70 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:05:08 ID:S7CHutlkO

川 ゚ -゚)「よっ……ほっ……おぉ……っ」

( ^Д^)「そこ、そこ撃て」

川 ゚ -゚)「ここか、ここがええのんか」

( ^Д^)「よしタケノコ出た」

川 ゚ -゚)「旗は、旗はどこだ」

( ^Д^)「そっちだよそっち、そっ、あっ」

川 ゚ -゚)「あっ」

( ^Д^)「シューティング下手だなお前……」

川 ゚ -゚)「うるせー……こちとらヌルゲーマーなんだよ……」

( ^Д^)「次これやろうぜ」

川 ゚ -゚)「ギャラガかよ、それよりこっちが良い」

( ^Д^)「インベーダー……名古屋撃ちしようぜ」

川 ゚ -゚)「あれどうやんの」

( ^Д^)「見本見せるわ」

71 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:07:05 ID:S7CHutlkO

( ΦωΦ)「こんちゃーす、飯の配達……て、また来とるんかプギャーさん」

( ^Д^)「あ、飯なに?」

( ΦωΦ)「冷やしカレー」

( ^Д^)「わーい冷めきって油分コテコテのカレーだ」

川 ゚ -゚)「わざわざ二人前あんのか」

( ΦωΦ)「こんな事もあろうかと、我輩の分はもう食ってきた」

( ^Д^)「いただきまーす」

川 ゚ -゚)「いただきまーす」

( ΦωΦ)「本当は白目女の晩飯の分だけどね」

川 ゚ -゚)「おい食うな、私の晩飯を食うな、死ね」

( ^Д^)「うめー冷えてもうめー」

川 ゚ -゚)「聞けよおい、したたかになってんなよおい」

( ^Д^)「慣れた」

72 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:09:24 ID:S7CHutlkO

川 ゚ -゚)「つか何お前は入り浸ってんの」

( ^Д^)「大学生だから暇は多いのよねー」

川 ゚ -゚)「クソがレギュラー入りでも目指してんのか」

( ^Д^)「杉浦、お茶貰える?」

( ΦωΦ)「はいよー」

川 ゚ -゚)「聞けよ! 何でロマ男も普通に接してんだよ!」

( ΦωΦ)「ツッコミが居ると我輩も楽できて」

川 ゚ -゚)「お前からツッコミ取ったらただの悪魔超人だろうが!!」

( ΦωΦ)「お茶どうぞ」

( ^Д^)「あざーす」

川 ゚ -゚)「聞けよぉおッ!!」

( ΦωΦ)「あーはいはいはちみつくまさん」

川 ゚ -゚)「何言ってんだお前、気持ちの悪い」

( ΦωΦ)「君を死ぬまで殴りたい」

川 ゚ -゚)「そんな君が好きだと叫びたいみたいな言い方すんな」

73 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:11:59 ID:S7CHutlkO

( ^Д^)「そういや直野は進学しなかったんだな」

川 ゚ -゚)「私の頭脳があればどこでも行けたけどな」

( ^Д^)

川 ゚ -゚)「でも店があるから止めといた」

( ^Д^)「へー、真面目な理由だな」

( ΦωΦ)「大学入試の前日に大酒飲んで翌朝起きられなかったんだけどね」

(;^Д^)「駄目じゃん!?」

川 ゚ -゚)「うるせーな人間は学歴じゃかわんねーよ」

( ΦωΦ)「大学出た方が有利な場合もあるけどな」

川 ゚ -゚)「最近の就職率はあんま関係ないですぅーだ」

( ^Д^)「大学って知識だけでなく社交性を培うための場所だよな」

( ΦωΦ)「うん」

川 ゚ -゚)

