナは目を反らして、机の木目を見つめるばかり。


( `−´)「……」

|゚ノ ^∀^)「……」

( `−´)「な、あ……」

|゚ノ ^∀^)「……なあ、に?」

( `−´)「オマエ……は、……ここで、ずっと……一人で?」

|゚ノ ^∀^)「……ええ、もう……何年もなる、わ……」


40 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:46:29.84 ID:RC7B2vAhO

 あの静かすぎる陰鬱とした森に、
 この一人が住むにはあまりにも広すぎる家で。

 何年もここに一人きりで住んでいると、レモナは言った。

 森の中、全くと言って良いほど感じない人の気配。
 そこで一人で生きている、そう、言ったのだ。


( `−´)「……」


 けれど同情なんかは、しない。
 腹の中にたぎる物は、それだけでは足りないと喚かんばかり。

 孤独。
 それがどれだけ重いのか、ネーノは知らない。

 しかしそれが苦痛である事は、なんとなく分かった。


41 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:48:25.87 ID:RC7B2vAhO

( `−´)

|゚ノ ^∀^)

( `−´)「何で…………何も、言わないんだ?」

|゚ノ ^∀^)「……」

( `−´)「普通、謝罪とか……するんじゃ、ネーノ?」

|゚ノ ^∀^)「……謝りたい、わ……レモナ」

( `−´)「なら……」

|゚ノ ^∀^)「でも、でもね…………レモナには謝る資格が、無いの」

( `−´)「…………」

|゚ノ ^∀^)「レモナが謝罪するのは、許されないの。
     それでレモナの罪が減る、そんな錯覚をしちゃいけない」

( `−´)「俺が謝れって言っても、謝らネーノ?」

|゚ノ ^∀^)「…………謝り……たいわ……」

( `−´)「……それが、ケジメだって言いたいのか?」


44 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:50:31.23 ID:RC7B2vAhO

|゚ノ ^∀^)「…………」

( `−´)「ヒトコトで良いんだよ……オマエの口から、聞きたいんだよ」

|゚ノ ^∀^)「レモナ、……レモナ、は……」

( `−´)「…………」

|゚ノ ^∀^)「…………どう、謝れば良いの……
     どうすれば、償うコトが出来るの……一人で生きても、まだ分からない」

( `−´)「…………」

|゚ノ ^∀^)「どうすれば、レモナは償えるの……?
     レモナの罪も、罰も、そのままで良いの……でも、償いたい……」

( `−´)「……オマエ、」

|゚ノ ^∀^)「レモナは誰かに許されちゃいけないから、
     だからレモナはこのままで……でも、でも……」


46 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:52:22.08 ID:RC7B2vAhO

 俯いたレモナが、肩を小刻みに震わせる。
 膝の上で握られた拳が、いやに小さく見えた。

 償いたい、償いたいと囁くその声。
 けれど許される事は許されない。
 だから自分はこのままで良い、だけど償いたい。

 何かに押し潰されそうなその背中に、ネーノは切なそうに眉を寄せた。


( `−´)「許さない」

|゚ノ ^∀^)「っ」

( `−´)「なんて、俺がいつ言った?
      俺は、許さないなんて言ってねーんじゃネーノ?」

|゚ノ ^∀^)「…………ぁ、う」

( `−´)「俺は許さないなんてコトは無いけど、怒ってはいるんだ
      ノーネは許さないと思うケド、俺は許したいんだ」

|゚ノ;^∀^)「ダメ、ダメなのっ、それじゃダメなのっ」


47 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:54:30.95 ID:RC7B2vAhO

( `−´)「何がそんなにダメなんだよ? 俺が許すって言ってんじゃネーノ?」

|゚ノ;^∀^)「だって、……っだってそれじゃ! レモナはっ!」

( `−´)「俺がオマエを許すコトで、オマエが苦しむのは、どうでも良い」

|゚ノ;^∀^)「っ!」

( `ー´)「ヒトコト、くれよ?
      ……ヒガイシャの俺は許したいんだよ、オマエを」

|゚ノ;^∀^)「あ……ぅ…………」

( `ー´)「怒ってるのは怒ってる、ハラワタ煮えくりかえるほどな
      でも、絶対にオマエを許さないほど、心は狭くネーノ」

|゚ノ; ∀ )「ぅ…………」

( `ー´)「ガキに叱られてんじゃ、カッコワルいんじゃネーノ?」

|゚ノ; ∀ )「カッコ、とかは……どうでも良いの…………でも……」

( `ー´)「謝ってくれたら、俺はやっと許せるんだ
      ……オマエは知らないんだな、憎む方も、苦しいって」

|゚ノ; ∀ )「!!」


49 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:56:55.13 ID:RC7B2vAhO

 お茶を飲みながら、ネーノは笑った。

 憎んでいる相手を許したくて、謝罪を求める。
 憎まれ続けたくて許されたくなくて、謝罪をしたくても出来ない。

 そんなネーノとレモナは、しばし無言に。


 レモナを腹の底から憎んでいるネーノは、誰かを嫌う事を嫌う。
 誰かを嫌えば、その誰かは苦しむ。

 苦しいのは嫌だから、嫌う事を嫌う。
 子供の様な持論を片手に、ネーノは笑う。


 本当はレモナが苦しむのも嫌だけれど、それはちょっとした、敵討ち。
 少しは仕返しをしなければ、心が納得してくれない。


 矛盾だな。
 俺、サイテーだ。

 そうやって、今度は困った様に笑った。


52 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 21:58:50.77 ID:RC7B2vAhO

