516 ◆tYDPzDQgtA 2017/05/14(日) 21:15:16 ID:sjZeAXLU0

 知らない事を教えてちょうだい。
 私は知らない事が多すぎるから。

 知るべき事を教えてちょうだい。
 今は受け入れる事が出来るから。


 たとえそれがどんなに痛い現実でも。
 たとえそれがどんなに非情なものでも。

 私は知らなければいけないの。
 私は覚えていなければいけないの。


 だから先生、過去をください。


 【道のようです】
 【番外編 ただなきじゃくるこども。】



 私が捨てたがっていた過去を、ください。


517 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:16:21 ID:sjZeAXLU0

爪'ー`)y‐「孤児院はこっちだっけ?」

ξメ⊿゚)ξ「ええ、地図にはそう……」

爪'ー`)y‐「大丈夫? 地図さかさまじゃない?」

ξメ⊿゚)ξ「大丈夫よ失敬な」

爪'ー`)y‐「お、あれは?」

ξメ⊿゚)ξ「ああ、あれっぽいわね」

爪'ー`)y‐「……結構良い場所にあるんだな」

ξメ⊿゚)ξ「城下町の端とは言え、土地代高そうな……」

爪'ー`)y‐「高いと思う」

ξメ⊿゚)ξ「ですよね」

爪'ー`)y‐「よーし、じゃあ」

ξメ⊿゚)ξ「たのもーう」

爪'ー`)y‐「だから何で道場破りのノリなの?」

,,(‘_L’)「看板はやらん帰れ」

爪'ー`)y‐「ほら拒否された」


518 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:17:07 ID:sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ

(‘_L’)

ξメ⊿゚)ξ「先生居ませんか」

(‘_L’)「教え子が増えた」

爪'ー`)y‐(誰だろうこの人)

ξメ⊿゚)ξ(誰だこの人)

(‘_L’)「おいデミタス、教え子が来たぞ」

,,(´・_ゝ・`)「んー? ミセリ君ならまだしばらくは」

ξメ⊿゚)ξ「あ」

(´・_ゝ・`)「あ」

ξメ⊿゚)ξ「先生」

(´・_ゝ・`)


519 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:17:42 ID:sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)ハッ

(´・_ゝ・`)「ツン君?」

ξメ⊿゚)ξ「はい、出会い頭に死にかけてたアレです」

(´・_ゝ・`)「ごめん出会い頭に死にかけてた教え子多くて」

ξメ⊿゚)ξ「そうだミセリもそうだった」

(´・_ゝ・`)「わぁツン君かぁ、久し振りだね、背が伸びたかな?」

ξメ⊿゚)ξ「そんなには、あれから……えー……何年…………7年……? くらい……?」

(´・_ゝ・`)「うんまぁそんな感じだね、元気だったかい? えらく貫禄のある見た目になって」

ξメ⊿゚)ξ「こないだ魔女の呪いで死にかけました」

(´・_ゝ・`)「ぅゎ」

ξメ⊿゚)ξ「これが現在進行形で魔女の呪いにかかってる不死者です」

爪'ー`)y‐「どうもはじめまして吟遊詩人です」

(´・_ゝ・`)「ご丁寧にどうも」


520 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:18:20 ID:sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「今風の人を連れてきたねツン君」

(‘_L’)「軽薄そうだな」

(´・_ゝ・`)゙ ゴッ

(‘_L’)「痛い!」

(´・_ゝ・`)「すみません失礼な事を」

爪'ー`)y‐「いやもう慣れてるんで」

ξメ⊿゚)ξ「その人がダメンズですか」

爪'ー`)y‐「こらツンちゃんっ」

(´・_ゝ・`)「否定はしないけども」

(‘_L’)「しろよ」

(´・_ゝ・`)「出来ないよ」

ξメ⊿゚)ξ「先生がダメンズ飼ってるって事実だったんですね」

(´・_ゝ・`)「フィレンクト謝って」

(‘_L’)「いや謝罪が欲しいのは俺の方だ」


521 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:19:27 ID:sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「先生が夫婦漫才みたいなパーティ名なのは知ってましたけどまさかそんな」

(´・_ゝ・`)「フィレンクト心から謝罪して」

(‘_L’)「何でだあの名前で通した役所も悪いだろ」

爪'ー`)y‐「僕らのパーティ名は焼きたてパンと溶かしバターですけどね」

(´・_ゝ・`)「えっ何そのセンスは……」

(‘_L’)「腹が減りそうだな」

ξメ⊿゚)ξ「力作です」

(´・_ゝ・`)「ツン君は独特のセンスを持ってるなぁ……」

(‘_L’)「取り敢えず立ち話もなんだし上がれ」

(´・_ゝ・`)「経営者ですらない雑用が偉そうに」

爪'ー`)y‐(共同経営者ですら無いのか……)

