44 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:02:10 ID:NvHihuhAO

 夏が終わりを迎え、徐々に涼しさを感じる事も増え始めた。
 学生や社会人は夏の休みを終え、各々が忙しい日々に戻って行く。

 常連の幼馴染みや元同級生もその例に漏れず、訪れる回数と滞在時間は減った。

 しかし店主には、店にしか居場所がない。


 そんな店主は今、散らかった居住区の端に、縮こまって正座をしている。

 目の前には、



lw´‐ _‐ノv「調子はどうかな、妹よ」

川 ゚ -゚)「あ……その……上々、です……」

lw´‐ _‐ノv「そう、じゃあ思い出屋としては?」

川 ゚ -゚)「え、あ……はい……あの……上々、で……はい」



 本来の店主である姉が、正座をしていた。


      【思い出屋さんのようです】

45 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:04:10 ID:NvHihuhAO

川 ゚ -゚)「あ、の……姉ちゃん……何で、突然……?」

lw´‐ _‐ノv「そろそろ可愛い妹の顔も見たくなったので」

川 ゚ -゚)「あ、はい……恐縮です……」

lw´‐ _‐ノv「そうだ」

川 ゚ -゚)「はひッ?」

lw´‐ _‐ノv「クーにお土産があるの、ほらこれ」

川 ゚ -゚)「わ、わー何この怖い人形……」

lw´‐ _‐ノv「ブービーだかバービーだか言う人形」

川 ゚ -゚)「それ多分ブードゥー人形だと思います」

lw´‐ _‐ノv「YES! YES! YES!」

川 ゚ -゚)「それはダービー君」

lw´‐ _‐ノv「もしかしてオラオラですか?」

川 ゚ -゚)「それ言われる側」

lw´‐ _‐ノv「んもうノリが悪いったら」

川 ゚ -゚)「え、えぇ……」

46 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:06:06 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「あとほら、色々あるのよオラオラ、じゃないお土産」

川 ゚ -゚)「わ、わーいトーテムポールだ……」

lw´‐ _‐ノv「あとモアイ像が鼻から水を出し続ける置物」

川 ゚ -゚)「これビレバンとかに売ってる謎の置物じゃないですか」

lw´‐ _‐ノv「(´・ω・`)クッションとかペンケースとか」

川 ゚ -゚)「中学生みたいな事しないで姉ちゃん」

lw´‐ _‐ノv「可愛いと思うよ?」

川 ゚ -゚)「可愛いけど屋外で使う自信ないッスよこれ……」

lw´‐ _‐ノv「元から出ないでしょ?」

川 ゚ -゚)「わーい辛辣ゥー」

lw´‐ _‐ノv「あとほら、PSP」

川 ゚ -゚)「おお」

lw´‐ _‐ノv「Go」

川 ゚ -゚)「産廃扱いだッ!?」

47 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:08:07 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「DL買い専と改造割れ専なら」

