19 ◆tYDPzDQgtA 2017/02/19(日) 21:01:23 ID:ybrSpsO.0


 例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。

 騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。

 周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
 聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声、獣じみた幼い咆哮。

 刃を振るい、歌声を響かせ、魔力を用い、路銀を稼いで進むのは三人。


 一人は不機嫌そうに顔を歪める、若い女戦士。
 もう一人は、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。
 そんな二人の後ろをついて歩く、小さな魔族の子供。



 【道のようです】
 【最終話 いっしょに居たいって事。 前編】



 彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。

20 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:03:16 ID:ybrSpsO.0

 ヒールと別れて街を後にして、次に目指すは小さな村。
 そこを越えればやっとたどり着く王都、城下町。

 なかなか長い道のりだったけど、それなりに楽しく充実していた。
 それにまあ、契約満了してないから僕とツンちゃんの旅はまだ続くんですけど。

 しかしそろそろデレとも一時お別れかぁ、折角の呑み仲間、癒し要員のあざとい生物。

 寂しくなるけど、ツンちゃんの「僕らにデレは育てられない」には同意見だ。
 僕らはそこまで出来た人間じゃない、それに9歳の子供を育てるには少々若すぎる。

 適切な場所と適切な人に育ててもらおう、まぁ毎月手紙とお金は送るけど。
 あれおかしいな、僕こんなんだっけ、もっとアウトローだった気が。


 まぁいっか。

 それより、寂しくなったと言えば財布だ。

 あのコロシアムを出る時に、目も鼻も真っ赤にしたツンちゃんが支配人に詰め寄っていた。
 そして何事かと思ったら、所持金を大きく切り崩して誰かに渡せと。

 後から聞いた話によると、戦った相手に病気の母親のために参加した子供が居たとか。
 その子のためにツンちゃんは、自分の稼ぎのほとんどを差し出してしまった。

21 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:04:07 ID:ybrSpsO.0

 どこまでも甘ちゃんで、本当に悪い事が出来ないと言うか。
 人の道を外れたとは思えない、心のよわーい人間だ。

 そこもまぁ可愛げなんだけど、財布が少々寂しい感じになってしまった。 これは可愛くない。

 とは言え、今まで使った分と合わせても土地と家を買える様な所持金が半分になった程度。
 ほとんどを貴金属に変えてるから、また現金に戻さないとなー。

 と言うか本来なら相当な期間を遊び暮らせた筈なのに、何で一年足らずでこんなに使うかな。
 散財するタイプじゃないくせに、大真面目に大金使うんだからあの子は。
 やっぱ財布は僕が管理しないとなぁ。


 あー、雪は無くなったけど空気が冷たい。
 喉に悪いなぁ。


爪'ー`)y‐「ツンちゃーん」

ξ゚⊿゚)ξ「んー」

爪'ー`)y‐「さむーい」

ξ゚⊿゚)ξ「デレ抱えて歩きなさい」

22 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:05:04 ID:ybrSpsO.0

ζ(゚- ゚*ζ「ぎゅーする?」

爪'ー`)y‐「する」

ζ(゚- ゚*ζ ノス
  ⊂ ヽ,,

爪'ー`)「あったかいよー」
 つ(゚- ゚*ζ
   ⊂ ヽ

ξ゚⊿゚)ξ「だろうな」

爪'ー`)y‐「羨ましい?」

ξ゚⊿゚)ξ「いや、呼べばあんたを捨ててこっちに来るし」

爪'ー`)y‐「そうだった……悲しい……」

ζ(゚- ゚*ζ「いじわるない」

ξ゚⊿゚)ξ「しないわよ別に」

爪'ー`)y‐「ツンちゃんは意地悪だ」

ξ゚⊿゚)ξ「しねぇつってんだろ」

23 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:05:57 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「ツンちゃんはさぁ、綺麗にしとけば貴族のお嬢さんみたいなのに何でそうかなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「育ちが卑しいからでは?」

爪'ー`)y‐「ほんと見てくれだけは貴族めいてるのに……金髪に巻き髪……」

ξ゚⊿゚)ξ「元村民だからなぁ」

爪'ー`)y‐「肌も白いし目も綺麗な緑だし……まぁ服の下は傷だらけだけど」

ξ゚⊿゚)ξ「母親は貴族の元にでも嫁にやりたかったみたいだけど」

爪'ー`)y‐「あー、だろうねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「手掴みで飯を食うのに貴族とか言われてもな」

爪'ー`)y‐「君はもうちょっとマナーとかさぁ、礼法とかさぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「知ってはいるわよ姉様に叩き込まれたから」

爪'ー`)y‐「それなのに今は」

ξ゚⊿゚)ξ「骨付き肉は掴んで握って貪るもんだ」

爪'ー`)y‐「品がないなぁ!」

24 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:07:32 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「良いかいデレはもっと立派なレディになるんだよ」

ζ(゚- ゚*ζ「ない」

爪'ー`)y‐「熱い拒否」

ξ゚⊿゚)ξ「デレはもっと自然と触れ合える方が良いわよね」

ζ(゚- ゚*ζ「もりすき」

ξ゚⊿゚)ξ「見なさい森ガールよ」

爪'ー`)y‐「いや何か違う、間違いなく何か違う」

ξ゚⊿゚)ξ「一緒に熊とか狩りましょうねデレ」

ζ(゚- ゚*ζ「あい!」

ξ゚⊿゚)ξ「狩りは得意よ、石をこう投げて鳥を落とすの、前に狐でやったみたいに」

ζ(゚- ゚*ζ「おねさんむごい」

爪'ー`)y‐「僕まだあの件は許してないからね」

25 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:08:18 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「はーぁー勿体無いよなー」

ξ゚⊿゚)ξ「女だからって着飾る必要は無いと思うけど」

爪'ー`)y‐「目の前に美味しそうに育った野菜があるとするじゃん」

ξ゚⊿゚)ξ「うん」

爪'ー`)y‐「みんなそのまま丸かじりすんの、スープにしたり色んな料理に使えるのに」

ξ゚⊿゚)ξ「勿体無いわね」

爪'ー`)y‐「ほらね?」

ξ゚⊿゚)ξ「ハッ」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「手を加えず素材の味をそのまま楽しむのは賢い人のする事よ」

爪'ー`)y‐「手を加えて更に美味しくなる素材は、手を加えなくても美味しくて当然なんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「ハッ」

爪'ー`)y‐「そのままで美味しいのは当然だけど、他にも色んな味で美味しく出来るなら試すべきじゃね?」

ξ゚⊿゚)ξ「くっ……何の否定も出来ない……」

ζ(゚- ゚*ζ(おねさんやさいない……にんげん……)

26 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:09:53 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「だからツンちゃんはもっと色んな味付けをしてみるべきだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「えぇー……」

爪'ー`)y‐「可愛い格好から軍服まで試してみるべきだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「美味しくならなかった場合は」

爪'ー`)y‐「試さないと分からない事のために挑戦を先伸ばしにするの?」

ξ゚⊿゚)ξ「くっ……否定も拒否もしがたい……!」

ζ(゚- ゚*ζ(なぜ)

ξ゚⊿゚)ξ「……狐はよく見た目変わるわよね」

爪'ー`)y‐「髪をいじるのは好きだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「みつあみになったりウェーブになったり」

爪'ー`)y‐「まあ顔だけだと一切分からないのが難点だね」

ξ゚⊿゚)ξ「日替わりなのに……」

27 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:10:55 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「お、次の村はあれかな」

