- 924 ◆tYDPzDQgtA 2017/02/12(日) 21:00:22 ID:PgniIl8Q0
例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。
騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。
周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声、獣じみた幼い咆哮。
刃を振るい、歌声を響かせ、魔力を用い、路銀を稼いで進むのは三人。
一人は不機嫌そうに顔を歪める、若い女戦士。
もう一人は、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。
そんな二人の後ろをついて歩く、小さな魔族の子供。
【道のようです】
【第十三話 たたかうっていみをしる。 後編】
彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。
- 925 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:02:10 ID:PgniIl8Q0
ζ(゚- ゚*ζ゙ ピクッ
爪'ー`)y‐「ん」
ζ(゚- ゚*ζ「ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ」
爪'ー`)y‐「……何かやな感じするね」
ζ(゚- ゚*ζ「おねさんなにかあった」
爪'ー`)y‐「…………」
ζ(゚- ゚*ζ「…………」
爪'ー`)y‐「大丈夫だよデレ、ツンちゃんは強いだろ?」
ζ(゚- ゚*ζ「…………」
爪'ー`)y‐「大丈夫、大丈夫さ…………絶対に、大丈夫なんだから……」
ζ(゚- ゚*ζ「ここでる、だめ?」
爪'ー`)y‐「……」
ζ(゚- ゚*ζ「ぅー……」
爪'ー`)y‐「あー……ごめんね、本当に……」
- 926 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:05:16 ID:PgniIl8Q0
胸の辺りで、何かが暖かく光る様な感覚があった。
柔らかく、優しく、全身を包み込む何か。
慈しむように、愛でるように、身体中を撫でていって。
心臓を、潰さんばかりに強く握られた。
ξ; ⊿ )ξそ「げっ……ほ……げほっぇほっ おぇぇぇぇ……」ガバッ
川;` ゥ´)「蘇生終わったか!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「はっ……はー……はー…………し、死んだ……?」
川;` ゥ´)「死んだ!! ヤバいぐらいエグい感じで!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「あー……くっそ……蘇生最悪だなこれ……」
川;` ゥ´)「マジかよ聖なる系の光に包まれてたぞお前」
ξ;゚⊿゚)ξ「……師匠は?」
川;` ゥ´)「こっちだと魔女な、今は封壁に閉じ込めてある……けど、40%じゃ無理!!」
- 927 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:08:07 ID:PgniIl8Q0
ξ゚⊿゚)ξ「剣は……あー折れてんな、まだ封壁もつ?」
川;` ゥ´)「頑張るけどな!!、頑張りはすっけどな!?」
゙ξ゚⊿゚)ξ「もたせろよ、行く!!」バッ
川;` ゥ´)「素手でか!?」
ばらばらに折れた短剣を投げ捨てて、青く透明な壁に閉じ込められた師匠の元へ走る。
その額には何もなく、よくよく見慣れた顔立ちなだけ。
使い込まれた傷だらけの鎧。
くすんだ金の長い髪。
顔に走る大きな傷痕。
つんと猫のように目尻の尖った、
ξ゚⊿゚)ξ「お前は、師匠じゃない」
師匠の双眸は、うっとりするほど綺麗な金色だ。
ξ゚⊿゚)ξ「そんな下品な赤じゃ、ない」
- 928 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:08:37 ID:PgniIl8Q0
地面を蹴って飛び上がり、師匠を模した何かの頭上から影を落とす。
そして右の拳を振り上げて。
ξ#゚⊿゚)ξ「封壁を解けぇえええええ!!!」
川#` ゥ´)「言われんでも解くわボケぇ!!!」
拳を、額に向かって振り下ろした。
ぱきん。
何かの割れる音。
私が地面に降り立つ頃には、師匠を模した何かは、本来の姿で倒れていた。
額に割れた赤い石を持つ、人型に近い魔物。
恐らくは精霊の方に近いのだろう、全身が薄青く、やや透き通っている。
魔族、ではない。
魔物だ。
- 929 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:09:26 ID:PgniIl8Q0
,,川;` ゥ´)「あー……倒したか?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、何かしらねこれ」
川;` ゥ´)「うっわこんなのまで飼い慣らしてんのか」
ξ゚⊿゚)ξ「これって何なの? 魔物よね」
川*` ゥ´)「魔物っちゃ魔物だし、精霊とか妖魔とか霊だとか分類が面倒なタイプのアレ」
ξ゚⊿゚)ξ「あぁ……何かたまにいるわねそう言うの……枯れ木とか……」
川*` ゥ´)「枯れ木も分類が面倒なアレだな……」
ξ゚⊿゚)ξ「……これ、意思とかあったのかしら」
川*` ゥ´)「無いと思う、本能で人殺すし」
ξ゚⊿゚)ξ「何だ討伐対象か」
川*` ゥ´)「それよりクソチビ、お前残量減っただろ」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、石が一片黒くなってる」
川*` ゥ´)「大事に使えよなお前、死なれたら後始末面倒なんだぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「魔防無いと死ぬ事がよく分かった」
- 930 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:10:44 ID:PgniIl8Q0
川*` ゥ´)「バフかけたいけど時間かかるかr」バクン
ξ゚⊿゚)ξ「あ」
川 ##;:,,゙ ドサァ…
ξ゚⊿゚)ξ「……いつのまに、次の相手が出ていたのか……」
川 ##;:,,
,,ξ゚⊿゚)ξ「えーと……恐竜? トカゲ? 何でも良いか」テクテク
< ガッ メリメリメリ バキンッ ゴキゴキ
,,ξ゚⊿゚)ξ「顎を潰せりゃ怖くないわ」ポタポタ
川;` ゥ´)「ああっぁあ!! 死んだ!!」ガバッ
ξ゚⊿゚)ξ「おはよ、どうだった蘇生」
川;` ゥ´)「地味な即死だったのもアレだけど心臓がいてぇ!! クソが!!」
ξ゚⊿゚)ξ「感じ悪いわよねこの蘇生」
川;` ゥ´)「目覚め最悪!!」
- 931 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:11:43 ID:PgniIl8Q0
ξ゚⊿゚)ξ「ちなみに頭の半分以上を食われてたわ」
川*` ゥ´)「知りたくない知りたくない」
ξ゚⊿゚)ξ「……今ので七匹目?」
川*` ゥ´)「かな、あー……早けりゃあと三匹か……」
ξ゚⊿゚)ξ「正直、痛いか弱いかが極端すぎて何も楽しくないわねこれ」
川*` ゥ´)「溜め魔法モロに食らうような馬鹿は滅多に居ないからな? 分かるか?」
ξ゚⊿゚)ξ「次からは気を付けるわよ……」
二人とも一度死んで、残り四回ずつ。
しかしこの魔道具が無ければ、私たちはもう完全に死んでいたのだ。
そう思うと、ぶる、と全身に嫌なものが走った。
それはヒールも同じなのか、神妙な顔で自分の頬を撫でている。
ヒールは即死だったが、それでも死んだと言う実感はあるらしい。
一度凄惨な死を遂げた私はと言うと、正直、死ぬのがひどく恐ろしく感じる。
あんなに痛いとは思わなかった。
あんなに苦しいとは思わなかった。
- 932 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:13:55 ID:PgniIl8Q0
痛みと熱と苦しみの中で、嫌だ嫌だと死ぬだなんて聞いてない。
狐はああ言ったのに、冷たく眠るようだと言ったのに。
もしかして狐は、私に嘘をついたのだろうか。
