2 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 20:52:03.85 ID:pLmm43EeO
代理ありがとうございます、のろのろ投下してこうと思います。


7xさん
ttp://nanabatu.web.fc2.com/boon/miseri_hennna_mori.html
ブーン文丸さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/forest/forest.htm

まとめて下さってます、ありがとうございます。



ミセ*゚ー゚)リ 女子小学生、いわゆる良い子ぶりっこ。

( ノAヽ) 森の人、心は狭いめ。カタカナ。

<ヽ`∀´> 森の人、どちらかと言うと普通。狩人。

( ´ー`) 恐竜、性格は微妙に良くない。主に乗り物。

( [) 森の妖精。喋れないけど意外とお役立ち。ゴェェ。

5 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 20:55:16.05 ID:pLmm43EeO
『───県の小学生は未だ見つかっておらず
 森へ入って行ったと言う証言を元に捜索をしておりますが───』


 ぴっ


『行方不明の芹澤ミセリさんは、学校を飛び出した後に自宅に戻り───』


 ぴっ


『泣きながら森へ走って行ったと───』


 ぴっ


『学校では、いじめがあった物と見て───』


 ぴっ


『芹澤ミセリさんが行方不明になって三ヶ月が経ち───』


 ぷつん。

8 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 20:58:12.76 ID:pLmm43EeO

 「行方不明の芹澤ミセリさんを見かけた人は、先生や大人の人に言って下さい
  それでは、終わりの会を終わります、皆さんまた明日」


(´・ω・`)「…………」


  「なぁ、転校生って家にももどってないんだろ?」

  「あーあ、お前らがいじめるから」

  「なんだよお前だってそうだろ、だいたい、もう死んじゃってんじゃね?」


(;´・ω・`)「っ!」


  「かもなー、あはははっ」

  「まー関係ねーし、はははっ」


(#´・ω・`)「な……っ」


12 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:01:22.42 ID:pLmm43EeO

  「ま、どーでもいい

 ごつっ


  「いって! っ何すん……ぁ」
  _
( ゚∀゚)「どーでもいーワケねーだろ、ドアホ」

  「なんだよジョルジュ……もう良いや、いこーぜ」

  「お、おう……」

  _
( ゚∀゚)「…………どーでもいーワケ……ねーだろ……」

(´・ω・`)「長岡くん……」
  _
( ゚∀゚)「……んだよ、あっち行けよ」

(´・ω・`)「…………」


15 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:04:17.36 ID:pLmm43EeO

(´・ω・`)「長岡くん……どこ、行くの?」
  _
( ゚∀゚)「おまえに関係ないだろ、ついてくんな」

(´・ω・`)「だって長岡くん……そっちは、森……」
  _
( ゚∀゚)「うるせぇ! ついてくんな!」

(´・ω・`)「…………僕も、そっちに用があるんだ、よ……」
  _
( ゚∀゚)「……森、立ち入り禁止だぞ」

(´・ω・`)「長岡くん、こそ」
  _
( ゚∀゚)「……うるせーんだよ、おまえは……」

(´・ω・`)「…………芹澤さん、大丈夫かな」
  _
( ゚∀゚)「しらねぇ、よ……」

(´・ω・`)「……心配、だね」
  _
( ゚∀゚)「………………おう」


18 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:08:09.80 ID:pLmm43EeO

(´・ω・`)「昔、ね」
  _
( ゚∀゚)「あ?」

(´・ω・`)「昔、何十年も前にも……あったんだって、こんなことが」
  _
( ゚∀゚)「……かみかくし、か?」

(´・ω・`)「うん……双子の女の子で、二人とも」
  _
( ゚∀゚)「…………帰ってきて、ないんだろ
     親父とかによく言われた、カミサマにもってかれるから森に行くなって」

