5 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:02:17.05 ID:9zhSEEPqO
代理ありがとうございます、のろのろ投下してこうと思います。

7xさん
ttp://nanabatu.web.fc2.com/boon/miseri_hennna_mori.html
ブーン文丸さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/forest/forest.htm

まとめて下さってます、ありがとうございます。


産業

長いぜ!
閲覧注意だぜ!
もはやレモナが主人公。

6 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:06:07.77 ID:9zhSEEPqO

 あなたの手が好きだった。
 頭を撫でてくれる手が好きだった。

 あなたの笑顔が好きだった。
 いつでも与えてくれる優しい笑顔が好きだった。

 あなたの全てが好きだった。
 この異形を愛してくれたあなたが、何よりも誰よりも好きだった。


 美談でも何でも無いわ。
 これはただの昔話。

 憎まれたがる、その理由。

 言い分けはしない。
 けれど聞きたいなら、どうか聞いてやって。


 この、どうしようもない外道の話を。


8 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:10:12.90 ID:9zhSEEPqO


 【ミセ*゚ー゚)リ 変な森のようです】


  第五話 『ひつようあく。』 中編



 ────だから、レモナは逃げちゃいけないの。



9 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:14:06.58 ID:9zhSEEPqO

 とんとんとん。
 ことことこと。
 かちゃかちゃ。
 くつくつくつ。

 静かな部屋に広がる音は、胃を刺激する美味しそうな匂いを連れていた。

 とぐろを巻くネーヨに寄っ掛かって眠る、森の人達と森の妖精。
 その姿をちらりと見て、金髪を結い上げた森の人が微笑む。


 こんなに沢山のご飯を作るのは久し振り。

 大鍋でくつくつと煮込まれる野菜のスープを見下ろして、
 おたまを片手に持ち、不思議な充実感に、レモナは微笑むばかり。

 いつもは小さな鍋に少しのスープを作るだけで、朝昼晩と事足りた。
 けれどこの大人数では、全く足りない。

 昨晩のご飯も量が少なくて、皆が満たされない腹を撫でていた。

 それを見たレモナは、慌てて家の中で一番大きな鍋を探し回ったのだった。


12 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:18:20.64 ID:9zhSEEPqO

 見つけたのは料理用では無く、薬を煎じる為に使っていた大鍋。
 少し薬臭いそれをしっかり洗い、初めてこの鍋で料理を作った。

 使い込まれ、外側の焦げた鍋をかき混ぜながら、レモナは俯く。

 この鍋で煎じていた薬。
 疫病に効く薬を、と毎日毎日、隠れながら薬草を煎じていたあの日々。

 けれど効果は無くて、この手を染めた、あの日。
 あの声、匂い、感触、目。

 どれもこれも忘れられない。
 この数年間、忘れた時など、一度もない。


 ふう、と溜め息を転がして、火を止めた。

 しっかり煮込まれてとろけた野菜に、ニダーが分けてくれた少しの肉。
 それらが絶妙に混ざりあい、優しいほのかな甘さを作り上げていた。

 誰かに食べてもらうのは、緊張するわ。
 そう一人で笑い、レモナはパンを焼き始めた。


14 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:22:08.63 ID:9zhSEEPqO

 朝食が全て出来た頃、五人がやっと目を覚ます。
 レモナが器にスープを入れて机に並べていると、ネーノが体を起こした。

 良い匂いに誘われて起きたのはネーノだけではなく、
 続いてノーネとニダーも身を起こす。

 しかしまだ半分ほど寝ているのか、頭をぐらぐらさせながらぼんやりしていた。

 三人の枕になっていたネーヨがのそりと起き上がり、
 頭の上で眠るビコーズを落とさない様に気を付けながら、机に近付く。


( ´ー`)「はよ、美味そうだヨ」

|゚ノ ^∀^)「あら、おはよう恐竜君!
     顔を洗ってらっしゃいな、もうご飯は出来てるわ?」

( ´ー`)「んー、オマエらもゾンビってんじゃネーヨ、起きろ」

( =A=)「のぎゃー……」

( ´ー`)「誰だオマエ」


16 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:26:34.21 ID:9zhSEEPqO

 ネーヨの尾っぽで弾き飛ばされ、
 三人の森の人が、ころころと裏口が外へ放り出される。

 そして井戸水でのろのろ顔を洗い、軽くうがいをしてから部屋へと戻ってきた。

 やっと目が覚めた三人とビコーズを連れて、ネーヨが机の隣に座る。

 レモナは大きめの器に入ったスープと、お茶の入ったカップをトレイに乗せて
 エプロン姿のまま、ミセリが居る部屋へと入るところだった。


 まだ眠そうに目を擦るノーネをちらりと見てから、
 ネーヨは静かに、レモナの小さな後ろ姿を見つめる。

 少し、楽しそう。
 なんとなくそう思ってから、ああ一人じゃないからか、とノーネは頭を下げた。

 それにしても、あのレモナはノーネにすこぶる嫌われている。
 ノーネにヒトゴロシとまで呼ばれて、それでも笑っていたレモナ。

 そんなにあのレモナとは、悪人だと言うのだろうか。


( ´ー`)(……フツウのメスにしか見えネーヨ……?)


17 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:30:09.42 ID:9zhSEEPqO


|゚ノ ^∀^)「ミセリちゃん朝よ? 起きられるかしら?」

ミセ*--)リ「んぁ……ん……?」

|゚ノ ^∀^)「朝よ、あ! さ! ほらほら、ご飯もあるわよ?」

ミセ*--)リ グキュルルル

ミセ*゚ー゚)リ パチリス

|゚ノ ^∀^)「おはよ、ミセリちゃん」

ミセ*゚ー゚)リ「お、おはよ、ござます!」

|゚ノ ^∀^)「無理しなくて良いわよ? 気楽にして、あなたは怪我人なんだから」

ミセ*゚ー゚)リ「お……おはよ!」

|゚ノ ^∀^)「はいはい、おはよ! 動ける?」

ミセ*゚ー゚)リ「んと、どうだろ……」


22 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:34:14.68 ID:9zhSEEPqO

 寝ぼけていたミセリを叩き起こす、食欲の湧く良い匂い。
 それにつられて目を開いたミセリは、心配そうに覗き込むレモナに微笑んだ。

 そして右腕に力を入れて、ずれて横たわっていた体を持ち上げる。
 なんとか座る体勢になったミセリの膝に、
 スープとお茶の乗ったトレイを乗せて、スプーンを差し出す。


|゚ノ ^∀^)「食べる? それとも食べさせる?」

ミセ*゚ー゚)リ「食べる!」

|゚ノ ^∀^)「無理はしなくて良いのよ?」

ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫、ミセリへーき!」

|゚ノ ^∀^)「んもぅ……あ、ちょっと腕の包帯取るわね?」

ミセ*゚ー゚)リ「ん!」


24 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:38:03.74 ID:9zhSEEPqO

 右手でスプーンを受け取り、左腕をレモナに託した状態で
 いただきますと片手で合図し、スープを口に運んだ。

 口の中いっぱいに広がる野菜の優しさと肉の風味、塩のまろやかさ。
 それらがうまく溶け合って、素晴らしい味を産み出していた。
 胃に優しい薄味のお陰でいくらでもいける、とミセリは幸せそうに口に運ぶ。


 それを嬉しそうな顔で見ながら、
 レモナはミセリの左腕に巻いた包帯を外して、傷の具合を見る。

 布と薬草をはがして傷を見れば、そこにはまだ生々しい肉の裂け目。
 しかし皮膚同士が柔らかく絡まりあい、くっついてる所がいくつかあった。

 もう少しね、と傷に薬を塗り直し、
 薬草と布を新しいものに変えてから、包帯を巻き付けた。

 こういった処置は久し振りだったが、腕は衰えていない。
 それを確認したレモナは少しばかり嬉しそうに、少しばかり切なそうに笑う。


26 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:42:20.45 ID:9zhSEEPqO

ミセ*゚ー゚)リ「……ありがと、レモナさん」

|゚ノ ^∀^)「レモナで良いわ? ミセリちゃん」

ミセ*゚ー゚)リ「ん……レモナ」

|゚ノ ^∀^)「なあに?」

ミセ*゚ー゚)リ「ありがと、怪我、なおしてくれて」

|゚ノ ^∀^)「ふふ、怪我人が居たら出来るだけの事をする、当たり前の事よ?」

ミセ*゚ー゚)リ「レモナかっこいー……お医者さん?」

|゚ノ ^∀^)「……ううん、ううん……────ただの、悪人」

ミセ*゚−゚)リ「へ……」

|゚ノ ^∀^)「ああそうだ、少し傷が残っちゃうかも知れないの……ごめんなさい」

ミセ*゚−゚)リ「う、ううん……へーき……腕くっついただけで……」


30 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:46:20.88 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「ごめんね、女の子の体なのに……背中の傷も少し残りそうだし……」

ミセ*゚ー゚)リ「良いよそんなの、手当てしてくれただけでも十分だもん!」

|゚ノ ^∀^)「ありがとう……でも、ごめんなさい」

ミセ*゚ー゚)リ「……」

|゚ノ ^∀^)?

