210 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:16:40 ID:dr8mfbeg0


 その少年は、とても謹直でした。


 教会に身を置く彼は凛としており、いつか憧れの聖職に就くために、自分に厳しく過ごします。


 神様に毎日お祈りをして、困った人には手を差し伸べて。
 礼儀正しく、頼まれごとにはすぐ応えて、勉強にも熱心に取り組む。

 神父様からもシスターからも評判が良く、傲らず優しく、正しく清らか。
 誰からも期待されている、立派な少年でした。


 『君は本当に優しい子だね』

 『あなたは本当に勤勉ですね』

 『きっと立派な聖職者になるだろう』


( ФωФ)「ありがとうございます、皆さんのお役にたてるよう、神様のために働きます」


 大人たちからの評判も、評価も上々。


 けれどそんな少年には、誰にも言えない悩みがありました。


211 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:17:14 ID:dr8mfbeg0


 聖職者を目指す少年は、毎日を禁欲的に過ごしていました。

 年頃の少年が興味を持つようなものから目を背け、関係のないものだと決めつけて。


 けれど十も過ぎれば身体も心も異性に対する興味は湧くもので。

 そんな自分を厳しく罰するように、勉強にお祈りにと打ち込む日々。



 そんな少年の夢枕に、一人の女が現れました。

 優しく、甘く、絡みつくような囁き声。

 姿こそ見えませんが、紫に塗られた長い爪の先で擽るように頬を撫でる。


『坊や、坊や、かわいい坊や』

 声と吐息が一緒に細く吐き出され、耳をさわさわと撫でて行く。


『真面目でかわいい良い子ちゃん、あなたは何に触れたいの』

 頬を撫でる爪先は、面白がるように首筋へと下りて行き
 くすくすと洩れる吐息の甘さが、紫色の爪に掻かれたところから染み込むみたいにむず痒い。


213 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:18:04 ID:dr8mfbeg0


 目蓋は持ち上がらず、身体も動かない。
 まるで金縛りにあったような状態で、声すらも出せない。

 それなのに、不思議と爪の色だけは見えました。
 暗闇を踊るような紫色が、尾を引くようにゆらゆらと。

 そして女は甘い匂いをさせながら、唇を耳に触れそうなくらいに寄せて居るのが分かった。


『気になるのなら触れても良いのよ、だあれもあなたを咎めはしない』

 寝間着の隙間から入り込んだ爪の先が、皮膚の薄い部分を掻く。


『楽しい楽しい遊びをしましょう、かわいい仔猫の声を聴かせて』


 眠りに落ちる事も出来ず、甘ったるい痒みの中で身動ぎすら許されない夜は更ける。


 けれどそんな時間もいつしか終わりを迎えるもので。

 少年が窓から射し込む朝日の眩しさに目を覚ました頃には、部屋には自分以外は居らず。
 ただ全身は汗でびっしょりで、ふらつく頭が睡眠不足を訴えていた。

 昨夜の名残と言えば、肌に張り付く肌着の気持ち悪さと、部屋に僅かに残った甘い匂いだけ。

 その匂いを感じると、少年は妙に恥ずかしくてたまらなくなるのでした。


212 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:17:38 ID:dr8mfbeg0


 初めてその『夢』を見た時は、ただただ困惑していました。

 熱くなる腹の奥が何なのかも理解できず、耳から首から与えられる熱の心地好さも理解できない。

 けれどこれが良くない事だと言う感覚。
 そしてそれを心地好く思ってしまった罪悪感。


 少年がそれを理解するのはもう少し後の事で。
 いくつかの月を過ごしてから、再び見た甘い夢の、その翌朝。

 目が覚めた時に汚れていた肌着の感触で、自分の身に何が起きたのかをはっきりと理解しました。

 勤勉故に知識としては身につけていたそれが、それをどう言う現象なのかを理解させてしまったのです。


 それは理解したくなかった事でもありました。
 自らの浅ましさを受け入れざるを得ないと言う、その現実は少年を苛みます。

 自分は皆から褒められ、認められる、立派な少年でありたかった。
 そうすればいつかは聖職に就く事が出来ると信じていたから。

 赤子の頃から教会に居た少年にとって、その道は憧れでした。

 誰にでも優しくて立派な神父様の姿に、
 清らかな魂をもって神に使える姿勢に憧れていました。


 それなのに、自分に起きたこれは、不浄そのものではないのか。


214 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:19:02 ID:dr8mfbeg0


 有り体に言えば、それは誰にでも起こり得る生理現象です。
