- 104 ◆tYDPzDQgtA 2016/11/06(日) 21:04:16 ID:OUL/UC0I0
ざく、ざく。
とっぷり夕闇に落ちる森の中。
ざく、ざく。
肉を切る音と、血の匂い。
ざく、ざく。
時おり聞こえる断末魔。
ざく、
全身に血を浴びて、女は来た道を振り返る。
「戻るには、まだかかるな」
ぽたぽた、顔に受けた血が頬を伝い、顎の先から落ちては地面を濡らす。
美しい筈の金髪は、乾いた返り血によって赤黒く固まっている。
頬を手の甲で拭うと、ぱり、と乾いた血が剥がれて落ちる。
それを意に介した様子もなく、次の血を浴びに刃を振るった。
ざく、ざく。
ざく、ざく。
ざく、ざく。
- 105 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:05:50 ID:OUL/UC0I0
例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。
騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。
周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声。
刃を振るい、歌声を響かせ、路銀を稼いで進むのは二人。
一人は不機嫌そうに顔を歪める、若い女戦士。
もう一人は、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。
【道のようです】
【第三話 たくさんあるとうれしい。】
彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。
- 106 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:07:08 ID:OUL/UC0I0
村に辿り着いた死体が蘇って、クエストの報告を済ませた頃。
相棒のツンは、一人で新たなクエストを任されていた。
爪'ー`)y‐「いえーい色つけてもらっちゃったぞー」
ξ゚⊿゚)ξ「マジか」
爪'ー`)y‐「明日の夜にお祭りなんだってさ、あれ必要な物だから困ってたみたい」
ξ゚⊿゚)ξ「何で必要な物がまだ届いて無かったんだか」
爪'ー`)y‐「先に受けた人がドタキャンだとさー、それでね」
ξ゚⊿゚)ξ「ん?」
爪'ー`)y‐「祭りの音楽隊に僕も参加する事になったんだよね、ほら僕って吟遊詩人だから」
ξ゚⊿゚)ξ「いや詩人なのは知ってるけど」
爪'ー`)y‐「あ、もちろんツンちゃんと踊れるようにちゃんと抜けられるようにしてあるから」
ξ゚⊿゚)ξ「私は最近魔物が出るから祭りの間はそこら辺で魔物狩りする事になったけど」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ
- 107 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:08:04 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐「祭りなのに遊べないね……」
ξ゚⊿゚)ξ「うんまぁ仕事があるだけ良いしあんたと楽しむつもりは無いし……」
爪'ー`)y‐「お兄さん悲しい……」
ξ゚⊿゚)ξ「バカ言ってないで今の内に買い出し済ませるわよ」
爪'ー`)y‐「あ、宿も取ったよー酒場の二階」
ξ゚⊿゚)ξ「勝手に進めるわよねあんた」
爪'ー`)y‐「君に安くする交渉とか出来ないっしょ?」
ξ゚⊿゚)ξ「出来ないけど一言くれても」
爪'ー`)y‐「そっちこそ勝手に魔物退治受けたじゃん」
ξ゚⊿゚)ξ「だって何か金バッチ見たら急に押しきられて……」
爪'ー`)y‐「戦士様が押しに弱くてどうすんのさ……」
ξ゚⊿゚)ξ「むー……」
- 108 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:09:20 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐「そうだ、気になってたんだけどさ」
ξ゚⊿゚)ξ「うん?」
爪'ー`)y‐「何であんなに手持ちが少なかったの?」
ξ゚⊿゚)ξ「だからなぜか手元に残らないと」
爪'ー`)y‐「そのなぜかを詳しく言いなさいよアホの子」
ξ゚⊿゚)ξ「否定しないけど殺すぞ」
爪'ー`)y‐「これからは二人で旅するんだからそう言う事があっちゃ困るんですぅー」
ξ゚⊿゚)ξ「むむー……」
爪'ー`)y‐「今日は買い出しくらいで後は休めるんだから、ちゃんと教えて」
ξ゚⊿゚)ξ「まぁあんたは私より頭良いし、分かるかも知んないかぁ」
爪'ー`)y‐「君より頭の悪い冒険者って存在するの?」
ξ゚⊿゚)ξ「喧嘩売ってんの?」
- 109 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:09:55 ID:OUL/UC0I0
ξ゚⊿゚)ξ「色々仕事はしてきたんだけどさ、魔物退治から荷物の運搬、護衛まで」
爪'ー`)y‐「ふむ」
ξ゚⊿゚)ξ「でも毎回、もろもろの手数料とか引かれて」
爪'ー`)y‐「手数料」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
爪'ー`)y‐「……明細ある?」
ξ゚⊿゚)ξ「あるけど」
爪'ー`)y‐「宿で見せてそれ」
ξ゚⊿゚)ξ?