ミセ*゚ー゚)リ「レモナ、笑ってるけど、けっこー陰気?」

|゚ノ;^∀^)そ

ミセ*゚ー゚)リ「なんか変な感じ、無理して笑ってんの?」

|゚ノ;^∀^)「え、え? え?」

<;ヽ`∀´>「ミセリ……」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、おいっすニダー!」


31 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:50:10.11 ID:9zhSEEPqO

<;ヽ`∀´>「ミセリ、ほぼ初対面でそれはないニダ……」

ミセ;゚ー゚)リ「あ、ご、ごめ……」

|゚ノ;^∀^)「う……ううん……」

ミセ;゚ー゚)リ

|゚ノ;^∀^)

<;ヽ`∀´>

        モギ
<ヽ`∀´>っ;) )リ そ


  _,,
ミセ;#)Д゚)リ「な、何をするだァッ!? モギリって何だあ!?」

<ヽ`∀´>=3 ホッ
  _,,
ミセ;#)Д゚)リ !?


34 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:54:08.26 ID:9zhSEEPqO
  _,,
ミセ;#)Д゚)リ「……りふじん……じゃない……?」

<;ヽ`∀´>「あ、ご、ごめんニダ……最近その顔を見てない気がして……」
  _,,
ミセ;#)Д゚)リ「なに人の顔モギリして落ち着いてんのよ……」

<;ヽ`∀´>「な、なんかミセリが大人しくて調子が狂ったんニダ……」
  _,,
ミセ;#)Д゚)リ「こんなろぅ……」

|゚ノ ^∀^)「ふ、うふふっ……ふふふふっ……」
  _,,
ミセ;#)Д゚)リ「わ、笑われた!」

|゚ノ ^∀^)「ごめんなさ……ふふっ、あはははっ」
  _,,
ミセ;#)Д゚)リ「せ、責任取れようニダー……」

<;ヽ`∀´>「ご……ごめんニダ……」


37 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 21:58:23.39 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「あは、あはっ、あはははっ!
     ……はー、それくらい元気なら大丈夫ね、向こうの部屋に行ける?」

  _,,
ミセ;#)Д゚)リ「お、おうよ……まだふらふらするけど……」

|゚ノ ^∀^)「いっぱい血出したものね、ご飯の後にこのお薬飲んでね?」
  _,,
ミセ;#)Д゚)リ「うわ! またあの苦いのだ!」

|゚ノ ^∀^)「鎮痛剤だけど血を作るのを手伝う効果もあるのよ、
     今痛くないのはこのお薬のお陰だから、無茶しちゃダメよ?」
  _,,
ミセ;#)Д゚)リ「は、はーい……無茶したらどうなんの?」

|゚ノ ^∀^)「取れるわ」
  _,,
ミセ;#)Д゚)リ「取れる!? 何が!?」

|゚ノ ^∀^)「腕」
  _,,
ミセ;#)Д゚)リ「こえぇ!!」


40 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:02:07.06 ID:9zhSEEPqO

 食事を終えて少し経った頃、皿洗いをするネーノ達が待つ居間に
 レモナとニダーに手を貸してもらいながら、ミセリがやって来た。

 左腕を吊り、上半身は包帯だけと言う痛々しい姿。
 けれど顔色もよく、いつもと変わらないその表情。

 それを見たノーネが手を拭いて、ミセリの元へと駆け寄ってきた。


(;ノAヽ)「ミセリ!」

ミセ*゚ー゚)リ「おいっす!」

(;ノAヽ)「おいっすじゃないノーネ! 大丈夫なノーネ!?」

ミセ*゚ー゚)リ「へーきへーき、レモナのお陰で元気!」

(;ノAヽ)「の、ノネ……」

ミセ*゚ー゚)リ「心配した?」

(;ノAヽ)「べらんめぇ!」
  _,,
ミセ;゚Д゚)リ「べらんめぇ!?」


44 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:06:34.33 ID:9zhSEEPqO

( ´ー`)「はしゃいでないで座れヨ、もげるぞ」
  _,,
ミセ;゚Д゚)リ「き、きにしてるんだから言わないで……」

( [)「ゴェェ?」

ミセ*゚ー゚)リ?

( ´ー`)「もげるのかって」
  _,,
ミセ;゚Д゚)リ「もげない! もげない!!」

( `ー´)「ロケットパーンチってなるんじゃネーノ?」
  _,,
ミセ;゚Д゚)リ「なるかぁ!! ってネーノが居る!! 久しぶり!!」

(;`ー´)「おせぇ……」

|゚ノ ^∀^)「ほらほら座って、暴れるともげちゃうわよ?」
  _,,
ミセ;゚Д゚)リ「座るからもげない! 止めてよみんなしてもぐの!!」


48 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:10:25.67 ID:9zhSEEPqO

ミセ*゚ー゚)リ「んっしょ、と……ネーヨ失礼しまーす」

( ´ー`)「はいヨ」

<ヽ`∀´>「ところで、腕はどれくらいで完璧にくっつくニダ?」

|゚ノ ^∀^)「んー……三日くらい?」

<;ヽ`∀´>「早っ! ……ぇ……早っ!!」

ミセ;゚ー゚)リ「そ、そんな簡単にくっつくもんなの……?」

|゚ノ ^∀^)「ううん、普通はもっとかかるけど……」

( `ー´)「レモナだから早いんだよ、レモナだからな」

ミセ*゚ー゚)リ「へ……」

|゚ノ ^∀^)「ネーノ君……」

( `ー´)「……」


53 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:14:33.93 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「……」

( ノAヽ)「……」

|゚ノ ^∀^)「……ね」

ミセ*゚ー゚)リ「ん?」

|゚ノ ^∀^)「レモナの昔話……聞いて、くれるかしら……?」

ミセ*゚−゚)リ「へ……?」

|゚ノ ^∀^)「レモナが、憎まれてる理由……」

( ノAヽ)「ノーネが……こいつ、キライな理由なノーネ」

ミセ*゚−゚)リ「ノー……ネ」

( ノAヽ)「ナッコ」

ミセ;゚−゚)リ「は、はいよ……」


56 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:18:27.98 ID:9zhSEEPqO

 膝の上にノーネを乗せて、ミセリはなんとなく、察する。
 何か重い話をする事、ノーネ達に関する、大事な話をする事。

 ネーヨの体にもたれ掛かりながら、ノーネを右腕で抱く。
 腕の中の小さな体は、僅かに震えていた。


 皿洗いを終え、手を拭いてネーノ窓際のが椅子に座る。
 それに続いてニダーも床に座り込み、ネーヨの尾を膝に乗せた。

 ネーヨの頭の上ではビコーズが静かに鎮座していて、
 皆が、レモナの話を聞く体勢に入る。


 ぐるりと部屋を見回して、レモナはエプロンを外し
 結い上げていた髪を下ろしてから、台所に近い椅子に腰掛けた。

 言葉を探す様に目を瞑って、息を吐く。
 どう話始めようか、少し考えている様だった。

 そして少しの間を置いて、口を開いた。


64 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:22:24.83 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「森の生き物……森の人には、いくつかの種族が居るのは知ってる?」

( ´ー`)「チビみてーに耳の垂れたのとか、かヨ?」

|゚ノ ^∀^)「そう、そしてレモナは、ごく一般的な種族なの。
     あなた達も会った事がある様な、普通の森の人」

<ヽ`∀´>「ウリみたいな、森の人ニダ?」

|゚ノ ^∀^)「そう、レモナはニダー君と同じ種族」

ミセ*゚ー゚)リ「あれ…………でも、ずいぶん違うよ? エラとか」

<;ヽ`∀´>「ウリのはただの個人差ニダ……」

ミセ;゚ー゚)リ「あ、ごめ」

|゚ノ ^∀^)「ニダー君は個人差……でもレモナには、髪がある……でしょ?」

ミセ*゚ー゚)リ「う、ん……」


69 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:26:09.14 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「一般的な森の人には、レモナみたいに髪がある子が稀に産まれるの」

( `ー´)「でもそれはごく稀で、滅多に産まれねーんだよな」

|゚ノ ^∀^)「えぇ……でも、十人に一人……もっと少ないわね
     それでも、ごく小さな集落が出来るくらいには、産まれるわ」

ミセ*゚ー゚)リ「……それ、で?」

|゚ノ ^∀^)「髪のある森の人……有髪族は、滅多に産まれない
     そして、その姿は異形……だから、悪魔の子だとか、呼ばれるの」

ミセ*゚−゚)リ「あく、ま……?」

|゚ノ ^∀^)「同じ姿が大勢居る中に外見の違うモノが居たら、それは異端
     しかもノーネ君達みたいに、特定の種族ではないモノ」

( `ー´)「俺達はラムダ族で、ちゃんと村もある種族だからな」

|゚ノ ^∀^)「……有髪族は元々、普通の森の人から産まれたモノ
     だからこその異端で、その容姿は、迫害されるのに十分なモノ」

ミセ ゚−゚)リ「っ!」


71 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:30:04.61 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「白の中に黒が一つだけあれば、
     周りの白が染まらないように、弾き出される」

