601 ◆tYDPzDQgtA 2017/01/01(日) 21:00:55 ID:3652D6ss0


 例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。

 騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。

 周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
 聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声、獣じみた幼い咆哮。

 刃を振るい、歌声を響かせ、魔力を用い、路銀を稼いで進むのは三人。


 一人は不機嫌そうに顔を歪める、若い女戦士。
 もう一人は、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。
 そんな二人の後ろをついて歩く、小さな魔族の子供。



 【道のようです】
 【第十話 いくら何でもそれは無い。 後編】



 彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。

603 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:02:41 ID:3652D6ss0



ξ゚⊿゚)ξ「……いくらくらいするのかしら、魔防のお守り」

爪'ー`)「まぁまだ財布に余裕はあるから大丈夫だよ」

ζ(゚- ゚*ζ「ぜいたくざんまい」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね……最近野営で肉狩って食ってないわよね……」

爪'ー`)「うんまぁそうだけど普通は魔物の肉を日常的には食べないんだよツンちゃん」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ」

ζ(゚- ゚*ζ「えっ」

爪'ー`)「デレは良いけどツンちゃんはおかしいのを自覚して」

ξ゚⊿゚)ξ「普通なのでは……?」

爪'ー`)「違います君がおかしいんです」

ξ゚⊿゚)ξ「前もこんな話したな」

爪'ー`)「そんな気がする……っと、タカラ君に滞在伸ばすの言わなきゃ」

604 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:05:58 ID:3652D6ss0

ξ゚⊿゚)ξ「ただいま戻りました」

爪'ー`)「タカラ君はーっと」

ζ(゚- ゚*ζ「がう、においない」

爪'ー`)「あれ、居ないのかな? 店番もしないでどこに行ったんだか」

,,(,,^Д^)「あ……皆さん、お帰りなさい……」

ξ゚⊿゚)ξ「ただいま……どうかしたの?」

(,,^Д^)「いえ、その……」

爪'ー`)「んー?」

⊂ζ(゚- ゚*ζ「がう……タカラはなす」

(,,^Д^)「デレちゃん……」

ζ(゚- ゚*ζ「はなす」

(,,^Д^)「……うん、実は……でぃさんが帰って来なくて……」

ζ(゚- ゚*ζ「う?」

605 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:08:18 ID:3652D6ss0

(,,^Д^)「滞在中は外に出てもかならず夜には戻って宿で寝てたのに、もう三日も戻ってこないんです……」

ξ゚⊿゚)ξ「三日も?」

(,,^Д^)「滞納するような人じゃないんです……すごく誠実で……それなのに、戻ってこないから心配で……」

爪'ー`)「ふむ……じゃあ探しに行ってたの?」

(,,^Д^)「いえ、その、役所に依頼を出そうと思ったんです……でも保護者の同意が無いと駄目で……」

ξ゚⊿゚)ξ「ああうん……お役所だものね……」

(,,^Д^)「それに、依頼料をお支払い出来るほどおこづかいが……」

爪'ー`)「ふむ……つまり冒険者を探して貰いたいけど役所に依頼書は出せないし報酬も出せないと」

(,,^Д^)「お恥ずかしいです……」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

ζ(゚- ゚*ζ「…………」

爪'ー`)(あーこれ受けるんだろうなー無報酬でー)

606 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:10:49 ID:3652D6ss0

ξ゚⊿゚)ξ「狐」

ζ(゚- ゚*ζ「おにさん」

爪'ー`)「はいはいその依頼お受けしますよっと」

(,,^Д^)「えっ」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ」

ζ(゚- ゚*ζ「えっ」

爪'ー`)「どーぉせ二人とも助けてあげてーみたいなアレでしょ? 顔見れば分かるからね?」

ξ゚⊿゚)ξ(なぜバレた)

ζ(゚- ゚*ζ(おにさんすごい)

(,,^Д^)「で、でも報酬は……」

爪'ー`)「良いよもとから子供のお小遣いに期待してないから……」

(,,^Д^)「……お願いしても、良いんですか?」

爪'ー`)「はいはい、どーぞ」

607 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:13:13 ID:3652D6ss0



(,,^Д^)『でぃさんの特徴は、フルプレートの鎧と黒髪、大きな剣を持っていて、顔とかにたくさん傷があるんです』

(,,^Д^)『出掛ける時に山の方に行くって言ってました、だからもしかしたら遭難してるのかも……』

(,,^Д^)『どうかお願いします! でぃさんを見つけてください!』



爪'ー`)「てー事で山に来ましたが」

ξ゚⊿゚)ξ「裏からこっそり入ったけどね」

爪'ー`)y‐「デレ置いてきて良かったの?」シュボッ

ξ゚⊿゚)ξ「あの子を落ち着かせる方が大事じゃない?」

爪'ー`)y‐「まぁそうだねぇ、下手すりゃ初めての友達だろうし」

ξ゚⊿゚)ξ

爪'ー`)y‐「ん?」

ξ゚⊿゚)ξ「何でもない、行きましょ」

爪'ー`)y‐「はいはい、僕らが迷わないようにしないとね」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね、さして入り組んではいないけど迷う可能性はあるし……」

608 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:16:03 ID:3652D6ss0

,,ξ゚⊿゚)ξ「しかし、茶色い山肌ね……岩ばっかり」

,,爪'ー`)y‐「うーん、人が居たら簡単に見つかりそうな感じはするけど……」

,,ξ゚⊿゚)ξ「フルプレートなら目立ちそうだけど……」

,,爪'ー`)y‐「後の特徴はたくさんの傷ねぇ……」

,,ξ゚⊿゚)ξ「黒髪で大剣、と……そういや性別聞いてないわね」

爪'ー`)y‐「まぁ特徴的に大男か何か」


,,(#゚;;-゚)テクテク


爪'ー`)y‐

ξ゚⊿゚)ξ

爪'ー`)y‐「傷だらけで」

ξ゚⊿゚)ξ「黒髪」

爪'ー`)y‐

ξ゚⊿゚)ξ

609 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:17:02 ID:3652D6ss0

爪'ー`)y‐「そこの人ー! ちょっと良いかなー!!」

ξ゚⊿゚)ξ「すみませーん! すみませーん!!」

(#゚;;-゚)'「? 僕……?」

爪'ー`)y‐(どっちだろう性別)

ξ゚⊿゚)ξ(女にしてはやや長身だけど男にしてはやや小柄)

爪'ー`)y‐(顔立ちも声も中性的……これは……)

