『よくわからないようです』


 私の友達が変になった。


(#゚;;-゚)「ねぇ、どうしたの?」

( ・∀・)「どうもしないよ」

(#゚;;-゚)「でも、変よ?」

( ・∀・)「きっと元からさ」

(#゚;;-゚)「確かにかわってはいたけど、最近もっと変よ」

( ・∀・)「そう」

(#゚;;-゚)「うん」



『よくわからないようです』




 もともと卑屈で皮肉屋で、お世辞にも性格が良いとは言えない私の友達。
 そんな彼が最近おかしい。
 決して良い性格ではなかったのだけれど、彼は友達をないがしろにする様な人ではなかった。

 なのに最近の彼は、友達が話しかけても上の空。
 冷たくあしらう事も少なくない。


( ´∀`)「モララー、借りてた本読んだモナ」

( ・∀・)「そう」

( ´∀`)「面白かったモナ、ありがとうモナ」

( ・∀・)「うん」

( ´∀`)「……機嫌、悪いモナ?」

( ・∀・)「ううん、別に」

( ´∀`)「モナ……」

( ・∀・)「気にしないで」

( ´∀`)「分かった、モナ」




 以前の彼なら「面白かっただろ」とか「おすすめした僕を褒めろ」とか「よしよし、ならまた違う本を貸してやるんだからな」とか
 「感性が似てると趣味が合って嬉しいな」なんて、笑う筈なのに。

 相手の目も見ずに受け取った本を鞄にしまうなんて、しなかったのに。


( ・∀・)「じゃあ、僕はもう帰るから」

( ´∀`)「また明日モナ」

( ・∀・)「ん」


 一人で帰る背中が、嫌だ。
 いつも誰かと一緒に帰って、駄弁りながら歩いていた彼が一人なのが、なんだか嫌だ。

 突然だった。
 朝学校で会ったら、もう彼はああなっていた。

 無気力。
 いつも笑って友達をからかっていた彼からは、なんのやる気も感じられない。
 いつでも窓の外をぼんやり見て、授業もたいして聞かなくて、目がなんだかうつろで。

 彼らしくない、明るくない彼がらしくない。

 話している時に話題を笑える方向に持っていけば、取り敢えずは笑うけれど。
 目の奥が笑っていなくて。





(#゚;;-゚)「どうしたの?」

( ・∀・)「なにが」

(#゚;;-゚)「何かあったなら、聞くくらいは、できるよ?」

( ・∀・)「なんにもない」

(#゚;;-゚)「……」

( ・∀・)「平気、だいじょうぶ」

(#゚;;-゚)「……そう、なの」

( ・∀・)「平気、平気だよ、だいじょうぶ」


 後ろ姿を追いかけて隣に並んだ私にではなく、自分に言い聞かせる様なだいじょうぶ。

 きっと、彼はだいじょうぶじゃない。




( ・∀・)「僕がね」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「今から死んでくるねって言ったら、どう返す?」

(#゚;;-゚)「いってらっしゃい、いつ帰ってくるの? って言うよ」

( ・∀・)「そっか」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「そっか。そっかそっか、うん、そっか」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「君が友達で、よかった」

(#゚;;-゚)「あなたの友達で、よかった」

( ・∀・)「ありがとう、ありがとう、でぃ」

(#゚;;-゚)「こちらこそ」




 それから、彼は死んでいないけれど、うまく眠れていないみたいだった。
 目の下にくらい色のくまがくっきりと刻み込まれていて、
 前よりもぼんやりする事が多くなった。


 帰り道、
 ふらふら歩く黒い学生服が見えたから、私は歩くのを早めてその隣に並んだ。

 左隣を歩くひとを見上げてみれば、それはうつろな目をした彼。
 ひどく疲れた顔で、少し痩せたみたいだった。


(#゚;;-゚)「眠れてないの?」

( ・∀・)「……あ、でぃ」

(#゚;;-゚)「うん、でぃ」

( ・∀・)「眠れてるよ、眠れてる、うん」

(#゚;;-゚)「そう、なら、良いや」

( ・∀・)「うん」




(#゚;;-゚)「ねぇ」

( ・∀・)「ねぇ」

(#゚;;-゚)「なに?」

( ・∀・)「僕の部屋に来ない?」

(#゚;;-゚)「どうして?」

( ・∀・)「どうしてだろうね」

(#゚;;-゚)「いいよ、行く」

( ・∀・)「そっか」

(#゚;;-゚)「うん」




 昔上がった事のある彼の家は、少し大きな一戸建て。
 鍵とドアを開けた彼に続いて、数年ぶりに彼の家に上がった私は、少し驚く。

 薄れた記憶ではあるけれど、昔の彼の家はとても綺麗で、埃すら落ちてないくらいに片付いていた筈なのに。
 玄関からリビング、台所。
 すべてがひっくり返されたみたいにぐちゃぐちゃで、荒れ果てていた。

