- 285 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:14:27 ID:CeVsBJmM0
『彼は堕ちたのだ、憤怒と言う感情に足をとられて、熱く滾る沼の底へと堕ちたのだ』
( ^ω^)「おしまい」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「どうでした?」
ξ゚⊿゚)ξ「今までのお話には、色がよく出てきたでしょ」
( ^ω^)「はい」
ξ゚⊿゚)ξ「これあんまり関係無くない……?」
( ^ω^)「取り敢えず入れた程度の要素ですねこれ」
ξ゚⊿゚)ξ「そんな適当でいいのね……」
( ^ω^)「良いんですよ、悪魔ですし」
ξ゚⊿゚)ξ「それで結局この男の子は……えー……何だったの?」
( ^ω^)「遅い厨二病が真性だった」
ξ゚⊿゚)ξ「ちゅうに……? じゃあこの王様は?」
( ^ω^)「クソ」
ξ゚⊿゚)ξσ゛
σ)^ω^)「もはや心地よくすら感じる」
- 286 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:14:56 ID:CeVsBJmM0
( ^ω^)「ま、悪意なんて無いって冷たい顔で焚き付ける、澄ました面したド畜生ですよ」
ξ゚⊿゚)ξσ゛「ブーンってばほんとにお口が悪いったら」
σ)^ω^)「あんもっとぉ……」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ気持ち悪い……」
( ^ω^)「このドン引きすらも気持ちよくなってきた……」
ξ゚⊿゚)ξ「距離をおいても良い……?」
( ^ω^)「寂しいと死ぬから駄目ですが」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ……じゃあ我慢する……」
( ^ω^)「お嬢さんのそう言う優しいところが大好き」
ξ*゚⊿゚)ξ「な、何よう急に……気持ち悪いんだから……」
( ^ω^)「見抜きしたい」
ξ゚⊿゚)ξ「みぬき?」
( ^ω^)「しょうがないにゃあって言」
ξ゚⊿゚)ξ「わない」
( ^ω^)シュン
- 287 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:15:39 ID:CeVsBJmM0
ξ゚⊿゚)ξ「……それにしても、みんなひどいのね、お友達にあんな事を言うなんて」
( ^ω^)「みんなついやり過ぎたんでしょうね、大丈夫ですよ、きっと本当は優しい筈です」
ξ゚⊿゚)ξ「どうしてあんなに、こう、ひどくなっていったのかしら」
( ^ω^)「きっと魔が差したってやつですよ、きっと」
ξ゚⊿゚)ξ「むーん……王様もどうして居たのかしら……」
( ^ω^)「暇つぶし」
ξ゚⊿゚)ξ「えぇ……」
( ^ω^)「悪魔ってそんなもんですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「……悪魔、なのよね」
( ^ω^)「そうですねぇ」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは人間よね?」
( ^ω^)「見ての通りですが、角も尻尾も羽もありませんよ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうよね……ほっ……」
( ^ω^)「悪魔だったら怖いですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん……ちょっとだけ」
- 288 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:17:16 ID:CeVsBJmM0
( ^ω^)「じゃあ、僕は人間ですよ、お嬢さんを怖がらせたくありませんから」
ξ゚⊿゚)ξ「うん……人間なら安心だわ、怖くないもの」
( ^ω^)「そうでしょうそうでしょう、僕はお嬢さんだけのお友達なんですから」
ξ゚⊿゚)ξ「私だけの?」
( ^ω^)「そう、お嬢さんだけの」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ*゚ー゚)ξ゛「ちょっと、嬉しい」
( ^ω^)「おや、そうですか?」
ξ*゚ー゚)ξ「うん、不思議ね」
( ^ω^)「お嬢さんは僕を独り占めしたいですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「え? うーん……さっきも言ったけど、お膝に他の子が乗るのはイヤだけど……」
( ^ω^)「えー? 僕はしたいんだけどなぁ」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ……私を? 独り占めするの?」
( ^ω^)「駄目ですかね?」