ξ゚⊿゚)ξ(ボーイッシュ女子か細身な男子か)

爪'ー`)y‐(女子で行くか……)

ξ゚⊿゚)ξ(どっちにしろ間違えたら気まずいわよこれ)

(#゚;;-゚)「あの……?」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、えーとでぃさん?」

(#゚;;-゚)「はあ、そうですが……」

爪'ー`)y‐「宿屋の坊やから帰って来ないから探してくれと依頼を受けましてね」

610 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:19:00 ID:3652D6ss0

(#゚;;-゚)「ああ、なるほど……すみません、道に迷ってしまって……この辺りをぐるぐると」

ξ゚⊿゚)ξ「一本道で徒歩三分くらいでここに来たような……」

爪'ー`)y‐「シッ」

(#゚;;-゚)「でも、まだ目的も果たせていなくて」

ξ゚⊿゚)ξ「目的?」

(#゚;;-゚)「はい、話を聞きたくて」

爪'ー`)y‐「こんなところで誰に?」

(#゚;;-゚)「竜に」

ξ゚⊿゚)ξ「竜に」

(#゚;;-゚)「話を聞かなきゃいけなくて」

爪'ー`)y‐(この人なんかフワフワしてるな)

ξ゚⊿゚)ξ(穏和そうな顔立ちと声が傷だらけのビジュアルにそぐわない……)

(#゚;;-゚)?

611 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:20:11 ID:3652D6ss0

ξ゚⊿゚)ξ「興味本意ですが、竜にどんな用が?」

(#゚;;-゚)「ああ、竜を殺す依頼を受けて」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ」

爪'ー`)y‐「えっ」

ミ,,゚Д゚彡「えっ」

(#゚;;-゚)「こことは別の竜だけど、竜殺しは難しいと聞く、だからコツを知りたくて」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、ああ驚いた……」

爪'ー`)y‐「と言うか同種族の弱点教えてくれるのかな……」

ミ,,゚Д゚彡「まず普通の人間には難しいと思うぞ?」

(#゚;;-゚)「僕なら殺せると思うんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「自信があるんですね」

(#゚;;-゚)「自信と言うか、僕は化け物の子供だから」

爪'ー`)y‐「おっと、何だか穏やかじゃないね」

ミ,,゚Д゚彡「混血って事か?」

612 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:21:43 ID:3652D6ss0

(#゚;;-゚)「ルーツは僕には分からないけど、ずっとそう呼ばれてきた、だから僕なら殺せると思う」

ξ゚⊿゚)ξ(わりとフワッとした理由だ……)

(#゚;;-゚)「それに」

爪'ー`)y‐「それに?」

(#゚;;-゚)「竜を殺すと決めてから、血が疼いてしょうがない」

ミ,,゚Д゚彡「こっわ……戸締まりしとこ……」

爪'ー`)y‐「ねぇさっきから気になってたんだけどさ」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね、さすがに私も気になってたわ」

爪'ー`)y‐「誰だよ」

ξ゚⊿゚)ξ「誰なの」

(#゚;;-゚)「あっ、一人増えてた……」

ミ,,゚Д゚彡「竜ですね」

613 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:23:12 ID:3652D6ss0

ξ゚⊿゚)ξ(何言ってんだこいつ……)

爪'ー`)y‐(電波な人かな……?)

(#゚;;-゚)「なら話が早い、聞きたい事があるんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「どうしようノー突っ込みで進めた」

爪'ー`)y‐「マイペース過ぎないこの人」

ミ,,゚Д゚彡「うんまぁ聞くけどさ、同族殺すためって言われるとちょっと」

ξ゚⊿゚)ξ「こっちもマイペースだな」

爪'ー`)y‐「突っ込んでられない」

(#゚;;-゚)「依頼は、この町の調香師から」

ミ,,゚Д゚彡゙ピク

(#゚;;-゚)「ある廃鉱となった鉱山に巣食う老いた竜を、討伐してほしいと言う内容」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ」

爪'ー`)y‐「あっ」

615 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:24:40 ID:3652D6ss0

(#゚;;-゚)「人間との盟約を時の流れと共に忘れてしまった竜が、町を滅ぼした
     その竜は今は再び眠りに就いたが、いつまた目覚めて近隣を襲うかわからない」

ミ,,゚Д゚彡「だから、殺してくれと」

(#゚;;-゚)「そう、町は焼き尽くされ、栄えた軌跡すら残っていないと言う
     近隣の町への被害が出る前に、僕はその竜を殺さなければいけない」

ミ,,゚Д゚彡「…………そうかぁ」

(#゚;;-゚)「だから竜よ、教えてほしい、どう殺せば良いのかを」

ミ,,゚Д゚彡「あー……はい、分かりました分かりました……でもちょっと悩ませて……」

(#゚;;-゚)?

ミ,,゚Д゚彡「あー……あぁぁー……あのじい様かぁー……」

ξ゚⊿゚)ξ「知り合い?」

ミ,,゚Д゚彡「うん……まぁ知ってるんだけど……あーそっかぁ……ボケちゃったかぁ……」

爪'ー`)y‐「軽く言うけど町滅んでますよ」

ミ,,゚Д゚彡「長い間寝てるとは聞いたけど……はぁぁー……もう嫁の事も覚えてないんだろうなぁ……」

616 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:26:38 ID:3652D6ss0

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

爪'ー`)y‐「…………」

ミ,,゚Д゚彡「あー……嫁残してさー……じい様さー……はぁぁー……」

ξ゚⊿゚)ξ(すごく感傷に浸っている……)

爪'ー`)y‐(まぁいずれ自分もそうなるかもしれないと思うとねぇ……)

ξ゚⊿゚)ξ(と言うかマジで竜なのこの褐色マッチョイケメン……)

爪'ー`)y‐(ガチ感あるよね何か……褐色のマッチョイケメンだけど……)

ミ,,゚Д゚彡「まぁ子孫残せただけマシなのかなぁ……」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、子孫いるんだ」

ミ,,゚Д゚彡「居る居るめっちゃいる、確か嫁自身も混血でな」

爪'ー`)y‐「えっあの薬師そうだったの」

ミ,,゚Д゚彡「どっかの魔族の血が入ってるんだよ確か、だから色々耐えられたんじゃねーかなぁ……」

ξ゚⊿゚)ξ「あー肉体的にも精神的にも……」

617 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:27:55 ID:3652D6ss0

爪'ー`)y‐「でも人間って言ってたよ?」

ミ,,゚Д゚彡「俺らが見たら分かるけど、本人は知らないんだろうよ」

ξ゚⊿゚)ξ「はへー……強い人だなとは思ってたけど……」

爪'ー`)y‐「強くならざるを得なかったんだろうけどねぇ」

ミ,,゚Д゚彡「……さて、弱点だったか」

(#゚;;-゚)「はい」

ξ゚⊿゚)ξ(素直に待ってたな……)