私に気を遣わせないために、嘘をついたのだろうか。
それはそれで、何だかすごく、嫌な気持ちになる。
ああくそ、私は強い相手と戦う事が好きな筈なのに。
こんなに死に対する恐怖が強まるだなんて。
あと四回ある、もう四回しかない。
この残り回数を使いたくはない、あんな死は二度とごめんだ。
死にたくない。
死にたくない。
ξ゚⊿゚)ξ「ヒール」
川*` ゥ´)「……んだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「死にたくない」
川*` ゥ´)「あたしもだよ……今しがた死んでたけど……」
- 933 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:14:37 ID:PgniIl8Q0
ξ゚⊿゚)ξ「だからね、ヒール」
川*` ゥ´)「…………」
ξ゚⊿゚)ξ「生き延びましょう、ここからも、これからも」
川*` ゥ´)「……そうだな、馬鹿女」
ξ゚⊿゚)ξ「ほら、次が来るみたいよ」
服の血と埃を払いながら、相手側の扉を見る。
ぎしぎしと開かれた扉から、小さな影がゆっくりと、震えながら現れて。
川;` ゥ´)「……マジかよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……嘘でしょ」
次の相手は、
:⌒*リ´・-・リ:
小さな、女の子だった。
- 934 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:15:31 ID:PgniIl8Q0
ξ;゚⊿゚)ξ「……ま、まだ、油断できないわよ、さっきみたいに、魔物かも」
川;` ゥ´)「……魔法が使えるなら、あたしに察知出来るんだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……嘘でしょ?」
川;` ゥ´)「…………あれ、正真正銘の、ただのガキだ……」
怯えた眼差しで辺りを見回し、震える手で粗末な短剣を握っている。
今にも泣き出しそうな顔で、緊張と恐怖に乱れた呼吸で、全身を冷たい汗で濡らして。
まだ一桁の歳であろう少女は、このコロシアムに立っていた。
:⌒*リ´・-・リ:「ぁっ……ぁ……の」
ξ;゚⊿゚)ξ「……あなたが、次の相手?」
:⌒*リ´・-・リ:「はっ、ひ……ぁのっ……り、リリは……ぁの……ママの、ためにっ……」
川;` ゥ´)「……なぁチビ、会話しない方が良いぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ「分かってるわよ……でも……」
- 935 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:16:11 ID:PgniIl8Q0
:⌒*リ´・-・リ:「ま、ママが……びょうきで……リリがっ……ぉかね、を……」
ξ;゚⊿゚)ξ「…………」
:⌒*リ´・-・リ:「だからっ……だからぁっ……ごめんなさいぃっ……!」
とたとたと駆け出した少女は、私目掛けて短剣を突き出す。
さすがに呆然としていても、そんな弱々しい攻撃は当たりはしなかった。
両手で握る短剣を何度も振るい、何度も突き出し、小柄だからと狙ったであろう私を襲う。
けれどその震える切っ先は、涙の浮かんだ目は、誰かを殺すには余りにも頼りない。
ああそうか、私はさっきまで、こんな感じだったのか。
死ぬのは怖い。
殺すのも怖い。
小さな体が背負うには、余りにも大きすぎる業。
けれどこうしなければ、大切な何かを守れない。
だから私は、この子を殺さなければいけない。
- 937 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:17:26 ID:PgniIl8Q0
この子の胸にも、青い石の魔道具がついている。
しかしその輝きは、もう一片のみ。
今までこの子は、四回、殺されてきたのだ。
そう言えば、人間を相手にするのはこれが初めてだ。
この場合、蘇生が発動したらどうなるのだろう。
最後まで殺さなければいけないのだろうか。
それとも一度殺したら終わりなのだろうか。
ヒールはそれを聞かされたのかな。
ずっと狼狽えながら私達を見る事しか出来ずに居るが、それもそうだろう、あいつは子供好きだ。
なら余計に、この子は私が殺さないと。
どさ、と足がもつれたのか、少女が地面に転んだ。
ξ゚⊿゚)ξ「あ、う、だ、大丈夫……?」
:⌒*リ´;-;リ:「ふっ、ぅ、うわぁああんっ……うぁぁああぁあんっ……」
ξ;゚⊿゚)ξ「あっあっ、ど、どうしようヒール……」
- 938 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:18:21 ID:PgniIl8Q0
川*` ゥ´)「……魔法で、即死させる方が良いかも知れねぇな」
ξ;゚⊿゚)ξ「……そうね、苦しまない方が、良いわよね……」
川*` ゥ´)「……即死魔法の溜めするから、お前相手しとけよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「う、うん……でも……」
:⌒*リ´;-;リ:「ひっ……ぐすっ……ぅうっ……ママ、ママぁ……うわぁぁっ……」
ξ;゚⊿゚)ξ「あっあっちょっと……泣かないで、泣かないでよちょっと……」
:⌒*リ´;-;リ:「うわぁぁあんっ、ぁぁああぁあっ……ママ、ママぁっ……リリもうしにたくないよぉっ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「……ね、ねぇヒール、一試合の間に蘇生って」
:⌒*リ´;-;リ:「ぁっ、ぁあっ……ぁぁあああああぁあっ!!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……」
少しだけ離れた場所に立つヒールの方を向きながら、質問を投げ掛けようとした。
するとすぐそばに倒れたまま泣きじゃくっていた少女が、立ち上がり、勢いよく走り出して。
- 939 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:19:30 ID:PgniIl8Q0
川; ゥ )「あ゙っ……ぐ、ぉぇっ……」
無防備だったヒールの腹に、短剣を突き立てた。
ξ;゚⊿゚)ξ「っヒール!!」
川; ゥ )「て、っめ……相手しとけって……ぎゃっ、あっ」
:⌒*リ´;-;リ:「あぁっああぁっ! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!!」
川; ゥ )「ぎゃ、う、ぐっ、ぇ゙、ぁ゙、ぁあ゙、っ」
ざく、ざく、ざく、ざく。
仰向けに倒れたヒールの腹に、何度も、何度も、刃を振り下ろす小さな手。
ざくざくと肉を貫く音が、濁った短い悲鳴を連れてくる。
そして刺し貫く音が、ぐずぐずに潰れたはらわたが、水っぽい音になった頃。
ヒールの目は光を無くして、吐き出した血で顔を汚して、胸の動きは無くなって。
私は余りに突然で、それを止める事が出来なくて。
しかし短剣の切っ先が骨に当たる音でふと我に帰り、少女をヒールの上から突き飛ばした。
悲鳴を上げて倒れる少女と、もう息をしていないヒールのなきがら。
- 940 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:20:53 ID:PgniIl8Q0
どうすれば良いのかと混乱する私を差し置いて、冷静な部分が私を突き動かす。
この子は敵だ。
この子は殺さなきゃ。
私がこの子を殺さなきゃ。
身を起こそうとした少女に馬乗りになって、細い首を両手で掴む。
何をされるのか察した少女の抵抗は、もう何の意味もなしはしない。
力を込めると、少女は青い顔で私の手を叩き、爪を立て、もがく。
大丈夫、苦しくないから。
一瞬で、終わらせてあげるから。
ぎち。
めきめき。
ごきり。
- 941 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:21:35 ID:PgniIl8Q0
頭と体が皮でだけ繋がっている少女の亡骸を見下ろして、私は震える手を強く握った。
ξ゚⊿゚)ξ(ああ私)
ξ゚⊿゚)ξ(罪の無い子供を、殺した)