ミセ ゚−゚)リ「……」

|゚ノ ^∀^)「レモナもまた、今まで産まれた有髪族と同じ様に
     迫害されて、異端だと罵られて、村を追われたわ」

( [)「ゴェ」

( ´ー`)「俺達ちんじゅーには縁遠い話だヨ、ビコーズ」

( [)「ゴェェ……」

ミセ ゚−゚)リ「……そんなの、ひどいよ……元々は仲間なのに」

|゚ノ ^∀^)「そう、ね……でもね、レモナは一人じゃなかった」

( ノAヽ)「……村長」

|゚ノ ^∀^)「そ……ノーネ君達の村の村長、モナー君が居たの」


73 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:34:28.52 ID:9zhSEEPqO

<ヽ`∀´>「モナーって……あの、純血種のニダ?」

ミセ ゚−゚)リ「純血種?」

<ヽ`∀´>「体が白い森の人は、純血種って言われるニダ
      元々はみんな白かったけど時間が経つごとに色が変わっていって」

|゚ノ ^∀^)「体が白い森の人は稀有で、一番偉いって事になるの」

<ヽ`∀´>「ニダ」

( ´ー`)「めんどくせーなオマエら」

|゚ノ ^∀^)「恐竜は恐竜、妖精は妖精で大きくは変わらないものね」

( ´ー`)「ん、だから種族争いってのがよくわかんねーんだヨ
      妖精は朝産まれたか夜産まれたかで見た目が変わるだけだしヨ」

( [)「ゴェ」

( `ー´)「恐竜とかは平和主義だから、余計じゃネーノ?」

( ´ー`)「楽ちんだヨ」

( [)「ゴェ」


74 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:38:19.05 ID:9zhSEEPqO

ミセ ゚−゚)リ「でも、レモナ……」

|゚ノ ^∀^)「ン?」

ミセ ゚−゚)リ「…………レモナも……白い、よ?」

|゚ノ ^∀^)「……そう……なの…………だから余計に、風当たりが強かったわ」

ミセ ゚−゚)リ「ぁ、」

|゚ノ ^∀^)「村を追い出されても、モナー君は様子を見に来てくれた
     純血種と異端児が一緒に居るなんて、っていつも怒られてたけどね」

( `ー´)「村長、人の話なんて聞かないけどな」

|゚ノ ^∀^)「そ、だから毎日毎日来てくれた
     家に閉じ込められても抜け出して、顔に似合わずアクティブだったわぁ」

( `ー´)「うわー、若い頃から全然かわってねーんじゃネーノ……」

|゚ノ ^∀^)「相変わらずなの?」

( `ー´)「相変わらずなの」

|゚ノ ^∀^)「あははっ、モナー君らしいわぁ」


76 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:42:08.87 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「ふふっ、でね、のろけちゃうんだけど……
     レモナ、モナー君と恋人同士だったのよ?」

ミセ*゚ー゚)リ「こ、恋人どーしっ?」

|゚ノ ^∀^)「そっ! 禁断の恋なのよ、禁断の恋!
     追っ手を蹴散らして、凛々しい顔でレモナの手を取って……僕のこど」

(;`ー´)「次! 次!」

|゚ノ ^∀^)「えー、良いとこなのにー……」

ミセ*゚ー゚)リ「にー……」

<;ヽ`∀´>「と、取り敢えず次に……」

|゚ノ ^∀^)「しょうがないわねぇ……そこから禁断のお付き合いが始まって
     ラッブラブの逢瀬なんかを楽しんじゃってたの、もう昔のコトだけどね」

ミセ*゚ー゚)リ「レモナ何歳?」

|゚ノ ^∀^)「聞かないの」


78 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:46:18.41 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「まぁ長くは続かなかったけどね、ラブタイフーンも」

<;ヽ`∀´>「タイフーン……じゃなくて、何があったニダ?」

|゚ノ ^∀^)「他の有髪族がね、見つかったの
     と言うか、レモナが見つけられたのね」

 ( [)
( ´ー`)「連れてかれたのかヨ?」

|゚ノ ^∀^)「ご名答、有髪族の小さな小さな集落に連れてかれたの
     半ば強制的に、村の近くに作ったお家からお引っ越しよ」

ミセ ゚−゚)リ「モナーさんは……? なにも、言わなかったの?」

|゚ノ ^∀^)「居場所が見つかって良かったね、って
     村の近くに居るよりは安全だし、落ち着けるはずモナだって」

( ノAヽ)「……じょうぜつなノーネ」

|゚ノ ^∀^)「そう、かしら?」


80 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:50:18.34 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「それでレモナは有髪族の仲間に、モナー君は村の仲間に引っ張られて
     愛する二人は離ればなれで、もう会うコトもなく……」

ミセ ゚−゚)リ「レモナ……」

|゚ノ ^∀^)「まぁ再会はするけど、それはもっと後のお話ね。
     それからレモナは、有髪族の集落で過ごすコトになったわ」

<ヽ`∀´>「有髪族の集落……どれくらいのヒトが、住んでたニダ?」

|゚ノ ^∀^)「そうねぇ……十数人、かしら?
     数は少なかったけど、みんな生き生きしてたわ」

( [)「ゴェ?」

( ´ー`)「それから増えるコトは、あったのかヨ?」

|゚ノ ^∀^)「無かったわ、レモナが最後の仲間入り
     みんなレモナが来た時は、喜んでくれたのよ」

ミセ ゚−゚)リ「何で?」

|゚ノ ^∀^)「純血種に限りなく近い有髪族だ、ってね
     新入りだったのに、有髪族のリーダーに祭り上げられるくらい」


83 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:54:10.40 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「レモナが仲間に入って、みんなが今までどんな目にあってたか
     夜通し語り合ってたわ。モナー君のコトは言えなかったけど」

( `ー´)「まあ、そりゃそうだ」

|゚ノ ^∀^)「それで、まぁしばらくは平和に過ごしてたんだけど」

<ヽ`∀´>「けど?」

|゚ノ ^∀^)「みんな、他の森の人を憎んでたのよ
     有髪族を迫害しないヒトなんて、滅多に居なかったしね」

<ヽ`∀´>「あ……」

|゚ノ ^∀^)「そんな時に、見つけたの
     森に紛れ込んだ、ニンゲンのモノを」

ミセ ゚−゚)リ「っ!」


85 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 22:58:14.71 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「本当はニンゲンのモノを見付けたって、
     ただのガラクタとしか扱わない、どう使うかを分からないから」

( `ー´)「……」

|゚ノ ^∀^)「でも、有髪族は違ったの。
     他の森の人にはない、ちょっぴり特別なモノがあったからよ」

ミセ ゚−゚)リ「特別な、モノ?」

|゚ノ ^∀^)「有髪族はね、頭が良かったの。
     道具を作ったり使ったりするコトに、凄く秀でてたのよ」

( `ー´)「けど、有髪族は」

|゚ノ ^∀^)「……寿命が短い、ね」

ミセ ゚−゚)リ「そう、なの?」

|゚ノ ^∀^)「えぇ、普通の森の人の半分も生きられないし、病気に凄く弱かった
     変に優れたモノを持つモノは、早死にするってコトなのかしらね」


88 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:02:20.86 ID:9zhSEEPqO
|゚ノ ^∀^)「そのニンゲンのモノを、レモナ達はいともたやすく扱えた
     それは、今では誰もが簡単に扱えるけれど、昔は誰も扱えなかった」

<ヽ`∀´>「それ……は?」

|゚ノ ^∀^)「ナイフよ、刃物。
     最初は恐ろしかったけど、あっという間に使いこなして量を増やしたわ」

( `ー´)「へぇ……アレを最初に使ったのは、レモナ達だったのか……」

|゚ノ ^∀^)「便利でしょ? 使いやすく小さくしたのが広まったのよ」

( ´ー`)「小さく?」

|゚ノ ^∀^)「小さく、最初のナイフはもっともっと大きかったのよ」

ミセ ゚−゚)リ「どれくらい大きかったの?」

|゚ノ ^∀^)「んー……取り敢えずレモナ達よりは大きかったかしら?
     持ってが黒くてわっかがはまってて、紐の付いた木の蓋があったわ」

(;`ー´)「で、でけぇ……」

|゚ノ ^∀^)「あ、でも刃の太さはそんなに変わらないのよ?
     最初のは細長かったの、縦にしゅーって、変なナイフよね」
  _,,
ミセ;゚Д゚)リ「それ…………えぇ……」


92 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:06:40.49 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「それから、そのナイフの小さいのをたくさん作ってね
     便利だったわよ、最初こそは怪我をしたけど、ご飯も楽に作れたし」