ミ,,゚Д゚彡「竜は人に心臓を食わせても死なないような種族だ、だから普通は簡単に殺せない」

(#゚;;-゚)゙「はい」

ミ,,゚Д゚彡「だから狙うなら竜のどこかにある石だ」

(#゚;;-゚)「石?」

ミ,,゚Д゚彡「俺はこの胸の奥にあってな」メリメリ

ξ゚⊿゚)(マジだった)

爪'ー`)y‐(そんな簡単に弱点を)

618 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:29:14 ID:3652D6ss0

ミ,,゚Д゚彡「普通の人間には砕けない代物だが、石にある生命力を吸い上げれば死ぬ」

爪'ー`)y‐「どうやって吸い上げるの?」

ミ,,゚Д゚彡「そんなもん自分で考えろ」

ξ゚⊿゚)ξ「最後に投げただと……」

(#゚;;-゚)「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「ほらでぃさんも困って」

(#゚;;-゚)「分かった、出来ると思う……血は出るだろうけど」

ξ゚⊿゚)ξ「マジでか」

爪'ー`)y‐「やべーなおい」

(#゚;;-゚)「有り難う竜よ、お陰で僕は約束を果たせそうだ」

ミ,,゚Д゚彡「あーやり方分かっても死にかけの竜以外には喧嘩売るなよ、危ないから」

(#゚;;-゚)「本当は、竜殺しはしたくないから」

ミ,,゚Д゚彡「なら良い」

(#゚;;-゚)「……それに、斬り倒せない戦い方は好きじゃないから」

ξ゚⊿゚)ξ(話が合いそうだ……)

619 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:29:56 ID:3652D6ss0

(#゚;;-゚)「それじゃあ僕は山を降りる、タカラにも顔を見せないと、二人共ありがとう」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね、心配してたわ」

(#゚;;-゚)「山を降りて挨拶をしたら、急いで鉱山を目指すよ」

爪'ー`)y‐「いつまた起きるか分からないしねぇ」

(#゚;;-゚)「それになぜか僕は道を行くのに時間がかかってしまって」

ξ゚⊿゚)ξ(なぜか)

爪'ー`)y‐(シッ)

(#゚;;-゚)「東北に行こうとして九州に居たみたいな事がよく起きて」

爪'ー`)y‐「知らない土地名ですね……」

ξ゚⊿゚)ξ「全然分からないわね……」

(#゚;;-゚)「それじゃあ竜よ、今後もこの土地を頼む」

ミ,,゚Д゚彡「言われんでもやるけどな」

620 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:31:15 ID:3652D6ss0

,,(#゚;;-゚)

ξ゚⊿゚)ξ「でぃさん違います」

爪'ー`)y‐「こっちです」

(゚-;;゚#),,

ξ゚⊿゚)ξ「でぃさん待ってそこ道じゃない」

爪'ー`)y‐「何その道なき道に進む勇気」

ミ,,゚Д゚彡(よく冒険者やってんな)

ξ゚⊿゚)ξ「……不安しか無いわ」

爪'ー`)y‐「道なりには降りていったみたいだけど……」

ミ,,゚Д゚彡「あれがミスリルとはなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ」

爪'ー`)y‐「マジで」

621 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:33:03 ID:3652D6ss0

ミ,,゚Д゚彡「緑っぽいバッチだったわ」

ξ゚⊿゚)ξ「格上だった……」

爪'ー`)y‐「だいぶ格上だった……」

ミ,,゚Д゚彡(人間も銀だの金だの大変だなぁ)

爪'ー`)y‐「……せっかくだし世間話します?」

ξ゚⊿゚)ξ「私たちやること終わっちゃって……」

ミ,,゚Д゚彡「あーうん良いけど、定期的に変な人間が来るなぁ……」

爪'ー`)y‐「前にも変な人間が?」

ミ,,゚Д゚彡「妙に綺麗な従者を連れた顔色の悪い魔導師とか、緑の髪の怖いもの知らずの子供とか」

ξ゚⊿゚)ξ「変ね……」

爪'ー`)y‐「変だ……」

ミ,,゚Д゚彡「方向音痴の竜殺しと小さい戦士と赤い吟遊詩人がそこに加わるぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「なぜ戦士だと」

爪'ー`)y‐「なぜ吟遊詩人だと」

ミ,,゚Д゚彡「いやお前ら斧と楽器片手に……」

622 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:34:49 ID:3652D6ss0

爪'ー`)y‐「ちなみに小さな戦士は人の頭を素手で潰せます」

ξ゚⊿゚)ξ「証拠はお見せできません」

ミ,,゚Д゚彡「マジかよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「ちなみに赤い吟遊詩人は死んでも蘇ります」

爪'ー`)y‐「証拠はお見せできません」

ミ,,゚Д゚彡「うんまぁそれは見せなくて良いよ別に怖いし」

爪'ー`)づ「なお小さい戦士は胸も小さいですねー」ペタペタ

ξ゚⊿゚)ξ「あんたの殺す大義名分を自分から差し出す芸人根性は気に入ってるわよ」


<メシャッ
<ァ゙ッ


ξ゚⊿゚)ξ「このように」ポタポタ

ミ,,゚Д゚彡「相方の頭を岩に押し潰して言う事……?」

623 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:35:54 ID:3652D6ss0

ξ゚⊿゚)ξ「ああそうだ、竜は礼を重んじるんだったわね」

ミ,,゚Д゚彡「うんまぁ」

ξ゚⊿゚)ξつ「私はツン・グランピー、しがない冒険者よ」

ミ,,゚Д゚彡「えっその頭の内容物がついた手と握手する流れ?」

ξ゚⊿゚)ξづ「ほら、怖くない」

ミ,,゚Д゚彡「怖い怖いやめて」

,,爪'ー`)y‐「怖いよねぇやっぱり」

ミ゚Д゚,,彡「待って何か平然と戻ってきてる」

ξ゚⊿゚)ξづ「このように」

爪'ー`)づ「このように」

ミ,,゚Д゚彡「何だよお前ら芸人か何かかよ」

ξ゚⊿゚)ξ「焼きたてパンと溶かしバターです」

ミ,,゚Д゚彡「何が!?」

624 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:36:57 ID:3652D6ss0

ξ゚⊿゚)ξ「しかし、竜と言うのはもっと恐ろしくて尊大なものだとばかり」

爪'ー`)y‐「おとぎ話の竜はだいたいそうだからねぇ」

ミ,,゚Д゚彡「あーまぁ一応は人間と共存してるしなぁ、俺はだいぶフレンドリーな自覚あるわ」

ξ゚⊿゚)ξ「でも生け贄を貰ってるのよね」

ミ,,゚Д゚彡「まぁ確かに俺は竜だしな、しょうがな」

,,川 ゚ 々゚)「旦那様ぁ……?」

ミ,,゚Д゚彡「あっあちょっと出てきちゃ駄目なんだって一応生贄は食った事になってんだから」

ξ゚⊿゚)ξ(本当に生きてるんだ)

