- 864 ◆tYDPzDQgtA 2017/02/05(日) 21:00:30 ID:wWSpFKCM0
例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。
騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。
周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声、獣じみた幼い咆哮。
刃を振るい、歌声を響かせ、魔力を用い、路銀を稼いで進むのは三人。
一人は不機嫌そうに顔を歪める、若い女戦士。
もう一人は、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。
そんな二人の後ろをついて歩く、小さな魔族の子供。
【道のようです】
【第十三話 たたかうっていみをしる。 前編】
彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。
- 865 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:02:20 ID:wWSpFKCM0
狐は言っていた。
爪'ー`)y‐『じゃあ僕、カジノで稼いでくるから!』
狐は言っていた。
爪'ー`)y‐『なーにすぐ戻ってくるって! 抱えきれない程の金貨を持ってね!』
狐は、
爪'ー`)y‐『ツンちゃんまだ疑ってるなー? 僕だってやる時はやるって思い知らせてあげるよ!』
狐、は
(*゚ー゚)「それでは、彼のイカサマの落とし前は相棒であるあなたにつけてもらいます」
連れていかれた。
- 866 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:03:27 ID:wWSpFKCM0
事の始まりはこうだ。
爪'ー`)y‐『っしゃーカジノタウンだー!!』
ζ(゚- ゚*ζ『かじの?』
爪'ー`)y‐『楽しい駆け引きでお金が貰えたり奪われたりする場さ!』
ζ(゚- ゚*ζ『デレみる』
爪'ー`)y‐『よーし僕の側から離れないようにね! 良い子にしてれば怒られないから!』
ξ゚⊿゚)ξ『ちょっと狐、無理に稼ぐ必要無いんだから』
爪'ー`)y‐『そうだけどそうじゃないんだよ! ギャンブラー(二次職)の血が騒ぐんだよ!』
ξ゚⊿゚)ξ『黙らせとけ』
爪'ー`)y‐『だって前はツンちゃんのビギナーズラックで旅費全部賄えるくらい稼いじゃったでしょ?』
ξ゚⊿゚)ξ『うんまぁ……だから無理には』
爪'ー`)y‐『だから次は僕が稼ぐんだよ!!』
ξ゚⊿゚)ξ『無理に稼がんでも……』
- 867 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:05:10 ID:wWSpFKCM0
爪'ー`)y‐『確かに僕はヒモタイプの男だけどさ……職業にプライドあるから……』
ξ゚⊿゚)ξ『そんななけなしのプライドを……』
爪'ー`)y‐『んーだってさぁ……相棒に旅費全部稼がせたのはなんかさぁ……』
ξ゚⊿゚)ξ『……まぁ好きにして良いけど』
爪'ー`)y‐『よっしゃ』
ξ゚⊿゚)ξ『全く期待せずに待つわ』
爪'ー`)y‐『きーたーいーしーてーよーぉ!!!』
ξ゚⊿゚)ξ『あー分かった分かったもう行け、私は役所と宿に行くから』
爪'ー`)y‐『じゃあ僕、カジノで稼いでくるから!』
ξ゚⊿゚)ξ『デレ連れてくんだから遅くならないでよね』
爪'ー`)y‐『なーにすぐ戻ってくるって! 抱えきれない程の金貨を持ってね!』
ξ゚⊿゚)ξ『おい濃密すぎるフラグを立てるな』
爪'ー`)y‐『ツンちゃんまだ疑ってるなー? 僕だってやる時はやるって思い知らせてあげるよ!』
- 868 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:06:14 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ『デレ、怖かったら逃げてらっしゃい』
ζ(゚- ゚*ζ『あい、いてきます』
ξ゚⊿゚)ξ『行ってらっしゃい』
爪'ー`)y‐『行ってきまーす!』
ξ゚⊿゚)ξ『はよ行け』
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ『生き生きしてまぁ……良いけど、ストレス発散になるだろうし』
,,ξ゚⊿゚)ξ『さ、役所に報告しないとね……枯れ木集めの報酬貰わないと』
ξ゚⊿゚)ξ『枯れ木150本のクエスト報告です』
(*゚ー゚)『ありがとうございます、お疲れさまでした……えーと、銀貨15枚ですね』
ξ゚⊿゚)ξ『えぇ、あとこの』
(*゚ー゚)『失礼します』
ξ゚⊿゚)ξ『え?』
- 869 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:06:42 ID:wWSpFKCM0
(*゚ー゚)『何ですか、ここは役所ですよ』
(*゚ー゚)『焼きたてパンと溶かしバターのツンさんですね?』
(*゚ー゚)『聞きなさい! ここは冒険者用の役所です、カジノの方は出ていって下さい!』
(*゚ー゚)『そうは行きません、お連れのフォックスさんとお子さんを拘束しました』
(*゚ー゚)『何ですって!? あなた何を!』
(*゚ー゚)『静かにして下さい、私はツンさんに用があるんです』
(*゚ー゚)『だからって姉さん!』
(*゚ー゚)『私は職務を全うしているだけです、私情を挟まないで』
ξ゚⊿゚)ξ(どうすんだこの絵面)
(*゚ー゚)『とにかくカジノへお越しください、説明いたします』
ξ゚⊿゚)ξ『あ、はい……それじゃあ行ってきます……』
(*゚ー゚)『ああ……はい、行ってらっしゃい……お気をつけて……』
- 870 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:07:44 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ『あの、狐が何か? セクハラでも?』
(*゚ー゚)『いいえ、軽度のセクハラは出禁で済ませます』
ξ゚⊿゚)ξ『それじゃあ暴力沙汰を……?』
(*゚ー゚)『いいえ、暴力沙汰は衛兵を呼んで叩き出します』
ξ゚⊿゚)ξ『それじゃあ……』
(*゚ー゚)『イカサマです』
ξ゚⊿゚)ξ
(*゚ー゚)『こちらへ』
,,ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)y‐『ツンちゃーん』
ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)y‐『捕まった☆』
ξ゚⊿゚)ξ
- 871 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:09:18 ID:wWSpFKCM0
爪'ー`)y‐『いやーバレないと思ったんだけど大きい箱だとセキュリティが最新でさー』
ζ(゚- ゚*ζ『おねさん……おにさんおこられた……』
ξ゚⊿゚)ξ
(*゚ー゚)『お連れの方で間違いありませんね?』
ξ゚⊿゚)ξ『間違いであってほしいですね』
(*゚ー゚)『フォックスさんは袖にカードを仕込んでいました、こちらです』
ξ゚⊿゚)ξ
(*゚ー゚)『これにより不正に多額の賞金を得たところを取り押さえまして』