ξ゚⊿゚)ξ「おー……ずいぶん寂れた感じね」

ζ(゚- ゚*ζ「がう」

爪'ー`)y‐「戦争で負傷した人なんかが運び込まれてそのまま居着いた場所らしいよ」

ξ゚⊿゚)ξ「はー……そう言うのどうにかなったって聞いたのに」

爪'ー`)y‐「戦後にも負傷する人って居るもんさ」

ξ゚⊿゚)ξ「あー……」

爪'ー`)y‐「治安も良くないし困窮する人が多いし、戦災孤児なんかを捨てに来るって」

ξ゚⊿゚)ξ「まーあれね……平然とした顔してる社会の裏側って感じね……」

爪'ー`)y‐「ま、どっかで誰かが皺寄せ食うのが世の常さ、入ろうか」

ζ(゚- |
  つ ペト

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よデレ、……風当たりは強いだろうけど、側に居なさい」

爪'ー`)y‐「場所が場所だからなぁ、離れないようにね」

ζ(゚- ゚*ζ「あい……」

28 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:11:49 ID:ybrSpsO.0

 風に乗って届くのは、物を乞う人の声、すえた臭い、余所者へ向けられる敵意に似た視線。

 小さく寂れ草臥れた村に一歩踏み入れば、そこはもう僕らにとって心地が良いとは言えない空間。

 魔族のデレは居心地がさぞ悪いだろう、フードを外さないように気を付けさせなきゃ。
 今度何かがあれば入店拒否じゃ済まないぞ、きっと石を投げられる。

 早いとこ出発するようにしよう、最低限の買い物と休憩だけをして。


川*` ゥ´)「あ」

ξ゚⊿゚)ξ「あら」


 そして見知った顔と遭遇。

 今週はもう会わないと思ったのに、意外だな。


川*` ゥ´)「なっんだおめーらあたしを追ってきたのかよ」

ξ゚⊿゚)ξ「いや別に、通り道なだけで」

川*` ゥ´)「あん? じゃあ自宅までつけてきたんじゃねーのか」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、ここ住んでるの?」

29 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:14:13 ID:ybrSpsO.0

川*` ゥ´)「おう、あたしの自宅があるぞ」

爪'ー`)y‐「アンソルスランの魔女ならもっと良いとこ住めない?」

川*` ゥ´)「つっても本家の屋敷にあたしは住めねーしな、住みたくもねーしな」

ξ゚⊿゚)ξ「ほんとプライド高いわよね」

川*` ゥ´)「それだけじゃねーよ、あたしも戦災孤児だかんな」

ξ゚⊿゚)ξ「あっそうなの?」

川*` ゥ´)「お前もだろ」

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ珍しくは無いわね、私はその前に捨て子だけど」

爪'ー`)y‐「あ、僕は最初から親の顔知らないでーす」

川*` ゥ´)「あたしんとこは街ごと消し飛んだからなー」

ξ゚⊿゚)ξ「うちはいつの間にか村が消し飛んでたわ」

爪'ー`)y‐「あるあるー」

ζ(゚- ゚*ζ(かるい)

30 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:16:25 ID:ybrSpsO.0

川*` ゥ´)「ま、ここはあたしらみたいなのが住んでるわけだ、余所者には乞うか石投げるから気を付けろよ」

ξ゚⊿゚)ξ「助言はくれるのね……」

川*` ゥ´)「いや、自宅あるのにさすがに問題は起こしたくねーわ……」

爪'ー`)y‐「君ってば本当に常識人……」

川*` ゥ´)「公私の使い分けと人としての常識と尊厳は遵守すべきだろ、アホか」

爪'ー`)y‐「まぶしい」

ξ゚⊿゚)ξ「まぶしい」

川*` ゥ´)「良いかてめーらの存在が常識はずれなだけだぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「でもそれに喧嘩売ってきた」

川*` ゥ´)「町中で私闘決闘可の場所でならそら喧嘩売るわ」

爪'ー`)y‐「意外とあるよね私闘決闘可の街」

ξ゚⊿゚)ξ「まだ決闘文化が濃くあるもの」

ζ(゚- ゚*ζ(にんげんぶっそう)

31 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:17:53 ID:ybrSpsO.0

川*` ゥ´)「じゃ、村に迷惑かけんなよカス共」

ξ゚⊿゚)ξ「家どっち?」

川*` ゥ´)「西の方の墓地向こう」

ξ゚⊿゚)ξ「今度遊びに行くわ」

川*` ゥ´)「来んなボケカス、……あーそうだ」

ζ(゚- ゚*ζ「う?」

川*` ゥ´)づ「最近は若い騎士様が来てやがってな、治安回復だの炊き出しだのとうるせーの」

ζ(- -*ζ「ぅー」

川*` ゥ´)「まだ若いくせにうっせーから目ぇ付けられんなよ、魔女ってだけで手伝わされそうになんだから」

ξ゚⊿゚)ξ「魔女も大変ね」

爪'ー`)y‐「騎士様って女の子?」

川*` ゥ´)「女だよ女、若い女」

爪'ー`)y‐「可愛い?」

川*` ゥ´)「知るか」

32 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:19:12 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「ツンちゃん若い女の子だって! 見たい! 行けそうなら口説きたい!」

ξ゚⊿゚)ξ「お前な」

川*` ゥ´)「こいつほんとクソな」

爪'ー`)y‐「どこに居るの?」

川*` ゥ´)「役所か広場だろ、じゃあもー行くぞ、あたし録り溜めた洋ドラ見たいから」

爪'ー`)y‐「コーラとピザ持ってんなと思ったら……」

ξ゚⊿゚)ξ「お一人様上級者ねあんた……」

,,川*` ゥ´)「うっせバカうっせバカ、あばよクソ共とモフチビ」

ξ゚⊿゚)ξ「またねー」

爪'ー`)y‐「ばいばーい」

ζ(゚- ゚*ζ「ばいばー」

爪'ー`)y‐「るぷるどぅ?」

ξ゚⊿゚)ξ「全部違う」

33 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:20:08 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「騎士様かー、楽しみだなークールビューティーかなーくっ殺かなー!」

ξ゚⊿゚)ξ「お前……」

爪'ー`)y‐「気の強いお堅いお嬢ちゃんほど落としやすいんだよね……本当楽しい……捨てるけど」

ξ゚⊿゚)ξ「その下衆い趣味やめたら……?」

爪'ー`)y‐「ツンちゃん断食できるの……?」

ξ゚⊿゚)ξ「無理ね……」

爪'ー`)y‐「無理だよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「いやでもそれで呪われたろお前……」

爪'ー`)y‐「それはそれ、これは」

ξ゚⊿゚)ξ「一緒だよばか」

爪'ー`)y‐「一緒だけど懲りない」

ξ゚⊿゚)ξ「懲りろ」

爪'ー`)y‐「やだね!!」

34 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:21:48 ID:ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「こいつほんっと……刺されるぞ……いや刺されてたな……」

爪'ー`)y‐「二、三回くらい」

ξ゚⊿゚)ξ「増えてない?」

爪'ー`)y‐「ゾンビ化してからは傷跡も残らないから便利だよ」

ξ゚⊿゚)ξ「べん……便利……便利なのかそれは……?」

爪'ー`)y‐「一度死ねば手当ての必要が無くなるのはメリットだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「やめろそんな後ろ向きなメリット……あと旅してるのに刺されるような事すんな……」

爪'ー`)y‐「君の知らないところで大修羅場が三回くらいあった」

ξ゚⊿゚)ξ「おま……お前な……ほんとお前な……」

爪'ー`)y‐「いやーまさかかち合うとは」

ξ゚⊿゚)ξ「フラグ管理と爆弾処理はちゃんとやれよ……」

爪'ー`)y‐「爆弾処理なら慣れたもんだよ、電話一本で消してみせるよ」

ξ゚⊿゚)ξ「電話だけじゃ間に合わなくなれよ……」

ζ(゚- ゚*ζ(もっともっとときめき……)

35 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:22:50 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「んー」

ξ゚⊿゚)ξ「ん? そんなに女騎士が気になるの?」

爪'ー`)y‐「じゃなくて、喉がなー」

ξ゚⊿゚)ξ「痛む?」

爪'ー`)y‐「まだ大丈夫、冷えて調子がいまいち」

ξ゚⊿゚)ξ「大事にしなさいよ、あんたそれが武器なんだから」

爪'ー`)y‐「わーかってるって、喉は僕のメインウェポンだし生命線だもん」

ξ゚⊿゚)ξ「喉風邪フラグ?」

爪'ー`)y‐「やめて」

ζ(゚- ゚*ζ「デレおにさんおうたすき」

爪'ー`)づ「あーほんとー? 嬉しいなーデレってばもー」

ζ(- -*ζ「うー、おにさんおうたきれい」

36 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:23:40 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「これでも本業は吟遊詩人だからね!」

ξ゚⊿゚)ξ「詩人感ゼロだけど」

爪'ー`)y‐「自覚はあるよ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「あるのかよ改めろよ」

爪'ー`)y‐「本業ジゴロとかになりたくもある!!」

ξ゚⊿゚)ξ「本当にお前と言う奴は」

爪'ー`)y‐「まーでも詩人楽しいよ、バッファー楽しいよ」

ξ゚⊿゚)ξ「描写された事のないバッファーが」

爪'ー`)y‐「悲しいよね、今後もされない」

ξ゚⊿゚)ξ「当たる当たる~ってやっとけ」

爪'ー`)y‐「やめなよ山寺宏一」

ξ゚⊿゚)ξ「あっちも26歳だったわね……」

爪'ー`)y‐「やめなよ山寺宏一」

ζ(゚- ゚*ζ(だれ)