爪'ー`)y‐(マジで生きてるんだ)

ミ,,゚Д゚彡「あーえっとなんだっけ」

ξ゚⊿゚)ξ「奥さんが若い」

爪'ー`)y‐「奥さん見覚えある」

ミ,,゚Д゚彡「いや違うだろ、つか何だ見覚えあるって」

625 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:38:08 ID:3652D6ss0

爪'ー`)y‐「奥さん魔女だったりしません?」

ミ,,゚Д゚彡「やーあいつ過去の事よくわかんないからなぁ」

爪'ー`)y‐「そっかー一晩でポイ捨てした魔女に似てたんだけどなぁ」

ミ,,゚Д゚彡「お前まだ若いんだから身を滅ぼす火遊びは控えろよ?」

爪'ー`)y‐「もう滅んだようなもんじゃない?」

ミ,,゚Д゚彡「頑張って再建しろよ」

爪'ー`)y‐「出来る気がしないなー」

ξ゚⊿゚)ξ「初めまして、冒険者です」ペコリ

川 ゚ 々゚)「竜の花嫁ですわぁ……」ペコリ

ミ,,゚Д゚彡「嫁同士が挨拶を」

爪'ー`)y‐「不服を申し立てる」

ミ,,゚Д゚彡「そんなお前堂々と……」

爪'ー`)y‐「僕あの子の事は気に入ってるけど異性として認識してないから……」

ミ,,゚Д゚彡「言葉のあやだよ……」

爪'ー`)y‐「色気ゼロで目の前で服脱いでも恥じらう素振りも見せないとかクソ極まってるから……」

ミ,,゚Д゚彡「相棒に対して言い過ぎだよ……」

爪'ー`)y‐「あと嫁とか重いし一夜限りで良い」

ミ,,゚Д゚彡「再建しろよ……」

626 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:39:20 ID:3652D6ss0

ミ,,゚Д゚彡「つかお前めっちゃ呪われてんのな……」

爪'ー`)y‐「あ、分かっちゃいます? いやー見る目ある人はちがうなー」

ミ,,゚Д゚彡「お前だいぶキツい呪い受けてんのに軽いなぁ……魔女の呪いだろそれ……」

爪'ー`)y‐「竜ならどうにか出来ない?」

ミ,,゚Д゚彡「無理無理、怖い怖い」

爪'ー`)y‐「竜が人を怖がらないでよーぉ」

ミ,,゚Д゚彡「魔女の血筋は特殊なんだからこえーよ……」

爪'ー`)y‐「やっぱ特別なんだねぇ魔女って」

ミ,,゚Д゚彡「あいつらは魔女同士で子供作って血筋保ってるからな、濃くなりすぎてもはや人じゃねぇよ」

爪'ー`)y‐「その血が長く続けば続くほど人から離れるって事?」

ミ,,゚Д゚彡「そうそう」

爪'ー`)y‐「分家とかってのは? やっぱり直系に比べると劣るの」

ミ,,゚Д゚彡「んー、魔女の血族以外と子供つくったりするとその分力は弱まるよ」

爪'ー`)y‐「ほーん、だからあの子は出世欲が強いのかねぇ」

627 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:41:14 ID:3652D6ss0

ミ,,゚Д゚彡「あの子?」

爪'ー`)y‐「アンソルスランの分家だかの子」

ミ,,゚Д゚彡「そりゃまたコンプレックスの塊だろうなぁ」

爪'ー`)y‐「あ、そんなに?」

ミ,,゚Д゚彡「そんなに、ところでさ」

爪'ー`)y‐「はい」

ミ,,゚Д゚彡「そこの娘二人、遊んでないで嫁は家に帰りなさい」

ξ゚⊿゚)ξ「今あや取りが難しくて」

爪'ー`)y‐「あや取りが難しいて」

ξ゚⊿゚)ξ「見た事もない図を持ってくるのこの子……何なのアトラスの餌食になったスカイツリーって……」

ミ,,゚Д゚彡「またアトラスに東京崩壊させてる……ほらもう死んだ事になってんだから戻っていい子にしてな」

川 ゚ 々゚)「はぁい旦那様ぁ……溶かしバターちゃん、また遊びましょぉ」

ξ゚⊿゚)ξ「出来れば次はアトラスシリーズはご勘弁願いたい」

爪'ー`)y‐「どんだけ崩壊したの……」

ξ゚⊿゚)ξ「アトラスの餌食になった新宿駅とか……」

爪'ー`)y‐「最初から迷宮ダンジョンだよぉ……」

628 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:42:40 ID:3652D6ss0

ミ,,゚Д゚彡「あー……何か懐かしいな……」

ξ゚⊿゚)ξ「懐かしい?」

ミ,,゚Д゚彡「そう言うメタ入った現代ネタ懐かしいわ……」

爪'ー`)y‐「やめて」

ξ゚⊿゚)ξ「そんなしみじみと」

ミ,,゚Д゚彡「嫁も戻ったし、世間話するか?」

爪'ー`)y‐「さっきさぁ、調香師って言った時に反応してたよね?」

ミ,,゚Д゚彡「あー」

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり寵愛の」

ミ,,゚Д゚彡「シッ」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ」

ミ,,゚Д゚彡「寵愛の話はやめろ、場所が悪い」

爪'ー`)y‐「はーん……奥さんに聞かれたら困るぅ?」

ミ,,゚Д゚彡「そうだよ困るんだよ……あー……場所変えるぞ」

629 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:43:29 ID:3652D6ss0

 竜(仮)に連れられ、山道を進む。

 少しばかり離れた場所にある岩場を越えれば、ごつごつとした岩肌ばかりの景色が鮮やかに切り替わる。

 先程までの無骨な光景とは正反対の、鮮やかに色付く花々。
 よく澄んだ水が溢れ、流れ、町の方へと降りて行く。

 その清い水にふとした既視感を覚えたが、その正体は分からなかった。


 さやさや、風が花を揺らして甘い香りを漂わせる。
 広くはない、しかし目映いような花畑。

 岩山の近くとは思えない草木の様相は、まるで違う世界のように思えた。


ξ゚⊿゚)ξ「はー……綺麗なもんね……」

爪'ー`)y‐「オアシスみたいだねぇ……」

ミ,,゚Д゚彡「ここには本来は禁足地、嫁にも来るなって言ってあるから好きに話せるぞ」

爪'ー`)y‐「ここは特別な場所?」

ミ,,゚Д゚彡「ああ、立ち入る輩は嫁であろうと始末するよ」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな場所に私達を入れて良いの?」

ミ,,゚Д゚彡「……調香師の話は、こでしか出来ないからな」

630 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:44:35 ID:3652D6ss0

ξ゚⊿゚)ξ「…………あなたの寵愛を受けたのよね、彼は」

ミ,,゚Д゚彡「ああ、そうだよ、若さ故の過ちだよ」

爪'ー`)y‐「男同士だし、何か理由があったんじゃないの?」

ミ,,゚Д゚彡「あーまー……んぁあー…………あ゙ー……」

ξ゚⊿゚)ξ(ほんと人間臭いなこの竜)

爪'ー`)y‐(竜とは……)


 竜を名乗る大柄な男は、花畑の真ん中に座り込み、その毛量の多い頭をがしがしと掻いて項垂れる。

 その横顔は人間と何ら変わらない、後悔やら罪悪感の混じり合った顔だった。

 竜は自らの行いを過ちと言い、それを深く悔いている。
 その後悔の中身を、恐らくだが、察する事が出来た。


ミ,,゚Д゚彡「……寂しかったんだよなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

ミ,,゚Д゚彡「大昔に人間を助けてさぁ、今は信仰の対象でさぁ……
     この辺りには同族もほとんど居ない、知った人の顔は容易く死んでいく、だから寂しかったんだよなぁ……」