 でも腹の底でふつふつと沸き上がる醜い物を持ち続けるのは、
 苦痛で苦痛でしょうがなくて、早く捨てたくて捨てたくて。

 だから少しの仕返しをして、レモナを許すと言う事で、醜い物を捨て去りたかった。
 それが自分のエゴだと、理解している。


 けれど久々にレモナを見たその時よりも、醜い物は小さくなった。
 何故だろう、レモナの気持ちを聞いたからか、レモナの生活を知ったからか。

 少しだけ、少しだけ、許してしまった。


 す、とレモナが顔をあげる。
 その表情は真剣そのもので、ひどく真摯な眼差し。

 やっと決心をしたらしいレモナに、ネーノは空のカップを置いて向き直った。

 早く許したい、楽になりたい。
 ネーノがレモナを待ちながら、真っ直ぐに見つめる。


54 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:01:15.26 ID:RC7B2vAhO

|゚ノ;^∀^)「……レモナ、レモナ……っ」

( `ー´)「…………」

|゚ノ;^∀^)「そ、の……あのっ…………本当、にっ」

( `ー´)「…………」

|゚ノ; ∀ )「ご、め…………っ……ごめっ」


 ぶわり。


 開け放たれた窓の外から、じっとりとした鉄の匂いが舞い込んだ。


56 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:04:12.82 ID:RC7B2vAhO

|゚ノ;^∀^)「!?」

(;`−´)「!?」


 突然部屋へと流れ込んだ鉄臭さ。
 それは少し遠いが、間違いなく血の匂い。

 鼻を突く吐き気をもよおす様な匂いに、二人は驚いて顔を見合わせた。

 先ほどまでは感じなかった血の匂いは、少しずつ濃くなって行く。
 それは、血を流す何かが、こちらへ向かっていると言う事。


 慌てて椅子から降りたレモナとネーノが、窓へと駆け寄って外を覗く。

 しかし窓の外には、相変わらず重苦しい森が広がるばかり。
 人の気配も感じられず、何の変化も感じない。

 けれどこの匂いは異常だと耳を澄ませば、二人の耳に、微かな足音が届いた。


57 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:06:12.50 ID:RC7B2vAhO

(;`−´)「……なあ、このニオイって……」

|゚ノ;^∀^)「……近付いて来てるわ、……血のニオイ」

(;`−´)「でも、これは……」

|゚ノ;^∀^)「…………出てみるわ、怪我人かも知れないから」

(;`−´)「お、おいっ危ないんじゃネーノ!?」

|゚ノ;^∀^)「レモナは丈夫だから平気!」


 窓から離れ、玄関へと走るレモナ。

 その後ろ姿を見て、少し悩んでから、ネーノも後を追った。


 血の匂いは濃くなるばかり。
 足音は、もうそこまで迫っていた。


60 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:08:10.49 ID:RC7B2vAhO



 血の匂いをなびかせて、恐竜が駆けていた。

 頭の上に乗る森の妖精。
 その道案内に耳を傾けながら、恐竜は焦った様子で走る。

 恐竜の背中には、俯せで横たわる少女。
 少女の前と後ろには、森の人が座っている。

 荒い呼吸、流れる汗。
 未だにしっかりと止まらない血が、少女、ミセリの体力を奪う。


ミセ; − )リ「はっ……はっ……」

(;ノAヽ)「ミセリ死ぬなノーネ! ミセリっ!」

(;´ー`)「イヤなコト言うなヨ……」

<;ヽ`∀´>「大丈夫ニダ、きっと魔女の人が助けてくれるニダ」

( [)「ゴェ」


61 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:10:04.14 ID:RC7B2vAhO

 二の腕から先を失った、ミセリの左腕。
 ノーネはその、体ではなく、物になった腕を抱き締めていた。

 薄い背中に刻まれた、大きな傷。
 ブラウスは悲惨な姿に成り果てて、もはや元が何色かも分からない。


 ぜいぜい、と苦しそうに胸を鳴らせて、ミセリが虚ろな目を揺らす。
 光が薄れたその目には、全てがぼんやりと靄に包まれた様に見えていた。

 もう痛みすらあまり感じなくなってきて、体の先が少し冷たく感じる。

 けれど頭や傷は熱を持ち続け、ミセリの命を少しずつ削って行く。


 傷だらけの体には、力なんて入らなくて
 だらりとずり落ちそうになるミセリの体を、ノーネとニダーが押さえていた。


65 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:12:07.01 ID:RC7B2vAhO


( [)「ゴェェ!」

(;´ー`)!