 枯れた植木がこかされたまま、廊下を土が汚している。
 足の踏み場も無いほどに物が散らかされた家の中。


 私は彼に手を引かれて、散乱する日用品やゴミを踏まないように、階段をのぼって彼の部屋へと。


( ・∀・)「いらっしゃい」

(#゚;;-゚)「お邪魔します」


 彼の部屋は片付いていた。
 と言っても、廊下やリビングにくらべればと言うだけで、部屋を荒らされた形跡はある。
 荒らされた部屋をある程度片付けた、そんな彼の部屋。




 鞄を置いてフローリングに座り込み、ベッドにもたれる彼。
 その隣に、私も腰を下ろした。


(#゚;;-゚)「ねぇ」

( ・∀・)「ねぇ」

(#゚;;-゚)「なに?」

( ・∀・)「驚かないね」

(#゚;;-゚)「驚いたよ」

( ・∀・)「そっか」

(#゚;;-゚)「うん」




( ・∀・)「あのさ」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「兄さんが死んだんだ」

(#゚;;-゚)「そう、なの」

( ・∀・)「そうしたら、母さんが壊れたよ」

(#゚;;-゚)「そ、う」

( ・∀・)「ヒステリーって言うのかな、家の中を荒らして、叫ぶんだ」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「兄さんを返せって、それで泣くんだ、夜中に突っ伏して泣くんだ」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「僕は息子じゃないのかな、弟じゃいけないのかな、どうしてあんなに錯乱するんだろう」

(#゚;;-゚)「う、ん」




( ・∀・)「しょうがないのにね」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「僕は兄さんが嫌いだった、理由は分からないけど嫌いだった」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「でも、僕は殺してなんかいない」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「なのに母さんは僕に言うんだ、兄さんを返せって」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「僕は嫌いな人間には関わらない、兄さんにも関わらずに、でも家族関係を壊さない程度には関わっていたんだ」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「それなのに、僕は殺人犯呼ばわりだ」




(#゚;;-゚)「ねぇ」

( ・∀・)「なんだい」

(#゚;;-゚)「お兄さんは、どうして死んだの?」

( ・∀・)「自殺、遺書はなかったから、理由は僕にも分からない」

(#゚;;-゚)「そうなの」

( ・∀・)「でもね」

(#゚;;-゚)「うん」

( ・∀・)「よく、分からないや」

(#゚;;-゚)「分からないの?」

( ・∀・)「うん」

(#゚;;-゚)「忘れているの?」

( ・∀・)「かも知れない」

(#゚;;-゚)「そう」

( ・∀・)「うん」




 彼は身体を傾けて、私の脚に頭を置いて横たわった。
 ひどく疲れた顔で、うつろな目で私を見上げる。

 彼の顔にかかる前髪を指先で払って、頭を撫でた。
 よく分からないけれど、撫でた。


( ・∀・)「僕はどうしたんだろうね」

(#゚;;-゚)「わからない」

( ・∀・)「そうだね、僕にもわからない」

(#゚;;-゚)「でも、わからないならわからない、忘れたなら忘れた、それでいいと思うよ」

( ・∀・)「そう、そうだね、そうだね、ありがとう、でぃ」

(#゚;;-゚)「だって友達だもの」

( ・∀・)「友達か、できれば彼女になってほしいけれど」

(#゚;;-゚)「今は友達でじゅうぶんだよ」

( ・∀・)「そうだね」




(#゚;;-゚)「ねぇ」

( ・∀・)「なんだい」

(#゚;;-゚)「ころしたの?」

( ・∀・)「わからない」

(#゚;;-゚)「そう」

( ・∀・)「うん」

(#゚;;-゚)「よく、わからないね」

( ・∀・)「わからないね」


 「まあ、いっか」


おわり。

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