 けれど潔癖な、穢れを知らないまま育った少年には、ただの生理現象だと受け止める事が出来ませんでした。


 自分は、あの夢に浮かされて不浄を身に宿してしまったに違いない。

 こんな事は誰にも言えない。
 こんな恥ずかしい事を、浅ましい事を誰かに言える筈もない。

 本来なら神への告白をするべきだったのかもしれません。
 神父様やシスターに相談をすれば良かったのかもしれません。

 けれど、少年には言えませんでした。

 失望されるのが恐ろしくて、こんな自分が恥ずかしくて、口を閉ざしてしまいました。


 あの紫色の『夢』は、不定期に訪れます。
 続けて見る事もあれば、間があく事もある。

 女の囁きから夢が始まると、少年は神様に祈り続けました。
 もう自分をこれ以上貶めたくなくて、女が早く去るのを待ちました。


215 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:20:09 ID:dr8mfbeg0


 肌着が汚れる日もあれば、汚れずに済む日もあります。
けれど綺麗なまま過ごせたその日は、なぜだか一日中もやもやとしたまま。

 腹の奥底に燻る熱が消えないまま過ごした後、少しの間を置いてからまた夢を見る。
 そしてその翌日は、いつもより酷い目覚めを迎える事になるのです。


 朝になって目が覚める時に、全身が汗でびっしょりなのは、毎回の事。
 いつもいつも寝巻きも肌着も替えて、神様へ祈り、自らを戒めます。

 夢を見るたびに強く祈っても、堪えても、耐えられた事はありません。

 あの夢は、あの声はきっと夢魔の類に違いない。
 自分が若く未熟だから、耐えられないような愚か者だから、夢魔が枕元までやってくるのです。


 早く一人前にならなければ。
 早く立派な大人にならなければ。

 そうしなければ、きっと神様は許してくださらない。
 あんな、あんな夢が心地好いと感じる自分を許してはくださらない。

 あの甘い匂いが、声が、紫色の爪の先が、恋しいと思う自分を、誰が許すと言うのだろう。


216 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:20:36 ID:dr8mfbeg0


 何も知らなかったその身は、ぬるいぬるい快楽を覚えてしまいました。
 清く澄んでいたその心には、あのあまいあまい耳を撫でる声が巣食ってしまいました。

 穢れなく清らかであるべきその身と心に刻まれた快感を、少年はひどく嫌悪します。

 本来人間が抱いて然るべき感情も、衝動も、忌避すべきものだと奥歯を噛んで。

 だって聖職者を目指す少年にとって、それは極めてきたならしい不浄なものであるはずです。
 誰が抱いてもおかしくないそれが、罪深いものでしか無いはずです。


 それなのに、無意識の内にそれを求めてしまう自分が、大嫌いでした。


 あの夢を見てから、少年は自分の目すらも歪んでしまったようでした。
 いつも話すシスターや、信者の女性をじっと見てしまうのです。


 ふと横切る女性から漂う良い匂いだとか、シスターの修道服を内側から押す身体の凹凸だとか。

 そんな些細な事にすら反応して、目で追って、内側を想像して。

 そんな自分に気付くと歯痒くて、恥ずかしくて、いたたまれなくて。


217 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:21:03 ID:dr8mfbeg0


 この感情を、衝動を、どうすれば良いのかがわかりませんでした。

 自分が抱く思春期特有の劣情すらも打ち明けられないのに、聞けるわけがありませんでした。


 神様に身も心も捧げて、清らかな魂で居なければならないのに。

 自分が未熟なばかりに、こんなに恥ずかしい思いをしている。

 自分で自分を認められない。
 自分で自分を愛せない。

 そんな人間が、聖職者になんてなれるわけが無いのに。
 わかっていても、どんどん自分が嫌いになってしまう。


 だから少年は誰にも聞けず、相談も出来ず
 ただ恥ずかしくて苦しくて、悶々とした日を過ごすのです。

 時折訪れるあたたかくやわらかな紫色の悪夢に苛まれながら。
 陽の高い内は平気な顔を必死に作って過ごすのです。


218 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:21:34 ID:dr8mfbeg0




 その日はよく晴れていて、暖かな日差しが心地よいお昼前。

 少年は外で掃き掃除をしながら、どこかぼんやりと空を見上げていました。


( ΦωΦ)「…………はぁ」


 きれいに整った髪がさやさやと優しい風に揺れ、白いシャツに影を落とす。

 細くて丸い指先で箒の柄を軽く掻いては、心ここにあらずといった様子。


( ΦωΦ)(また、あの夢を見た……私はどうして、あんな夢を見てしまうんだろう)