ξ゚⊿゚)ξ
(*゚ー゚)『こちらとしても不正を見逃すわけにはいきません
本来ならばギャンブラーの資格を剥奪し、法的措置をとらせていただきます』
ξ゚⊿゚)ξ『…………本来ならば?』
(*゚ー゚)『ええ、聞けばツンさんはかのミュスクル氏のお弟子さんで非常に優秀な戦士だとか』
ξ゚⊿゚)ξ『あー……暗殺とか技術が必要なのじゃなければやりますが……』
- 872 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:10:28 ID:wWSpFKCM0
(*゚ー゚)『いいえ、そう言った“依頼”ではありません』
ξ゚⊿゚)ξ『……それじゃあ、どう言った“依頼”を?』
(*゚ー゚)『……大きな声では言えませんが、当カジノでは大きな賭けの場があります』
ξ゚⊿゚)ξ『あー』
(*゚ー゚)『あなたの腕と名声ならば、さぞお客様を沸かせる事が出来ると思います』
ξ゚⊿゚)ξ『あぁー』
(*゚ー゚)『ご参加頂けますか? 当カジノの、コロシアムに』
ξ゚⊿゚)ξ『あぁぁー』
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ『やります』
- 873 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:11:49 ID:wWSpFKCM0
(*゚ー゚)『であれば話は簡単です、あなたにはコロシアムで勝ち抜いていただきます』
ξ゚⊿゚)ξ『はい』
(*゚ー゚)『あなたが勝ち抜けたならこちらのお二人は解放します、何も請求しません』
ξ゚⊿゚)ξ『はい』
(*゚ー゚)『勝ち抜けなかった場合は、あなたもこちらのお二人も、解りますね?』
ξ゚⊿゚)ξ『はい』
(*゚ー゚)『それでは、彼のイカサマの落とし前は相棒であるあなたにつけてもらいます』
ξ゚⊿゚)ξ『わかりました』
(*゚ー゚)『ではコロシアムでの詳しい説明はこちらで、お二人とお別れをどうぞ』
ξ゚⊿゚)ξ『はぁい……』
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ『おい狐』
爪'ー`)y‐『ほんとごめんね……』
ξ゚⊿゚)ξ『反省してるなら許すわ……』
- 874 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:13:00 ID:wWSpFKCM0
爪'ー`)y‐『もう無理に勝とうとしない……』
ξ゚⊿゚)ξ『何でイカサマなんて……そんなに勝ちたかったの?』
爪'ー`)y‐『ああいやイカサマは前からやってたけどバレなかっただけ』
ξ゚⊿゚)ξ『クソかお前は』
爪'ー`)y‐『八割のギャンブラーがイカサマ込みでやってるよ』
ξ゚⊿゚)ξ『よく公的な職業だなギャンブラー』
爪'ー`)y‐『二割の豪運が居るのも事実』
ξ゚⊿゚)ξ『むしろ何で公的な職業なんだギャンブラー……』
爪'ー`)y‐『まぁ遊び人が公的な職業だからなぁ……』
ξ゚⊿゚)ξ『はぁ……まあ良いわ』
爪'ー`)y‐『迷惑かけるつもりは無かったんだよーごめんよーデレまで巻き込んでごめんよー』
ξ゚⊿゚)ξ『分かった分かった、躍起になったのもわかるから』
爪'ー`)y‐『うぐぐ』
- 875 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:13:25 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ『ま、お互いパーティっと言う運命共同体って意識が低かったのが問題よね』
爪'ー`)y‐『本当に……あー反省します……』
ξ゚⊿゚)ξ『……だから、あんたのやらかしは私がどうにかする』
爪'ー`)y‐『ツンちゃん……』
ξ゚⊿゚)ξ『あんたは私のやらかしを裏でどうにかしてくれてるしね』
爪'ー`)y‐『色々ありすぎて覚えていない……』
ξ゚⊿゚)ξ『デレ』
ζ(゚- ゚*ζ『あい?』
ξ゚⊿゚)ξ『平気そうねあんた』
ζ(゚- ゚*ζ『デレなれてる』
ξ゚⊿゚)ξ
- 876 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:13:51 ID:wWSpFKCM0
ζ(゚- ゚*ζ『くさりない、てつごうしよわい、デレそといける』
ξ゚⊿゚)ξ
⊂ζ(゚- ゚*ζ『えい』ガッシ グニィ
爪'ー`)y‐『戻して戻して』
ζ(゚- ゚*ζ『デレせんようおりはいってた、これにんげんよう』
ξ゚⊿゚)ξ
ζ('(゚- ゚∩ζ"『あぶないなる、でれおにさんつれてにげる』ムン
ξ゚⊿゚)ξ『この女児頼もしい……』
ζ('(゚- ゚∩ζ
ξ゚⊿゚)ξ『……まあ、それに一人じゃないものね』
爪'ー`)
つ(゚- ゚*ζ『あいっ』
⊂ ヽピト
ξ゚⊿゚)ξ(あざとい……)
爪'ー`)(あざとい……)
- 877 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:14:19 ID:wWSpFKCM0
爪'ー`)y‐『まぁ信用は無いだろうけど、デレの事は任せておいて』
ξ゚⊿゚)ξ『センスと運以外は信用してるわ』
爪'ー`)y‐『つっら』
ζ(゚- ゚*ζ『おにさんデレまかせる』
ξ゚⊿゚)ξ『ええ、狐は任せるわデレ』
ζ(゚- ゚*ζ『あい!』
ξ゚⊿゚)ξ『……それじゃあ、殺してくるわ』
爪'ー`)y‐『……ごめんね』
ξ゚⊿゚)ξ『バカね、慣れてるわよ』
爪'ー`)y‐『うん……』
ガチャ バタン
爪'ー`)y‐『あー……ツンちゃん大丈夫かなぁ……』
ζ(゚- ゚*ζ『おねさんつよい』
爪'ー`)y‐『……意外と弱いんだよねぇ……』
- 878 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:15:22 ID:wWSpFKCM0
(*゚ー゚)「では、ツンさん」
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
(*゚ー゚)「ルールは簡単です、相手の命を奪う事」
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
(*゚ー゚)「ただし公平さのため、武器や防具はこちらからの支給品をご使用頂きます」
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
(*゚ー゚)「逃亡は不可能であり、リタイアも出来ません、勝利か敗北のみが許されます」
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
(*゚ー゚)「それでは、こちらを」
ξ゚⊿゚)ξ「? これは?」
(*゚ー゚)「失礼します、胸に装着しますので」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、はいィ痛いっ!?」バチンッ
(*゚ー゚)「失礼しました、後で取り外す事が出来ますから」
- 879 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:16:33 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ「何ですかこれ……」
(*゚ー゚)「それは装備型の蘇生用魔道具です」
ξ゚⊿゚)ξ!?