37 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:24:52 ID:ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「あんた何で吟遊詩人になったの? ギャンブラーは二次職だけど」

爪'ー`)y‐「んー? ガキの頃に僕を飼ってた酒場に吟遊詩人が来てさぁ」
  _,
ξ-⊿-)ξ「ちょっと待って」

爪'ー`)y‐「目頭を押さえて制止するポーズ実際には初めて見た」

ξ゚⊿゚)ξ「飲み込んだ」

爪'ー`)y‐「吟遊詩人が来てすごい綺麗に歌うからさぁ、クソみたいな環境だったけどそれ聞くのが好きでね」

ξ゚⊿゚)ξ(美談かな)

爪'ー`)y‐「でも吟遊詩人は旅してるから居なくなるじゃん?
     だから自分でも出来るようになるためにこっそり聴いて覚えてさぁ」

ξ゚⊿゚)ξ(美談だな)

爪'ー`)y‐「でも楽器とか高いじゃん、持ってるわけ無いじゃん
     しょうがないから糸を張った空き缶とか弾いてたわけ」

ξ゚⊿゚)ξ(美談だ……)

爪'ー`)y‐「んで吟遊詩人が発つって聞いてさぁ、僕は我慢できなくなったんだよね」

ξ゚⊿゚)ξ(弟子入りかな)

爪'ー`)y‐「楽器盗んで逃げた」
  _,
ξ-⊿-)ξ「待って」

38 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:26:36 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「これでも労働者の中では結構人気が出る程度には歌が上手くなっててね」

ξ゚⊿゚)ξ「いや待て、待てよ」

爪'ー`)y‐「だから吟遊詩人になれんじゃね? って思ってさー、部屋に忍び込んで楽器盗んで逃げた」

ξ゚⊿゚)ξ「何でだよ……!!」

爪'ー`)y‐「捕まらずに今まで逃げ延びてます」

ξ゚⊿゚)ξ「まだ逃げてるのかよ!!」

爪'ー`)y‐「まぁとっくに盗んだ楽器は壊れましたけどね、15年くらい前だし」

ξ゚⊿゚)ξ「おま……えぇ……」

爪'ー`)y‐「歌でさー、人の人生は変えられるんだなーと思ってさ」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

爪'ー`)y‐「だから、吟遊詩人やってんの」

ξ゚⊿゚)ξ「盗んだ楽器で」

爪'ー`)y‐「これは自分で買った」

40 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:28:07 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「僕のクソみたいな人生を変えたのはね、間違いなく歌なんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そう」

爪'ー`)y‐「だからね、僕も誰かの人生を変えてみたいなって思うんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「ふむ」

爪'ー`)y‐「この道を選んだのは後悔してないよ、金になりにくいけど」

ξ゚⊿゚)ξ「だろうな」

爪'ー`)y‐「ツンちゃんつーめーたーいーぃ、自分から聞いといてー」

ξ゚⊿゚)ξ「冷たいのはきっと喉を冷やす風のせいよ」

爪'ー`)y‐「何そのちょっと詩的な言い回し……ムカつく……」

ξ゚⊿゚)ξ「ムカつくて……」

爪'ー`)y‐「……誰かの人生変えられるような、救いになったりすんのかなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「さぁね」

ξ゚⊿゚)ξ

ξσ゚⊿゚)ξ゙ ポリポリ(もう変えてんだけどな……)

41 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:28:43 ID:ybrSpsO.0

ζ(゚- ゚*ζ

ζ(゚- ゚*ζ「おにさんじっか?」

爪'ー`)y‐「ん? あー実家? みたいなとこ?」

ζ(゚- ゚*ζ「あう、たばこにおい」

爪'ー`)y‐「あーはいはい、おばあちゃんねー」

ξ゚⊿゚)ξ「逃亡生活じゃないの?」

爪'ー`)y‐「んー……僕は貧民街生まれ育ちでさぁ、親も居ないし使い捨ての労働力だったのね」

ξ゚⊿゚)ξ「重いんだよお前の過去は」

爪'ー`)y‐「そっから見てくれがマシだからって酒場で飼われて働いてたの」
  _,
ξ-⊿-)ξ゙

爪'ー`)y‐「んで楽器盗んで逃げ出して、街からもうまいこと逃げおおせて、楽器だけ抱えて夜の街道を走った」

ζ(゚- ゚*ζ(すごいぼうけん)

爪'ー`)y‐「ラックに振った記憶は無いから初期値が良かったんだろうね、魔物にも会わずに小さな村に辿り着いたの」

ξ゚⊿゚)ξ「普通に運が良かったって言え」

42 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:29:21 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「でもガキが寝ずに走り続けてさ、お金も無いし飯も無いわけ、どうすると思う?」

ξ゚⊿゚)ξ「草とか」

爪'ー`)y‐「一軒の家に盗みに入りました」

ξ゚⊿゚)ξ「草……とか……!」

爪'ー`)y‐「わりとすぐ家主に見つかりました」

ξ゚⊿゚)ξ「見つかってんのかよ……」



 静かな家と人の少なさを察知して、もう何度目かもわからない盗みを働こうとした。

 けど空腹と疲労には勝てなくて、うっかり立てた物音。

 そしてキッチンから顔を出したのは、小柄な人影。

 『あらあら』とだけ笑って僕を咎めもしなかったのは、一人の老婦人。
 質素だけど身なりは良く、裕福では無いが困窮もしていない生活がうかがえた。

43 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:30:29 ID:ybrSpsO.0

 汚い泥棒のクソガキに温かいお茶とクッキーを差し出す老婦人は、にこにこしながら口を開く。


 誰かが訪ねてきたのは久し振りだわ。

 夫と息子を亡くしてもう長いの。

 話し相手は窓辺の小鳥か庭に来る猫くらいで。

 村の外れだから誰もこの辺りには来ないの。

 そうだお湯を作るからお風呂に入ってらっしゃい。

 息子の服が良い大きさのはず。

 嫌いな食べ物はあるかしら。

 夕飯のシチューを作りすぎたから。

 そうだわ小さな泥棒さん、お名前を教えてくれるかしら。

 もし良かったら、それを弾いて聴かせてちょうだい。

44 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:31:02 ID:ybrSpsO.0

 孤独に飽いていた老婦人は、汚い泥棒のクソガキを、小綺麗なクソガキに変えてしまった。
 僕はそれに抵抗できるほど、体力も気力も残っていなくて、されるがままで黙ってた。


 貴族までは行かない、それでも質の良い服を着せられた。
 今まで着た事も無いような肌触りだった。

 自分の髪が金髪だと、その時に初めて知った。
 自分から漂う花の石鹸の匂いを嗅いで、これが良い匂いなんだと理解した。

 鏡の前で伸びきった髪をすかれながら、自分の青い目を見ていた。
 見てくれがマシだと言う意味が、その時やっと分かった。


 そう言えば、僕は人間だった。

 てっきり、人間の二つ三つ下の生き物だと思ってた。

 今までそんな扱いだった。
 今までそう生きてきた。

 汚い事して、汚い事されて、汚い事やらされて。
 だから僕は、人間ではなくもっと下の汚い生き物だと思ってて。


 温かなお茶を飲んで。
 お菓子の甘さを知って。
 熱々のシチューを貪って。

 僕は、声をあげて泣いたんだった。

46 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:32:43 ID:ybrSpsO.0

 老婦人は僕を突き出す事もせず、孫のように可愛がってくれた。
 若い頃に家庭教師もした事があると言う彼女は、僕に読み書き作法を教えてくれた。
 彼女が聴きたいと言うから、僕は辿々しく楽器を弾いては稚拙な歌を歌った。
 そんな綻びだらけの僕の歌と演奏を、彼女は一番の楽しみだと笑って言った。

 そのまま居ついて数年、僕は盗みに入った時からは想像も出来ない見てくれになっていた。
 まだ少し大きい彼女の夫の服を着て、村の方にまで顔を出せるようになっていた。

 遠縁の子供として引き取られたていで村に加わり、我ながら器用にも溶け込んだ。
 本来は生まれ持った物だったらしい、良く回る口で村の人を簡単に丸め込めた。
 吟遊詩人としての資格も取ったし、たまに仕事をするようにもなっていた。