( ΦωΦ)(よこしまな感情は、きっと私が未熟だから……だから不浄なものに目を奪われる……)

( +ω+)゛(こんなじゃ、神父様になんてなれないな……)

( +ω+)(みんなから褒めてもらえるけど、実際はこうやって良くないことばかり考えて)

( +ω+)(……私は、褒めてもらえるほど立派じゃない……そんなこと、あるものか……)


219 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:22:10 ID:dr8mfbeg0


( Φω+)゛(ダメだ、ちゃんと掃除しなきゃ……こんなこと、考えてちゃいけない)

( ΦωΦ)(でも、どうして……あんなに、惹かれてしまうのだろう……)

( ФωФ)(あの夢は、あんなに、……あんなに)


 『ああ、ここに居ましたか』


(ΦωΦ;)゛「っ! は、はい、シスター」

 『もし良ければ、お掃除の後に水汲みをお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか』

(ΦωΦ;)「は、い……大丈夫です、すぐに」

 『いいえ、お掃除のあとで構いませんよ、あなたは働きすぎるきらいがありますから』

(ΦωΦ )「そんな、……そんな、事は……」

 『ふふ、たまには体と心を休憩させましょう、神様へのお祈りも、上の空では困りますからね』

(ΦωΦ )「……はい、…………ごめんなさい……」

 『それじゃあ失礼します、無理はしないで下さいね? 何かあれば、すぐに言って下さい』

(ΦωΦ )「……はい」


220 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:22:31 ID:dr8mfbeg0


( ΦωΦ)「…………」

( +ω+)゛「…………はぁ……」


 深々と溜め息を吐き出しても、胸の奥のもやもやは消えないまま。

 上の空だと指摘もされて、くすくすと笑われて。
 自分はなんて未熟なのだろう、
未熟な上に心は穢れてしまっている。

 聖職者に憧れている身でありながら、なんて体たらくなのだろう。


 少年は眉を寄せながらも掃き掃除を手早く終わらせて、言われた通りに水汲みへ向かいました。

 教会の裏の井戸から手桶へ水を汲み、屋内の水瓶へ水を注ぐ。
 単純ではあるが疲労感のある仕事は、今の自分にはちょうど良いと思いました。

 きっと働いてる内に雑念も消えるはず。
 そうすれば、悶々と考えずに済むはずだと。

 けれど実際は、単純だからこそ、それなりに疲れるからこそ思考が明後日の方へと飛ぶのです。


221 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:23:15 ID:dr8mfbeg0


( ФωФ)(そう言えば、普段は見えないけどシスターはきれいな金髪で、陽の光を浴びるときらきら輝くのを知ってる)

( ФωФ)(おしろいの匂いはもちろんしないのに、不思議と良い匂いがするのはどうしてだろう)

( ФωФ)(いつでも優しい笑顔で、皆さんの手助けをしてる、素敵な人だ)

( ФωФ)(神父様とも仲がいいみたいだ、確か幼馴染だって信者の方が言ってたっけな)

( ФωФ)(手を握ってるのを見た事があるし、二人で連れ添って、納屋へ入ってゆくのも見た)

( ФωФ)(他のシスターが探していたから呼びに行くと、神父様は慌てて飛び出してきたな)

( ФωФ)(あれは一体、どう言う)

( ФωФ)「…………」

( ФωФ)(やめよう、考えるべきじゃないこんなの)


