- 202 ◆tYDPzDQgtA 2016/11/20(日) 21:00:35 ID:3szyeEjI0
例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。
騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。
周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声。
刃を振るい、歌声を響かせ、路銀を稼いで進むのは二人。
一人は不機嫌そうに顔を歪める、若い女戦士。
もう一人は、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。
【道のようです】
【第五話 たっぷりじかんをかけて。】
彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。
- 203 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:01:28 ID:3szyeEjI0
目の前には、焼け野原が広がっていた。
立ち並んでいたであろう家屋は、そのほとんどが灰となり風に散らされたらしい。
僅かに残る焼け残った家屋も、半壊状態の廃墟と化している。
がらんとしたその何もない空間を、呆然と眺める相棒の横顔。
お世話になった。
みんないい人で。
ご飯が美味しくて。
子供たちも元気で。
賑やかで、活気があって。
楽しげに話していた人々の賑わいも、喧騒も、熱気も、営みも、今はどこにもありはしなかった。
ただただ静かに広がる、村の跡地。
その奥にぽっかりと開いた鉱山への入り口だけが、存在を主張していた。
驚きと悲痛に歪む横顔と、村の跡地を見比べながら、僕は小さく息を吐いた。
ああ、でも、これは。
そんなに、珍しい事じゃない。
- 204 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:02:32 ID:3szyeEjI0
夜盗か、あるいは魔物か、それとも不幸な事故なのか。
奥地にある村と言うのは、様々な物からその身を守らなければいけない。
以前立ち寄った村が、再び訪れる頃には無くなっていたと言うのはよくある話だ。
毎回それに対して、感傷に浸る余裕は冒険者には無い。
彼女も、それは分かっているのだろう。
爪'ー`)y‐「ツンちゃん」
ξ゚⊿゚)ξ「あぁ……大丈夫、ちょっと驚いて……別に、珍しい事じゃないし」
爪'ー`)y‐「…………」
ξ゚⊿゚)ξ「私にどうこう出来る事でも無いし……でも今は、少しだけ悼みたいわ」
爪'ー`)y‐「……そうだね」
ああ良かった。
そこまで落ち込んでない。
まあ、そりゃそうか。
この間と違って、これは規模が大きい。
- 205 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:03:42 ID:3szyeEjI0
実感がわかないのだろう、記憶の中の村と余りにも様相が違いすぎて同じ場所とも思えないか。
規模的に、村民は数百人ってところか。
田舎に点在する村にしては大きな方だ、それなりに歴史もあっただろうに。
災禍と言うのは非情で、どんな歴史も想いも噛み砕いて飲み込む。
そしてそれは特別な事では無くて、誰にでも、どこにでも降りかかる様な物で。
しかしここは鉱山がある、しばらくすれば、また資源を求めて人が村を作るだろう。
そうやって、人間は似たような事を繰り返す。
これもまた、自然の営みの一つだ。
爪'ー`)y‐「ツンちゃん、そこで休憩させて貰おうか」
ξ゚⊿゚)ξ「うん……」
爪'ー`)y‐「はい、お水」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがと」
まだ形を残している廃墟に近付き、中を確認してから適当な場所に座る。
ここは店だったのかな、カウンターが半分残ってて、壊れた棚には壊れた何か。
- 206 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:04:24 ID:3szyeEjI0
村が焼き払われたのは、数ヵ月前か数年前か。
少なくとも、つい最近の事では無いのは確かだ。
さて、どうしたものか。
火事場泥棒をしようにも、既に荒らされきった後。
この辺りには他に村も無く、落ち着いて休める場所も無ければ道具の買い足しも出来ない。
参ったな、薬師のところに一晩厄介になれたら良いんだけど。
少し休憩したら、急いで森に向かうか。
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ」
爪'ー`)y‐「うん?」
ξ゚⊿゚)ξ「何があったのかしら、ここ」
爪'ー`)y‐「さぁ、何か魔物でも襲ってきたのかも知れない」
ξ゚⊿゚)ξ「でも魔物が多いようには感じないのよね……」
- 207 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:06:04 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「ふむ……なら好都合だよ」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
爪'ー`)y‐「森の奥に入っても襲われにくいって事でしょ?」
ξ゚⊿゚)ξ「あー……そうね、そろそろ行って、出来れば一晩泊めてもらいたいし」
爪'ー`)y‐「そうそう、だから」
「何をしてるの?」
ξ゚⊿゚)ξ!
爪'ー`)y‐「おや」
(*゚ -゚)「あなたたち、こんなところで何をしてるの?」
ξ゚⊿゚)ξ「……脚を休めてるだけよ」
爪'ー`)y‐「僕らはしがない冒険者だよ、お嬢さんはどちら様?」
(*゚ -゚)「私は近くに店を構える薬師よ、森の奥にあるの」
ξ゚⊿゚)ξ「あ」
爪'ー`)y‐「お」
(*゚ -゚)?