74 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:13:14 ID:S7CHutlkO

( ΦωΦ)「そういやプギャーさんはどこの大学?」

( ^Д^)「芸大ー」

( ΦωΦ)「学費たけーなあ」

( ^Д^)「あーまあ推薦だし」

( ΦωΦ)「芸大に推薦ってあるの?」

( ^Д^)「場所による」

( ΦωΦ)「我輩どうしようかなー、就職のアテあるから高卒でも良いかな」

( ^Д^)「そのアテがもう数年安定してるなら大学行ったら? 社会的に勉強にもなるよ」

( ΦωΦ)「んー、成績もそこまでは良くないし、参考にする」

( ^Д^)「おー、大学行くならなに行く?」

( ΦωΦ)「調理系が良いなー、栄養学とか」

川 ゚ -゚)「カレーうめぇ……会話に入れなくてもカレーうめぇ……」



  思い出屋さんのようです
      閲覧注意

75 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:15:25 ID:S7CHutlkO

( ^Д^)「まあ大学も善し悪しだよなー、資格とか欲しいなら貰えるとこ行けよ」

( ΦωΦ)「うむ、資格が必要になったら折角だし大学や専門に行った方が良いしね」

川 ゚ -゚)「ロマ男おかわり」

( ΦωΦ)「ねーよ」

川 ゚ -゚)「おかわり」

( ΦωΦ)「ねーよ」

川 ゚ -゚)「おかわり」

( ΦωΦ)「CoCo壱行ってこい」

川 ゚ -゚)

( ^Д^)「ほら、俺の分けるから……」

川 ゚ -゚)「それ元々私のだから」

( ΦωΦ)「そんなに会話に入れないからっていじけんなよ」

川 ゚ -゚)「うるせータマキン握り潰すぞ」

( ΦωΦ)「恐ろしい事を口走るな」

76 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:17:14 ID:S7CHutlkO

( ^Д^)「何? 進学しなかったのが悔しいの?」

川 ゚ -゚)「ちっ、ちげーよ! ちげーよ!」

( ^Д^)「でもお前すでに就職してる様なもんじゃん、資産もあるし」

川 ゚ -゚)

( ^Д^)「将来が怖い俺からすれば羨ましいよ?」

川 ゚ -゚)

( ^Д^)?

川 ゚ -゚)

(^Д^;)「……杉浦?」

( ΦωΦ)「悔しい気持ちを正論で打ちのめされてどうすれば良いのかと愕然としてるだけ」

(^Д^;)「えぇ……勝ち組なのに愕然としてるの……?」

( ΦωΦ)「正直、この若さで悠々自適であるからな。いずれ店を手放すとしても資産は自分のだし」

(;^Д^)「マジ勝ち組じゃん……」

( ΦωΦ)「その代わり暇と恐怖に怯える日々」

77 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:19:15 ID:S7CHutlkO

( ^Д^)「恐怖に?」

( ΦωΦ)「あー……まあ、色々あるんだよ」

( ^Д^)「へー……まあ詮索はしないけど、ごっそさん」

( ΦωΦ)「お粗末様、ほれ白目、呆けてないで片付けろ」

川 ゚ -゚)