 森の妖精の集落から出て、走り続けてしばらく経った頃。
 ネーヨの頭で道案内をしていたビコーズが、ぴょんと跳ねて声をあげた。


 小さな手で指差す先には、木々に隠される様にして建つ、小屋。

 小屋の周りには不思議な植物。
 屋根から伸びる煙突は、奇妙な色と匂いの煙を吐き出している。

 森の中にひっそりと、しかし見つけてしまえば存在感のある小屋は
 魔女が住んでいてもおかしくなさそうな、どろりとした雰囲気を醸し出していた。


<;ヽ`∀´>「アレが、魔女の家ニダ?」

( [)「ゴェ!」

(;ノAヽ)「…………と、とにかく行くノーネ!」

(;´ー`)「あっ、だから先走んなヨ!」


66 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:14:14.97 ID:RC7B2vAhO

 ミセリの腕を抱いたまま、ノーネがぴょんとネーヨの背中から飛び降りる。
 てとてとと短い足で、小屋の側まで走った。

 そしてドンドン、と乱暴にドアをノックする。
 その頬には汗が流れ、早く早くと焦るばかり。

 なかなか返事のないドアに、苛立ちと焦りを隠せなくて
 ノーネは再びドアを強く叩き、声を荒くした。


(;ノAヽ)「誰か居ないノーネ!? 返事しろなノーネ!!」


 焦りにその場で数回跳ねていると、ゆっくりゆっくり、ドアのノブが回った。

 がちゃ、と控えめな音をさせて開いたドア。
 その向こう側から、怯えた様に覗く長い髪。

 やっと開いたドアを掴み、ノーネが勢い良く開け放つ。


68 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:16:30.83 ID:RC7B2vAhO

|゚ノ;^∀^)「きゃっ!」

(;ノAヽ)「たのもーなノーネ! ミセリを……っ!!」

|゚ノ;^∀^)「な、なあに? どうし…………ぁ」

(;ノAヽ)「…………オマエ……」

|゚ノ;^∀^)「ぁ、あ…………ノーネ、君……?」

(; A )「…………」


 ドアの向こうから現れた森の人、レモナ。
 その姿に、ノーネが表情を無くした。

 ネーノの時と、全く同じ反応。

 ノーネはミセリの腕を強く強く抱き締めて、奥歯をぎりりと噛みしめる。


70 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:18:04.24 ID:RC7B2vAhO

 再び訪れた来訪者に、レモナはさっき以上の衝撃を受ける。
 黙ってしまったノーネに俯くが、その手に握られた腕に、顔を強張らせた。


|゚ノ ^∀^)「それ、は……」

(; A )「っ……オマエ、に……カンケーない……ノーネ……」

|゚ノ ^∀^)「で、でもっ」

(#ノAヽ)「うるさいノーネ! 黙れなノーネ!!」

|゚ノ;^∀^)「っ!」

(;`ー´)「おい、どうしたんだ?」

(#ノAヽ)「黙っ」

(;ノAヽ)「…………んぇ?」

(;`ー´)「んぁ?」


73 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:20:10.10 ID:RC7B2vAhO

(;ノAヽ)「……ネーノ?」

(;`ー´)「ノーネ……?」

(;ノAヽ)「な、なん、ぇ? え?」

(;`ー´)「ぇ、あ、いや……え?」

(;ノAヽ)「ひ、ひさ、ひさし、ぶり……?」