(*゚ー゚)「とは言え、この施設内でのみ動作する使用回数に制限のある物です」
ξ゚⊿゚)ξ「そ、蘇生……出来るんですか……?」
(*゚ー゚)「はい、蘇生は本来ならばまだ非常に難しくこちらの魔道具も貴重で機密でもあります」
ξ゚⊿゚)ξ「それを、なぜ?」
(*゚ー゚)「詳しくはお教え出来ませんが……当カジノでは、これが可能と言う事です」
ξ゚⊿゚)ξ「…………なるほど」
(*゚ー゚)「こちらの蘇生アイテムは五回のみ使用が可能です、と言うか五回までしか作れません」
ξ゚⊿゚)ξ「現段階での限界ですか」
(*゚ー゚)「はい、交換は可能ですが負荷が大きくなりますので不可能に等しいですね」
ξ゚⊿゚)ξ「はー……魔道具にも色々あるのね……」
(*゚ー゚)「とは言え、不死者には未だ程遠いのが現状ですが」
- 880 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:17:45 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ「……いつかは不死者になれるんですかね」
(*゚ー゚)「無理でしょうね、出来たとしても遥か未来の事でしょうし」
ξ゚⊿゚)ξ「…………それで、私はこれをつけて戦うんですか」
(*゚ー゚)「ええ、使用回数も賭けの対象です、戦う人材も使い回せますから」
ξ゚⊿゚)ξ「……五回……」
(*゚ー゚)「五回使ったら、あとはご自身の持つ一回分の命だけです、使ってしまわぬよう」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
(*゚ー゚)「では、装備を外してください、こちらで丁重に保管致します」
ξ゚⊿゚)ξ「……はい」
(*゚ー゚)「斧槍はお預かりしますが、こちらから支給できる武器の種類には限りがあります」
ξ゚⊿゚)ξ「何がありますか」
(*゚ー゚)「短剣、弓、杖の三種です」
ξ゚⊿゚)ξ「あんまりだ……」
(*゚ー゚)「しょうがないんですよ……」
- 881 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:18:07 ID:wWSpFKCM0
(*゚ー゚)『時間まで自由にどうぞ、ただカジノの外には出ないで下さい』
私は頼りない短剣と小盾のセットを選び、カジノの裏側に放り出された。
控え室の場所は教えてもらったが、じっとしている気は起きなくて。
ざわざわと賑やかなカジノの裏側、地下コロシアムの外側をとぼとぼと歩く。
売店、コインの販売所、景品交換所。
あとは何かよくわからないカウンターやら何やら、熱狂する人混みの間をすり抜ける。
こんな時、狐がいればあれは何かと聞けたのにな。
デレの頭を撫でながら、離れないようにと言いたかったな。
ああ、今は一人なんだ。
私一人で大丈夫なのかな。
武器も防具も粗末な物で。
二人と自分の命を背負って。
狐にはああ言ったけど。
本当に、大丈夫なのかな。
- 882 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:19:46 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ(あ、これは)
ξ゚⊿゚)ξ(ヤバいな)
ぞわ。
ああ、どうしよう、待って。
師匠から賜った斧も無く、自分用にしつらえた鎧もなく、たった一人で殺し合いをするの?
ぞわぞわ。
確かに腕力はある。
どんな武器でもある程度は扱える。
でも待って。
待って。 待ってよ。
ぞわぞわぞわ。
私は、何を支えにコロシアムに立てば良いの?
- 883 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:20:44 ID:wWSpFKCM0
突然、たった一人で。
愛用の武器も鎧もなしに。
負ければ二人の命も危ないのに。
私、あれ、私。
どうやって、戦っていたんだろう。
ぞわぞわぞわぞわ。
言い表せない不安感が全身に覆い被さって、手の震えを呼び起こす。
今まで一人で旅はしてきたが、いつでも愛用の武器と鎧を身に付けていた。
謂わば依存とも言える心の拠り所を取り上げられて、孤独が苦手になった今、一人で立つのは。
それも街中とは言え、命をかけて殺し合う為の場所に、粗末な短剣と小盾だけを握って立つのは。
思っていた以上に、怖い。
ξ゚⊿゚)ξ(あ、手が、震える)
ξ゚⊿゚)ξ(きついな、これ、私こんなに弱かったか)
ξ゚⊿゚)ξ(五回、五回死んだら、私は全部失うのか)
ξ゚⊿゚)ξ(狐も、デレも、何もかも、失えるのか私は)
- 884 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:22:11 ID:wWSpFKCM0
元はと言えば狐のせいだ。
いや私のせいなのか。
でもイカサマで捕まったのあいつだし。
でもあのバカのプライドをつついたのは私だから。
私が、頑張ってどうにかしないと。
どちらにせよ、私はカジノ側から突き付けられた条件を果たすしか無い。
この震えるような心細さの中、一人で戦わなければ。
ξ゚⊿゚)ξ(大丈夫、大丈夫、いける、いけるから)
ξ゚⊿゚)ξ(大丈夫……戦える……殺せる……)
ξ゚⊿゚)ξ(…………殺す……?)