( ΦωΦ)「駄目だこれ、スリープモードだ」

( ^Д^)「パソコンかこいつ……食後の一服するから外出てくる」

( ΦωΦ)「灰皿持ったかー」

( ^Д^)「携帯してるー」


 からんころん。


( ^Д^)「うへ、外あっち……でも店内では吸えないしなあ」

( ^Д^)y-・~

( ^Д^)y-・~「ふへー……うめー……でも値上げこえー……」

78 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:21:20 ID:S7CHutlkO

( ^Д^)y-・~「しかしま、羨ましいやらそうでもないやら……いや羨ましいな……」

( ^Д^)y-・~「バイトこそしてないけど、こっちは将来が不安でしょうがないっつのに」

( ^Д^)y-・~「これマッチに見えるな」

( ^Д^)y-・~

( ^Д^)y-・~「暑い……」

( ^Д^)y-・~

( ^Д^)y-・~「思い出、か……夏の思い出……」

( ^Д^)y-・~

( ^Д^)y-・~「無さすぎて泣きたい」

  「あの、」

( ^Д^)y-・~「お?」

爪'ー`)y‐「ここ、お店ですよね?」

( ^Д^)y-・~「あ、はい…………ああ、お客さん?」

爪'ー`)y‐「かな? お店の方ですか?」

( ^Д^)y-・~「あ、いえ、俺は店主の…………友達? です」

79 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:23:08 ID:S7CHutlkO

爪'ー`)y‐「あ、なるほど……禁煙ですよね、中」

( ^Д^)y-・~「一応は骨董屋ですからねー」

爪'ー`)y‐「じゃあしょうがないですね、消してから失礼します」

( ^Д^)y-・~「あ、はい」

( ^Д^)y-・~(なぜ店の人間でもない俺が応対をしているのか)

( ^Д^)y-・~

( ^Д^)y-・~(まあ良いや)

爪'ー`)y‐「僕は、何でここに来たんでしょうね」

( ^Д^)y-・~「へ」

爪'ー`)y‐「何だか、気が付いたらここにいて」

( ^Д^)y-・~「あー……えっと、確か…………思い出、ですかね」

爪'ー`)y‐「思い出?」

( ^Д^)y-・~「はい、手放した思い出が必要になった時、その思い出を買いに来るんです」

爪'ー`)y‐「手放した……思い出……」

( ^Д^)y-・~(俺って超デンパみたいじゃねコレ)

80 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:25:16 ID:S7CHutlkO

爪'ー`)y‐「…………」

( ^Д^)「よいしょ……それじゃ、入りましょうか」

爪'ー`)y‐「あ、はい」

( ^Д^)「あ、左奥の棚から気になるのを持ってきて下さいね」

爪'ー`)y‐「はい、わかりました」


 からんころん。


川 ゚ -゚)「おいニコ目! 名古屋撃ちこれ無理ゲーだろマジで!!」

( ^Д^)

爪'ー`)y‐

川 ゚ -゚)

( ^Д^)「お客さん」

爪'ー`)y‐「し、失礼します」

川 ゚ -゚)