- 208 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:07:20 ID:3szyeEjI0
(*゚ -゚)「……そう、ここに来た事があったのね」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、良い場所だった筈だけど……はい、これがご依頼の薬草」
(*゚ -゚)「ありがとう、助かるわ……残りの代金よ」
爪'ー`)y‐「はいどーも、っと……それより、この有り様はなんだい? 何があったのか知ってる?」
(*゚ -゚)「……この村はね、鉱山の奥に眠っていた竜を起こしてしまったの」
ξ゚⊿゚)ξ「竜……? こんな所に居たの?」
(*゚ -゚)「ええ、遥か昔に人間との盟約を交わした竜が眠っていた
剥がれた鱗や炎を差し出す代わりに、寝床である山を守らせていたの」
ξ゚⊿゚)ξ「へぇ……竜は気位が高いって言うのに」
(*゚ -゚)「穏和な竜だったから、人々は長く、眠る竜から剥がれ落ちたの鱗で岩を砕き
鉱石を集めては、消える事の無い竜の炎でそれを煮溶かしていた」
ξ゚⊿゚)ξ「……だから栄えていたのね」
(*゚ -゚)「そうね、けれど新たな鱗を拾いに行った者が竜を起こしてしまった」
- 209 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:09:01 ID:3szyeEjI0
ξ゚⊿゚)ξ「でも、盟約を交わしていたんでしょ? 人間が約束を反故にしたとも思えないわ」
(*゚ -゚)「老いる事で、人が変わってしまったようになる事は知ってる?」
爪'ー`)y‐「あぁ、あるねぇそう言うの……もう、分かんなくなっちゃってたのかな」
(*゚ -゚)「ここに居る竜は、それはそれは老体で、過去に交わした人間との盟約は忘れていた
寝床へ足を踏み入れた人間を敵だと認識するくらい、彼は老いてしまっていた」
ξ゚⊿゚)ξ「……元より、竜は気位が高い」
(*゚ -゚)「長く長く生きて経験を重ね、人間と盟約を交わす程の穏やかさを得た竜だとしても
全てを無くすのはほんの一瞬、ほんの些細な事で、積み上げた全てが壊れてしまう」
ξ゚⊿゚)ξ「なん、っか……やるせないわね」
爪'ー`)y‐「老いる事が悪とは思わないけど、悪い事は起きると言うか……何ともまあ」
(*゚ -゚)「で、一晩のうちにこの有り様よ……誰一人として、逃げ出せなかったと思うわ」
ξ゚⊿゚)ξ「はー……」
(*゚ -゚)「嫌な話だったかしら」
ξ゚⊿゚)ξ「……いえ、聞けて良かったわ」
爪'ー`)y‐「竜も人と同じように、老いる事で大事な物を失うんだねぇ」
(*゚ -゚)「当然よ、生きているんだもの」
- 210 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:10:59 ID:3szyeEjI0
ξ゚⊿゚)ξ「……ところで、随分詳しいのね?」
(*゚ -゚)「そうかしら、長くここに住んでいるからかも知れないわ」
爪'ー`)y‐「長く、ったってまだ10代の前か中頃かじゃない? 若く見える種族?」
(*゚ -゚)「人間よ? 昔の話だけど」
ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)y‐
(*゚ -゚)「ちょうど一人で暇をしていたの、夕飯と宿はいかがかしら」
ξ゚⊿゚)ξ「行きます」
爪'ー`)y‐「躊躇う素振りは見せて」
(*゚ -゚)「薬師だからって別に毒なんて盛らないわ、狭いし森の奥だけど、どうぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」
爪'ー`)y‐「うーん……まぁ気になるし、ついていくかぁ」
(*゚ -゚)「吟遊詩人も難儀ね、歌の種には貪欲で」
爪'ー`)y‐「次に弾く時は歌わせてもらいましょうかね」
(*゚ -゚)
(*゚ー゚)「構わないわ、その代わり、とびきり綺麗に歌ってちょうだい」
- 211 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:12:24 ID:3szyeEjI0
薬師の少女を先頭に、森の中を歩いて行く。
腰まで垂らした髪は形良く編まれ、どこかの国の紋章が刻まれた髪飾りをつけている。
ツンちゃんと身長もさして変わらず、小柄でごく普通の少女にしか見えない。
顔立ちは可愛らしいが、どこか遠くを見ているような冷たさ。
不機嫌そうと言うわけではなく、ただ静かに、冷たく表情を保っている。
年の頃は見た感じだと10代の前半から中頃、僕の好みには少し若いかなぁ。せめてもう5年は先の方が。
薬師の案内のお陰で、日が落ちる前に店に辿り着けた。
まあ日が高かろうと、森の中に陽の光はほとんど射し込まないのだけれど。
小さな、森に溶け込むような、それでも小綺麗な店。
小瓶を紐で連ねた物や、逆さに干された薬草が吊るされている。
そして申し訳程度の、閉店中を示す看板。
薬師はその看板を開店中に戻す事も無く、ドアを開けて中に入っていった。
無警戒のツンちゃんがそれに続き、肩を竦めてから僕も続いた。
草の匂い、薬の匂い、甘いような苦いような不思議な匂い。
カウンターにもその向こうにも、ところ狭しと並ぶ薬の類い。
材料である植物以外の物が入った瓶まで並んでいるものだから、これではまるで魔女の家だ。
少女の容貌に似つかわしくない店内だが、居心地が悪いわけでもない。不思議なものだ。
- 212 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:13:27 ID:3szyeEjI0
(*゚ -゚)「あ、そうだわ」
ξ゚⊿゚)ξ「はい?」
(*゚ -゚)「役所を通してのお話では無いのだけれど、ひとつ頼まれてはくれないかしら」
ξ゚⊿゚)ξ「何か足りませんでした?」
(*゚ -゚)「いいえ、知り合いの調香師に届けてもらいたい物があって」
爪'ー`)y‐「場所と相手と金額次第かなー」
(*゚ -゚)「当然ね、場所はここ、相手は……まあ少し変わっては居るわね、金額はお好きなように」
爪'ー`)y‐「えーぇ胡散臭ーい?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと」
(*゚ -゚)「それも当然ね……竜の街は知ってるかしら」
爪'ー`)y‐「今度行く予定だよね?」
ξ゚⊿゚)ξ「その予定よ、肉の配布時期だから」
(*゚ー゚)「ふふ、美味しいものね竜の肉は」
- 213 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:14:10 ID:3szyeEjI0
ξ゚⊿゚)ξ「食べた事が?」
(*゚ー゚)「あるわ、この土地に眠っていた竜の心臓を」
爪'ー`)y‐「……心臓?」
ξ;゚⊿゚)ξ「食べたら竜は死ぬのでは?」
(*゚ -゚)「あら、死なないわ、そんなちゃちな作りじゃないもの
……その様子じゃ、竜の心臓の効果は知らないのね」
ξ;゚⊿゚)ξ「学が浅くて申し訳なく……」
爪'ー`)y‐「部位ごとに何か効能があるの?」
(*゚ -゚)「効能は不老不死一つよ、その強さが違うだけ」
ξ゚⊿゚)ξ「不老不死」
(*゚ -゚)「尾の先何かは少し元気になる程度だけど、心臓はもっとも効能が強い」
爪'ー`)y‐「へぇ、そんな心臓を食べたなんて……君は一体何者なのかな?」
(*゚ -゚)「竜の寵愛を受けた者」
ξ゚⊿゚)ξ?
爪'ー`)y‐?