ξ゚⊿゚)ξ(罪人や不死とも言えない存在を、殺すのか)
ξ゚⊿゚)ξ(あー)
あー困った。
気付かなくて良い事に気付いた。
私、罪もない一般人なんて殺した事無い。
- 885 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:22:58 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ(いや、相手も殺しにくる)
ξ゚⊿゚)ξ(殺し合うならいけるはず)
ξ゚⊿゚)ξ(何も出来ない子供が相手じゃない)
ξ゚⊿゚)ξ(お金のために、何かのために、命をかけて殺しにくる)
ξ゚⊿゚)ξ(何かの、ために、私みたいに、仲間の、ために?)
ξ゚⊿゚)ξ(あ、だめだ、だめ、こわい)
川*` ゥ´)「あ、チビゴリラ」
ξ゚⊿゚)ξ!!
川*` ゥ´)「違法賭博なんかに来てんじゃねーぞすっとこどっこい」
ξ゚⊿゚)ξ
川*` ゥ´)づ「聞いてんのかよおいオラオラ小さいんだよお前はおぉーん?」
:ξ゚⊿゚)ξ:
川*` ゥ´)(やっべ怒らせたな)
:ξ;⊿;)ξ: ポロ…ポロ…
川;` ゥ´)そ「ホァアアアアーン!!?」
- 886 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:23:55 ID:wWSpFKCM0
川;` ゥ´)「えっ何お前なんで泣いてんの!? つか泣くの!? 泣けたのお前!?」
:ξ;⊿;)ξ:「ぅ……ぅ゙ぇ゙ぇ゙ぇ……」
川;` ゥ´)「可ッ愛くねぇ泣き声だな!! 何だよあたしが悪者じゃねーかこの図!!」
:ξ;⊿;)ξ:「びぃ゙る゙ぅ゙……」
川;` ゥ´)「あー可愛くねぇ!! 全然可愛くねぇこの泣き様!! むしろ汚ぇからやめろ!!」
:ξ;⊿;)ξ:「ややブスうるさい……」
川#` ゥ´)「突然喧嘩売るなー!! お前なー!! 可愛くねー!!!」
:ξぅ⊿;)ξ:「ぅ゙ぇ゙ぇ……」
川;` ゥ´)「何かもう酔い潰れて吐いてるみたいな絵面だからもう少し綺麗に泣けよお前……」
:ξぅ⊿;)ξ:「ぅ゙……ぅ゙ぅ゙ぅ゙……」
川;` ゥ´)「ヴァルヴレイヴか何かかよ……おい鬱陶しいから泣き止んで説明しろおいチビ」
:ξぅ⊿;)ξ:「お゙な゙がずい゙だ……」
川*` ゥ´)「えっ何お前まさかそれで泣いてたの? 保護者どこやったのお前」
ξぅ⊿;)ξ
川*` ゥ´)?
:ξ;⊿;)ξ:「ぅ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁぁ……」
川;` ゥ´)「泣き声が汚いんだよお前は!!!」
- 887 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:24:28 ID:wWSpFKCM0
川*` ゥ´)「ほーん、カジノ側にイカサマがバレてクソイケとチビを取り上げられたと」
ξぅ⊿゚)ξ「うん……」
川*` ゥ´)「取り戻す条件が裏コロシアムで勝ち抜けねぇ……主人公してんなぁおい」
ξ゚⊿゚)ξ「……でも、自信が無い」
川*` ゥ´)「あ? 人の頭を握り潰せるクソゴリが何いってんのお前」
ξ゚⊿゚)ξ「……鎧も、斧も無いのよ」
川*` ゥ´)「まぁ武器防具は支給品だわな」
ξ゚⊿゚)ξ「一人だし、相手は一般人なのに殺しにくるし」
川*` ゥ´)「そらそうだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「…………怖いのよ」
川*` ゥ´)「怖いもんあったのお前……」
ξ゚⊿゚)ξ「あるわよ、当然でしょ…………怖くて不安で心細くて、私こんなに弱かったのね……」
川*` ゥ´)「自分が完璧超人だとでも思ってたのかお前は……一応は人間なんだぞ……」
- 888 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:26:18 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ
川*` ゥ´)
ξ゚⊿゚)ξ「でも強くなりたいの」
川*` ゥ´)「だろうな」
ξ゚⊿゚)ξ「だから弱くちゃ駄目なの」
川*` ゥ´)「おいチビゴリラ」
ξ゚⊿゚)ξ「返事はしない」
川*` ゥ´)「お前の師匠も強いんだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「英雄よ」
川*` ゥ´)「弱いとこ何て一つも無いのかよ師匠はよ」
ξ゚⊿゚)ξ「…………姉様には弱かったわね……」
川*` ゥ´)「完璧だったのかよ」
ξ゚⊿゚)ξ「……素晴らしい方だけど、完璧では無かったわ」
- 889 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:26:51 ID:wWSpFKCM0
川*` ゥ´)「お前の目標はよ」
ξ゚⊿゚)ξ「師匠みたいに、強くなる事……」
川*` ゥ´)「だったら別に弱くて良いだろ……」
ξ゚⊿゚)ξ「あれ……?」
川*` ゥ´)「強くなる事は弱くなくなる事じゃ無いだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「……そう、なの?」
川*` ゥ´)「あたしは上級魔法を使えるけどお前のパンチひとつで沈むだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「沈むと思うわ」
川*` ゥ´)「まあお前のパンチが強すぎんだけど……だから強いと弱いは両立すんの」
ξ゚⊿゚)ξ「……マッチョな魔導師は確かに滅多に見ないわ」
川*` ゥ´)「中には居るだろうけど多分ただの変態だしな」
ξ゚⊿゚)ξ「……弱さを残してても、良いの?」
- 890 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:27:56 ID:wWSpFKCM0
川*` ゥ´)「弱さを強さで補えるなら良いんじゃね、ほら殴ってこい」
ξ゚⊿゚)ξ三づ ヒュボッ
川*` ゥ´)っ$そ パキィン
ξ゚⊿゚)ξ「おお……物理障壁……初めて見た……」