( ^Д^)「またスリープモードか……取り敢えず棚見てきてください」

爪'ー`)y‐「あ、はい」

,,( ΦωΦ)「あら、お客さんか、ようこそ直野骨董店へ」

爪'ー`)y‐「あ、ど、どうも」

81 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:27:30 ID:S7CHutlkO

( ^Д^)「あ、説明はしといたから」

( ΦωΦ)「雑用係に磨きがかかってますなあ」

( ^Д^)「俺ってそう言うスタンスだったのね」

( ΦωΦ)「店主が硬直してるしなあ」

川 ゚ -゚)ハッ

( ΦωΦ)「起きた」

川 ゚ -゚)「ニコ目てめぇ何でレギュラー面してんだよお前殴るぞ泣くまで」

(;^Д^)「良い事してキレられた!?」

川 ゚ -゚)「良い事じゃねーよクソッタレがお前は私の顔をそんなに潰したいのか」

(;^Д^)「理不尽! どこまでも理不尽!!」

川 ゚ -゚)「そんなに美形が許せないのか三枚目」

( ^Д^)「殴るぞ」
( ΦωΦ)「殴るぞ」

川 ゚ -゚)「無性に泣きてぇ」

( ΦωΦ)「美形は自称するもんではない」

( ^Д^)「人に言われて意味がある言葉だよね」

川 ゚ -゚)「誰にも言われないお前らより遥かにマシ」

( ^Д^)「無性に泣きてぇ」
( ΦωΦ)「無性に殴りてぇ」

82 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:29:30 ID:S7CHutlkO


 不思議な店に来た。

 不思議な人達が営む、不思議な店。

 僕がこの店に足を向けたのは、自ら望んだ事ではない。
 いや、望んでいたのかも知れないが、ここに来たのは、無意識にだ。

 店先の彼が言った。
 僕は、思い出を求めてきたと。
 手放した思い出が必要になったから、ここに買いに来たのだと。

 いまひとつ、僕には言葉の意味が理解できなかった。
 けれど今、僕の目の前にある物が、それは事実だと物語っている気がする。


 小さな、おもちゃのブレスレット。
 ちゃちなビーズとボロけたテグスの、古いそれ。


 僕はそれを、知っていた。

 ただ、どこでどう知ったかは、思い出せない。

83 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:31:20 ID:S7CHutlkO

爪'ー`)y‐「すみません、これ」

川 ゚ -゚)「ああ……あったのか」

爪'ー`)y‐「はい、見覚えがある気がします」

川 ゚ -゚)「……」


 身なりの悪くない、20代前半ほどの青年。
 煙草の匂いと、不思議な匂いがする。

 礼儀正しく椅子に腰掛け、膝に手を置いて私を見る。


川 ゚ -゚)「では、思い出を」


 カウンターに置かれた小さなブレスレットに、手をかざす。

 そして指先がそれに触れた瞬間、突然、私の背筋に冷たく嫌な物が走った。


( ΦωΦ)「あ、ごめん背中アイス落ちた」

川 ゚ -゚)「殺すぞ」

84 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:33:21 ID:S7CHutlkO

川 ゚ -゚)「えー、仕切り直しで」

爪'ー`)y‐「は、はあ」

川 ゚ -゚)「そういやあんた、いくつ?」

爪'ー`)y‐「え? あ、23歳です」

川 ゚ -゚)「3つ上か、最近なんかあったの? 思い出が必要ってんなら何かあると思うけど」

爪'ー`)y‐「最近……と言うか、近々結婚します」

川 ゚ -゚)「ほー、そりゃおめでてぇ。どんな子よ相手」

爪'ー`)y‐「あ、見ます? この子です」

川 ゚ -゚)「あらまあ可愛らしいお嬢さん、可愛い子引っ掛けたねあんた」

爪'ー`)y‐「あはは、お恥ずかしい……随分と年下なんですけどね、体にハンデもあるし」

川 ゚ -゚)「変態かよ(いやいやお若い)」

( ΦωΦ)「逆、逆」

( ^Д^)「アイスうめー」

85 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:35:30 ID:S7CHutlkO

川 ゚ -゚)「まあ歳は関係ないさ、相性よ相性」

( ΦωΦ)「お前が言うか」

爪'ー`)y‐「まあ、相手はまだ10代でしから……否定は出来ません」

( ΦωΦ)「十……八、九ですか?」

爪'ー`)y‐「いや16歳です」

( ΦωΦ)「変態ですな」

爪'ー`)y‐「ばっさり行きましたね今」

( ΦωΦ)(我輩より年下は引くわ)