 でも生まれの悪さのせいなのか、次第に良くない仕事が僕にふりかかる。
 そして良く回る口のお陰で、詐欺や何やの片棒を担がされる事もあって。
 もちろん僕が捕まるようなヘマはしていないし、言い訳出来る程度にして。


 それでもいつしか僕は、小綺麗なクソガキから、汚い犯罪者になっていて。


 彼女にたずねられる。
 『吟遊詩人のお仕事はどう?』

 僕は作った笑顔でこたえる。
 『順調だよ、ほらこんなにおひねり貰った』


 いつから僕は、彼女に仕事で使う笑顔を向けるようになったんだっけ。

47 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:33:46 ID:ybrSpsO.0

 彼女との日々は穏やかと言う一言に尽きる。

 毎日のどうでも良い日常を幸せだと噛み締めて、僕を正しく救った彼女に恩を返したくて。
 僕を人間にしてくれた彼女のために、暖かさを教えてくれた彼女のために、仕事をして。

 一度はきれいになった手が、また汚く汚れて。
 結局僕はこう言う生き方しか出来ないんだなって、己の生まれと育ちの悪さを恨んで。


 そんな恩返しと悪行と嘘の穏やかな日常は、彼女の死によって幕が降りた。


 もう高齢だった事もあり、風邪を引いた事を切っ掛けに、起きられなくなってしまって。

 僕はそんな彼女の世話をして過ごしたけれど、最後に僕の歌を聴きたいって彼女は言って。


 楽器を取りに部屋を出た、その間に、彼女はもういってしまった。


 そこから、遺産相続だの、葬式だの、何だのと、僕はぼんやりとしたまま流されて。

 彼女のお墓を王都に作るかわりに、遺産を全て王都の教会に寄付をした。
 村の人に頭を下げて、彼女の家を潰しておくように頼んだ。
 僕は最初から持っていないあらゆる権利を放棄した。

48 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:35:32 ID:ybrSpsO.0

 身支度を済ませた僕は、旅の吟遊詩人としてその村を後にした。
 もう戻る事は無いし、帰る場所も無いし、誰も迎えてはくれないから。

 そして冒険者、吟遊詩人としてふらふらさまよい十年近く、で、今に至る。
 人恋しさを適当に紛らわせながら、日々を楽しむように生きてきた。

 楽しい事もあったし、良い事もあったけど。
 ほんとはもう、何を見ても灰色に見えるような気持ちを引きずり続けていて。

 そんな時に呪いを受けて。
 やっと死ねると思ったのに死ねなくて。

 生きてて何が楽しいんだろうと思っていたのに死ねなくて。
 死ねないなら好き勝手しちゃえば良いやと無茶ばっかして。

 ぐずぐずな心で、ぐずぐずな人生で、もう腐りきって土にでも還りたかった。


 でも、そこで聞いたのがある噂。
 人の頭を叩き潰せるような化け物じみた戦士の噂。

 しかも女だと聞いたものだから、見てみようと先回りして。


 そうして出会ったのは、不機嫌そうに顔を歪めた、淡い金髪に緑の目、白い肌の小柄な少女。

49 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:36:41 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「つまり君だったと言うわけ」

ξ゚⊿゚)ξ「ろくでもない人生送ってるわねあんた」

爪'ー`)y‐「長々と語ったのに八文字で片付けられた」

爪'ー`)y‐
 ζ(゚- ゚*ζ
   ⊂ ヽペト

爪'ー`)y‐「あざといんだけど」

ξ゚⊿゚)ξ「喜べよ」

爪'ー`)y‐「かわいい」

ξ゚⊿゚)ξ「知ってる」

ζ(゚- ゚*ζ「おにさんさみしいない?」

爪'ー`)y‐「無いよーデレがこうしてくれるとないよー」

ζ('(゚- ゚*∩ζ「もっとする」フンスー

爪'ー`)y‐(あざとい)

ξ゚⊿゚)ξ(あざとい)

50 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:38:09 ID:ybrSpsO.0

 僕が出会った少女戦士は、実年齢より子供に見える。


 甘ったれの癖に戦士としてはストイック。
 甘ちゃんの癖に全部割りきった顔。

 小柄な癖に馬鹿力。
 小柄な癖に大食漢。

 不機嫌そうな顔で泣いて。
 不機嫌そうな顔で笑って。

 容赦なく僕を殴り殺して。
 容赦なく僕を正面から罵る。

 こう言っちゃ何だけど、僕が口説いて落ちなかった女は居ないのに。
 この子は僕がそれっぽく誘導しても、脳筋で返すから全然それっぽくならない。

 美人なのに無愛想で、可愛いのに仏頂面で、小さくて細いのに身体中傷だらけで。

 すぐ怒るし、すぐ殴るし、罵倒するし、躊躇いも容赦も無いし。


 そんな彼女の隣は、愉快なくらいに居心地が良い。

51 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:39:01 ID:ybrSpsO.0

 彼女と旅をしていて退屈を感じた事はほとんど無い。
 次から次へと、この猪突猛進さんは問題を起こしたり問題を拾ったり。

 その一番の問題が、小さな魔族。

 僕にしがみついたまま離れようとしない心配性のデレは、自分の境遇を恨みはしない。
 決して腐らず、恨まず、憎まず、ただただ純粋な目で僕らを追う。

 僕にはこんな子供時代すら無かったけれど、どことなく懐かしさを感じる。
 大事にしなきゃいけない気がする、壊したり汚しちゃいけない気がする。

 ふわふわの髪も、高めの体温も、小さな手も、辿々しい言葉も。
 僕らが連れて歩くには、あまりにもこの子は可愛らしすぎる。


 時には人も殺すし、汚い仕事もするし、危ない橋も渡るだろう。
 そんな時に、デレは居るべきでは無いんだ。

 まだそんな物は見なくて良い。
 奴隷としての日々で知った様な汚さを、子供の内に改めて見る必要は無い。

 そんなもの、不用意にデレを傷付けて、心を歪めてしまうだけだから。

52 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:39:51 ID:ybrSpsO.0

 いつかの別れは新たな旅立ち。
 いつかの再会を夢見て歩こう。

 今は別れの時まで、共に過ごせば良いだけの事。


,,ξ゚⊿゚)ξ「宿に荷物置いてきた」

,,爪'ー`)y‐「役所に報告終わった、女騎士さん居なかったわ」

ξ゚⊿゚)ξ「デレ、宿で待っとく?」

ζ(゚- ゚*ζ「いく」

ξ゚⊿゚)ξ「うむ」

爪'ー`)y‐「んじゃ騎士さんにご挨拶しとこっか、広場なら居るかも」

ξ゚⊿゚)ξ「ま、顔見せておかないとね、余所者は礼儀を持たないと」

ζ(゚- ゚*ζ「にんげん……おとなたいへん」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ、大人は大変なの」

爪'ー`)y‐「やー大変大変」

53 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:40:24 ID:ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「広場は、っと」

 「そこー! 瓦礫はそっちじゃなくてこっちー!」

爪'ー`)y‐「お?」

 「端材も使うから無駄にしないでー! 石材は使えるからねー!」

ξ゚⊿゚)ξ「女の声」

爪'ー`)y‐「騎士さん、っつか工事現場かな?」

ξ゚⊿゚)ξ「しかしこの声……まさか」

ミセ*゚ー゚)リ「ほらそこー! もー勝手に炊き出し食べようとしない!」

ξ゚⊿゚)ξ「あ」

ミセ*゚ー゚)リ「ん? あー冒険者さん? ごめんねーバタバタしちゃってて!」

ξ゚⊿゚)ξ

ミセ*゚ー゚)リ

ξ゚⊿゚)ξ「ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リそ

54 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:41:01 ID:ybrSpsO.0

ミセ*゚ヮ゚)リ「ツーンーちゃーんーだー!!?」

ξ゚⊿゚)ξ「お、ぉぉミセリか、マジのミセリか」

ミセ*゚ー゚)リ「ミセリだよー元気してたー!?」

ξ゚⊿゚)ξ「幾度か死んだけど元気元気」

ミセ*゚ー゚)リ「何それ冒険者すげーな……」

爪'ー`)y‐「お知り合い?」

ξ゚⊿゚)ξ「ああ、孤児院で一緒だった幼馴染み」

ミセ*゚ー゚)リ「彼氏?」

ξ゚⊿゚)ξ「雇用主」

爪'ー`)y‐「このサイズ感では欲情できないですね」

ミセ*゚ー゚)リ「すごい事言われてないツンちゃん」

ξ゚⊿゚)ξ「慣れたけど一回殺す」

ミセ*゚ー゚)リ「やめて私闘は禁止」

56 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:42:10 ID:ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「えっつか何? 騎士? あんた騎士? 拳士じゃなかったの?」