爪'ー`)y‐「僕ずーっと思ってたんだけどさぁ、ツンちゃん騙されまくるよね?」
ξ゚⊿゚)ξ「騙した奴が言う事は違いますなぁ???」
爪'ー`)y‐「あらやだーこれ地雷だったわーでも踏んじゃうポチー☆」
< グシャー ギャー
- 110 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:10:40 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐「地雷だと思ったらヒトコロスイッチだった……」
ξ゚⊿゚)ξ「お前だけを殺すスイッチ」
爪'ー`)y‐「でも死んでる間に宿まで運んでくれたんだね、やっさしーい☆」
ξ゚⊿゚)ξ「村の人の視線がヤバかった」
爪'ー`)y‐「来た時に死んでなかったらツンちゃんがヤバかったな……」
ξ゚⊿゚)ξ「だから死ぬような事をな? 言ったりしたりな?? お前わざとやってるだろ???」
爪'ー`)y‐「僕がそんなマゾに見える?」
ξ゚⊿゚)ξ「死に逃げ癖ついてるだろ?」
爪'ー`)y‐「…………」
ξ゚⊿゚)ξ「黙するな」
爪'3`)y‐~♪ プイー
ξ゚⊿゚)ξ「こっちを見ろォ!!」
爪'ー`)y‐「それより明細」
ξ゚⊿゚)ξ「話が進まないから今は殺さずにおいてやるが後で覚悟しろよ背骨引きずり出すからな」
爪'ー`)y‐「相当ヤバいタイプの死刑宣告食らった……」
- 111 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:11:09 ID:OUL/UC0I0
ξ゚⊿゚)ξ「確かこの辺に……」ガサガサ
爪'ー`)y‐「しっかし何でこうすっからかんかね」
ξ゚⊿゚)ξ「だから、なんか手数料とか諸費用とか おい人の財布覗くな」
爪'ー`)y‐「見てて悲しくなる……軽い財布ってつらい……」
ξ゚⊿゚)ξ「殺すぞ。 っと……はい、あった」ガサガサ
爪'ー`)y‐「はい失礼」パラパラ
ξ゚⊿゚)ξ「しかし、何だって明細なんか」
爪'ー`)y‐「…………」
ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)y‐「何これ……引くわ……」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ」
爪'ー`)y‐「引くわ……」
ξ゚⊿゚)ξ「し、失礼な……」
- 112 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:11:43 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐「これ、船借りたの……?」
ξ゚⊿゚)ξ「手漕ぎボートなら」
爪'ー`)y‐「手漕ぎボートレンタルで金貨10枚……??」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
爪'ー`)y‐「交際費……? 接待費用……?? 宿泊代……???」
ξ゚⊿゚)ξ「色々かかったみたい」
爪'ー`)y‐「これ相手が計算して持ってきたの?」
ξ゚⊿゚)ξ「依頼人が説明してくれた、色々かかったんだって」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ?
爪'ー`)y‐(思ったよりヤバいなこの子)
ξ゚⊿゚)ξ??
- 113 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:12:09 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐「これ意味わかる?」
ξ゚⊿゚)ξ「接待?」
爪'ー`)y‐「された?」
ξ゚⊿゚)ξ「お茶ついでもらった?」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ?
爪'ー`)y‐「こっちの明細は修理費に金貨20枚って」
ξ゚⊿゚)ξ「あー、斧のここに傷がついて」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ??
爪'ー`)y‐(あっどうしよう)
爪'ー`)y‐
爪'ー`)y‐(この子とんでもないアホだ)
ξ゚⊿゚)ξ???
- 114 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:13:19 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐(えっ嘘だろおい……マジかよ……こんな分かりやすすぎる九割詐欺みたいな事案……)
爪'ー`)y‐(どうやったら引っ掛かるんだよこんなの……文字読めたら引っ掛からないだろ……)
爪'ー`)y‐(うっわこれ金貨50枚が散々に引かれて報酬金貨3枚になってる……)
爪'ー`)y‐(意味わかんない……意味わかんないこれ……怖い……まともな明細がほとんどない……)
爪'ー`)y‐(絶対カモれるって連絡回ってるこれ……悪質過ぎる……)
爪'ー`)y‐(でも一番怖いのはこれに一切の疑問を抱かないこの子だよ……何でだよ……)
ξ゚⊿゚)ξ「なんか変なとこあった?」
爪'ー`)y‐「変なところしかない」
ξ゚⊿゚)ξ!?
爪'ー`)y‐「!? じゃないから、何ビックリしてんのこっちがビックリだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「そ、そんなにおかしかった……?」
爪'ー`)y‐「よく生活出来てたね?」
ξ゚⊿゚)ξ「最初に受けたクエストが国からので、たくさん貰えたからそれを切り崩して」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ
- 115 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:13:49 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)=3 ハァァァァァァア…
ξ;゚⊿゚)ξ「な、何よう……」
爪'ー`)y‐「ツンちゃんはね、騙されてました」
ξ;゚⊿゚)ξ「え」
爪'ー`)y‐「諸費用とか手数料とかこんなにかからないです」
ξ;゚⊿゚)ξそ
爪'ー`)y‐「君が何の文句も言わず疑問も持たずこんな訳のわからない金額を受け入れたから
味をしめた奴らが情報を回して君をカモって支払う金額を10分の1くらいにしてました」
ξ;゚⊿゚)ξ
爪'ー`)y‐「疑問に思った事は無かったの?」
ξ;゚⊿゚)ξ「だ、だって、あの……私はこう言うのわからなくて……」
爪'ー`)y‐
ξ;゚⊿゚)ξ「向こうはお金のこと分かってるし……わからない私が口出しするのも……」