川 ゚ -゚)「まあ歳の差なんぞ大した障害じゃないない」

爪'ー`)y‐「そう言って頂けると嬉しいです」

川 ゚ -゚)「ま、若い子が相手ならしっかり幸せにしてやんなさいな」

爪'ー`)y‐「はい、それはもう」

川 ゚ -゚)「んじゃ、思い出でも見ますかね」

86 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:37:21 ID:S7CHutlkO


 突如、真っ白になる視界。
 何も見えず、聞こえない世界。

 その中、徐々に何かが響く。


 声。

 幼い、女の子の声。


 僕を呼ぶ、彼女は、



 『おにいさん……おにいさん……っ!』


 彼女、は


 『おにいさんっ……!』

87 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:39:20 ID:S7CHutlkO

 『おにいさん……おにいさんってばっ』

 『あ……どうしたの、───ちゃん』

 『おにいさん……どうしたの? 聞こえてないみたいだった……』

 『大丈夫だよ、何かあった?』

 『ううん……あのね、あれ』

 『ん……ああ、夜店の準備だね』

 『今日、やるんだね』

 『うん……一緒に行く?』

 『…………ううん』

 『良いの?』

 『うん、それより、お兄さんのとこに行きたい』

 『じゃあ、一旦帰ってお母さんに言っておいで』

 『ぁ……う、ん……』

88 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:41:33 ID:S7CHutlkO

 彼女は、隣の家の女の子。
 小柄で、愛らしくて、左手首にいつもおもちゃのブレスレットを付けていた。

 子供が少ないこのあたりでは、僕が彼女の遊び相手になる事が多かった。

 出会った頃にはお互いが物心ついていたから、どちらも嫌がる事は無かった。
 忙しい親が埋められない孤独を、互いで埋めていたのだ。

 僕はもう中学生で、彼女は小学生。
 妹の様に可愛がる僕に、彼女も心を開き、なついてくれていた。


 学校の途中で合流して、一緒に帰って、身支度を済ませたら外に遊びに行く。
 公園、神社、河原、いろんな場所で遊んだけれど。

 彼女が一番気に入っていたのは、僕の部屋だった。


 その日も、彼女は僕の部屋へとやって来た。

 チャイムの音にドアを開け、礼儀正しく頭を下げる彼女を招き入れる。
 そして自室へと通してから、僕はキッチンへ飲み物を取りに行く。

 飲み物を持って部屋へ戻ると、彼女はクッションを抱えて僕を見上げる。
 にっこりと、無垢な笑みを向けて。

89 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:43:06 ID:S7CHutlkO

 まず始まるのは他愛もない談笑。
 昨日は何があった、今日は何があった、お昼には何を食べた、宿題は何だった。
 そんな日常的な事を話す。

 それから、一緒に彼女の宿題をする。
 僕は手助けをするだけで、手を出しすぎる事はしない。
 彼女は平均より頭が良く、そこまで苦戦しない、けれど時々引っ掛かった時には手を貸してあげた。