ミセ*゚ー゚)リ「魔法拳士だよー、でもお城から騎士号貰って今はここで単身赴任で働いてんの」

ξ゚⊿゚)ξ「はー……すっかり勤め人に……師匠は元僧侶よね?」

ミセ*゚ー゚)リ「そっそー、治癒魔法は一番得意だからここに派遣されたの」

ξ゚⊿゚)ξ「聖職者には?」

ミセ*゚ー゚)リ「なってない、制約多いし結構色々あんだもん……後ろ暗いアレが……」

ξ゚⊿゚)ξ「あっあー……やっぱ本当にあんのね……」

ミセ*゚ー゚)リゞ「そんなわけで、ミセリ・アンジェニュ18歳! 城から騎士として派遣されて働いております!」ビシッ

ξ゚⊿゚)ξ「おぉ……偉くなったわねミセリも……急に先生連れて居なくなった癖に……」

ミセ*゚ー゚)リ「せんせなら王都で孤児院やってんよ」

ξ゚⊿゚)ξ「まーた孤児院やってんのか」

ミセ*゚ー゚)リ「夫婦水入らずで」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ嫁貰ったの」

ミセ*゚ー゚)リ「いやダメンズ貰った」

ξ゚⊿゚)ξ「待て待て待て待て」

57 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:42:57 ID:ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「待て先生待て」

ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫だよ夫婦は通称だから」

ξ゚⊿゚)ξ「あっチーム夫婦円満……」

ミセ*゚ー゚)リ「せんせのパーティ名だね」

ξ゚⊿゚)ξ「そうか、びっくりした……次に行くのが王都だから顔見せなきゃ」

ミセ*゚ー゚)リ「あーん良いなー、わたしも会いたいなー」

ξ゚⊿゚)ξ「有給は?」

ミセ*゚ー゚)リ「ないっすね」

ξ゚⊿゚)ξ「ブラックかよ」

ミセ*゚ー゚)リ「ところで彼氏さんは詩人さん?」

爪'ー`)y‐「雇用主です吟遊詩人です」

58 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:43:34 ID:ybrSpsO.0

ミセ*゚ー゚)リ「マントの中のちっちゃい子は?」

爪'ー`)y‐「デレ、出といでー」

ζ(゚-|

爪'ー`)y‐「出ないわ」

ξ゚⊿゚)ξ「人見知りするものね」

ミセ*゚ー゚)リ「お姉ちゃんは怖くないよー、わたしはミセリ、ツンちゃんのお友達だよ!」

ξ゚⊿゚)ξ「空を裂き地を穿ちその拳に砕けぬ物は無い凄腕の拳士よ」

ミセ*゚ー゚)リ「ねぇどうして怖がらせる感じにしたの? わたし今怖くないよーって言ったよ?」

"ζ(゚- ゚|

ミセ*゚ー゚)リ「何で今ので顔出したの? 基準がわかんないよ?」

爪'ー`)y‐「まぁツンちゃんと同類だと感じたのでは」

ミセ*゚ー゚)リ「意味が気になるんですが」

ξ゚⊿゚)ξ「脳筋貧乳って言いたいのよ」

ミセ*゚ー゚)リ

60 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:44:36 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「ほらデレ、ご挨拶」

ζ(゚- ゚|「……デレ、よろしく、おねがいします……」

ミセ*゚ー゚)リ「ホァー 可愛いねこの子」

ξ゚⊿゚)ξ「だいたいみんなそう言うわ」

爪'ー`)y‐「うちのあざとい代表だからね」

ミセ*゚ー゚)リ「んーデレちゃんは何歳かなー? 飴ちゃん食べるかなー?」

ζ(゚- ゚*ζ「がう、たべる……きゅうさい……」

ミセ*゚ー゚)リ「九歳かーうーん可愛い盛りだなーいいなー可愛いカッコさせたいなー格闘技仕込みたいなー」

爪'ー`)y‐「最後おかしい最後」

ミセ*゚ー゚)リ「褐色さんかぁ、ここらじゃ珍しいね」

ξ゚⊿゚)ξ「フードの中覗いてみ」

ミセ*゚ー゚)リ「どれどれ」

:ζ(゚- ゚*ζ:

ミセ*゚ー゚)リ

61 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:45:55 ID:ybrSpsO.0

ミセ*゚ー゚)リ「こりゃ風当たりキツいぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「頼むわよ騎士様」

ミセ*゚ー゚)リ「風避けになれってか、んもー……こっちも騎士号貰っただけで正規の騎士じゃないのに……」

ξ゚⊿゚)ξ「でもミセリはここで悪い立場じゃないんでしょ?」

ミセ*゚ー゚)リ「好かれてるかと言うとそれなり、仕事は頑張ってるから徐々に環境は改善してる」

ξ゚⊿゚)ξ「昔から真面目だったわよね、ちゃんと勉強もするし」

ミセ*゚ー゚)リ「楽しいよ? まぁ身体動かすのも好きだけど……デレちゃん、ここではフード外さないでね」

ζ(゚- ゚*ζ「がう……」

ミセ*゚ー゚)リ「無理矢理剥ぎ取られたりはしないから、取り敢えず人前では外さないように、ね?」

ζ(゚- ゚*ζ「あい」

ミセ*゚ー゚)リ「わたしも風避けにはなるけどそこまで立場強くないからね
     派遣されてきただけだし正規の騎士でもない、それでも頼られてるからやるけどさ」

ξ゚⊿゚)ξ「……私よりずっと立派ね、あんたは」

ミセ*゚ー゚)リ「わたしにはせんせ達が居たかんね、……まぁこの仕事は師匠の紹介だけど」

62 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:46:42 ID:ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「立派な騎士様、哀れな冒険者に恵んで」

ミセ*゚ー゚)リ「やだよ薄給だよこっちは、24時間体制で働いてんのに」

ξ゚⊿゚)ξ「よその村の環境より職場の環境を改善した方が良いのでは……」

ミセ*゚ー゚)リ「王様は頑張ってるようん……悪いのはその下の方だよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「権利者って……」

ミセ*゚ー゚)リ「ところで彼氏ずっと黙ってるけど大丈夫?」

ξ゚⊿゚)ξ「ああごめん、つい懐かしくて長話を」

爪'ー`)y‐

ξ゚⊿゚)ξ「狐?」

ミセ*゚ー゚)リ(狐)

爪'ー`)y‐「ミセリちゃんは彼氏は居るの?」

ミセ*゚ー゚)リ「いないっすね」

ξ゚⊿゚)ξ「おい」

63 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:48:12 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「もし良かったら仕事上がりに一杯呑まない? 奢るよ僕」

ミセ*゚ー゚)リ「いやーわたしお酒はちょっと」

爪'ー`)y‐「じゃあ食事はどうかな、君の綺麗な緑の髪と瞳で胸がいっぱいになりそうだけど」

ミセ*゚ー゚)リ「ツンちゃんこの人ガチで口説きに来てる」

ξ゚⊿゚)ξ「やめなさい狐、その子は私に負けず劣らずの大飯食らいよ」

ミセ*゚ー゚)リ「やめてツンちゃん確かに食べるけど昔はそうでも無かったもんやめて」

ξ゚⊿゚)ξ「あと幼馴染みに手ぇ出すのやめろや」

爪'ー`)y‐「やっぱダメ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ダメだよバカか今後顔合わせづらいだろうが」

爪'ー`)y‐「ちぇー、熟考の結果イケるなって判断したのになぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「イケんで良いわたわけが」

ミセ*゚ー゚)リ(何だこの会話)

ζ(゚- ゚*ζ(なかよし)

64 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:49:05 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「最近身近に居るのがこの小さいホームランバーと惜しい魔女くらいでさぁ」

ミセ*゚ー゚)リ(ヒールちゃんの事かな……)