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ(あぁ、)
川;` ゥ´)「ぉっえげっほげほだから蘇生感覚がクソいっ!!」ガバッ
ξ゚⊿゚)ξ「……ヒール」
川#` ゥ´)「おっまっえっなっ!? 相手しとけつっただろ脳みそ空っぽかクソったれ!!?」
ξ゚⊿゚)ξ「…………ごめんなさい……」
川#` ゥ´)「そうだな謝れ!! ガキ殺したからって優しくはしてやんねーからな!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい……」
川#` ゥ´)「お前ほんと役立たず!! いや魔物狩りまくったけど!! 気分的に役立たず!!」
- 942 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:22:31 ID:PgniIl8Q0
川#` ゥ´)「大体前衛が後衛の魔女を守るのは当然だろお前本当に冒険者かよバーカバーカ!!」
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、ヒール」
川#` ゥ´)「なっんっだっよっ!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「人間が相手だと……一試合の中で、蘇生はどうカウントされるの……?」
川*` ゥ´)「あ? 本来なら一回死んだらそこまでだろ、あたしらはチャレンジャー側だから使いきりだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「……じゃあ、もうこの子は殺さずに済むのね」
川*` ゥ´)「その代わり、そのガキはもうコロシアムでは手札にもならないゴミだ」
ξ゚⊿゚)ξ「……ゴミ」
川*` ゥ´)「だから、きっと後で捨てられる、もう使えねぇからな」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
川*` ゥ´)「おい」
ξ゚⊿゚)ξ「はい……」
川*` ゥ´)「服を掴むな」
ξ゚⊿゚)ξ「掴んでないです……」
川*` ゥ´)「鼻水を拭くな」
ξ゚⊿゚)ξ「拭いてないです……」
川#` ゥ´)「離れろ鬱陶しい!!」
- 943 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:24:00 ID:PgniIl8Q0
蘇生が始まる頃に、係員に運ばれて連れ出されて行く少女。
少ししてから、扉の向こうから泣き叫ぶ声が聞こえて。
耳を塞ぐことも出来ず、ヒールのマントを握り締め、顔を埋めながらただそれを聞いていた。
いやだ、ママ、しにたくない、たすけて。
幼い懇願は聞き入れられず、その悲鳴は遠退いて行った。
ああこんなに、こんなに嫌なものがあるだろうか。
何の罪もない子供を、私は殺したのだ。
死体は見てきた。
人も殺した。
死線を潜った。
危ない目にもあった。
だからこれも、しかたの無い事だと受け止めるほかない。
こうしなければ二人を救えないからだ。
そう、私は私のために、人を蹴落として生きる。
綺麗事ばかりでは、この世の中を生きてはいけない。
わかってる、理解してる、これが現実だと。
だって現実はいつだって、重くて痛くて苦しいのだから。
- 945 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:25:33 ID:PgniIl8Q0
川*` ゥ´)「悲劇のヒロインぶるなよクソ女」
ξ゚⊿゚)ξ「っ」
川*` ゥ´)「良いか、あたしはガキに殺されたんだぞ、クソ痛いしクソ怖いしマジでクソだったからな」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
川*` ゥ´)「死にたくねぇし殺したくねぇけどな、怖いけどな、今はやるしかねぇだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「……分かってるわよ」
川#` ゥ´)「分かってんなら鼻水拭くのやめろ」
ξ゚⊿゚)ξ「拭いてないし……よだれだし……」
川#` ゥ´)「同じくらいクソだよバーカ!!」
ξ゚⊿゚)ξ「私死にたくないし殺すのも怖い」
川*` ゥ´)「誰でもそうだろボケ」
ξ゚⊿゚)ξ「こんなに心が弱かったのね私」
川*` ゥ´)「いやーお前だいぶ最初からメンタルゴミだぞ?」
ξ゚⊿゚)ξ「どうやったらこれを乗り越えられるのかしら」
川*` ゥ´)「外道なら外道らしく割り切るしかねぇだろ」
- 946 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:26:13 ID:PgniIl8Q0
ξ゚⊿゚)ξ「割りきれるのかしら、こんなこと」
川*` ゥ´)「狂ってなきゃ割り切れねぇよ、お前の師匠もどうせ夜な夜な頭抱えてんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ……お酒が入ると夜に泣いてたな……年に一回くらい……」
川*` ゥ´)「普段は割り切ってても実際は割り切れてねーんだよ、だからたまにそうなんだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「ヒール……」
川*` ゥ´)「お前もせいぜいベソかいてろカス」
ξ゚⊿゚)ξ「あんた……本当に17歳……?」
川*` ゥ´)「あたしは魔女だからな、悪いから平気なんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ(嘘だ……)
川*` ゥ´)「あともう本当に離れろお前」
ξ゚⊿゚)ξ「わかっズビビ」
川#` ゥ´)「鼻水!!!」
ξ>へ<)ξプィーム
川#` ゥ´)「おーまーえーなーーーーー!!!?」
- 947 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:28:42 ID:PgniIl8Q0
ξ゚⊿゚)ξ「あースッキリした、一緒に弱気も出したから次行きましょ」
川#` ゥ´)「蘇生使えるうちに一回殺して良いかお前」
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたのヒールったらマント捨てて、袖無し寒そうだわ」
川#` ゥ´)「死ね!!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「やめて杖で叩かないで」
川#` ゥ´)「あとそこまで寒くねーよ!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「えっそこ?」
飲み込めなくて吐き出しても、向き合えなくて目をそらしても。
私は全てを受け止めなければいけない、受け止められるだけの力を得なければいけない。
苦しいものが現実だと、この世は苦痛が多いのだと心でも受け止めなければいけない。
でもこの世には、甘く優しく暖かなものもあるから。
私はそれのために、自分の手を赤く汚すんだ。
この汚れた傷だらけの手にも、平穏は掴める。
それに私はまだまだこの手を振るって、世の強者を踏み越えるんだから。
- 948 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:29:49 ID:PgniIl8Q0
いつかこのバカみたいな力をコントロール出来るまで。
いつかあの偉大な師を越えられる日が来るまで。
いつか私の大事な全てを、守れるようになる時まで。
私は止まっちゃいけないし。
どんどん進まなきゃいけないし。
だって、そうじゃなきゃ。
幼い頃の私が受けた苦痛が、まるで報われないじゃないか。
ぎしぎしと軋む音を連れながら、再び扉は開いた。
足元に落ちていた、少女の短剣を拾い上げながらそちらを睨む。
もう躊躇わない。
姿を現した銀の鎧。
全力で殺しに行こう。
傷だらけの中性的な顔立ち。
たとえ、誰が相手だろうと。
- 949 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:30:16 ID:PgniIl8Q0
,,(#゚;;-゚) テケテケ
ξ゚⊿゚)ξ
(#゚;;-゚)?
ξ;゚⊿゚)ξ「何でだよ!!!」
川*` ゥ´)!?
