- 222 ◆tYDPzDQgtA 2017/03/05(日) 21:00:08 ID:uKegDIOI0
例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。
騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。
周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声、獣じみた幼い咆哮。
刃を振るい、歌声を響かせ、魔力を用い、路銀を稼いで進むのは三人。
一人は不機嫌そうに顔を歪める、若い女戦士。
もう一人は、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。
そんな二人の後ろをついて歩く、小さな魔族の子供。
【道のようです】
【最終話 いっしょに居たいって事。 後編】
彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。
- 223 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:01:08 ID:uKegDIOI0
デレを見送ってすぐ、僕はぼんやりとソファに座っていた。
身体についていた傷は無くなっているが、声は出ないまま。
呪いではなくその影響を受けて声が出なくなったが、ちゃんと治す方法はあると言う。
それが分かっただけでもありがたい、時間はかかっても治るのなら。
ちら、とツンちゃんが眠る部屋に視線を向ける。
先程見た、真っ白な顔で血を流し続ける姿が焼き付いて離れない。
眠るように目蓋を閉ざし、死人のような顔で胸の動きすらよく見ないと分からなくて。
あれは金バッチを持つ戦士の姿じゃない。
ただ傷付き倒れた、少女でしかない。
僕の目の前で、僕を守って、あの子はあんな姿になった。
ああ僕は、なんて情けないのだろう。
大の大人が狼狽えて、何も出来ずにただ座っている。
あんな小さな子供は、戦うために向かったのに。
爪' -`)(僕にも何か出来たらな)
爪' -`)(魔力も大して無いし、力も強くない、声が出なきゃ歌も歌えない)
爪' -`)(あー、やくたたず)
- 224 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:02:12 ID:uKegDIOI0
('A`)「お兄さん良いかな」
爪' -`)(あ、英雄さん)
('A`)「うん英雄だけどさ一応、ドクオで良いから」
爪' -`)(僕に何か用ですかね)
('A`)「お嬢ちゃんの傷にある呪いを少しでも軽くするために、魔力を設置しておきたくて」
爪' -`)(魔力を設置とは……)
('A`)「外から呪いに干渉したい、だから他方向からいけるようにね」
爪' -`)(何言ってるのかよくわからない)
('A`)「くっそー魔法畑の人間じゃないと会話が成り立たないぞクー」
川 ゚ -゚)「いや僕に言われましても僕はただのメイドですし」
爪' -`)(何言ってるのかよくわからないリターン)
川 ゚ -゚)「僕は常識を覆すような美貌の持ち主なのでメイドを自称しても許されるんですよフツメン様」
爪#'Д`)(イーケーメーンーでーすー!!!)
川 ゚ -゚)「はは、フツメン様が何言ってんのか全然わかんね」
('A`)「会話してただろ今」
- 225 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:03:07 ID:uKegDIOI0
改めて見ると、不思議な組み合わせだ。
顔色の悪い長身痩身の男。
さっきまではローブをまとっていたが、今は黒の上下で身体の細さがよくわかる。
背は異様に高いが、痩せぎすのために細長いと言う印象。
もう一人は美貌だのを自称するだけある、美しい顔立ちの青年。
美しくも貌良く整い、誰もを魅了できるであろう姿形。
ただどうにも性格に難がありそうだ、なぜかずっとメイドを自称している。
服装は執事なのに。
二人とも長い黒髪に青の瞳。
親子かと思ったが、顔面の差が著しい。
APP8と21くらいの差がある。
そろそろ人間が認識できる限界値だ。
しかもこの細長い方は、かの有名な英雄ドクオ・ソリテールだと言う。
戦争を終わらせてこの世界を焦土に変えられると言う伝説の魔導師。
まさかそんな魔導師が森の奥の塔に引き込もって従者にメイドを命じているとは。
- 226 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:04:09 ID:uKegDIOI0
─ヘ√('A`) ̄レv─ ピキィン
('A`)「それは誤解だ」
爪' -`)(何も言ってないと言うか何で返事出来るの怖い、脳に直接なの)
('A`)(それは誤解だ)
爪' -`)(うわ気持ち悪ッ)
川 ゚ -゚)(トライさんかよ)
('A`)「まあそれは置いといて、何か魔力の媒体になるもの持ってたりしないかな」
爪' -`)(媒体?)
('A`)「ああ、ほら魔石に魔力を込めて設置してたりするだろ、ああ言うのをしたいんだ」
爪' -`)(あー、とは言っても魔石はツンちゃんのお守りくらいしか)
('A`)「うーん……薄青い透明な石なんだけど……うちに在庫あったかな」
爪' -`)(生け贄が必要な物を……)
('A`)「天然の方です天然、人工より使いにくいけど……」
- 227 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:05:07 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「ご主人様、薄青い透明な石ですよね」
('A`)「ん? ああ、そうだけど」
川 ゚ -゚)「フツメン様の腰に下げてるこれ、皮袋の口が開いてるんですよ」
爪' -`)(あらやだ)
川 ゚ -゚)っ゚「薄青い透明な石」
('A`)
爪' -`)
川 ゚ -゚)「ダメですかね」
('A`)「お兄さんそれちょっと見せて」
爪' -`)づ(どうぞ)
('A`)
爪' -`)
('A`)「質の良い人工魔石だね……?」
爪;' -`)(えっ)
- 228 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:06:08 ID:uKegDIOI0
爪' -`)(待って待って僕そんな生け贄を要する石手に入れた覚えはないよ)
('A`)「いやでもこれ間違いないよ、人工魔石だよ、生け贄必要なやつだよ」
爪;' -`)(えぇぇぇ…………あっ)
('A`)?
爪' -`)(…………魔石ってどうやって造るの?)
('A`)「人間を含む生物に対して特殊な魔法をぶつけるやり方が多かった」
爪' -`)(アッ 僕が生け贄)
('A`)
('A`)「アッ 不死者だな?」
爪' -`)づ(魔法を食らって死んだあと、脳が飛び散ったあたりにこれが)ジャラ
('A`)「あっうーん……全部質の良い……えーと…………元脳ですね……」
爪' -`)(ああ……肉体変質させるタイプなんだ……)
('A`)「圧縮もするね……」
- 230 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:07:07 ID:uKegDIOI0
('A`)「しかし、これだけだと少し心許ないかな」
爪' -`)(英雄さんも魔石造れるの?)
('A`)「造れるけど」
爪' -`)(んじゃ僕から造って)
('A`)「死にますよ」
爪' -`)(だったら死にますよ)
('A`)「たぶんクソ痛いですよ」
爪' -`)(即死なら痛みもないですよ)
('A`)「……正直、不死者だからってあんまり死んでたら後々どうなるか分からないから」
爪' -`)(どうなろうと今は死にますよ)
('A`)「でもね、死は魂にも刻まれるんだ、解呪された時にどんな影響が」
爪' -`)(死にます)
('A`)「……まあ、今まで散々死んできたみたいだし君が良いなら良いけどさ」
爪' -`)(僕が死ぬ事で役に立つなら、喜んで死にますよ)
('A`)「…………命は粗末にしないでね」
爪'ー`)(元から粗末な命なもので)
- 231 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:08:04 ID:uKegDIOI0
('A`)「煙草さ」
爪'ー`)(はい?)
('A`)「吸って良いよ、喉の保護用だろ」
爪'ー`)y‐~ シュボ
('A`)「……じゃあ、君はあのお嬢ちゃんのために何度も死ぬ羽目になるけど良い?」
爪'ー`)y‐(良いよぉ)
('A`)「…………クー、貯蔵してある食料を持ってきておいて」
川 ゚ -゚)「いやしんぼですね」
('A`)「違うよ再生に使うタンパク源だよ、水とかもあっちの部屋の近くにお願い」
,,川 ゚ -゚)「美形使いの荒い」
('A`)「頑張れメイド」
爪'ー`)y‐(心踊らないメイドだ……)
- 232 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:09:09 ID:uKegDIOI0
('A`)「えーと……再生を加速する魔法を一応かけるから、ハイスピードで死と蘇生を繰り返すよ」
爪'ー`)y‐(はいはい)
('A`)「……あんまり殺したくないんだけど、今はしょうがないか、じゃあいくよ、そっちの部屋ね」
爪'ー`)y‐(はーい)
物置状態の部屋に通された僕は、英雄さんと向き合う。
英雄さんは複雑そうな顔で杖を、杖?
いやこれゲートボールのスティックだ、待って何それ僕それで殺さ アッ
蒼白い魔力の塊が叩き付けられて、全身が弾け飛んだ。
痛みを感じる暇も無かったが、以前と違い、不思議と意識が残っている。
文字通り全身、肉体のほとんどが弾け飛び僕には動かせない状態の身体になった。
それなのに意識だけは残り続け、この意識は頭ではなく物の部位からなる物だと察する。
これが所謂、魂だけの状態なのかな。
幽体みたいになるかと思ったけど、視界は真っ暗で体も無いから動かない。
夜とも闇とも違う暗さ。
体が無いから温度は感じない。
これが死の状態なのか。
それともこれは、
突然、世界に光と色が戻る。
- 234 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:10:09 ID:uKegDIOI0
爪;'ー`)y‐(うっわ、再生はっや)
('A`)「大丈夫か? 良い感じに吹き飛んだけど」
爪'ー`)y‐(死んでました?)
('A`)「肉の塊になったのを魔石にしたよ、ほら」
爪'ー`)y‐(うーん、一回でこれだけかぁ……)
('A`)「意外と少ないもんだね、純度を高めるためにはかなりの量が必要になる」
爪'ー`)y‐(わかった、殺して)
('A`)「死に慣れって本当は良くないんだけどなぁ……行くよ」
爪'ー`)y‐(合図しなくて良いから流れ作業でどんどん殺して)
('A`)「殺す身にもなってほしい」
爪'ー`)y‐(ご迷惑おかけします)
('A`)「良いけどね……じゃあわんこそばみたいに行くから」
爪'ー`)y‐(わんこ死)
- 235 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:11:08 ID:uKegDIOI0
弾け飛ぶ感覚と暗転する視界。
目に光が戻ると塔の床が見える。
そして再び身体は崩壊して暗転。
光が戻り視界は回る。
衝撃と闇。
明るく。
闇。
矢継ぎ早に繰り返される死と蘇生に、意識がぐるぐるとかき回されてるみたいになる。
激しい明滅の様に死の闇と生の光が入れ違いに巻き起こる。
身体は死んでる筈なのに、痛みもない筈なのに。
なぜだろう、妙に、気持ち悪い。
目を固く閉じたまま死んだとしても、蘇生の瞬間に世界は光に包まれる。
手が無いから顔を覆う事も出来ない。
- 236 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:12:11 ID:uKegDIOI0
でも頑張って死なないと。
ツンちゃんがこれで助かるなら。
助かるなら。
助かるんだっけ。
助ける?