(´・_ゝ・`)「取り敢えず上がって、お茶でも入れようか」

ξメ⊿゚)ξ「お邪魔します」


522 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:20:31 ID:sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「ところで先生、腕どうしたんですか?」

(´・_ゝ・`)「ああ昔ちょっと食い千切られて」

ξメ⊿゚)ξ「何と……」

(´・_ゝ・`)「腕もげてから会ってなかったっけ?」

ξメ⊿゚)ξ「記憶に無いので会ってない可能性も?」

(´・_ゝ・`)「まぁ良いか、記憶なんて曖昧なものだし、はいお茶」

ξメ⊿゚)ξ「いただきます」

(´・_ゝ・`)「ツン君も片目どうしたの?」

ξメ⊿゚)ξ「魔女の呪いで先日潰れました」

(´・_ゝ・`)「あとこちらの吟遊詩人さんは」

ξメ⊿゚)ξ「雇い主です」

爪'ー`)y‐「護衛してもらってます」

(´・_ゝ・`)「ああなるほど、不思議な組み合わせだと思った」


523 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:21:39 ID:sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「まあお互いの裸も見てますけどね」

爪'ー`)y‐「ねぇツンちゃんは何で保護者に対して僕の印象を悪化させたがるの?」

ξメ⊿゚)ξ「最初から印象は底じゃない?」

爪'ー`)y‐「そこまででもないよまだ軽薄そうな吟遊詩人だったよ」

ξメ⊿゚)ξ「今では」

爪'ー`)y‐「教え子に手を出した軽薄な吟遊詩人にクラスアップしたよ」

ξメ⊿゚)ξ「ダウンでは」

(´・_ゝ・`)「ええと吟遊詩人さん、お名前は」

爪'ー`)y‐「フォックスです、フォックス・ユースレスです」

(´・_ゝ・`)「フォックスさん」

爪'ー`)y‐「はい」

(´・_ゝ・`)「自分を客観視出来るのは立派な事です……」

爪'ー`)y‐「まさか褒められるだなんて……」


524 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:22:24 ID:sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「あ、僕はデミタス・ポルトロン、孤児院の経営者だよ」

爪'ー`)y‐「これはこれはご丁寧にどうも」

(´・_ゝ・`)「あそこで子供達に遊んでもらってるのがフィレンクト・イネクプレシフ、馬鹿です」

爪'ー`)y‐「これはこれはずんばらばっさり」

(´・_ゝ・`)「ミセリ君にはもう会ったかい?」

ξメ⊿゚)ξ「はい、先日」

(´・_ゝ・`)「元気にしてたかな」

ξメ⊿゚)ξ「社畜でした」

(´・_ゝ・`)「ああうん……」

ξメ⊿゚)ξ「こいつが手を出そうとしました」

爪'ー`)y‐「未遂ですもうしません」

(´・_ゝ・`)「切り返しの早さに本気を感じる」


525 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:23:31 ID:sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「何よ本気でアレしようとしてたのに」

爪'ー`)y‐「ねぇ止めてよ保護者の前で僕の株を更に落とす発言」

ξメ⊿゚)ξ「だからもう底だと」

爪'ー`)y‐「ただでさえ底なのにどうして更に貶めるの」

ξメ⊿゚)ξ「全て事実だし」

爪'ー`)y‐「事実だからってまな板って言われたら嫌でしょ」

ξメ⊿゚)ξ「悔い改めよう」

爪'ー`)y‐「素直だ……」

(´・_ゝ・`)「…………ツン君」

ξメ⊿゚)ξ「あ、はい」

(´・_ゝ・`)「随分、明るくなったね」

ξメ⊿゚)ξ「えっ」

(´・_ゝ・`)「うん、うん……元気になれて良かった」

ξメ⊿゚)ξ「…………」


526 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:25:08 ID:sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「僕は君たちを置いて出てしまったから」

ξメ⊿゚)ξ「孤児院の移転がきっかけだし、お別れ会しましたよ」

(´・_ゝ・`)「そうだけど、やっぱりみんなが気掛かりだったよ」

ξメ⊿゚)ξ「みんな元気に巣だったみたいです」

(´・_ゝ・`)「ツン君はあれから弟子入りしたんだっけ」

ξメ⊿゚)ξ「はい、ミュスクル家へ」

(´・_ゝ・`)「つらくはなかったかい?」

ξメ⊿゚)ξ「つらい事もありました、でも、私はちゃんと幸せです」

(´・_ゝ・`)づ「…………そっか」ポンポン

ξメー゚)ξ「子供じゃないんですから」

(´・_ゝ・`)「子供だよ、僕らにすればね」

ξメー゚)ξ「……先生に拾われて良かったです」

(´・_ゝ・`)「僕も、君を保護できて良かったよ」

爪'ー`)y‐「熊に負けたんだっけ」

ξメ⊿゚)ξ「リベンジしたわよ」

(´・_ゝ・`)「やめて危ない」


527 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:26:05 ID:sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「ツン君は体質もあるし、怪我も深かったし、塞ぎ込んでたからなぁ」

ξメ⊿゚)ξ「ええまあ」

(´・_ゝ・`)「君は特に気掛かりだったんだ、だから元気そうで嬉しいよ」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(´・_ゝ・`)?