(;`ー´)「お、おう、ひさ、し……ぶり?」

(;ノAヽ)

(;`ー´)

(#´凵M)「ええい立ち話してんじゃネーヨッ!! どけ燃やすぞッ!!」

(;ノAヽ)「うわごめっ!」

(;`ー´)「お、おおお!?」


75 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:22:20.28 ID:RC7B2vAhO

(;ノAヽ)「あ、その……あの……」

(;`ー´)「あー……えー……その」

<;ヽ`Д´>「それは後にしてくれニダ! ええと魔女さん!?」

|゚ノ;^∀^)「は、はいっ!?」

<;ヽ`Д´>「とにかくこの子を手当てして下さいニダ! お願いしますニダ!」

|゚ノ;^∀^)「え、え、えぇ!? ニンゲン……って腕はっ!?」

<;ヽ`Д´>「ノーネ! 腕を渡すニダ!」

(;ノAヽ)「ぇあ、ぅ」

(#´凵M)「燃すぞゴルァ!!」

(;ノAヽ)「ヒィッ!!」


ミセ; − )リ([;)゙
  。
 o
(突っ込みてぇ……)


77 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:24:22.68 ID:RC7B2vAhO

(;`ー´)「と、取り敢えずその子……ってミセリ!?」

<;ヽ`Д´>「お知り合いニダ?」

(;`ー´)「あ、あぁ……今は置いといて、とにかくミセリ!
      早く手当てしてやらないとアブネーんじゃネーノ!?」

<;ヽ`Д´>「ニダ! お願いしますニダ!!」

|゚ノ;^∀^)「え、ぇ……分かったわ、こっちの部屋へ運んで!」

(;´ー`)「おうヨ!」


|゚ノ;^∀^)「大丈夫!? すぐに手当てするわ!」

ミセ; − )リ「ぜっ……ぜっ……」

|゚ノ;^∀^)「ひどい傷……女の子の体に……!」


79 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:26:58.75 ID:RC7B2vAhO

(;`ー´)「何か手伝うコトは!?」

|゚ノ;^∀^)「う、裏からお水を汲んできて!」

<;ヽ`Д´>「把握ニダ!」

(;`ー´)「他は!?」

|゚ノ;^∀^)「え、えっと、裏の薬草摘んできて!」

( [)「ゴェ!」

(;`ー´)「他!」

|゚ノ;^∀^)「え!? え、あ、えっと、お茶飲んでて!!」

(;`ー´)「分かった!」


      ζ
( `ー´)っ□

( `ー´)「あれ?」


81 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:28:49.13 ID:RC7B2vAhO

 皆が皆、レモナに言われるがままに慌ただしく動いている。

 奥の別室へと運ばれたミセリは、ベッドに横たわっていた。
 ミセリを運び終えたネーヨが部屋から出てくると、
 入れ違いにレモナが部屋へ入ろうとする。

 が、それを拒んだのは、小さな緑。


(#ノAヽ)「……」

|゚ノ;^∀^)「ノーネ君……」

(#ノAヽ)「っミセリに触るなノーネ!」

(;´ー`)「なっ」

|゚ノ ^∀^)「ノーネ君」

(#ノAヽ)「オマエみたいなヒトゴロシにッ」

|゚ノ#^∀^)「今はあの子の治療が先よ! あの子が死んじゃっても良いの!?
     レモナは小さな女の子に、
     ましてや怪我人に変なコトはしないわ!!」