ツンちゃんを助けなきゃ。
あんな怪我をしたから。
僕が何も出来なくて。
デレに大変な思いをさせて。
あんなに小さいのに。
何があったんだっけ。
僕は何をしたんだっけ。
明滅が気持ち悪い。
頭のなかがかき混ぜられる。
助けなきゃ。
僕に出来ること。
僕だから出来ること。
- 237 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:13:07 ID:uKegDIOI0
僕って何だっけ。
身体が無い。
僕はどこに居るんだっけ。
あの子達はどこだろう。
ここはどこだろう。
気持ち悪い。
僕は確か。
ああ頭が。
無い筈の頭が。
かき混ぜられて、捏ね回されて。
どうして僕は。
明滅が止まない。
金髪の子。
緑の目。
僕は何色だったっけ。
色なんてあったっけ。
黒髪の、褐色の子は。
角があって、緑の、
誰だっけ。
- 239 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:14:08 ID:uKegDIOI0
気持ち悪い。
頭の中が。
かき混ぜられて。
溶けていく。
気持ち悪い。
無くなっていく。
僕は何だっけ。
あの子達は誰だっけ。
僕は良いけど。
あの子達は、たしか。
僕が、僕の、僕は、
僕の、歌が、好きだって。
あの人、みたいに。
歌が、
- 240 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:15:07 ID:uKegDIOI0
爪; Д )「─────ッ!!!」
('A`)「お、っと」
再生されたばかりの身体が大きく跳ねて、空っぽの筈の胃の中身を吐き出した。
咳き込みながら嘔吐を繰り返し、ぜえぜえとかすれた息を吸っては吐き、吸っては吐き。
涙やら唾液やら胃液やらで顔をぐしゃぐしゃにした青年は、身体を折り畳むように座り込んでいる。
濡らしたタオルで顔を拭いてやろうと覗き込むと、どうやらやり過ぎたらしい。
目はどこも見ていないように濁り、混濁と言うに相応しい様子だ。
必死に酸素を求める喉も上手く開いていないのか、声にも呼吸にもならない音がする。
死と生の間を行き来し過ぎた。
もう少し加減すべきだったか、しかしこれくらいしなければ足りない。
規模の大きい、極めて純度の高い人工魔石。
彼の後ろに存在する、薄青く透明なそれの輝きは、普段目にする事も無い美しさだ。
- 242 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:16:06 ID:uKegDIOI0
俺の腰あたりまでの高さ、形は整っていないが、だからこそ良く光る。
この大きさと純度なら、通常の人間で言うと、大体2か3000人くらいの生け贄かな。
魔族はこんなものを造って兵器にしていたのか、恐ろしいものだ。
いくつも造っては人口が枯渇しそうだが、確かこれは生け贄の持つ魔力量に左右される。
それに自分で言うのもなんだが、ここまで純度を高めるのは相当な技術が必要だ。
これだけ殺したんだ。
そりゃあ、彼もおかしくなる。
だが必要なんだよこれが。
魔力を注ぐ側が俺一人では足りないから、これくらいの物が必要なんだ。
顔を拭いてやるも、彼はまだ咳き込みながらひゅうひゅうとかすれた息を繰り返す。
酸素を求めて大きく上下する背中をさすってやりながら、落ち着いて呼吸を促してやる。
ああ、もう少し加減をしてやるべきだった、勢い良くやり過ぎた。
俺もこんなの初めてやったんだ、こんな胸糞悪い事、本来はしたくなかったが。 まあ良い、許してくれ。
- 243 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:17:05 ID:uKegDIOI0
貯蔵庫から持ち出した食糧も尽きてしまった、相当量を備蓄していたがさすがに空っぽだ。
部屋の外で背中を向ける息子も大変だったろう、まあ途中で運ぶのやめてたけど。
それにしても、彼はまだ駄目そうだな。
呼吸は落ち着いてきたが、濁り腐った様な目はまだ何も見ていない。
俺は死に慣れてないが、予想は出来る。
生と死の繰り返しによる意識の混濁、身体に固着している魂そのものが混乱してしまっている。
だから死に過ぎるなと言ったんだけど、殺した俺が言うのもな。
今の彼にはこれが生で現実なのかも分かっていない。
繰り返し何かを呟く口許は、何を言っているのか。
いや、まさか歌っているのか。
こんな状態で何を歌うんだ。
自分が誰かも分からなくなってるだろうに。
- 244 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:18:05 ID:uKegDIOI0
金の月、銀の星
さざめく、風は、夜明けの空
金の、冠、銀の声
ざわざ、わ、なみうつ、草の色
花の冠、夜の、腕
幼い、娘、王たる男
('A`)「…………」
声にもならない歌を歌って。
なぜ歌うのかも分からない状態で。
吟遊詩人ってのはそう言う生き物なのか。
それとも彼が特殊なのか。
('A`)「……クー」
川 ゚ -゚)「はい」
('A`)「お茶を入れてくれ、全力のやつ」
川 ゚ -゚)゙「任せろ」
- 245 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:19:08 ID:uKegDIOI0
嘔吐は止んだが涙が止まる様子も無く、やや浅い呼吸の中、声もなく歌い続ける。
彼にとっての歌は、それほど大切な物なんだろうな。
魂を捏ね回されてかき混ぜられてもなお口から出るくらい、それは魂に刻まれているのだろう。
だがいつまでもこの状態では困る。
いやになるほど死んだ君には、そろそろ正気に戻って貰わなければ。
川 ゚ -゚)「お持ちしました」
('A`)「ありがとう」
受け取ったお茶、お茶かこれ、何だこの汚い銀紫マーブルカラー、台所にある材料で出来るのかこれ。
ともかくお茶として渡されたそれを、彼に飲ませる。
本能で拒絶する身体を押さえつけてなみなみ一杯分のお茶を飲み込ませ、口を押さえる。
びくびくと跳ねる身体と、手を引き剥がそうと爪を立てられるも、堪えてくれ。 それお茶だから。
そして静かになった身体を解放すると、再び大きく嘔吐した。
うん、正しい反応。 お茶だけど。
- 246 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:20:08 ID:uKegDIOI0
そして再度ぐしゃぐしゃになった顔を拭いてやると、目のよどみが取り払われていた。
ほんとあのお茶何だよ、魔女の血の呪いとか染み出てるんじゃないのか。
彼は戸惑うような眼差しでそこらを見回し、数回咳き込んで深呼吸。
もぞ、と腕の中から身を起こして、疲れた顔を俺に向けた。
爪;'ー`)(…………生きてる?)
('A`)「生きてる」
爪;'ー`)(魔石は……?)
('A`)「出来てる」
爪;'ー`)(……これは?)
('A`)「お茶」
爪;'ー`)(お茶……?)
川 ゚ -゚)「おかわりいります?」
('A`)「やめてあげて」
川 ゚ -゚)「人のお茶を気付け薬に使うのをやめろ」
- 247 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:21:07 ID:uKegDIOI0
青年が正気に戻ったのを確認すると、部屋の隅から替えの毛布を引きずり出して肩にかけてやる。
身体に傷は残ってなさそうだし、恐らく蘇生もちゃんと出来ている。
飛び散っていた身体のパーツや血も綺麗になったし、ここはクーに任せよう。
魔石をお嬢ちゃんの眠る部屋に移動させて、魔力を込めておかないと。
お嬢ちゃんの眠る部屋は変わらず濃い血の臭い。
横たわる小さな身体に巻き付けられた裂いたシーツは赤く染まり、代わりに肌は血の気もなく真っ白だ。
だが出血はややは落ち着いたようだ、呪いの気配も薄くなってる。
あの子と見知らぬ魔女の子がきっと頑張っているのだろう。
俺が向こうに行ってやれれば良かったんだが、どうにかなりそうだな。
そろそろ日も落ちてきた、早く帰って来られたら良いんだけど。
よし、魔石の設置はこれで良い。
魔力を込め、あー怖い怖い一気に注ぐと割れそうで怖い。
さすがに何度もあんな事したくないしさせたくないし。
うん、出力を調整して。
こんな感じだなうん。
よしよしちゃんと充填された。
傷を治すのに解呪は最低条件だけど、呪いを解いたからたちまち治るわけじゃない。
解けたら解けたで、また大変なんだから。
よし、取り敢えず彼の煙草ケースはこれか。
前のは残り少なかったし、新しく持っていってやろう。
少し休憩しないと。
- 248 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:22:13 ID:uKegDIOI0
,,( 'A`)「魔石の設置してきた、はい煙草、少しは落ち着くだろ」
爪'ー`)(あ、どうも)
('A`)「あーそうだ、クー、俺の服を貸してあげて」
川 ゚ -゚)「はいはい今日は美形使いが本当に荒い」
爪'ー`)y‐(と言うかなぜ素っ裸なんです僕)
('A`)「再生する時に邪魔だし汚れてたから洗濯してある」
爪'ー`)y‐(えぇ……全裸で蘇生されてたの僕……)
('A`)「全裸の男と対峙していた俺の気持ちも察してほしい……」
川 ゚ -゚)「それを眺めていた僕の気持ちも察してほしい、はいどうぞ」
爪'ー`)y‐(あ、どうもお借りします)
('A`)「パンツのサイズ合いますかね」
爪'ー`)y‐(わざわざ新品をありがとうございます)
川 ゚ -゚)「ひっでぇ絵面だな」
( ^ω^)
( ^ω^)(お野菜置いて帰ろう……)
お隣さんは見た────!
- 249 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:23:07 ID:uKegDIOI0
爪'ー`)y‐(あ、着れる着れる、ちょっと細いな)
('A`)「すまんね痩せぎすで」
川 ゚ -゚)「でも萌え袖ですよ、やりましたね」
爪'ー`)y‐(嬉しい要素が)
川 ゚ -゚)「ほら僕はこの争いの種になるような美貌ですけど男ばっか三人でむさ苦しいですし」
爪'ー`)y‐(何なんだろうこの人は)
('A`)「悲しいかなメイドなんだ」
川 ゚ -゚)「萌えキャラです」
爪'ー`)y‐(ときめきの一欠片も感じない……)
川 ゚ -゚)「フツメン様も今は萌え要素あるんだし媚びてどうぞ」
爪'ー`)y‐(やだよなんかすごくやだよ)
- 250 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:24:16 ID:uKegDIOI0
('A`)「クー」
川 ゚ -゚)「はい?」
('A`)「萌えは、もう古い」
川 ゚ -゚)
('A`)
川 ゚ -゚)「バブみでしたっけ……」
('A`)「それはこの面子では適用されないよ……」
川 ゚ -゚)「えっ……じゃあ尊み……?」
('A`)「尊くないよこの面子……」
川 ゚ -゚)「あと何でしたっけ……沼……?」
('A`)「水溜まり以下だよ……!」
川 ゚ -゚)「はぁまじもうむりとうといつらい」
('A`)「女の子が言ってるのよく見かけるけど!!」
- 251 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:25:10 ID:uKegDIOI0
爪'ー`)y‐(面白いなーこの人たち……)
('A`)「ほらお兄さんドン引きだから」
爪'ー`)y‐(いやそこまででは)
川 ゚ -゚)「フツメン様さすが平凡でいらっしゃる」
爪#'Д`)y‐(イーケーメーンーでーすー!!)