川 ゚ -゚)「いらないよ! それよりもvitaが良いよ!!」

lw´‐ _‐ノv「じゃあこの半透明な赤ピンクと黒のツートンカラーPSPをあげよう」

川 ゚ -゚)「嫌いじゃないけど絶妙なダサさを誇るカラーリング!! 片割れのカルピスカラーは!?」

lw´‐ _‐ノv「私が使うつもりだったけど、こっちが良いならあげよう」

川 ゚ -゚)「わ、わあい……姉ちゃんとお揃いだあ……」

lw´‐ _‐ノv「それよりモンハンしようよ、一狩り行こうぜ」

川 ゚ -゚)「あ、ああ……3rd?」

lw´‐ _‐ノv「ううん2ndG」

川 ゚ -゚)「また絶妙なッ!?」

lw´‐ _‐ノv「ランゴスタの狩猟数そろそろカンストしそうなのよねぇ」

川 ゚ -゚)「延々と虫取りしてたの……?」

lw´‐ _‐ノv「ボックスがランゴ素材で埋まってるよ、ほら」

川 ゚ -゚)「キモい!ほぼランゴ素材のみでボックスギチギチなのキモい!!」

48 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:10:03 ID:NvHihuhAO

川 ゚ -゚)「何なの濃汁と特濃だけで1ページ埋まってるとか……わけわかんねぇ……」

lw´‐ _‐ノv「向こう側見てみ」

川 ゚ -゚)「うわああああ黒龍の剛角で1ページ埋まってるううううキモいいいいいいいい!!!!」

lw´‐ _‐ノv「まあモンハン引っ張っても困る人居るから」

川 ゚ -゚)「誰だよこれ振ったの!!」

lw´‐ _‐ノv「それよりほら」

川 ゚ -゚)「な、なんすか次は……」

lw´‐ _‐ノv「かみつきばあちゃん」

川 ゚ -゚)「持ってるよ! ピンクのまだ持ってるよ! 実家の机の引き出しにあるよ!!」

lw´‐ _‐ノv「物持ち良すぎるだろ」

川 ゚ -゚)「そっちはバトエン?」

lw´‐ _‐ノv「ドラクエシリーズのをフルセット」

川 ゚ -゚)「持ってるよ! 巨大なシドー持ってるよ!!」

49 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:12:34 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「ではこれを」

川 ゚ -゚)「たまごっちは今も人気だよ?」

lw´‐ _‐ノv「ぎゃおっぴ」

川 ゚ -゚)「すぐ死ぬパチモンじゃねーか!!」

lw´‐ _‐ノv「ついでにこのビーダマンを授けよう」

川 ゚ -゚)「ミラー覗きとロングバレルまだ持ってますから!! 締め撃ちって手が痛いだけだから!!」

lw´‐ _‐ノv「ミニ四駆にハイパーヨーヨー」

川 ゚ -゚)「肉抜きしたブロッケンGとパピヨン持ってますから!!」

lw´‐ _‐ノv「ブロッケン肉抜きってどうなのそれ」

川 ゚ -゚)「持ち味の重量感がさよならします」

lw´‐ _‐ノv「じゃあサイクロンマグナムを授ける」

川 ゚ -゚)「肉抜き途中でやめてヘロヘロじゃねーか!! せめて最後までやってよ!!」

50 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:14:47 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「はい、ビックリマンチョコ」

川 ゚ -゚)「未だにファイルに入れてしまってますから!!」

lw´‐ _‐ノv「本当に物持ち良いなおい」

川 ゚ -゚)「何でさっきからずっと20代半ばが喜ぶ懐かしのおもちゃ無双なんだよ!!
      どこ土産だよ!! 平成の十数年辺りかよ!!! 私まだ二十歳ですから!!!!」

lw´‐ _‐ノv「全てに反応を返してくれる君が好きよ」

川 ゚ -゚)「全部姉ちゃんの影響ですからアアアアアア!!」

lw´‐ _‐ノv「仮面ラーイダーブラーック!!」

川 ゚ -゚)「アールエークスッ!!」

lw´‐ _‐ノv

川 ゚ -゚)

lw´‐ _‐ノv「はい、これお土産のマサイの戦士」

川 ゚ -゚)「わー数年前に流行ったっぽい飲み物だー、間違いなく腐ってるー」

51 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:16:23 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「しかし散らかってるねぇ、元は誰の部屋かしら」

川 ゚ -゚)「す、すみません」

lw´‐ _‐ノv「骨董店の方はどう?」

川 ゚ -゚)「さっぱり」

lw´‐ _‐ノv「だと思ったよ、ほら片付けなさい、少しくらい小綺麗にしなきゃ」

川 ゚ -゚)「えぇー……」

lw´‐ _‐ノv「私と同じ布団で寝たいの?」

川 ゚ -゚)「追い出す選択肢は?」

lw´‐ _‐ノv「何で可愛い妹を追い出すの」

川 ゚ -゚)「姉ちゃん……(キュン)」

lw´‐ _‐ノv「ひとりぼっちは寂しいもんな」

川 ゚ -゚)「あたしって本当バカ」

lw´‐ _‐ノv「知ってる」

川 ゚ -゚)「あんまりだ」

52 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:18:36 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「自炊はしてないね」