 神父様はまだ若くて、シスターも同じくらいの年頃だ。
 幼馴染だと言うのなら、もしかしたら何かあったのかもしれない。

 何があると言うのだろう。

 もしかしたら『そう言う関係』だったのかもしれない?
 確かそんな噂を聞いた事がある。

 でも二人とも、神様のために生きているんだ。
 そんなはずがあるものか。


222 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:23:44 ID:dr8mfbeg0


 そうだ、そうだとも。
 二人共清い身体と魂に違いない。

 もし違うとして、今は清くあろうとしているはずだ。
 もしそうだとしたら神父様は触れた事があるんだろうか。

 あのきれいな髪に、白い頬に。
 修道服でも隠しきれていない、あの膨らみにも。

  _,
( ΦωΦ)「…………っ」


 これは些細な興味、下らない好奇心。
 しかしそんなもの、抱くべきではない。

 憧れの神父様に、シスターに、なんて事を考えるんだ。
 こんな事を考えるのは不浄だからだ、二人がではなく自分のが不浄だからだ。

 それでも目を奪われる。
 思考に耽り想像する。
 こんな下らない事に心臓が弾む。
 妙にどきどきして、そわそわして。

 腹の奥の底が、熱くて熱くてたまらなくなる。


223 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:24:33 ID:dr8mfbeg0


 自分も触れてみたい。
 自分も感じてみたい。

 あのやわらかそうな何かに。
 あのいい匂いのする何かに。

 あの悪夢は少年に、決定的な快楽を与えてはくれていない。
 いつもいつも、むず痒くてもどかしい、生ぬるい刺激ばかりを与えてくる。

 だからこそ、目が覚めた時に言い知れぬ罪悪感が少年を包むのです。
 あんな優しい刺激だけで、自分はこうなってしまうのだから。

 ちゃんと感じたい。
 ちゃんと触れてみたい。
 ちゃんと触れられてみたい。

 いけないことだとわかっていても、その欲求はなかなか消えてくれません。
 それどころか、発散されない欲求はどんどん膨れ上がるばかり。

 髪に、唇に、胸に、触れられればどれだけの快感を得られるのだろう。
 どれだけの充足感が得られるのだろう。

 想像するだけでぞくぞくする。
 想像する、だけで、


 ごくり、と自分の喉が鳴った音で、我に返った。


224 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:25:26 ID:dr8mfbeg0

   _,
(#+ω+)「────ああっ、もう!」

 自分への苛立ちが抑え切れず、ゴッ、と額を強く柱に叩きつけた。

 その際に手から落ちた水桶が中身をぶちまけて、そこら中に暗い染みを作る。


 額が熱を持ち、ずきずきと痛むが、そうでもしなければ煩悩を払えそうもなくて。
 柱に爪を立てても、叩いてみても、いらいらもやもやが払いきれない。

  _,
(#+ω+)(もういやだ、こんなのたくさんだ)
  _,
( +ω+)(どうしてこんなに、下らない事ばかり、浅ましい事ばかり)

( +ω+)(もう、私は、誰かから褒められるような人間じゃない、そんな資格もないんだ)

( ∩ω∩)゛(こんな悩みいらない、こんなのいやだ、自分なんて大嫌いだ)

( ∩ω∩)(もう、もう褒められるような人間を装うのも、いやだ、いやだよ、もう)