ξメ⊿゚)ξσ)'ー`)y‐ メリ

(´・_ゝ・`)

ξメ⊿゚)ξ

爪'ー`)y‐「僕のお陰ならはっきりそう言って?」

ξメ⊿゚)ξ「やだ」

爪'ー`)y‐「ンモー」

(´・_ゝ・`)=3 ホッコリ…


528 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:26:28 ID:sjZeAXLU0

爪'ー`)y‐「ツンちゃんってほんと素直じゃない」

ξメ⊿゚)ξ「あんたにだけは言われたくないわ……」

爪'ー`)y‐「僕は体裁を気にするだけ」

ξメ⊿゚)ξ「ばーか」

爪'ー`)y‐「そんな小学生みたいな罵倒ある? 先生の前だからって子供に戻らないで?」

ξメ⊿゚)ξ「しね」

爪'ー`)y‐「しねない」

ξメ⊿゚)ξ「すまない」

爪'ー`)y‐「ゆるす」

(´・_ゝ・`)(仲良しだなぁ)

爪'ー`)y‐「ほら穏やかな顔されてる」

ξメ⊿゚)ξハッ


529 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:27:24 ID:sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「……先生は、私の命の恩人なんですよね」

(´・_ゝ・`)「んー、まぁ」

爪'ー`)y‐「あれ、歯切れが悪い」

(´・_ゝ・`)「僕の力だけでは無かったからね」

ξメ⊿゚)ξ「まさかドクオさんが」

(´・_ゝ・`)「いやその頃は再会してない、と言うか会ったの?」

爪'ー`)y‐「先日助けて頂きまして」

ξメ⊿゚)ξ「お陰で右目だけで済みまして」

(´・_ゝ・`)「あっあー……」

爪'ー`)y‐「……で、実際は?」

(´・_ゝ・`)「んー……まぁ、ツン君ももう大人だしね」

ξメ⊿゚)ξ?

(´・_ゝ・`)「君のお母さんだよ」

ξメ⊿゚)ξ「ッ」

爪'ー`)y‐(おやー?)


530 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:27:53 ID:sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「…………あの人が、何で」

(´・_ゝ・`)「君の治療は僕だけでは間に合わなかったから」

ξメ⊿゚)ξ「だからって、何で」

(´・_ゝ・`)「あー……どこから話すべきかな
     君のお母さんは珍しい魔法を使えたんだよ、とても珍しい魔法を」

爪'ー`)y‐「あれ、魔力あったんだ」

(´・_ゝ・`)「あ。 あーあー、はいはい」

爪'ー`)y‐?

(´・_ゝ・`)「うーんややこしいな、最初から全部話そうか
     ツン君が聞きたいならだけど、どうかな?」

ξメ⊿゚)ξ

爪'ー`)y‐「ツンちゃん」

ξメ⊿゚)ξ「……聞きます」

爪'ー`)y‐=3

ξメ⊿゚)ξ「もう子供じゃないから、聞きます」

(´・_ゝ・`)(大人になったなぁ……)