( ノAヽ)「たしかに便利は便利なノーネ」

|゚ノ ^∀^)「ふふっ……役立ってるなら、良いんだけどね……」

ミセ;゚ー゚)リ「つ、使い方……だよね、うん」

|゚ノ ^∀^)「そうね……ヒトに向けるモノでは、無いわね……」


 ふと、レモナが遠くを見る様に眉を寄せた。
 その手は微かに震えていて、何かを思い出したのか、髪を揺らして俯く。

 そして先程までの、穏やかな表情を拭い去る。

 ここからが大事だと言わんばかりに、真剣な顔でノーネとネーノを見つめた。


95 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:10:16.66 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「ある日、ね……ある日、そうね……
     何の前触れもなく、仲間が死んだわ」

ミセ ゚−゚)リ「へ、」

|゚ノ ^∀^)「寿命だったのね、きっと
     ある朝、突然動かなくなっていたわ」

( ノAヽ)「とつぜん……?」

|゚ノ ^∀^)「えぇ、ホントに前触れもなく
     昨晩まで元気だったのに、朝起こしに行ったら、死んでいた」

( ´ー`)「病気とかでは……ないのかヨ?」

|゚ノ ^∀^)「有髪族は病気に弱いの、だから誰かが病にかかったなら
     それは有髪族全員に広まって、あっと言う間にみんな死んじゃうわ」

( `ー´)「そんなに……」

|゚ノ ^∀^)「……でもみんなは健康で、死んだ子に外傷はなかった
     だからその子は寿命で死に、みんながその死の身近さに恐れたわ」


97 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:14:17.41 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ ^∀^)「誰もが死に対して敏感になって、ビクビクしてた
     次はいつ誰が死ぬかわからない、そんな恐ろしさに首を絞められて」

<ヽ`∀´>「……怖い、ニダ」

|゚ノ ^∀^)「レモナも、怖かった……自分が何歳かなんて、誰も覚えてなかったの
     歳とか時って概念が、欠落してたんでしょうね……」

( ´ー`)「それは、俺もわかるヨ。自分たちだけだと、わからなくなる」

ミセ ゚−゚)リ「ネーヨ……」

( ´ー`)「もともと恐竜は長生きだから、逆の立場だけどヨ……」

|゚ノ ^∀^)「他の種族と関わりがなくなると、そうなっちゃうのよね……
     ……そんな時、誰かが言ったの、とても真剣な顔で」

( ノAヽ)「……」


98 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:17:10.13 ID:9zhSEEPqO
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


  『復讐をしようよ』


 有髪族の一人が、仲間の埋葬を終えてから呟いた。

 周りに居た仲間は、彼女が何を言ったのか一瞬、理解できなくて
 皆が彼女を振り返り、目を丸くした。


|゚ノ ^∀^)「……今……なん、て……?」

爪 ゚−゚)「……復讐、しよう」

|゚ノ ^∀^)「何を言ってるの? 誰に、どう、復讐するの?」

爪 ゚−゚)「私たちを虐げた彼らに、この手で」

|゚ノ;^∀^)「じぃっ! いきなり何をっ!」

爪 ゚−゚)「いきなりじゃない、私はずっと考えてたよ」


100 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:20:31.40 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ;^∀^)「じ……ぃ?」

爪 ゚−゚)「私たちは寿命が短い、それはわかってるでしょう」

|゚ノ;^∀^)「わかってる、けど……」

爪 ゚−゚)「その短い寿命の中、私たちは彼らに迫害されていた」

|゚ノ;^∀^)「そうだけど、でも……」

爪 ゚−゚)「私たちがここでひっそり死んでも、彼らの中に私たちは残らない
     残ったとしても、それは下等生物として」

|゚ノ;^∀^)「じぃ、止めて……どうして、そんな……」

爪 ゚−゚)「これは誰もが抱いていた事よ、レモナ
     けど口に出せなくて、出すタイミングが無くて言わなかっただけ」

|゚ノ;^∀^)「ならっ!」

爪 ゚−゚)「今しか、言えないのよ、レモナ」


102 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:23:07.84 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ;^∀^)「じぃ……」