- 116 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:15:10 ID:OUL/UC0I0
ξ;゚⊿゚)ξ「や、役所通してお金払われるし……なら安心だって……思って……」
爪'ー`)y‐「ツンちゃん」
ξ;゚⊿゚)ξ「ひゃい……」
爪'ー`)y‐「まず第一に、お金の事も相場もわからないのは三流以下の初心者までしか許されないし
わからないからって自分を安売りする様な冒険者はろくなものじゃない、クソですクソ」
ξ; ⊿ )ξ
爪'ー`)y‐「わからないから口を出さないじゃなくて、わからないから口を出せないんだよね
それは君の冒険者としての必要なスキルが大きく欠如してるからだよ、君がバカなだけ」
ξ; - )ξ
爪'ー`)y‐「あと役所を信用しすぎ、町や村ごとにある役所は数が多く国の監視が薄くなりがちです
最近は地元の人間と手を組んで冒険者から金を騙し取る事件が増えて問題視されてます」
:ξ; - )ξ:
爪'ー`)y‐「以上を踏まえて君は駄金ランクの冒険者です、何か言う事はありますか」
:ξぅ⊿ )ξ:「ないです……」
爪'ー`)y‐「よろしい」
- 117 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:16:12 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐「君は戦士としての腕は良いのだろうけどね、冒険者としては数年やってたと思えない」
ξぅ⊿ )ξ「あい……」
爪'ー`)y‐「冒険者と言う面では本当クソですクソ、管理能力の無い冒険者とかクソオブクソです」
:ξぅ⊿ )ξ:「ひゃい……」
爪'ー`)y‐「だからまあ、今後はお財布は僕が管理しますからね!」
:ξぅ⊿;)ξ:「はひぃ……」
爪'ー`)y‐(めっちゃ泣かせてしもた)
爪'ー`)y‐(でもなー事実だしなークソなんだよなー)
爪'ー`)y‐(しかしこの依頼達成率、討伐も護衛も全て完璧にこなしてる)
爪'ー`)y‐(腕は良いんだ腕は……と言うか腕しか無いんだな、とにかく仕事を頑張るしか出来ないんだ)
爪'ー`)y‐(この達成率ならもっともっと良い生活を送れる、どっかに家だって建てられる)
爪'ー`)y‐(はー)
爪'ー`)y‐(不器用ちゃん)
- 118 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:17:07 ID:OUL/UC0I0
ξぅ⊿;)ξペソペソ
爪'ー`)y‐「ツンちゃんさぁ運が良かったよ、僕みたいな詐欺師と組めたから分かった事でしょ」
ξぅ⊿;)ξ「うん……うん……?」
爪'ー`)y‐「今後は交渉もお金の管理も僕がする、ツンちゃんはそれを見てちゃんと学んでね」
ξぅ⊿;)ξ「はい……」
爪'ー`)y‐「この未払い分は戻らないけどさ、高い勉強代だったと思いなよ」
ξぅ⊿;)ξ「はい……」
爪'ー`)y‐「これからは、ちゃんと冒険者としても一流になってよね」
ξぅ⊿;)ξ「がんばる……」
爪'ー`)y‐(向上心はあるんだな)
ξぅ⊿;)ξグスグス
爪'ー`)y‐(何か泣いてるの見るとゾクゾクするな……)
- 119 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:17:49 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐ハッ
爪'ー`)y‐「え、ーっと……こう言う勉強は師匠に教わらなかったの?」
ξぅ⊿;)ξ「うん……師匠は……」
( ΦωΦ)『良いかツンよ、冒険者とは金の管理もせねばならん』
( ΦωΦ)『我輩も昔は冒険者でな……仲間の魔導師にな……いつも怒られてた……』
( ΦωΦ)『やれ金を適当に扱うな……やれ計算をちゃんとしろ……』
( ΦωΦ)『いやぁ日に一回は怒られたものだ、僧侶と共に怒られるのがノルマになってた』
ξぅ⊿;)ξ「って……」
爪'ー`)y‐(あっ駄目だなこの師弟)
ξぅ⊿;)ξ「勉強はねえさまが教えてくれたけど、難しくて師匠と鍛練ばっかり……」
爪'ー`)y‐(筋金入りの脳筋だったかー知ってたけどー脳筋だったかー)
- 120 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:18:38 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐「ほらもう泣かないでよ、僕が悪いみたいでしょ、悪いのは君の頭でしょ」
ξぅ⊿;)ξ「おっしゃるとおりです……」
爪'ー`)y‐「駄目だ制裁が来ない、心が折れてる」
ξぅ⊿;)ξペソ…ペソ…
爪'ー`)y‐「ほらもー泣かないでよーほらー良い子だからさー服脱がせるよー?」
ξぅ⊿;)ξグスグス…
爪'ー`)y‐「もーぉーしおらしい女の子は嫌いじゃないけどツンちゃんがそうだと調子狂うーめんどーい」ベロン
ξぅ⊿;)ξ「ごめんなさい……」
爪'ー`)y‐「ツンちゃんやっぱ覆うべき胸が無くても下着は必要だと思うよ僕」
ξぅ⊿;)ξ
爪'ー`)y‐
<メゴォ ウワーゲンキー
- 121 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:19:07 ID:OUL/UC0I0
ξ゚⊿゚)ξ「どさくさに紛れて何してんだお前」
爪'ー(#)y‐「元気になったね!! 計算通り!!」
ξ゚⊿゚)ξ「やかましいわ」
爪'ー(#)y‐「まぁアレだよツンちゃん、これから頭の中身詰めれば良いんだから」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
爪'ー(#)y‐「まだ18歳なんだからさぁ、欠点無いと可愛くないって」
ξ゚⊿゚)ξ「……がんばる……」
爪'ー(#)y‐「そうそう、僕も腕っぷしはクソって言う可愛らしい欠点があるし」
ξ゚⊿゚)ξ「いやお前の欠点はそれじゃない」
爪'ー(#)y‐「イケメン過ぎる罪に問われてる?」
ξ゚⊿゚)ξ「上には上が居ると思うから調子に乗るな」
爪'ー(#)y‐「そうそう居ないってー僕イケメンだよー?」
ξ゚⊿゚)ξ「つけ麺では?」
爪'ー(#)y‐「ラーメンが飛んだな?」
- 122 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:20:16 ID:OUL/UC0I0
ξ゚⊿゚)ξ「とにかく、……まぁ、その……今までみたいな事があって、あんたに迷惑かけたくないし」
爪'ー(#)y‐「うんうん」
ξ゚⊿゚)ξ「お金の管理はあんたに任せるけど、私も勉強するから……」
爪'ー(#)y‐「うんうん」
ξ゚⊿゚)ξ「……よろしくおねがいします」