531 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:30:06 ID:sjZeAXLU0



 背中を抉られた少女を見付けて、保護したのは暗い森の中。
 瀕死の状態の彼女の、命だけは魔法と術式で繋ぎ止める事が出来た。

 しかしそれでは長持ちしない。
 治療をするにも、僕は治癒魔法は専門では無い。

 森の中で狼狽える僕の前に、一人の女性が現れた。


 綺麗な金の巻き髪に、アンバーの瞳。
 白い肌をした、身なりの整った女性だった。

 その姿は、腕の中でぐったりしている少女に良く似ていた。


『すみません、近くに医者か、教会はありませんか』

『熊に襲われたみたいなんです、傷が深くて僕には治せない』


532 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:31:14 ID:sjZeAXLU0

 さっと顔色を無くした女性は少女にふらふらと近付いて、しゃがみこみ、震える指で頬を撫でる。
 形良く整えられた指先は、爪に色さえ乗せていた。

 どうしよう私のせいだと繰り返す彼女は、恐らくこの少女の母親なのだろう。
 狼狽え方も困惑も、明らかに母親のそれだ。

 涙を浮かべながら彼女は僕に向き直り、こう言った。


『医者も教会もこの子を救ってはくれません』

『この子は、ばけものだから』

『誰もこの子を助けてはくれません』


 だから、と彼女は一度唇を噛み締めて、言葉を選ぶ。


『私が、この子を助けます』

『私の娘だから』

『どうか、手を貸してください』


533 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:32:20 ID:sjZeAXLU0

 彼女は唯一、ひとつだけ魔法を使えた。
 それは珍しい、魔力を生命力に置き換えるもの。

 治癒魔法ではない。
 人が本来持つべき魔力そのものを、器を、作り替えてしまうもの。

 一度魔力を生命力に置き換えてしまえば、もう戻す事は出来ない。
 この魔法を使えば娘の命は助かるだろう。
 しかし、一生涯、魔力を持たずに生きる事になる。

 それでも命を救えるのなら、そう彼女は唇を噛む。



 僕が補助をして、彼女が娘に魔法をかける。
 不思議な金色の魔法は、小さな身体が持つ魔力を全て飲み込んで行く。

 小さく口を開く。


『この子はばけものです』

『それは、どう言う意味ですか』

『そのままの意味です、素手で、この小さな手で、簡単に人の首もへし折ってしまう』

『特異体質、と言うやつですか』

『ええ、生まれた時から、この子はとても強い力を持っていました』


534 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:33:05 ID:sjZeAXLU0

『制御は?』

『出来ていません』

『理由は?』

『それは』


 かみさまのこどもだから。

 そう掠れた声で呟いて、彼女は口を閉ざした。


 魔法をかけおわり、僕は幼い娘を連れて孤児院へと向かった。
 母親はと言うと、あわせる顔がない、と連れて行くように頼んできた。

 暫し考えたが、僕は娘を保護する事にした。
 そして後日、再び彼女に話を聞きに行った。


 あの暗い森。
 その奥の小さな広場にある、小さな村へ。


535 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:33:28 ID:sjZeAXLU0

 しかしその村に近付くと、あまりにも物々しい雰囲気。
 ぴりぴりと肌を刺すような空気は、村人に話しかける事を躊躇わせた。

 農具やらを持った村人は、一軒の家を囲むように立っている。
 出てこいだの、ばけものだの、口々に謗りの言葉を乗せて。


 日が傾くまで彼らは動かず、僕もそれを眺める事しか出来ず。
 薄闇に沈み始めた頃、やっと家の周りから人が退いた。

 家の中には明かりもなく、僕は不思議と、そこが目的の場所だと察していて。
 ゆっくりと近付き、そっと扉を叩く。


『先日の魔導師です』

『保護をした、魔導師です』

『お話を、聞かせてください』


 そう小さな声で言うと、扉はゆっくり開かれた。
 手早く中に入った僕の後ろでは、急いで閉められる扉。

 疲れた顔の彼女が、僕を見上げていた。


536 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:33:50 ID:sjZeAXLU0

 闇夜の中でも不思議と輝く金の巻き髪は、今日もきれいに整えられている。
 少し窶れた頬には白粉が、薄い唇には紅が。
 小綺麗な服を纏い、まるで貴族の娘のような出で立ち。

