- 2 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 21:45:58 ID:fCCcJVIYO
いつからだろう。
僕が、こうなったのは。
いつからだろう。
彼が、ああなったのは。
いつからだろう。
いつからだろう。
いつからだろう。
逃げ出したい。
逃げ出した筈だった。
逃げ延びた筈だった。
逃げ切った筈だった。
なのに、彼は、僕の前に居る。
- 3 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 21:49:01 ID:fCCcJVIYO
僕を見る彼は、とてもにこやかで、優しい。
他の誰かと変わらず、分け隔てなく、ただ穏やかに接する。
まるで、忘れた様に。
僕は、忘れた事など一度も無いのに。
彼は、本当に忘れてしまったのか。
それとも、忘れた振りをしているだけか。
どちらにせよ、この現状は、僕にとって有り難くないものだ。
ずっとずっと抑え込んでいた痛みが、やっと癒え始めた痛みが、また口を開いてじくじくと痛む。
いや、本当は癒える事なんてないのだろう、それでも何とか抑え込んでいたんだ。
でも、目の前でにこにこと僕を見るこの人が。
この人の眼差しが、また、僕を掻き乱してゆく。
逃げ切ったと、信じていた、痛い過去が。
ぐろぐろとした何かが、口を大きく開いて僕を飲み込む。
甘い、助けて、誰か、助けて、せんせい。
- 4 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 21:51:44 ID:fCCcJVIYO
みんみんみんみん。
( ΦωΦ)
じゃわじゃわじゃわじゃわ
『直野骨董店 臨時休業のお知らせ』
( ΦωΦ)
みんみんじゃわじゃわ
( ΦωΦ)「フンッ!!」ビリィ!!
【思い出屋さんのようです】
閲覧注意
- 5 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 21:55:58 ID:fCCcJVIYO
からんころん。
川 ゚ -゚)「あ」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「お、おま、入ってくんなよ! 張り紙見ただろうが!」
( ΦωΦ)「喧しいわ白目女が」
川 ゚ -゚)「うるせー前回ラストで優しかったくせに!」
( ΦωΦ)「体調の悪い人間は丁寧に扱う、是常識也」
川 ゚ -゚)「うるっせェこの鼻タブ無双が」
( ΦωΦ)「罵ってんのかソレは」
川 ゚ -゚)「うっせばーかうっせばーか私は休むんだこれは大宇宙の意思なんだよばーか」
( ΦωΦ)「理由」
川 ゚ -゚)「あ?」
( ΦωΦ)「直野骨董店店主の元で働く事を代々命ぜられている杉浦家長男に述べろ、休む理由を」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「雨が降ったから」
( ΦωΦ)「晴天です」
- 6 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 21:59:04 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「じゃあ風が吹いたから」
( ΦωΦ)「桶屋儲けまくりんぐ」
川 ゚ -゚)「とにかく店は閉める、決定事項」
( ΦωΦ)「だから理由」
川 ゚ -゚)「月のものが来たので」
( ΦωΦ)「体育の見学理由にはなるが休業の理由にはならん」
川 ゚ -゚)「ばっかおめーアレだぞ、人によっては起き上がれないんだぞ」
( ΦωΦ)「じゃあ今目の前で売り物のスマートボールしてるお前はそんなに大変なのか」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「スマートボールって燃えるよね」
( ΦωΦ)「否定はしない」
川 ゚ -゚)「でも祭りの場になると下手になるよね」
( ΦωΦ)「調整されてんじゃね」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「眠い」
( ΦωΦ)「知るか」
- 7 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:01:48 ID:fCCcJVIYO
( ΦωΦ)「だーかーらー、理由」
川 ゚ -゚)「……怖いから」
( ΦωΦ)?
川 ゚ -゚)「思い出を見るのが、怖いから」
( ΦωΦ)!
川 ゚ -゚)「もう、怖いのは嫌だから」
( ΦωΦ)「……お前は、思い出が見えるのか?」
川 ゚ -゚)「…………」
( ΦωΦ)「……やっぱりな、そんな気はしてたよ」
川 ゚ -゚)「…………やだよ、怖いのは」
( ΦωΦ)「だがお前が言ったのであろうが、責任感」
川 ゚ -゚)「実際触れたら、思ったよりずっと怖かった」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「私は、もう二度とあんな思いはしたくない」
- 8 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:04:53 ID:fCCcJVIYO
( ΦωΦ)「つまり、逃げるのか」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「お前が言った、思い出を求める人をそのままにするのか」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「そして、姉にすべてを押し付けるのか」
川 ゚ -゚)!!