川 ゚ -゚)「はは何いってんのか全然わかんね」
('A`)「……さて、休憩はそろそろ終わろうか」
爪'ー`)y‐(僕にもやる事ある?)
('A`)「んー、後で何かやってもらう事が出来るかも」
爪'ー`)y‐(じゃあ何しとこう)
川 ゚ -゚)「洗濯手伝います?」
爪'ー`)y‐(んじゃ手伝います)
- 253 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:26:27 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「まあ干すの手伝って貰うだけですけど、全自動ですし」
爪'ー`)y‐(乾燥機は無いのか……)
('A`)(顔が良いのが並ぶと華やかだなあ)
川 ゚ -゚)「ああすみませんフツメン様、僕の隣だと引き立て役になってしまってお辛いでしょうに」
爪#'皿`)ギー
('A`)(全く和気藹々としないな本当に)
川 ゚ -゚)「フツメン様おいくつですか?」
爪'ー`)y‐(イケメン26歳です)
川 ゚ -゚)「五つも上ですか」
爪'ー`)y‐(そうなの)
川 ゚ -゚)「五つも上なのにこの世界をも揺るがす美貌に嫉妬するのは大人げないフツメンなのでは?」
爪#'皿`)ギィー
('A`)「何でそう煽りたがるんだお前は」
川 ゚ -゚)「すみませんこれニュートラルで」
- 254 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:27:07 ID:uKegDIOI0
('A`)「さ、て……魔石の動作確認もしたいし、お嬢ちゃんの様子は……」
('A`)
('A` )
( 'A`)
('A`)「クー」
川 ゚ -゚)「はーい?」
('A`)「お嬢ちゃんそっちに居るかい」
川 ゚ -゚)「居るわけないでしょ寝てんのに」
('A`)「そうだよなあ」
爪'ー`)y‐(あはは変な事を)
川 ゚ -゚)
爪'ー`)y‐
川 ゚ -゚)「ご主人様ちょっと」
爪;'Д`)y‐(ツンちゃんどうなってんの!!?)
('A`)「いやーそれがな」
('A`)
('A`)「居ない」
爪;'Д`)y‐(はぁぁあああああっ!!??)
- 255 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:28:07 ID:uKegDIOI0
つい10分ほど前に立ち入った時は横たわっていた筈のお嬢ちゃんの姿が、今はどこにも無い。
血まみれの台と魔石だけが、ただ虚しく存在している。
慌てて飛び込んできた青年が狼狽えながら部屋の中を見回す。
だがこの部屋はほとんど物は無いし隠れるような場所も無い。
クーは部屋に入らず薄目の状態で様子を見ている。
血怖いもんなお前は。
俺はと言うと、割りとテンパっていた。
さっきまでそこに間違いなく寝ていた、死にかけの人間が居なくなったんだ。
責任問題だしあの怪我で動けるとも思えん、割りと真面目に有り得ない事が起きている。
おおお落ち着けまず痕跡を探すんだ。
爪;'Д`)y‐(ツンちゃん! ツンちゃーん!?)
川 ゚ -゚)「声出てませんから落ち着いて下さい」
爪;'Д`)y‐(そんな事言ったってさぁ!?)
- 256 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:29:07 ID:uKegDIOI0
('A`)「どどどこに消えるんだあの怪我でこの森に誘拐犯なんか入れないぞ」
川 ゚ -゚)「落ち着けよオッサン」
('A`)「だってお前アレだぞ10分くらい前に来た時は寝てたんだぞ」
川 ゚ -゚)「窓、血付いてません?」
爪;'Д`)y‐(!! 手の跡!?)
('A`)「えっ待ってマジであの子が自ら出ていったの」
川 ゚ -゚)「うちの塔は窓にガラス入ってませんから、出るの簡単だったんでしょうね」
('A`)「何で冷静なんだお前は」
川 ゚ -゚)「大テンパり野郎が二人も目の前に居たら冷静にもなりますよ」
爪;'Д`)y‐(……僕の荷物これだけ?)
('A`)「え? あった分はそれだけだったけど……」
爪;'Д`)y‐(僕のナイフが無いんだけど……)
('A`)「あのクッソ趣味の悪い金色で宝石付いてるやつ? 帽子の側に置いたはず」
爪;'Д`)y‐(…………帽子に血が付いてる)
('A`)「…………机に手の跡もあるね」
- 258 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:30:06 ID:uKegDIOI0
爪;'Д`)y‐
('A`)
川 ゚ -゚)「汚い顔が並んでますけど、一つ良いですか」
('A`)「今はスルーだ、何だクー」
川 ゚ -゚)「あのお嬢さんは、本当に意識を無くしていたんですか?」
爪;'Д`)y‐(だって気を失ってたよ?)
('A`)「ああ、あの傷では意識不明になる筈だ」
川 ゚ -゚)「でも未知みたいな呪い受けたんですよね、何があるかわかんないと思いますけど」
爪;'Д`)y‐(…………)
('A`)「…………」
川 ゚ -゚)「まあ僕は呪いにやられた事も大怪我を負った事も無いのでその辺は分かりませんが」
('A`)「……えっ、じゃあアレか?」
爪;'Д`)y‐(意識がずっとあった可能性があるって事……?)
('A`)「…………い、いやいやでも意識があったからって、まず身体動かせないだろうし」
爪;'Д`)y‐(そ、そうだよ! 何が起きてるか分からないのに話題を増やさないでよ!?)
- 259 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:31:07 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「それより探しに行きません?」
('A`)「ハッ そうだ探そう! 森の中なら俺の独壇場なんだからすぐに探せ」
川 ゚ -゚)「た所で森の中には転移魔法使えませんし」
('A`)「そうだった俺は役立たずだった」
爪;'Д`)y‐(だから僕の喉は来月に持ち越しだったの!?)
('A`)「それもまた理由の一つだ……」
川 ゚ -゚)「そしてこれはランタンです」
('A`)「はい」
川 ゚ -゚)「でもご主人様は何かあった時にここに居ないと無能極まるので動かないで下さい」
('A`)「ぐう」
川 ゚ -゚)「フツメン様は声も出ないのに探しに行くとか愚の骨頂なので動かないで下さい」
爪;'Д`)y‐(ぐう)
川 ゚ -゚)「じゃ、行ってきます」
('A`)「クーすまない……本当にすまない……」
爪;'Д`)y‐(心がいたい……申し訳ない……)
,,川 ゚ -゚)(血見るのやだなぁ)
- 260 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:32:06 ID:uKegDIOI0
('A`)「…………」
爪'ー`)y‐(…………)
('A`)「ごめんね……役に立たない英雄で……」
爪'ー`)y‐(いや僕こそ……何もしてませんし……)
('A`)「しかしあんな傷で呪い受けて動けるとかそんな……ロマじゃあるまいし……」
爪'ー`)y‐(ろま?)
('A`)「ロマネスク・ミュスクル、俺の古い友人でね、割りと有名な奴なんだけど」
爪'ー`)y‐(ツンちゃんの師匠がミュスクルさんらしいんだけど)
('A`)「そういや弟子取ったって言ってたな」
爪'ー`)y‐
('A`)
爪'ー`)y‐(えっマジで英雄が師匠だったの?)
('A`)「弟子取る様なミュスクルさん他に居ないよ」
- 262 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:33:06 ID:uKegDIOI0
爪'ー`)y‐(許嫁が亡くなったとか)
('A`)「そうそう、家同士が決めたやつ、しかも生まれる前に」
爪'ー`)y‐(貴族によくあるやつかぁ)
('A`)「なかなか生まれなかったから確か26歳くらいの年の差だったんじゃないかな」
爪;'ー`)y‐(ヤバくない?)
('A`)「あいつは馬鹿だけど真面目だから、彼女が成人するまでは清い関係貫くつってたんだけどね
彼女の方が五歳で亡くなっちゃって、かなり落ち込んでたし……俺がもっと外を見てればなぁ……」
爪'ー`)y‐(あー……)
('A`)「まあ今では落ち着いたけど」
爪'ー`)y‐(気になる事が一つ)
('A`)「はい?」
爪'ー`)y‐(相思相愛だったと聞いたんだけど)
('A`)「君はさ、運命って信じるタイプ?」
爪'ー`)y‐(時と場合による)
- 263 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:34:07 ID:uKegDIOI0
('A`)「運命って、定められてる事が多いんだけど、人の気持ち次第で変えられるものなんだ」
爪'ー`)y‐(はあ)
('A`)「けど中には、決して変えられない運命もある」
爪'ー`)y‐(何で言い切れるんです?)
('A`)「変えられない運命はきっと変えてはいけない事なんだと彼女が言うから」
爪'ー`)y‐(……?)
('A`)「彼女曰く、彼女の死は決して避けられない物で、避けられる世界は存在しないと
そしてロマと彼女が結ばれないのも、愛し合うのもまた定められているらしいよ」
爪'ー`)y‐(??? 何かカルトめいてきたんだけど)
('A`)「はは、まぁ魔女ってカルトめいてるしな」
爪'ー`)y‐(彼女って、もう亡くなってるのに……)
('A`)「死者がどこに居るかは、生者にはなかなか分からんものさ」
- 264 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:35:10 ID:uKegDIOI0
('A`)「……皆が戻ってきた時のために、食事の準備でもしよう」
爪'ー`)y‐(手伝うよ、少しは出来るから)
('A`)「はあ意外な、ロマの弟子ならあの子がしそうなもんなのに」
爪'ー`)y‐(手掴みで肉を食う野生児だから……)
('A`)「ああそっちに特化したの……」
('A`)
('A`)(最たる魔女でも運命には抗えんのだなあ)
('A`)(いや、抗ったからこそ五年は共に過ごせたのか)
('A`)(さすがの俺も、運命には手を出せんなあ……ひぐらしじゃあるまいし……)
爪'ー`)y‐(英雄さん何作る?)