爪'ー`)y‐「でもミセリちゃんは背も高めだし可愛いし元気な良い子だしさぁ、やや控えめだけど」

ミセ*゚ー゚)リ「ぶっころ」

ξ゚⊿゚)ξ「地雷踏むの上手いわよねあんた」

爪'ー`)y‐「無と控えめの差は大きいよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ぶっころ」

ミセ*゚ー゚)リ「ツンちゃん落ち着いて」

爪'ー`)y‐「だからヤれるなと思ったけど怒られたから諦めます」

ミセ*゚ー゚)リ「なんか完全に食い物にされそうだったんですけど」

ξ゚⊿゚)ξ「これがニュートラルなのごめんミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「最低かよ雇用主……」

ζ(゚- ゚*ζ(かれしなくなた……)

65 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:49:57 ID:ybrSpsO.0

ミセ*゚ー゚)リ「まぁ新米騎士で小娘だからセクハラは慣れたもんだけど」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたも大変ね……」

ミセ*゚ー゚)リ「まーにー」

ξ゚⊿゚)ξ「ところでミセリ、日常的に自分にバフかけてるって本当?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、ドクオさんに魔法も教わってるから鍛練も兼ねて」

ξ゚⊿゚)ξ「英雄二人が師とはね……」

ミセ*゚ー゚)リ「ツンちゃんも教わる?」

ξ゚⊿゚)ξ「無魔力だから……」

ミセ*゚ー゚)リ「あー……」

ξ゚⊿゚)ξ「ミセリは魔法の素質もあるものね、羨ましい……」

ミセ*゚ー゚)リ「才能に見合う実力を得るには相応の努力をしないと駄目なのです……」

ξ゚⊿゚)ξ「才能ってのもよしあしね……」

ミセ*゚ー゚)リ「多少やっとかないと魔力の暴発とかあるかんねー、それを防ぐためにも勉強中」

ξ゚⊿゚)ξ「大変そうだけど、頑張ってねミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「うん! ツンちゃんもね!」

66 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:52:57 ID:ybrSpsO.0

ミセ*゚ー゚)リ「あーそうだ、二人とも冒険者なら依頼があるの」

ξ゚⊿゚)ξ「ん? 正規の依頼?」

ミセ*゚ー゚)リ「そうそう、ここから北に少し行ったところに森があるんだけどね、そこに魔物?が出るの」

爪'ー`)y‐「何かフワッとしてるね」

ミセ*゚ー゚)リ「うーん、本来ならわたしが見に行って報告書作るんだけど、手が離せなくて……
     数名が怪我や妙な症状を訴えてるんだ、目が見えなくなるとか足が動かなくなるとか」

ξ゚⊿゚)ξ「魔法か毒?」

ミセ*゚ー゚)リ「かなぁとは思うんだけど、なにぶん情報が少なくて大変な仕事になると思う」

ξ゚⊿゚)ξ「ふむ……今ならお守りもあるし、魔法なら大丈夫かな」

爪'ー`)y‐「あんま過信しないでよー?」

ξ゚⊿゚)ξ「分かってるわよ、死にたくないもの」

ミセ*゚ー゚)リ「こんなフンワリした依頼でごめんね……代金は弾むみたいだから」

67 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:53:42 ID:ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「魔物の特徴は?」

ミセ*゚ー゚)リ「黒い影だって、人の形を模してはいるけどゆらゆら変形するみたい」

爪'ー`)y‐「不定形の影の魔物かぁ……魔法しか通じないとキツいかなー」

ξ゚⊿゚)ξ「ま、様子だけ見に行きましょ、無理そうならヒール引きずり出して」

爪'ー`)y‐「まぁそれでいっか、あの子なら安心感ある」

ミセ*゚ー゚)リ「んー……やっぱ上に言われたとは言え、こんな不安要素の多い依頼はなぁ……」

ξ゚⊿゚)ξ「しょうがないわよ、正体不明の討伐依頼はたまにあるし気にしないで」

爪'ー`)y‐「そうそう、もっとフワフワした依頼もあったしね」

ミセ*゚ー゚)リ「ぐぬぬ……国からの依頼なんだからもうちょっとなぁ……はぁ……」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ行きましょ狐、デレは宿に戻る?」

ζ(゚- ゚*ζ「いく」

ξ゚⊿゚)ξ「危なくなったら逃げなさいよ」

ζ(゚- ゚*ζ「あい」

68 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:54:04 ID:ybrSpsO.0




 緑の髪の女騎士に見送られ、僕らは得物を持って村を出る。
 その際に、足や腕を無くした元兵士達の視線が刺さるように向けられた。

 戦後のいさかいで出た傷痍軍人みたいなものか。
 道端に座り込み、余所者へ期待と敵意の眼差しを向けている。

 僕は彼らに銅貨の一枚も渡す事は無く、相棒を早く歩かせ、デレを自分のマントに隠して歩いた。


 ああ言った手合いは下手に恵むと厄介だ。
 あの騎士さんなら信頼できそうだし、金貨一枚でも渡しておいた方がきっとマシだ。

 兵士としてのプライドや憎しみ、嫉妬と虚無感、絶望。
 それは僕も散々身近に感じてきたものだからこそ、下手に手を出してはいけない。

 彼らは乞うが、施す相手に敵意を向ける。
 花売りの少女とは違う、だからツンちゃんには決して触れさせないようにしないと。


爪'o`)y‐「けほ」

ξ゚⊿゚)ξ「ん?」

69 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:54:31 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「んー……喉がなんかなー……」

ξ゚⊿゚)ξ「空気が冷えてるし、ここらは埃っぽいものね」

ζ(゚- ゚*ζ「おにさんだいじ?」

爪'ー`)y‐「んー大丈夫、ちゃんと喉の保護もしてるし……後でのど飴でも舐めとくか」

ξ゚⊿゚)ξ「この時期はしょうがないわね……」

爪'ー`)y‐「そうなんだよねー……空気の綺麗な暖かい場所に行きたい……」

ξ゚⊿゚)ξ「今度地図見てみましょ」

爪'ー`)y‐「わーい」

ξ゚⊿゚)ξ「でもあんた旅の目的忘れてないでしょうね」

爪'ー`)y‐「えっ、デレを送り届けるんじゃ」

ξ゚⊿゚)ξ「解呪だろおい」

爪'ー`)y‐「ハッ」

70 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:54:57 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「そういや解呪のために旅してるんだった……」

ξ゚⊿゚)ξ「そのために武者修行を兼ねてあんたの護衛してんのよ私は」

爪'ー`)y‐「護衛……?」

ξ゚⊿゚)ξ「ご、護衛だし……してるし……」

爪'ー`)y‐

ξ゚⊿゚)ξ「してるし……!!」

ζ(゚- ゚*ζ(おねさんがいちばんころしてる)

ζ(゚- ゚*ζ「おにさん、あい」

爪'ー`)y‐「ん? 飴?」

ζ(゚- ゚*ζ「きしさんくれた、あげる」

爪'ー`)y‐「自分で食べなよー、僕は煙草で喉は守れるから」

⊂ζ(゚- ゚*ζ「がうがう」

爪>ー<)y‐「ンモーアリガトー」

ξ゚⊿゚)ξ(なんだこいつら……)

71 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:55:21 ID:ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「ま、喉は大事にしなさいよね」

爪'ー`)y‐「してるってばー」

ξ゚⊿゚)ξ「子守唄が無いと寝にくいんだから……」

爪'ー`)y‐「今ツンちゃんが小さい子みたいな事言った気がする」

ξ゚⊿゚)ξ「うっさい」

ζ(゚- ゚*ζ「ちいさいこ?」

ξ゚⊿゚)ξづ「うっさい」グシャグシャ

ζ(- -*ζ「がぅー」

爪'ー`)y‐(ほほえましいなー)

爪'o`)"「ケホ」

爪'ー`)y‐「んー……? 何か変な感じがするな……」

爪'ー`)y‐(まぁ労れば良くなるか……無駄に喉は使わないでおこう)

72 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:56:01 ID:ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「森に入ったけど、魔物の気配は……」

ζ(゚- ゚*ζ「ぐる」

ξ゚⊿゚)ξ「あ」
    ,_
ζ(゚皿゚*ζ「ぐるるる……」

ξ゚⊿゚)ξ「おお……威嚇してる……」

爪'ー`)y‐「ここまで警戒してるって事は……ヤバいし近いね」

ξ゚⊿゚)ξ「音は無い……気配は……」


 身を低くして喉の奥から唸り声を出すデレに、僕とツンちゃんは警戒を強める。

 周囲は暗い森、何のへんてつも無い場所だが、徐々に嫌な気配が近付くのを感じた。


 ちゃき、と斧を握り直すツンちゃん。
 その横顔を見て、僕は加護の歌を歌っておこうと楽器を爪弾く。

 加護の歌は文字通り、女神からの加護を受けて所謂防御力を上げる。
 見せる事は無いと思っていたバフの場面、大きく静かに息を吸って、少しくらい格好良く


爪; Д )"「げっ、ほ……けほっげほっ、……あれ……?」


 決まりやしない。

 込み上げる咳に息を吸う事もままならず、歌うどころじゃない。

73 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:57:08 ID:ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「? 狐ちょっと、大丈夫?」