(*゚ -゚)「竜と関わりがないとそんなもんよねぇ」
- 214 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:15:34 ID:3szyeEjI0
(*゚ -゚)「竜の心臓を口にするのはとても特別な事、
だから竜に心臓を差し出させる程の寵愛を受けた者だけが、不老不死になる事が出来る」
ξ゚⊿゚)ξ「確かに……気位の高い竜が人間に差し出すとなると相当な事の筈……」
爪'ー`)y‐「じゃあお嬢さん竜に愛されてるって事だ」
(*゚ -゚)「少し違うわ」
爪'ー`)y‐「ん?」
(*゚ -゚)「愛されてた、ね」
爪'ー`)y‐「あぁー……」
(*゚ -゚)「私の事も、忘れてしまっているしね」
ξ;゚⊿゚)ξ「……で、でも、何で寵愛に心臓なのかしら、不老不死にする理由は?」
爪'ー`)y‐「理由は一つだと思うよ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「へ?」
爪'ー`)y‐(マジかこの子)
- 215 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:17:05 ID:3szyeEjI0
(*゚ -゚)「あら、話しすぎたわ、日が落ちそう」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、もうそんな時間か」
(*゚ -゚)「薪を外から取ってきてもらえるかしら、夕飯の準備をするわ」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ私が行ってくる」
爪'ー`)y‐「僕はお手伝いでもしましょうかね」
(*゚ -゚)「逆では?」
爪'ー`)y‐「僕は弱いから何かあったら割りと大変で」
(*゚ -゚)゙「なるほど」
爪'ー`)y‐「あの子は強いから」
(*゚ -゚)「信頼してるの?」
爪'ー`)y‐「力だけは」
(*゚ -゚)「あら、ひどい相棒ね」
- 216 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:18:49 ID:3szyeEjI0
(*゚ -゚)「それじゃあ、芋の皮でも剥いてもらおうかしら」
爪'ー`)y‐「はいはい」
(*゚ -゚)" カチャカチャ
爪'ー`)" サクサク
(*゚ -゚)「ねぇ、あなた」
爪'ー`)y‐「はい?」
(*゚ -゚)「その煙草、どこで作られたものかしら」
爪'ー`)y‐「あー、これは東の国の薬師から買ってるんだよねぇ」
(*゚ -゚)「それじゃあ喉の保護にならないわ、調合を変えないと」
爪'ー`)y‐「……よくこの煙草が喉を保護するものだと……?」
(*゚ -゚)「どれだけ薬師をしてると思ってるの、それくらい匂いで分かるわ」
爪'ー`)y‐「何百年と?」
(*゚ -゚)「桁が足りないわね」
爪;'ー`)y‐
- 217 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:20:34 ID:3szyeEjI0
(*゚ -゚)「後で調合をしてあげるわ、好きな匂いはあるかしら」
爪'ー`)y‐「女の子」
(*゚ -゚)゙「わかったわ」
爪'ー`)y‐「冗談です冗談、マルメロとかシトロンが好きです」
(*゚ -゚)「そう、じゃあ合う調合にしてあげる、調香師に手紙を添えるわ」
爪'ー`)y‐「あー荷物の届け先の? じゃあちょうど良いかぁ」
(*゚ -゚)「変わった子だけど、腕は良いから」
爪'ー`)y‐「煙草のお代は?」
(*゚ -゚)「結構よ、役所を通さず依頼するのだし」
爪'ー`)y‐「んじゃお言葉に甘えますかね」
(*゚ -゚)「もし良ければだけど」
爪'ー`)y‐「うん?」
(*゚ -゚)「眠る時にでも、古いおとぎ話を聞いてもらえるかしら」
爪'ー`)y‐「喜んで」
(*゚ -゚)「ありがとう」
- 218 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:22:03 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「月並みな質問だけどさぁ」
(*゚ -゚)「何かしら」
爪'ー`)y‐「不老不死は、つらいかい?」
(*゚ -゚)「つらいと言うより、飽きるわね」
爪'ー`)y‐「あー……僕も、死ねない体質でさぁ」
(*゚ -゚)「不老不死ではなく、不死者と言った感じかしら」
爪'ー`)y‐「ゾンビ体質って感じ、死んでも死んでも蘇る」
(*゚ -゚)「何かの寵愛を?」
爪'ー`)y‐「魔女の呪いを少々」
(*゚ -゚)「ご愁傷さま、魔女の呪いはその家系の者にしか解けないから実質解呪は不可能よ」
爪;'Д`)y‐「えぇーぇ止めてよーぉ今は解呪のために旅してんのにさーぁ」
(*゚ -゚)「魔女の呪いを受けるなんて、相当な悪行でも?」
爪'ー`)y‐「一晩仲良くしただけだよ?」
(*゚ -゚)「あら女の敵、火遊びが過ぎたわね」
- 219 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:22:32 ID:3szyeEjI0
(*゚ -゚)「相棒さんとはなぜ共に?」
爪'ー`)y‐「護衛にね」
(*゚ -゚)「そう」
爪'ー`)y‐「ちょっと騙して契約を」
(*゚ -゚)「悪い子ね」
爪'ー`)y‐「あぁー今のちょっとゾクゾクするぅー」
(*゚ -゚)「ごめんなさいね、子持ちなの」
爪'ー`)y‐「人妻だったかー」
(*゚ -゚)「……妻か、そうね……妻、か」
爪'ー`)y‐「……人ではない者との日々って、どんなもんだろうね」
(*゚ -゚)
(*゚ー゚)「幸せだったわ」
- 220 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:24:03 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「……そ」
,,ξ゚⊿゚)ξ「ただいま」
爪'ー`)y‐「あ、おかえり」
(*゚ -゚)「おかえりなさい」
ξ゚⊿゚)ξ「悪さしてないでしょうね」
爪'ー`)y‐「人妻だったよ」
ξ゚⊿゚)ξ「お前人妻だろうが手出すだろうが」
爪'ー`)y‐「皮剥き終わったよー」
ξ゚⊿゚)ξ「おいこらクソ狐」
(*゚ -゚)
爪'ー`)y‐「ほらお嬢さん引くから暴力はやめて」
ξ゚⊿゚)ξ「お前ほんとお前」
(*゚ー゚)(賑やか)
- 221 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:25:12 ID:3szyeEjI0