(#ノAヽ)「っ!!」


85 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:30:44.14 ID:RC7B2vAhO

( ´ー`)「ノーネ、ミセリ助けたいなら今はどけヨ」

(#ノAヽ)「〜〜〜〜っ!!」

(#´ー`)「オマエの事情はシラネーヨ、でもミセリが死んでも良いのかヨ?」

(#ノAヽ)「……助けなかったら、ノーネがオマエ、コロすノーネ」

|゚ノ ^∀^)「……良いわ、だから今はどいて」

(#ノAヽ)「…………ん! 腕!」

|゚ノ ^∀^)「……ありがとう」

(#ノAヽ)「……」

( ´ー`)「オマエはアホかヨ、ガキ」

(#ノAヽ)「……」

(;`ー´)「……」


87 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:32:23.76 ID:RC7B2vAhO

<;ヽ`Д´>「水汲んできたニダ!」

( [)「ゴェェ!」

|゚ノ ^∀^)「ありがとう、ここに置いて! 後はレモナに任せて!」

<;ヽ`Д´>「把握ニダ!」

(#ノAヽ)「……」

( ´ー`)「……」

(;`ー´)「……お茶、飲む?」

<;ヽ`Д´>「あ、い、いただくニダ……」


<;ヽ`Д´>(あの、アレは……?)

(;`ー´)(や、その……ちょっとノーネが……)

<;ヽ´Д`>(……すみませんニダ……)

(;`ー´)(こ、こちらこそ……)


90 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:34:32.05 ID:RC7B2vAhO

( ´ー`)「オマエ、何考えてんだヨ?」

(#ノAヽ)「……」

( ´ー`)「あのまま退かなかったら、ミセリ死んでたかもしれねんだヨ」

(;ノAヽ)「う……」

<;ヽ`∀´>「それくらいで許してあげるニダ……
      きっと魔女さん……レモナさんが、助けてくれるニダ」

( ノAヽ)「……魔女のコトなんか、信用できんノーネ」

(#´ー`)「オマエ……」

( `ー´)「……ノーネ」

(#ノAヽ)「なん、」



     パーン
<ヽ`Д´>
 ⊂彡☆))A )そ

91 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:36:22.78 ID:RC7B2vAhO

(;#)Aヽ)「え……」

<ヽ`Д´>「いい加減にしなさいニダ」

(;#)Aヽ)「あ、う」

<ヽ`Д´>「今はレモナさんだけが頼りニダ
      それなのに、ミセリを手当てしようとしてくれてる人に
      オマエは何てコトを言うニダ」

(;#)Aヽ)「ぇ、う……ぇぅ……」

<ヽ`Д´>「ノーネにはノーネの事情があるのはわかるニダ
      ノーネとレモナさんの間に何があったか、ウリには分からないニダ
      でも今は、レモナさんに助けてもらう立場ニダ」

(;#)Aヽ)「ぇぅ…………」

<ヽ`Д´>「レモナさんが居なかったら、ミセリはきっと死んでたニダ」

(;#)Aヽ)「でも、まだ」

<ヽ`Д´>「ウリ達には出来ないコトをしようとしてくれてる
      それだけで、感謝してもしきれないコトを分かってほしいニダ」


( [)