爪'ー`)y‐「う、ん……何か……急に喉が……けほっ、ぇほっ……」

ξ゚⊿゚)ξ「……嫌な気配が近い、そのせいかも知れないわ、一旦戻って」
    ,_
ζ(゚Д゚*ζ「がうっ! がうがうっ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「ッ、来たか」

爪'ー`)y‐「ぁー……ごめ、けほっ……歌えな……こほっ、げほ」

ξ゚⊿゚)ξ「良いからデレお願い、私が魔物を探るから」

爪'ー`)y‐「う、ん……」


 何だろう、確かに濃い魔力は感じる、肌をぴりぴりと撫でている。

 けどそれ以外にも、何だか凄く嫌なものを感じる。
 これは何だろう、身近な様な、なにか、遠いような。


 ツンちゃんに背中を預けた状態で周囲を見回しといると、ぞわ、と肌が粟立つ。

 慌てて振り返れば、そこには地面から染み出すようにうねる、黒い影。

74 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:57:37 ID:ybrSpsO.0

 じゅるじゅると形を変え、蠢き、濁り腐ったような黒い何か。
 その何かはふらふらと、じりじりと、こちらに近付いてくる。

 近くに身を隠すところは。
 ごろごろと大きな岩が転がる場所があるが、森の中、木々ばかりで身を隠せそうにない。
 デレを連れて隠れようにもこれじゃ難しい、やっぱり早めに逃げた方が。

 ツンちゃんを見る。
 目を大きく開き、嫌な汗を流しながら先頭体勢のままだ。

 デレを見る。
 身を低くしたまま唸り、時おり吼えながら魔物を睨む。


 おいおい腰が引けてるのは僕だけって事かい。
 デレを引き寄せて、僕の横まで下がらせる、さすがに前に出るには危ないよ。

 しかしこれは、何だか嫌な予感がする。
 今は退いて、魔法を使える人間を連れてきた方が。


ξ゚⊿゚)ξ「ッ! 狐避けろ!!」

爪;'ー`)y‐「っ!?」

75 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:58:30 ID:ybrSpsO.0

 ツンちゃんの声に前へ向き直り、言われた通りに避けようとはした。

 しかし僕の動作はそれに敵わず、僕は正面から‘何か’をモロに受けてしまって。

 胸へと叩き付けられる力と、その力に簡単に吹き飛ばされる身体。
 背中から岩へ叩き付けられた僕は、肺から息を絞り出して倒れ込む。


 岩場に叩き付けられた背中と、同時にぶつけた頭が痛む。
 頭からは血が出たらしく、顔がじわじわと濡れていった。

 ああくそ、何だか本当に良いとこ無しだな。
 こんなのカッコ悪いったらないじゃないか。


 ねぇツンちゃん、今すっごい痛い、


爪;'ー`)y‐「─────。」


 あれ

76 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:59:04 ID:ybrSpsO.0

爪;' -`)y‐「───? ────。」


 あれ、あ、


爪;'Д`)y‐「───ッ! ────ッ!!」


 声、が。


 出ない。



ξ;゚⊿゚)ξ「狐ッ! 怪我は!?」

爪; Д )y‐「ッ! ────!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「……え?」


 どうしよう、どうしよう。

 声が、出ない、声が。

77 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 21:59:36 ID:ybrSpsO.0

 え、やだな、うそ、どうしよう。
 僕は詩人なのに、吟遊詩人なのに。

 おかしいこんな、急に声が出なくなるなんて。
 さっきまで咳はあったけど、こんな。


 狼狽する僕を見たツンちゃんが、こちらを気にしながら戸惑いを見せる。

 その背中に、影は揺らめき、近付いて。


爪;'Д`)y‐「ッ!? ──────ッ!!」


 ツンちゃん後ろ、早く避けて

 危ないからツンちゃん


ξ;゚⊿゚)ξ「狐、まさか声……ぎゃっ!?」


 僕の声は届かないし、ツンちゃんは横っ面を殴り倒されるし。

 ああ、もう、僕は何をしてるんだろう。

78 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:00:58 ID:ybrSpsO.0

 ツンちゃんに逃げろと伝えたくても声は出ない。
 僕は死んでもどうにかなるが、この子達はそうじゃない。

 だから僕を無視してでも逃げてほしいのに、幼子は僕に駆け寄り、相棒は武器を握って再び立つ。
 大丈夫かと何度も問い掛けるデレに返すべき言葉を吐き出せない。
 僕らを庇う様に立つ小さな背中に、何も言ってあげられない。


 ああ、背中が痛む。
 肋骨でも折れたか、いっそ死んだ方が楽なのに。

 でもまだ大丈夫、立ち上がれる。
 デレの手を借りながら立ち上がると、前方から強い魔力を感じた。


 黒い影はうねりながら、気味の悪い声をあげて魔力を放出する。
 影から伸びる尾の様な触手の様な物がびちびちと地面を叩き、土埃を巻き上げてはツンちゃんを狙った。

 斧でその攻撃を受け流し、弾き、返す様に一閃入れる。
 しかし手応えが無いらしく、斧が影を裂いても重みを感じていない。
 ツンちゃんが何度斧を振り抜いて影を引き裂いても、影は霧散する事なくじゅるじゅると元の形へ戻る。

 やっぱり物理は効かないタイプだ。
 今は退かないと。

79 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:01:30 ID:ybrSpsO.0

 妙に重い身体を引き摺って、デレの手を借りて、ツンちゃんに手を伸ばす。

 立ち上がった筈なのに視界は揺らぎ、低くなる。

 土の味と血の味、緑の臭いと血の臭い。
 地面に倒れた衝撃すら感じない、けれど未だ死を迎える様子も無い。

 何なんだ、さっきから。
 僕の身体に、何が起きてるって言うんだ。


 デレが心配そうに僕を呼ぶ。
 視線で応える事しか出来ないが、ツンちゃんを助けろと言いたくて。

 こうなると僕はお荷物でしかない。
 捨てて行けば良い、暫くすれば蘇る。
 早くツンちゃんを連れて村に戻り、ヒールでも誰でも連れてきて。

 ぱくぱくと口を開閉しても、この喉から声は出てこない。
 困ったようにツンちゃんと僕を見比べるデレ。

 地面に倒れたまま、身体は動かない。
 視線だけを動かしてツンちゃんを見上げると、小さな相棒は必死に魔物へ攻撃を仕掛けていた。

80 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:04:06 ID:ybrSpsO.0

 だがその無駄な行動は、不意に終わりを告げる。


 黒い魔物はずるずると蠢き、尾の様な部分をしならせて、振り抜いた。

 ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2340.png

 相棒な小さくて細い身体を引き裂く黒い一閃。

 地面に飛び散る赤い液体と、背中から倒れた相棒の身体。


(ツンちゃん)