(#゚;;-゚)「えっ」
ξ;゚⊿゚)ξ「でぃさん!? でぃさん何で!?」
(#゚;;-゚)「あー…………あっ、山の」
ξ;゚⊿゚)ξ「溶かしバターの方ですどうも!!」
川*` ゥ´)「えっ何? 知り合い?」
ξ;゚⊿゚)ξ「こちらミスリルの冒険者のでぃさん」
川;` ゥ´)「相手にしたくねぇ!!」
- 951 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:31:14 ID:PgniIl8Q0
(#゚;;-゚)「えっと……なぜここに?」
ξ゚⊿゚)ξ「ああいやちょっと……身内が捕まりまして……」
(#゚;;-゚)「あぁ……じゃあ訳ありなのか」
川*` ゥ´)「イカサマで捕まったから釈放させるために戦ってる」
(#゚;;-゚)「あの赤い方が……」
ξ゚⊿゚)ξ「なのでまぁ……はは……お恥ずかしい……」
川*` ゥ´)(卑屈な顔をしてやがる……)
(#゚;;-゚)「僕はここには偶然来て、腕試しに参加しただけだから」
ξ゚⊿゚)ξ「また迷ったんですか」
(#゚;;-゚)「いつの間にか街道を外れていて……だから、君達に勝利を譲ろう」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ」
川*` ゥ´)「マジかよやったぜ」
- 952 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:32:42 ID:PgniIl8Q0
(#゚;;-゚)「でも、君」
ξ゚⊿゚)ξ「はい?」
(#゚;;-゚)「君とは、一度やりあいたいと思って」
ξ゚⊿゚)ξ「……なるほど」
川*` ゥ´)「なぁちょっと思ったんだけどさ」
(#゚;;-゚)「ん……?」
川*` ゥ´)「何でお前は鎧に大剣なの?」
(#゚;;-゚)
ξ゚⊿゚)ξ
(#゚;;-゚)「なぜだろう」
川*` ゥ´)σそ「不公平だぞズルいぞ正々堂々五分の装備で戦えよ!!」
ξ゚⊿゚)ξ(こいつ……相手の不利になる事なら楽しげに……)
(#゚;;-゚)「じゃあ外そう」ガシャンガシャン
ξ゚⊿゚)ξ(そしてインナーになっても……性別がわからない……!!)
- 953 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:33:53 ID:PgniIl8Q0
川*` ゥ´)「お前アレか? 男か?」
(#゚;;-゚)「……? 見ての通りだけど……」
川*` ゥ´)(わかんねーよどっちだよ)
ξ゚⊿゚)ξ(分からないけどこれ以上は失礼で聞けない)
川*` ゥ´)(まあどっちでも良いけどよ……)
(#゚;;-゚)「短剣と盾貰ってきたよ」
ξ゚⊿゚)ξ「お手数おかけします」
(#゚;;-゚)「それじゃあ、溶かしバター君」
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
(#゚;;-゚)「お互い得物は使い慣れない短剣」
ξ゚⊿゚)ξ「防具はトレイ以下の小盾のみ」
(#゚;;-゚)「五分の装備、違いないな」
川*` ゥ´)「そーだな」
(#゚;;-゚)「なら、戦士同士」
ξ゚⊿゚)ξ「……ええ、遊びましょう、でぃさん」
川*` ゥ´)(本名もわかんねぇのかもしかして……)
- 954 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:35:40 ID:PgniIl8Q0
爪'ー`)y‐「外はどうなってるのかなぁ」
(*゚ー゚)「気になりますか?」
爪'ー`)y‐「そりゃね、相棒が僕のせいで殺し合いしてんだからさ」
(*゚ー゚)「お連れ様はお休みのようですが」
爪'ー`)y‐「デレは子供だから良いの」
(*゚ー゚)「肝が座ってますね、この状況で眠れるとは」
爪'ー`)y‐「まぁ僕が居るし檻の中は慣れてるからね」
(*゚ー゚)「…………あ、奴隷ですか?」
爪'ー`)y‐「そうそう、元ね」
(*゚ー゚)「それは失礼しました、娘さんか妹さんかと」
爪'ー`)y‐「よく見て」バサリ
(*゚ー゚)
爪'ー`)y‐
(*゚ー゚)「ああはい、妹さんでも娘さんでも無さそうですね……」
爪'ー`)y‐「ご覧の通り……と言うか肌や髪の色からして違うのに……」
- 955 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:36:38 ID:PgniIl8Q0
(*゚ー゚)「しかし立派な角と尻尾ですね」
爪'ー`)y‐「尻尾はともかく角が目立つんだよねぇ」
(*゚ー゚)「旅の同行となると不便な時もあるでしょうね、未だ魔族への風当たりは強い場所があります」
爪'ー`)y‐「こないだも人殺しの種族って言われて落ち込んでたよ」
(*゚ー゚)「そう思われる方が居るのはしようのない事だとは思いますが……」
爪'ー`)y‐「まぁねぇ……」
(*゚ー゚)「私個人の意見としましては、非常に馬鹿馬鹿しいと言う思いもあります」
爪'ー`)y‐「魔族平気なタイプ?」
(*゚ー゚)「この街はあらゆる種族が居ますし、我々にとってはお客様ですから」
爪'ー`)y‐「と言いつつ実際はー?」
(*゚ー゚)「戦前よりこの街を大きくしてくれたのは魔族なので嫌う者は居ないかと」
爪'ー`)y‐「あっはい」
- 956 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:37:16 ID:PgniIl8Q0
(*゚ー゚)「魔族を祖先に持つ者も多いですから、血は薄まりその片鱗すら残していないとしても」
爪'ー`)y‐(凄いよく見る顔な気がするしこの子も魔族の末裔な気がするし片鱗しかない気もする)
(*゚ー゚)「こちらとしましては商売が基本、差別していては商いに支障が出ます」
爪'ー`)y‐「プロだなー」
(*゚ー゚)「あなたもプロなら運で勝負して下さい」
爪'ー`)y‐「すみませんでした」
(*゚ー゚)「一度ならず二度までも、どうして同じ過ちを繰り返すんですか」
爪'ー`)y‐「あ、やっぱ覚えてました?」
(*゚ー゚)「既にブラックリストに居ましたからこれで出禁です」
爪'ー`)y‐「でーすーよーねー☆」
(*゚ー゚)「お仲間が今殺し合ってるんですよ?」
爪'ー`)y‐「そうなんだよねー」
- 957 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:38:34 ID:PgniIl8Q0
爪'ー`)y‐「まぁその件に関しては本当に申し訳なく思ってるよ
ついうっかりギャンブラー(二次職)の血が騒いでやらかしたけど」
(*゚ー゚)「馬鹿なんですか?」
爪'ー`)y‐「反省してます」
(*゚ー゚)「小さなお子様連れでのご来店自体褒められた行為では」
爪'ー`)y‐「ごめんなさい」
(*゚ー゚)「キッズルームもご用意してはいますが」
爪'ー`)y‐(あるんだ……)
(*゚ー゚)「まぁ、私がお客様に説教垂れた所でですが」
爪'ー`)y‐「うんまぁひどい事してるもんねカジノ側も、人殺しコロシアムとか」
(*゚ー゚)「契約書に保険や保証についての記載もある極めてクリーンな関係ですよ」
爪'ー`)y‐「知ってるよ僕も元参加者だし」
(*゚ー゚)「死に抜けした癖に何を偉そうに……」
爪'ー`)y‐「吟遊詩人がナイフ片手にどう戦えと……」
- 958 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:39:44 ID:PgniIl8Q0
(*゚ー゚)「でも開幕バフデバフしてましたよね」
爪'ー`)y‐「しなきゃ即死だから……」
(*゚ー゚)「吟遊詩人は戦闘において立派なサポート役、誇りもある筈です」
爪'ー`)y‐「描写された事もされる事も無いけどこれでもちゃんとバッファーしてるからね
デバッファーとしてもちゃんと働いてるからただの穀潰しでは無いんだけどねこれでも」
(*゚ー゚)「描写されない功績に何の意味が……」
爪'ー`)y‐「意味は無いに等しいよ……」
(*゚ー゚)「見えない栄光にしがみつくのは過去にしがみつくよりも虚しい事なのでは……?」
爪'ー`)y‐「悲しくなるからやめて」
(*゚ー゚)「それより、あなたは何で参加前に不死だと教えてくれなかったんですか」
爪'ー`)y‐「聞かれなかったからさ」
(*゚ー゚)「お陰で誤魔化すのに苦労したんですよ」
爪'ー`)y‐「お詫びにいっぱい拷問されたよ???」
(*゚ー゚)「お陰で魔道具の精度が上がりました、ご協力に心からの感謝を」
爪'ー`)y‐「じゃあここから出して」
(*゚ー゚)「感謝の引き継ぎは出来ませんので」
爪'ー`)y‐「周回前提じゃないのかー」