94 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:38:34.43 ID:RC7B2vAhO

<ヽ`Д´>「叩いたりして、悪かったニダ……
      でもさっきのノーネの態度は、誉められたモノでは無かったニダ」

(;#)Aヽ)「…………ゴメン」

(;`ー´)そ

<ヽ`∀´>「じゃあ仲直りニダ、頬っぺた冷やすニダ」

(;#)Aヽ)「の、ノネ……」

<ヽ`∀´>「レモナさんに何か言いたいなら、
      ミセリの手当てが終わってから話し合うニダ」

(;#)Aヽ)「分かったノーネ、悪かったノーネ……ミセリのが、先なノーネ」

(;`ー´)「お、おぉう……」

( ´ー`)「ん?」

(;`ー´)「ノーネが素直に謝るって……初めてじゃネーノ……」

( ´ー`)「けっこー謝ってるヨ?」

(;`ー´)「マジで?」


95 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:40:28.01 ID:RC7B2vAhO

( #)Aヽ)「てゆーかネーノ、何でいるノーネ?」

( `ー´)「ん? あぁ、村長のお使いで」

( #)Aヽ)「へー……」

(;`ー´)(なんかやりづれぇんじゃネーノ……)


( ´ー`)「チビの知り合いかヨ?」

( `ー´)「あ、あぁ」

<ヽ`∀´>「ホルホル、ウリはニダーニダ、よろしくニダ」

( `ー´)「あ、俺はネーノ、よろしくな」

( ´ー`)「ネーヨだヨ、よろしく」

( `ー´)「おう、よろしく」

( [)

(;`ー´)?