( ΦωΦ)「よく解った、ならばお前はもう店主ではない」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「つまり、我輩がお前の世話をする理由も無くなった。じゃあな」
川 ゚ -゚)「ま、」
( ΦωΦ)「臆病者と話す事は無い」
川 ゚ -゚)「待て、よ……」
( ΦωΦ)「聞かん」
川 ゚ -゚)「訂正しろよ」
( ΦωΦ)「何をだ」
- 9 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:07:13 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「私は、もう、姉ちゃんの後ろに隠れてない」
( ΦωΦ)「どこがだ、姉の代わりだと常に逃げ道を作るだろう」
川 ゚ -゚)「事実、だろ」
( ΦωΦ)「……」
川 ゚ -゚)「私は、姉ちゃんに頼ってない」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「姉ちゃんは居ない、私は代理で、でも、」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「…………訂正しろよ……ッ」
( ΦωΦ)「何を、だ」
川#゚ -゚)「私は姉ちゃんに押し付けたりなんかしないッ!! 姉ちゃんに迷惑なんかかけないッ!!」
( ΦωΦ)
川#゚ -゚)「今の店主は私だッ! 姉ちゃんにもう迷惑なんかかけないッ!!! 訂正しろッ!!!!」
( ΦωΦ)「ごめん」
川#゚ -゚)「……」
( ΦωΦ)「ごめん、言い過ぎた」
- 10 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:09:58 ID:fCCcJVIYO
( ΦωΦ)「……」
こんなに、怒ると思わなかった。
こいつにとっての『姉』と言う存在は、余りにも大きい。
( +ω+)゙「ごめん」
こいつの『姉』は、こいつのコンプレックスであり、
同時に、尊敬してやまない存在である事は、変わらないのか。
小さい頃は、姉の後ろで怯えていたのに。
いつのまにこいつは、こんなに強かになった。
いや、
( ΦωΦ)「ごめんな」
やっぱり、こいつはまだ弱いんだ。
泣き虫だった頃から、変わっていない。
- 11 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:12:11 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「……私も、怒鳴った、ごめん」
( ΦωΦ)「……」
川 ゚ -゚)「……」
( ΦωΦ)「飯」
川 ゚ -゚)「うん」
( ΦωΦ)「肉まんの残りで、ごめん」
川 ゚ -゚)「本気で泣くぞ」
( ΦωΦ)「いやもう、ごめん、三桁は作りすぎた」
川 ゚ -゚)「お前って頭良いフリして実は今世紀最大のアホだろ」
( ΦωΦ)「多少否定できなくてつらい」
川 ゚ -゚)「お前ってばマジあほんだら……もう良いや、食うわ……」
( ΦωΦ)「明日の飯は好きなのにするから……」
川 ゚ -゚)「焼肉」
( ΦωΦ)「また唐突に無茶を」
- 12 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:14:41 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「…………店、頑張る、折れないように」
( ΦωΦ)「おう」
川 ゚ -゚)「また吐いたら、どうしよう」
( ΦωΦ)「看病するわ」
川 ゚ -゚)「わー心強い」
( ΦωΦ)「んな棒読みな」
川 ゚ -゚)「わー心強い(迫真)」
( ΦωΦ)「君が泣くまで罵るのを止めない」
川 ゚ -゚)「そんなお前ひどい」
( ΦωΦ)「このド腐れ低学歴ニート喪女」
川 ゚ -゚)「すんっげぇ心に突き刺さるなそれ」
( ΦωΦ)「鉄面皮不摂生ニート自宅警備員ニートキングオブニートヒキコモリ」
川 ゚ -゚)「は、働いてるわ! ニートちゃうわ!」
( ΦωΦ)「うんうんニートじゃない(迫真)」
川 ゚ -゚)「君が土下座するまで罵るのを止めない」
( ΦωΦ)「返し技……だと……」
- 13 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:17:24 ID:fCCcJVIYO
( ΦωΦ)「しかし我輩はそこまで突き刺さるような罵声は」
川 ゚ -゚)「童貞」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「見た目だけマッチョ小心者」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「年齢=彼女居ない歴かつ童貞歴」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「異常性癖」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「生まれた時から悪魔超人顔」
( ΦωΦ)「ごめんなさいそろそろやめてください」
川 ゚ -゚)「黙れロリコンが」
( ΦωΦ)「別に年下の小娘に興味があるわけでは」