- 960 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:41:10 ID:PgniIl8Q0
爪'ー`)y‐「……ま、コロシアムが半ば八百長みたいな見世物だってのは分かってるけどさ」
(*゚ー゚)「参加者が失う物は尊厳程度ですからね」
爪'ー`)y‐「それが一番大事だろうに」
(*゚ー゚)「最悪でも得る物が心の傷だけです」
爪'ー`)y‐「まぁ、物理的にはノーダメで出られるんだけどさ……」
(*゚ー゚)「勝ち抜けさえすれば賞金も出ます、求めるのであれば更なる報酬も支払われます
その代わり、防衛側として魔道具を使いきるまで戦って貰いますが」
爪'ー`)y‐「死に抜けしてもデメリット無かったしね、本来ならね」
(*゚ー゚)「ご協力に」
爪'ー`)y‐「もう良いよ出してよここから」
(*゚ー゚)「どんな形であれ試合が全て終われば出しますよ」
爪'ー`)y‐「怖い事言ってた癖にー」
(*゚ー゚)「当店としましては既に利益になりましたから、掛け金はね上がって集客効果も抜群」
爪'ー`)y‐「知ってた、ショーとして体よく使われただけだって知ってた」
- 961 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:42:16 ID:PgniIl8Q0
(*゚ー゚)「ああ言った方が本気になられるでしょう、そうでなければ見世物になりませんから」
爪'ー`)y‐「僕のせいでツンちゃんが鬼気迫る客寄せパンダに……」
(*゚ー゚)「可愛らしい殺人パンダになってくれてますよ」
爪'ー`)y‐「……ツンちゃんはさぁ、心が弱いんだよねぇ」
(*゚ー゚)「そのようでしたね」
爪'ー`)y‐「そこが心配なんだよなー……トラウマにならないかなー……んぁー」
(*゚ー゚)「お仲間思いな事で」
爪'ー`)y‐「言葉にトゲがあるよー解ってるよー僕のせいだよー」
(*゚ー゚)「はい」
爪'ー`)y‐「…………でも、荒療治だけど良くなる可能性もあるんだ」
(*゚ー゚)「……」
爪'ー`)y‐「今のままじゃ、あの子いつまで経っても心が折れ続けるだけだから」
(*゚ー゚)「…………本当に、仲間思いな事で」
- 962 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:42:36 ID:PgniIl8Q0
突き出す切っ先を軽やかに避け、横凪ぎに裂くのは空気ばかり。
目の前に立つ、すらりとしたしなやかな肢体を持つ戦士は、表情を崩す事もなく私の攻撃を避ける。
普段フルプレートの鎧に大きく分厚い剣を持つ姿からは想像も出来ないくらい、その動作は軽い。
まるで盗賊職の様に、ステップを踏むように動く足。
攻撃を避けながらも、私へ向かって刃を振るう事は忘れない。
ああこの人、凄く強い。
ミスリルの位は、伊達じゃないんだ。
さっきまでの命の奪い合いとは違う何か。
血がふつふつと沸くような何かは、ここ最近、私の中に眠っていた物を呼び覚ます。
互いの刃が交差して、ちりちりと傷を負う。
飛び散る僅かな血が、痛みが、私に大切な事を教えている気がして。
もっと、もっと、もっと。
私はこの戦いを、堪能しなければいけない。
瞳孔がぎゅっと伸び縮みする感覚。
肌が粟立ち、背筋に走る震えとも痺れともつかない感覚。
- 963 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:43:45 ID:PgniIl8Q0
私は、どうして強くなりたいの?
守りたいものがあるから。
本当にそれだけ? 他に理由は無いの?
この馬鹿力を制御したいから。
私は本当に師匠が一番戦いたくない相手だったの?
だって姉様が怒ると怖いから。
本当は、
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、ヒール!」
川*` ゥ´)「今ひとり○×ゲームで忙しいんだけど」ガリガリ
ξ゚⊿゚)ξ「あんた本当は、魔女と戦いたかったんじゃないの!?」
川*` ゥ´)「はーぁぁぁああ??? だーれがあんなキチガイみたいな魔女と」
ξ゚⊿゚)ξ「だって越えたくないの!?」
川*` ゥ´)「越えるにきまっ…………あー……?」
ξ゚⊿゚)ξ「本当はあれ……ッ戦いたい相手だったんじゃない!?」
川*` ゥ´)「あー…………かーもなぁ……勝てる気しねーけど」
- 964 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:44:07 ID:PgniIl8Q0
ああやっぱり。
やっぱりだ。
そうだ、私は師匠と戦いたかった。
師匠を越えるため、教わるため、強くなるため、私は師匠と戦いたかった。
だって師匠の元に居る間、日常的に剣を交えていたんだもの。
私の中の迷いを消し飛ばしてくれるのも、叱咤してくれるのも、笑って褒めてくれるのも師匠。
そう、私にとっての、理想のお父さん。
師匠は私にとっての父にも等しいから、だから、剣を交えて教えてほしかった。
道を示してほしかった。
背中を叩いて怒鳴り付けてほしかった。
何を迷う事があるのだと怒ってほしかった。
私は、戦いたかった。
私より、強い人と戦いたい。
その一撃ごとに、その人の人生の重さを叩き付けてくれるから。
この浅ましくも愚かでよわっちい小娘に、力とは何かを教えてくれるから。
その圧倒的な力の前にねじ伏せられたとしても、私には数多の越えるべき目標を得られるから。
- 965 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:44:35 ID:PgniIl8Q0
私どうして忘れていたんだろう。
嫌だと、退屈だと、殺したくないと膝を抱えていたんだろう。
殺す事と戦う事は、隣り合わせだけどまるで違う。
私は殺す事は嫌いだけど、戦う事は、食事と同じくらい大好きなんだ。
中途半端に力をつけた事で忘れていた。
もっと強くなるには、強い相手を見付けなきゃいけない。
そうだよ、どうして忘れていたの。
こんなに、こんなに、こんなに、
ξ ヮ )ξ「は、あは……あははははっ!!」
(#゚;;-゚)「ん……やる気出てきた……」
ξ*゚ヮ゚)ξ「でぃさん!! 私、あなたと戦えて良かった!!」
(#゚;;-゚)「うん、うん……僕も、久々に活きの良い後輩に出会えた……」
ξ*゚ワ゚)ξ「もっと!! 私に‘戦い’を教えて下さい!!」
(#゚;;-゚)「……良いよ、溶かしバター君……ぶつかっておいで!!」
川*` ゥ´)(頭おかしーんじゃねーのかこいつら)
- 966 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:44:56 ID:PgniIl8Q0
「ほら、甘い」
「ぐっ、う」
「もっと力を抜いて」
「ぎゃっ」
「力の入れ方が下手」
「いっ、たい!」
「その腕じゃ、ミスリルは遠い」
「まだまだぁ!」
「師匠に恥じる事になる」
「絶対……ッ一撃は入れる!」
「溶かしバター君」
「あっ」
がら空きの背中を蹴り飛ばされて、地面に倒れ込む。
口の中は、血と砂の味。
(#゚;;-゚)「君は、弱いね」
- 967 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:45:37 ID:PgniIl8Q0
ξ゚ー゚)ξ「……思い知らせてくれてありがとう」
(#゚;;-゚)「でも、うん……後半は、楽しかった」
ξ*^ー^)ξ「私も、久々に戦えて楽しかったです」
(#゚;;-゚)「腕力と無謀を武器にする時期は過ぎてる、だから新しい、君に合う武器を探して」
ξ*^ー^)ξ「はいっ!」
(#゚;;-゚)「……また、遊ぼう」
ξ*゚ー゚)ξ「……次はもっと善戦します」
(#゚;;-゚)「楽しみだ、僕を倒してたら、次は君が僕の目標になる」
ξ*゚ー゚)ξ「……でぃさん」
(#゚;;-゚)「ん……?」
ξ*゚ー゚)ξ「姉様って呼んで良いですか?」
(#゚;;-゚)「いや……それはちょっと……」
ξ*゚ー゚)ξ(どう言う意味でだろう……)
- 968 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:46:19 ID:PgniIl8Q0
川*` ゥ´)「お前ら終わった?」
ξ*゚ー゚)ξ「楽しかった」
(#゚;;-゚)「うん」
川*` ゥ´)「知るか戦闘民族共、じゃあ撃つぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「へ?」
(#゚;;-゚)「あっ」
< バシュウッ ブシャー ディサーン!?