川 ゚ -゚)「うん全く」

lw´‐ _‐ノv「杉浦の子が持ってきてくれるのね」

川 ゚ -゚)「うん」

lw´‐ _‐ノv「その肉まんの山がそれ?」

川 ゚ -゚)「うん」

lw´‐ _‐ノv「どんなバツゲーム?」

川 ゚ -゚)「そうなりますよねー」

lw´‐ _‐ノv「ほら、片付けたら一緒に遊ぼう」

川 ゚ -゚)「何して?」

lw´‐ _‐ノv「いっき」

川 ゚ -゚)「まさかゲーム名が出てくるとは思わなかったよ」

lw´‐ _‐ノv「じゃあギャル麻雀アイドルはハイレート」

川 ゚ -゚)「知ってる人が居るのかも怪しいゲーム名出さないでよ」

53 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:21:05 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「ほらほらゴミは捨てなさい」

川 ゚ -゚)「これゴミじゃなくてFF12」

lw´‐ _‐ノv「どう違うの?」

川 ゚ -゚)「好きな人もいるから! そんな事言わないであげて!!」

lw´‐ _‐ノv「このゴミも捨てなさい」

川 ゚ -゚)「それ聖剣4」

lw´‐ _‐ノv「そんなものは無かった」

川 ゚ -゚)「否定できない」

lw´‐ _‐ノv「この産廃は要るの?」

川 ゚ -゚)「それアイルー村」

lw´‐ _‐ノv「否定する?」

川 ゚ -゚)「個人的には嫌いじゃないけどGは買う気が起きない」

lw´‐ _‐ノv「ぶっちゃけG買うなら産廃買うわ」

川 ゚ -゚)「どんな産廃かは聞かないから」

54 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:22:03 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「この神ゲーはしまっときなさい」

川 ゚ -゚)「天外ZEROしまっとくね」

lw´‐ _‐ノv「リメイク出ませんかねぇ」

川 ゚ -゚)「出ませんかねぇ……」

lw´‐ _‐ノv「こっちの神ゲーは? リメイク出るけど」

川 ゚ -゚)「あー俺屍はしまっといて」

lw´‐ _‐ノv「この神ゲーも」

川 ゚ -゚)「蛙のために鐘は鳴るね」

lw´‐ _‐ノv「リメイクまで行かなくても良いから配信してほしいよね」

川 ゚ -゚)「これの為なら産廃買うわ」

lw´‐ _‐ノv「3D機能のいらない子ね」

川 ゚ -゚)「今のところアレを買うならvita買うね」

lw´‐ _‐ノv「まあ確かに、新タイトル気になるし」

55 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:24:34 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「うん、多少片付いたね」

川 ゚ -゚)「見事にゲームしか無かったね」

lw´‐ _‐ノv「新旧ごちゃまぜに置くの止めなさいよ」

川 ゚ -゚)「いやあ、つい」

lw´‐ _‐ノv「ところでスーファミとか無いのに何でソフトだけあるの?」

川 ゚ -゚)「本体は実家で行方不明、ソフト吸出しプレイ」

lw´‐ _‐ノv「配布はすんなよ」

川 ゚ -゚)「しねーよ勿体ない、買え」

lw´‐ _‐ノv「モラルあって安心したよ」

川 ゚ -゚)「ゲームはパッケージやソフトを並べてニヤニヤしたい派なんで」

lw´‐ _‐ノv「すっげぇ分かる、充実感ハンパない」

川 ゚ -゚)「まあそのお陰で積みゲー増えるんだけどね」

56 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:26:09 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「あ、これ」