 それは、魔女狩りのような目にあっている人物がする格好とは、思えなかった。


『あの子は、大丈夫ですか?』

『はい、時間はかかりますが、安静にしていれば』

『ああ、よかった』

『……お話を、聞かせて頂けますか?』

『そう、ですね。 でもまず、お茶でも入れましょう、お客様なんて久し振り』


 お茶を入れて、小さなランタンに火を灯して。
 懐かしい日々を思い出すように、雨戸を閉めた窓を見て彼女は微笑む。

 僕は、小さな椅子に腰かけて彼女の言葉を真っ直ぐに受け止める準備をした。


537 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:34:23 ID:sjZeAXLU0


  あの子は、あの人に似て気が強くて。

  でも顔は私に似ちゃって、きっとたくさん苦労をする。

  街の中でも人の中でも上手く生きられるように、綺麗な格好をさせていて。

  でもあの子は、あの人に似て、格好に頓着しなくて。

  けど笑うとあの人に似ていて。

  私を呼ぶ声は、まるで幼い頃の私みたいなのに。

  ふとした瞬間が、あの人にそっくりで。

  とても無作法で、変わった人で。


  あの人は、かみさまだった。


538 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:34:44 ID:sjZeAXLU0

  私が娘の頃、奉公先の村でかみさまとして扱われていた人が居て。
  まだ年若い、背の高い男の人で。

  私はその頃から、今の私のように、母から身なりにだけ気を付けるように言われていて。
  少し場違いなくらいに見た目には気をつかっていて。

  あの人は、そんな私の顔に、かたちに。
  容姿に、惚れ込んでくれたんです。

  それからは、年季が終えるまでずっとあの人から求婚されて。
  あの人はかみさまを辞めて、私と一緒に故郷まで着いてきて。

  でもあの人は少し変わっていたから、故郷には居られなくて、この村にまでやって来たんです。

  かみさまから人間になったあの人は、村の人と一緒に働いて。
  私は家事は得意じゃなかったけれど、あの人のために毎日働いて。

  料理も練習したんです、得意じゃないけど、美味しいものを作れるように。
  でもあの人は、私が火傷をすると心配して怒るんです。

  ちゃんと、魂から愛し合っていました。
  でもあの人は、きっと私の容姿を一番大切にしたいんだろうなって。


  だから、ほら、こんな状況でも、私は化粧までして。


539 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:35:30 ID:sjZeAXLU0

  あの人に求められる事に応えると、幸せでした。
  あの人は私を大切にしてくれました。

  だからあの子を身籠った時も、あの人は嬉しそうに、笑ってくれて。


  でもあの人は、山の崩落に巻き込まれて居なくなりました。
  死体は見付かっていませんが、村の人数名も、一緒に見付からず、そのまま。

  私は一人であの子を産んで。
  産婆が生まれたばかりのあの子に指を握られ、潰された時に、気付いたんです。

  私はかみさまの子を、人ではない存在を産み落としたんだと。


  それからは、人として生きるために、あの子を人間として生かすために、苦心しました。
  ここから早く巣立たせるために、ここに故郷としての愛着を持たせないために、厳しく。

  だって生まれたその日から、あの子はここで、ばけものだと扱われたんですもの。
  ここは私とあの人の生きた場所、だけど、だからこそ、あの子はここに居てはいけない。

  きっと私はあの子に憎まれています。
  嫌われる事を覚悟して、憎まれる事を前提として、あの子につらくあたっていたから。


540 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:35:53 ID:sjZeAXLU0

  あの子を連れて、どこか別の場所に行けば良かったのかも知れません。

  けれど力を制御できないあの子と、容姿しか無い私が、どこで生きてゆけましょう。
  故郷にすら、もう私の居場所は無いんです。

  それにここには家があって、あの人のお墓があって、ほんの少しだけ優しくしてくれる人が居た。
  もう、私はどこへも行けなくて、あの子を私以外から守る事しか出来なくて。

  あの子がばけものと殺されないように、私はできる事をしてきました。
  この姿さえ傷がつかないのなら、何をされても受け入れてきました。

  見てくれだけは綺麗でも、もうあますことなく、私はけがれています。
  これでもきっとあの人は、私が髪の手入れを、肌の手入れを怠らなければ、きっと誉めてくれるから。



  でも、もうそれもおしまい。

  戦争の影響で、この村もたちゆかなくなりました。

  だから村の人は、くだらないおまじないにすら頼る。

  ばけものを、生け贄に捧げて、助けを乞うなんて、くだらないおまじない。


541 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:36:25 ID:sjZeAXLU0

  だからね、私はあの子を逃がしたんです。
  巣立ちには少し早いけど、森の奥に連れていって、置き去りにした。

  南へ真っ直ぐに行けば里に出る事を教えて、私は一人村に戻ったんです。
  でもひとつ、渡し忘れたものがあって。

  そう、戻ったら、あなたがあの子を助けていたところでした。


  あの魔法ですか?
  あれは、あの人が唯一私に教えてくれた魔法。

  私には学が無いから他には何も使えないけれど、あれだけは覚えていたんです。
  必要な時に使えと教えてくれた魔法だったから、きっと、今使うしかないんだろうなって。


  そうだ、これ、渡しそびれたもの。
  あの人と私の指輪、お金に困ったら売れるように。

  それとあなたには、これを。
  うちにある、私以外に、お金になるものすべて。
  運べる重さだと思うけれど、ああ、良かった。
  孤児院の方なんですよね、じゃあ、使って下さい。