ξ;゚⊿゚)ξ「え……えげつねぇ……ついさっきまで爽やかに戦った相手に即死魔法……」
川*` ゥ´)「即死魔法つっても頭狙って潰すだけなんだけどな」
ξ;゚⊿゚)ξ「えげつねぇ……」
川*` ゥ´)「だってお前は負けたし殺すなら一撃のが楽だろ、暇だったからよーく溜まったわ」
ξ゚⊿゚)ξ「待たせたな」
川*` ゥ´)「おせーよボケナス」
ξ゚⊿゚)ξ(ナスみたいな色しやがって……)
- 969 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:46:53 ID:PgniIl8Q0
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「ナスバター炒めってどうかしら」
川*` ゥ´)「腹が減るな」
ξ゚⊿゚)ξ「いやタッグ名」
川#` ゥ´)「誰がナスだよ!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「私はバター担当だから……」
川*` ゥ´)「チビとお前ならどうなんの」
ξ゚⊿゚)ξ「黒糖バター」
川*` ゥ´)「クソッ……なんかありそうな組み合わせだ……」
ξ゚⊿゚)ξ「ナスと黒糖……」
川*` ゥ´)「食材にこだわるな」
ξ゚⊿゚)ξ「煮浸し?」
川#` ゥ´)「短縮するとマジでわけわかんねーぞ!!」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたと狐ならペスカトーレ感があるわ……」
川*` ゥ´)「何で急にガチの料理名にすんの? バカだろ? 納得できる感じがムカつくぞ?」
- 970 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:47:39 ID:PgniIl8Q0
ξ゚⊿゚)ξ「アラビアータとかペスカトーレとか何かその辺の感じで」
川*` ゥ´)「もう良いよパスタの流れもタッグ名の流れも」
ξ゚⊿゚)ξ「四人集まると」
川*` ゥ´)「四人集まると?」
ξ゚⊿゚)ξ「…………ピザトーストかな……」
川*` ゥ´)「あーーー……うん」
ξ゚⊿゚)ξ「……お腹空いてきたな」
川*` ゥ´)「甘いめのピザトースト食いたい……」
ξ゚⊿゚)ξ「甘いめか……良いな……ケチャップのな……」
川*` ゥ´)「ケチャップのな……」
ξ゚⊿゚)ξ グーキュルル
川*` ゥ´) グーキュルル
- 972 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:48:21 ID:PgniIl8Q0
ξ゚⊿゚)ξ「でぃさんも運ばれたし、次が最後かな」
川*` ゥ´)「んーだな……終わったらお前メシ奢れよ」
ξ゚⊿゚)ξ「ああうん、奢るわ……助けて貰いっぱなしだし……」
川*` ゥ´)「お前は助けてないけどな、でも腹減ったから奢れ」
ξ゚⊿゚)ξ(かたくなだ……)
川*` ゥ´)「最後かー……あーやだなー、流れ的にクソつえーの来るだろ絶対」
ξ゚⊿゚)ξ「今までの強さから言うとかなりの相手になるでしょうね……英雄クラスが来たらどうしよ」
川*` ゥ´)「英雄も暇だなって思う」
ξ゚⊿゚)ξ「確かに」
川*` ゥ´)「魔法耐性も物理耐性もありそう」
ξ゚⊿゚)ξ「そろそろ魔族が来てもおかしくないわね」
川*` ゥ´)「あーそれやだなー」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、来るみたいよ」
- 973 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:49:04 ID:PgniIl8Q0
,,( ・∀・)「はー……何で俺がこんな事に……」テケテケ
ξ゚⊿゚)ξ
川*` ゥ´)
( ・∀・)「久々の休暇で遊びに来ただけなのになぁ……ずっと和平だ何だで走り回ってたのに……」
ξ゚⊿゚)ξ(愚痴ってる)
川*` ゥ´)(イケメンが愚痴ってる)
( ・∀・)「こんな事ならじいちゃんの育てた街見に来なきゃ……あっ」
ξ゚⊿゚)ξ「どうも」
川*` ゥ´)「お疲れっす」
( ・∀・)「あっあっ、えっと…………コホン」
( ・∀・)
( ・∀・)「我こそは元魔王軍四天王が一人、白銀のモララー!! モララエルの名を冠する中間管理職!!」
ξ゚⊿゚)ξ「お疲れ様です」
川*` ゥ´)「大変なんだな和平をアレする人って」
( ・∀・)「ありがとうございます……魔族人間両種族間における問題を一つずつ解決する為に尽力してます……」
- 974 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:49:37 ID:PgniIl8Q0
ξ゚⊿゚)ξ「なぜそんな地位もある人がこんな裏コロシアムに……」
( ・∀・)「元々ここって俺の祖先が育てた街で……見てみたいなーと思って……」
川*` ゥ´)「つか魔族なのに見た目は人間なのな」
,∧_∧゙ピョコ
( ・∀・)「ああ隠してます普段は、公務時とかは出しっぱなしですけど人里だと悪目立ちしますから」
ξ゚⊿゚)ξ(ねこみみ……)
川*` ゥ´)(ねこみみのイケメン……)
( ・∀・)「えーと……何かゲスト枠として無理矢理出されたんですよね、殺し合いでしたっけ」
ξ゚⊿゚)ξ「立場のある人がこんな事して良いんですか本当に……」
( ・∀・)「良くないと思うんですよね……色々と……でも出ちゃったからどうにかします……」
川*` ゥ´)「どうにかなんのか……」
( ・∀・)「ええと、お二人は戦士さんと魔女さん?」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、戦士です」
川*` ゥ´)「魔女だよ」
- 976 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:50:24 ID:PgniIl8Q0
( ・∀・)「いやー戦士さん魔力無いですね……これは……滅多に見ないくらい無いな……」
ξ゚⊿゚)ξ「ここでも無魔力をディスられた」
( ・∀・)「こんなに乏しいのは珍しいですね本当に、術式使えないでしょ?」
ξ゚⊿゚)ξ「たまーに使えます」
( ・∀・)「それ空気中の魔力でついてるだけです」
ξ゚⊿゚)ξ「知ってた」
( ・∀・)「魔女さんの方はなかなかの魔力量ですね、使いこなす術もお持ちで」
川*` ゥ´)「でもそれは一般的な魔女としてはだろ」
( ・∀・)「そうですね、一般的な魔女としてなら上級クラスです」
川*` ゥ´)「アンソルスラン分家」
( ・∀・)「あっあぁー……それはー……」
ξ゚⊿゚)ξ(一言で察するレベルなんだ……)
- 977 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:51:20 ID:PgniIl8Q0
( ・∀・)「あーはいはい……アンソルスランの魔女……としてなら……ぁぁー……なるほど……」
川*` ゥ´)「魔力の容量はともかく、他は後から伸ばせるからな」
( ・∀・)「あー……はい、そうですね…………ものすごく、その……頑張れば……」
川*` ゥ´)「外法にも頼らないと無理だけどな……生け贄とかはな……」
( ・∀・)「そうですね……正直血筋の問題は素質って言う生まれ持った物の話になりますから……」
川*` ゥ´)「……越えるけどな」
( ・∀・)「ええ、……俺は魔女の友人は少ないですけど、魔導師の友人が居まして」