631 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:45:57 ID:3652D6ss0

爪'ー`)y‐「……だから、子供を不死にしたの?」

ミ,,゚Д゚彡「やめてくれよ、分かってんだ、俺の勝手なワガママで友人を寂しいばけものにしちまったんだ」

爪'ー`)y‐「…………」

ミ,,゚Д゚彡「分かってんだ、でも寂しくて……バカだったんだ、あの頃は……」


 竜は、悲しそうな目で語る。


 今よりもっともっと若かった頃の話。
 まだ信仰の対象では無かった頃の話。

 人々が飢えに死ぬ様を傍観した話。
 人々に肉を分け与えた事で救った話。

 知った顔の人間が死んでいく時の流れ。
 それでもそこを動けず人々を守る日々。

 飽きる様な孤独と、飽きる様な平穏、生きているのかも分からない。
 そんな時に、一人の子供が恐れを知らずに話しかける。

632 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:47:19 ID:3652D6ss0


『なーなー、お前は仲間がいないのに寂しくねーのか?』

『もうわかんねぇよ』

『んーじゃあおれがお話してやるよ!』

『えっいらねぇよ帰れよ』

『昨日はこんなでっけー虫がとれてなー!』

『うるさいなお前は』

『あっそーだ! なーなーお前なんつーの? おれはさー』

『聞いてねぇ聞いてねぇ答えねぇ』

『あー? じゃあ教えろよー!』


 子供の気まぐれを追い返す気にはならなくて。
 それでも子供は毎日やってきて。

 どうせ飽きると思ったのに飽きなくて。
 一吼えすれば恐れるかと思ったのに大はしゃぎして。

 毎日毎日くだらない話をしにきて、背中に乗ったり角にぶら下がったりの無礼講で。
 そんな日々が、いつの間にか自然と始まっていた。

633 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:49:49 ID:3652D6ss0

 でも不思議と、それが心地よかったのだ。
 幾年振りに孤独を忘れて、その子供と時を過ごせた。

 竜にとってはほんの数秒。
 人にとってはながい数年。

 ほんの僅かな時の流れと感じても、その時は竜にとっては濃密で穏やかな時で。
 見知らぬ子供が大切な友人に変わるのに、十分すぎる程の時間で。

 飽いていた孤独感は、人間の友人と過ごす事で塗り潰された。
 友と呼べる様な存在は、この頃にはもう他に居なかった。


 子供はあと一息で一人立ちと言う歳になり、最近している勉強の話をしていた。

 そしてぽろ、と口に出す。


『ねーちゃんがなー、竜の嫁になるんだって』


 確か、少し前に同族との喧嘩に負けた、老いた竜が近くに降りてきたと聞く。
 どうやら子供の姉は、その竜といつのまにやらそう言う関係になったのだろう。

634 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:51:30 ID:3652D6ss0

 しかし嫁入りか、よもや心臓を食わせやしないだろうな。

 あれは、本当に特別な。


 特別な、


『ああ、そうだ』

『なんだー?』

『お前は、永久に生きたいと思わないか』


 これは過ちだ。

 犯してはならない過ち。

 竜の心臓は人間を不老不死にする。

 それは老いる事も無く。
 ばらばらにされても死ぬ事も無く。
 この世界が滅びたとしても、きっと生き続ける呪い。

 だから竜は心臓を食わせたりはしない。
 だからそんなものは今まで生まれてこなかった。

635 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:52:13 ID:3652D6ss0

 でも、この呪いは解呪出来る。

 再び生きた心臓を口にして、竜に殺してもらう事。
 それだけが、不老不死のばけものを人間に戻せる方法。


 だからこいつが嫌になった時、そうしてやれば良いんだ。

 もう嫌になったと、死にたいと言った時、殺してやれば良いんだ。

 だから、



『んー……』



 だから、



『うん! おれ不老不死になりたい!』



 この時、拒否してくれていれば

636 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:54:11 ID:3652D6ss0

 こうして、若い竜はばけものを産み出した。

 犯してはならない過ちを犯して、傍らに不死者を置いていた。

 けれど時の流れに従い、その状態を維持できなくなっていって。

 いつもそばに居た友人は、いつしか少しの距離を置くようになり。

 今ではもう顔を合わせる事すらまれになってしまって。


 年月は流れ、人間の妻を幾人も迎えた竜は、その妻達を心から愛して、心から大切にする。

 だからこそ、決して寵愛を与えはしない。

 愛するからこそ、妻達は人として死なせたい。
 それが今の、竜にとっての最大の願いとわがままだった。


 悔いる竜は、親友と顔を合わせる度に訊く。


『まだ死にたくはならないか』


 永遠の少年は、決まって明るく笑いながら答える。


『いや、まだ全然』

637 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:56:10 ID:3652D6ss0