('A`)「食材尽きたのを今思い出した」
爪'ー`)y‐(駄目じゃん……)
- 265 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:36:27 ID:uKegDIOI0
- ───────────
暗い世界。
痛みと冷たさ。
背中には固い感触。
身体から血の流れる感覚。
少し離れた場所から声がする。
満月の夜、北東の泉、花、今夜
喉を治す、声、呪い、治せない
手を握られる。
髪が触れる。
あたたかい雫。
手のひらに触れているのは、唇か。
ごめん。 ごめん。 ぼくのせいだ。
あたたかさと共に、懺悔が手のひらから伝わる。
声のない懺悔と、涙が、私の手を濡らして行く。
- 266 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:37:08 ID:uKegDIOI0
煙草の匂い。
甘くて不思議な匂い。
ああ、狐か。
私の手を握り、私の頬を拭い、私に謝り続けているのは。
馬鹿な事を。
あんたが謝ったって、私は自分を守れるほど強くはならないのに。
手が離れる。
デレの声。
魔力、魔女、元凶、魔族。
倒す、呪い、傷、治す為。
ああ、あの子まで危険に追いやってしまう。
私は何をしているのだろう。
でも、良かった。
二人とも、元気なんだな。
- 267 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:38:07 ID:uKegDIOI0
ここは、どこだろう。
どこかに転移された気がするが。
ミセリは居ないみたいだ。
知らない人の声もする。
いまいち、思考がまとまらない。
私は確か、変な影に殴り倒されたんだったか。
いや違うな、引き裂かれたんだ。
右目から腹まで、真っ直ぐに引き裂かれて。
ああくそ、痛いのはそのせいか。
じくじく、ずきずき、傷の奥から、黒くてぬめる気持ちの悪い何かも感じる。
しかし本来なら、もっと痛むはずだ。
恐らく出血が多いんだろうな、頭がふわつく。
頭が少し駄目になっているから、痛みを感じにくいんだろう。
でも、不思議とそのまま意識が遠退く感じはしない。
血が注ぎ足されて居るような感じだ。
知らない誰かが、何かをしているのかもしれない。
ミセリが居ない、転移された気がする、そして知らない声。
たぶんこの知らない誰かは、ミセリが頼った相手だ。 なら、安心だ、あの子は頭が良いから。
- 268 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:39:06 ID:uKegDIOI0
そう、あの子は昔から頭が良かった。
喧嘩は強いくせに、勉強が好きで。
私が先生に連れてこられた時は、まだ少し暗い目をする事もあって。
でも少しずつ、先生のお陰で仲良くなって、孤児院で一番の友達になった。
先生も良い人だったな。
今も元気みたいで良かった。
私が母親に捨てられて、森の中をさまよって。
お腹が空いて、心細くて、なんだかすごく腹立たしくて。
牛くらいなら殺せるからって、熊に襲いかかって、ああ、笑える、何て馬鹿なんだろ。
結局、ほぼ即死くらいの反撃を貰って。
あの時は痛かったかな、確か、背骨を砕かれたから痛みは麻痺したんだったか。
でもすぐに先生が治療してくれて、大変だっただろうな、大怪我だったし。
だから孤児院に運ばれて、しばらくは寝たきりで、でも後遺症も無くて良かった。
そういや、ミセリは私の腕力を怖がらなかった。
だからあの子と友達になったんだっけ、ふふ。
あの子、賢いのに変だよなぁ、私みたいなのと仲良くなるなんて。
気持ち悪いかって聞いたら、かっこいいとか、笑ってやがった。
- 269 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:40:06 ID:uKegDIOI0
私の金髪と癖毛をよく羨ましがっていたか。
お姫様の必須条件だとか言って、最終的に恋愛投げ捨てて仕事と鍛練に励んでる癖に。
ああそう言えば、この髪もあの人譲りだな。
この髪も、目も、肌も顔立ちも、みんなあの人に似ているんだ。
私を気味の悪い存在と罵るあの人に。
化け物だ、気味が悪い、産むんじゃなかった。
時には手を振り上げての折檻と共に、私はその言葉で育てられた。
実際に化け物として始末されなかっただけマシなのだろう。
でも私は、あの人から可愛がられた記憶は無い。
見た目以外は褒められたものじゃない。
だから少しでも小綺麗にしろ。
そう髪を結われ、綺麗な服を着せられ、言葉も仕草も言われるがままに整えた。
所詮は田舎の村娘、小綺麗にしたところで何にもならない。
それでも見てくれだけは可愛いものだと、あの頃は言われたな。
- 270 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:41:06 ID:uKegDIOI0
それでも結局、私は村じゃ化け物扱いで。
あの人を怒らせたくないから普段はおとなしくしてて。
だけどあの人を化け物の母親だと言うから、私はカッとなって。
でも、人を傷付けるなって言われてたから、そいつんちの牛を殺したんだ。
角を掴んで、首をへし折って、半分くらいちぎって。
服に血がついたから、怒られると思って途中でやめて。
あの時から、みんなが汚いものを見る目から、恐ろしいものを見る目に変わった。
帰って謝ったら、怒られて。
今までに無いくらい怒られて。
しばらくは凄くピリピリしてて、私もおとなしくせざるをえなかった。
あの人は、きれいだったな。
いつも白粉の匂いがして、髪をきれいに巻いていた。
父さんの記憶はない。
たぶん、早くに死んだんだろう。
あの人はきれいだから、私が居なければ簡単に再婚できるのにといつも言ってた。
実際に私は邪魔だったのだろう、どんなにきれいでも、気立てが良くても、ばけものが娘では。
- 271 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:42:06 ID:uKegDIOI0
ああでも、あの人のご飯は、美味しかった気がする。
料理は得意じゃないみたいだけど、毎日作っていた。
私を罵りながら、叩きながら、着飾らせながら、暗い目で生きていた。
時おり、夜に泣いていた。 何かを見ながら、声を殺して。
私は。
私は母さんに、ただ愛されたかった。
良い子で居ようと努めた。
言うことはちゃんと聞いた。
わがままも言わなかったし、言いつけは守ってた。
いや、守りきれてないか、人前で物を潰したりするなって言われてたな。
でも私は、母さんにただ好かれたくて。
でも、でも愛されないままで、どんなにきれいにしても、お行儀よくしても、だめで。
私はどんなにきれいにしても、所詮は化け物でしかなかったんだ。
- 272 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:43:06 ID:uKegDIOI0
見てくれを良くしても扱いは変わらない。
どんなに頑張っても化け物扱いのまま。
ばかみたいな握力も制御できない。
じゃあもう、私はそう言う生き物として生きるしかないんだ。
私はばけものなんだと、認めて、受け入れて、生きるしかないんだ。
そう思ったら、楽になれた。
冒険者として旅をして、ばけもの扱いされても平気になった。
楽なように、心を痛めないように、好きなように生きるようにした。
綺麗な服はいらない。
動きにくいし、誰も私を認めてはくれない。
お行儀良くしたって意味はない。
一人だし、楽だし、そんなの誰も見ていない。
誰も褒めてくれない。
もう褒められなくて良い。
誰も認めてくれない。
もう認められなくて良い。
誰も人間として扱ってくれない。
じゃあもう、私はばけもので良い。
- 273 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:44:05 ID:uKegDIOI0
拗ねてるわけじゃない。
悲観してるわけでもない。
ただ、諦めてしまったんだ。
受け入れてしまったんだ。
その方が楽だったから。
別にお人形のように扱われたかったわけじゃないから。
ただ普通の、人間の娘として生まれたかっただけ。
ああでもばけもので良かった事もある。
師匠に出会えた、姉様とも出会えた、狐やデレと出会ったのもばけものだからだ。
大事な人達と出会えたのは、とても素敵な事だ。
私にとっての宝だ、決して手放してはいけないものだ。
空っぽだった私が、満たされたから。
本気で守りたいものが出来たから。
ああ、誰かの声がする。
見知らぬ人の声だ。
- 274 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:45:05 ID:uKegDIOI0
魔石、呪い、死、不死者。
変質、圧縮、魔法、殺す。
なにかが、なにかを潰す音。
びしゃ、と水っぽい何かが飛び散る音。
ぱきぱき。
氷が凍るような音。
じゅるじゅる。
ぐしゃり。
ぱきぱき。
じゅるじゅる。
ぐしゃり。
ぱきぱき。
繰り返し繰り返し、同じような音。
じゅるじゅる。 じゅるじゅる。
これは、狐が蘇生してる音?
- 275 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:46:06 ID:uKegDIOI0
魔石、変質、薄青の、透明な石。
そうか、狐は魔石の材料になるのか。
じゃあ今、どこかで、狐が死んでは蘇り、死んでは蘇り、材料になっているのか。
どうして? なんのために?
そんなことをしたら、狐だってさすがにつらいだろうに。
ぱきぱき。 ぱきぱき。
これは、魔石が生成される音?