 外では蝉が鳴く。
 じゃわじゃわみんみんと、けたたましく命を繋ぐために必死で。

 冷房の効いた静かな室内。
 汗をかいたガラスのコップの中で、氷が溶けて、からりと音が鳴った。


 隣に座る、僅かに汗ばんだ白い肌。
 指先でそっと頬を撫でると、驚いた顔でこちらを見る。

 僕はにっこり笑ってみせて、彼女の額へ唇を押し付けた。

 くすぐったそうに、戸惑うように目を閉じて身をよじる彼女。
 ゆっくりと唇を押し付ける位置を、下へ下へと移動させる。



 密室で耽る子供の遊びなんて、選択肢は少ないものだ。

90 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:45:25 ID:S7CHutlkO

 けれど、これは僕が無理矢理した事じゃ無い。
 子供とは言え、同じ時を共有する男女でしかない。
 大体、子供と言うものは好奇心の強いもの。

 いつしか、ねだるのは、彼女の方からになっていった。


 表からは見えない場所に、それがあっても違和感が無い場所に、僕は痕跡を残す。

 白い首筋に唇を押しあて、細い鎖骨に舌を這わせる。
 まるで薄皮一枚に守られた卵に触れる様に、僕は彼女を優しく撫でていた。


 僕は彼女を傷付けたい訳じゃなかった。
 ただ、好奇心と愛情の間を綱渡りで行き来していただけ。


 そしてそれは、僅かな歪みが、捻くれ曲がった何かに変わって行く。



 それは、少し強くつねった時だった。

 彼女が一際大きな声をあげたから、強くしすぎたかと彼女に謝罪しようとした時。
 僕にしがみつく彼女は嬌声を洩らして震え、蕩けた顔をしていた。

 背筋に、ぞくりと何かが走る。

91 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:47:41 ID:S7CHutlkO

 胸の奥がぎゅうと締め付けられる感覚。
 そっと、同じ様に何度も彼女をつねる。
 その度、その度に、彼女はか細く艶のある声をあげた。


 そうして僕は確信した。

 彼女は、痛みが好きなのだと。



 そこから、更にねじれて行く。


 僕は彼女を悦ばせる為に、どんどんその行為をエスカレートさせていった。

 彼女はそれに応える様に身を寄せて、ただただ僕を貪った。


 今思えば、彼女は僕に合わせていただけかもしれない。
 けれど、もはやただの気遣いだけでは無かった事は明白だ。

 どんなに彼女が血を流しても、彼女は僕を求めていた。
 時おり、見覚えのない痕が混ざっている事もあったが、深くは考えなかった。

 だって彼女は、貪欲に僕を飲み込んで行く。
 もう僕は自己など持たず、妖しいまでに悦ぶ彼女のために彼女に触れる。

92 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:50:14 ID:S7CHutlkO

 最初は手で、皮膚を軽くつねるだけ。
 次は、平手でほんの軽くはたくだけ。
 そして、道具を使って身体をつねった。
 いつしか、彼女の肌から血が流れた。
 自由を奪われて喘ぐ彼女は、ひたすら美しかった。

 だから僕は、彼女の腕を奪った。


 腕を強く縛られた彼女。
 嬉しそうに微笑む彼女。

 その腕に鋸をあてる僕。

 頭を撫でて、口づけて。


 僕は、彼女の腕を切り落とした。


 ごりごり、やわらかな感触、かたい感触。
 ぷちぷちと繊維を引き裂く様に切って、骨が触れる。
 ゆっくりゆっくり、細い骨を少しずつ削るように切断して。

 片腕を失った彼女は、笑顔だった。


 よく消毒してから、腕の傷を焼いて血を止める。
 二重に縛ってはいたが、それでも血が流れた。
 そのせいで、彼女は青い顔で僕に寄り掛かる。

93 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:51:22 ID:S7CHutlkO

 これで、一人では生きていけない。
 寄り掛かって、手を貸して貰わなければいけない。

 僕が、他の誰かに触れる事が無くなる。
 彼女は僕のものであり、僕は彼女のものになった。


 そう微笑みながら言う彼女の口に、食事を運ぶ僕。

 僕らは、幸せだった。
 互いに互いしか存在しなくなると言う事が、幸せだった。


 いつからだろう、僕らがこうなったのは。
 口に出さないだけで、互いに強く想いあっている事は分かっていた。

 たとえそれが、恋とか愛と言う崇高な物では無いとしても。

 僕らは共存すべき存在なんだ。



 孤独の隙間を埋めたかっただけかもしれない。
 ただ、孤独と言う同じ痛みを知っている相手だからかもしれない。

 所詮は擬似的愛情だ、吊り橋効果だ、ストックホルム症候群だのと言われるかもしれない。

 それでも他人には理解できないだろう。


 僕らは、愛し合っている。

94 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:53:18 ID:S7CHutlkO

 後日、彼女の両親が逮捕された。
 テレビにも流れる様な事にまで発展したが、僕はそんな事はどうでも良い。

 大人達によって、彼女が遠くへと連れて行かれたのだ。
 自動虐待だの保護だのと言って、彼女が突然居なくなってしまった。


 虚無感に襲われて、僕は一人で部屋にこもった。

 そう言えば、見覚えの無い傷が増える事があった。
 僕は拳を使う事は無かったのに、殴られた痕が。

 きっと、虐待と言うのは事実なのだろう。
 もっとも、今一番騒がれている腕切断に関しては、無関係なのだが。


 部屋の隅で膝を抱えている時、クローゼットの前に落ちている物に気が付いた。

 それは、いつも彼女が身に付けていたブレスレット。

 それを拾い上げると、僕は涙を溢しながら胸に抱いた。


 早く、早く、大人になりたい。

 大人になったら迎えに行こう、何年も何年もそう想い続けて。



 僕は医学の道に進み、そして、

95 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:55:14 ID:S7CHutlkO



爪'ー`)y‐「…………あ……」

川 ゚ -゚)「……」

爪'ー`)y‐「そっか……これは…………」

川 ゚ -゚)「思い出は、受け取られました、か?」

爪'ー`)y‐「……はい、有り難うございます」

( ΦωΦ)「大事な思い出だったのでありますか?」

爪'ー`)y‐「はい、大切な、大切な思い出です……思い出せて良かった」

( ΦωΦ)「おお、それは良かった」

爪'ー`)y‐「あ、お代とかは……?」

川 ゚ -゚)「いえ、結構です」

( ΦωΦ)!?
( ^Д^)!?