 竜はたった一人の親友が死を願うまで、親友のそばに居続ける事を己に誓った。

 親友が死にたいと言った時、いつでも殺してやれるように。

 自分が救わなければならない人々が居るこの町に。

 守るべき人々の居るこの町に、ただただ居座り続ける事を。



ミ,,゚Д゚彡「だーからさぁ、俺は嫁には寵愛の事も教えてないの」

ξ゚⊿゚)ξ「……人として死んでほしい、って……何か重いわね……」

ミ,,゚Д゚彡「そりゃなぁ……俺がバカだったから、あいつをばけものにしちまったんだ」

爪'ー`)y‐「早く殺してあげたい?」

ミ,,゚Д゚彡「……俺が死ぬ前に、殺してやれたらなぁとは思うよ」


 生きてくれと願う事と、死んでくれと願う事、いったいどちらの方が罪深いのだろう。

 不死者を産み出す事が出来ると言うのは、どんな気持ちなのだろう。
 そして、それを聞いていた不死者の気持ちとは、いったい。

638 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:56:55 ID:3652D6ss0

爪'ー`)y‐「不老不死ってさ」

ミ,,゚Д゚彡「うん」

爪'ー`)y‐「死なないの?」

ミ,,゚Д゚彡「死なない」

爪'ー`)y‐「僕は死んでも蘇るんだけど、死なないの?」

ミ,,゚Д゚彡「お前のは死体から魂が剥がれなくて、体が再生して蘇るだろ」

爪'ー`)y‐「そんな感じ?」

ミ,,゚Д゚彡「死なないのは、どんなに粉微塵になっても生きてるんだよ」

爪'ー`)y‐「……意識とかあるの?」

ミ,,゚Д゚彡「頭が吹き飛べば意識は消えるだろうな」

爪'ー`)y‐「あぁー……単細胞生物みたいにうぞうぞして身体が再生するアレ……?」

ミ,,゚Д゚彡「そうそう」

爪'ー`)y‐「うへーグロい」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたもそうよ」

爪'ー`)y‐

ξ゚⊿゚)ξ

639 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:57:43 ID:3652D6ss0

ξ゚⊿゚)ξ「あ、そうだ」

ミ,,゚Д゚彡「ん?」

ξ゚⊿゚)ξ「薬師、子孫が居るのよね」

ミ,,゚Д゚彡「あー居る居る、竜と……人間で良いか、のハーフって血を受け継いだ奴らが」

爪'ー`)y‐「何か特色とかってあるのかなー、よくあるじゃないそう言うの」

ミ,,゚Д゚彡「まぁ個体差によるとは思うけど……平均より丈夫とか長生きとかはあるんじゃないか?」

爪'ー`)y‐「見た目は? 角とか生えちゃう?」

ミ,,゚Д゚彡「いやー生えてなかったみたいだけどな」

ξ゚⊿゚)ξ「今もまだその血は続いているのかしら……」

ミ,,゚Д゚彡「続いてただろ?」

ξ゚⊿゚)ξ?

爪'ー`)y‐?

640 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 21:58:59 ID:3652D6ss0

ミ,,゚Д゚彡「? 何だその顔、さっき見ただろ」

ξ゚⊿゚)ξ「さっき……?」

爪'ー`)y‐「いつ……?」

ミ,,゚Д゚彡「ミスリルの竜殺し」

ξ゚⊿゚)ξ

爪'ー`)y‐



(*゚ -゚) ─┬─ 竜
      │
   ┌─┴─┐
  ┌┴┐  ┌┴┐
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
      略
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    ┌─┘

  \子孫/
   (#゚;;-゚)



ξ゚⊿゚)ξそ

爪'ー`)y‐そ

641 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:01:07 ID:3652D6ss0

ξ;゚⊿゚)ξ「マジか!?」

爪;'Д`)y‐「マジで!?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁー人間には分からないアレか……混血って事だけが言葉で受け継がれてたんだろうなぁ」

ξ;゚⊿゚)ξ「あっ……あー似てるな!? 顔似てるな!?」

爪'ー`)y‐「いや待ってツンちゃんもっと似てる人を今までさんざん見てきた気がする」

ミ,,゚Д゚彡「親戚なんじゃね」

爪'ー`)y‐「マジかよぉ……ジョーイさんじゃないのかよぉ……」

ミ,,゚Д゚彡「ジュンサーさんかもな……」

ξ゚⊿゚)ξ「だいぶどっちでも良いんだけど……ん?」

爪'ー`)y‐「ん?」

ξ゚⊿゚)ξ「……でぃさんが子孫よね?」

爪'ー`)y‐「そうみたいだねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「…………祖先である竜を、子孫が殺すの……?」

爪'ー`)y‐「あ」

ξ゚⊿゚)ξチラッ

爪'ー`)y‐チラッ

ミ,,゚×゚彡ミッフィー

642 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:02:01 ID:3652D6ss0

ξ゚⊿゚)ξ「えぇー……ぇぇぇぇー……」

爪'ー`)y‐「あー何か、あー何かあー」

ミ,,゚Д゚彡(そうなるわなぁ)