爪'ー(#)y‐「素直なツンちゃんこっえーな!!」
< メキグシャー セボネガー
そのあと、二人は買い出しに行ったり翌日の準備をしたりと自由な時間を過ごす。
ツン一人で受けた魔物討伐の依頼内容を一緒に吟味したり、報酬について話し合ったり。
後にフォックスがツンの明細片手に役所の個室で何やら長く話していたが、内容は解らずじまいで。
数日後、新聞の一面を詐欺容疑で役所の職員や商人が逮捕された記事が飾った。
あとフォックスの羽振りが少し良くなったが、その理由をツンは知らないままだった。
- 123 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:21:00 ID:OUL/UC0I0
翌朝。
朝食を済ませた二人は、音楽隊との打ち合わせ、近隣の森へ魔物狩り、と別々の方向へと歩いて行った。
簡単な弁当と、袋やロープを用意してもらったツンは、のんびり歩きながら森の様子を見て回る。
街道沿いの森にはワーウルフが巣を作っていたが、ここいらはどうか。
まだ獣の気配はしない。
ここは川が流れていて土も良い、餌が多く住み良い場所だろう。
そのせいか、抉れた木々の幹、足跡、糞、食い荒らされたキノコや果実が目立つ。
村の畑の方へ通じる獣道すら出来てしまっている。
ξ゚⊿゚)ξ(数が多いな……去年は日が長かったから、餌と一緒に頭数も増えたか)
ξ゚⊿゚)ξ(去年の内に減らすべきだったが……被害は今年に入ってから)
ξ゚⊿゚)ξ(何か歯止めがあったのか……)
ξ゚⊿゚)ξ(見た感じ、巣食ってるのは草食か……しかし餌が減れば人すら食う)
ξ-⊿゚)ξ゙(悪いけど、狩らせてもらうわ)
- 124 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:21:40 ID:OUL/UC0I0
こちらの敵意を察知したのか、周囲からの殺気がツンの肌を刺す。
昼食の入ったバスケットを適当な木の枝にぶら下げて、斧槍を構える。
すると草むらから、勢いよく何かが飛び出してきた。
ξ゚⊿゚)ξ「おぉ……大イノシシか」
抉れた木の幹はやっぱり牙の跡だったかー、と納得したように頷くツン。
その顔には焦りも恐怖も浮かばず、それどころか、瞳には輝きが増した様に感じる。
真っ直ぐに突き進んでくる巨大なイノシシに似た魔物を、正面から叩き伏せる。
続けて、次から次へと姿を見せる魔物。
その返り血をまともにかぶりながら、ツンは顔を上げて、この旅初めての笑顔を見せた。
ξ*゚ヮ゚)ξ「食肉!!」
- 125 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:22:34 ID:OUL/UC0I0
その後に繰り広げられたのは、一方的な殺戮、もとい屠殺ショー。
嬉々として食肉、大イノシシを斬り倒しては木に吊るし、斬り倒しては木に吊るし。
イノシシ系の魔物は、野性動物に近く味はさして悪くはない。
癖はあるが臭みは少なく、肉は固いが調理次第で柔らかくも出来る。
肉食のワーウルフと違って、草食で野性動物に近い大イノシシの味が悪いわけがない。
難点は固いだけだ、魔物の肉は往々にして固い、だがツンには関係の無い事。
当然ながら家畜の肉の方がずっと美味しい、名物などになる魔物料理に比べれば雲泥の差だ。
しかしツンには、ごちそうの山にすら見えていた。
ちなみにジャーキーなどにすると恐ろしく固くなるが出汁が出るので一般家庭にもたまにある。
人気は大して無いのだが、需要が無いわけではないので流通はされている。
何でも美味しく食べようとする先人の知恵とは素晴らしいものだ。
ξ゚⊿゚)ξ「おっ、と……近場のは狩り尽したか」
ξ゚⊿゚)ξ「完全に駆逐させちゃ不味いから……巣はあっちか」
ξ゚⊿゚)ξ「つい肉狩りに夢中になったけど、色々確認しなきゃな……」
ξ゚⊿゚)ξグゥゥゥ
ξ゚⊿゚)ξ「先にお弁当食べよう」
- 126 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:23:37 ID:OUL/UC0I0
血を拭って払い、適当な場所に座り込んでバスケットを下ろし、中身を拝見する。
レーズンの練り込まれたふかふかのパンと、瓶に入った葡萄ジュース。
エールやワインを勧められたが、戦士として酔って刃は振るえないとして入れてもらった物だ。
いただきますと両手を合わせ、パンを半分に割いて口に運ぶ。
ほんのりとしたバターと香ばしい小麦の香りが鼻を抜け、
レーズンは独特の歯応えと甘酸っぱさでその存在を主張する。
特別な事は何も無いが、噛めば噛むほどにパン特有の甘さが感じられた。
喉を擦るパンを押し流す葡萄ジュースもまた甘酸っぱく、舌の付け根に残るような渋味がある。
しかしまあ、それもまた美味、とツンは弁当を貪った。
葡萄ジュースは後で飲むために、少しだけにしておいたが。
相変わらずの早さで食べ終えたツンは後片付けをすると、仕事を再開する。
ξ゚⊿゚)ξ「お肉は良いけど……これ持って帰れるのかしら……」
大量の肉を見上げて首をかしげながら、まあ何とかなるかと歩を進めた。
- 127 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:25:11 ID:OUL/UC0I0
足跡、足音、ざくざく、とことこ。
時おり魔物を引き裂いて、赤く染まりながら巣に近付く。
しかしこの巣探しがなかなか難儀して、巧妙に隠された巣穴の存在に気付くのが遅れてしまった。
巣穴は木々の隙間、根本から掘り下げられて岩場の洞窟まで続いていた。
今は中には何も居なかったが、その洞窟もまた、人の手で広げたような綺麗な作り。
大イノシシだけでこの巣を作れるとは思えない、恐らく先住の魔物か何かが居たのだろう。
こつこつ、じゃりじゃり。
洞窟の中は、岩壁に自生するヒカリキノコのお陰で意外に明るい。
入り口以外にも穴があるのか、風が通り臭いもこもらない。
本当に、人の住んでいた様な、
こつん
爪先に、何かが当たった。
ξ゚⊿゚)ξ「……人の頭……にしては、大きすぎるわね……」
薄暗い地面に転がる頭蓋骨。
その大きさは人の倍程もあり、立派な巻き角が二本生えている。
- 128 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:26:35 ID:OUL/UC0I0
魔物の類いか、それとも亜人の類いか。
落ちている頭蓋骨は二つ、大きく立派な物と、人と変わらぬ大きさに角の生えた物。
恐らくつがいだろうが子の骨は無い、死んで数年と言うところか、いや、肉を食まれればもっと近いか。
散らばる他の骨の残骸は、割れていても太さと長さをうかがい知れる。
壊れた木製の何かや獣の皮、割れた石斧にも見える物。
手を使う魔物であれば、簡単な道具は扱える。