爪 ゚−゚)「次は誰が、いつ死ぬかわからない
     私は、ただ怯えながら朽ちるのは嫌」

∬´_ゝ`)「だから、復讐したいって言うの?」

|゚ノ;^∀^)「姉者さんっ」

爪 ゚−゚)「私は彼らに知らしめたい、彼らに、私たちの存在を
     それがどんな形でも私は構わない」

∬´_ゝ`)「何を言ってるか分かってるの? あなた」

爪 ゚−゚)「もちろん
     彼らの頭に、私たちの力を刻み付けてやりたい」

∬´_ゝ`)「……」

|゚ノ;^∀^)「じぃ……そんな……」


105 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:26:10.97 ID:9zhSEEPqO

 帽子を被った有髪族の一人が、拳を握りながら言い放つ。

 それを聞いた仲間が止めに入ろうとするが、
 彼女の言葉の強さに、それを止める事は出来なかった。

 戸惑いを隠せないレモナと、その前に立つ、姉者と呼ばれた有髪族。

 何か反論をしようと言葉を探すが見つからなくて、
 レモナが視線を地面に向けていると、仲間の一人が口を開いた。


瓜 ゚∀゚)「賛成、だね」

|゚ノ;^∀^)「っ! づー!?」

瓜 ゚∀゚)「じぃが言うようにさ、あたしたちはアイツらに虐げられてきた
     あの虫けらでも見る様な目を、あたしは忘れた事、ないね」

|゚ノ;^∀^)「で、でもっ」

瓜 ゚∀゚)「少しでも、目に物見せてやりたいね、あたしは
     ざまぁみろって、笑いながら言ってやりたい」


107 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:29:27.99 ID:9zhSEEPqO

 その言葉に釣られて、他の有髪族も頷いた。

 確かに自分たちは、本来仲間であるはずの森の人達に迫害されてきた。
 石を投げられ、罵倒され、村を追い出された。

 運良くこの集落に辿り着いた者は良いが、そうでない者も多数居た筈だ。
 その有髪族はきっと森の中で野垂れ死ぬか、森の人にくびり殺されただろう。

 そんな仲間達を思えば、余計に許せない。
 ただ見た目が少し違うだけ、それだけの理由でこんな目にあわされた。


 レモナと姉者を除く有髪族が、怒りに目を染めている。
 震えながら憤り、復讐しようと声高く叫んでいる。

 その様子に怯えるレモナと、ただ無表情に見つめる姉者。

 じぃと呼ばれた有髪族が、二人に向き直った。


110 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:33:14.57 ID:9zhSEEPqO

爪 ゚−゚)「復讐しよう、皆で、力を合わせて」

|゚ノ;^∀^)「ぁ、あ」

瓜 ゚∀゚)「レモナ、あたしたちのリーダー、決断してくれ」

|゚ノ; Д )「あぁ……ぁ……レモナ、は……レモナは……っ」

爪 ゚−゚)「レモナ、純血たる私たちのリーダー、決断して」


 真摯な眼差し、意思の強い皆の目。
 それを見ていると、レモナは拒絶が出来なかった。

 彼女たちの気持ちは痛いほどわかる。
 レモナも同じ様に虐げられ、村を追われた身。

 けれどレモナには、あの彼が居る。
 彼を思えば、復讐なんて出来ない。

 ああ、けれど、けれどこの同じ傷を持つ仲間たちを否定する事も出来ない。

 もう、強く言われれば簡単に押し切られてしまう。


|゚ノ; Д )「レモナはっ……レモナは、っ」

∬´_ゝ`)「はい、そこまで」

113 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:36:14.10 ID:9zhSEEPqO

 言われるがままに頷くか、否定の言葉を叫ぼうとしたのかはわからない。
 けれどそんなレモナを庇う様に、姉者が長く波打つ髪を揺らして、立ちはだかった。

 じぃが眉を寄せ、長身の彼女を睨む様に見上げる。

 まさか拒絶するのか、と罵らんばかりのその眼差し。
 それに対しても無表情で、姉者はじぃを見下ろして肩を竦めた。

  _,
爪 ゚−゚)「姉者……?」

∬´_ゝ`)「レモナが戸惑ってるでしょう、決断を急がせ過ぎよ」

瓜 ゚∀゚)「……レモナが嫌がってるっての?
     レモナはあたしたちのリーダーだよ?」

∬´_ゝ`)「リーダーだから決断しづらいんでしょ、馬鹿ね」

瓜#゚∀゚)「なっ! ……レモナっ!」

|゚ノ; − )「ひっ……ぅ」

∬´_ゝ`)「ほらリーダーをいじめないの、まだこの子は若いんだから」


115 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:39:15.90 ID:9zhSEEPqO

爪 ゚−゚)「…………けど、姉者」

∬´_ゝ`)「それに、リーダーだからこそ悩むって言うのは
     あんたたちが傷付く事を心配して、って事でもあるのよ?」

瓜 ゚∀゚)「あ……レモナ……」

|゚ノ; − )「……」

∬´_ゝ`)「もう少し時間をあげなさい
     リーダーに苦しい決断を急がせてあげないの」

爪 ゚ー゚)「……分かった、ごめんなさい、レモナ」

瓜 ゚∀゚)「ご、ごめん……レモナはリーダーだもんね……」

|゚ノ; − )「うう、ん……レモナが……悪いの……」

爪 ゚−゚)「でもレモナ、……私たちは、自分の意思を曲げない」

|゚ノ; − )「…………わか……た……」

∬´_ゝ`)「さ、今日はもう戻りましょ、レモナの返事は明日に、ね?」


116 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:42:20.25 ID:9zhSEEPqO


 姉者の言葉に皆が従い、各々の家へと戻って行く。
 じぃやづーも家に戻って、その場に残されたのはレモナと姉者だけ。

 姉者に背を押されて、レモナがふらふらと歩き出す。

 そしていつもなら数分もかからずに着く筈の家に、
 たっぷり五分ほどかけて、辿り着いた。


|゚ノ; − )「…………」

∬´_ゝ`)「……レモナ」

|゚ノ; − )「は、ひ……」

∬´_ゝ`)「あなた、村に家族でも居るの?」

|゚ノ; − )「っ!」


118 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:45:42.29 ID:9zhSEEPqO

∬´_ゝ`)「……家族じゃなかったら、恋人かしら
     何にせよ、身近な誰かが居るわけ、ね」

|゚ノ; − )「な、で……ですか?」

∬´_ゝ`)「私と同じだから、だから復讐したがらないんでしょ?」

|゚ノ; − )「姉者さん……も……?」

∬´_ゝ`)「えぇ、バカな弟が二人。ま、私が村を出たのは
     あの二人が産まれてすぐだったから、向こうは私の事を知らないけど」

|゚ノ; − )「…………」

∬´_ゝ`)「どうするの? レモナ」

|゚ノ; − )「……姉者さんは……どう……?」

∬´_ゝ`)「一応、参加するわ
     そして、二人を守って死ぬ」


120 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:48:17.85 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ; − )「…………姉者さん……」

∬´_ゝ`)「他の人たちには虐げられたけど、
     少しくらいは、姉らしい事をしてあげたいじゃない?」

|゚ノ; − )「……向こうが、姉って、知らなくても……ですか?」

∬´_ゝ`)「えぇ、知らなくても。それが私なりの意地よ、意地」

|゚ノ; − )「…………」

∬´_ゝ`)「……どうする?
     このまま皆と復讐するか、それとも裏切り者と罵られるか」

|゚ノ; − )「レモナ……は、」

∬´_ゝ`)「ま、私はあなたが逃げ出しても責めないけどね」


124 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:51:15.08 ID:9zhSEEPqO

 姉者の言葉はひどく優しくて、レモナの迷いを逃げる方向へ傾ける。

 お茶を淹れながら、背を向けて強い意思をはっきりと示す姉者。
 こと、とお茶が入ったカップをレモナの前に置いて、椅子に腰掛ける。

 深く俯いたまま、レモナは顔を強張らせる。
 その頭を撫でたい衝動を抑え込み、姉者は静かにその姿を見つめていた。


 復讐したくないと言えば嘘になる。
 けれど元恋人である彼を傷付けなくはない。

 だからと言って、復讐しないと言う事も難しい。

 姉者が言った様に、仲間の事も心配だし
 このまま放っておけば、彼女たちはレモナを抜いて復讐するだろう。

 祭り上げられただけとは言え、自分は有髪族のリーダー。
 そのリーダーが、仲間を捨てて逃げる事なんて出来やしない。

 けどこの手を、普通の森の人より長けた能力を
 誰かを傷付ける為に使うのは、苦痛でしかなかった。


128 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:54:53.46 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ; − )「……姉者、さん」

∬´_ゝ`)「なあに?」

|゚ノ; − )「レモナ……お薬を使うのが、上手……ですよね?」

∬´_ゝ`)「えぇ、あなたはこの集落きっての名医だしね」


 レモナの手は、薬を上手く扱えた。

 他の有髪族よりも上手く薬を調合出来たし、医者の様に怪我や病にも詳しかった。

 それはレモナも自負していたし、皆も信頼を寄せていた。


|゚ノ; − )「レモナ……モナー君がよく怪我するから……
     だから、そう言うのに詳しくなって……手当てしてあげてて……」

∬´_ゝ`)「……」

|゚ノ; − )「モナー君、喧嘩っ早いし……無茶するから、いつも怪我してて
     だから、だからレモナ……その怪我を治してあげてたの……」

∬´_ゝ`)「レモナ……」


130 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/19(日) 23:57:10.59 ID:9zhSEEPqO