川*` ゥ´)「あたしはこうやって強くなってんだ、分かったか金髪ゴリラ」
ξ゚⊿゚)ξ「返事はしない」
川*` ゥ´)「だからまぁ適当に折り合いつけろや、あたしお前らの敵なのにアドバイスさせんな」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、お守り買ったわよ、ありがと」
川*` ゥ´)「何かと思ったら何だよ急に……あたしも安く早く買えて良かったけどよ……」
ξ゚⊿゚)ξ「……お守りの匂い落ち着くんだけど、今は取り上げられたのよね」
川*` ゥ´)「あたしのは杖のここにつけて貰ったわ」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、良い匂いがする、不思議な匂いね」
川*` ゥ´)「本家の魔女の匂いが混ざってんだよこれ、もう死んでるのに」
ξ゚⊿゚)ξ「本当にどうやってそんな匂いを……」
川*` ゥ´)「こっわいわー……」
- 891 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:28:53 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ「……ところでややブス」
川#` ゥ´)「お前今は魔防ゼロだよな???」
ξ゚⊿゚)ξ「間違えたヒール間違えたからやめて」
川*` ゥ´)(まぁこいつならライフで受けて平気な顔してそうだけど)
ξ゚⊿゚)ξ「あんたは何でこんな違法賭博に?」
川*` ゥ´)「依頼があって来たんだけど勝手に解決しやがったから観光」
ξ゚⊿゚)ξ「観光好きねあんた……」
川*` ゥ´)「楽しいぞ観光、古い建物多いしな」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたも悪ぶってるけど真面目で勤勉よね……」
川*` ゥ´)「悪ぶってるって言うか悪い魔女目指してるお前らの敵だから」
ξ゚⊿゚)ξ「それを悪ぶってるって言うんだと思うわ」
川*` ゥ´)「魔女と言えば悪い魔女だろ?」
ξ゚⊿゚)ξ「イメージは分かるわ」
川*` ゥ´)「だから目指してんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「分からない」
- 892 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:30:02 ID:wWSpFKCM0
川*` ゥ´)「お前はこれから試合出んだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ぅ……うん」
川*` ゥ´)「勝てよなお前、あたしお前に賭けとくから」
ξ゚⊿゚)ξ「やめなさい」
川*` ゥ´)「あとチビが心配だから」
ξ゚⊿゚)ξ「狐は」
川*` ゥ´)「どうでも良い」
爪>3<)y‐そ「へっくち」
ζ(゚- ゚*ζ「おにさんだいじ?」
爪'ー`)y‐「あー大丈夫大丈夫、デレ抱えて暖まろー」
ζ(>- <*ζキャー
- 893 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:30:30 ID:wWSpFKCM0
川*` ゥ´)「あーでもなぁ」
ξ゚⊿゚)ξ?
川*` ゥ´)「あー……んんー……そうだなー……」
ξ゚⊿゚)ξ
川*` ゥ´)「よしタッグ組むか」
ξ゚⊿゚)ξ!?
川*` ゥ´)「だってお前アレだろ、メンタルガタガタだし」
ξ゚⊿゚)ξ「す、少しは落ち着いたわよ……」
川*` ゥ´)「そんなゴミメンタルでチビ助けられると思えねぇしな」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたデレ気に入ってるわね……」
川*` ゥ´)「あいつは朝飯じゃないし可愛いし」
ξ゚⊿゚)ξ「慈善事業かよ」
川*` ゥ´)「それは見も知らぬ奴隷保護したお前らの事であって知り合いのガキ助けるのは別」
ξ゚⊿゚)ξ「ぐう」
川*` ゥ´)「出てる出てる」
- 894 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:31:11 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ「でもタッグなんて」
川*` ゥ´)「おいタッグで申請させろよ」
( ^Д^)「タッグチームバトルでのご参加ですね、でしたらこちらの用紙に」
ξ゚⊿゚)ξ「あるんだ」
川*` ゥ´)「いやそうじゃなくて」
( ^Д^)「えっ」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ」
川*` ゥ´)「通常の試合に二人で出させろつってんだよ」
(;^Д^)「しれっとルール崩壊させないでくれます!? 1対1ですけど!?」
川*` ゥ´)「あ? 違法賭博でルールとか何いってんのお前」
(;^Д^)「いやいやいや違法賭博だからこそルールあるんですってマジ」
川*` ゥ´)「人の仲間を人質にして裏で倍率上げたりしてる癖にルールとは?」
(;^Д^)
川*` ゥ´)「つかさー人道的にアウトだよねー人間に蘇生アイテム持たせて殺し合いってさー」
(;^Д^)「皆さんそうおっしゃいますけどね……意外とホワイトですからここ……」
- 895 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:32:06 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ「……」
川*` ゥ´)「おい金髪チビゴリラも何か言え」
ξ゚⊿゚)ξ「奴隷商してませんでした?」
(;^Д^)「してませんよ!?」
ξ゚⊿゚)ξ「奴隷商みたいな顔してる……殺したい……」
川*` ゥ´)「こいつがチビ売ってたの?」
(;^Д^)「裏カジノ勤続15年ですよ!?」
ξ゚⊿゚)ξ「殺したい」
川*` ゥ´)「殺すかー」
(;^Д^)「支配人ー!! 支配人ーッ!!」
,,ξ゚⊿゚)ξ「ペアで出られたわね」