  私には、もう必要のないものですから。


542 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:36:46 ID:sjZeAXLU0

  あの子には、母親らしい事を出来なかったと思います。

  日々が苦しいものだから、あの子にあたった事もあります。
  叩いたし、怒鳴ったし、罵った、母親失格だと思います。

  でも私は要領が悪いから、他にどうすれば良いかわからなくて。
  あの人が居なくなって、何もわからなくなって。

  ただ、あの子に生きてほしかった。
  私を忘れても憎んでも良いから、生きてほしかった。

  最低な母親だけれど、あの子がいとしくていとしくてしょうがなくて。
  だからお願いします、あの子をお願いします。


  私はもう、どこにも行けないから。

  村から出れば良い。
  そうですね、そう、ですよね。


  全てを押し付けて、ごめんなさい。
  最低の母親で、ごめんなさい。


  もう、ここを出た方が良いわ、人が来るから。


543 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:37:22 ID:sjZeAXLU0



 僕が彼女の家から出る時に、薄明かるくなった広場に、断頭台が見えた。

 何度も彼女を連れて逃げようとした、今ならまだ間に合うと連れ出そうとした。
 いくら何でも、それはあんまりだと。

 けれど彼女は首を振り、僕の手を優しく解いて、髪に櫛を通し始めた。
 化粧を整え、髪を整え、服を、靴を、指先までを綺麗にして。


 雨戸を開け放った窓から射し込む朝日は、儚くも美しい彼女を照らしていた。

 そして僕はもう、彼女を連れ出す事も、何も出来なくて。


 深く深く頭を下げて。
 あの子は孤児院で、大切に育てますと約束して。


 姿を隠し、僕は村を後にした。
 無力感に苛まれて、胸がひどく痛んだ。


544 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:38:25 ID:sjZeAXLU0



(´・_ゝ・`)「だから僕は、君を置いていった事を悔やんだ事もあった」

ξメ⊿゚)ξ「……その頃には、もう私は元気でしたから」

(´・_ゝ・`)「僕は、約束を守れたかな」

ξメ⊿゚)ξ「はい、私はちゃんと、……大切に、され、」

ξぅ⊿゚)ξ「て、」

ξっ⊿∩)ξ「育った、から、」

(´・_ゝ・`)「……ごめん、ツン君、話すのも遅くなったし、君を置いていった」

ξっ⊿∩)ξ「約束、守った、あとですから、せん、せ、は」

ξっ⊿∩)ξ「ぁー……」

(´・_ゝ・`)つ「ごめんね、ツン君、ごめん」

爪'ー`)づξっ⊿∩)ξ

(´・_ゝ・`)


545 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:38:49 ID:sjZeAXLU0

爪'ー`)∩⊂ξメ⊿∩)ξ「さわんなや……」

爪'ー`)" ワサワサ
 づメ⊿∩)ξ

ξメ⊿∩)ξ「やめろや……」

爪'ー`)y‐「はいはい」

ξっ⊿∩)ξ「くっそ……」

爪'ー`)y‐「はいはいはい」

ξっ⊿∩)ξ「やめろ……」

爪'ー`)y‐「はい黙って黙って」

ξっ⊿∩)ξ「気色悪いことすんな……」

爪'ー`)y‐「はーいはいはい」


546 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:39:55 ID:sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)(ああ)

(´・_ゝ・`)(ちゃんと、支えてもらってるんだな)

(´・_ゝ・`)(良かった)

(´・_ゝ・`)「フォックスさん」

爪'ー`)y‐

爪'ー`)y‐「あ、はい、そういやフォックスさんです」

(´・_ゝ・`)「ツン君を、よろしくお願いします」

爪'ー`)y‐「はいはい」

(´・_ゝ・`)「……ちゃんと信頼しあってるみたいで良かった」

爪'ー`)y‐「可愛げ無いですけどねぇ」

(´・_ゝ・`)「そう言うところが可愛げだよ」

爪'ー`)y‐「まぁねぇ」


547 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:41:21 ID:sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「ツン君」

ξぅ⊿゚)ξ「……はい」

(´・_ゝ・`)「君は、お母さんにとてもよく似てる」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(´・_ゝ・`)「自分を、大切にしてね」

ξメ⊿゚)ξ「……はい」

(´・_ゝ・`)「僕は君のお母さんを非難する事も、全て肯定する事も出来ない
     きっとそんな権利は他人には無いし、するべきではない事だから」

ξメ⊿゚)ξ「はい」

(´・_ゝ・`)「ただね、凄く歪ではあったかも知れないけど、君のお母さんは間違いなく君を愛してた」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(´・_ゝ・`)「君がお母さんを憎んでも、恋しくても、僕は当然と思う。 でもそれだけは知っていてほしい」

ξメ⊿゚)ξ「…………はい」


548 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:42:11 ID:sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「…………」

ξぅ⊿゚)ξ゙

ξメ⊿゚)ξ

,,ξメ⊿゚)ξ「フィレンクトさんでしたか」

(‘_L’)「えっ、うん」

ξメ⊿゚)ξ「手合わせ願おう」

(‘_L’)「アラフォーにひどい事しようとしてる」

(´・_ゝ・`)「死なないようにね」

爪'ー`)y‐「殺さないようにね」

(‘_L’)「アラフォー死の危機」

(´・_ゝ・`)

爪'ー`)y‐

(´・_ゝ・`)「変わらないなぁ」

爪'ー`)y‐「変わらなそうだなぁ」


549 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:43:25 ID:sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「……本当は」

爪'ー`)y‐「はいはい」

(´・_ゝ・`)「必死に生きた誰かを可哀想だと言うのは失礼なんだろうね」

爪'ー`)y‐「ま、他人のエゴと言いますか」

(´・_ゝ・`)「うん」

爪'ー`)y‐「人間って自分の枠で考えるから、可哀想だとか哀れだとか、そう思っちゃうもんだよね」

(´・_ゝ・`)「それでも必死に生きてきた、その人生をどうして人様が勝手に決め付けてしまえるんだろう」

爪'ー`)y‐「悲劇ってそんなもんだよ、喜劇もね」

(´・_ゝ・`)「…………僕は、可哀想だと思いたくはないな」

爪'ー`)y‐「誰を?」

(´・_ゝ・`)「……皆を」

爪'ー`)y‐「そう思うだけでも十分なんじゃない
     大衆向けの悲劇よりも、そう思う人が居るならそれで」


550 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:44:22 ID:sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「あの子を」