振る舞われたのは、何も特別ではない平凡なポトフで。
シンプルな味付けと、柔らかな具材が腹の中を暖めてくれた。
薬師の少女は表情が乏しいが、時おり穏やかに微笑む。
その微笑みは、子を、孫を、雛や仔猫を見るような眼差しで。
その眼差し、瞳の奥の冷たさは、彼女が見た目通りの年齢では無い事を裏付けるのに十分だった。
彼女の話をすべて信じるとしたら。
どれだけの時間を一人で過ごしたのだろう。
どれだけの孤独を抱えて生きたのだろう。
彼女を置いて眠りに就いた竜は、目覚める頃には彼女を忘れていた。
今、彼女がそこに座っている理由は何なのだろうか。
いったい何が、今もなお彼女を壊さず、生かしているのだろう。
死なない事への恐怖は、僕自身が一番分かっている。
もっとも、僕は『老いる不死者』なんだけど。
だからこそ、絶望は深い。
- 222 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:26:06 ID:3szyeEjI0
彼女は宣言通り、クッションと毛布で寝床を与えてくれた。
床にごろ寝ではあるが、屋根があるだけずっとマシだ。
毛布にくるまるツンちゃんと、壁に凭れる僕。
それを眺める彼女は、揺り椅子に腰掛けて微笑んでいた。
それじゃあ、お話をしましょう。
薄い唇を開いて、子供に読み聞かせるような、優しい声音で言葉を紡ぐ。
ああ、今日は僕の歌の出番は無いな。
むかしむかしのあるところ。
薬師の少女が、傷付いた竜と出会いました。
同族との争いに敗れ、傷付いた竜に、薬師の少女は手当てを施しました。
傷が治るまでは殺さずにおこう。
傷が治るまでは手当てをさせてやろう。
傷が治るまでは話し相手をさせてやろう。
傷が治るまでは、傷が治るまでは。
傷が治る頃には、竜と少女は惹かれ合い、互いを深く愛するようになりました。
- 223 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:27:09 ID:3szyeEjI0
竜は少女に側に居てもらうために、己の心臓を差し出しました。
少女はその心臓を口にして、老いる事も死ぬる事も出来なくなりました。
少女を通じて人を知り、人に心を許し、人を盟友とした竜。
人は襲わない、傷付けない、助け合い、共に生き、守り合おうと竜は少女に誓った。
けれど二人でたくさんの時を過ごした竜は、年老いて動く事もままならない。
流れ着いた山の中、竜は少女を置いて、魂と肉体を休めるために眠りに就きました。
眠りに就くほんの少し前。
竜はぽろぽろ涙をこぼし、少女に語りかけます。
いとしい竜の花嫁よ、私は再びおまえを迎えにゆくよ
いとしい我が花嫁よ、再びこの双眸におまえが映る事を夢見て
いとしい我が花嫁よ、おまえを歪めた私を憎んでくれるか
竜があまりにも悲しそうな声で泣くものだから。
少女はその鱗でざらつく大きな顔を撫でながら、彼も、自分も泣かないように、笑いました。
- 224 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:28:03 ID:3szyeEjI0
いいえ、いとしいわたしの竜
わたしはあなたを憎まない
わたしはあなたを愛し続ける
だから、いとしいわたしの竜
どうかどうか、わたしを迎えにきてください
おはよう、ただいま、いとしい人と
わたしを迎えにきてください
堪えていた涙をぽろぽろと。
ふたりは誓い合って、愛し合って、再会を約束して、離れて行った。
取り残された少女は一人、ひっそりと、森の奥にお店を作りました。
大好きなあの人が目を覚ますまで、一人で静かに待ち続けよう。
目を覚ましたら、一番に駆け付けられるように。
- 225 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:29:08 ID:3szyeEjI0
おしまい。
そう言葉を切った彼女は、どこか遠くを、とても悲しそうな目で見ていた。
中途半端な物語り。
ここで話を終わらせたのは、どんな結末でも悲しいから。
事実を結末にすれば、それはひどく悲しいもので。
理想の結末にすれば、それは彼女を余計に苦しめる。
ああ、現実と言うのはおとぎ話のようにはいかない。
愛した人に与えられた不老不死と言うそれは、きっと消せない呪い。
恋人を、伴侶を失った彼女は、それでも一人生き続ける。
傍らで、眠ってしまった相棒を見る。
今日ばかりは、幸せそうとは言えない寝顔。
暖炉の灯りに照らされる巻き髪を指先に絡めてみると、くすぐったそうに身をよじった。
もう少し色気があればなぁ、君を抱く可能性がほんの僅かに芽生えるのに。
薬師は口を閉ざしたまま、揺り椅子をきぃきぃ。
僕も声をかけるなんて無粋な真似はしたくない、このまま眠ってしまおう。
ああ、でも。
こんな胸がちりちり痛む夜は、娼婦でも買って柔らかな胸の中で眠りたい。
- 226 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:30:09 ID:3szyeEjI0
目が覚める頃には、薬師は依頼の荷物と僕の煙草と、朝食を用意してくれていた。
まだ起きない相棒を爪先で軽く蹴りながら、僕は身支度を整える。
身支度する様は誰かに見せたくないんだけど、まあ、薬師は良いか。
おばあちゃんみたいな感じだし。
薬師は変わらず、布の多い服にきっちりと編まれた三つ編みで。
髪を止める髪飾りには、竜のような紋章。
どこの国の物なのか、今度調べてみようかな。
爪'ー`)y‐「おーはよ」
(*゚ -゚)「おはよう、早く食べてしまいなさい」
爪'ー`)y‐「ツンちゃん起きな、久々の屋内で惰眠貪りたいのは分かるけど」
ξぅ⊿-)ξ「うー……私の培ったぬくぬくが……」
⊂爪'ー`)⊃「ほらこの胸に飛び込んで」
ξぅ⊿-)ξ「ノルマ達成させんぞ……」
爪'ー`)y‐「今回は血まみれも死に芸もノルマが無いと思っていたのに……!?」
- 227 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:31:00 ID:3szyeEjI0
(*゚ -゚)「午後から雨になるから、森を抜けるなら早めに行きなさいね」
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
爪'ー`)y‐「やっと起きた……頭くしゃくしゃだよ君」
ξ゚⊿゚)ξ「うっさい」
爪'ー`)y‐「ンモー」
(*゚ -゚)「ほら、朝食とお弁当」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」
爪'ー`)y‐「動かないで」