ぱきぱき。 じゅるじゅる。
嫌な音。
ぱきぱき。
ぱきぱき。
ぐしゃり。 じゅるじゅる。
ぐしゃり。 じゅるじゅる。
「よくやりますね」
綺麗な声。
- 277 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:47:05 ID:uKegDIOI0
「お嬢さんのためだからって」
溜め息混じりの声。
「どれだけ殺すおつもりですか」
嫌悪感。
「仕方ないだろう、俺だってこんな外法はお断りだ」
悲痛。
「服、洗ってきますよ」
「ああ」
足音。
遠退く。
ぐしゃり。
じゅるじゅる。
ぱきぱき。
- 278 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:48:06 ID:uKegDIOI0
何回聞いただろう。
同じ音、どれだけ聞いただろう。
数えきれないくらい聞いた。
それだけ、狐は死んでいる。
不死者だからって、こんなに死んで大丈夫なのか。
何かよくないことになったりしないか。
ああ、狐、デレ、大丈夫なのかな。
狐の歌、また、聴きたいんだけど。
咳き込む音。
何かを吐き出している。
ひゅうひゅう、音が。
呼吸音かな。
ここまで聞こえるんだな。
狐の歌を聴きたい。
デレを抱いて眠りたい。
- 280 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:49:17 ID:uKegDIOI0
声が聞こえない。
狐の声。
どうしてだろう。
ふしぎだな。
声がしない。
狐の。
ああ。
あいつの声は、奪われたんだった。
あの歌声を、私は守れなかったんだ。
でも喉は、治せるんだっけ。
たしか、今夜。
北東、花、満月。
泉に花が。
- 281 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:50:11 ID:uKegDIOI0
ごとごと。
部屋に誰かが入ってくる。
私の顔や傷を覗き込んで、何かを確認するみたいに。
不思議な気配を感じる、魔力なのかな、近くに熱量があるような。
あ、ああ、その熱量が、私に向けられた。
なんだろう、これ、あたたかい、ああ。
身体に、熱が戻っていく。
暗い視界に、光を感じ始める。
はあ、と息を吐く。
ゆっくりと息を吸い、目蓋を持ち上げてみた。
見知らぬ灰色の空。
石造りの天井。
ひんやりとした空気の中、私に注がれている暖かな何か。
視線を向けると、そこには大きな魔石。
優しい光を放ちながら、私に温もりを与えている。
- 283 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:51:06 ID:uKegDIOI0
気持ち良い。
冷えた身体をぬるま湯で暖められてるみたい。
痛みが薄まる。
身体を起こしてみる。
視界は狭いが、身体は動いた。
ややぼやけるが、見える。
右目は、包帯が巻かれてるのかな。
傷は、ああ、出血がおさまってる。
すごい、うっすら閉じてる。 さっきまで、血が流れ続けてたのに。
寝かされていた台から、降りてみた。
ふらつきはしたが、立てた。
人の気配は無いが、どうしよう。
私は、何をすれば。 どうすれば。
そうだ、森に、行かないと。
あの声が無いと、私は、よく眠れないから。
森に、行かなければ。
- 284 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:52:05 ID:uKegDIOI0
魔物が居るかもしれない。
私の武器は、ここには無い。
じゃあ、ええと。
ああ、あれを借りよう。
趣味の悪い、金色の、石のついたナイフ。
これを、借りて。 外に。
はは、身体が動く。
傷の内側から感じていた気持ちの悪い何かも、無くなってる。
頭はまだふわふわするけど。
思考はまだまとまらないけど。
身体が動くなら、私は動かなければいけない。
何をすれば良いのか。
私はどんな状況なのか。
なにもわからない、ふわふわする。
でも、そう、森へ。
- 285 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:53:08 ID:uKegDIOI0
趣味の悪いナイフを掴んで、ガラスのない窓から外に飛び出した。
月が出ている。
方向からして、北東はこっち。
高さは、まだ大丈夫だから、走れば、良い。
月の浮かぶ夜。
闇に沈んだ森の中。
私はひとり、ナイフを握って、走り出した。
怪我をしている割りには、身体が軽い。
ちゃんと走れる、ちゃんと動ける。
前は、見にくいが、見えている。
魔物や獣が時おり姿を見せるが、ナイフを抜いて斬り伏せる。
このナイフがまた、切れ味の悪いこと悪いこと。
でも振り抜く度に、キラキラと光が散るのはきれいだな。
ああ、本当に身体が軽いや、いつもより身軽に走れている気がする。
鎧を付けていないからかな、振り返ると、もう光は見えない。
森の闇にとっぷり沈んだ世界に、ぽつぽつと光る道しるべがあるだけ。
- 286 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:54:06 ID:uKegDIOI0
夜の森は、本来なら恐ろしい場所だ。
何が潜んでいるかも分からない、迷って当然の危険な場所。
私が背骨を砕かれたのも、暗い森でだったな。
最もあの時の熊は、旅に出てすぐにリベンジして食材になったのだけど。
草を蹴り、木々の隙間を縫い、花を飛び越えて走る。
夜の鳥の声と何かの遠吠え。
風の音が耳元で鳴り、葉擦れはざわざわがさがさ。
頬を撫でる冷たい風に、少しずつ頭が冷静さを取り戻す。
私は今、致命傷とも言える怪我をしていて。
うっすら傷は閉じたみたいだが、下手に動けば簡単に開くような状態。
しかも私のためにデレは危ない事をしに行って。
狐は私のために、嫌になるくらい死に続けた筈で。
- 287 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:55:08 ID:uKegDIOI0
私がもしここで野垂れ死んだら、二人の苦労が完全に無駄になるわけで。
ξ%⊿゚)ξ「…………」
振り返る。
だいぶ走ってきたなこれ。
前を見る。
身体の調子はまだいける。
行くしかねえなこれ。
方向はまだずれてない。
真っ直ぐ進めば良い。
足元も見えないくらいの闇。
それでも不思議と、行くべき道が見えた。
仄かに光るように、私には道が見える。
目指す場所がどこか分かる。
もう少し走れば辿り着ける筈だ。
だから二人ともごめん、無駄な心配かけてごめん。
- 288 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:56:08 ID:uKegDIOI0
でもここまで来てしまったんだ。
さっきまで頭がフワッフワだったんだ。
許せ。
そしてここまで来て、手ぶらで何て戻れるものか。
心配かけてまでここに来たんだから、やりきるしかない。
きらめきが見える。
清らかさを感じる。
流れる小川は淡く輝きを持っている。
青白くも清らかに、優しく流れて。
ああほら見えてきた。
ひときわ明るい場所が見えてきた。
流れに逆らうように走った。
木々を抜けて駆け上がった。
緩やかで小さな丘を上ったら、水源に辿り着く。
夜闇にも眩しいような光がふわふわと浮かんでは消え、浮かんでは消え。
小さな泉の中央に、光をたたえる水晶塊が座していて。
その中には話の通り、うっすら紫がかった白い花が咲いていた。
- 289 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:57:07 ID:uKegDIOI0
この泉、入っても良いのかな。
清めるために使うんだった気がするし、大丈夫かな。
恐る恐る、裸足の爪先を泉に浸ける。
不思議と柔らかな冷たさが、肌を覆う。
両足を浸して、深さを確かめる。
私の腰くらいまでの深さ、これなら溺れる心配は無いか。
爪先で探りながら、ゆっくりと水晶に閉じ込められた花に近付く。
光っているのは水晶なのか、それとも花の方なのか。
指先が水晶に触れた。
ひんやりしていて、滑らかな表面。
でも氷の様に冷たくはなく、内側から魔力のような温もりを感じる。
やわらかな光が溢れる水晶をしばらく愛でた後、ゆっくり呼吸を整える。
そして、拳を握って、振り上げた。
- 290 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:58:07 ID:uKegDIOI0
がっ、と拳の骨が水晶にぶつかる音。
びりびりとした痛みが手から腕までかけあがり、思わず手を振りながら顔を歪める。
確かに固い、岩なんかよりずっと固い。
それでも、魔法で障壁を張ってる様には感じない。 つまり素の状態で固いんだ。
再び拳を握って、振り下ろす。
拳が痛むのもいとわず、振り上げて、振り下ろして。
がつ、がつ、がつ、がつ。
水の中だから動きにくい。
水晶の表面が赤くなっていく。
徐々に拳は裂けて血が滲むが、休む間もなく拳を叩き付けた。
少しずつ、水晶にヒビが入る。
少しずつ、少しずつ、赤く染まれば染まるほどに、ヒビは広がる。
ずきん、と腹に痛みが走った。
眉を寄せて見下ろすと、水に血が混じっている。
どうやら動きすぎて、さすがに傷が開いたらしい。
- 291 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 21:59:09 ID:uKegDIOI0
拳を振り上げる。
胸に鋭い痛みが走る。
拳を振り下ろす。
腹に鋭い痛みが走る。
ごつ、ごつ。
めきめき。
びしゃ、ぽたぽた。
拳が負けてきた。
案外役に立たないものだ。
傷がどんどん開いている。
血の量が増えてきた。
ξ%⊿゚)ξ「あと、少し……」
水晶全体に広がったヒビと、その向こうで未だ穏やかに存在する花。
拳が砕けても。
はらわたがはみ出しても。
私はもう、ここまでやらかしてしまったんだ。
これを持って、生きて帰らないと。
私はあの二人に合わせる顔が無いだろうが。
- 292 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:00:17 ID:uKegDIOI0
ああくそ。
どこもかしこも痛いな。
二人に謝らないと。
助けてくれた人にも。
頭がフワッフワしてたから飛び出したんです。
冷静になった頃にはもう手遅れだったんです。
分かってます分かってます、ごめんなさいごめんなさい。
でも私、これが私の役目な気がして。
これはただのワガママだけど。
これは私にしか出来ないと思って。
だって、だって、私は。
私が。
ξ#%⊿゚)ξ「私がッ! 狐の声を奪い返すんだッ!!」
私が、この手で取り戻すんだ。
- 294 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:01:29 ID:uKegDIOI0
雇用主を守れない護衛に意味なんて無い。
雇用主の大切なものを奪われる護衛なんて要らない。
分かるかよ、吟遊詩人が声を無くしたんだぞ。
みすみす奪われたんだぞ、護衛の目の前で、詩人の声を奪われたんだぞ。
分かるかよこの気持ちが、私を包んだ絶望感が、虚無感が、無力感が。
私の存在って何だよ、何のために居るんだよ、何が護衛だ吟遊詩人の最も大切な物を奪われて。
だから奪い返すんだ。
私がこの手で奪い返すんだ。
私がしなきゃいけないんだ。
これが私の役目なんだ。
私がけじめを付けなきゃいけない。
私が責任を取らなきゃいけない。
分かってるよ、防げた事じゃない。
私の責任じゃない、どうしようもなかった事だ。
だとしても、私は目の前でそれを奪われたんだ。
守るべきものを目の前で奪われたんだ。
だったら、奪い返すしか無い。
この手で取り戻すしか無い。
私は、馬鹿だから。
- 295 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:02:23 ID:uKegDIOI0
手の骨が折れた。
それでもやらなきゃいけない。
もうそこらじゅう血まみれだ。
それでもやらなきゃいけない。
私が化け物だと言うのなら。
私のバカみたいな力が役に立つなら。
私は誰かのために何かを出来ると思うなら。
やるしかない。
そうしないと。
そうじゃないと。
そうでなければ。
私が、化け物として生まれた意味が無いじゃないか。
ξ#%⊿゚)ξ「だぁ゙あ゙あ゙あ゙ああああああッ!!!!」
ばきん。
ひときわ大きなヒビが、縦に走った。
- 296 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:03:18 ID:uKegDIOI0
ぱき、ぱきぱき。
ぱぁん。
花火の様に、はぜる様に、水晶が勢いよく砕け散る。
きらきらと粒子になって降り注ぐ様は、まるで月の光が雨となって注いでいるみたいだった。
ぐしゃぐしゃになった右手をぶら下げて、まだ形を残す左手であらわになった花を掴む。