川 ゚ -゚)「二次元」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「言い残す事はあるか」
( ΦωΦ)「明日は焼肉にします」
川 ゚ -゚)「よかろうなのだ」
- 15 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:19:47 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「しっかし客こねぇな、」
( ΦωΦ)「思い出屋の客は縁次第だからなあ」
川 ゚ -゚)「骨董屋は?」
( ΦωΦ)「知らん」
川 ゚ -゚)「私も知らん」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「お前さ、骨董についてわかるの?」
川 ゚ -゚)「全然?」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「腹減ったな」
川 ゚ -゚)「肉まん食うか」
- 16 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:21:44 ID:fCCcJVIYO
( ΦωΦ)「しかし、前回の客はインパクトあったみたいだな」
川 ゚ -゚)「心が折れかけるレベル」
( ΦωΦ)「どんだけ」
川 ゚ -゚)「だってあいつ自分で嫁の腕を」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「え?」
川 ゚ -゚)「いや、プライバシーに関わるから黙っとく」
( ΦωΦ)「えっ、ちょ、気になる」
川 ゚ -゚)「きにすんな」
( ΦωΦ)「えぇー……」
からんころん。
( ΦωΦ)「お」
川 ゚ -゚)「んあ」
(,,^Д^)「あの……失礼します……?」
( ΦωΦ)「客であるな」
川 ゚ -゚)「客だな、らっしぇい」
(;,^Д^)「は、はぁ……」
- 17 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:24:18 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「いらっしゃい、直野骨董店、もとい思い出屋へようこそ(キリッ)」
(,,^Д^)「思い出屋……?」
川 ゚ -゚)「この店は思い出を売る店、あなたの手放した大事な思い出をお返しします(キリッ)」
(,,^Д^)「……」
( ΦωΦ)「そちらの棚から、気になった物を持ってきて下さい」
(,,^Д^)「は、はい……わかりました」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「ノー突っ込みでフィニッシュ?」
( ΦωΦ)「突っ込んで欲しかったのか」
川 ゚ -゚)「ボケ根性が根付いちまったよ」
( ΦωΦ)「飼い慣らされてんなあおい」
- 19 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:27:21 ID:fCCcJVIYO
ふらふらと、導かれるように辿り着いた骨董店。
そこの店主らしき二人は若く、不思議な雰囲気を纏っていた。
その雰囲気に気圧された僕は、言われるがままに示された棚へと向かう。
用途もわからない古びた道具、古道具独特の匂い、どこか懐かしさを感じられる店。
古い木製の棚を見て行き、一つ一つをじっくりと観察する。
(,,^Д^)「……思い出、かぁ」
店主らしき女性の言葉を反芻し、ふと棚の上を見上げた。
そこにあったのは、お菓子の袋。
僕はそれに手を伸ばし、そっと掴む。
袋はがさがさと音をさせて僕の手に収まり、ポップな色使いのそれを見つめた。
それは、個別包装の小さな飴がたくさん入った、未開封の袋。
見覚えのあるそれに首を傾げながら、店主達の待つカウンターへと戻って行った。
- 20 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:30:12 ID:fCCcJVIYO
( ΦωΦ)「いっせーのーせー、いちっ」
川 ゚ -゚)「いっせーのーせー、にっ」
( ΦωΦ)「あ、くそっ」
(,,^Д^)「あの……良いですか?」
( ΦωΦ)「あ、はいはいどうぞ」
川 ゚ -゚)「ん、食べ物は珍しいな」
(,,^Д^)「あ、そうなんですか?」
川 ゚ -゚)「親の手作りとかはあったけど、既製品か」
(,,^Д^)「ですね……昔、売ってた記憶があります」
川 ゚ -゚)「ふーん……ところで、あんたいくつ?」
(,,^Д^)「あ、27です」
川 ゚ -゚)「おっさんに近いっすね」
(;,^Д^)「はっきり言いますね」
- 21 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:33:30 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「へー、飴か……」
(,,^Д^)「はい……でも、」
川 ゚ -゚)「ん?」
(,,^Д^)「僕、甘いものは苦手なんですよね……」
川 ゚ -゚)「あらまあ、それも何か関係してるのかも知れんね」
(,,^Д^)「ふむ……」
川 ゚ -゚)「…………あの」
(,,^Д^)「はい?」
川 ゚ -゚)「医者だったり、しません?」
(,,^Д^)「いえ、教師です、最近こっちに赴任してきたばかりの」
川 ゚ -゚)ホッ
(,,^Д^)?