(´・ω・`)「……芹澤さんも、そう、なのかな」
  _
( ゚∀゚)「ドアホ、戻ってくるに決まってんだろ」

(´・ω・`)「…………うん」
  _
( ゚∀゚)「……戻ってくるに……決まってんだろ…………」

(´・ω・`)「……う、ん…………」


23 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:11:11.33 ID:pLmm43EeO


 【ミセ*゚ー゚)リ 変な森のようです】


  第七話 『ひがいしゃ。』 前編



 加害者だって傷を負う、彼もまた被害者の一人だった。



27 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:14:17.16 ID:pLmm43EeO

 暗い暗い森の中、そこは森にひどく不釣り合いな空間だった。

 崩れた石造りの建物、壊れた柱と瓦礫がころがるその場所。
 薄い茶色と白の瓦礫の中、冷たく沈黙する物があった。

 それは銀の体に苔を住まわせ、頭や腕に小鳥をとまらせる。
 けれどもそれは微動だにせず、ただひたすらな沈黙を守りとおしていた。

 死と言う概念を持たないそれは、眠る様に沈黙する。
 意識がない訳ではなく、思考がない訳でもない。


 “彼”は、自らの意思で動こうとしないだけ。

 全てを捨て、全てに捨てられた彼は、眠る様にその場に座ったまま。

 端から見れば、壊れた物が置いてある様にしか見えない。
 けれど彼は生きている。

 息もしないし動きもしない、鼓動は刻まず体温もない。
 それでも彼は、意思を持つ。
 自らの意思で動かない。

 彼は、生きていた。
 生きながらにして、死んでいる様な状態で。


30 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:17:07.84 ID:pLmm43EeO

 夜が明けて、朝日がうっすらと彼を照らす。
 くすんだ銀の体がぼやりときらめき、光のない赤い目玉がきらめきを反射させる。

 それでも彼は動かず、朝日のきらめきを受け入れる。


 彼も昔は必要とされていた。
 人々は彼を頼り、全ての悪と汚れを押し付けていた。

 以前彼が居た場所は、戦と死にまみれ
 人間の道具ばかりが発達した、鐡の都市だった。

 変に知を持った人間は、全てを手にしようと戦を繰り返す。
 その腐りきった人間に作られた彼。

 彼は人々に腐った喜びをもたらす。
 その身を血に染めて、喜びを与えた。


33 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:20:27.31 ID:pLmm43EeO

 昔、彼はとても強かった。
 鏖殺こそが彼の仕事だった。

 その仕事ぶりは凄まじく、彼は非常に手際よく仕事をこなすのだ。

 仕事が早く上手いと言う事は、絶対的かつ暴力的な力があると言う事。


 彼はとても強かった。

 その強すぎる程の力を持つ彼は、いつしか王と呼ばれる様になる。

 しかし彼は、王と言う名に相応しい力を持っていた。


 けれど彼は、決して喜ばない。


 彼が戦場に出たならば、敵は怯え武器を捨てて逃げ出した。
 彼はその背を追いもせず、ただ真っ直ぐに鉄を吐く。

 鉄の雨は轟音と共に敵共を地に伏させ、血の混じった土を嘗めさせる。