どこにも繋がっていなかったように、花は抵抗もなく私の手に収まった。
ばしゃばしゃ。
血の跡を残しながら、泉から上がる。
腹を見下ろすと、すっかり下半身まで血まみれになっていた。
ここから、再び来た道を戻らなければいけない。
輝きの失せたナイフをぐしゃぐしゃになった右手に縛り付けて、
か細い花を壊さないように握りしめて、地を蹴った。
- 297 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:04:07 ID:uKegDIOI0
化け物として生きてきた。
お母さんに愛されたかった。
綺麗にしても無駄だった。
だから化け物である事を受け入れた。
諦めると楽になった。
鍛練は楽しいし充実していた。
化け物も悪くないと思うようになった。
なに食わぬ顔で、気にしていない顔で生きていた。
でも本当は、私は化け物である私が、何よりも大嫌いだったんだ。
化け物じゃ誰も愛してくれない。
化け物じゃ誰も求めてくれない。
先生も師匠も姉様も友達も笑ってくれたのに。
私はそれを、本当は信用してなかったのかも知れない。
一人が怖かった。
一人が楽だった。
一人が嫌だった。
一人が良かった。
- 298 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:05:06 ID:uKegDIOI0
私は知ってしまった。
私は覚えてしまった。
きれいな音楽と、やわらかな毛並み。
やさしい子守唄と、おだやかな温もり。
孤独を忘れる賑やかな日々。
他者を受け入れる恐怖と、受け入れられた喜び。
誰かと食べる食事の楽しさ。
誰かと眠るあたたかさ。
誰かと交わす言葉も。
誰かに触れる手も。
もう私は、一人きりでなんて生きられない。
何かを守るために私はここに居る。
守りきれない己の弱さはもう受け入れた。
私はこれからも強くなるし、もう挫けたくもない。
あの子のためにも、あいつのためにも。
私のためにも、私はもっと。
ずしゃ。
- 299 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:06:06 ID:uKegDIOI0
血で滑った身体が、地面に投げ出される。
びちゃ、と音を立てて転んだ身体の動きは鈍い。
花は、無事だ。
早く帰らないと。
きらきらとした道しるべがある。
あれはなんだっけ。
とにかく、あれを辿って帰ろう。
どこから来たのかもよく分からないが、道しるべがあるのだから、辿れば良い。
ずるずる。
ぜえぜえ。
身体が冷えたか、動きにくい。
水に浸かっていたからしょうがないか。
はあはあ。
ぼたぼた。
服はまだ濡れている。
案外乾かないものだ。
- 300 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:07:07 ID:uKegDIOI0
人家の光はまだ見えない。
月明かりに照らされた道しるべだけが、きらきらと輝いている。
きらきら、きらきら。
色んな色の輝きが、道の様に落ちている。
ちかちか、ちかちか。
遠くから黄色い灯りが近付く。
ふらふら、どさり。
なぜだか身体が動かなくて、私は重力に身体を任せた。
がさがさ、ざりざり。
草を掻き分け、土を踏む音。
川 ゚ -゚)「うわきっつ」
男の声が頭上から響く。
冷たく通るきれいな声だ。
- 301 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:08:03 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「はーもー予想はしてましたけどー、よいしょ……」
ああ、この声は、少し前に聞いたな。
迎えに来てくれたのか、大きな布で包まれる感触。
よっこらせ、と抱え上げられた。
だらりと垂れ下がる手や足の先から、ぽたぽたと雫が落ちる。
それでも花だけは落とさないように、強く握ったまま。
川 ゚ -゚)「命知らずは他人も殺しますよ本当に」
すまん。
川 ゚ -゚)「やれやれ、辿って帰りますか」
お願いします。
- 302 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:09:06 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「全く、誰のためにみんな頑張ったと思ってるんですか」
ごめんなさい。
川 ゚ -゚)「この僕ですら働いたんですよ、デレ様もお小さいのに頑張ってるのに」
ほんとごめんなさい。
川 ゚ -゚)「お嬢さんの相方のフツメン様、すごい事になってたんですよ」
どうなってたんだろう。
川 ゚ -゚)「死にすぎて、魂が壊れかけてましたよ」
ああ、無理をさせてしまった。
川 ゚ -゚)「そういやお嬢さんのお名前はまだ聞いてませんね」
ツン・グランピーです。
川 ゚ -゚)「喋る体力無いか、大人しくしてて下さい」
あ、はい。
- 303 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:10:15 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「お嬢さんが何を思ってこんな無謀な事をしたのか、何となく察しますけど」
はい。
川 ゚ -゚)「皆様の努力を無駄にするような事は、控えてくださいよね」
はい。
川 ゚ -゚)「まあ帰ったらめちゃくちゃに怒るフツメン様が居ると思いますけど」
さっきから思ってたけどそれ狐の事?
川 ゚ -゚)「ああ、僕はクール・フロワ、美貌の従者です」
ご丁寧にどうも。
川 ゚ -゚)「僕のご主人様はドクオ・ソリテール、キモくてでかい人です」
師匠のお友達の。
川 ゚ -゚)「見えてますか? 僕のこの神が与えたもうた世界を狂わせる美貌は」
よく見えないけど一応は。
- 304 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:11:09 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「目が動くなら生きてますね、なら良し」
綺麗な青い目。
川 ゚ -゚)「声かけは基本だって分かってるんですけど、激しい独り言過ぎて虚しくなりますよね」
狐とは違う色だ。
川 ゚ -゚)「国産ドラマだと『もう良い喋るな!』って言うけど
海外ドラマはめっちゃ『シー!寝るな寝るな!俺を見ろ!』って言いますよね」
きれいな、黒髪。
川 ゚ -゚)「あれってどう言う感覚の違いでおいおいおい寝るな寝るなそのまま死ぬでしょそれ」
ねむ、い。
川 ゚ -゚)「あーちょっとちょっと僕そんなに体力無いから走れないんですよ治療も出来ませんよ」
ああ、もう、
川 ゚ -゚)「起きなさいツン様ちょっと! 子守唄が必要なんでしょあなたは!」
あ、
- 306 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:12:17 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「あー起きました? 起きましたね、よしよし、目は開けて動かしといて下さい」
そうだ、歌が無きゃ、よく眠れない。
川 ゚ -゚)「ほら見えてきましたよ、あのみすぼらしい塔が我が家です」
塔? くらくて、よくみえない。
川 ゚ -゚)「はー疲れた、今日は働きすぎたから明日からは20時間くらい休憩にしよ」
それ働いてるって言うのか。
遠くから声がする。
ばたばた、走ってくる。
突然がっしと頬を両手で掴まれて、顔を覗き込まれた。
爪#'Д`)「────ッ!! ─────ッ!!!!」
うわめっちゃおこってる。
- 307 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:13:10 ID:uKegDIOI0
私の顔を覗き込んで、両頬を手で挟んで、声もないのに怒鳴り付ける相棒。
なに言ってるのかはさっぱりだけど、めっちゃ怒ってる事は分かる。
涙目になって、めっちゃ怒って。
はは、ほんとこいつ、
ξ;%ー^)ξ「お前ほんっと……ブッサイクだなその顔……」
爪#'Д`)「…………────ッ!!」
ξ;%ー゚)ξ「ほら、これ……」
爪#' -`)「……? ────?」
ξ;%ー゚)ξ「声……取り返したから……」
爪' -`)「ッ!!」
ξ;%⊿-)ξ「ちゃんと……取り返した、から……」
久々に狐のブッサイクな顔見て、ちゃんと花も渡せて。
安心したら意識が、かくん、と落ちた。
- 308 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:14:07 ID:uKegDIOI0
よんよんよんよん。
魔石と本人のダブルで魔力を送っている。
送り先は気を失ったツンちゃん。
再び台に寝かされて、全力で傷の治癒が始まった。
僕は渡された薄紫の花に視線を落として、渋い顔。
川 ゚ -゚)「あーさっぱりした」
爪'ー`)y‐(真っ先に風呂入ったね君)
川 ゚ -゚)「血とか苦手なんですってば、怖いじゃないですか」
爪'ー`)y‐(よく死ぬので何とも)
川 ゚ -゚)「いじってたら萎れません? 聖水ありますよ」
爪'ー`)y‐(んー……)
川 ゚ -゚)「まー……よくあんな身体で走り回れましたね」
爪'ー`)y‐(本当にね)
- 309 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:15:08 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「あ、これフツメン様のでしょ」
爪'ー`)y‐(僕のナイフ……おぉ……宝石も金も剥がれて見るも無惨……)
川 ゚ -゚)「めっちゃ点々と宝石落ちてましたわ」
爪'ー`)y‐(拾ったりは)
川 ゚ -゚)「いやお嬢さん抱えてましたし」
爪'ー`)y‐(…………ありがとうございました)
川 ゚ -゚)「何です急に」
爪'ー`)y‐(僕の相棒を、見付けてくれて)
川 ゚ -゚)「向こうから歩いてきたのを拾っただけですから」
爪'ー`)y‐(それでも、武器も持たずに君は行ったし)
川 ゚ -゚)「この森では僕とご主人様は加護があるから魔物とか寄せ付けませんよ」
爪'ー`)y‐(あっそうなの……)
川 ゚ -゚)「すみませんね何か」
- 310 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:16:04 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「呪い、解けたみたいですね」
爪'ー`)y‐(わかるの?)
川 ゚ -゚)「何となく、ご主人様が後始末を頑張ってますし」
爪'ー`)y‐(解呪後も大変って言ってたけど、どう大変なんだろう)
川 ゚ -゚)「よく分かりませんけど、呪いそのものは消えても呪いの影響は残るらしいですよ」
爪'ー`)y‐(僕の喉みたいに)
川 ゚ -゚)「その影響を取り除くのも一苦労らしいんで、ご主人様が見た事も無いくらい本気出してます」
爪'ー`)y‐(あの魔石ちゃんと役に立ってるんだ)
川 ゚ -゚)「なかったらすげー時間かかるんじゃないですかね」
爪'ー`)y‐(影響ってどんなのなんだろうね)
川 ゚ -゚)「難しい話を僕に振り続けないで下さいよ……たぶん、穢れだと思いますよ」
爪'ー`)y‐(穢れ?)
川 ゚ -゚)「噛み付いたら痕と涎が残るでしょ、それですよ」
爪'ー`)y‐(うっわ……分かりやす……そして汚い……)
川 ゚ -゚)「納得の穢れ」
- 311 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:17:04 ID:uKegDIOI0
爪'ー`)y‐(……ところでさぁメイドさん)
川 ゚ -゚)「はい麗しきメイドです」
爪'ー`)y‐(何で会話出来てんの?)
川 ゚ -゚)「一流のメイドですから心も唇も読めますよ」
爪'ー`)y‐(マジかぁ……)
川 ゚ -゚)「そうだ、薬作ります?」
爪'ー`)y‐(え? 作れるの?)
川 ゚ -゚)「調合して魔法かけるだけですし、これくらいなら僕らにも」
('A`)「やめんか」
川 ゚ -゚)「あ、キモメン様」
('A`)「俺の顔面に何の咎があると言うのだろうか」
川 ゚ -゚)「すみません間違えましたご主人様、お嬢さんは?」
- 312 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:18:06 ID:uKegDIOI0
('A`)「傷は閉じたから、あとはゆっくり休んでもらえば大丈夫だよ」
爪'ー`)y‐(良かったぁ……ありがとうございます……)
('A`)「んー、まあ年長者としてね、ぽっと出の謎の中年だけど初代主人公だし」
爪;'ー`)y‐(やめよう?)