|゚ノ; − )「モナー君の怪我を治してあげるの、好きだった
     レモナがちょびっとでも役に立つのが、嬉しかった」

∬´_ゝ`)「レモナ、あなた…………」

|゚ノ; − )「だから、怪我とかお薬に詳しくなったの……
     お薬に詳しくなると、病気にも詳しくなって」

∬´_ゝ`)「…………」

|゚ノ; − )「それで、ここに来てからもレモナ、みんなの怪我や病気を治したわ
     役立てたし、みんな喜んでくれた……誰かを助けるの、幸せだった……」

∬´_ゝ`)「……レモナ、」

|゚ノ; − )「その、助ける為の手で……レモナ……レモナ……
     ……ヒトを、殺さなきゃいけないの……?」

∬´_ゝ`)「……言ったでしょ、レモナ。逃げたって良いのよ?」

|゚ノ; − )「でもっ……でも、レモナはリーダーで……
     みんな、レモナを信頼してくれてる……裏切りたく、ない……」


132 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:00:11.99 ID:VaVCoL4cO

|゚ノ; − )「でもレモナ、誰も傷付けたくはなくて……でも逃げられなくて……」

∬´_ゝ`)「……」

|゚ノ; − )「レモナ、…………レモナ……っ」

∬´_ゝ`)「シャキッとなさい、リーダー」

|゚ノ; − )「っ」

∬´_ゝ`)「良い? レモナ……あなたはここで、一番若いの
     私としては、若いあなたに死んでほしく無いのよ」

|゚ノ; − )「でも……」

∬´_ゝ`)「どっちでも好きな方を選びなさい
     そして、死なない様に生きなさい」

|゚ノ; − )「死なない……様に……」

∬´_ゝ`)「そ、死なない様に
     それとも何? 私に決めてほしかったの? 優柔不断なリーダーさん」


135 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:03:15.70 ID:VaVCoL4cO

 誰かが決めてくれたなら、どれだけ楽だっただろう。

 微かに湯気がゆらめくカップを両手で握り締め、レモナが唇を噛む。

 選ばなきゃいけない。
 元恋人として、医者として、リーダーとして。

 選んで、その道で生きなければいけない。


 たっぷりの時間を置いてから、レモナがやっと口を開く。


|゚ノ − )「─────ぅ」

∬´_ゝ`)「え?」

|゚ノ − )「レモナ─────戦う」

∬´_ゝ`)「……良いの?」

|゚ノ − )「戦う、わ……レモナは、リーダーだもの」


138 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:06:12.52 ID:VaVCoL4cO

∬´_ゝ`)「レモナ……」

|゚ノ − )「良いの……良いの、良いのよ……
     誰も傷付けたくないし、モナー君を愛してる……けど、ね」

∬´_ゝ`)「……」

|゚ノ − )「レモナは、みんなを見捨てたりなんか、しない」

∬´_ゝ`)「……後悔、しない?」

|゚ノ − )「するわ、きっと。でも、しちゃいけないから」

∬´_ゝ`)「…………バカ、ね」

|゚ノ − )「……自分でも、そう、思うわ……」

∬´_ゝ`)「今なら引き返せるのよ?」

|゚ノ − )「引き返さないわ、だってレモナは優柔不断で甘ったれだから
     今、引き返しちゃったら、後はもう逃げる事しか出来ないもの」

∬´_ゝ`)「優柔不断の癖に、頑固で意地っ張りなのね……バカな子、だわ」


140 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:09:10.19 ID:VaVCoL4cO

 温くなったお茶を一気に飲み下し、レモナが大きく息を吐いた。


 選んだのは、悲惨な目にあってきた仲間を守る、リーダーとしての道。

 もう引き返せない、後戻りは出来ない。
 レモナがヒトを救う事を止めた、その瞬間だった。


∬´_ゝ`)「レモナ、ちょっとおいでなさいな」

|゚ノ − )「?」

∬´_ゝ`)「……よしよし、まだギリギリ、泣いても良いわよ」

|゚ノ; − )「っ!」

∬´_ゝ`)「リーダーは泣いちゃいけないのよ、これから先、絶対に
     だから、泣くなら今のうちよ?」

|゚ノ; − )「…………姉者さん、は……意地悪……」

∬´_ゝ`)「年寄りだもの、老獪と言って?」

|゚ノ; − )「……言ったら、怒る……のに」

∬´_ゝ`)「当たり前よ、バカね」


141 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:12:24.79 ID:VaVCoL4cO

 姉者の腕に抱き締められてしまえば、固めた意地が脆くも崩れて行く。
 戦おうと決めた傍から、ぶわりと溢れ出す涙。

 決断したレモナに対する姉者の手は優しくて、何度も何度も頭を撫でた。


 姉者さんの意地悪と何度も呟き、その自分より大きな体にしがみつく。

 今だけ、今だけ。
 今だけは、泣いても良い。

 レモナは自分に言い聞かせ、姉者はレモナに言い聞かせ
 夜は静かに更けて行く。



 そうして涙が止まった頃に、レモナがやっと顔をあげた。

 赤くなった目元や鼻を擦って、はぁ、と息を吐く。
 声も無く泣いていたのに、不思議と喉が痛かった。


143 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:15:14.83 ID:VaVCoL4cO

∬´_ゝ`)「大丈夫? 顔、ぶっさいくになってるわよ?」

|゚ノ; − )「う、……ひ、ひどい……」

∬´_ゝ`)「ふふっ、冗談よ冗談……ほら、顔拭きなさいな」

|゚ノ; − )「はひ……」

∬´_ゝ`)「ね、レモナ」

|゚ノ; − )「はひ?」


     ビヨン
∬´_ゝ`)っ<|゚ノ; Д )そ


|゚ノ; Д )「え、え? え?」

∬´_ゝ`)「ほら笑いなさいな、ああもう頬っぺた掴みにくいわぁ」

|゚ノ; Д )(耳引っ張られたのかと思った……)