ξ゚⊿゚)ξ「人脈がお広い」
( ・∀・)「その友人は確かに名門の出ですが、明らかに血筋を超越した力を持っています」
川*` ゥ´)「魔女の友人の方は?」
( ・∀・)「普通ですね」
ξ゚⊿゚)ξ(台無しだ)
- 978 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:52:19 ID:PgniIl8Q0
( ・∀・)「ナイ家の方なんですけどね、上級ではあるけど得意と苦手の差が大きくて」
川*` ゥ´)「名門じゃねーか」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなの?」
川*` ゥ´)「超がつく名家」
ξ゚⊿゚)ξ「どれくらい?」
川*` ゥ´)「シャフトくらい」
ξ゚⊿゚)ξ「ヤバイなそれは」
川*` ゥ´)「アンソルスランはもっと名門」
ξ゚⊿゚)ξ「どれくらい?」
川*` ゥ´)「京アニ」
ξ゚⊿゚)ξ「ヤバイな」
(;・∀・)「好みだけで語弊のある例えをしないで下さい!?」
川*` ゥ´)「魔導師家系のソリテール家ってのがGONZOくらい」
ξ゚⊿゚)ξ「ヤバイな……」
(;・∀・)「聞いて!!」
- 979 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:53:01 ID:PgniIl8Q0
( ・∀・)「ほらもう、試合早く終わらせましょう」
川*` ゥ´)「あたしら勝ち抜けないと駄目なんだけど」
( ・∀・)「分かってます分かってます、でも立場的にストレート負けするとアレですから一回殺しますね」
ξ゚⊿゚)ξ「魔族と戦うの初めて」
( ・∀・)「じゃあせっかくだし本気で行きますね、あー戦闘とか久々だなーうまく出来るかな……」
川*` ゥ´)(このイケメン弱そうだよな)
ξ゚⊿゚)ξ(強くはなさそうだけど、元四天王でしょ?)
川*` ゥ´)(つっても身内軍らしかったし)
( ・∀・)「よしっ、お嬢さん方に本気出すのは大人げないけど……」
ξ゚⊿゚)ξ「どうぞどうぞ」
( ・∀・)「やりますっ!」バサァッ
ξ゚⊿゚)ξ
川*` ゥ´)
- 981 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:53:32 ID:PgniIl8Q0
黒いマントを翻し、六対の翼を羽ばたかせながら宙へ浮かぶ中間管理職。
コロシアム全体の空気は黒く濁り、視界が暗くなる中、彼の周囲に四色の光球が浮かんだ。
光球は彼の周りを公転するように動き、光の帯を作る。
空気を黒く澱ませたのは、彼が全身から発する闇属性の魔力だと気付いた頃には、もうどうしようもなくて。
私とヒールは闇の中、妖しくも神々しく、圧倒的な強者の存在感を発する中間管理職を見上げていた。
そして彼がゆったりとした動作で手を降り上げると、光球が絡まり合う様に上り
同じようにゆったりと手を降り下ろせば、光球はその輝きを白銀に変え、稲妻の様に降り注いだ。
私たちは黙って、それを呆然と見上げながら、全身で受け止めるほか無かった。
即死でした。
ξ;゚⊿゚)ξ「心臓がぃいったい!!」ガバッ
川;` ゥ´)「この蘇生感どうにかなんねーのか!!」ガバッ
(;・∀・)「すみません何か……俺は関わってないし良く出来てはいるけど、半端ですよねその魔道具……」
- 982 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:53:59 ID:PgniIl8Q0
ξ;゚⊿゚)ξ「あぁー……鮮やかな即死だった……」
川;` ゥ´)「四天王やっべーなマジ……いつか倒そ……」
( ・∀・)「何か若いお嬢さんを湯剥きしたトマトみたいにしてすみませんでした……」
ξ゚⊿゚)ξ「湯剥きトマト……」
川*` ゥ´)「黒焦げだったんじゃねーのか……」
( ・∀・)「本来なら消し炭だったんですけど、魔力20%くらいまで制限されてて……」
川*` ゥ´)
( ・∀・)「本気でやろうと思ったけど、全力だと施設が危ないかなって……だいぶ加減しちゃって……」
:川*` ゥ´):
ξ゚⊿゚)ξ「ヒール、ヒール落ち着いて、種族差があるの、魔女は一応人間なの」
:川*` ゥ´):「こいつころせ」
ξ゚⊿゚)ξ「殺す、殺すから」
(;・∀・)「あっあっごめんなさい本当すみません見た目だけ派手で」
ξ゚⊿゚)ξ「やめて、今は何を言っても火に油だからやめて」
- 983 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:54:33 ID:PgniIl8Q0
( ・∀・)「あれ、でも戦士のお嬢さんは武器は」
ξ゚⊿゚)ξ「ただ殺すなら素手で大丈夫ですよ」
( ・∀・)(ああ絞殺とかかな、苦しいだろうなぁ……)
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあいきます」
( ・∀・)「お願いします」
ξ゚⊿゚)ξづそ ガッ
( ∀ )「え?」
< ミシミシメリメリメリ
< アッ マッテマッテ コレハアノ
< メキメキゴキ アギャッ ブチャッ
,,ξ゚⊿゚)ξつ「殺したわよ」ポタポタ
川*` ゥ´)「みそ付けたままこっちに寄るな」
- 984 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:55:18 ID:PgniIl8Q0
ξ゚⊿゚)ξ「……最後二人、なあなあで倒したけど良かったのかしら」
川*` ゥ´)「いんじゃね、何かあたしの残量意外とやべーし、これも賭けの対象だろ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、最後まさかのダブル即死とは思わなかったものね」
川*` ゥ´)「魔王軍四天王やっべーなマジ……まだ闇の魔力消えねーぞ、真っ暗じゃねーか」
(;・∀・)「心臓が!!」ガバッ
ξ゚⊿゚)ξ「あ、起きた」
(;・∀・)「これ改良すべきじゃ……でも精度は良いな……量産が困難なのが難点か……」
川*` ゥ´)「人工魔石だろこれ? 生け贄要るじゃん」
( ・∀・)「ですね、天然だとこう上手くは使えませんし……かと言って人工は生命力を元に産み出されるし……」
ξ゚⊿゚)ξ「人工魔石には生け贄が必要……」
( ・∀・)「質を落とせば生け贄は必要ありませんよ、ただ時間がかかるしちょっと大変です」
川*` ゥ´)「質の良い魔石を作るのは相当な理由がなきゃ全面禁止なんだよ」
- 985 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:55:52 ID:PgniIl8Q0
ξ゚⊿゚)ξ(ギルドとかにある大きいやつの材料は聞かないでおこう……)
( ・∀・)「さて、と……そろそろ空気のよどみも収まってきましたね」
川*` ゥ´)「なぁ何かお前見た事ある気がするんだけど」
( ・∀・)「俺ですか? まぁ凱旋とかも何度か」
川*` ゥ´)「いや教科書で」
( ・∀・)「教科書」
ξ゚⊿゚)ξ「教科書に中間管理職さんが」
川*` ゥ´)「何か……何か見…………あっ」
( ・∀・)「思い出しました?」
川*` ゥ´)「何と奇遇なやおい穴」
(;∩∀∩)「あああああああ人間んんんんんんんんんん!!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「なにそれ?」
川*` ゥ´)「ある戦いで発動された術式が」