爪'ー`)y‐「ん」

(´・_ゝ・`)「あの子達を、『可哀想な子達』と言われたくはない」

爪'ー`)y‐「…………」

(´・_ゝ・`)「あの子達は生きる為に生きて、血を吐いて、汚泥の底でもがいてきたんだ」

爪'ー`)y‐「……」

(´・_ゝ・`)「やっと今、地面に立って生きているのに、可哀想だなんて、言わせたくない」

爪'ー`)y‐「…………先生は、いい人なんだなぁ」

(´・_ゝ・`)「……あの子達の、親でもあり、教師でもあるから」

爪'ー`)y‐「教え子達にも、ちゃんと伝わってるみたいだね」

(´・_ゝ・`)「なら、嬉しいな」

爪'ー`)y‐「…………僕らみたいな生まれは、今の世の中珍しくはない
     でも可哀想だと同情する人は、多いと思うよ?」

(´・_ゝ・`)「……同情なんて失礼な真似、僕の前では絶対にさせたくない
     今を、ちゃんと生きているんだから」


551 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:45:13 ID:sjZeAXLU0

爪'ー`)y‐「…………あー」

(´・_ゝ・`)?

爪'ー`)y‐「あはは、ツンちゃん同じこと言いそう」

(´・_ゝ・`)「そう?」

爪'ー`)y‐「緑の騎士さんも、きっと言う」

(´・_ゝ・`)「……ミセリ君は言うかもなぁ」

爪'ー`)y‐「先生はさぁ、自分の元から巣立った子供達はみんな今に胸を張れてると思う?」

(´・_ゝ・`)「そうだと嬉しいけど、難しい事もあると思うよ」

爪'ー`)y‐「もしそうだとして、先生は同情するなって言うの?」

(´・_ゝ・`)「同情される事を望んでいなければ、僕は言うと思う」

爪'ー`)y‐「……見かけのわりに気が強いなぁ先生」

(´・_ゝ・`)「これでもアラフォーの元上級魔導師だからね、元金だよ」

爪'ー`)y‐「あーん僕より格上ー僕銀なのにー」


552 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:45:46 ID:sjZeAXLU0



 頭の中がぐるぐるする。
 胸の奥がざわざわする。


 受け止めきれない過去は、私の頭と胸をかきみだした。

 それでも受け止めなければいけないから、私は現在を見る。


 先生の語る母と、記憶の中の母はあまりにも違う。
 別人のように穏やかな母の姿は、想像すら出来やしない。

 先生は言った。
 憎むのは当然だと。

 母は言った。
 嫌われてもしょうがないと。

 でも、だからって、そのまま憎み続けるのは浅はかではないだろうか。
 けれどすべてを許し受け入れるほど、私の心は広くも穏やかでもない。


 出生なんて興味もなかった。
 父なんてどうでも良かった。

 私の目は、父譲りなのかな。
 母の目は、緑じゃなかったのか。
 そんな事すら私はもう思い出せないなんて。


553 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:46:18 ID:sjZeAXLU0

 母の言葉を鵜呑みにする事は容易だろう。
 だけど、全て狂人の戯言と切り捨てる事も出来る。

 全てを語ったわけでもないだろうし、美化もしているかもしれない。

 私には母が分からない。
 私がずっと憎んできた、嫌ってきた、愛されたかった母が分からない。


 記憶の中のあの人は、いつも綺麗にしていて。
 怒っているか、泣いているか、どちらかで。

 話をしたくても、もうどこにも居ない。
 あの村は戦争の折りに滅んだ。

 それより先に、きっと母は死んだ。
 私の代わりに、処刑されたのだろう。


 どうすれば良いんだ。
 どう受け止めれば良い。

 突然で、意外で、胸が痛くて。
 腹が立つやら、悲しいやら。


554 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:47:28 ID:sjZeAXLU0

(‘_L’)「おい」

ξメ⊿゚)ξ!

(‘_L’)「悩むだろうが、それは相方にも出した方が良いぞ」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(‘_L’)「信頼が無いと成り立たんからな、弱音も吐け」

ξメ⊿゚)ξ「……はい」

(‘_L’)「大人ぶってもアラフォーから見ればガキだガキ、ははは」

ξメー゚)ξ「……そう、ですね」


 乱暴に頭をぐしゃぐしゃされて、不思議と笑みが洩れた。

 それを見たフィレンクトさんは、少し意外そうな顔をしていて。


 受け入れられなくても、受け止めよう。
 受け止めきれないのなら、手を貸してもらおう。

 今の私は一人じゃないから、昔よりも重い荷物を背負えるんだ。


556 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:48:18 ID:sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「……私、あの人が嫌いだった」