 声は出なかった。
 身体も動かない。
 必死に震える手を伸ばしても届きやしない。


 ああもう少し、もう少しでも、僕が身を守る術を持っていれば。
 そうすれば目の前で倒れる小さな身体を、救えたのだろうか。

81 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:04:45 ID:ybrSpsO.0

 背中から倒れ込んだ相棒は、真っ赤な飛沫を散らして息を吐く。
 流れる血の量は夥しい、通常の人間がしてはいけない類いの怪我だ。

 僕の側に踞っていたデレが悲鳴を上げてツンちゃんに飛び付く。
 ぽろぽろと泣きながら血を止めようと傷を押さえている。

 早く、誰かを呼んできて。
 狼狽して、困惑して、取り乱す子供には何も伝えられない。

 腕に力を込めて、地面を這いずろうとした。
 込めるべき力も身体には残っていないらしく、不発に終わった。


 どうしよう、どうしよう。

 僕は動けない、ツンちゃんは傷を負った、デレは取り乱している。
 村を出てまださして時間も経っていない、騎士様がおかしいと思って探しに来るのはまだ先だろう。

 ヒールは、駄目だ、ここに居る事すら知らない。
 デレ、僕の上着に術式があるから、それをツンちゃんに。

 ああもう声が出ない。
 どうして、急いでるのに、体も動かない、ああもう。

 どんな奇跡が起これば、どうにかなるんだよこの状況は。

83 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:05:46 ID:ybrSpsO.0

 すぐそこなのに、手が届かない相棒。

 そんな仰向けに倒れていた相棒の身体が動き、ゆっくりと身を起こす。
 狼狽えるデレはツンちゃんを寝かせようとするが、その手を払って制止する。

 傷ついた顔から、裂けた鎧の向こうから、ぼたぼたと血を流しながら立ち上がる背中。

 握りしめた斧槍を構え直して、よく通る声を響かせた。


ξ#゙⊿ )ξ「デレ!! フォックスを連れて村へ戻れ!!!」

ζ(;- ;*ζ「ッ!」


 幼い魔族に向けられた怒号。

 そして、初めて呼ばれた僕の名前。


 主人からの命令を受けた忠犬は、弾かれた様に動き、僕の腕を掴む。

 しかし僕を運ぶよりも早く、肉の裂ける音が響いた。

84 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:06:35 ID:ybrSpsO.0

 どさり、再び倒れる小さな身体。
 どんどん広がる血溜まりは、相棒を戦士から少女の姿に変えた。


 ああ、ダメだ。
 僕には何も出来ない。

 デレお願い、僕は死んでもどうにかなるから。

 君のご主人を。
 僕の相棒を、連れて行って。



ζ( Д #ζ「ぐっ……がぁぁあああああああああ─────ッ!!!!!」


 途切れそうになる意識の中。
 鼓膜を引き裂くような咆哮が響いた。


 幼いその姿からは想像も出来ないような、地の底から響くような咆哮は、黒い魔物を怯ませて。

 その隙に、デレは僕とツンちゃんを抱えて走り出した。

85 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:07:01 ID:ybrSpsO.0

 揺さぶられる視界。

 すぐ近くには血を流す、虚ろな目を開いたまま意識を失ったツンちゃん。

 はあ、はあ、と涙を振り払いながら走るデレ。


 ああ僕って、なんて、役立たずなんだろう。
 声も出ない、身体も動かない、とんだお荷物じゃないか。

 じわじわと、意識が、黒く塗りつぶされていく。
 魔力でもない、死でもない、気味の悪い何かが僕の内側を蝕んでいた。

 僕は、これを知っている。

 たしか、そう、これは。


 あのときの。

 僕が、不死者になった時の。



 魔女の、呪いだ。

86 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:07:34 ID:ybrSpsO.0




 今日は良い日だ。

 数年ぶりに幼馴染みに会えた。
 困ってた依頼もお願い出来たし、受け持った仕事も順調。

 久々にイケメンに口説かれたり、まぁ迷惑だけど。

 今日は良い日だ。
 夜になったら、ツンちゃんとお話したいな。

 お酒は苦手だから、一緒にご飯を食べて。
 懐かしい話を花を咲かせたいな。


ミセ*゚ー゚)リ「ふふーふー、ツンちゃん達大丈夫かなー」

ミセ*゚ー゚)リ「戻ってきたらご飯奢ってー、積もる話しもいっぱい……」

ミセ*゚−゚)リ゙ ピク


 壊れたままの家屋の瓦礫を片付けながら、幼馴染みと過ごす時間を想像しては笑っていた。

87 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:08:13 ID:ybrSpsO.0

 そんなわたしの鼻に届いたのは、血の臭い。
 それもどんどん濃くなり、近付いてくる。

 魔物でも来たのか、と瓦礫を投げ捨てて拳を握る。

 元僧侶である師匠より受け継いだ拳士の力と治癒の力。
 そして魔導師である先生達から受け継いだ魔法こそがわたしの武器。

 治癒魔法を得意とする魔法拳士ミセリちゃんの手にかかれば、ただの魔物なんていちころ。

 なん、だけど。


ζ(;Д;*ζ「がっ、がうぅっ!!」

ミセ;゚−゚)リ「デレちゃん!?」


 森の方角から走ってきたのは、数時間前に見送った二人を抱える小さな子供。
 抱えた大きな荷物は、真っ赤に染まっていて。


 その時わたしは察してしまった。

 あの依頼は、二人にするべきじゃなかったのだと。

88 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:09:23 ID:ybrSpsO.0

ζ(;Д;*ζ「た、すけて、おねさ、たすけてっ!!」

ミセ;゚−゚)リ「ッ……すぐ治癒魔法かけるから! 置いて!!」

ζ(;Д;*ζ「ひっ、ぐ……ぅうううっ……」


 相方さんはともかく、幼馴染みの傷は深い。

 泣きじゃくりながら地面に二人を下ろすデレちゃんを下がらせて、
 わたしはポケットから清められた白手袋を取り出し、装備する。

 教会で清められた手袋には治癒魔法の力を増幅させる効果がある。
 通常なら閉じきれない傷でも、こうすれば。


 右目から腹までを引き裂かれた幼馴染み。
 その傷は、命に関わるような深刻なもの。

 やだやだやめてよ、わたし友達まで亡くしたくない。
 ざけんなちくしょう、こんな傷スーパー拳士のミセリちゃんにかかれば。

 かかれば。



 おかしい。

89 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:10:15 ID:ybrSpsO.0

 手を翳して魔力を注ぐと、ぽわ、と緑がかった光が二人を包む。
 本来ならこれである程度の傷ならすぐ治る。

 その証拠に、小さな擦り傷なんかは消えていく。

 相棒さんの頭の傷も治ってる。
 ぱきぱきと骨の繋がる音もする。


 それなのに、幼馴染みの凄惨な傷は癒える様子が無い。

 おかしい、傷自体は塞がる筈だ。
 私の魔法じゃ生命力は戻せないが、傷くらいなら塞がる筈。

 か細いが息はしている。
 生きているなら治せる。
 心臓が動いているなら。
 血が流れているのなら。

 治せる、筈なのに。

 完全に失ったものは戻せない。
 吹き飛んだ手足なんかは生やせない。

 でも切り口の綺麗なものなら繋げられる。
 幼馴染みの傷は鋭利な刃物に似た傷口。

 だったら、塞がる筈なのに。

90 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:10:47 ID:ybrSpsO.0

ミセ; − )リ「────駄目だ」

ζ(;- ;*ζ「っ!?」


 これはきっと“特殊な傷”だ。

 治癒魔法が作用しないのは、そう言った傷。

 そしてわたしは、それをどうにかする手段を持ち合わせていない。


 これはわたしの力が及ばない事ではあるが、わたしの怠慢ではない。

 聖職者としての訓練も、魔導師としての訓練も受けた。
 だから知っている、わたしは知識として知っている。

 “こう言う傷”は、呪いによる物だ。


 そして呪いは、聖職者にすら解ける事は多くない。

91 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:11:43 ID:ybrSpsO.0

 呪いをもたらす魔物なんてそう居ない。
 ただの魔物がもたらす呪いなら聖職者にもどうにか出来る。

 でもこれは、違う。
 絶対に違う。

 だってこれは、だって、



ミセ;゚−゚)リ「……ッデレちゃん二人のところに立って!」

ζ(;- ;*ζ「あ、いっ」

ミセ;゚−゚)リ「わたしには助けられない、分かる? わたしでは、この二人を助けられないの」

ζ(;- ;*ζ「っ……ぅ、」

ミセ;゚−゚)リ「だから、助けてくれる人のところに君たちを転移させます、良い? 分かるかな?」

ζ(;- ;*ζ「あっ、い……あいっ!」

ミセ;゚−゚)リ「わたしが一番尊敬する魔導師の元に魔法で転移させる、ミセリに送られたって言えば分かるからね」

ζ(;- ;*ζ「あいっ!」

ミセ;゚−゚)リ「……ごめん、役立たずで本当にごめんっ!! 飛ばします!!」

93 名無しさん[sage] 2017/02/19(日) 22:12:57 ID:ybrSpsO.0





 ざわ、と森が揺れた。



 深く、暗く、鬱蒼とした森の奥の奥。


  ぞろりと天を睨む様に聳える、蔦を這わせた灰色の塔。


 緑と土の匂いが溢れるそこ。


  ゆっくり、ゆっくりと塔の階段を降りてくる男の姿。



 その深く暗く、光のない、黒に近い青の双眸が、
  血まみれで泣きじゃくる、小さな魔族の姿をとらえた。




('A`)「────珍しいお客さんだな」



 つづく。

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