 彼が戦場に出たならば、直ぐ様、凱歌を奏する事となる。


36 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:23:21.26 ID:pLmm43EeO

 彼は鋼鉄の体に、空っぽの魂を抱いていた。

 彼はどんなに勝利を得ようが、喜ばない。

 彼は喜ばない。


 彼は鋼鉄の体に空っぽの魂。
 彼は生きてはいなかった。
 けれど彼は産み出された。
 それは彼にとっての幸福ではない。

 産み出した人々の幸福だった。
 いつしか戦は終わりを告げる。
 彼に残された道は無い。

 彼は一人で歩こうとしない。
 空っぽの魂しか持たない彼は、いつしか全てに疲れていた。
 そうして彼は破棄される。
 薄暗い遺跡の中。

 彼は一人、座り続ける。
 瓦礫の山と化した遺跡。
 それでもそこが彼の居場所。
 だから彼は座り続ける。


39 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:26:24.18 ID:pLmm43EeO

 棄てられた王は、いつしか森の中に居た。
 森に食われた、遺跡と共に。

 遠い遠い場所からやって来た人間嫌いの王は、疲れはてていた。

 もう何もしたくはない。
 だからどうか、この場で朽ち果てさせてくれ。

 もう何かを壊すのは、面倒だ。


 そう座り続ける彼は、何も信じはしない。
 けれど彼にとって、森で座り続ける事が安らぎとなった。

 森の中、苔を生やして小鳥をとまらせる。
 穏やかなその世界で、彼はやっと“生きる”事が出来たのだ。

 もうどこにも行かない、何も壊さない、このままこの身が朽ちるのを待とう。

 全てを捨てて全てに捨てられて、その代わりに安らぎを得た王。


|::━◎┥


 彼の名は歯車王。
 かつて兵器として猛威をふるった、王の名を持つ生きる機械。


42 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:29:13.63 ID:pLmm43EeO


 てくりてくり、力無くミセリ達が森を歩く。
 乾いた水着を荷物の中にしまいこみ、どこかぼんやりとした目で。

 ミセリの隣を歩くノーネは、俯いて遠い目をする少女を見上げる。
 カチューシャで持ち上げた前髪に、広めの額。

 いつもは明るく笑うその顔は、どこかどよりと沈んだまま。

 森の海、人魚から情報を得てクラゲに手伝ってもらい、海を渡った。
 クラゲ達はお土産のお菓子と、村に辿り着くための道をミセリ達に与えた。

 ミセリ達はクラゲに礼を述べて、再び歩き出す。
 けれどその足取りはのろく、力がない。


 いつもあっけらかんと笑って歩くミセリが、ひどく静か。
 それだけの事で、一行全体の空気が重くなってしまっている。

 喋らず笑わないミセリの気持ちをなんとなく察するノーネ達。
 いつか、近い内に居なくなってしまう旅の仲間を思うと、明るくはなれなかった。


43 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:32:16.27 ID:pLmm43EeO

 荷物を乗せて歩くネーヨ、猟銃を片手にネーヨの隣を歩くニダー。
 クラゲに渡されたお菓子をもそもそ食べて歩くノーネに、
 ミセリの頭の上に乗ったまま、何も言わないビコーズ。