ξ゚⊿゚)ξ「離せ私は朝御飯を食べるんだ」
爪'ー`)y‐「動くんじゃないこのサイドドリル! 結べないから!」
ξ゚⊿゚)ξ「あとで適当にやるわよ!」
爪'ー`)y‐「その適当がムカつくんだよなぁ!」
(*゚ー゚)(……賑やか)
- 228 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:32:21 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「しかし、ここまでお世話になって良いの?」
(*゚ -゚)「良いわ、薬草のお礼だから、お代金も荷物に入れておいたわ」
爪'ー`)y‐「その薬草ってそんなに大事な物だったんだ」
(*゚ -゚)「ええ、不死者でも殺すと言われている毒の材料なの」
爪' -`)y‐「……ちょっと」
(*゚ー゚)「……飲まないわ、飲むつもりだったけど、少し気がはれたから」
爪' -`)y‐「…………」
(*゚ー゚)「薬草は別の、毒にはならない薬に使ったから」
爪'ー`)y‐「……そっ」
(*゚ー゚)「ええ、ええ……街の方にでも、店を移そうかしら」
爪'ー`)y‐「良いんじゃない?」
(*゚ー゚)「そうね……賑やかな方が、良いものね」
- 229 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:33:35 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「それじゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「何から何まで、お世話になりました」
(*゚ー゚)「こちらこそ……あ、そうだわ」
ξ゚⊿゚)ξ「はい?」
(*゚ー゚)「森を進むのなら西の方へ真っ直ぐ行きなさい、小屋があるから雨を凌げるわ」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、ありがとうございます」
(*゚ー゚)「いいえ」
爪'ー`)y‐「それじゃ、またいつか」
ξ゚⊿゚)ξ「失礼します」
(*^ー^)「ええ……また、またね」
穏やかに笑って手を振る彼女を、僕らは振り返らなかった。
- 230 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:34:23 ID:3szyeEjI0
,,ξ゚⊿゚)ξテクテク
,,爪'ー`)y‐テクテク
,,ξ゚⊿゚)ξ
爪;'ー`)y‐「続くんだね!?」
ξ゚⊿゚)ξ「何よ急に」
爪'ー`)y‐「いやなんかもう今回終わりそうだったから……」
ξ゚⊿゚)ξ「何いってんだこいつ」
爪'ー`)y‐「えぇーめっちゃ普通に続いた……こわ……」
ξ゚⊿゚)ξ「それより、雲行き怪しそうだし急ぐわよ」
爪'ー`)y‐「はーあい」
ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ「あのさ」
爪'ー`)y‐「はーい」
- 231 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:35:10 ID:3szyeEjI0
ξ゚⊿゚)ξ「竜って、まだ生きてるのよね」
爪'ー`)y‐「だろうねぇ」
ξ゚⊿゚)ξ「……このままだと、討伐されるんじゃないかな、って」
爪'ー`)y‐「……依頼されたらどうする? 倒す」
ξ゚⊿゚)ξ「え、無理」
爪'ー`)y‐「何で? 良心が咎める?」
ξ゚⊿゚)ξ「いやそれ以前に私の腕では倒せない」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ「握力だけでどうにかなるもんじゃないし、竜の鱗を貫けるとも思えないし」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ「私はたかが金のランクよ、竜の討伐だなんて早すぎるわ」
爪'ー`)y‐
_,
ξ゚−゚)ξ「何か言えよ」
爪'ー`)y‐「僕ツンちゃんのそう言うとこ好き」
_,
ξ゚−゚)ξ「気色悪いなおい」
- 232 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:36:10 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「はぁまじ、ツンちゃん戦士的にまじめっちゃストイック、好き」
_,
ξ゚−゚)ξ「やめておぞける」
爪'ー`)y‐「何でおっぱい生えてないの?」
_,
ξ#゚−゚)ξ「今日のノルマか? お?」
爪'ー`)y‐「はーあぁぁあ……ほんとまじ……」
_,
ξ゚−゚)ξ(……? 何かアンニュイ? 話聞いてやるか……?)
爪'ー`)y‐「はぁ……ほんとおっぱい生えろよ……何なんだよその豆腐体型……」
_,
ξ゚−゚)ξ(よし殺そう)
爪'ー`)y‐「もう本当さぁ村無いしさぁ町遠いしさぁ女の子抱けないしさぁなのに傍らにホームランバーさぁ」
_,
ξ゚−゚)ξ(そうだ頭掴んでねじって背骨引きずり出そう)
爪'ー`)y‐「ツンちゃんにおっぱい生えてたら微レ存抱けたかも知れないのに」
_,
ξ゚−゚)ξ(何で全力で煽ってくんのこいつ)
爪'ー`)y‐「ああでも生えてもツンちゃんじゃ無理だなやっぱ……無理だわ……無いわ……」
_,
ξ#゚⊿゚)ξ「狐」
爪'ー`)y‐「はい?」
<ウギャー ベキィズルズル
- 233 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:37:03 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「いやぁまさかノルマ達成するとは」
ξ゚⊿゚)ξ「お前ほんとわざとかってくらい煽るよな」ポタポタ
爪'ー`)y‐「決して故意では無いんだけどツンちゃんの胸が無いことは事実でしょ?」
ξ゚⊿゚)ξ「処す?」
爪'ー`)y‐「やめよ?」
ξ゚⊿゚)ξ「つかせめてシンデレラバストとか言えよお前」
爪'ー`)y‐「無理」
ξ゚⊿゚)ξ「何で」
爪'ー`)y‐「良いかいツンちゃんあれは胸が控えめだろうと可愛らしい物を身に付けようと言う
女の子の気概が無ければ自称できないんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)y‐「ツンちゃんみたいにノーブラノー可愛げノー色気の野生児を甘んじる子には駄目です」
ξ゚⊿゚)ξ「なんかすみません」