 「あら、坊や」


(;∩ωΦ)゛「っ!?」


225 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:25:53 ID:dr8mfbeg0


 「あらあら坊や、痛そうね、どうなさったのかしら」

(;∩ωΦ)「ぇ、あ、どこ……に」

lw´‐ _‐ノv゛「ばぁ」

(ΦωΦ;)「っ!?」

lw´‐ _‐ノv「ふふ、うふふ、驚かせてしまったかしら、ごめんなさいましね」

(ΦωΦ;)「い、いえ」

lw´‐ _‐ノv「あらあら坊やったら、おでこが赤くなっちゃって、どこにぶっつけなさったの」

(∩ωΦ;)゛「あ、だ、大丈夫ですので……信者の、方、ですか……?」

lw´‐ _‐ノv「さあ、さあさあどうかしら、ほらおでこをお見せなさいな坊や」

(∩ωΦ;)「あう、あの、大丈夫です、から」

lw´‐ _‐ノv「だあめ、だあめよ、うふふ、ほら見せてごらんなさいましな」

(ΦωΦ;)「う、うう……あんまり見ないで下さい」


226 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:27:04 ID:dr8mfbeg0


 柱の影からぬるりと姿を見せたのは、まるて喪服のような黒いドレス。

 どこか異国風の顔立ちを黒いヴェールで僅かに隠して、殆ど閉ざしたような眼で少年を顔を覗き込みます。

 長手袋に包まれた手で、額を隠す少年の手を掴んでそっと降ろさせる。
 すると赤くなった額にくすくすと笑って、優しく息を吹きかけました。


(;ФωФ)「わ、くすぐった、い」

lw´‐ _‐ノv「あら、あらあらごめんなさいましね、かわいいお顔が台無しよ」

(;ФωФ)「別段、かわいいわけでは……」


 握られていた手を撫でながら、少年は戸惑いを隠せず俯きます。

 角度を変えて覗き込んでくる女の視線が、妙に気恥ずかしくてたまりませんでした。

 すい、と指先で顎を掬い上げられて顔をあげると、すぐそこには女の顔。
 すっきりと整った顔立ちで、人の奥の奥を覗き込むような眼差しでした。


lw´‐ _‐ノv「は、あはは、ふふふふ、ほらかわいい、ふふふ」

(;ФωФ)「ううう……」


227 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:27:41 ID:dr8mfbeg0


 面白がるように何度も覗き込むその顔は、無表情に見えて微かにだけ笑っています。
 そして声ばかりが子供のようにころころと、無邪気そうに笑うのです。

 少年は女の視線から逃れるように、そして大体の男性が目を奪われるであろうその体つきに、
 思わず向きそうになる自分の視線を外すように、必死に顔を背けていました。


lw´‐ _‐ノv「どうなさったの坊や、私そんなに見られないような姿かしら」

(;ФωФ)"「い、いえそんな、そんなわけじゃっ」

lw´‐ _‐ノv「じゃあどうしてそうも顔を背けなさるの、視線も合わせてくれないわ」

(;ФωФ)「それ、は……その…………あ、さ、あの、見て、ましたか……?」

lw´‐ _‐ノv「おでこをごちん?」

(;+ω+)゛「見てましたか……」

lw´‐ _‐ノv「見ちゃってましたわ」

(;∩ω∩)「……お恥ずかしいところをお見せしました……」

lw´‐ _‐ノv「あらあら、ふふ、うふふふ」


228 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:28:06 ID:dr8mfbeg0


 恥ずかしそうに俯く少年が、ふと視線だけを持ち上げると、そこには黒いドレス。

 肌の露出は少ないものの、大きく切れ込みの入ったスリットや、透ける薄布で覆われた胸元。
 ぴったりと体のラインに沿う、布越しからでも伝わる豊満な体つき。

 慌てて視線をそらしても、頭上から洩れるくすくすと言う笑い声に顔が赤くなるのが分かった。


 額を撫でる指先の心地よさと、あんな姿を見られたと言う羞恥。

 鼻孔をくすぐる甘いような匂いをどこかで嗅いだ事がある。

 囁く声と吐息にも、聞き覚えがある。


 いったい、どこで知ったのだろう。

 こんな格好の信者の方を、見た事があっただろうか。
 こんなに特徴的なら、覚えている筈なのに。


lw´‐ _‐ノv「ねえ坊や、坊やのきれいなきれいな肌、ほかに傷はないかしら」

(;ΦωΦ)「だ、大丈夫です、他にはないですから」

lw´‐ _‐ノv「でも柱を叩いていたでしょう、手も見せてちょうだいな」

(;ΦωΦ)「あ、ぅ」


229 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:28:40 ID:dr8mfbeg0