 海から出て歩き、一晩休んでまた歩く。
 その間、ミセリは一言も発する事はなく、ただただ俯いて膝を抱えていた。


 戻りたいと戻りたくないがせめぎあう。
 頭の中は良い思い出ばかり、母の手料理や友達と遊んだ日々。
 もう一度手にする事が出来るか分からない、きらめいていた毎日。

 それと同時に浮かぶ、帰りたい気持ちと、仲間達と過ごす日々。

 帰りたい、確かに帰りたい。
 けれどノーネやニダー、ネーヨ、ビコーズ。
 痛くて苦しい事もあるけれど、それを越える楽しい毎日。

 彼らと離れたくない。
 切実に、離れたくない、ずっと居たい。

 けれどいつかは、離れてしまう。
 その別れを受け入れるのは、子供のミセリには辛すぎて。


46 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:35:25.51 ID:pLmm43EeO

ミセ*゚−゚)リ「…………」


 ぼんやり、虚ろな目をふらつかせながら足を動かす。
 歩いていると言うより、惰性で足を動かしているに近い、その行動。

 のろく、力のない歩み。
 ずっと同じ事ばかり考えて、胸を痛めては口を閉ざす。

 堂々巡りの思考はまとまる事を知らず、
 ただ変わらずに、頭の中で散らかっていた。

 帰りたい、帰りたくない、帰りたい、帰りたくない。
 どこにも行けない、八方塞がりの思考。

 何とかして考え事の答えを見付けようとしても、見つかる訳がない。
 その答えなどあって無い様なもの。

 帰りたいと帰りたくない、どちらかを選ぶ事は出来ない。
 だからこそ、ミセリは深く沈んでしまう。

 帰りたくても帰れないか、帰りたくなくても帰らねばいけないか。
 もう、頭の中がまぜっこぜになって訳が分からない。

 それでも考えてしまう、どうしようもない鼬ごっこだった。


48 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:38:24.11 ID:pLmm43EeO

( ノAヽ)「……ミセリ、」

ミセ*゚−゚)リ「……」

( ノAヽ)「……ぬぇ」

( ´ー`)「そっとしとけヨ」

( ノAヽ)「わかった、ノーネ……」

  ( [)
( ´ー`)「落ち着いたら、元に戻るヨ……」

( ノAヽ)「んぁ……それまで、そっとしとくノネ……」

( ´ー`)「おう、だから」

<ヽ`∀´>「ミセリー」

(;´ー`)「え?」


53 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:41:15.53 ID:pLmm43EeO

ミセ*゚−゚)リ「ぁ……何? ニダー」

<ヽ`∀´>「いつかはミセリが居なくなるの、わかってるニダ」

ミセ*゚−゚)リ「う、」

<ヽ`∀´>「ニンゲンより、ウリたちのが寿命が短いと思うニダ」

ミセ*゚−゚)リ「そ、なの……?」

<ヽ`∀´>「コタイにもよるけど、森の人は50年くらいしかいきられないニダ」

ミセ*゚−゚)リ「ぇ…………」

<ヽ`∀´>「ウリたちは、ミセリより早く死んじゃうニダ、それは確実ニダ」

ミセ;゚−゚)リ「あ、ぅ……ぅ」

<ヽ`∀´>「だからミセリが元の世界に帰れなかったとしても
      ウリたちがミセリと一緒に居られるのは、そんなに長くはないニダ」

ミセ; − )リ「…………」


56 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:44:32.51 ID:pLmm43EeO

<ヽ`∀´>「だから、ミセリ」

ミセ; − )リ「……」

<ヽ`∀´>「一緒に居られるうちに、たくさん良い思い出つくるニダ」

ミセ ゚−゚)リ「あ、……」

<ヽ`∀´>「ミセリが元の世界に戻るまで
      ミセリがウリたちのそばから居なくなるまで、たくさん」

ミセ ゚−゚)リ「ニダー……」

<ヽ`∀´>「だからミセリ、いっぱい笑うニダ
      いっぱい笑って、最後まで笑うニダ」

ミセ*゚ー゚)リ「…………うん」

<ヽ`∀´>「よし戻ったニダ
      じゃあみんなで、ミセリが戻れる方法を探すニダ!」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん!」