( ΦωΦ)(そんなにトラウマだったのか……)
- 22 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:35:51 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「んじゃ、思い出見てみますかね」
(,,^Д^)「あ、お願いします、?」
川 ゚ -゚)「……どんな思い出でも、恨みっこ無し」
(,,^Д^)「え」
川 ゚ -゚)「今が、手放した思い出が必要になった時
だからあんたはここに居て、この思い出を買いに来た
その思い出がどんな物でも、どんなに痛々しい物でも、私は責任を持たないよ」
(,,^Д^)「……わかりました、お願いします」
川 ゚ -゚)「よし、じゃあ……」
そっと、カウンターに置かれた袋に白い手が翳される。
指先が袋に触れた、その瞬間、世界は真っ白に塗りつぶされた。
遠くで、声がする。
- 23 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:38:18 ID:fCCcJVIYO
ぽたぽたと汗が流れるような、暑い日。
僕は、家から離れた公園に居た。
子供がほとんど居ない、ひとけもまばらな公園。
そのベンチに腰をかけて、子供を見る。
一人で遊ぶ幼い男の子を見つめる僕。
ふと、他に居た子供たちが公園から出ていった。
すっと立ち上がり、その子供に近付く。
砂場で砂を盛る子供の側で立ち止まると、しゃがみこんで声をかけた。
『ねぇ』
『ぇ……?』
『君は、一人なの?』
『……うん』
『じゃあ、お兄ちゃんと遊ぼうか』
『…………うん』
- 24 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:40:10 ID:fCCcJVIYO
精一杯、人の良い笑顔。
それを信じたのか、子供は小さく頷いた。
悪いのは、僕じゃない。
『じゃあ、こっちにおいで』
『うん』
『甘い、お菓子をあげるよ、ほら』
『ありがとう、お兄ちゃん』
悪いのは、「知らない人についていってはいけません」と
教えなかった、親や教師の方だ。
- 25 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:41:25 ID:fCCcJVIYO
最近の大人は、そう言う事を教えていないんだろうか。
なんて、なんて嘆かわしい事だろうか。
良くない事だ、大変良くない。
だから、僕が教師のかわりに、教えてあげなきゃ。
『お兄ちゃん、どこ行くの』
『ねぇ』
『?』
『せんせいって、呼んでくれるかな?』
『せんせい?』
『そう、せんせい』
『わかった、せんせい』
僕が、教えて、あげなきゃあ。
- 26 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:43:12 ID:fCCcJVIYO
僕は、幼い子供が好きだった。
あの誰かの庇護の元に居なければ生きてゆけないような、脆弱さが。
声をかけられた子供が、しかるべき教育を受けて僕を拒んだのなら、僕は何もせずに離れた。
大人たちに何かを言われても、ただ「一人で遊ぶのは危ないと思った」と逃げられる。
でも、しかるべき教育を受けていなかったら。
僕は、この身を呈して、教えてあげなきゃいけない。
庇護の元にあるべき子供に。
ただ、子供が好きなだけ。
ただ、その幼い身体が好きなだけ。
細い手足が、柔らかな皮膚が、何もかもが、好きなだけだ。
その好きだと言う欲求に従い、僕は行動する。
綺麗な新雪を汚すみたいに、子供を撫でる。
少し、少しだけ、歪んでしまっただけで。
僕は、悪くない。
- 27 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:44:18 ID:fCCcJVIYO
ついてきた子供は、短いズボンの裾から白い足を覗かせている。
あまり日焼けをしない体質なのだろうか、夏に似つかわしくないほど、白い。
少し濁った目をして、僕を見上げる幼い顔。
愛らしく整った顔は、不思議な危うさを持つ。
繋ぐ手に力を込めた。
汗にぬるつく手のひらが、僕を高揚させる。
辿り着いたのは、ひとけの無い路地裏。
野良猫すら見かけないような、薄暗い空間。
誰も居ない、誰も来ない、誰も見ていない。
何度も足を運んで見つけた、ここ。
『せんせい』
『はい、お菓子だよ』
『ありがとう』
『君の名前は?』
『───』
『そう、───くん』
- 28 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:45:49 ID:fCCcJVIYO