川 ゚ -゚)「ん? ……ああ、ディディーコングレーシング?」

lw´‐ _‐ノv「いや、オペレーションウルフ」

川 ゚ -゚)「クソほど懐かしいなおい」

lw´‐ _‐ノv「よく並んで一緒にやったよね」

川 ゚ -゚)「私は横で見てるだけだったけどね」

lw´‐ _‐ノv「あの頃は、まだじいちゃん生きてたね」

川 ゚ -゚)「……うん」

lw´‐ _‐ノv「久々に起動してみよっか、ファミコンは本体あるし」

川 ゚ -゚)「うん、じゃあ貸して……あれ」

lw´‐ _‐ノv「ん?」

川 ゚ -゚)「なんか引っ掛かって入らない、何だろ……」

lw´‐ _‐ノv「あら、基盤の所に何か挟まってる」

川 ゚ -゚)「本当だ、よっ……いしょ」

lw´‐ _‐ノv「あ」

川 ゚ -゚)「あ」

57 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:28:09 ID:NvHihuhAO



 ぶわ、と 世界が白で埋まった。



『おねーちゃん』

『んー?』

『じーちゃんが呼んでる』

『えー、いまいいとこなのにー』

『一緒にいこ』

『んー』


 あれは、何だ。

 幼い頃の、私達?