59 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:47:23.14 ID:pLmm43EeO

(;ノAヽ)「おおう……」

  ( [)
(;´ー`)「さすがだヨ……」

<ヽ`∀´>「あれは変にほっといたら余計ドロヌマるニダ」

(;ノAヽ)「ニダーすげぇノーネ……」

(;´ー`)「お、おっとなー……」

<ヽ`∀´>エヘン


 ミセリの隣に駆け寄ったニダーのお陰で、やっとミセリの目が戻った。

 戻れようが戻れなかろうが、いつかは別れが訪れる。
 ずっと帰りたいと帰りたくないの間で揺れていたミセリは
 森に居ればずっと仲間達と居られる、そう思っていた。

 けれど実際は、森の人にも寿命がある。
 寿命があると言う事は、森に居ても仲間達と別れてしまうと言う事。

 元の世界に戻って仲間達と別れるのは悲しいが
 みんなの死を看取るより、元の世界に戻る方が、ずっとマシに見えた。

 それすらも自分の我が儘なのだけれど、それは、ごく当然な事だった。

63 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:50:20.73 ID:pLmm43EeO

 てっこらてっこら、やっと取り戻した元気な足音。
 ミセリ達の足取りは軽く、先ほどまでの遅れを取り戻す様に足を動かす。

 ボロボロになったマントを、ツギハギだらけのスカートをはためかす。
 切れた袖を縫い合わせたブラウスは、傷だらけで汚れている。

 けれどミセリはそれを嫌がる事もなく、広い額を風に撫でさせていた。


 裾のすりきれたマントと、つばの欠けた帽子を被るニダー。
 軽くはない荷物を背中に乗せて、のんびり歩くネーヨ。
 お土産のお菓子をぽしぽしと消費して行くノーネ。
 気に入ったのか、隙あらば水着を着ようとするビコーズ。

 ネーヨ以外は力仕事には向かない面々が、楽しそうに森を歩く。


 そして、ふとミセリがネーヨを振り返る。


65 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:53:35.74 ID:pLmm43EeO

ミセ*゚ー゚)リ「ねぇ、ネーヨ」

( ´ー`)「あん?」

ミセ*゚ー゚)リ「ネーヨばっか力仕事するの、しんどくない?」

( ´ー`)「テキザイテキショって知ってるかヨ?」

ミセ*゚ー゚)リ「むずかしいからわからない!」

(;´ー`)「オマエ、それくらいは分かれヨ……」

( )ノ〜ヽ)) ポシポシ

( [)「ゴェ」

( )ノ〜ヽ))「食うノーネ?」

( [)゙

<ヽ`∀´>「ノーネ食べ過ぎニダ」


67 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:56:06.54 ID:pLmm43EeO

ミセ*゚ー゚)リ「でもさ、みんなネーヨに任せるのはなんだかなーって」

( ´ー`)「きにすんなヨ、これが俺のシゴトだヨ」
  _,,
ミセ*゚3゚)リ「えー」

( ´ー`)「はいはい、びー」

ミセ*゚ー゚)リ「やるなネーヨ」

( ´ー`)「ウルセーヨ」


 誰が欠けてもいけない仲間達。
 最初はなりゆきだったとしても、今は皆が旅を楽しんでいた。

 いつ終わるか分からないこの旅を、精一杯続けたい。
 不平不満を口にしながらも、皆が皆、そう感じていた。


71 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 21:59:08.86 ID:pLmm43EeO