 手のひらを、手の甲を撫でる。
 手首へ、腕へと撫でる手は上る。
 シャツ越しに二の腕までを撫でられて、妙にぞわぞわとした心地好さ。

 そのまま華奢な肩へ、細い首へ、やわらかな頬へと女の手のひらは移動する。

 手袋に包まれた指が唇を撫でて、押して、耳を、目蓋を、額を丹念に撫でて行く。
 それはまるで何かを確認するように、何かを思い出させるような優しい手付きで。


 女が撫でたところが、熱を持つように疼く。
 じりじりと痒みにも似たその熱が、なぜだか妙に息苦しくて、心地好くて。

 妙な感覚に頭がくらくらしたけれど、その手を払い除けられませんでした。
 ぐらりと傾ぐ女の首と、揺れる長い髪から甘い匂いがする。

 この匂いは知っている気がする。

 この感覚も、この声も、知っている気が。


 紅を塗った厚い唇が、歪むように微笑んだ。


230 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:29:19 ID:dr8mfbeg0


lw´‐ _‐ノv「坊や、坊や、かわいい坊や」

(; ω )「は、ぃ」

lw´‐ _‐ノv「真面目でかわいい良い子ちゃん、あなたは何に触れたいの」

(; ω )「……ぇ」


 どこかで、聞いたような言葉。


lw´‐ _‐ノv「気になるのなら触れても良いのよ、だあれもあなたを咎めはしない」

(;ΦωΦ)゛「っ!」

lw´‐ _‐ノv「楽しい楽しい遊びをしましょう、かわいい仔猫の声を聴かせて」

(;ΦωΦ)「ぁっ……は、離れろ……っ!!」


 この声は知っている。

 この指は知っている。

 この匂いもこの甘さも知っている。


231 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:30:23 ID:dr8mfbeg0


 女は左手の指先を、手袋の先を噛んで引き、ずるり、長手袋が外される。
 細くて白いしなやかな手、その長い指先には、紫色の爪。

 ばし、と頬を撫でる右手を必死に払い除けて、一歩後ずさる。
 背中を柱に預けて、熱を持つ自分の身体を必死に抱きしめた。

 けれど払い除けられた当人は、変わらず微かに笑みを浮かべて、少年へと詰め寄ります。


lw´‐ _‐ノv「まあ、まあまあ痛いわ坊や、痛くするのが好きなのかしら」

(;ΦωΦ)「よ……寄るなっ! 悪魔め、私に近付くな!」

lw´‐ _‐ノv「あら、あらあら冷たい子、あんなに心地好さそうにしていたのに」

(;ΦωΦ)「なっ……」

lw´‐ _‐ノv「ほら触れても良いのよかわいい坊や、女の肉は恐ろしくも甘美、きっと蕩けるような味」

(;ΦωΦ)「っ、離し、なっぁ」


 猫のように背中をたわませて顔を覗き込み、耳たぶを舐めるように囁く甘い声。

 ぞわ、と寒気ではない痺れが背筋に走り、身体に絡み付くしなやかな腕から逃れられない。

 大きな乳房の間に抱え込まれた少年は、そのやわらかさと甘い匂いに目が眩んだ。


232 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:30:51 ID:dr8mfbeg0


 先程よりもずっと匂いは強くなり、鼻孔から脳へと流れ込む。
 脚の間へ差し込まれる厚みのある太股の感触が、背へ回された腕が、抗いがたい程に心地好い。

 このままではいけない、このままでは魂すら絡めとられてしまう。

 早く振りほどかなければ。
 早く祈りを捧げなければ。

 神様どうか、どうか私をお救いください。
 浅ましくも愚かな私をお救いください。

 この悪魔の、腕の中が、こんなにも居心地が好い。

 私を、どうか。


lw´‐ _‐ノv「もう良いでしょう、我慢してきましたもの、早く食べたいのを我慢してきましたもの」

(; ω )「ぁ、あ」

lw´‐ _‐ノv「だからね、坊や、いただきまぁす」


 少年の細い顎を指先で掬い上げ、何か言い返そうとする唇を塞いだ。


233 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:31:15 ID:dr8mfbeg0


 少年は、もう抵抗は出来ませんでした。
 唇に重なる柔らかさは、心のどこかで待ち望んでいたものでした。

 少年はずっと渇望していました。
 今までの触れているのか触れていないのかもわからない、もどかしい刺激以上のものを。


 唾液の細い糸を引いて唇が離れようとしたが、少年は女の腕を掴んで引き寄せる。
 ただ重なるだけの唇を割って入ってくる女の熱い舌を迎え入れ、ぎこちなくもそれを貪った。