('A`)「お嬢ちゃんの顔見てきたら? 顔色も良くなったよ」
爪'ー`)y‐(はい)
('A`)「俺は薬作るから、君もゆっくりしな」
促されるままに席を立ち、足早にツンちゃんの眠る部屋に入る。
部屋に充満していた血の臭いも、そこらじゅうに飛び散っていた血も、きれいさっぱり消えていた。
そして台に横たわる少女は、穏やかな顔で眠っている。
右目を覆う包帯だけはそのままに。
- 313 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:19:18 ID:uKegDIOI0
滲んでいた血も止まってる。
胸や腹の傷は、ああ、新しい包帯が巻いてある。
傷は残るのかな。
でも、良かった。
本当に良かった。
くうくうと穏やかな寝息が聞こえる。
頬にも色が戻ってる。 触れてみると温かい。
小さな手を握る。
僕の声のために、無茶なんてして。
来月になれば治ったのに。
こんな危ない事、しなくて良かったのに。
この子は本当に馬鹿なんだから。
僕とデレが、どれだけ心配するか分からなかったか。
はあ、もう。
平和そうに寝てるなよ、もう。
- 314 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:20:05 ID:uKegDIOI0
相棒はもう大丈夫だろう。
目を覚ませば、きっといつもの顔をする。
デレはまだかな。
早くこの姿を見せたいのに。
「たのもー!! チビガキのデリバリーだー!!」
あ、帰ってきた。
川*` ゥ´)「おいここだろ、ゴリラとクソイケが居んの」
ζ(゚- ゚*ζ゙「がぅ」
爪'ー`)y‐(デレ!)
('(゚- ゚*∩ζ「おにさん! がうー!」
爪'ー`)y‐(ああ良かった、大きな怪我はない? 大丈夫?)
ζ(゚- ゚*ζ「う? デレへいき、けがない!」
川*` ゥ´)「喋れないってマジか」
爪'ー`)y‐(ありがとう平均顔面魔女! 君のお陰だよね!)
川#` ゥ´)「聞こえねぇけどムカつく事言ったな? 言ったな??」
- 315 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:21:08 ID:uKegDIOI0
爪'ー`)y‐(遅いから心配したんだよ、大変だったの?)
ζ(゚- ゚*ζ「うー……? もりとんだ、きらきらひろた」
爪'ー`)y‐?
川*` ゥ´)つ「これのこれか?」ギラッ
爪'ー`)y‐(見覚えのある宝石が)
川*` ゥ´)「その辺の森に落ちてたから回収してた」
爪'ー`)y‐(待ってそれたぶん僕の私物)
川*` ゥ´)「なんつってんのこいつ」
ζ(゚- ゚*ζ「う? ……ない」
川*` ゥ´)「分からんのか」
ζ(゚- ゚*ζ゙「がう」
爪'ー`)y‐
爪'ー`)y‐(まあ良いか、報酬として渡したって事で)
- 316 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:22:27 ID:uKegDIOI0
('A`)「何だ騒がしいな、っと……戻ったのか」
ζ(゚- ゚*ζ「おじさん!」
('A`)「はいおじさんです」
('(゚- ゚*∩ζ「デレたおした!!」
('A`)「おー凄いぞー偉いぞーお陰で傷は閉じるようになったぞー」
ζ(゚- ゚*ζ「キャーン!!」
('A`)(喜びなのか今のは……)
爪'ー`)づ(ほらデレ、ツンちゃんの所に行こう)
ζ(゚- ゚*ζ三「がうー! おねさん!」ピュー
爪'ー`)y‐(早い早い)
川*` ゥ´)
('A`)
川*` ゥ´)゙「ども」ペコ
('A`)゙「こちらこそ」ペコ
- 317 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:23:05 ID:uKegDIOI0
('A`)「君が分家の魔女かな?」
川*` ゥ´)「おう、ヒール・アンソルスランだ」
('A`)「まだ若いのに良く頑張ってくれたね、ありがとう」
川*` ゥ´)「べっつに、オッサンに礼言われる事じゃねぇし」
('A`)「…………いや、それでもありがとう」
川*` ゥ´)「感謝の受け取りはしてやるよ」
('A`)(やだ……この子かっこいい……)
川*` ゥ´)「つか本家の血は何だったんだよあれ、オッサンが渡したのか?」
('A`)「ああ、本人はアレだから血だけは渡しておこうと思って、役に立ったかな」
川*` ゥ´)「役立ててやったよ、このあたしがな」
('A`)(やだ……かっこいい……)
,,川 ゚ -゚)「ご主人様ー薬できたみたいですよ」
- 318 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:24:05 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「おや、お嬢さんが増えてる」
川*` ゥ´)゙「ども」ペコ
川 ゚ -゚)゙「どうも、メイドです」ペコ
川*` ゥ´)「変態なん?」
('A`)「誤解なんだ……」
川*` ゥ´)「引くわ」
('A`)「誤解なんだ……!」
川 ゚ -゚)「それより精製終わりましたって」
('A`)「ああはいはい、どれどれ」
川*` ゥ´)
川 ゚ -゚)
川*` ゥ´)(気持ち悪いくらい顔良いなこいつ)
川 ゚ -゚)「APP8くらいですかね」
川#` ゥ´)「もうちょいあるわァ!!」
- 319 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:25:19 ID:uKegDIOI0
川 ゚ -゚)「すみません女性に対して失礼でしたね、9くらいですよね」
川#` ゥ´)「ほとんど変わんねぇからなそれ!!?」
川 ゚ -゚)「僕自身がこの美貌なもので……申し訳ないです……
いや謝ったところで僕の美しさは不変なんですけど……」
川*` ゥ´)(あっこいつ頭おかしいな)
川 ゚ -゚)「APP9のお嬢さん、お茶はいかがですか?」
川*` ゥ´)「いらね、ゴリラ起きてないみたいだし今日は帰るわ」
川 ゚ -゚)(ゴリラ)
,,( 'A`)「クー、上から三人分の布団を頼む」
川 ゚ -゚)「まーだーはーたーらーくーんーでーすーかーぁ???」
('A`)「頑張ってくれよもう少し」
川 ゚ -゚)「チッ……明日から20時間くらい休憩貰いますからね……」
('A`)「普段からそんな感じだろお前……」
川*` ゥ´)「働けよメイド」
- 320 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:26:23 ID:uKegDIOI0
('A`)「…………あいつを見て、何か感じる?」
川*` ゥ´)「駄イケメンのオーラは感じる」
('A`)「じゃあ、クリア・アンソルスランって知ってる?」
川*` ゥ´)「あー? 聞いた事はあるけど……よくわかんね、本家の事ならどうでも良いし」
('A`)「そっかそっか、じゃあこれお礼のクッキー」
川*` ゥ´)「めっちゃ可愛いなこれ……」
('A`)「あと魔力空っぽだろ、足してあげるよ」
川*` ゥ´)「オッサンから魔力分けられるってめっちゃキモいな」
('A`)「心がもうぐしゃぐしゃになる」
川*` ゥ´)「貰える物は貰ってやるから寄越せ」
( 'A`)つ「とんでもなく強かだな君……」ポワァ
川*` ゥ´)「うわめっちゃみなぎる……キモ……」
('A`)「そのキモいは必要な付け足しだったのだろうか……」
- 321 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:27:14 ID:uKegDIOI0
川*` ゥ´)「じゃあ帰るわ、あのクソ共によろしくな」
('A`)「ああ、ありがとう魔女の子」
三川*` ゥ´)「魔力とクッキーさんきゅーなー」ピュー
('A`)(ちゃんとお礼も言うのか……)
('A`)
,,( 'A`)「薬飲ませよ」
ζ(゚- ゚*ζ「おねさんねてる?」
爪'ー`)y‐(うん、やっと傷が閉じたからね)
⊂ζ(゚- ゚*ζ「おねさんげんきなーれ」ペタペタ
爪'ー`)y‐(あざとい)
ζ(゚- ゚*ζ「おっきいいしある」
爪'ー`)y‐(魔石だね)
- 322 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:28:10 ID:uKegDIOI0
爪'ー`)y‐(僕が材料の魔石だよ)
ζ(゚- ゚*ζ?
爪'ー`)y‐(人間から作られるからね、これは僕の血肉の結晶)
ζ(゚- ゚*ζ??
爪'ー`)y‐(さすがに伝わらない)
('A`)「それはお兄さんが素材の魔石だよ、お嬢ちゃんを治すのに必要だったから造った」
ζ(゚- ゚*ζ「おじさん」
('A`)「うんうんおじさんです」
ζ(゚- ゚*ζ「ませき? にんげんざいりょう?」
('A`)「そうそう」
ζ(゚- ゚*ζ「おにさんざいりょう?」
('A`)「そうそう」
ζ(゚- ゚;*ζサァ
('A`)(察した)
爪'ー`)y‐(察した)
- 323 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:29:11 ID:uKegDIOI0
ζ(゚- ゚;*ζ「お、おにさんへいき? だいじ? いたいない?」
爪'ー`)y‐(ないない)フルフル
('A`)「ともあれ、これのお陰でお嬢ちゃんは生き延びたわけだよ」
ζ(゚- ゚*ζ「……おにさん、おつかれさま」
ζ(゚- ゚*ζ
と ヽ,, モフ
爪'ー`)(デレもお疲れ様)
づ(゚- ゚*ζ ポンポン
と ヽ
('A`)(微笑ましい)
('A`)「っと、はいこれ」
爪'ー`)y‐(ん?)