恐らくここに住んでいたのは、巨大な体躯の、人型に近い魔物か何かだったのだろう。
壊れたり雑であったりはするが道具らしき物がある、手先が器用だった筈だ。
ここは村にも近い、それなのにそんな魔物の話は聞かなかった。
それは恐らく、人間と意図して関わっていなかったからでは無いか。
転がる二つの頭蓋骨を、寄り添うように並べてやる。
近くに落ちている骨の残骸を集めて、一ヶ所にまとめる。
こんな事をしたところで、大イノシシやらが蹴散らしてしまうのだろうが。
それでも何だか、理性の残るこの巣の様子を見ると、無下に扱う事は出来なくて。
ああ私ってやっぱり甘いな、なんて。
- 129 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:27:37 ID:OUL/UC0I0
恐らくこの角を持つ何かが、この森の歯止めだったのでは無いか。
群れで暮らしていたとは思えないが、たった二匹でそれは可能なのか。
しかし骨を見た感じ、何かに削られた跡がある。
これはきっと、大イノシシが屍肉を食んだ跡。
ならばやはり時期も符合するか、たったの二匹で森を統べていたのか。
ξ゚⊿゚)ξ(しかし、なぜ死んだ)
ξ゚⊿゚)ξ(魔物に襲われた……いや、返り討ちに出来るはず……)
ξ゚⊿゚)ξ(じゃあ人間……? でも、村ではそんな話は聞かなかった)
ξ゚⊿゚)ξ(人間が狩ったのなら、この角を土産に持ち帰るはず)
ξ゚⊿゚)ξ(殺せはしたが、そんな余裕は無かった……? んん……分からん……)
ξ゚⊿゚)ξ(むー……帰ったら狐に聞いてみるか……)
ξ゚⊿゚)ξ(っ、と……小さい方の骨に、なんかついてる……銀色、かな、曇ってる)
- 130 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:29:21 ID:OUL/UC0I0
しゃがみこんだまま考えていたら、小さい方の骨の角に、何か銀色の物がついてる事に気付いた。
指先で撫でてみると、それは装飾品なのだろうか、角にはめられた銀のリングで。
少し引いてみると、簡単に外れたそれを、キノコの明かりに照らしてみる。
文字に似たものが刻まれているが、汚れているし薄暗くてよく読めない。
よく見るために岩壁に近付くと、そこにめり込む存在に気付いてしまった。
ξ゚⊿゚)ξ(……銃弾)
よくよく壁に目を凝らせると、めり込みつぶれた銃弾がちらほら。
骨の後ろの方にも、小さな穴が空いていて。
ああなんか、なんかすごく、ヤな気分。
恐らくだが、理性のある魔物。
器用で、賢い、理性的な魔物。
たまに居る、どちらかと言うと魔族に近いそれ。
人は、それをも狩りの対象にする。
- 131 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:31:18 ID:OUL/UC0I0
人は人を狩る。
種族問わず、人は狩りの対象にする。
私もまた狩る側だし、油断をすれば狩られる側だ。
狩らなければ、狩られてしまうから。
だからって、私は人の心は捨てたくないし、良心を抱えて苦しみたいな。
甘いなって、自覚はしてるけど。
角にはめられていたリングを手首に通して、代わりに葡萄ジュースを取り出す。
葡萄ジュースの瓶を二つの骨の前に置いて、深く、一度頭を下げた。
あなた達の事は知らないけれど
あなた達の事を覚えていたいから。
これ、大事にするから許して
きれいに磨いてぴかぴかにするから。
人間って、ほんと傲慢だよね。
- 132 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:32:13 ID:OUL/UC0I0
立ち上がり、巣の中を改めて見て回る。
しかし魔物の姿はまるで無く、完全に無人の状態で。
真新しい木の実や土が落ちているあたり、ここが根城ではあるのだろうが。
ξ゚⊿゚)ξ(こんな立派な巣があると、そりゃ増えもするわな)
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ(潰すか)
そうだ、この洞窟の出入り口を潰そう。
そう思い立ったツンは、名案だといった顔で斧を握り直した。
< ドーン! ズシーン!! ガラガラ...
<ウワーナンダー
<マモノカーウワー
<モリノホウカラダー
爪'ー`)y‐(ツンちゃんがやらかした音が村まで響いてきた……)
- 133 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:33:30 ID:OUL/UC0I0
──── うっかり閉じ込められかけたツンが洞窟から這い出て、
適当に数匹の大イノシシを逃がした後に残りを黙々と解体していた頃。
村の方では祭りの最終準備が進められ、広場には大きなかがり火が灯った。
打ち合わせを終えたフォックスは、慌ただしく働く村民を眺めつつ酒場の扉を潜った。
(*゚ー゚)「はーい麦と葡萄亭へようこそー……っと、死体のお兄さん! なんかすごい音したね!」
爪'ー`)y‐「やぁお嬢さん、一杯頂戴? あと音の正体はたぶん僕の相棒」
(*゚ー゚)「えぇ……死体のお兄さん、その小さな相棒さんはまだ戻らないの? もう暗くなってきたのに」
爪'ー`)y‐「うーんツンちゃんねー、ずっと魔物狩りするかもだからねー」
(*゚ー゚)「えぇー、折角なんだから旅人さんにもお祭り楽しんでもらいたいのにー」
爪'ー`)y‐「ねぇお嬢さん、向こうの町にそっくりな姉とか居ない?」
(*゚ー゚)「居ないよ?」
爪'ー`)y‐「あ、そうなの……そっか……」
- 134 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:35:00 ID:OUL/UC0I0
(*゚ー゚)「あ、そうそう頼まれてたお洗濯終わりましたよ」
爪'ー`)y‐「あーツンちゃんの」
(*゚ー゚)「洗っても洗っても水が赤黒くて……怖かった……」
爪'ー`)y‐「あっうんごめんね」
(*゚ー゚)「にしても変わった素材ねぇ、あんなに血を吸ってたのに匂いも質も悪くならないなんて」
爪'ー`)y‐「そこまで血に強い布なんてあるのかね?」
(*゚ー゚)「うーんここまでのは聞いた事無いなぁ、と言うか普通はこんなに血を吸わない」
爪'ー`)y‐「ツンちゃんは趣味なのかってくらい返り血ばしゃばしゃ浴びるから……」
(*゚ー゚)「冒険者的にどうなんですかねそれは……」
爪'ー`)y‐「よくない」
(*゚ー゚)「ですよね」
爪'ー`)y‐「まぁ本人の腕は確かだしどうとでもなるんだけど、はいお礼にチップ」
(*゚ー゚)「あらあらあら悪いわー」
爪'ー`)y‐(良いなぁこう言う強かな子)
- 135 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:35:39 ID:OUL/UC0I0