爪'ー`)y‐「良いんですか?」

川 ゚ -゚)「はい、思い出に値段を付ける様な無粋な真似はしたくありませんので」

爪'ー`)y‐「そう、ですか……じゃあせめて、結婚したら彼女を連れてきますね」

川 ゚ -゚)「はい、是非とも」

爪'ー`)y‐「それじゃあ、失礼します……本当に、有り難うございました」

96 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:57:10 ID:S7CHutlkO

 からん、こらん。


川 ゚ -゚)「…………」

( ΦωΦ)「お、おい……?」

( ^Д^)「代金要らないって……どしたの……?」

川 ゚ -゚)「……ロマネスク……水、冷たい水……」

(;ΦωΦ)「お、おう……待っとれ」

( ^Д^)「直野……?」

川 ゚ -゚)「……」

(;^Д^)「お、おい直野……どうした? 大丈夫か?」

川 ゚ -゚)「…………トイレ……」

(;^Д^)「お、おう! 連れてくから! 無理すんな!」

97 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 21:59:21 ID:S7CHutlkO

(;ΦωΦ)「クー、水……だ、大丈夫か……?」

(;^Д^)「わかんね……急に昼飯全部吐いて……」

川 ゚ -゚)「…………」

(;ΦωΦ)「ほれ、水飲め……晩飯におかゆ作るから寝とけ」

(;^Д^)「あ、俺看とくわ、おかゆの材料よくわからん」

(;ΦωΦ)「頼みます、安静にしとれよ! すぐ戻るから!」



 優しくされて、嬉しいが、今はそれどころではなかった。

 思い出すだけで、喉の奥から酸っぱい物が込み上げる。


 ついに触れてしまった。
 触れたくもない、歪んだ思い出。

98 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 22:01:09 ID:S7CHutlkO

 皮膚を、肉を、骨を切る感触。
 血のにおい、ぬるつく手のひら、むせかえるような部屋の中。

 何から何まで、見て、聞いて、触れてしまった。


 さすがに、きつい。
 グロ耐性があるなしの問題じゃない。

 あんなものを、体験したも同じ。
 私が、幼女の腕を切断したと同じ。

 ごりごり、ぷちぷち、血が、噴き出して、


川 ゚ -゚)「……トイ、レ……」

(;^Д^)「洗面器持ってくるから! あんま動くなし!」


 人の良い元同級生と、普段はつんけんしてる幼馴染みが必死になっている。
 だが私は、それを揶揄する体力も根性もあったもんじゃない。



 だって、考えてもみろよ。
 あれは手放した思い出なんだ。

 あの人は、あれを、忘れていた。

 そして戻ってきた思い出を、笑顔で、幸せそうに、胸に抱いたんだ。

99 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 2011/07/23(土) 22:03:21 ID:S7CHutlkO

 普通じゃない。
 あの人、普通じゃない。

 あんなものを忘れられるなんて。
 しかも、あれは記憶に蓋をしたんじゃない、ただの時の流れによる忘却だ。

 だから再び手にしても、顔色一つ変えなかった。


川 ゚ -゚)「……わ、い……」

(;^Д^)「え?」

川 ゚ -゚)「こわ、い……こわい……」

(;^Д^)「な、直野? 直野っ? どした!?」



 美しい愛情かも知れない。

 けれど部外者から見たら、それは、ただ漠然とした恐怖の対象。
 歪んだ愛情とでも、言うのだろうか。



 数ヵ月後、あの人が幼い妻を連れて、照れ臭そうに笑っていた。

 男二人はただ祝福をしていたが、私は、


 私は、左腕の無い幼妻の姿に
込み上げる胃液を飲み込む事で必死だった。



おわり。

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