 力が強いネーヨだけれど、
 ミセリは力仕事を全てネーヨに任せるのが、少しばかり嫌だった。

 ネーヨ本人は気にしていなくても、荷物を持たせてさらに仕事をさせるのは
 やはり、見ていて少し申し訳ないもので。

 ううんと小さく唸り、ミセリが首を傾げながら
 なんとか負担を減らせないか、と考える。
 それは子供独特の薄っぺらい正義感ではなく、仲間に対する気遣いだった。


 ニダーは頭が良くて、ご飯を作るのが上手い。
 ビコーズは食べられる草や木の実を判断出来て、ノーネと一緒に食材確保。

 じゃあミセリは何なのか。
 自分の立ち位置と仕事を考えると、よくわからなかった。

 薪は集める、でもそれは誰にでも出来る。
 水を汲む、それも誰にでも出来る。
 料理は出来ない知識もない、力も無ければ手先は不器用。


 ミセリが、がくんと項垂れた。
 今となっては役立たず道まっしぐらだ、と。


74 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:02:14.18 ID:pLmm43EeO

 火をおこす、水を汲む、それだけで誉められていた頃が懐かしい。
 人手が増えた今、もうそれだけでは役目があるとは言えなかった。

 はぁ、と役立たずだと自覚したミセリは溜め息を転がして
 ひょい、と疲れた様に顔をあげる。


 すると視線の先には、白い小石が転がっていた。

 白い、瓦礫の様な小石。
 それに近付き、腰を屈めて指先でつまんで持ち上げる。

 小石をつまむ指に少し力を加えれば、小石はいとも容易く砕けた。
 ぱらぱらと粉になって落ちた小石を見下ろして、首を傾げる。

 今まで、こんな石は見た事はなかった。
 人工的な白い石、風化しかけたそれは、簡単に壊れてしまった。

 ミセリの手元を覗き込むノーネも、同じ様に首をかしげる。
 そして顔を見合わせて、逆方向に頭を傾けた。


77 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:06:01.94 ID:pLmm43EeO

ミセ*゚ー゚)リ「なんかこれ、変……だよね?」

( ノAヽ)「変なノーネ」

ミセ*゚ー゚)リ「形も自然にできた感じじゃないし……なんだろ」

( ノAヽ)「こんな白いの、みたコトないノーネ」

<ヽ`∀´>「どうしたニダ?」

ミセ*゚ー゚)リ「これこれ、白い石」

  ( [)
( ´ー`)「この辺に、白い岩場とかあったかヨ?」

<ヽ`∀´>「ない……と思うニダ
      もしかしたら、ニンゲンのが迷い込んだのかもニダ」

ミセ*゚ー゚)リ「なるへそ……あ、あっちにもある」

( ノAヽ)「てんてんと落ちてるノーネ」


80 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:09:08.73 ID:pLmm43EeO

 地面にぽつぽつと落ちている白い小石。
 誘き寄せられる雀の様に小石を追い掛けて、
 ミセリ達はその小石の元へと足を運ぶ。

 小石を追うにつれて、小石は普通の石となり
 石からかたまり、かたまりから大きな瓦礫へと大きく変化して行く。


 そうして草むらの向こう側へと足を踏み入れた時、ミセリ達は目を真ん丸にした。

 木々に囲まれた空間。
 何かを隠す様に白い瓦礫が重なりあい、蔦や苔が住まうそこ。

 その空間は、森に似つかわしくない瓦礫の山。
 木漏れ日を受けてきらきらと、白い瓦礫は輝いていた。

 最初から森にあったのではなく、森に迷い込んだと一目でわかった。
 それほどまでに、白い瓦礫の山は森の中で浮いているのだ。


82 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:12:17.07 ID:pLmm43EeO

ミセ*゚ー゚)リ「うわ……なんだ、これ……」

( ノAヽ)「おう、真っ白なノーネ……」

<ヽ`∀´>「アイゴー……」

  ( [)
( ´ー`)「……これ、柱……かヨ?」

ミセ*゚ー゚)リ「ん? ……あ、本当だ」

<ヽ`∀´>「これは、壁……ニダ?」

( ノAヽ)「つーコトは、これ……元々はタテモノなノーネ?」

( ´ー`)「みたいだヨ、えらく古そうだヨ」

<ヽ`∀´>「ほとんど風化しちゃってるニダ……」

ミセ*゚ー゚)リ「なんか、すごいね……これ」


84 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:15:26.86 ID:pLmm43EeO

 瓦礫の中に、僅かに形を残した柱や壁が崩れて転がる。
 その中に足を踏み入れ、足元に気を付けながら瓦礫の中を歩いてみた。

 じゃり、じゃり、と小石が靴底に潰され音を立てる。
 その音を聞きながらミセリが瓦礫の中を進んで行くと、銀色の何かを見つけた。

 瓦礫の外、ほとんど崩れ落ちた壁にもたれる様に、何かが鎮座している。

 それが何か見ようと、ミセリは瓦礫の外に出る。
 そしてぐるりと瓦礫の山を外から撫でる様に歩き、銀色の何かの前に立った。


 苔むした地面、森に不似合いな白い壁に凭れて座るのは、円筒形の銀色。
 赤く大きな目らしき物を持った、冷たい鉄。

 円筒の途中から腕を生やし、足を投げ出して座る謎の鉄。
 小さなドラム缶に似た体型のそれを、うまく表現する方法を、ミセリは知らない。

 ただ、不思議な銀色が座っている。
 そう表現する他なかった。


86 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/17(日) 22:18:13.02 ID:pLmm43EeO