144 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:18:10.30 ID:VaVCoL4cO

∬´_ゝ`)「笑いなさい、リーダー
     仲間たちを、その意地っ張りの笑顔で引っ張りなさい」

|゚ノ; − )「笑う……って、言っても……」

∬´_ゝ`)「もう泣けないし後戻りも出来ない
     だから精一杯、笑いなさい。どうしようもなく重い物を背負って」

|゚ノ − )「……」

∬´_ゝ`)「それが、あなたの道よ。笑って、意地を張りなさい」

|゚ノ ー )「……はい、姉者さん」

∬´_ゝ`)「……おやすみなさいレモナ、明日から、忙しいからね」

|゚ノ ー )「はい、姉者さん……おやすみなさい」

∬´_ゝ`)「おやすみ、私たちのリーダー」


147 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:21:08.46 ID:VaVCoL4cO

 一人になった家の中、レモナは灯りを消して、ベッドに倒れ込んだ。

 ああ、重い。
 背中が重い、大変な物を背負ってしまった。

 けれどこれは自ら選んだ道だから、もう逃げられないのだ。

 これから何度も後悔して、泣きたくなるのだろう。
 けれど泣いてはいけない、リーダーは泣いてはいけない。

 泣いて良いのは、リーダーでなくなった時だけ。
 それは、死を意味する。


 レモナは自分の頬を掴んで、持ち上げた。
 わけもなく溢れそうになる涙を堪えながら、必死で笑顔を作る。


|゚ノ ー )「笑うの……笑うのよ、レモナ……笑って……」

|゚ノ ∀ )「ふ、ふふっ……あはぁははっ……ははぁっ…………はっ……」

|゚ノ ∀ )「っ……う、ぅぅぅぅっ……ぁ、あはっ……あは、ぅ……ぁ」



 背中が、重い。


150 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:24:11.92 ID:VaVCoL4cO


 翌朝、レモナが笑顔で復讐を宣言し
 仲間たちが、歓喜と怒りに声を上げた。

 それからはと言う物の
 武器を作り、作戦を練り、元は仲間である彼らをいかに殺すか話し合った。

 内心、逃げ出したかった、泣いて拒絶したかった。

 けれど似た気持ちを抱く筈の姉者が無表情に参加しているのを見ると
 自分はもう逃げられないし、仲間を支える事の大事さを知った。


 自分が支えなければ、彼女たちは暴動を起こしかねない。
 計画もなく飛び出して、ただひたすらに暴力を振るう。

 それだけは避けたくて、レモナは必死に自分を奮い立たせ、
 皆をまとめる為に、目一杯笑って嘘ばかりの余裕を振りかざす。

 自分が皆をまとめれば、皆も己を抑えられる。
 自分が指揮をとったなら、彼女らはそれに大人しく従う。

 今は、そうするしかなかった。


152 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:27:23.77 ID:VaVCoL4cO

 そうして、その日は訪れる。

 最初はごく普通の森の人の、村を襲った。


 十数しか居ない有髪族は、各々が作った刃物を握って、村へ襲撃した。

 その先頭には、長くぎらりと輝く刃物を握り、
 艶やかな金髪をなびかせて走る、レモナの姿。

 レモナの指示により、有髪族は刃を翻す。

 鬨の声を上げて駈ける有髪族。
 不意を討たれた森の人達は、為す術もなくその命を奪われて行く。


 森の中、有髪族の集落から一番近い場所にある村は
 あのモナーが居る村より小さくて、踏みにじるのはあまりにも簡単だった。

 そこは有髪族の一人、づーの生まれ故郷であるにも拘わらず
 彼女はそれを気にする事もなく、ただただ楽しそうに刃を振るうだけ。


153 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:30:30.97 ID:VaVCoL4cO

瓜 ゚∀゚)「はっ……はははっ! ざまぁみろッ!! はははははっ!!」

∬´_ゝ`)「づー、出過ぎよ」

瓜 ゚∀゚)「ははっ、あはははっ! ごめ、はっ、ぁははははははっ!!」


 けたたましい笑い声に重なる、村人の悲鳴。

 づーは薄茶の体を赤く染めて、刃を振るい続けていた。

 その余りにも狂的な姿を止めようと思ったのは最初だけで
 レモナは凛然とした態度でそれを見つめ、姉者は諦めた様に息を吐く。

 笑顔なのに感情を捨てた様な、レモナの姿。
 その場は彼女らにとっては戦場で、
 戦場で己の感情を出す様な事をしてはならないと、唇を噛んでいた。


 目の前で繰り広げられる惨劇。
 血と肉、臓物をぶちまけて断末魔の悲鳴を上げる森の人。

 甲高い笑い声を上げて血にまみれる仲間すら、
 本当はその場で嘔吐したい程、見るに堪えない物だった。


157 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:33:13.55 ID:VaVCoL4cO

 制圧は、あっという間だった。
 鏖殺によっての制圧。

 いとも容易く死に絶えた村人達は、有髪族に反撃する事もなく全滅したのだった。

 老人から子供まで、余すことなく殺し終えた。
 レモナや仲間の数人は、出来るだけ苦しませない為にと
 即死する様に、首を刎ね飛ばして殺すように心掛けていた。

 しかし有髪族の半数以上が、いかに惨たらしく殺すか楽しんで
 腹を裂き、手足を落として、苦しむ様を笑いながら踏みにじる。


 震える手を握って、集落へと引き上げたレモナ。

 自分が流させた血の温度とぬめりが、なかなか手から離れなくて。
 吐き気を必死で堪え、目眩に苛まれながら奥歯を噛み締めていた。


 そして頭の片隅で思った事は、
 「何かがおかしい気がする」


161 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:36:41.91 ID:VaVCoL4cO

 深夜、昼の虐殺に具合を悪くした者以外が、楽しげに宴をしていた。

 その宴も終わり、皆が血と酒に酔って眠りこけた頃
 レモナが一人、集落を出てふらふらと森を歩く。


 悲鳴が耳から離れない。
 血の臭いがまとわりつく。
 人を斬る感触はこの手に残ったまま、ちっとも消えやしない。

 しくしくと痛む胃を押さえ、宴にも参加できず、眠るにも眠れず
 疲れきった顔をしながら、レモナは気分転換に森を歩いていた。


|゚ノ; ∀ )「う……ぶ、ぅっ……けほっ……」


 昼の虐殺から喉に絡み付く吐き気が、今なおレモナを襲う。
 吐き出してしまえば楽なのだろうけれど、吐く事すら許されない。

 血肉の臭いに嘔吐するリーダーなど、情けない事この上ない。
 リーダーとして失格だ。

 ふらつくレモナを支えていたのは、自分はリーダーだと言う責任感だけ。


162 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:39:04.33 ID:VaVCoL4cO

 レモナがやっと足を止めて、木を背にへたりこむ。
 疲れた足に、未だ震える手。
 ああ、この手で人を殺したのか。

 自己嫌悪と罪悪感にいやと言うほど苛まれているのに
 不思議と、現実味がない。

 それはレモナにとっても不思議な事で。
 こんなにも手が震えているのに、何故だかひどく客観的な
 遠くで起きた出来事を、小さな映像として見ている様な感覚。

 実感がわかない。
 不思議、だった。


|゚ノ; ∀ )「は……ぁは……はは…………レモナも、おかしいのかしら……」


 ひとり呟いても、返事なんてあるわけがない。


 筈だった。


163 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:42:08.54 ID:VaVCoL4cO

 『どう……したの……?』

|゚ノ; ∀ )「ッ!? 誰ッ!?」

 『あ、ごめんなさい……驚かせて……少し、風に当たりに来ただけで……』

|゚ノ; ∀ )「……あなた、は?」

 『私、ラムダ族の…………』


 暗闇で、姿は見えなかった。
 その声はこもっていて、名前もよく聞こえなかった。

 けれど暗闇の中、レモナに話し掛けた高い声。

 向こうもレモナの姿が見えていないのか、有髪族に対し
 何の抵抗もなく、ごく普通に声をかけてその様子を心配している様だった。


165 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:45:22.99 ID:VaVCoL4cO

|゚ノ ^∀^)「ラムダ族……この辺りに、村があるの?」

 『うん……あなたのお家も、近く?』

|゚ノ ^∀^)「……えぇ、近く、よ」

 『どうしたの? 具合、悪、けほっ、の?』

|゚ノ ^∀^)「あなたの方が具合悪そうじゃない……どうしたの? 風邪かしら?」

 『わから、ない……何だか、だるくて……けほっ』

|゚ノ ^∀^)「風邪だったら大変だわ、早く治さなきゃ……熱はあるの?」

 『ん……少し、あるみたい……』

|゚ノ ^∀^)「食欲は? 吐き気なんかはある?」

 『食欲は、ない、かな……少し、吐きそう……』

|゚ノ ^∀^)「ダメじゃない! ちょっと待ってね、えぇと……」


169 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:48:17.95 ID:VaVCoL4cO

 レモナの指が手探りで、足元に生える草の形を見極める。
 その厚みや形、匂いで薬草だと判断すると、数枚ちぎる。

 そしていくつかの薬草を合わせて、声のする方へとゆっくり近付く。
 爪先が柔らかい何かに当たり、薬草を持っていない方の手でそれに触れた。

 その何か、誰かの前にしゃがむと、手を伸ばして顔に触れる。
 本人の言うように、熱が少しあるのか、体温が少しばかり高かった。

 撫でる様に頬に触れ、額に触れ、耳に─────


|゚ノ ^∀^)「…………ぇ、?」

 『あ…………』


 耳が、片方しか無かった。


171 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:51:09.94 ID:VaVCoL4cO

|゚ノ ^∀^)「あな、た……」

 『……大丈夫、耳は……ずいぶん前の事、だから……けほっ』

|゚ノ ^∀^)「そう、なの……?
     ……熱が高いみたいだから、これを煎じて飲んで?」

 『あ……あり、がと……』

|゚ノ ^∀^)「少しはマシになると思うから……」

 『ありがとう……あなた、名前は…………ぁ』

|゚ノ;^∀^)「あっ」


 誰かの額に手を当てていたレモナの髪が、前へと落ちた。

 その拍子に、長い髪は誰かの頬に当たって
 きゅ、と不思議そうに握られてしまった。

 驚いた様に途切れる、声。


173 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:54:10.56 ID:VaVCoL4cO

|゚ノ; ∀ )「あ、ち、違っ……これはっ……!」

 『…………あなた、有髪、族……?』

|゚ノ; ∀ )「っ!!」


 長い髪を握られ、感触を確かめるように撫でられる。

 暗闇で、声だけなら気付かれなかった筈なのに。
 レモナは少しだけ、自分の行動を悔いた。

 また、拒絶されるのか。
 醜いと罵られ、助けようとしたこの手で命を奪わねばいけないのか。

 モナーのお陰で仲間に比べれば傷は浅い。
 けれどそんなレモナですら、迫害される事は、トラウマでしかなくて。

 どうするか冷や汗を流して考えていると、
 誰かが、悲しそうに笑った気がした。


176 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 00:57:10.24 ID:VaVCoL4cO

|゚ノ; ∀ )「……へ、」

 『あなたも、苦しかった、のね……』

|゚ノ; ∀ )「え、え? アレ、アレ?」

 『……いじめられてきたん、でしょ? 私と……同じ……』

|゚ノ; ∀ )「っ!」

 『苦しかった……よね……私も、苦しかった……
  ……私は髪じゃなくて、耳……だけど…………』

|゚ノ ∀ )「あなた…………」

 『けほっ……ね、……名前、教えて……?』

|゚ノ ^∀^)「……レモナ、有髪族の、レモナよ」

 『レモナ……よろしく、レモナ……げほっ、けほっ』

|゚ノ ^∀^)「もう、無理せずに戻りなさい? これ以上は体に障るわ」

 『ん……ありがとう、レモナ……また、ね…………』


178 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:00:12.03 ID:VaVCoL4cO

 灯りも持たずに、ふらふらと戻って行く足音。
 薬草を渡せたレモナは、その見えない背中を見送ってから、自分も歩き出す。

 ぼんやりと歩いてきた道ではあったが、
 少し歩けば問題なく、自分がまとめる集落へ辿り着く事が出来た。

 広場では変わらず、酒に酔った仲間が眠っている。
 祝杯だと浴びる様に飲んでいたから、明日はきっと二日酔いだろう。

 レモナはその姿と、昼の彼女らの姿を重ねてみた。
 まるで同一人物とは思えないその姿が妙に愛しく感じて、少しだけ笑った。


|゚ノ ^∀^)「よい、しょっと…………次の襲撃はもう少し先だろうから……」


 自宅に戻るとレモナは机に向かい、本と羽ペンを取り出す。

 ページをぺらりとめくってみれば、
 そこには植物の絵と、ページのほとんどをびっしり埋め尽くす、文字。

 自分で作ったその本は、レモナの知識が詰まっていた。
 薬草の形から効能、味、副作用、使用方法。
 様々な知識が広がる本を、端から端まで頭にある知識と比較しながら読み漁る。


181 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:04:02.52 ID:VaVCoL4cO

 知識とズレがあったなら、どちらが正しいかを考えてから修正。
 それをしばらく繰り返すと、ため息混じりに伸びをする。

 そしてもう一度、本をじっくり見つめてページをめくり、
 いくつかの薬草や病気の治療法を他の紙に書き写し、メモとして挟んだ。

 そのメモは二枚。

 一枚は二日酔いに効く薬と治療法のメモ。
 もう一枚は、咳と熱を伴う風邪の薬と治療法のメモ。


 本を閉じると背筋を伸ばして立ち上がり、部屋の灯りを消してからベッドに入る。
 ああ疲れた、と枕に押し付けられた顔は、何故だか少し幸せそうで。

 昼に行った虐殺が、先ほどの誰かとの出会いに上書きされて行く。
 誰かを助けると言う事が、愛しくて愛しくてしょうがなかった。


 そう言えば、彼女が風邪なら困ったものだ。
 近くにラムダ族の村があるなら、有髪族の集落にも風邪が流れて来かねない。

 有髪族は病に弱い、広まったら大変だ。
 そう頭の隅っこで考えながら、レモナはゆっくり夢の中へと落ちて行った。


182 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:06:17.75 ID:VaVCoL4cO

瓜;-∀-)「うがががが…………頭いでぇよう……」

爪;-д-)「ぐ、ぅ……私とした事が、飲み過ぎた……」

∬´_ゝ`)「バカね、本当にもう……」

爪;-д-)「姉者も……相当飲んでいたのに……」

∬´_ゝ`)「バカにしないでよ小娘ちゃん、私がそう簡単に酔い潰れると思う?」

瓜;-∀-)「年寄りは強いねー……」

∬´_ゝ`)「迎え酒でも飲む? 吐くまで飲ませてあげましょうか」

瓜;-∀-)「ごめん、ホントごめんだから勘弁ー……」

∬´_ゝ`)「バカねぇ……」


∬´_ゝ`)「私が飲ませないわけ無いでしょ」

瓜;゚∀゚)「ごめんなさい姉者さッ! あっでぇ頭いでぇ!!」

∬´_ゝ`)「バカねー、心底」

爪;-д-)「静かにしてー……」


184 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:09:13.18 ID:VaVCoL4cO

|゚ノ ^∀^)「アレアレ、やっぱり二日酔い? ダメようそこまで飲んじゃ!」

瓜; Д )「ほぐぉっ! ……れ、レモナ……声……高いんだから……」

|゚ノ ^∀^)「ほらこれ飲んで! 今日一日お部屋でぐったりしとくの!!」

爪;-д-)「うぐぇ…………分かったから……静かに……」

|゚ノ ^∀^)「お粥はいるー!?」

瓜; Д )「あぎっ! わ、わざとか……レモナ……」

爪;-д-)「たぶん、素……」

∬´_ゝ`)「あ、私は普通の食事でー!」

:瓜; Д ):(この、ババア……)