『……せんせい?』
『だめだよ』
『ぇ、?』
『知らない人に、ついてっちゃ』
口を手で塞いで、壁に押し付ける。
驚いたように目を丸くする子供は、とても愛らしかった。
だから僕は頬を、首筋を、鎖骨を、ゆっくりと歯を立てながら舌を這わせた。
僕の腕から逃れようと暴れても、小さな子供の力なんて、たかがしれている。
猿ぐつわをして、服を脱がせた。
汗に濡れる白い肌は、どこまでも、いとおしい。
子供の白い肌に生々しい傷をつける。
切り傷、擦り傷、打撲痕、鬱血痕。
赤や紫の痕を残す肌はすべらかで、柔らかくて、たまらなく美しい。
- 29 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:46:43 ID:fCCcJVIYO
綺麗な物を汚したくなるのは、きっと人間のさが。
本能的に、何かをけがす事を求めているんだ。
だから僕は、その本能に従っただけ。
弱者を愛で、いたぶり、慈しみ、傷付け、けがして、こわして、ふみちらかして。
僕はただひたすら、その欲望を子供にぶつけた。
愛しい対象へ、愛を叩き付けた。
最初は泣きながら抵抗していた子供は、次第に抵抗をやめた。
息はしているし、意識もある、ただ虚ろな目をその辺りにゆらゆらとさせているだけ。
ごぽりと吐き出してから、僕は立ち上がり、子供の周りへあめ玉をばらまいた。
『ほら、ね、知らない人に、ついてきちゃうから』
にっこりと笑ってそう告げ、僕は身支度を整えて、その場を後にした。
- 30 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:48:01 ID:fCCcJVIYO
その後、何度も僕はそこに足を運んだ。
けれど子供は何も言わず、ただ僕についてくる。
そして、大人に見つかったり、捕まる事もなかった。
あんな思いをしても、まだついてくるなんて。
もっと、もっと教えてあげなくちゃ。
結局それは、僕が親の都合で引っ越すまで続いた。
引っ越した後は、ずいぶんと離れてしまったからあの子には会えなくなったけれど。
僕はずっと子供が好きで、好きで、常に子供と触れ合える道に進んだ。
もといた土地に戻ってきたのは
あれから、十年ほど経ってから。
- 31 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:49:36 ID:fCCcJVIYO
(,,^Д^)「あ……」
川 ゚ -゚)「……」
(,,^Д^)「そ、か……そうかぁ……」
川 ゚ -゚)「思い出は、受け取られましたか」
(,,^Д^)「はい……はい、しっかりと……」
川 ゚ -゚)「お代は結構です、ですので、その思い出をもう手放さないで下さい」
( ΦωΦ)゙ !
(,,^Д^)「ありがとうございます、店主さん……大事にします」
川 ゚ -゚)「ええ」
(,,^Д^)「…………そうだ」
川 ゚ -゚)「え、?」
「ぼくは、あまいものが、だいすきなんです」
- 32 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:51:04 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「……クー?」
川 ゚ -゚)「水」
( ΦωΦ)「用意しておいた」
川 ゚ -゚)「トイレ」
( ΦωΦ)「洗面器と新聞紙とビニール袋はこちらに」
川 ゚ -゚)「ハグ」
( ΦωΦ)「それは非売品です」
川 ゚ -゚)「折れた、心が折れた、もう無理」
( ΦωΦ)「アロンアルファならこちらに」
川 ゚ -゚)「いやもう無理、変態の相手とかマジ無理」
( ΦωΦ)「何なのこの店の変態来客率」
- 33 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:53:22 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「しかも犯罪だし、ガチ犯罪だし、おまわりさん呼んで」
( ΦωΦ)「177だっけ」
川 ゚ -゚)「時報じゃねーか」
( ΦωΦ)「天気予報だよ」
川 ゚ -゚)「どっちにしろ駄目じゃねーか」
( ΦωΦ)「取り敢えず落ち着け、ほら汁粉」
川 ゚ -゚)「暑いから、残暑ド厳しいから」
( ΦωΦ)「ぜんざいもあるよ」
川 ゚ -゚)「お前はどこまで私に嫌がらせをしたいの? 塩昆布はないの?」
( ΦωΦ)「肉まんなら」
川 ゚ -゚)「しょっぱいけど何もかもが違う」
( ΦωΦ)「良いからもう食えって、ほらアズキバー」
川 ゚ -゚)「お前どんだけ小豆買い込んだの?」
( ΦωΦ)「三キロ」