(*゚ー゚)「そうそう、死体のお兄さんはお祭り行くでしょ?」
爪'ー`)y‐「そりゃ音楽隊に混じるからね」
(*゚ー゚)「じゃあそんな格好じゃダメよー、運んできてくれた荷物から合うの見繕ってあげる」
爪'ー`)y‐「あ、服だったのあれ」
(*゚ー゚)「祭り用の衣装、もー届かなかったらどうしようかと思ったわー」
爪'ー`)y‐「しかし何で衣装を荷物で運んできたの?」
(*゚ー゚)「新調する際に他所の仕立屋さんに頼んだの、村だけじゃ手が足りないから」
爪'ー`)y‐「なるほど、みんな忙しそうだしねぇ」
(*゚ー゚)「よっと、死体のお兄さんのはこのサイズかな」
爪'ー`)y‐「お、良いねぇ僕の顔の良さ際立っちゃって主役になっちゃいそう」
(*゚ー゚)「死体のお兄さんってば見てくれが良いんだから気を付けなよー?」
爪'ー`)y‐「見てくれの良さからこうなっちゃったしなぁ」
(*゚ー゚)「よっ女泣かせ!」
- 136 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:36:40 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐「じゃあ後で着替えてこようかな」
(*゚ー゚)「うんうん、音楽隊は華やかでなきゃね」
爪'ー`)y‐「あ、そうだ」
(*゚ー゚)「はい?」
爪'ー`)y‐「上から65・55・75くらいの女性用の衣装ある?」
(*゚ー゚)「何そのホームランバーみたいなアレ……相棒さんのサイズ把握してるの?」
爪'ー`)y‐「いや目視した感じを適当に」
(*゚ー゚)「おおむね合ってそうで死体のお兄さんちょっと気持ち悪い」
爪'ー`)y‐「お兄さんかなしい」
(*゚ー゚)「あるから用意しとくね、それよりそろそろ行かなきゃ」
爪'ー`)y‐「おっと、じゃあ着替えてきまーす」
(*゚ー゚)「はいはーい」
爪'ー`)y‐「ところで死体のお兄さん呼びやめない?」
(*゚ー゚)「はよ行け」
- 137 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:37:36 ID:OUL/UC0I0
──── ざくざく。
ある程度血の抜いた肉を解体して袋に詰める。
ざくざく。
ざくざく。
肉に残った血で手を濡らしながら、刃を振るう。
ざくざく。
ざくざく。
ざくざく。
私これ端から見たら狂戦士じゃないか?
血まみれになりながら無心で肉を解体し続けるってこれ恐ろしくないか?
今後森に肉を裂く狂戦士の怪談とか出来たらどうしよう。
魔物の娘呼ばわりより立ち直れないかも知れない。
- 138 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:38:15 ID:OUL/UC0I0
すっかり暗くなった森の中。
足元くらいしかよく見えない。
それでも夜目は利く方だし、村の明かりがうっすらと見える。
肉の片付けもそろそろ終わる、抱えて一旦戻るか。
生態系ちょっと壊しかけてるし、ちょっと。
もう魔物の気配も無く、聞こえるのは野性動物の足音や息づかいくらい。
大イノシシもしばらくは大人しくするだろう、つがいと子供を見逃したからたぶん絶滅しない。たぶん。
した時に困るから村の人にちゃんと相談しておこう。
やり過ぎた可能性がある。可能性だようん。
肉を積み重ねて担ぎ、小脇に抱えて更に引きずる。
抜ききれていない血がぼとぼとと体を塗らす。
たぶん今日はもう大丈夫だ。
しかしやり過ぎた事を思うと、私もまだまだ未熟者だな。
狐の言う通りだ。
戦士としての腕力はあっても、私は頭が悪すぎる。
今はまだ小さなやらかしで済んでいるが、いつか大きな失敗をするかもしれない。
そうなっては困るんだ。
私は師匠みたいに、立派な戦士になりたいのだから。
そのためには、ちゃんと経験と知識を積まなければいけない。
- 140 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:39:50 ID:OUL/UC0I0
狐の言う事はみんな正しい、畳み掛けるように言われて困惑したが、正しい。
戦士として、冒険者として。
私はまだまだ幼子のような未熟さだ。
だからもっともっと、強く、強く賢くならなければ。
あー。
きずつく。
クソとか言われたし。
きずつくし。
くやしい。
あぁー。
やだー。
もーやだーもー。
私のばーか。
もー。
おちこむ。
- 141 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:40:56 ID:OUL/UC0I0
──── 夕闇が夜闇に交わり溶ける頃、広場は祭りの様相に染まっていた。
晴れの日用の衣装を纏った村人達は料理や酒を振る舞い、賑やかで軽快な音楽が村を包む。
僕はその中の一人として、普段とは違う装いで楽器を弾いていた。
いつもは気ままな独りの弾き語りだけど、たまには誰かと合わせるのも悪くはない。
まあ、たまにで十分なんだけどね。
軽快な音楽に合わせて人々は体を揺らし、男女のペアになって踊る。
踊る人、歌う人、食べる人、呑む人、笑う人。
ああ、まさしくお祭り騒ぎだ。
慌ただしく走り回るのは料理を任された人たち、あちらに酒が足りない、こちらに肉が足りない。
子供たちも可愛らしく、肉を食んだりジュースを飲んだり、子供同士で踊ったり。
収穫の前祝いの祭り。
それが、今日のお祭りの理由だ。
今年も稔り良く、収穫の日を迎える事が出来る。
今日が前祝いって事は、収穫してからまた騒ぐんだろうなこの人達は。
良いね、楽しい事は大好きだ。
人生は刹那的で、享楽的でなきゃ。
- 142 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:41:50 ID:OUL/UC0I0
ざわざわ。
ざわざわ。
祭りの喧騒とはまた違うざわめきが、森の方から上がる。
それと同時に、酒と料理の匂いに満ちていた広場に、むわっとした血の臭いが混じって。
何か、小山みたいなものが広場へ近付いている。
ぼたぼたと血を滴らせながら、蠢く暗い影。
あんな魔物見た事無いな、いや魔物じゃないのか、みんな避けはするが逃げはしない。
子供達は泣き叫ぶが、大人達はドン引きと言った感じであぁーこれあぁぁー僕の相棒だこれぇー。
全身赤黒く染めた相棒が大量の大イノシシの死骸抱えて広場に入ってきちゃったんだこれぇー。
えぇー、えぇぇぇー、何でまっすぐ入ってきたのー。
せめて裏から入ろうよそこはぁーと言うか何その数の死骸コエェェエー。
地面に血のあとめっちゃついてるしもう引きずってるし怖い怖い何これホラーだよ。
新しい伝承出来るよこれ祭りの日に動物の死骸を引きずり村を歩くアレが出来るよ。
あぁーほらツンちゃん酒場の女将さんに捕まって、あっ、…………あっ。
あの肉これから料理になるな!?