- 234 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:37:56 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「ツンちゃんが無乳だろうとそう言う可愛らしいお嬢さんなら多少の性欲をもてあますっつーの」
ξ゚⊿゚)ξ「クソ失礼だしクソムカつくしクソみたいな発言なのに反論出来ないのが心苦しい」
爪'ー`)y‐「ギャップ萌え的にさぁ実は可愛い物が大好きーとか将来の夢はお嫁さーんとか無いの?」
ξ゚⊿゚)ξ「別に可愛い物が嫌いではないけどな」
爪'ー`)y‐「実は少女趣味とかそう言うキャラ付けを」
ξ゚⊿゚)ξ「いやそこまででは無いわ、見るだけで十分だし」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ「身に付けるなら実用性の方を重視するし、可愛い物は娯楽の一つでしょ? そんな余裕は無い」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ「なんだよその『あーあーこれだからなー分かってたけど可愛くないなー』みたいな顔は」
爪'ー`)y‐「あーあーこれだからなー分かってたけど可愛くないなー」
ξ゚⊿゚)ξ「処すぞお前」
- 235 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:39:00 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「仔猫とか見てさぁ、きゃー可愛いとか無いわけ?無いわけ?」
ξ゚⊿゚)ξ「可愛いとは思うけど」
爪'ー`)y‐「けど?」
ξ゚⊿゚)ξ「お前がこの間食った肉は仔兎だしそれを肉の状態にしたのは私」
爪'ー`)y‐「あーそうだったー可愛かろうが必要なら肉にするタイプだったー」
ξ゚⊿゚)ξ「お前は冒険者に何を求めているんだ」
爪'ー`)y‐「可愛い女の子」
ξ゚⊿゚)ξ「そんな幻想は捨てろ」
爪'3`)y‐「やーあだーあ冒険者でも可愛い女の子は居るうー」
ξ゚⊿゚)ξ(うぜー)
爪'ー`)y‐「育ちの良い僧侶の子とか」
ξ゚⊿゚)ξ「お前は僧侶に手を出すつもりなのか」
爪'ー`)y‐「神罰下りそう」
ξ゚⊿゚)ξ「似たようなもん食らってその体質だろ……」
爪'ー`)y‐「そうだった……」
- 236 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:40:20 ID:3szyeEjI0
昨日の事なんてなかったみたいに、相棒は相変わらず不機嫌そうな顔で僕を罵る。
その日常風景が、なんだか妙にありがたく感じてしまえて。
これでしんみりした空気になんてなられたら、居心地が悪くてしょうがない。
ツンちゃんは、やっぱり女の子と言うよりもツンちゃんと言う生き物だ。
咄嗟の事態には困惑して泣いたり落ち込んだりする癖に、戦士としての姿勢はストイックで。
人間としても、戦士としても、冒険者としても未完成なのに。
彼女はどこか、達観しているところがあると言うか、完成された部分がある。
僕が彼女に身の上をほとんど語っていないように、
彼女もまた、僕にほとんど自分の事を話してはいない。
簡単なようで、意外と読めないところがあるなあ。
ぽつ。
木々の隙間から、雨粒が落ちる。
爪'ー`)y‐「おっと、まずいまずい」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたがだらだら話してるから」
爪'ー`)y‐「お喋りしたい時もあるんですぅうー」
ξ゚⊿゚)ξ「口閉じたら死にそうな癖に何言ってんだ、ほら走って!」
- 237 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:41:01 ID:3szyeEjI0
ぽつぽつ、ぱらぱら、ざあざあ。
雨の勢いは瞬く間に激しくなり、全身を雨粒が強く叩く。
濡らしてはいけない荷物を守るように抱えながら、木々の傘をすり抜けながら走った。
三ξ;゚⊿゚)ξ「寒い!!!」
三爪;'ー`)y‐「秋雨でずぶ濡れはきつい!!!」
三ξ;゚⊿゚)ξ「ああでも血は落ちた! 天然のシャワー!!」
三爪;'ー`)y‐「僕の血浴びてたもんね! ノルマ達成!!」
三ξ;゚⊿゚)ξ「小屋あった小屋!! あれでしょ!?」
三爪;'ー`)y‐「屋根だー! それだけでありがたーい!!」
森の奥、確かに存在した小さな小屋に飛び込んで荷物を下ろす。
冷えきった身体を引きずって荷物の確認を済ませると、外套や上着を外して固く絞った。
小屋は意外に小綺麗で、まだ新しい綺麗な毛布と、最近使われた痕跡のある暖炉。
乾いた薬草が入った籠なんかがあるのを見ると、どうやらここはあの薬師が普段から使っているらしい。
ああ、なら安心だ。
屋根が抜けていたり、いつのものか分からない毛布って事も無いだろう。
- 238 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:41:52 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「あぁー……さっぶぅ……」
ξ゚⊿゚)ξ゛「あんたが無駄口叩くよってに」ゴソゴソ
爪'ー`)y‐「僕だけのせいかな ブッフォ」
ξ゚⊿゚)ξ「あん?」
爪'ー`)y‐「ほんとさ、ツンちゃんほんとさ」
ξ゚⊿゚)ξノシ「これ一緒に干して」ポイ
爪'ー`)y‐「干すけど……干すけど君ね……突然半裸にならないでよ……」
ξ゚⊿゚)ξ「ホームランバーに興味は無いんだろうよ」
爪'ー`)y‐「うん微塵も無いけどさ、そうやって開き直るから余計に興味無くす」
ξ゚⊿゚)ξ「暖炉あるし火入れよう」
爪'ー`)y‐「ねぇ半裸で歩かないで」
ξ゚⊿゚)ξノシ「術式使えるかな」
爪'ー`)y‐「隠すそぶりを見せて」
ξ゚⊿゚)ξノシ「背中向けてんだから良いだろうがうるさいな」
爪'ー`)y‐「もうやだ女子力とかそれ以前の問題で見ているのもつらい」
ξ#゚⊿゚)ξノシ「じゃあ見るな」
- 239 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:42:47 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「はぁ……」
ξ゚⊿゚)ξノシ「ため息ばっかね」
爪'ー`)y‐「視界の端に10代女子の熊にでも襲われたような傷のある白くて小さな背中が映るからね」
ξ゚⊿゚)ξノシ「熊を襲った時の傷だわ」
爪'ー`)y‐「逆だった……熊が可哀想だった……」
ξ゚⊿゚)ξノシ