ξ゚⊿゚)ξ「あぁー……あの竜を殺すってだけであぁーなのに……」

爪'ー`)y‐「しかも殺すのが自分の子孫って……」

ミ,,゚Д゚彡「実際は依頼したのは薬師だろうしな」

ξ゚⊿゚)ξハッ

爪'ー`)y‐「……そりゃそうだよねぇ」

ξ;゚⊿゚)ξ「…………」

ξ;∩⊿∩)ξ゙

爪'ー`)y‐「あ、ツンちゃんがめんどくさくなった……」

ミ,,゚Д゚彡「めんどくさい図なのかそれ……」

爪'ー`)y‐「自分がどうしようもない胸くそスッキリしない事案にぶつかるとこうなるよ」

ミ,,゚Д゚彡「悩むタイプかー……冒険者よくやれてんな……」

爪'ー`)y‐「ほんとにね……」

643 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:03:34 ID:3652D6ss0

ミ,,゚Д゚彡「ん」

爪'ー`)y‐「うん?」

ミ,,゚Д゚彡「お前らそろそろ山降りろ、雨になるぞ」

爪'ー`)y‐「あー雲が暗くなってきたね、ほらツンちゃん降りよう」

ξ;∩⊿∩)ξ「ア゚ー」

爪'ー`)y‐「どこから出たのその声……ほら行きますよー」

ミ,,゚Д゚彡「気を付けて帰れよー」

爪'ー`)y‐「はいはーい、色々聞かせてくれてありがとうね」

ミ,,゚Д゚彡「歌にするのは命に関わらない部分でな」

,,爪'ー`)y‐「チッ はーい」

ミ,,゚Д゚彡(舌打ちしやがった……)

ミ,,゚Д゚彡

ミ,,゚Д゚彡「おい、もう出てこい」

│∀゚)゙

644 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:04:14 ID:3652D6ss0

ミ,,゚Д゚彡「ったく、コソコソすんな」

,,(*゚∀゚)「だーっておれの客が居たんだもーん」

ミ,,゚Д゚彡「…………おい」

(*゚∀゚)「死なねーよ?」

ミ,,゚Д゚彡「だよなー」

(*゚∀゚)「嫌になったら殺してもらうからさー、もうしばらく仕事してたいわけよー」

ミ,,゚Д゚彡「……好きにしろ」

(*゚∀゚)「イヒヒー」

ミ,,゚Д゚彡「竜殺しの依頼さ」

(*゚∀゚)「ねーちゃんの、あの二人が知らずに持ってきたんだよ」

ミ,,゚Д゚彡「……あいつら、すげーバトン渡されて届けたんだよな」

(*゚∀゚)「なのにバトンを運んだあいつらは、顛末を風の噂でしか聞かないんだろうな」

ミ,,゚Д゚彡「…………」

(*゚∀゚)「そうだ花、持ってくぞ」

ミ,,゚Д゚彡「おう」

645 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:05:48 ID:3652D6ss0

(*゚∀゚)「ここの花がさー、良い匂い出すんだよなー」

ミ,,゚Д゚彡「墓場だけどな」

(*゚∀゚)「死体の上に咲いた花だから、きっと良い匂いがするんだよ」

ミ,,゚Д゚彡「……」

(*゚∀゚)「愛情たっぷりの綺麗な魂が土に溶け込むと、それだけ匂いは良くなる
     おれはその匂いをちゃんと活かして、生かして、消えないように香りにかえるんだ」

ミ,,゚Д゚彡「お前さ」

(*-∀-)「ねーちゃんみたいで、スゴく良い匂い……きっとねーちゃんも今、こんな匂いがする」

ミ,,゚Д゚彡「……好きにしろもう」

(*゚∀゚)「愛情に満ちた魂の匂いを香りにかえたら、色んな人にその香りを届けるんだ
     たくさんたくさん、色んな人に届けて、感じて、覚えてほしい、これが愛される匂いだって」

ミ,,゚Д゚彡「お前の姉ちゃん、そろそろこっちに戻るんじゃないか」

(*゚∀゚)「かもなー……一緒に店やるのも良いかもなー」

ミ,,゚Д゚彡「…………お前は、何で俺に話しかけたんだっけな」

(*゚∀゚)「あー? そんなふっるい事もう忘れたってー」

ミ,,゚Д゚彡「……そうだな、俺も、もうよく覚えてねぇや」

(*゚∀゚)「なー!」

646 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:06:50 ID:3652D6ss0



ζ(゚- ゚*ζ三「おねさん! おにさん!」

爪'ー`)y‐「あーごめんね遅くなって、ただいま」

ζ(゚- ゚*ζ「おかえいなさ」

爪'ー`)y‐「タカラ君は?」

ζ(゚- ゚*ζ「あんしん、すやすや」

爪'ー`)y‐「あーホッとして寝ちゃった? 子供だねー」

ζ(゚- ゚*ζ「がう、……おねさん?」

ξ;∩⊿∩)ξ「ただいま……」

ξ∩⊿∩)ξ
  ζ(゚- ゚*ζキュ,
  ⊂   ,,

ξ∩⊿∩)ξ

ξ゚⊿゚)ξスッ

爪'ー`)y‐(戻った)

647 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:07:37 ID:3652D6ss0

ξ゚⊿゚)ξ「あー」ワシワシ
 づ(>- <*ζキャー

ξ゚⊿゚)ξ「癒されるわこれ」

爪'ー`)y‐「でしょ」

ζ(゚- ゚*ζ「おねさん、へいき?」

ξ゚⊿゚)ξ「落ち着いたわ」ワシワシ

ζ(゚- ゚*ζ「がう、タカラ、おれい、おにく」

ξ゚⊿゚)ξ「? ……この巨大な肉の塊は?」

爪'ー`)y‐「タカラ君がお礼にこの肉を?」

ζ(゚- ゚*ζ゙「う」

爪'ー`)y‐「……竜の肉だね?」

ξ゚⊿゚)ξそ

648 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:08:33 ID:3652D6ss0

ζ(゚- ゚*ζ「おいし」

爪'ー`)y‐「美味しそうだねー、一気に食べるような愚行はせずに長持ちさせようねー」

ξ゚⊿゚)ξてそ

ζ(゚- ゚*ζ「ぐあんまだ、じかんある」

爪'ー`)y‐「夕飯まで時間あるし、お肉は旅用に加工してもらって僕らは部屋に戻ろうか」

ζ(゚- ゚*ζ゙「がう」

ξ゚⊿゚)ξ「……お肉……」

爪'ー`)y‐「だーめですーん」

ξ゚⊿゚)ξ「ああ……お肉が……」

ζ(゚- ゚*ζ「たのしみある、だいじ」

ξ゚⊿゚)ξ「……そうね、楽しみに食べましょう……少しずつ……」

爪'ー`)y‐(ここ防犯の魔法売ってたかな……食材に付けておかないと……)