98 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:42:19.33 ID:RC7B2vAhO

( `ー´)「え、えっと……よろし、く?」

( [)「ゴェ」

(;`ー´)そ

( ノAヽ)「……」

( `ー´)「……ノーネ、オマエ」

( ノAヽ)「絶対に許さないノーネ」

( `ー´)「……」

( ノAヽ)「許さない……ノーネ」

( `ー´)「…………俺は、許す」

( ノAヽ)「……勝手にしろなノーネ」

( `ー´)「ノーネも、もう意地張るの疲れたんじゃネーノ?」

( ノAヽ)「……うっさいノーネ」


101 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:44:30.84 ID:RC7B2vAhO


|゚ノ ^∀^)「大丈夫? 意識はあるかしら?」

ミセ; − )リ「ぅ……ぃ」

|゚ノ ^∀^)「良い子ね、大丈夫よ、レモナがちゃちゃっと治してあげるから!」

ミセ; − )リ「あり……が、と……」

|゚ノ ^∀^)「はい、これ噛んでね。痛いから」

ミセ; − )リ「むぐ……っう、ぅ……〜〜〜〜ッ!!」

|゚ノ ^∀^)「我慢よ、女の子はここぞって時以外は泣いちゃダメ!」

ミセ; − )リ「んーっ! んぅぅぅぅっ!!」

|゚ノ ^∀^)「よしよし痛いわね、すぐ済んじゃうから少し我慢して?」


104 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:46:43.74 ID:RC7B2vAhO

 ベッドに横たわるミセリの腕を固定して、巻き付けられた布を剥がす。
 布は血が乾き、肌に傷に貼り付いていた。

 レモナがミセリに布を噛ませてから、傷に付いた布を優しく剥ぎ取り
 水で綺麗に洗って、どろりとした薬をまんべんなく塗り広げる。

 その薬のしみる事しみる事。
 痛みを忘れかけていた腕の断面が、再び熱を持ちながら激しく痛んだ。

 傷が感覚を取り戻したと分かり、レモナは切り落とされた方の腕を持つ。
 そちらも同じ様に洗って薬を塗り、そっと断面同士をくっつける。


 腕はとても綺麗に切り離されており、肉片が欠けたり汚れたりはしていない。

 ならば、とレモナが真剣な顔をして
 ミセリの口許に薬を染み込ませた布を当ててから、針と糸を取り出した。

 ぷつ。
 小さな針が腕の皮膚を突き破り、ゆっくりと、慎重に傷が縫い合わされてゆく。

 口許に当てられた、麻酔らしい薬のお陰でマシにはなっているものの、
 その痛みは優しい物ではなく、体力を失いつつあるミセリを襲う。


106 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:48:42.77 ID:RC7B2vAhO

 ゆっくりと、けれど正確な動きで繋がれた腕。
 ようやく元の場所に戻ってきたそれに、朦朧とした意識の中でミセリは安堵する。

 繋がった腕に再び薬を塗り、洗った薬草を貼ってから包帯をしっかり巻き付ける。

 これで腕は大丈夫、と息を吐いたレモナは、ミセリの体を傾けた。
 その動き一つにすら痛みを感じるミセリは眉を寄せるが、痛みに叫ぶ元気はない。


 服を脱がせてミセリを上半身裸にさせてから、背中の傷をよく洗う。
 そして腕に比べれば浅い傷に、薬を塗って布を当て、包帯で固定した。

 背中から胸へ、肩を通して巻き付けられた包帯が、ミセリの上半身を隠す。

 生々しく、痛々しい傷が姿を隠したミセリの体。
 血で汚れた服やシーツを剥ぎ取って、クッションを挟んで体を起こさせる。

 噛ませていた布をはずして、ミセリの顔を覗き込みながら、レモナが、微笑んだ。


|゚ノ ^∀^)「もう大丈夫よ、あとはこれを飲んで、ゆっくりお休みなさい?」

ミセ; − )リ「は、ひ……」


108 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:50:18.89 ID:RC7B2vAhO

 上半身を起こした状態で、ミセリはいまだに虚ろな目をして頷いた。


|゚ノ ^∀^)「あーんして?」

ミセ; )リ「ぁ……あーん……?」

|゚ノ ^∀^)「ぽいっとな」

ミセ; − )リ「む、っぐ……っ! に、がっ!!」

|゚ノ ^∀^)「はいはいよく噛んで! 噛んだらお水!」

ミセ; − )リ「にがっ……う、うぐぐっ……んっ、ぐ……!」


 ぐったりしたミセリに口を開かせ、ぽい、と口の中に薬の玉を放り込む。

 薬をもぐもぐと噛み砕いたのを確認すると、コップに水を入れて、
 ミセリの口許まで持って行き、ゆっくりと飲ませてやる。

 本当は目の覚める様な苦味を早く洗い流す為に、水をがぶ飲みしたいのだが
 痛みと流れた血の量、麻酔の効果もあって体がうまく動かない。

 故に、レモナにちびちびと飲ませてもらうしか方法がなくて。


109 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:52:23.60 ID:RC7B2vAhO

 けほ、と噎せて白い薬を飲み終えたミセリが、目尻に涙を浮かべてレモナを見る。
 にっこり笑ってミセリの涙を拭い、レモナの手がミセリに布団をかけた。


|゚ノ ^∀^)「ちゃんと白くて苦いの、ごっくんした?」

ミセ; − )リ「う、うん……した……」

|゚ノ ^∀^)「良い子良い子、じゃあゆっくり休むのよ?」

ミセ; − )リ「ん……」


 ミセリの頭を撫でて、洗濯物を抱きながらレモナが部屋を出る。
 部屋の前で待っていたノーネ達は、その音に顔を上げた。

 声を上げようと口を開いたノーネを見て、
 後ろ手にドアを閉め、口の前で人差し指をたてて、静かにするよう促す。

 苦虫を噛み潰した様な顔をするも、ノーネは大人しく口を閉ざして、
 ふい、と不機嫌そうにそっぽを向いた。


111 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:54:07.89 ID:RC7B2vAhO

<ヽ`∀´>「ミセリは……?」

|゚ノ ^∀^)「もう大丈夫よ、安静にしてたらすぐ良くなるわ。腕もくっつけたし」

(;´ー`)「く、くっつくのかヨ?」

|゚ノ ^∀^)「えぇ、断面がキレイだったのが良かったわ
     レモナは魔法使いじゃないから、すぐには治せないけど
     薬で治りを早くするコトは出来るから」