- 143 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:42:55 ID:OUL/UC0I0
──── 男衆が広場の血を必死に洗い流している時、
村に戻ったツンは女衆に囲まれ全身を洗われていた。
頭の先から爪先まで、血と脂まみれになっていた小柄なツンを寄ってたかってあわあわに。
汚れるお湯を換えては流し、換えては流し。
30分も経てば、そこには祭りの衣装を纏う、小綺麗こざっぱりとしたツンの姿が。
馴れないスカートを持ち上げて渋い顔をするも、着ていた服を洗濯に出されてしまってはどうする事も出来ず。
頭につけられた花飾りや下ろされた髪も、馴れないし何だかむず痒いし。
鏡を覗くと、見慣れぬ自分と一仕事やり遂げて満足そうな女衆が写る。
このまま外に出るの?
相棒と踊ってきなさい。
心底嫌そうな顔をしたツンは、厨房に戻って行く女衆に外へと放り出されてしまった。
ξ゚⊿゚)ξ「うひー……やだなぁこの格好……」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「どっかに隠れるかぁ……」
- 144 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:44:09 ID:OUL/UC0I0
村の広場は、それはもうどんちゃん騒ぎだ。
さっき私が帰ってきた時は騒然としていたが、今ではすっかり元の熱気を取り戻している。
料理と、お酒と、私のせいの血の臭い。
大きなかがり火の赤い灯りに照らされて、人の熱気と入り交じり、世界は夕闇のようなオレンジ色。
何だかふしぎ。
朝見た村とは、違う場所のよう。
ぱちぱち、ごうごう。
燃え盛る炎は揺らめいて、音楽に合わせて踊る人々の姿を照らす。
足元に伸びる影は、闇に溶け込み境目なんてわからない。
あ、音楽。
軽快で、賑やかで、からだの揺れるような旋律。
音楽隊の存在はすぐに見付けられたが、私の相方であるゾンビ男の姿はない。
女の子でも追っかけてんのかな、と近場の丸太椅子に腰掛けて、頬杖をついた。
- 145 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:44:41 ID:OUL/UC0I0
どんちゃんどんちゃん。
歌って踊って、食って飲んで。
たのしそうだな。
でも私は何だか、今日は少し疲れてしまった。
手首にはめたままの銀の輪を、衣装のエプロンで擦る。
私ごと洗われたから、汚れはだいぶ落ちたようだ。
それでもまだ曇っているから、ごしごし、祭りから目をそらしてそれを拭く。
はぁ。
なんか、疲れたな。
昨日は狐に怒られたし。
今日は気分悪いもの見たし。
お腹は空いたけど、料理空っぽで、まだおかわりは届いていない。
- 146 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:45:13 ID:OUL/UC0I0
ξ゚⊿゚)ξ「…………はぁ」
爪'ー`)y‐「溜め息吐くと幸せが逃げるって言うよね」
ξ゚⊿゚)ξ「ふぅん……」
爪'ー`)y‐「あれあれー? お姫様はお疲れかな?」
ξ゚⊿゚)ξ「誰がお姫さ いつから居たお前」
爪'ー`)y‐「初回の溜め息から」
ξ゚⊿゚)ξ「どこだよ」
爪'ー`)y‐「ツンちゃんやっぱ良く似合うね、こうしてれば本当にお姫様みたいに可愛いのにさ」
ξ゚⊿゚)ξ「動きにくい」
爪'ー`)y‐「予想しきってた返答、でも髪下ろす方が可愛いよ? せっかく綺麗な髪なんだからさ」
ξ゚⊿゚)ξ「すっっっげぇ邪魔」
爪'ー`)y‐「力入ってんなー」
- 147 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:45:46 ID:OUL/UC0I0
爪'3`)y‐「でも勿体無いよなー折角の美人さんがさぁ」
ξ゚⊿゚)ξ「あーはいはい」
爪'3`)y‐「あっ信じてないなぁ? お兄さんの言葉を信じてないなぁ??」
ξ゚⊿゚)ξ「詐欺師みたいな奴が何を」
爪'ー`)y‐「うんまぁ、今は嘘ついてないけど」
ξ゚⊿゚)ξ「あっそ」プイ
爪'ー`)y‐「それでおっぱい生えてたら完璧なんだけどね」
ξ゚⊿゚)ξ「おう歯ァ食い縛れや」
爪'ー`)y‐「あーだめー衣装のクリーニング代がかさむのー」
ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ三つゴッ
爪 Д(#)そ「ヒギィ」メコ
- 148 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:46:14 ID:OUL/UC0I0
ξ゚⊿゚)ξ「あんた仕事は?」
爪'ー(#)y‐「僕はもーおしまい、一応はお客さんだからね」
ξ゚⊿゚)ξ「ふーん……」
爪'ー(#)y‐「それさっきから擦ってるけどなーに?」
ξ゚⊿゚)ξ「……森にさぁ」
爪'ー(#)y‐「ん?」
ξ゚⊿゚)ξ「大イノシシの巣があったんだけどね……先住の魔物が居たみたいでさ」
爪'ー(#)y‐「ふんふん」
ξ゚⊿゚)ξ「その魔物はさ、大きな巻き角で、人より大きいみたいで」
爪'ー(#)y‐「うーん? 僕は見た事無さそうだなぁ」
ξ゚⊿゚)ξ「壁にさ、銃弾があって」
爪'ー∩゙「……あー」
ξ゚⊿゚)ξ「……死体は残したみたいだし、何で銃で殺されたんだろうな、って……」
爪'ー`)+「うーん……そうだなぁ」
- 149 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:46:54 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐「ゲームハントか、奴隷狩りじゃない?」