 そして顔が離れる頃には、もう抗う術は溶けて消えてしまっていたのです。

 途切れた息に肩を上下させる少年に、女は唇を嘗めて微笑みます。


lw´‐ _‐ノv「昼の仔猫も可愛いけれど、やっぱり夜の方が好みかしら」


 あなたのお部屋はどこかしら。

 そう尋ねる女の腕の中で、少年はただ己の部屋へと続く道を指すだけ。

 その下腹部に宿る熱を発散する事への期待に、淀んだ目で女を見上げていました。


234 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:32:07 ID:dr8mfbeg0




 ぎしぎし、ぎしぎし。
 軋む音を立てるベッドには、絡み合う肉の塊。

 窓も扉も鍵をかけた暗い部屋には、熱に浮かされた声と吐息に満ちている。

 ぜえぜえと薄い胸を上下させて荒い息を吐き出す少年の口を塞いで、甘ったるい唾液を流し込む。
 女の厚い唇が少年の声も息も貪って、塗られた紅をその口に移してゆく。

 横たわる少年の上で女が跳ねる度に対の乳房が大げさな迄に揺れて、混ざり合う汗を飛ばした。

 眼の前で揺れる、艶めく脂肪の塊に手を伸ばせば、少年の細い指は白い肌に沈む。
 その感触が心地好くて、小さな手で揉みしだいては女の反応を伺っていた。

 女が腰をくねらせる度に、背筋が痺れるような快感が全身を貫く。
 腰が砕けて溶けて行きそうな鮮烈な快楽は、少年の思考も何もかもを蕩かせる。

 口から洩れるのは声変わりの済んでいない嬌声ばかりで、言葉の形すら保てやしない。

 ぞわぞわとした何かが腰の下から背骨を辿って脳の髄まで上り詰め、ちかちかと目の前で光が弾ける。

 悪夢から目覚めると『それ』があった証拠はあるが、『それ』を経験した記憶は無い。

 だから女の中に吐き出すそれが、少年にとっては初めての経験とも言えた。


235 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:33:08 ID:dr8mfbeg0


「あ゛っ、ぁ、ぁああぁあっ」

 「良い子、良い子ね、たくさんちょうだい」

「ひっぃ、ぅあ、ぁっ、ぁぁぁあっ」

 「かわいいかわいい仔猫ちゃん、もっともっと鳴いてごらん」


 どくんどくんと弾ける感覚は意識を眩ませるほどに激しくて、女の背中に腕を回して声を上げた。

 初めて経験する感覚に息を切らせて、余韻に浸るように女の胸に沈む。
 けれど女が腰を軽く揺するだけで、少年はまた声を上げて細い背筋を反らせるのです。


 「坊や、坊や、ちゃあんと楽しめているかしら」

「は、ひ」

 「けれどね坊や、もっともっと楽しい事もあるものよ」

「ぇ……」

 「その小さな小さな坊やの身体では、出来ない事だけれど」

「それ、じゃあ」


236 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:34:47 ID:dr8mfbeg0


 「そう言えば、あなた早く大人になりたいと願ってはいなかったかしら」

「……え?」

 「早く、立派な大人になりたいと願った事があったでしょう」

「…………」

 「私が、大人に、してあげましょうか」



  こんな児戯のような悪戯ではなく、本当の快楽をあなたに教えてあげましょうか。


 少年には、もう何かを判断する思考なんてものは残ってはいませんでした。

 だから期待に眼を溶かし、思考を溶かし、何もかもがどろどろになったような顔で笑うのです。


  もっともっとあなたがほしい。


 彼はそう笑うのです。

 だから女は残っていた布を剥ぎ取って、少年の頬を紫色の爪で撫でます。
 かりかり、かりかりと、鈍い鈍い爪痕を残すように。


237 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:35:21 ID:dr8mfbeg0



 身体を重ねるごとに、部屋の空気は密になる。
 噎せ返る程の甘酸っぱい匂いが、鈍り溶けた思考を更に狂わせる。

 混ざり合う体液は汗と、唾液と、いろんなもので。
 それらが肌を濡らし、汚し、ぬるつきながら音を立てる。


 もう何度女の腹に吐き出したのかもわからない。
 もう何度その身を貪ったのかもわからない。


 けれど少年の身体には異変が起きていました。

 女と身体を重ねるごとに、その身が成熟してゆくのです。
 それに比例するように、成熟していた女の姿は幼さを見せ始めました。

 少年の細くしなやかだった腕も、首も、脚も、腰も、太い骨と筋肉に形成されて行く。
 少年よりもずっと高かった女の背は縮み、胸のは小さく、顔立ちはあどけなくなる。


 そして数えきれない程の行為の後に、少年は自分の手の大きさに気が付きました。

 腕の中で跳ねていた筈の女が、すっかり幼い少女の姿に変わっている事にも、やっと気が付いたのです。


238 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:35:53 ID:dr8mfbeg0


「これ、は」

 「やわらかな胸の方が良かったかしら、今はこの平らな胸でがまんしてちょうだいな」

「私は、この身体は、いったい」

 「何を考える必要があるのかしら、幼くてもこれは雌の肉、どうすれば良いのかわかるでしょう」


 小さな体は一捻りで砕けてしまえそうな程に華奢で、幼い手に不釣合いな爪の色だけが妙に映えていて。

 幼い娘の姿に変わっても、女は変わらず妖しく微笑んで彼の頬を撫でる。
 薄く小さな爪でかりかりと、優しく優しく頬を撫でて、太い首に腕を回す。

 しなやかな猫のように、絡みつく蛇のように、少年だったその身体を撫で回して唇を重ねる。
 それは変わらず女の手によるむず痒い愛撫そのもので、彼の中の何かがぱちんと爆ぜる音がした。