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξノシ
爪'ー`)y‐「僕がつけようか?」
ξ゚⊿゚)ξ「すまんな」
爪'ー`)y‐「つけてあげるから前隠して……」
ξ゚⊿゚)ξ゙
(⊃へへ
爪'ー`)y‐「膝を……抱えただけ……ッ!!」
ξ゚⊿゚)ξ(うっせーな)
- 240 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:44:04 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「大体ツンちゃん僕が服めくったら殺しに来たのに自分では良いのかよ! 何なんだよ!」
ξ゚⊿゚)ξ「いや、めくられたら怒るだろ……」
爪'ー`)y‐「どうせ見る物は一緒なのに!!」
ξ゚⊿゚)ξ「今回は見せてないけど」
爪'ー`)y‐「見せなくて良いよ心まで寒くなる」
ξ゚⊿゚)ξ「お前ほんと貧乳に恨みか憎しみでもあんのか」
爪'ー`)y‐「貧乳にではなく君の胸に悲しみしか感じないだけだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「何なのお前そんなに死に急ぐ理由は何なの」
爪'ー`)y‐「可愛さの無駄遣いをする子は女の子じゃない」
ξ゚⊿゚)ξ「そろそろ暴言控えろ」
爪'ー`)y‐「クールダウンのためにご飯を食べよう、君の服は暖炉の前に移動させておくよ」
,,ξ*゚⊿゚)ξ「ごはんごはんー」
爪'ー`)y‐「ツンちゃん」
ξ゚⊿゚)ξ「んー?」
爪#'ー`)y‐「恥じらって」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっごめん」
- 241 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:44:55 ID:3szyeEjI0
遅くなった昼食はパンと鴨肉の燻製とピクルス。
薬師の料理は何だか落ち着く味で、スパイスやハーブが味を引き立てる。
暖炉で沸かしたお湯でお茶を入れ、色気もクソも無い相棒に渡した。
雑にタオルで上半身を隠す相棒は、なぜこうも女らしさに無振りなのだろうか。
見てくれは可愛らしいのに何か余計にがっかりする。
がっかりも度が過ぎるとイラッとする。
いや。
今の僕がなんとなーく余裕が無いだけか。
昨日聞いた話のせいか、それともこの身にかけられた呪いのせいか。
老いる不死者。
このまま呪いが解けなければ、僕はどうなってしまうのか。
限界まで生きて死に、蘇り、死に、蘇り、老体を幾度も再生させる羽目になる。
死にたいと願うようになるまで、どれくらいかかるのだろう。
ああ嫌な気分だ。
楽しい時間は有限、なら僕はその時間だけを見て感じて生きたい。
それになんだか、胸の奥に巣食ったもやもやは、それだけでは無い気がして。
- 242 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:45:48 ID:3szyeEjI0
雨が降り頻る森の中。
濡れた土と緑の匂いは強まり、独特の青臭さと、雨にぼやけた白さがが世界を包む。
これじゃ、止む様子は無いな。
折角早めに出たのに、一日を潰すとは。
相棒は食事を終えてから、ずっと鎧と武器の手入れをしている。
雨に濡れたしやる事が無いならちょうど良い、そう言って向けられた背中。
研ぎ、塗り、拭き、磨く、その後ろ姿は少女ではなく一人の戦士。
下ろされた湿った金髪は、手入れもされずに放置されているのだから。
爪'ー`)y‐(あーあ)
楽器の手入れはもう終わった。
やる事が無いわけではないが、どうにもやる気が起きない。
どうしたんだろうな僕は。
妙にピリピリ、イライラ、欲しいものが手に入らないような、焦燥感。
いつもはこんな時は、酒場で騒げば落ち着くのに。
あ、そうだ。
酒だ。
- 243 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:46:47 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「ツンちゃーん」
ξ゚⊿゚)ξ「んー」
爪'ー`)y‐「寒くなーい?」
ξ゚⊿゚)ξ「寒いな」
爪'ー`)y‐「暖まらない?」
ξ゚⊿゚)ξ「模擬戦でもする?」
爪'ー`)y‐「それ僕が丸太の役でバラバラになるだけだよね? そうじゃなくってー……はい!」
ξ゚⊿゚)ξ「……何それ」
爪'ー`)y‐「お酒」
ξ゚⊿゚)ξ「飲まない」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)づ「はい」
づ)⊿゚)ξ「飲まねえつってんだろ」
- 244 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:47:32 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「何だよどこまでノリが悪いんだよ君は」
ξ゚⊿゚)ξ「いやだって酒は」
爪'ー`)y‐「この世界は未成年とか関係ないから飲めるよ!!」
ξ゚⊿゚)ξ「いやだって」
爪'ー`)y‐「それともアレなの? 武人的に酒は飲まない主義なの?」
ξ゚⊿゚)ξ「苦くて美味しくない」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)y‐「なーんだぁ!(安堵)」
ξ゚⊿゚)ξ「(安堵)つけんな」
爪'ー`)y‐「そっかーツンちゃんも可愛いとこあるよなーうんうん!」
ξ゚⊿゚)ξ「こう言う時は分かりやすく笑顔になるよなお前」
- 245 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:49:57 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「まぁでも大丈夫だよ、甘いからこれ」
ξ゚⊿゚)ξ「酒飲みの甘いは何一つ信用ならないって知ってる?」
爪'ー`)y‐「ああうんよくあるよね酒の甘味が云々でいざ飲んだら甘くも何ともないやつ」
ξ゚⊿゚)ξ「だから飲まない」
爪'ー`)y‐「砂糖甘いよこれ」
ξ゚⊿゚)ξ「飲める可能性が出てきた」
爪'ー`)y‐「こうやってお湯で薄めて」
ξ゚⊿゚)ξ「薄めるのか……」
爪'ー`)y‐「ツンちゃんお酒に興味無さすぎて何にでも感心できて僕羨ましい」
ξ゚⊿゚)ξ「ビールとかワインしか知らない」
爪'ー`)つc□~「定番だねぇ……はい」
ξ゚⊿゚)ξ「温かい酒とは面妖な」
爪'ー`)y‐「普通だから」