,,川*` ゥ´)「楽しければ良い派の支配人で良かったな」
- 896 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:32:43 ID:wWSpFKCM0
川*` ゥ´)「まぁあたしは魔力制御つけられたけどな、40%くらいしか出ねーぞこれ」
ξ゚⊿゚)ξ「半分以下か……」
川*` ゥ´)「まぁ多少はやってやんよ」
ξ゚⊿゚)ξ「私魔法使いと組むの初めて」
川*` ゥ´)「魔女だよボケ」
ξ゚⊿゚)ξ「魔導師は普段どうしてるの?」
川*` ゥ´)「魔女だって」
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり魔術師は外にあんまり出なかったりするのかしら」
川#` ゥ´)「喧嘩売ってんだろー!? ぁあーッ!?」
ξ゚⊿゚)ξ「ヒール面白いわよね」
川#` ゥ´)「っせ貧相な体型」
ξ゚⊿゚)ξ「あんた人をどうこう言えるほど恵まれた体型なの?」
川*` ゥ´)「……まぁ……平均だな……」
- 897 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:33:25 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ「推定Bだっけ……」
川*` ゥ´)「黙れや……」
ξ゚⊿゚)ξ「身長は160くらい?」
川*` ゥ´)「だいたい」
ξ゚⊿゚)ξ「私より10cmも高いのね……」
川*` ゥ´)「お前がチビ過ぎるだけだかんな……?」
ξ゚⊿゚)ξ「……ヒール」
川*` ゥ´)「あー?」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう」
川*` ゥ´)「ペッ お前ら朝飯と馴れ合うためにやるんじゃねーよ、チビガキのためだ」
ξ゚⊿゚)ξ「うちのデレのために、ありがとう」
川*` ゥ´)「その感謝なら聞いてやんよ、絶対勝ち抜くぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「……ええ、全員ぶち殺してやるわ」
川*` ゥ´)「おうよ」
- 898 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:35:16 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ
川*` ゥ´)
ξ゚⊿゚)ξ「でもあんた、簡単に命投げ出したけど良かったの?」
川*` ゥ´)「別に、スーパー魔女様のヒール様はこんな所で死なねぇし」
ξ゚⊿゚)ξ「すごいな」
川*` ゥ´)「この魔道具も効くか分かったもんじゃねーしな」
ξ゚⊿゚)ξ「……なんか見覚えあるのよね、この石」
川*` ゥ´)「あー? 人工の魔石だろうなこれは」
ξ゚⊿゚)ξ「薄い青の、透明な石……どこかで……」
川*` ゥ´)「魔力充填するアレがこんな色だわ」
ξ゚⊿゚)ξ「あーそれかぁ……いやもっと小さいのを見たような……」
川*` ゥ´)「魔力は確かに感じるけど…………変わった魔法かかってんなこれ」
ξ゚⊿゚)ξ「わかるの?」
- 899 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:35:46 ID:wWSpFKCM0
川*` ゥ´)「修復……固定……再生……治癒……あーよくわかんねぇ……人間用じゃねーなこれ」
ξ゚⊿゚)ξ?
川*` ゥ´)「魔族の魔法か……道理で珍しい事を……つっても未完成……蘇生は研究がまだ……」
ξ゚⊿゚)ξ
川*` ゥ´)「トレース出来ればあたしも……あーいや無理だな……魔族の魔法は1から覚え直さないと……」
ξ゚⊿゚)ξ「おなかすいた」
川*` ゥ´)「緊張感ねーなお前」
ξ゚⊿゚)ξ「ヒールが居たら安心しちゃって……」
川*` ゥ´)「敵だぞ安心すんな」
ξ゚⊿゚)ξ「今は味方だから」
川*` ゥ´)「共闘する手前そうだけどな、緊張感をだな」
ξ゚⊿゚)ξ「ヒール」
川*` ゥ´)「んっだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがと」
川*` ゥ´)「もう聞いたわボケ」
- 900 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:37:13 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ「この控え室ってお茶も無い、っと……始まるみたいね」
川*` ゥ´)「おーおーアナウンス流れてんな」
ξ゚⊿゚)ξ「ミュスクルの弟子……」
川*` ゥ´)「お前マジで英雄の弟子なん」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、あ……アンソルスランの魔女だって」
川*` ゥ´)「直系じゃねーけどな、……あー粗末な杖、ただの木の棒じゃねーかこれ」
ξ゚⊿゚)ξ「こっちも刃があるとは思えないなまくら」
川*` ゥ´)「はー……行くか」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、行きましょうヒール」
川*` ゥ´)「おい」
ξ゚⊿゚)ξ「何よ」
川*` ゥ´)「服を掴むな」
ξ゚⊿゚)ξ「行きましょ」
川*` ゥ´)「離せや」
- 901 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:38:28 ID:wWSpFKCM0
コロシアムの内側。
広い円形のその舞台には、消えない血の臭いと色が染み付いている。
私とヒールはその舞台に立ち、上からぐるりと見下ろす観客を眺めてから、向かい側の入り口を睨んだ。
ざわめき、熱気、喧騒、罵声、好奇の目、耳が痛い。
こんな見世物になるのは、初めての事で。
役所や仕事の時だって、ここまでの居心地の悪さじゃない。
この環境で、この武器で、この感情で、私は命の奪い合いをする。
なんて、なんて、気持ちの悪い、
川*` ゥ´)「見てろよ上のクソ客共ーッ!!!」
ξ゚⊿゚)ξ!!