三(;∩∀∩)「あああああああ!!!!」ダッ
川*` ゥ´)「あ、逃げた」
ξ゚⊿゚)ξ「なんなんだ一体」
- 986 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:56:49 ID:PgniIl8Q0
川*` ゥ´)「ま、とにかくこれで10戦勝ち抜けだな」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、ありがとうヒール」
川*` ゥ´)「お前のためじゃねーよ腐れド貧乳」
ξ゚⊿゚)ξ「それでも礼を言わせてもらうわ、ややブス平均魔女」
川#` ゥ´)「次会ったら覚えとけよ金髪チビゴリラ」
ξ゚⊿゚)ξ「こてんぱんにしてあげるわよ茄子田楽」
試合終了のアナウンスと共に、私たちはコロシアムを後にする。
歓声と罵声を背中に浴びながら、控え室まで戻っていった。
今日の体験は得難いものばかりだった。
死に、殺し、気付き、知る。
私に嫌な物を教えてくれて、私に大切な物を思い出させてくれた。
そして私は、やっぱり一人が怖い臆病者だと言うことを改めて認識した。
- 987 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:57:19 ID:PgniIl8Q0
一人では得られなかった勝利。
ヒールが居てくれたから勝ち進めた。
先輩冒険者に教えられた弱さ。
でぃさんは本当に強くて不思議な先輩。
死の苦しみと、恐怖。
狐はいつも、あんな思いをしているのだろうか。
あと中間管理職。
すっごいつよい。
ああ疲れた。
様々な重圧から解放されて、もうへとへとだ。
疲労感が一気に押し寄せてくる。
デレを愛でたい、癒されたい。
狐の歌を聴きたい、そのまま眠りたい。
あいつは確かにろくでなしの雇用主だけど、私にとってはもう、立派な相棒だ。
戦えないし、火力は無いし、趣味は悪いし、金汚いし、女癖は悪いし、調子に乗るし、鬱陶しいし。
悪いところをあげていたらキリが無いけれど、それはきっとお互い様だ。
- 989 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:57:42 ID:PgniIl8Q0
私にだって悪いところがたくさんある、欠陥だらけなのは自覚している。
私の欠陥を補うのは狐だし、狐の欠陥を補うのが私だし。
それでもまかなえない部分を補ってくれるのが、デレなんだ。
デレは良い子だ。
偽善的な私の行動を、全て肯定してくれた。
それが良い事かはさておき、あの子には何の邪も存在しない。
どこまでも純粋で、どこまでもあどけなくて、どこまでも私たちを慕ってくれる。
だから怖い。
私たちはあの子を育てる事は出来ない。
あの子をまっすぐ育てられるほど、私たちは出来た人間じゃない。
ただただ健やかに生きてほしい、育ってほしい、危険の無い場所で愛情を受けてほしい。
だから、あの子は置いて行く。
師匠の元に、無責任にも置いて行く。
私がもっとも信頼する人に預けて、全てを任せる。
偽善者は、善人にはなりきれないのだろう。
- 990 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:58:10 ID:PgniIl8Q0
それでもあの子は頷いてくれた。
無責任な私を待っていてくれると言った。
必ず迎えに行こう。
この身が未だ冒険者で居られるのなら、私は必ず迎えに行こう。
ろくでなしの相棒と共に。
ああ、ろくでなしの歌を聴きたい。
つかれたからそのまま眠りたい。
私はあいつの歌が好きだ。
本人には言いやしないが、あいつのどこが一番気に入っているかと言うと、歌声だ。
毎夜毎夜、暇さえあれば銅貨を一枚投げて寄越して歌をせびる。
それがもはや、日常のひとつになっていて。
子守唄が無いと、すっかり眠りにくくなってしまった。
孤独に慣れなきゃいけないのに、私はどんどん二人に魂を許していく。
それでもあの二人なら、あの二人になら、許しても良いかと思えてしまって。
私は自分が思ってるより、あの二人の事が好きみたいだ。
依存と言えば聞こえは悪いが、心の支えと言えばまだ良いだろう。
- 991 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:58:30 ID:PgniIl8Q0
そう、狐とデレは私の支え。
私の大切なものだから、守り抜かなきゃいけない。
私は私の大切なもののために、自分のために、この手を汚す事は出来るんだ。
川*` ゥ´)「おい、チビゴリラ」
ξ゚⊿゚)ξ「返事はしない」
川*` ゥ´)σ「あれ」
ξ゚⊿゚)ξ「ん?」
ヒールに髪を引かれて顔を上げると、指差されたその先には、見覚えのある二人の姿。
眠そうに目をこするデレと、疲れたように延びをする狐。
ああ。
私、守れたんだ。
- 992 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:58:50 ID:PgniIl8Q0
守りきれたのか。
ヒールに助けられながら、私は二人を守りきれたのか。
大切なものを、やっと守れたのか。
こちらに気付いた二人が手を振る。
けれど私は、それに応える事は出来ない。
突然目の前が歪むから、顔が暖かく濡れるから。
息が出来なくてしゃくりあげて、顔を歪めて、
川*` ゥ´)「ようカス&チビ」
爪'ー`)y‐「予想外の魔女さん」
ζ(゚- ゚*ζ「まじょさん、おねさんだいじ?」
川*` ゥ´)「あーうん、まぁ大丈夫なんじゃね」
爪'ー`)y‐「ツンちゃーん、ツンちゃんってばー」
ζ(゚- ゚*ζ「おねさんいたいある? だいじ?」
- 993 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 21:59:38 ID:PgniIl8Q0
ああ胸がいたい、胸がくるしい、息がつまる、唇がふるえる。
前が見えない、あたたかくてつめたい、くるしい、くるしい、くるしい。
幸せだ。
ξ ⊿ )ξ「……か」
爪'ー`)y‐「え?」
_,「しねばか!!」
ξ#;⊿;)ξ三づ)Д ),;:ボッ
「へぐぅ!!」
川*` ゥ´)「まぁ一発は殴るだろうな」
ζ(゚- ゚*ζ「むりない」
川*` ゥ´)「お前は平気だったのかよ」
ζ(゚- ゚*ζ「デレへいき、なれてる」
川*` ゥ´)「そういや元奴隷だったな」
- 994 名無しさん[sage] 2017/02/12(日) 22:00:10 ID:PgniIl8Q0
ひとしきり狐を殴って、蹴って、罵倒して。
1蘇生されたところで、さっきまでのもう少し優しくしようみたいな気持ちが霧散した事に気付いて。
それからはもう、子供みたいに声をあげて泣いてしまって。
おろおろするデレと、困ったように笑う狐。
とにかく私は、しがみついてわんわん泣いていた。
寂しかったとか、怖かったとか、ふざけんなとか、安心した私の口からは感情的な言葉ばかり。
それを聞きながらデレは私から離れなくて、狐はただただ私の頭を撫でて。
三人に群がられたヒールは、ただひたすらに鬱陶しそうにしていた。
それでも私はヒールにしがみついたまま離れられなくて、
マントどころか服まで鼻水まみれにされて怒っていたが、
引き剥がしはしない辺り、やっぱりヒールは悪党にはなれないんだろうな。
私は、誰かに支えられて生かされている。
この手放しがたい幸せを、これからも守れますように。
その時の私は、本当の絶望も知らないまま、ただ目の前の幸せに浸っていた。
おわり。