58 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:30:06 ID:NvHihuhAO

『来たよ、じーちゃん』

『ああ、来たかシュール』

『またお仕事のはなし?』

『ん、クールは外で待ってなさい』

『……はーい』


 一人、店の外に出される私。
 店のガラス越しに見える姉と祖父を見る私。

 ガラスに写るその私の顔は、今にも泣きそうな、情けない顔。


『あ』

『ん?』

『なおの、何をしている?』

『ロマネスク……』

『しめだされたのか?』

『…………』

『泣くなよ、アイスやる』

『ん』

59 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:32:20 ID:NvHihuhAO

『シュー姉は、しごとのはなしか』

『うん』

『……さみしいのか?』

『……』

『……』

『姉ちゃん、とおくにいるみたいで、嫌だ』

『そう、だな……なおのはシュー姉が好きだもんな』

『うん』


 幼馴染みに渡されたソーダアイスの袋をぱり、と破いて中身を取り出す。
 少し溶けたそれを口に運び、店の中を覗いた。

 カウンター前の椅子に座る姉と、カウンターの中に座る祖父。
 二人は真面目な顔で話していて、私はそれが嫌だった。

 姉ちゃんは、いつもぼんやりと微笑む。
 私はその顔が好きで、私より背の高い姉ちゃんが大好きで、一緒にいると幸せで。


 でも、祖父と話す姉ちゃんの顔は、まるで私の知らない人。

60 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:34:05 ID:NvHihuhAO

 祖父も姉ちゃんも好き、思い出屋をする祖父も、店も好き。

 けど、思い出屋と関わる姉ちゃんは嫌だった。


 そんな姉が、不意に、険しい顔をした。

 不思議に思った私は、二人の会話に耳を澄ませる。


  『じゃ……クー…………店……』

  『ああ…………店は……あいつには……』


『よく、聞こえないな』

『うん……』

『ドアの下のとこ、耳あてよう』


  『どうして……クーはお店を継げないの?』


『っ……』

『……なおの、』

61 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:36:07 ID:NvHihuhAO

『へいき、わかってるから』

『……そうか』


  『わたしはいや、クーと一緒じゃないならお店は継がない』

  『そうわからない事を言うな、シュール』

  『いや、わたしよりクーの方がお店に向いてるのに、なのにわたしが継いで離ればなれなんて』

  『あいつに店は向かん、クールは弱すぎる』

  『嫌だよっ! わたしはクーと一緒じゃないならお店なんて継がないっ!!』

  『シュールッ!』

  『何が向かないの!? そんなにクーがいけないのっ!? わたしの妹だからっ!?』

  『あいつに店を継ぐ資格が無いんだッ!!』

  『だからって!? だからってクーと会えなくなるって言うのっ!? 妹とずっと会うなって!? 』

  『つらいだろうが、それが宿命なんだッ!!』

  『知るもんかそんなのっ!! わたしはクーと一緒に居るッ!!』

62 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:38:03 ID:NvHihuhAO


 べちゃり。

 手から、溶けたアイスが滑り落ちた。


 会えなくなる?
 姉ちゃんがお店を継いだら、私と姉ちゃんは会えなくなる?

 生まれてからずっと一緒にいた姉ちゃんに?