ξ゚⊿゚)ξ「……は?」
爪'ー`)y‐「奴隷商は魔物も人も問わず、使える物は何でも仕入れて売るからね」
ξ゚⊿゚)ξ「……いや、奴隷って……死んでたよ?」
爪'ー`)y‐「捕まえようとして抵抗されて、撃ち殺したとかじゃないかなぁ」
ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)y‐「撃ってすぐはまだ息があったんじゃない? だから慌てて狩人も逃げたのかも」
ξ∩⊿∩)ξ「…………あー……」
爪'ー`)y‐「あっあぁーごめんー何かごめんー多分これ一番嫌な返答したぁー」
ξ∩⊿∩)ξ「ァ゚ー……」
爪'ー`)y‐「えぇ……その声どこから出たの…………ところで、手首の輪っかは?」
ξ゚⊿゚)ξ「あー、たぶんつがいのメスの角についてた」
爪'ー`)y‐「貰ってきたの?」
ξ゚⊿゚)ξ「お供えはした」
爪'ー`)y‐「ま、良いんじゃない? 死体漁りなんて日常風景だよ」
- 150 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:47:53 ID:OUL/UC0I0
ξ゚⊿゚)ξ「……何かさ、覚えときたくて……つい持ってきて」
爪'ー`)y‐「覚えとけば良いんじゃなーい? まあそうやってどんどん荷物増やさなきゃだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「んー……」
爪'ー`)y‐(あー僕のせいもあってかツンちゃんが滅入ってるゥーやりづれーつまんねー)
爪'ー`)y‐(あーあぁーご飯でもあれば一発なのに今は無いィー)
爪'ー`)y‐
ぽろん。
突然、隣に座ってきた狐が愛用の楽器を爪弾いた。
音楽隊の音楽と混ざって混乱させないか、と周囲を見るも、気にする人は誰も居ない。
言葉を探るみたいにぽろんぽろんと音を出し、かがり火に照らされた横顔は歌う時のあの顔で。
ああまた、こいつは絵になるな。
- 151 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:48:52 ID:OUL/UC0I0
金の海が満ちる頃
かがり火が闇に灯る頃
踊れや踊れ
足が悲鳴をあげるまで
歌えや歌え
声がかすれてしまうまで
木々の闇から守人が姿を現して
血肉を引きずり広場を巡る
そして稔りの肉を村人へ
おそろしき守人へ感謝を
村を守りしその者へ賛辞を
そして祭りが終わる頃
声枯れ膝が折れる頃
守人は森に消えて行く
次の祭りのその日まで
村を守りて身をかくす
ξ゚⊿゚)ξ「おい待て」
爪'ー`)y‐「こうして新たなおとぎ話が生まれるのだった……」
ξ゚⊿゚)ξ「やめんか」
爪'ー`)y‐「あれ、今日はチップは?」
ξ゚⊿゚)ξ「今持ってない」
- 152 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:49:36 ID:OUL/UC0I0
爪'ー`)y‐「ほらツンちゃん、行こうか」
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
爪'ー`)y‐「踊ろう!」
ξ;゚⊿゚)ξ「や、やだよ! やだよ!?」
爪'ー`)y‐「ほらほらリードしてあげるからさー」
ξ;゚⊿゚)ξ「やだってばぁ!!」
狐に手を掴まれ、立たされて広場の真ん中へと躍り出る。
恭しく頭を下げて手を差し伸べる狐の余裕たっぷりの笑みが、何か知らんがやたらに腹がたって。
こんな挑発されたら乗るしか無い。
私はスカートの裾を持ち上げて、お辞儀を返すと狐の手を取った。
明らかに足を踏むのを期待してるにやにや顔。
でも残念だったなクソマゾこのやろう、私は普通に踊れるからな。
- 153 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:50:31 ID:OUL/UC0I0
音楽に合わせて、スカートの裾をつまんでくるくると。
相手の手を取りひらひらと、軽くステップを踏んで踊ってみせた。
これでも小さい頃から祝い事の度に村で踊ってたんだから。
好きじゃないけど、身に染み付いてるから踊れるんだよ。
心底意外そうに目を丸くする相方は、楽しそうに笑って私の手を掴む。
くるくる、ひらひら、とたとた。
広場の真ん中で踊る私たちは、明らかに悪目立ちしている気がした。
しかしこうして、汗が浮かぶほど身体を動かしていると、嫌な気分が散って行く。
一歩踏むごと、一つ回るごと、胸の奥のもやもやが消えていくみたいで。
ああそっか、そう言う事か。
やっぱストレス発散に筋トレするのは正解なんだな。
師匠の教えは正しかったんだ、悩むより身体を動かせは正しかったんだ。
結局そのまま私達は、音楽の切れ目に料理が届くその時まで、ひたすら踊り続けた。
狐は汗だく息切れでしゃがみこんだが、私は肉を貪りながら空を仰ぐ。
- 154 名無しさん[sage] 2016/11/06(日) 21:51:39 ID:OUL/UC0I0
ああ、何の悩みもないような顔で星がまたたく。
かがり火の炎に照らされた空は、うっすらと赤く見えた。
大イノシシの香草焼きを堪能しながら、串焼きを狐に差し出す。
呆れたような疲れた顔で受けとると、汗をぬぐいながら立ち上がった。
「どうせまたクソ固いんでしょ?」
「料理人が作ったから美味しいわよ」
「君の美味しいはあてになら無いんだよなぁ」
まだ少し血の臭いはするが、香辛料でうまく隠している。
肉は固いが歯応えだと言い換えればどうにかなる。おいしい。
ああそうだ、私、お腹が減っていたんだ。
ごちそうは私の腹にみんなおさめてしまおうかな、と呟く。
やめなよ迷惑だよ、と隣で相棒がくつくつと笑った。
祭りの喧騒は未だ収まる気配もなく
こうして、賑やかな夜は更けて行くのだった。
おわり。