- 246 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:50:58 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「ああそうだ、服乾いたから着なさい」
ξ゚⊿゚)ξ「あっはい」
爪'ー`)y‐「僕のはー……あー生乾き」
ξ゚⊿゚)ξ「厚着で良かったわね」
爪'ー`)y‐「外側が全滅だけどね、雨天用の外套買おうよー古いのこないだ捨てたじゃーん」
ξ゚⊿゚)ξ「ただ買い忘れただけなんだけどな……くんくん」
爪'ー`)y‐「美味しいから飲んでみなよ」
ξ゚⊿゚)ξズズ
爪'ー`)y‐「どう?」
ξ゚⊿゚)ξ「甘い」
爪'ー`)y‐「そうだろうそうだろう、卵とか牛乳を入れても」
ξ ⊿ )ξ"ドサァァァ
爪'ー`)y‐「ツンちゃーーーん!!?」
- 247 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:52:20 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「ええやだ何ツンちゃん……えっ……」
ξ-⊿-)ξスイヨスイヨ
爪'ー`)y‐「嘘だろ寝たぞ……えぇ……一口で……? 薄めた酒一口で……?」
ξ-⊿-)ξムニャムニャ
爪'ー`)づ ポンポン
ξ-⊿-)ξスヤスヤ
爪'ー`)y‐「すげぇなほぼ平らだぞこの胸、脂肪存在すんのか」
爪'ー`)y‐「毛布毛布……」
爪'ー`)y‐
爪'ー`)y‐「……結局つまんないなこれ!! 醜態見れると思ったのに!!」
ξ-⊿-)ξウーン
爪'ー`)y‐「おっと、……酒でも飲めば気がはれると思ったのになぁ、こんなしっとり飲むつもりでは……」
- 248 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:52:45 ID:3szyeEjI0
爪'ー`)y‐「はーあぁ……つまんないなぁ」
面白い事が無いと、生きていけないのにな。
ちりちりと揺らめく暖炉の炎を眺めながら、相棒が残した酒を口に運ぶ。
薄甘く、酒気もほとんど感じられないそれは、到底酔える様な代物ではなかった。
ミルクと砂糖を煮詰めて作られたこの酒は、寝入りにくい時に愛飲している。
優しい甘さとミルクの匂いは、何となく僕の弱い部分を覆ってくれる気がした。
酒を追加で足しながら、すやすやと眠る相棒に目をやる。
今日は穏やかな、アホみたいな顔で眠っている。
悩みなんて無さそうな、何も知らない子供みたいな。
可愛いものだ。
でもそれは、小さな子供を見る意味でしかない。
爪'ー`)づ「……たぶんこれ以上成長しないんだろうなぁ」
ξ-⊿-)ξ「む……」
爪'ー`)y‐「おっと」
- 249 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:54:00 ID:3szyeEjI0
ξ-⊿-)ξ「……ししょう……」
爪'ー`)y‐「寝てても師匠か」
ξ-⊿-)ξ「どーして……ですか……」
爪'ー`)y‐「おや何か楽しいこと聞けそうな予感?」
ξ-⊿-)ξ「なんで……おかあさん……」
爪'ー`)y‐(お母さん?)
ξ-⊿-)ξ「なんで……私をすてたんですか……」
爪'ー`)y‐
ξ-⊿-)ξ「せんせ、い……」
爪'ー`)y‐
ξ-⊿-)ξ「どこ……みせ……」
爪'ー`)y‐
すっげー楽しくなかった。
- 250 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:54:45 ID:3szyeEjI0
えーもう聞きたくないってーそう言う過去とか別に聞きたくないってー。
ただでさえ何か湿っぽいのに余計しんみりしちゃったじゃんもー何これーもー。
ツンちゃん空気読んでよマジでもー良いからこう言うイベントー要らないからー。
はーもーやだ。
外はまだ夕方くらいの筈なのに真っ暗だし、雨は止まないしうすら寒いし。
相棒は寝たと思ったら反応に困る寝言を言うし、もう良いよしんみりムードなんて大嫌いなのに。
爪'ー`)y‐
爪'ー`)y‐「かと言ってやる事もなく」
爪'ー`)y‐「何か弾くかぁ……」
ぽろろん。
その瞳は石の色
その髪は朝焼け色
たゆたう声で語りましょう
ながれる言葉を紡いで
知らない世界の知らない国の
知らない誰かの知らないお話
ひとつひとつと並べては
ひとつひとつと飲み込んで
かなしい色に染まる瞳
やさしく指をとおす髪
- 251 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:55:24 ID:3szyeEjI0
ξぅ⊿゚)ξ「んぐ」
ξ-⊿-)ξ「ぅー? ……外真っ暗だな……寝てたか」
ξ゚⊿゚)ξ「狐……は寝てる……ごはん……は良いか」
ξぅ⊿゚)ξ(このままもう一度寝よう……)
ξぅ⊿゚)ξ゛
ξ゚⊿゚)ξ(狐の髪が火に照らされてきらきらしてる)
ξ゚⊿゚)ξ(バナナみたいだな)
ξ゚⊿゚)ξ(ん?)
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ(へぇ、意外)
(泣いたりするんだ、こいつ)
その晩、僕は仄かな柔らかさに包まれて、顔も覚えていない母親の夢を見た。
- 252 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:57:12 ID:3szyeEjI0
爪- -)"モゾ
爪'ー`)゙パチ
何かすっげー目覚め良いぞ。
爪'ー`)y‐(懐かしい夢を見たけど、内容は覚えてない……)
爪'ー`)y‐(酒のせいか……甘ったるい匂い……)
爪'ー`)y‐「ツンちゃーん、起きなー雨止んだよー」
ξ-⊿-)ξ
爪'ー`)y‐「ごはん」
ξ゚⊿゚)ξ゙
爪'ー`)y‐「用意するから手伝って」
ξ゚⊿゚)ξ「ふぁい」
- 254 名無しさん[sage] 2016/11/20(日) 21:59:04 ID:3szyeEjI0
昨日までのもやもやがすっきりした朝、空はよく晴れ、空気は澄んでいる。
身なりを整えてから相棒を起こすと、朝食の準備を始めた。
一晩眠れば案外どうにかなるもんだ。
落ち込んだ気分も、妙な苛立ちも、焦燥感もなりを潜めた。
やっぱり一杯飲んで寝るのが良いのかな、随分甘ったるかったが。
さて、竜の街まではまだ距離がある。
のんびりしてると冬が来てしまう、出来るだけ早く次の街へ辿り着かなければ。
まあ、どこかで冬を越す羽目にはなるのだろうけど。
それもまあ、楽しければ良いか。
爪'ー`)y‐〜♪
ξ゚⊿゚)ξジッ
爪'ー`)y‐?
,,ξ゚⊿゚)ξ(バナナ食べたい)
爪'ー`)y‐???
おしまい。