 なんで、どうして、そんな


『……な、なおの……なおの?』


 嫌、姉ちゃんは私の姉ちゃんなのに、私だけの姉ちゃんなのに。

 会えなくなるなんて、そんな、宿命だなんて、そんなの、私、


『ッ…………うわぁああああんっ!!』

『なおのっ!?』

63 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:40:15 ID:NvHihuhAO

 店から離れて、逃げ出した。

 背中へかけられる幼馴染みの声と、祖父と姉の声。
 でも私は止まらずに、店から離れたくてひたすら逃げた。


 ああ、私は、


 思い出屋が、大嫌いなんだ。


 私から姉を奪った思い出屋が。
 あの店が。


 憎くて憎くて、しょうがないんだ。

64 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:42:14 ID:NvHihuhAO

 いつも一緒に居た。
 引っ込み思案で、友達の出来ない私を引っ張ってくれた。

 お風呂も寝る時も、いつも一緒。
 姉ちゃんは嫌じゃないかって、一度だけ聞いた。

 その返事は、私の頭を軽くはたいて、にっこと笑って、


 『バカ言わない、わたしはクーと一緒が好きなの』


 私は、姉ちゃんが大好きだ。

 勉強が出来て、可愛くて、運動神経も良くて、何でも出来る姉ちゃん。

 比較されて悲しくもなったけど、それでも、大好きで。


 姉ちゃんのいない毎日なんて、想像すら出来ない。
 それなのに、姉ちゃんから引き離されるだなんて。

65 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:44:09 ID:NvHihuhAO


『なおの』

『……』

『シュー姉、探してる』

『……』

『帰ろうよ、なおの』

『……』

『……なおの、帰ろう』

『やだ……』

『なおの、』

『帰ったら……おねーちゃん、いなくなる』

『いなくならないよ』

『いなくなる……』

『なおの……そんなに、シュー姉を困らせたいのか?』

『っ……そんな、じゃ』

『そんなこと言ってたら、困るのはシュー姉だ』

『そん、なの……っ』

66 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:46:21 ID:NvHihuhAO

『一緒にかえろう、な』

『…………』

『アイス、またやるから』

『……う、ん』

『シュー姉と一緒が良いなら、一緒にいれるようにしよう』

『一緒、に?』

『きっとある、なおのとシュー姉が一緒じゃないなんて、変だし』

『……うん』

『今日はカレーだって、はやくかえろう』

『うん』


 私の手を握る幼馴染みの手は、少し汗ばんでいて、私より大きかった。

67 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:48:11 ID:NvHihuhAO



川;゚ -゚)「ッ!!」

lw´‐ _‐ノv「あら……駄目よ、途中で手を離しちゃ」

川;゚ -゚)「姉ちゃん……今の、……」

lw´‐ _‐ノv「分かるでしょ、思い出の持ち主なら」

川;゚ -゚)「なん、で……私が……」

lw´‐ _‐ノv「思い出屋が売る思い出は、その思い出が必要になった人へのみ」

川;゚ -゚)「この思い出が、今必要だってのかよ……ッ!?」

lw´‐ _‐ノv「そうだよ、わかってるんでしょ? 今クーには、環境に変化が訪れてるんだから」

川;゚ -゚)「…………思い出屋が……思い出を、買うなんて……」

lw´‐ _‐ノv「思い出屋にだって、思い出はある……私にも、クーにも」

川;゚ -゚)「…………見たくない」

lw´‐ _‐ノv「駄目」

68 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:50:41 ID:NvHihuhAO

川;゚ -゚)「コレが……私が、思い出したくない思い出の持ち主だって言うのかよ……こんな……ッ」

lw´‐ _‐ノv「触れなさい、ちゃんと……受け入れなさい、全部」

川;゚ -゚)「いや…………嫌だ……私は、これは……」

lw´‐ _‐ノv「ゲームの中に引っ掛かってたのは、これ……鍵だよ」

川;゚ -゚)「……」

lw´‐ _‐ノv「いつまで、自分に鍵をかけ続けるつもりなの」

川;゚ -゚)「……私、は」

lw´‐ _‐ノv「続きを、思い出した?」

川;゚ -゚)「いや、嫌だ……見たくない、知りたくない……ッ」

lw´‐ _‐ノv「違う、知るんじゃない、知ってるの、みんなクーの記憶なんだから」

川;゚ -゚)「嫌だッ!! それの、それのせいで、あのあと私は……ッ姉ちゃんは……ッ!!」

lw´‐ _‐ノv「見たくないなら、話してあげる、あなたの思い出は私の思い出でもあるんだから」

川;゚ -゚)「やめ、止めてよ、姉ちゃん……私は……」

69 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:53:25 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「クーの一言で、私は家に居られなくなった」

川;゚ -゚)「やめてッ!」

lw´‐ _‐ノv「あなたと、クーと一緒に居るために、私は思い出屋としての修行に出た」

川;゚ -゚)「姉ちゃん、姉ちゃん、やめて、お願いだから」

lw´‐ _‐ノv「そしてクー、あなたは思い出屋店主代理としてここにいる
      私の居場所を、あなたが奪ってここにいるの、私が座るべき場所に、あなたが座るの」