649 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:10:04 ID:3652D6ss0

爪'ー`)y‐「はー山歩きしたからベッド落ち着くよー」

ζ(゚- ゚*ζ「おつかれさま」

爪'ー`)y‐「あーりがとーう」

ξ゚⊿゚)ξ「濃い一日だったわ……」

爪'ー`)y‐「そうだね……二週くらい跨いだ気がするね……」

ξ゚⊿゚)ξ「……夕飯まで時間あるし、昼寝したい」

爪'ー`)y‐「おや珍しい」

ξ゚⊿゚)ξ「デレおいで」

ζ(゚- ゚*ζ三=-

ξ-⊿-)ξ「あーふかふかする……」

ζ(- -*ζ「ふかふか……」

ξ-⊿゚)ξチラッ

爪'ー`)y‐「銅貨一枚になりまぁすぅ」

650 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:11:41 ID:3652D6ss0

 ぽろろん。


 二頭の竜は孤独に喘ぐ。
 二頭の竜は愛に飢える。

 老いた竜は愛を語る。
 共に生きる恋人に語る。

 年若き竜は夢を語る。
 共に生きる友人に語る。

 寄り添う彼女は穏やかに微笑む。
 死が二人を別つとしても、この想いは永久に続くと。

 傍らに立つ彼は朗々と笑う。
 生きていれば、楽しいことは見つかるものだと。

 ながいながい時を経て。
 数えきれない時を経て。

 彼女は寂しそうに笑う。
 老いた竜へと愛を語る。

 彼は楽しげな声で笑う。
 未だ若い竜へ夢を語る。

 生きてくれと竜は言う。
 死にたがれと竜は言う。

 どちらの竜も相手を想って。
 大切な存在の破滅を願った。

651 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:12:22 ID:3652D6ss0

 歌い終えた吟遊詩人の顔は見えなかった。

 ただ財布を指差すと、小さく笑う息遣いと、床の軋む音、小銭が擦れる音が静かな部屋に広がるだけ。


 どうしようもないものに触れた時の狐は、見えない真綿で首を絞められているような顔をする。
 そしてどこか破滅的な、全てを諦めた絶望の様なものを浮かべた笑顔をする。

 私は、それを見るのが嫌いだ。

 目の前で、すぐ隣で、ほんの数歩後ろで、この世には希望なんてない顔をする。
 今この腕の中で、安心したように眠る子供の方が、ずっとずっと心穏やかな顔をする。

 私は、私の手で守れないものは嫌いだ。
 だからきっと、ずっと、世界中が嫌いだったんだ。


 この我ながら小さな手は、無理矢理に殴り、握り、潰す事しかできない。
 私は私を守りたいし、この子を守りたいし、あのバカも守りたいのに。

 そのほんの少しのものすらも、私はきっと守りきれないのだろうな。
 まだまだ弱い、まだまだ、もっともっと、頑張らないと、強くならないと。


 すぐそこで楽器の弦をいじって、勝手に絶望しているであろう雇用主を守れない。

 それにまだ、あいつは弱さをちゃんと見せてはいないから。
 あいつを、本当には守れやしない。



 おわり

652 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:14:10 ID:3652D6ss0





 ざくざく。
 草を踏む音。

 ざりざり。
 砂を踏む音。


 焼け野原となったそこに、鎧を纏うひとが訪れる。

 そこの真ん中にぽつんと立ち尽くす少女の後ろ姿に、依頼書を握ったまま声をかける。


「君が、説明役か」

「ええ、ええ、私が」


 布の多い服。
 ひらりと裾を翻して、少女は小さくお辞儀をした。

 彼女は森の薬師と名乗り、依頼の内容をこまやかに説明する。

 とは言え内容は簡単で、ただ鉱山の奥の竜を殺すだけ。

653 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:16:06 ID:3652D6ss0

 朝焼けの様な色の髪と、自分によく似た石の目を、鎧のひとはじっと見ていた。

 そして説明をする薬師は、何かを諦めたような、どこか悲しい目をしていて。


「それじゃあ、殺してくる」

「私はここで、あなたを待つわ」

「ああ、出来るだけ早く、終わらせる」


 ざり、ざり。
 土を砂を踏み締めて、鎧のひとは鉱山へ。

 その背中を見送る薬師は、何か声をかけようとしては唇を噛み、手を伸ばそうとしては堪えた。


 とめたい。
 とめてもいみはない。

 とめたい。
 とめてもなにもかわらない。

 あのかたがしんじゃう。
 もうしんでいるのとかわらない。

 あのかたはいきてる。
 もうわたしのこともわすれてる。

654 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:17:11 ID:3652D6ss0

 ああやめて。

 ああころさないで。

 わたしのあのかたを。

 わたしのこいびとを。

 いけないころさなきゃ。

 だってきけんだもの。

 めざめたらたいへん。

 おおくのひとがしぬ。

 ころさなきゃ。

 ころさなきゃ。

 ころさなきゃ。

 あのかたも。

 わたしのこころも。

655 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:20:04 ID:3652D6ss0

 こらえて。
 こらえて。

 なやんで。
 なやんで。

 くるしんで。
 くるしんで。

 じぶんをたたいて。
 じぶんをしかって。


 それでも薬師は堪えきれずに、鉱山へと走り出した。

 鎧のひとが山へ入ってもうふたとき。
 なんの物音も聞こえてはこない。

 きっと間に合う。
 まだ間に合う。

 今ならきっと。
 殺さないでとすがれば。
 わたしの夫だと、恋人だと。



 けれど薬師の希望とも絶望ともつかない何かは
 真っ赤に染まった、足取りのたしかな鎧のひとの姿に砕かれた。

656 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:20:53 ID:3652D6ss0

 ああ、ああ、ああ。

 足を止めた薬師の顔から色が失せ、それに気付いた鎧のひとは、近くまで来て


「僕の血じゃない、怪我は無いよ」


 安心させるための言葉で、薬師の胸のやわらかな部分を引き裂いて


「老いた竜だから、抵抗はしなかった、静かに死んだよ」


 聞きたくなかった言葉で、胸を刺し貫く。


「そ、う、よかったわ、怪我がなくて」

「ああ、これでこの近辺は大丈夫だろう」

「そう、そうね、きっとそうだわ」

「ああ、けれど」

657 名無しさん[sage] 2017/01/01(日) 22:22:36 ID:3652D6ss0

「ひとつ、気になる事がある」

「気になる、事?」

「今際の際に、竜が僕を見て言ったんだ」



  『ああ、おはよう、ただいま、いとしい人』



「それと 『お前が迎えに来てくれたのか』 と」

「あ、ああ、ぁ」

「僕には竜の表情はよく分からない、けれど、なぜだか笑っているように見えた」



 まるで最もいとしい人を見つけたように。



 森の薬師は崩れ落ち
 身を抱き 爪を立て

 慟哭した。





 おわり。

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