∬´_ゝ`)「づー、面貸しなさい」

瓜; Д )「あひっ!?」


188 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:12:06.45 ID:VaVCoL4cO

 遅くに寝たにも拘わらず、早くに目が覚めたレモナは
 カゴを片手に、一つの症状と一つの病に効く薬草を摘みに出た。

 手際よく数種類の薬草を摘み、持ち帰って自宅の台所で煎じる。
 手慣れた動作で作られた薬の片方を、木の実で出来た水筒に入れた。

 そしてもう片方のどろりとした緑の薬を器に移して、お粥を作る。

 出来上がった薬とお粥を持って広場に行くと、
 朝から屍の様に起きられない二日酔い組の胃に入れさせて、各家へ帰らせた。

 誰かを傷付けるよりもてきぱきと、生き生きとしていた。


∬´_ゝ`)「……何かあった?」

|゚ノ ^∀^)「んー? なんにもー?」

∬´_ゝ`)「ふーん……」

|゚ノ ^∀^)「……ホントよ?」

∬´_ゝ`)「はいはい」


190 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:15:31.72 ID:VaVCoL4cO

 昨日の事が嘘の様に感じる、平和な一日。

 自業自得で倒れる仲間に薬を飲ませて、ご飯を食べさせ、
 薬の調合をしては本に書き、自分の知識を増やして行く。

 ふとレモナが机から顔を上げて、広場で日向ぼっこをする姉者を呼んだ。


|゚ノ ^∀^)「姉者さーん」

∬´_ゝ`)「はーあーいーっと、なあに?」

|゚ノ ^∀^)「レモナのお願い、聞いてくれるかしら?」

∬´_ゝ`)「内容によるわ」

|゚ノ ^∀^)「んじゃリーダーの命令」

∬´_ゝ`)「……内容による」


194 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:18:12.41 ID:VaVCoL4cO

|゚ノ ^∀^)「レモナが行く事は出来ないから、かわりに姉者さんにお願いしたいの」

∬´_ゝ`)「……で、その中身は?」

|゚ノ ^∀^)「昨日の村の人たちを、弔ってあげてほしいの」

∬´_ゝ`)「……」

|゚ノ ^∀^)「彼らは敵だったかも知れないけど、もうどこにも居ないの
     だから、ちゃんとお墓くらいは作ってあげたいの」

∬´_ゝ`)「しょうがないわねぇ……」

|゚ノ ^∀^)「きいてくれるの?」

∬´_ゝ`)「甘ちゃんリーダー」

|゚ノ ^∀^)「あら、死者に対して弔うと言う事は当たり前の事じゃない?」

∬´_ゝ`)「あらま、偉そうなコト言っちゃって。
     しょうがないから行ってあげるわよ、ほらあなたたちも来なさい」

|゚ノ;^∀^)「え?」


195 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:20:44.57 ID:VaVCoL4cO

川 ゚A゚)「お供するでー」

爪;-д-)「私も行くよ……うう、飲みすぎなきゃ良かった……」

|゚ノ;^∀^)「あ、アレアレ?」

爪;-д-)「敵だけど……もう死んだ彼らを更にいたぶるのは……うぇっぷ」

∬´_ゝ`)「あなたは寝てなさいよ」

爪;-д-)「行くよ……づーの代わりに……」

川 ゚A゚)「持ってくのスコップだけでええ?」

|゚ノ ^∀^)「え、えぇ……お願い、できる?」

川 ゚A゚)「うーい、リーダーの気持ちも分かるもんなー」

爪;-д-)「うん…………リーダーはリーダーだから……行けないしな……」

∬´_ゝ`)「ちょっと、吐かないでよ? じぃ」

爪;-д-)「善処する……」

|゚ノ ^∀^)「…………ありがとう、みんな……
     ……ありがとう、ごめんなさい」


200 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:22:30.57 ID:VaVCoL4cO

 スコップと簡単な工具を持って集落を後にする数名の背中を見送り、
 レモナは本を抱き締めて、深く深く俯いた。

 あれで苦しんでいるのは、自分だけじゃない。
 仲間たちだって、少なからず罪悪感を抱いている。

 沸き上がる後悔を罪悪感と羞恥でねじ伏せ、机に本を置いて開いた。

 自分たちが行っている事は、非人道的な虐殺行為。
 それを忘れないように、けれど憎しみが勝つように。
 唇を噛み締めて、レモナは机に向かった。
 屈するな、自分に。


 仲間が埋葬を終えて戻って来て、レモナが夕飯を振る舞いその日が終わる。

 けれどレモナはまた、深夜に集落を抜け出して、
 あのラムダ族の誰かと出会った場所まで、水筒を片手に歩いた。


201 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:24:13.46 ID:VaVCoL4cO

 辺りは真っ暗で何も見えない、闇に飲み込まれた夜の世界。
 それでもしっかりとした歩みであの場所に辿り着くと、耳を澄ませて探す。

 息をひそめて誰かの吐息を探していると、耳に届いたのは小さく咳き込む声。
 あっさり見つかった誰かに近付き、レモナは控えめに声をかけた。


|゚ノ ^∀^)「こんばん、は?」

 『ぁ…………レモナ……?』

|゚ノ ^∀^)「ん、レモナ……具合はどう?」

 『あ、熱ね……けほっ、下がったの……ありがとう、レモナ……』

|゚ノ ^∀^)「良かった……でも咳が止まらないのね……」

 『うん……でも、レモナ……どうして、ここに?』

|゚ノ ^∀^)「また会えると思って、勘だけど」

 『ふふっ……ありがとう……けほっ』


204 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:26:11.67 ID:VaVCoL4cO

|゚ノ ^∀^)「これ、煎じたお薬よ……飲んで、よく寝てね?」

 『あ、……ありがとうレモナ……姿も見えない、相手に……』

|゚ノ ^∀^)「あら、姿が見えなくても病人はほっとけないのは当然よ?」

 『あはっ……レモナ、お医者さんね……ありがとう、でも……あまり休めなくて』

|゚ノ ^∀^)「あら、どうして? 何かあったの?」

 『ん……子供ね、いるの……血は繋がってないけど、可愛い子……』

|゚ノ ^∀^)「まあっ! じゃあなおさら早く治さなきゃじゃない!」

 『うん……子供にうつしちゃ、駄目だし、ね……』

|゚ノ ^∀^)「そうよ、お母さんは元気でなきゃ!」

 『ふふ、ありがとう……レモナ……』

|゚ノ ^∀^)「……ね、お子さんのお名前、なんて言うの? 女の子? 男の子?」

 『男の子……まだ小さいんだけど、名前はね…………ノーネ、って言うの』


209 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:28:13.92 ID:VaVCoL4cO

|゚ノ ^∀^)「ノーネ君……良い名前ね、可愛いんだろうなぁ……」

 『意地っ張りで、ワガママなの……ふふっ、でもね、お友達がいて……』

|゚ノ ^∀^)「ま、幸せそう。お友達のお名前は?」

 『ネーノ君……けほっ、良い子なの……ノーネと仲良しで……けほっ』

|゚ノ ^∀^)「良いなぁ……咳、出てきたわね……冷えたのかしら
     ほらほらもう戻らなきゃ、早く寝なきゃよ?」

 『ん……』

|゚ノ ^∀^)「ん?」

 『……レモナ、お友達に……なってくれる?』

|゚ノ ^∀^)「へ」

 『あ、わ、私と、ね?』

|゚ノ;^∀^)「そ、そりゃそうだろうけど……どう、して?」


212 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:30:07.82 ID:VaVCoL4cO

 『あの……村にね、歳の近い子、居なくて……
  レモナ、歳が近そうだし……良い子、だから……』

|゚ノ ^∀^)「あ……」

 『…………駄目、かな……』

|゚ノ ^∀^)「…………喜んで」

 『へ……』

|゚ノ ^∀^)「レモナも、お友達……なりたい、な?」

 『……ぁ……あ、あり、が……とう……です』

|゚ノ ^∀^)「です?」

 『あ、ち、ちがっ、ぁ…………あり、がとう……』

|゚ノ ^∀^)「こちらこそ……あ、ねぇ、そう言えばあなたの名前……」

 『あ、もう戻らなきゃ……けほっ……またね、レモナっ』

|゚ノ ^∀^)「あ、う、うん、またねっ!」


213 ◆tYDPzDQgtA 2009/04/20(月) 01:32:16.08 ID:VaVCoL4cO

 照れた様に立ち上がり、レモナに渡された水筒を抱いて走り出す誰か。

 彼女の名前を聞きそびれたレモナは、少し困った顔で
 それでも嬉しそうな顔で、溜め息を吐きながら来た道を戻って行った。


 顔も名前も知らないけれど、友達が出来たと言う事実。
 それはレモナにとって、ひどく特別な事だった。

 恋人は居た。
 仲間が居る。
 けれど純粋な友達と言う存在は、初めて出来たもので。

 生まれて初めての友達は、何だか照れ臭くて、くすぐったくて
 ひどくひどく、幸せなものだった。


 レモナが嬉しそうな顔で、楽しそうな足取りで集落に戻って行く。
 初めて出来た友達に、心が弾んだ。


 そして次に狙う場所が

 あの愛しくも憎い村だと知るのは、翌日の事だった。



五話 中編、おわり。

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