(‘_L’)「母親か?」

ξメ⊿゚)ξ「叩かれたり、怒鳴られたり、ばけものって呼ばれたり……は元からか」

(‘_L’)「お前の家庭環境は複雑だな本当に」

ξメ⊿゚)ξ「そんなあの人が嫌いだったんだけど、先生の話を聞いたら、どうすれば良いのか」

(‘_L’)「母親が嫌いだったんだよな」

ξメ⊿゚)ξ「はい」

(‘_L’)「だがデミタスの話を聞いてそれが揺らいでるんだな」

ξメ⊿゚)ξ「……はい」

(‘_L’)「なら最初から、嫌い切れてはなかったんだな」

ξメ⊿゚)ξ「…………そう、ですね……ずっと、普通の子供としてあの人に愛されたかった」

(‘_L’)「良かったな」

ξメ⊿゚)ξ「へ」

(‘_L’)「お前の母親が愛したのは、普通の子供としてのお前だったんだろうよ」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(‘_L’)「いや言い方が悪いか……あー……伝われ何か良い感じに、伝われ」


557 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:49:13 ID:sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「……良かった」

(‘_L’)「うん」

ξメ⊿゚)ξ「喜んで、良いのかな……」

(‘_L’)「好きにすれば良いだろそれは、デミタスも言ってたし」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(‘_L’)「良かったなとは言ったが、お前は怒っても良いし喜んでも良いんだ」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(‘_L’)「本当は愛されてたと喜んでも、ふざけんな今さらとキレても良いんだよ」

ξメ⊿゚)ξ「は、ひ」

(‘_L’)「産みの親が全てだとは思わんがな、やっぱり大事なもんではある」

ξぅ⊿゚)ξ「はひ」

(‘_L’)「だから無理に切り捨てる事も受け入れる事もしなくて良いと思うし、時間を」

ξつ⊿∩)ξ「はひ」

(‘_L’)「あっちょ待っあデミタスー! ちょっとデミタスー!! 教え子泣いたー!!」

  ヒュバッ
-=三(´・_ゝ・`)づ)_L’)メゴォォ


558 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:50:24 ID:sjZeAXLU0

< イイカゲンニシテ
< イマウデハエテナカッタ?
< ズェア
< イタイイタイイタイ


,,爪'ー`)y‐「ツーンちゃあん」

ξメ⊿゚)ξ「くんなや」スッ

爪'ー`)y‐「涙止めたわ」

ξ。メ⊿゚)ξ「…………」ポロ

爪'ー`)y‐「あ」

ξぅ⊿゚)ξ「あー……」

爪'ー`)y‐「ツンちゃん」

ξつ⊿∩)ξ「あーくそ……」

爪'ー`)y‐「ねぇツンちゃん」

ξつ⊿∩)ξ「うるさい……」

爪'ー`)y‐「今の右目が落ちたみたいに見える」

ξつ⊿∩)ξ「くそが」


559 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:51:24 ID:sjZeAXLU0

爪'ー`)y‐「はいはい良い子良い子」

ξメ⊿゚)ξ「くそったれ」

爪'ー`)y‐「恥ずかしがらなくて良いのに」

ξメ⊿゚)ξ「うるさい」

爪'ー`)y‐「僕には散々弱味を見せたでしょ、今さら壁作んなくて良いよ」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

爪'ー`)y‐「僕も壁取っ払ったんだから、僕にだけ恥ずかしいもの見せさせないでほしいなぁ」

ξメ⊿゚)ξ「…………あいたい」

爪'ー`)y‐「んー」

ξメ⊿゚)ξ「お母さんに、会いたい」

爪'ー`)y‐「うんうん」

ξメ⊿;)ξ「お母さん、お母さんに、会いた、い」

爪'ー`)y‐「よーしよし」

ξメ−;)ξ「ぅ、ぐ、うぅぅ」


560 名無しさん[sage] 2017/05/14(日) 21:52:30 ID:sjZeAXLU0

 憎むでも、喜ぶでも、怒るでも、悲しむでもなく。

 ただ私は。
 ただただ、私は。

 母恋しさに、声を上げて泣いた。


 受け止めきれないから、飲み込まれてしまって。
 狐の服を握って声を上げて泣いて。

 その沼から引き出すために、私の頭をずっと撫でる手が優しくて。
 母恋しさに、家恋しさに、孤児院の真ん中で、恥も捨てて子供のように泣きじゃくって。


 まだ、しばらくは受け入れられない。
 もうしばらくは、悩む時間が必要だ。

 だけど今の私は、心ごと一人ではないから、時間をかければ大丈夫な筈。

 はいはい、うんうん、よしよし、と頭を撫でながらいつもの調子で相槌を打つ相棒が居るから。
 今はそばに居なくても、私たちを待つあの子が居るから。


 強くなるし、強くなりたいし、どんどん前には進むけど。


 今だけは、子供の顔で泣いていたい。
 魂を委ねられる人たちのそばで。



 おわり。


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