('A`)「飲んで」
爪'ー`)y‐(あっはい)
- 324 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:30:13 ID:uKegDIOI0
爪'3`)キュー
爪'ー`)
爪'ー`)y‐「何ですこれ?」
('A`)「そのままの効果です」
爪'ー`)y‐
爪*'ヮ`)y‐「声!!!!」
ζ(゚ヮ゚*ζ「キャーン!!!!」
('A`)「怪我人が寝てるんだけどね」
爪'ー`)y‐「失礼しました」
ζ(゚- ゚*ζ「ごめんない」
('A`)「こっちこそ水差してすまんね」
- 325 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:31:27 ID:uKegDIOI0
爪'ー`)y‐「あー、あーあー……あぁー……声出るぅー……」
('A`)「これで括弧を間違えそうになる事故が防げるな」
爪'ー`)y‐「何の話?」
ζ(゚- ゚*ζ「おにさんおうた、おうた」
爪'ー`)y‐「あーお歌ね、うんうん歌おうか…………と思ったけど楽器無いね……」
('A`)「そういや持ってなかったね」
爪'ー`)y‐「襲われた時に落としてきたよね……」
ζ(゚▽゚*ζ ドヤァァァ
爪'ー`)y‐「熱いドヤ顔の波動が」
('A`)「玄関に落ちてるこれって君たちの得物? 何か一緒に野菜もあるけど」
ζ(゚▽゚*ζ ドヤァァ
爪'ー`)y‐「お、おぉ……持ってきてくれたの……!?」
ζ(゚- ゚*ζ「いっかいわすれた」
爪'ー`)y‐「あ、忘れたの……」
- 326 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:32:37 ID:uKegDIOI0
ζ(゚- ゚*ζ「とりにもどる、おそくなた」
爪'ー`)y‐「あぁー……しかも宝石拾いしたの……」
ζ(゚- ゚*ζ「いし、きらきらぴかぴか」
爪'ー`)っ=ニニブ「そうだね、僕のナイフの宝石だね……」ニビィ…
ζ(゚- ゚;*ζ
ζ(゚- ゚;*ζ「まじょさんいしもってった……」
爪'ー`)y‐「良いよ……助けてくれたお礼って事で……」
ζ(゚- ゚*ζ゙ ソワソワ
爪'ー`)y‐「お歌聞きたい?」
ζ(゚- ゚*ζ「キャン」
爪'ー`)y‐「じゃあ、ツンちゃんにも聞かせなきゃね」
ζ(゚- ゚*ζ「がうがう!」
- 327 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:33:22 ID:uKegDIOI0
ツンちゃんが眠る台の隣に椅子を置き、そこに腰掛けて楽器を抱く。
少し傷はあるが、問題なく使えそうだ。
何度か調節をして、喉の調子も確認して。
僕の膝に凭れながら、デレが期待に目を輝かせる。
小さな傷だらけで、誇らしそうな顔で。
君も、この眠り姫みたいにやり遂げたと言う満足感に満ちているんだね。
全くお転婆な連中だ。
ツンちゃんはまだ眠ってる。
気持ち良さそうにすやすやと。
いつの間にか英雄さんの姿は無い。
少し離れた場所で、包丁の音が聞こえた。 主夫か。
さて、お姫様を起こすにはどんな歌が良いかな。
小さな騎士が満足する歌は何だろう。
僕の中の引き出しよ、頑張っておくれ。
- 328 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:34:09 ID:uKegDIOI0
ぽろろん。
白い太陽が輝く朝。
銀の月が浮かぶ夜。
風を切って歩く道。
歌いながら歩く道。
平凡な街道、穏やかな村、悲しみの墓
退屈な洞窟、広大な海原、竜の棲む山。
白銀の雪原、賑やかな街、胸痛む人々。
深く暗い森、天を睨む塔、行く道を選ぼう。
金の波はたゆたい、緑の風が踊る、黒い空に還そう。
空を引き裂く刃を、人を惑わす歌声、癒し与える魔法を。
飽いた孤独を捨てよう、踊る木の葉の様に、共に時を過ごして。
眼前の道は途絶えず。
遥かな空に続いて。
求める道は果てなく。
胸に抱く夢の様に。
- 329 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:35:20 ID:uKegDIOI0
よし、歌えた歌えた。
喉は大丈夫か不安だったけど、ちゃんと歌えた。
これなら、
ζ(゚- ゚*ζ「おにさん」
爪'ー`)y‐「ん?」
爪'ー`)
つ(゚ー゚*ζ ペトン
と ヽ,,
爪'ー`)y‐「なーにー甘ったれちゃーん」
ζ(>ー<*ζ「がぅー」
ξ%⊿゚)ξ「あんたが言うかね」
爪'ー`)y‐「君よかマシですーぅ」
爪'ー`)y‐
爪'ー`)y‐「おはよ」
ξ%⊿゚)ξσ⌒◎「おはよ」コイン
爪'ー`)づ「どーも」パシッ
- 330 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:36:08 ID:uKegDIOI0
目を覚ましたツンちゃんは、いつもと変わらない不機嫌顔。
でもどこか申し訳なさそうな、ばつの悪そうな顔にも見えた。
お願いデレには黙ってて。
大きくなったら暴露します。
ツンちゃんに飛び付くデレと、その頭を撫でる手。
二人とも心底幸せそうな顔をするから、僕も笑うしかなかった。
その後、適当に口裏を合わせた英雄さんと従者さんが、改めて僕らを客として歓迎してくれた。
いつの間にか玄関にあった野菜を使って夕飯もご馳走してくれたし、
布団を運んできて、三人で同じ部屋に眠れるようにもしてくれた。
英雄さんがデレの手当てとツンちゃんの傷を確認してる間、僕は従者さんの手伝い。
僕はあんまり役に立てなかったなと呟くと、従者さんが変態を見るような目で見てきた。
実はそこそこ危なかったんですよあなた。
死んでただけだから全然自覚が無いなぁ。
英雄さん達とあれやこれやと言葉を交わして、何度目かも分からない感謝を口にして。
疲労困憊の僕らは、仲間と眠れる安心感で、泥のように眠りについた。
- 331 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:37:00 ID:uKegDIOI0
翌朝、手土産を渡された僕らはそのまま王都には向かわず、一度あの村に帰る事にした。
騎士さんに報告もしたいし、このまま行ったんじゃデレとのお別れが早まってしまう。
ツンちゃんの傷はすっかり閉じたが、傷跡は消せないらしい。
それに、潰れた右目も元には戻らないそうだ。
裂けた鎧を直してもらったツンちゃん本人は、右目が潰れた事などまるで気にしていないようだった。
それどころか、師匠みたいだと珍しく笑顔まで見せて。
ξメ⊿゚)ξ「それじゃあ、何から何までお世話になりました」
爪'ー`)y‐「本当にありがとうございました」
ζ(゚- ゚*ζ「ありあとござました」
('A`)「いやいや、ロマとお嬢ちゃんによろしくね」
川 ゚ -゚)「皆さんがご無事で何より」
- 332 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:38:06 ID:uKegDIOI0
ξメ⊿゚)ξ「それじゃあ、失礼します」
爪'ー`)y‐「またね英雄さん、メイドさん」
ζ(゚- ゚*ζ「おじさん、おにさん、ばいばい」
('A`)「はいはい、バイバイ」
川 ゚ -゚)「フツメン様もお元気で」
爪#'皿`)y‐ギー
英雄さんがゲートボールのスティックを振ると、世界が歪み、うにうにとうごめく。
そして奇妙な感覚を味わって、世界が正しい姿に戻る頃には、景色はすっかり変わっていた。
寂れた村の広場。
壊れた像と穿たれた大穴。
元から壊れていた家屋は更に砕かれている。
何か世紀末っぽくなってない?
- 333 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:39:08 ID:uKegDIOI0
ミセ*゚ー゚)リ「あー!! ツンちゃーん!! とデレちゃんと雇用主さーん!!」
ξメ⊿゚)ξ「ミセリ」
ミセ*゚ー゚)リ「お、おぉ……何か箔が付いたねツンちゃん……怪我は大丈夫?」
ξメ⊿゚)ξ「すっかり治してもらったわ、ミセリも大変だったんでしょ?」
ミセ*゚ー゚)リ「んーん、ミセリはミセリの信念を歪めなかっただーけ」
ξメ⊿゚)ξ「…………ありがと、ミセリ」
ミセ*^ー^)リ「にひひ、友達だもんね!」
ξメー゚)ξ「……そうね、友達だものね」
ζ(゚- ゚*ζ「きしさん、だいじ?」
ミセ*゚ー゚)リ「だいじょーぶ、しばらく減給だけど騎士号剥奪されませんでした!」
爪'ー`)y‐「あ、減給はされたの……」
ミセ*゚ー゚)リ「無給じゃないだけマシだわ……」
- 334 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:40:10 ID:uKegDIOI0
ミセ*゚ー゚)リ「三人はこのまま出発?」
ξメ⊿゚)ξ「ええ、ミセリと話したくて来ただけだから、ヒールはどうせいつでも会えるし」
ミセ*゚ー゚)リづ「ういやつ」
ξメ⊿゚)ξ∩「やめんか」
ミセ*゚ー゚)リ「ま、ここは居心地悪いだろうしね、王都に行くならあっちに道なりだよ」
ξメ⊿゚)ξ「ねぇミセリ」
ミセ*゚ー゚)リ「んー?」
ξメ⊿゚)ξ「何かあったら、次は私に助けさせて」
ミセ*^ー^)リ「へへ、ガンガン頼ってやんよ!」
ξメー゚)ξ「……それじゃ、またね、ミセリ」
ミセ*゚ー゚)リ「うん、またね、ツンちゃん!」
爪'ー`)y‐「またねぇミセリちゃん」
ζ(゚- ゚*ζ「きしさん、ばいばい」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、デレちゃん」
ζ(゚- ゚*ζ「あい?」
- 335 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:41:06 ID:uKegDIOI0
ミセ*゚ー゚)リ「あの後ね、ヒールちゃんが帰って来て言ったの」
ζ(゚- ゚*ζ「う?」
ミセ*゚ー゚)リ「森の魔物を倒したのはデレちゃんで、魔物を放置してたらこの村が滅んでたって」
ζ(゚- ゚;*ζ「あうっ!?」
ミセ*゚ー゚)リ「出世欲強いのに、簡単に手柄を投げ捨てたの、何でかわかる?」
ζ(゚- ゚;*ζ「……うー」
ミセ*゚ー゚)リ「それだけ、あなたの事が好きだし、魔族への扱いに嫌気がさしてたから」
ζ(゚- ゚*ζ「……」
ミセ*゚ー゚)リ「少しずつだけど、みんなの心に余裕が持てるよう、わたしも頑張るから」
ζ(゚- ゚*ζ゙
ミセ*゚ー゚)リ「……みんなの事、あんまり嫌わないであげて?」
ζ(゚- ゚*ζ「あいっ!」
ミセ*^ー^)リ「ありがと、デレちゃん」
- 336 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:42:12 ID:uKegDIOI0
緑の女騎士に手を振って、再会を約束しながら村を出る。
道端に座る手足を無くした人達の目は、ほんの少し、困惑に揺れているようだった。
穏やかな山道。
王都まではあと少し。
山を越え、川を渡ればすぐそこだ。
行く先には道がある。
道が無ければ作れば良い。
極めたい道がある。
決してぶれずに歩き続ける。
例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。
騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。
周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声、獣じみた幼い咆哮。
刃を振るい、歌声を響かせ、魔力を用い、路銀を稼いで進んで行く。
近く別れは訪れる、けれど再会は誓い合った。
魂を共に生きる存在は、あまねく苦難も叩き潰せる。
- 337 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:44:07 ID:uKegDIOI0
孤独に震える事も無く。
餓えて涙する事も無く。
寒さにあえぐ事も無く。
健やかに、穏やかに、幸せに育つと誓ったから。
彼らは目の前の道を、威風堂々と進んで行ける。
先頭を歩くのは、一人は不機嫌そうに顔を歪める若い女戦士。
その傍らには、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。
そんな二人の間に挟まれて歩く、小さな魔族の子供。
彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。
そしていつだって彼らは、途切れぬ道を歩いている。
今までも、これからも、彼らの道が途絶える事はない。
おしまい。
- 338 名無しさん[sage] 2017/03/05(日) 22:45:36 ID:uKegDIOI0
ξメ⊿゚)ξ「久々に会ったらデレに彼氏が出来てたりするのかしら……」
ζ(゚- ゚*ζ「ない」
爪'ー`)y‐「出来たとしても彼女じゃないかなー」
ξメ⊿゚)ξ「えっ、そう言うアレだったのデレ」
爪'ー`)y‐「だってデレ男の子だもんね」
ζ(゚- ゚*ζ゙「あい」
ξメ⊿゚)ξ「え?」
ξメ⊿゚)ξ
ξメ⊿゚)ξ「えっ?」
おしまい。