( ノAヽ)「……」

( [)「ゴェェ」

|゚ノ ^∀^)「あら、アナタも心配?」

( [)「ゴェ!」

|゚ノ ^∀^)「大丈夫、暫く動かさずに大事にしてたら、すぐくっつくわ」

<ヽ`∀´>「良かったニダ……」

|゚ノ ^∀^)「あ、でも変に動かしたら腕とれちゃうからね?」

<;ヽ`∀´>「とれ……」


113 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:56:20.85 ID:RC7B2vAhO

( `ー´)「ミセリ無事なのか……良かったな」

( ノAヽ)「……ノネ」

( `ー´)「そこは素直にお礼を言うべきじゃネーノ?」

(;ノAヽ)「……」

|゚ノ ^∀^)「良いのよ……気に、しないで?」

( ノAヽ)「……」

<ヽ`∀´>「あ……ありがとうございますニダ!」

|゚ノ ^∀^)「……ううん、こちらこそ
     そうだ、これはお薬、痛くなったら飲み様に……あなたに渡しておくわ」

<ヽ`∀´>「あ、は、把握ニダ!」

|゚ノ ^∀^)「うんうん、お薬のレシピもつけとくから、
     いざとなったら自分で作る様に言ってね?」

<ヽ`∀´>「分かりましたニダ、レモナさん!」

|゚ノ ^∀^)「あと敬語はいらないわ?」

<ヽ`∀´>「は、はい、ちが、わかった、ニダ!」

115 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 22:58:09.98 ID:RC7B2vAhO

( ´ー`)「ミセリ、寝てるのかヨ?」

|゚ノ ^∀^)「えぇ、寝かせてあげなきゃ体力もたないもの」

( ´ー`)「……ありがとヨ」

|゚ノ ^∀^)「良いの……レモナ、これくらいしか出来ないから」

( ノAヽ)「……」

( [)「ゴェ」

( ノAヽ)「……取り敢えずは、ミセリの恩人なノーネ」

( [)「ゴェェ」

( ノAヽ)「いちおー、感謝してやらない……コトも……ノネ」

    メゴシ
 三( [)#)A )そ


(;`ー´)


117 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 23:00:31.34 ID:RC7B2vAhO


 ぎこちない空気の中、居間に集まる六人。

 ノーネがあらわにする、レモナに対する敵意。
 ネーノが抱いていたそれと同じ物を感じながら、レモナは静かに俯くだけ。

 とにかく今は、ミセリが、第一。
 そう自分に言い聞かせながら、ノーネは拳を握って堪えていた。


 腹の中で沸き上がる憎しみや、汚い物。

 ネーノは許したくてしょうがない。
 ノーネは許せなくてしょうがない。

 正反対の感情に踊らされながら、ゆっくりと日が暮れる。


 レモナが無言で用意した食事をちまちまと口に運び
 皆はやっぱり、暗い表情のままだった。


119 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 23:02:17.64 ID:RC7B2vAhO

 そして、ようやく口を開いたのは、ノーネ。
 外はすでに真っ暗で、今日はもう、行動出来そうにない。


( ノAヽ)「おい」

|゚ノ ^∀^)「なあ……に?」

( ノAヽ)「せめて、話せなノーネ、ぜんぶ、理由とか」

|゚ノ ^∀^)「……分かったわ……でも、少し待って……?」

( ノAヽ)「……」

|゚ノ ^∀^)「あの子……ミセリちゃんが起きれる様になったら……話すわ
     ミセリちゃんもアナタ達と一緒に行動してるなら……聞いてほしいから」

( ノAヽ)「…………待ってやる、ノーネ」

|゚ノ ^∀^)「……ありがとう」


120 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/12(日) 23:04:23.44 ID:RC7B2vAhO

 やっとの事で絞り出した言葉。
 顔を背けたまま交わした言葉、それを聞いていた四人は、静かにドアを見る。

 ミセリが眠る部屋へと繋がる、木製のドア。
 その向こうでは、ミセリが静かに寝息をたてていた。

 泥沼に落ちて行く様な重い眠りではなく、優しいふわりとした眠り。
 羽毛の様な眠りに包まれたミセリは、穏やかな顔で、穏やかな息をする。

 傷の痛みは感じない、けれど沼の底に落ちる様な冷たさも感じない。

 きっともう大丈夫。
 夢の中でそう囁き、ミセリは、すやすやと眠るだけ。

 起きた時に待っている、レモナの過去など想像もせず
 ただ一人、穏やかに、健やかに夢に抱かれていた。



五話 前編、おわり。

inserted by FC2 system