川; - )「姉ちゃんやめてよぉおおおおおッ!!」

lw´‐ _‐ノv「また逃げるの? 私から、現実から、そうも逃げ出したいの?」

川; - )「違う、違う違うわたしはただ、姉ちゃんと一緒に、居たくてッ」

lw´‐ _‐ノv「一緒に居たかったから、逃げて、奪って、目をそらし続けるのね」

川; - )「やぁあああああああッ!!!!」

70 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:54:05 ID:NvHihuhAO


 私の中に、ずっと押さえ込んできた何かが、弾けた。


 姉ちゃんと一緒に居たい。
 そう願っただけだった。

 けれどその一言で、姉ちゃんは家から出る事になった。


 祖父は言う。
『ならそう出来るだけの力を付けろ』

 姉は言う。
『ならやってやる、大人になったらすぐにでも』


 姉は成人してすぐ、家から居なくなった。

 そして空いた店主の座に、私が座った。


 わたしは、何もしていないのに。

71 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:56:22 ID:NvHihuhAO

 ただわがままを言っただけで、店主と言う名誉ある座を手にした私。
 それはたとえ代理だとしても、本来なら得られはしない座。

 姉ちゃんが、私のわがままで遠くに行ったと言うのに。
 姉ちゃんが、苦労して道を模索しているのに。

 私はただ、座るべきではない場所に座り、日々を怠惰に過ごした。


 首をもたげるのは、罪悪感。


 私のせいで、姉ちゃんが大変な思いをしている。
 私のせいで、姉ちゃん居場所がなくなった。
 私のせいで、私の手で、何もかも、奪い去ってしまった。

 私のせいで、私のせいで、私のせいで。


 ずっと、その罪悪感を押し潰して座っていた。
 だって罪悪感に手にしたままだと、私が壊れてしまったから。

 何もかも手放して、目を背けて、


 私は姉ちゃんから逃げている。

72 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 21:58:53 ID:NvHihuhAO

 小さい頃、わがままを言ったあの時から。
 私は、どこへも進めずに、思い出にとらわれ続けて生きている。


 姉ちゃんがいなくなって、悲しくてつらくて苦しくて。
 でも、次第に悲しむ事からも逃げ出した。

 逃げて逃げて逃げて、行き着く先はここ、思い出屋。

 思い出に囲まれて、思い出にとらわれて、怠惰な日々に浸っていた。


 私は弱いから、変化が怖くて。
 あんなに焦がれた姉ちゃんの事も、考える事が怖くなって。



lw´‐ _‐ノv「思い出になれるのは、その時の長男長女のみ」

川; - )「……」

lw´‐ _‐ノv「特にクー、あなたは思い出にとらわれる弱さが、昔からあった」

川; - )「…………」

lw´‐ _‐ノv「だから、じいちゃんはクーには無理だって言ったんだね」

川; - )「ね、ちゃ……」

73 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 22:00:33 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「でも私はね、クーは思い出屋に向くと思ってるんだよ」

川; - )「へ……?」

lw´‐ _‐ノv「だって私は、クーみたいに弱くないから
      弱さはマイナスじゃない、感受性や甘さでもあるの、あなたは心が優しい子」

川;゚ -゚)「姉……ちゃん……?」

lw´‐ _‐ノv「私は意地悪だから……クーにこんな事を言う、意地悪な姉だから」

川;゚ -゚)「そんな、姉ちゃんは……」

lw´‐ _‐ノv「クーは、こんな私にずっと罪悪感を抱き続ける優しい子
      私は、そんなクーに怒った様に見せる意地悪な姉なんだよ」

川;゚ -゚)「…………怒って……ない、の……?」

lw´‐ _‐ノv「……クーは、私が店主の座を奪われて怒ってるって思い続けてたの?」

川;゚ -゚)「……うん」

lw´‐ _‐ノv「ばっかだなあ、クーは……馬鹿で優しくて陰気で意気地無しのヘタレだなあ」

川;゚ -゚)「ご、ごめ……ん」

lw´‐ _‐ノv「内向的で繊細で、人の痛みにとにかく敏感で、傍若無人な虚勢の中にこもって」

川;゚ -゚)「あ、ぅ……」

lw´‐ _‐ノv「……だから、クーは思い出屋に向くって言ったのに、じいちゃんったら」

74 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 22:02:49 ID:NvHihuhAO

川;゚ -゚)「向く……?」

lw´‐ _‐ノv「そ、人の思い出を大切に扱わない人間が、思い出屋に向くわけないじゃない
      人の思い出を手荒に扱うような店で、思い出を買いたいと思う? ……思わないでしょ」

川;゚ -゚)「でも、じいちゃんは」

lw´‐ _‐ノv「じいちゃんがクーに向かないと言ったのも、同じ理由
      弱すぎて、思い出に潰されて壊れちゃうと思ったからだよ」

川;゚ -゚)「…………」

lw´‐ _‐ノv「私もじいちゃんも、クーに同じ感想を抱きながら、違う選択をしたの
      お互い全く譲らなかったから、大喧嘩して私が家から飛び出したってだけの話」

川;゚ -゚)「へ?」

lw´‐ _‐ノv「私がずっとやってたのは、ただの家出」

川;゚ -゚)「え……ぇ、え? え、ちょ、修行……?」

lw´‐ _‐ノv「思い出屋の修行って何すんだよ」

川;゚ -゚)

川;゚д゚)

75 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 22:05:43 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「まあ私が家出したのが二十歳なってすぐで、喧嘩したのは十何年か前か」