 すっかり成熟した巨躯は幼い身体を貪って、低い低い声で女を求めた。
 名を呼ぶ権利を与えられ、何度も何度も名を呼んだ。

 肉厚だった女の身体は全てを包み込むように暖かくて、絡みつくような快楽をもたらした。
 幼く小さな女の身体は、それとは違い、華奢に見えて頑丈で、締め付けるように絞り上げる。

 どちらが良いかと聞かれては、どちらも欲しいと低い声で答える。
 それを聞いた幼い夢魔は、声も上げずに息を洩らして笑っていた。


239 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:36:28 ID:dr8mfbeg0


「これ、は」

 「やわらかな胸の方が良かったかしら、今はこの平らな胸でがまんしてちょうだいな」

「私は、この身体は、いったい」

 「何を考える必要があるのかしら、幼くてもこれは雌の肉、どうすれば良いのかわかるでしょう」


 小さな体は一捻りで砕けてしまえそうな程に華奢で、幼い手に不釣合いな爪の色だけが妙に映えていて。

 幼い娘の姿に変わっても、女は変わらず妖しく微笑んで彼の頬を撫でる。
 薄く小さな爪でかりかりと、優しく優しく頬を撫でて、太い首に腕を回す。

 しなやかな猫のように、絡みつく蛇のように、少年だったその身体を撫で回して唇を重ねる。
 それは変わらず女の手によるむず痒い愛撫そのもので、彼の中の何かがぱちんと爆ぜる音がした。


 すっかり成熟した巨躯は幼い身体を貪って、低い低い声で女を求めた。
 名を呼ぶ権利を与えられ、何度も何度も名を呼んだ。

 肉厚だった女の身体は全てを包み込むように暖かくて、絡みつくような快楽をもたらした。
 幼く小さな女の身体は、それとは違い、華奢に見えて頑丈で、締め付けるように絞り上げる。

 どちらが良いかと聞かれては、どちらも欲しいと低い声で答える。
 それを聞いた幼い夢魔は、声も上げずに息を洩らして笑っていた。


240 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:36:52 ID:dr8mfbeg0




 女を部屋に迎え入れてから、どれだけ経ったかも分からない。

 何も食べなくても、何も飲まなくても、眠ることすらしなくても生きる事が出来た。

 ただただ狂ったように、意識も落とさず女の身体を求め続けた。
 互いの身体が溶け合って、混ざり合って、戻れないのでは無いかと言うくらいに。 


 扉の下から洩れる光は朝の物か昼の物か、それとも夜の灯火なのか。

 何度か扉を叩かれて名を呼ばれたが、それに応える事は出来なかった。


 優しいシスターの声も、憧れていた神父様の声も、どうでも良かった。

 ただ目の前で全てを受け止めてくれる女の微笑みが。
 好きなだけ貪る事を許してくれるその身体が、最も大切なものだった。


 そう、もう神への祈りは捧げていなかった。
 細くしなやかな女の腕だけが、自分を救ってくれたのだ。


 やっと満たされた。
 満たされてしまった。

 もっと欲しい。
 もっともっと感じたい。

 これは強欲か、それとも。


241 名無しさん[sage] 2018/03/25(日) 23:37:12 ID:dr8mfbeg0




 『それ』は、誰でも抱くようなものでした。

 誰が抱いてもおかしくない欲求でした。


 異性に興味を持つ事も、身体が成熟し始めるのも、その機能が育ってゆくのも自然なことでした。

 けれどその少年は、自分に厳しくあったため、逆に囚われてしまいました。

 期待に応えたかった、憧れた人のようになりたかった、清廉潔白で居たかった。

 そのどれもが果たされない、いびつな姿になってしまった。



 与えられた快楽は、少年の心を二度と離しはしない。
 求め続けた快感は、少年の魂を喰い滅ぼした。



 少年だった巨躯の男は、幼い少女を抱え込んだまま何かを聞きました。 

 扉の外へ洩れる嬌声は、等しく外の人間の耳に流れ込んでいたのです。

 それを聞いた聖職者は、強く扉を叩きながら何かを叫びます。


 彼はそれが悪魔祓いのまじない言葉だと気付く事はなく
  こじ開けられようとしている扉に、ちらりとも視線を送ろうとはしませんでした。




 おわり。






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