川*` ゥ´)「あたしら以外に賭けたクソ共は大損して帰る羽目になっからなーッ!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「ヒール……」
川*` ゥ´)「ふん、滅入ってんじゃねーぞカス」
- 902 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:39:11 ID:wWSpFKCM0
ヒールの言葉に、観客のざわめきは強くなる。
しかしその言葉のお陰で、私は我に返り、短剣を強く握り締めた。
勝てるかどうかじゃない。
勝つしかないんだ。
ヒールのためにも
二人のためにも。
私のためにも。
ξ-⊿-)ξスー ハー
ξ゚⊿゚)ξスッ
ξ゚⊿゚)ξ「我こそは英雄ミュスクルの弟子! ツン・グランピー!!」
川*` ゥ´)「うお」
ξ゚⊿゚)ξ「我が身に受けしミュスクルの名を汚しはせず!! 勝利を掴む者である!!!」
川*` ゥ´)「ヒュー」
ξ゚⊿゚)ξドヤッ
川*` ゥ´)「掴みは上々か、来るぞバカ女」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、やってやるわ」
- 903 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:39:52 ID:wWSpFKCM0
私は人の道を外れた人間。
私は人を殺す事もある道を選んだ人間。
今まで何度も悔やんだし、今まで何度も苦悩した。
けれど一度殺してしまったら、あとはもう戻れはしない。
とは言え、私が手にかけるのは討伐対象だけ。
殺しても許される大義名分があったとしても、私はひっそりと胸を痛める弱い人間なのだ。
それなのに。
だからこそ。
私は仲間のために、人を殺さなければいけない。
弱気になるな。
狼狽えるな、躊躇うな、切っ先を揺らすな。
私は‘敵’を、殺さなければいけないのだ。
なに、一人じゃない。
甘ったれの小娘一人じゃない。
傍らには、素直で愚かで優秀な、魔女の小娘が居るのだから。
- 904 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:40:56 ID:wWSpFKCM0
みしみし、と音を立てて向かいの扉が開く。
広いコロシアムに姿を現したのは、大きな魔物。
四足で固い毛並みを持つ、犬とも熊ともつかない濃褐色。
敵意に満ちた目でこちらを見て、鋭い牙を晒しながら大きく吠えた。
ξ゚⊿゚)ξ「何だ魔物か」
川*` ゥ´)「人間相手かと思って緊張してたのによ」
ξ゚⊿゚)ξ「しかし片手剣か……先に行ってみるわ」
川*` ゥ´)「撃つ時は言うから避けろよ」
ξ゚⊿゚)ξ「分かった」
たん、と地を蹴り魔物に駆け寄る。
前に出した左手には頼りない小盾、右手に握られたおもちゃみたいな短剣を振りかぶって。
< ザクー ブシューブチブチメキメキ ギャオーン ドサァ…
,,ξ゚⊿゚)ξ「よっわ」ポタポタ
川*` ゥ´)「ぐっろ」
- 905 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:41:28 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ「拍子抜けね……こんなに弱いとは……」
川*` ゥ´)「いや素手で魔物の頭を引きちぎるのがおかしいんだからな? 分かるか? 馬鹿には無理か?」
ξ゚⊿゚)ξ「食べる?」
川*` ゥ´)「食うかボケ」
ξ゚⊿゚)ξ「美味しいと思うんだけどな……」
川*` ゥ´)「おい次来たぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「あれは……かの有名な……!」
川*` ゥ´)「触手のあれな」
ξ゚⊿゚)ξ「寄ったら服とか溶けない?」
川*` ゥ´)「魔法撃ってみっか」
ξ゚⊿゚)ξワクワク
川*` ゥ´)ノシ -=◎ ヒュゴー
ξ゚⊿゚)ξ
- 906 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:42:25 ID:wWSpFKCM0
< バシュウウウ ジュワワァ…
川*` ゥ´)「よっわ」
ξ゚⊿゚)ξ
川*` ゥ´)「んっだよ何見てんだボケ喝采送れよ」
ξ゚⊿゚)ξ「詠唱とか……」
川*` ゥ´)「あるわけねーだろ下位魔法だぞ、短縮出来るに決まってんだろ」
ξ゚⊿゚)ξガッカリ…
川*` ゥ´)ノシ「あー…………岩砕き、骸崩す、地に潜む者たち集いて赤き炎となれ!! ファイア!!」ヒュゴー
ξ*゚⊿゚)ξ+ パァァ
川;` ゥ´)「めんどくせーからやっぱ詠唱とかやってらんねぇって!!」
ξ゚⊿゚)ξ「えぇ……折角の魔法職なのに……かっこいいのに……」
川*` ゥ´)「ふん! あたしがかっこいいのは最初からだけどな!」
ξ゚⊿゚)ξ「いや詠唱がだけど」
川#` ゥ´)「しね」
- 907 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:43:10 ID:wWSpFKCM0
< メキーグシャグシャ
< ピシャーンバリバリ
< ザクザクブチブチ
ξ゚⊿゚)ξ「魔物ばっかりね」
川*` ゥ´)「しかもクソ弱い」
ξ゚⊿゚)ξ「楽なのはありがたいけど、ここまで歯応えが無いとは」
川*` ゥ´)「今ので五匹目か? 全何戦だったこれ」
ξ゚⊿゚)ξ「10か15」
川*` ゥ´)「だーっる! クソつまんねーのに何だよこれ!」
ξ゚⊿゚)ξ「まあ二人のためだから……おっと、次が来るわ」
川*` ゥ´)「あーはいはい、次はどんな」
,,( ΦωΦ)
ξ゚⊿゚)ξ
川*` ゥ´)
- 908 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:43:51 ID:wWSpFKCM0
ξ;゚⊿゚)ξ「ししし師匠おおおおおおおおお!!?」
川;` ゥ´)「おい死んだだろお前ええええ!!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「師匠は死んでないわよ!?」