ミセ*゚ー゚)リ「……なんだ……こりゃ…………?」


 腰を屈めて、苔がくっついた銀色の平らな頭を、そっと撫でる。
 手のひらから伝わる感触は固く、冷たい。

 生き物ではないと分かっていたが、その冷たさに驚き、手を引く。
 そして手のひらを見つめてから、再び頭を優しく撫でた。

 苔が生え、小さな花を咲かせる何か。
 その姿は白い瓦礫よりもずっと森に似合わない。

 ブリキのオモチャの様なそれが一体何なのか、ミセリは首を傾げた。


ミセ*゚ー゚)リ「……なん、だ……?」

( ノAヽ)「どしたノーネ……うわ、なんなノーネこれ」

ミセ*゚ー゚)リ「さぁ……なんだろ……?」


89 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:21:21.54 ID:pLmm43EeO

<ヽ`∀´>「どうし……ニダ?」

  ( [)
( ´ー`)「どう……あん? 何だヨこれ」

ミセ*゚ー゚)リ「わかんない、動かないし……壊れてる、のかな?」

( ノAヽ)「おお、かてーノーネ」

<ヽ`∀´>「ひやっこいニダ」

  ( [)
( ´ー`)「イキモノじゃなさそうだヨ」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、それはわかるけど…………ロボット?」

( ノAヽ)「ろぼ?」

ミセ*゚ー゚)リ「んー……自分で動く機械のこと」

<ヽ`∀´>「きかい?」

ミセ*゚ー゚)リ「ですよねー」


91 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:24:28.77 ID:pLmm43EeO

 謎の物体を撫でたりつついたりして様子を見るが、一向に動く気配はない。

 動かないそれに諦めたのか、ミセリはそれの前に座る。
 そして謎の物体を見つめたまま、ロボットの簡単な説明を始めた。

 機械がなんなのかを説明するのには骨が折れたが、
 ノーネ達はなんとなく理解したらしく、しきりに頷いていた。


 結局、この瓦礫もロボットらしき物も
 ミセリが居た世界とは違う、別の場所から迷い込んだ物と言う事で落ち着いた。

 別の世界から来たミセリですら見覚えのない物をどうする事も出来ず。

 取り敢えず、この謎のロボット?は置いておいて
 少し遅い昼食でもとろう、とミセリ達は食事の準備を始めた。


 固いパンと、ミルクと擂り潰した木の実を混ぜた甘いクリーム。
 少しの干し肉に採ってきたキノコを火であぶる。

 山菜のサラダと甘いお茶、意外に豪華な昼食が並べられる。


93 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/17(日) 22:27:05.25 ID:pLmm43EeO