川 ゚ -゚)「正真正銘のアホだよお前」
- 34 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:55:32 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「お前アレだろ、安売りでつい買いすぎて腐らせるタイプだろ」
( ΦωΦ)「違うよ全部調理して冷凍保存だよ」
川 ゚ -゚)「アホだからお前」
( ΦωΦ)「そろそろ自覚してる」
川 ゚ -゚)「家事全般いけると思ったのにお前……そう言う計算は出来ないのかよ……」
( ΦωΦ)「割りとノリで生きてる」
川 ゚ -゚)「肉まんまだ残ってるんだろ」
( ΦωΦ)「すみません」
川 ゚ -゚)「明日は焼き肉だからな、絶対に肉まん食わないからな」
( ΦωΦ)「明後日から肉まん無双な」
川 ゚ -゚)「なん、だと……」
- 35 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 22:58:28 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「……」
( ΦωΦ)「どうした、白目」
川 ゚ -゚)「良かったのかな、あの思い出」
( ΦωΦ)「……持ち主に返した事か?」
川 ゚ -゚)「うん……何か、嫌な感じがする」
( ΦωΦ)「……」
川 ゚ -゚)「私の仕事は、正しかったのかな……」
( ΦωΦ)「気にするな、お前はお前の仕事を全うしただけだ」
川 ゚ -゚)「…………うん」
( ΦωΦ)「先代も言ってたのであろう、思い出屋の仕事はつらい仕事だと」
川 ゚ -゚)「……」
( ΦωΦ)「そして、それを全うすると言ったではないか」
川 ゚ -゚)「そう、だな」
- 36 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 23:01:12 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「うん…………まだ、頑張る」
( ΦωΦ)「うむ、明日は焼き肉だからな」
川 ゚ -゚)「ところでさ」
( ΦωΦ)「ん?」
川 ゚ -゚)「確かお前、私が思い出見れないって言うの信じたよな?」
( ΦωΦ)「うん」
川 ゚ -゚)「でもその割りと直後に、思い出が流れ込んだって言ったのよ」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「その後っつーか、今朝お前『やっぱりか』とか言ってたよな」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「結構最初から分かる事なんじゃないの? 私が思い出見るの」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)
( ∩ω∩)"
- 37 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 23:03:56 ID:fCCcJVIYO
川 ゚ -゚)「お前って今世紀最大のアホンダラなんだな」
( ∩ω∩)「おま、おまえが、わかりにくい言い方を、するから、」
川 ゚ -゚)「なあロマネスク」
( ∩ω∩)「はひ」
川 ゚ -゚)「お前ってバカだろ」
( ∩ω∩)「はひ」
川 ゚ -゚)「特上ハラミ」
( ∩ω∩)「買っときます」
川 ゚ -゚)「上ロースとバラとハネシタとミスジとイチボとヒウチとカイノミと生レバー」
( ∩ω∩)「スーパーで売ってる部位にしてよ! 卸し問屋にでも行けってか!!」
川 ゚ -゚)「うん」
( ∩ω∩)「即答だよ!! 我輩これほぼ無収入で働いてんだぞチクショウが!!」
ま、元気になったみたいだし。
我輩の財布は痛いが、結果オーライとでも言うべきか。
- 38 名も無きAAのようです 2011/09/04(日) 23:05:31 ID:fCCcJVIYO
たとえ、もしそれが
(,,^Д^)「やあ、でぃ君」
(#゚;;-゚)「……先生」
(,,^Д^)「君に、渡したい物があるんだ」
(#゚;;-゚)「ぇ……」
「ほら、お菓子だよ」
我輩たちの知らないところで、動き出すべきではなかった歯車が、動き出したとしても。
けれどそれは、我輩たちの与り知る事ではない。
思い出屋は、手放した思い出を持ち主に返す仕事。
ただ思い出屋の仕事を、全うしただけ。
そうでなければ、そうでなければ、
もう、あいつはこの仕事を続けられはしないだろう。
終わりがすぐそこまで近付いているのは、まだ知らないのだが。
おわり。