川;` ゥ´)「あぁ!? 魔女の事だぞ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「師匠が!? 魔女なわけ無いでしょ!?」
川;` ゥ´)「はぁあ!? 生粋の魔女だよ当然だろ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ
川;` ゥ´)
ξ゚⊿゚)ξ「待って何に見えてるの」
川*` ゥ´)「本家の直系の魔女(故人)」
ξ゚⊿゚)ξ「私の師匠のロマネスク・ミュスクル」
川*` ゥ´)
ξ゚⊿゚)ξ
- 909 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:44:22 ID:wWSpFKCM0
川*` ゥ´)「ははーん、見る人間によって姿が変わるな?」
ξ゚⊿゚)ξ「よりによって一番戦いたくない相手と」
川*` ゥ´)「あたしだってヤだよあんな魔女相手に」
ξ゚⊿゚)ξ「あっ……」
川*` ゥ´)「あぁ……」
ξ゚⊿゚)ξ「一番戦いたくない相手……」
川*` ゥ´)「うーわ……厄介すぎんだろクソが……」
( ΦωΦ)゙ スッ
ξ゚⊿゚)ξ「うぐ……師匠相手に戦うのは気が引けるけど……」
川*` ゥ´)「ビジュアルでもう勝てる気がしないんだけどさ」
ξ゚⊿゚)ξ「やめてよ私が師匠に勝つとか出来るわけないでしょ」
川*` ゥ´)「いやもうこっちもだいぶヤバい無理死ぬ」
ξ゚⊿゚)ξ「弱気にならないでよちょっともう! こっちだって土下座したいわよ!!」
川*` ゥ´)「お前の土下座なら見たい」
- 910 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:45:19 ID:wWSpFKCM0
ξ゚⊿゚)ξ「師匠に勝負を挑んでは叩き潰されたあの頃……ああ……」
川*` ゥ´)「スパルタだなおい」
ξ゚⊿゚)ξ「そして姉様にめっちゃ怒られる私と師匠……あああああ……」
川*` ゥ´)「そっちのがトラウマなんだろお前」
ξ゚⊿゚)ξ「いつかは越えたいけどそのいつかは今じゃないのよ……勝てるわけないでしょ……」
川*` ゥ´)「でもまぁ……やるしか」
( ΦωΦ)ノシ -=◎ ヒュボッ
-=◎ 三ξ;゚⊿゚)ξ「うわぁぁあああん師匠が魔法撃ったああああああ!!!」
川;` ゥ´)「こっちにすれば当然なんだけどそっち視点だと面白そうだな!」
ξ;゚⊿゚)ξ゙「だぁあ!! 危ない!!」
川;` ゥ´)「あーもー勝てなそうな見た目だけどやるぞ! まず魔法撃つから!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「幻影持ちに通じんの魔法!?」
川;` ゥ´)ノシ-=◎「物による!! 食らえやおらぁああ!!」ボッ
- 911 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:46:10 ID:wWSpFKCM0
◎)ΦωΦ)゙ペソーン
ξ゚⊿゚)ξ
川*` ゥ´)
(づΦωΦ)ポリポリ
ξ#゚⊿゚)ξ「効いてないぞややブス!!」
川#` ゥ´)「ぶち殺すぞ腐れド貧乳が!!」
( ΦωΦ)゙
づ((◎) キュィィィ…
"ξ゚⊿゚)ξ「ああもう! 私が!!」バッ
川*` ゥ´)「おい待て! 今行くな!!」
ξ゚⊿゚)ξ「だって急がないと!!」
( ΦωΦ)
つ((◎)そ ギュィィィ
川;` ゥ´)「あー!! 避けろ馬鹿女!!」
- 912 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:46:56 ID:wWSpFKCM0
ヒールの声に身体を動かした頃には、私はもう目映い程の光の中に居て。
師匠にそっくりの何かは、無表情にも私を見下ろしていた。
その額に、赤い石を瞬かせながら。
轟音が鼓膜を破ったのは、次の瞬間。
強い魔力の塊は、身体を引き裂き、内臓を焦がし、骨を砕いて私を地面に叩き付けた。
全身から溢れる熱いものは、体液なのか、叩き付けられた魔力なのかは分からない。
ただ目の前が真っ白で、何も見えなかった。
「おい馬鹿! 馬鹿女おい!!」
ヒールの罵声が遠い。
耳が駄目になったからか、くぐもってよく聞こえない。
「っそだろオイ……こんなの出るのかよ……」
狼狽える声がかすかに聞こえた。
- 913 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:48:03 ID:wWSpFKCM0
視界に広がる白い世界がゆっくりと落ち着いて行く。
視覚が正常に戻り始めて、コロシアムの高い天井がぼんやりと見えた。
それと同時に、全身に走る異常な迄の痛みに、気がついてしまって。
ξ ⊿#)ξ「あ゙っ……が、げほ、ぉ゙っ……」
川;` ゥ´)「おいクソ女生きてんのか!? おい!?」
ξ ⊿#)ξ「わ゙た、し、どう、な゙、て」
川;` ゥ´)「どうなってるかぁ!? 顔は半分焼き潰れて腹裂けて臓物出して手足吹き飛んでるよ!!
ああくそ再生やら治癒は苦手だし時間かかるのにさぁ! モロに上位魔法食らうなよなお前!!」
ξ ⊿#)ξ
川;` ゥ´)「……おい、おいクソ女、おい!! …………あ゙ー!!! もうっ!!!」
苛立ち紛れに、杖で地面を叩く音。
痛くて痛くて悲鳴を上げたいが、身体は動かないし声も出ない。
全身が燃える様に熱くて、痛くて、のたうち回りたいくらいなのに。
もう、天井もヒールの姿も見えなくなっていた。
- 914 名無しさん[sage] 2017/02/05(日) 21:49:51 ID:wWSpFKCM0
視界は、再び白に潰される。
てっきりこう言う時は、暗くなると思っていたのに。
痛みは消えない。
何も見えない。
声も出ない。
全身がばらばらになったみたいに痛くて、苦しくて、息が出来なくて。
脈動に合わせて痛む全身は、まるで自分のものじゃ無いみたいに動かない。
それなのに、未だにぼんやりとだけ、ヒールの声が聞こえる。
悲鳴混じりの怒声、罵声、詠唱、遠退いたり、近付いたり。
ああ、まるで地獄の様。
狐は嘘つきだ。
死は冷たく寂しく暗いものだと言っていたのに。
私に手渡された死は。
熱くて、痛くて、うるさくて、眩しくて。
苦しくて苦しくて、しょうがないじゃないか。
おわり。