 クリームをつけたパンを口に運びながら、ミセリはロボットの前に座る。
 その不思議な姿を見上げながら、ぼんやりとお茶でパンを流し込んだ。

 ミセリの腰辺りまでしかない森の人。
 その森の人より少し大きな体のロボット。

 恐竜や一部の珍獣を除いて、森の生き物は小柄だ。
 小さいながらも逞しく生きる森の人。
 けれど森の人はやっぱり、その大きさにみあった力しか持っていない。

 ネーヨは特別大きいが、森の人はミセリより小さく力もない。
 つまり森の人を守れるのは、ネーヨを除けばミセリだけ。

 自分の助けなんか要らないかも知れない。
 でももし何かがあった時、ノーネ達を守るのはミセリの役目。


 あ、とミセリが目を丸くした。

 役目、あるじゃない。
 誰かを守る事、いや、誰かを助ける事。

 それを、自分の役目にすれば良いんだ。


95 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:30:15.53 ID:pLmm43EeO

 干し肉をがじがじしゃぶりながら、ミセリの顔が僅かにほころぶ。

 よかった、役立たずじゃない。
 誰かを守ったり助けたりするのが、役目なんだ。

 自己満足と現実逃避に限りなく近い結論。
 それでもやっと、ミセリはほっとした顔で胸を撫で下ろす。


 誰かの役に立ちたい。
 じゃあ、誰かを助けよう。

 誰かを助けるにはどうすれば良い?
 強くなれば良い、もっともっと。
 誰も死なさない様に、助けられる様に強くなれば良い。

 よし、元の世界に戻る以外の目標が、しっかりと立った。
 戻る前に、居なくなる前に、目標に出来る限り近付こう。


 満足げに笑いながら、ミセリが食事を終えて、最後にお茶の残りを飲み干した。

 他に、自分に出来る様な事が見つからない。
 その結果の目標は、良い子ぶりっこを少しだけ通り越していた。


98 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:33:08.28 ID:pLmm43EeO

ミセ*゚ー゚)リ「ごちそーさまー!」

<ヽ`∀´>「お粗末様ニダ」

( [)「ゴェ」

( ´ー`)「ごっさん」

( ノAヽ)「……」

<ヽ`∀´>「ノーネどうしたニダ?」

( ノAヽ)「……あ、ごちそさまなノーネ…………ミセリ?」

ミセ*゚ー゚)リ「ん?」

( ノAヽ)「ずっとニヤニヤしててきもかったノーネ」
  _,,
ミセ#゚д゚)リ「んだとこんなろっ!?」


101 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:36:08.69 ID:pLmm43EeO

 食後の後片付けが終われば、やって来るのは食休みの自由時間。
 各々が自由に動いて、好き勝手遊んでいる。

 ネーヨは川に頭を突っ込んで水を飲み、
 ビコーズは木の実を集めて転がし、遊ぶ。
 それに並んで、木の実の殻を指で弾いて転がすノーネ。
 そして、銃の点検をするニダー。

 そんな彼らに背を向けたまま、ミセリは真っ直ぐ謎のロボットを見ていた。

 動かないし何の変化も見せない。
 けれど何だか気になる、と膝を抱えてロボットの目を見上げていた。


 座ったミセリより少し大きいロボット。
 ずっしりと重い雰囲気を醸し出すそれは、奇妙な威圧感すら放つ。

 でも、少し寂しそうにも見える。
 蔦や苔にまみれて、動かないロボット。

 それはまるで、不法投棄された家電みたいな寂しさ。


104 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:39:19.54 ID:pLmm43EeO

 ミセリが、上げていた視線をおろして足元を見る。
 茶色い土と緑の苔に覆われた、地面。
 白い小さな花がロボットの下から咲いているのを見付けて、少し幸せになった。


 まだまだ自分は弱いから、強くならなきゃ。

 どうしたら強くなれるのかな、特訓とかしなきゃかな。

 力だけが強くなっても、それじゃダメなんだよね。

 もっと、もっと、いろんな強さを手にしなきゃ。


 足元に咲く花を指先でつつきながらミセリはやっぱり微笑んだ。
 やる事があるってのは、幸せなんだな、と。

 ノーネ達がはしゃぐ声、かちゃかちゃと言う銃の点検の音、
 きゅいんと言う何かの音、様々を音を聞きながら、ミセリはにへぇと笑った。


107 ◆tYDPzDQgtA 2009/05/17(日) 22:41:03.21 ID:pLmm43EeO

 小さな花に構っているミセリは、頭上で起きた異変には気付かない。

 ニダーが分解していた銃を、元の形に戻す。
 その音につられて、ロボット僅かに音を立てる。

 点検と掃除を終えた銃に、弾を込めて引く。
 ロボットの目に、光が戻った。

 試し撃ちと、ニダーが引き金を引いた。
 軽い発砲音のすぐ後、ふとミセリに目を向けたノーネが、声を上げた。


(;ノAヽ)「ミセリっ! 前っ!!」

ミセ*゚−゚)リ「へ?」


 ノーネの言葉に顔を上げたミセリ。
 その右目に、強い衝撃が走った。



七話 前編、おわり。

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