川;゚д゚)

lw´‐ _‐ノv「ぶっちゃけそん時にはもうほとんど和解してたけどな!!」

川;゚Д゚)そ !?

lw´‐ _‐ノv「何で家出したんだよと言いたそうな顔だが、その理由は『なんとなく』としか言い様がない」

川;゚ -゚)「はぁあああああああ!!?」

lw´‐ _‐ノv「あーあと家業継ぐのめんどくさかったから」

川;゚ -゚)「ふざけんなぁあああああああああ!?」

lw´‐ _‐ノv「クソ真面目にたわけた事を言ってるだけだよ」

川;゚ -゚)「余計悪いよ! 何だよそれ!? 私のこの数年は何だったの!? さっきからのシリアスは何だったの!?」

lw´‐ _‐ノv「知らんがな」

川;゚ -゚)「ほぎゃああああああああああッ!!!?」

76 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 22:07:32 ID:NvHihuhAO

川;゚ -゚)「もうやだ……私はずっと何を悩んでたの……」

lw´‐ _‐ノv「そんなクーを愛してるよ」

川;゚ -゚)「うるせぇチクショウ……チクショウ……店なんかもう辞めてやる……」

lw´‐ _‐ノv「いや待てよ、続けろよ、私が楽できないだろ」

川;゚ -゚)「ふざけんな!! やだよ!! なんかもう色々と嫌だよ!!」

lw´‐ _‐ノv「妹に遅すぎる反抗期が……」

川;゚ -゚)「誰のせいだよおおおおおおおお!!」

lw´‐ _‐ノv「あ、待ってクー! 私のために店を続けて楽をさせてよ!!」

川;゚ -゚)「姉ちゃんのドチビ! あばずれ! 淫乱幼女!!」

lw´‐ _‐ノv「そんなに褒めるなよ!!」

川;゚ -゚)「もう嫌じゃあああああああああああああ!!!!」

lw´‐ _‐ノv「クー! クー!! 待ってー!!」

lw´‐ _‐ノv

lw´‐ _‐ノv「行っちゃった……実家のクーの部屋、物置状態なのに……」

77 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 22:08:14 ID:NvHihuhAO

lw´‐ _‐ノv「……あーあ」

lw´‐ _‐ノv

lw´‐ _‐ノv「…………クーに久々に会えて、本当に嬉しかったのは事実なんだけどな……」


 店を飛び出した寝巻き姿の妹の背中を見送り、私は万年床の煎餅布団に転がる。
 懐かしい祖父の匂いと、妹の匂い。

 そっと細い目を閉じて、私はため息をついた。


 いつだって、私はいじめっこだ。
 本心を隠さず、言葉で飾って相手を傷付ける。

 たとえその内側に、もっと大きな好きと言う感情が隠れていても。
 それが姿を見せる事は、まるで無い。


 こうやって私は祖父と喧嘩をして、妹を傷付けて、
 捕らわれ続けているのはクーだけじゃない、私もだ。

 だから、私には思い出屋は向かないと言ったのに。

78 名も無きAAのようです 2011/09/25(日) 22:09:58 ID:NvHihuhAO

 まぶたを持ち上げ、暗く染み付いた天井を見上げる。
 古い木目が、胸をちくちくとつついた。

 どうすれば良いのか、どうすれば最善か、最初から分かっていて、今でもわからない。

 ただひとつ、はっきりと分かるのは


lw´‐ _‐ノv「クーが帰ってくるまで、店やるかぁ……」


 あの子は、帰ってくる。

 この大嫌いでしょうがない思い出屋に、あの子は帰ってくる。


lw´‐ _‐ノv「……それまでに、片付けちゃおうかしら」


 だってあの子の居場所は、ここなんだから。

 どこに行っても孤独を感じるくらいなら、思い出にとらわれるのもきっと悪くはないさ。


 ねぇクー、意地悪な姉ちゃんで、ごめんね?



おわり。

inserted by FC2 system