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと気持ち悪くてびっくりしちゃった……」
( ^ω^)
- 289 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:19:22 ID:CeVsBJmM0
ξ゚⊿゚)ξ「うーん、うーん……でもそうよね、私だけ独り占めするんじゃ不公平よね……」
( ^ω^)「…………」
ξ゚⊿゚)ξ「うーん……でも、他の子とも遊びたいけど……」
( ^ω^)「でもみんな、お嬢さんを馬鹿にして笑いますよね」
ξ゚⊿゚)ξ「……うん」
( ^ω^)「そんな酷い事をする子達は、本当にお友達なんですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「……悪い子達では、無いと思うの……」
( ^ω^)「本当のお友達が、お友達を指差して笑ったりすると思いますか?」
ξ゚⊿゚)ξ「……分かんない……」
( ^ω^)「少なくとも、お嬢さんは僕を笑わない、僕はお嬢さんを笑ったりしない」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「ねぇお嬢さん、僕と、君を嘲笑う誰か、どっちの方が大切ですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「…………うー……」
( ^ω^)「ねぇ、どう思います?」
- 290 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:21:03 ID:CeVsBJmM0
ξ゚⊿゚)ξ「そんな事……急に言われても、私わかんない……」
ぽす、と僕の胸に顔を埋めて、彼女は小さく呻く。
どちらを取るかなんて考えたことも無かっただろう彼女の頭は、きっと今頃混乱している筈だ。
この小さなお嬢さんにしてみれば、指差して笑ってくる子達も大事な友達。
けれどこうして縋る僕もまた、この子にとっては大切な大切なお友達。
ぐりぐりと額をこすり付ける彼女のふわふわの金髪が、すぐそこで揺れている。
それを優しく撫でてやりながら、僕は笑う。
そして傍らに積んだ本に、最後の一冊を乗せた。
( ^ω^)「ほらお嬢さん、見て下さい」
ξ゚⊿゚)ξ「? ……なあに?」
( ^ω^)「虹ですよ、ちょっと汚いですけどね」
ξ゚⊿゚)ξ「虹……ああ、本当だわ」
下から赤、橙、黄、緑、藍、紫、青。
完成した薄汚い虹に、彼女は少しだけ笑った。
- 291 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:22:00 ID:CeVsBJmM0
( ^ω^)「お嬢さん、意地悪な事を聞いてすみませんでした」
ξ゚⊿゚)ξ「……ううん」
( ^ω^)「どっちか選べなんて無茶ですよねぇ、分かってたんですよ、ごめんなさいね」
ξ゚⊿゚)ξ「……はっきり出来ない私が、きっと悪いんだわ……ごめんなさい」
( ^ω^)「謝らないで下さいよ、悪いのは僕なんです
意地悪を言ったのは僕です、だからそんな顔をしないで」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
( ^ω^)「……あっそうだ」
ξ゚⊿゚)ξ「? なあに?」
( ^ω^)「僕の知人共のお話は、この七編でおしまいです」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
( ^ω^)「だから別の本をもう一冊、読みましょうか」
ξ゚⊿゚)ξ「……? 読んでくれるの?」
( ^ω^)「読みます読みます」
- 292 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:22:29 ID:CeVsBJmM0
ξ゚ー゚)ξ「……じゃあ、おねがい」
( ^ω^)「ああやっと笑ってくれた、喜んで、僕のお姫様」
傍らに積んでいた汚い虹を、手で払うように押し退ける。
ばさばさ、と音を立てて床に広がる本をそのままに
僕はその向こう側にひっそりと存在していた、真っ白な表紙の本を手に取った。
ξ゚⊿゚)ξ「これは……さっきから、あったかしら?」
( ^ω^)「ええ、実はあったんですよ、実はね」
ξ゚⊿゚)ξ「別のお話だから、数字は無いのね」
( ^ω^)「ですねぇ」
ξ゚⊿゚)ξ「これは、なんて読むの?」
( ^ω^)「嘯き偽り舌禍を招き」
ξ゚⊿゚)ξ「……? どう言う意味?」
( ^ω^)「口は災いの元、って感じですかね」
ξ゚⊿゚)ξ「ふぅん……?」
( ^ω^)「さあ、読みましょうか」
- 293 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:23:01 ID:CeVsBJmM0
それは、嘘を知らない少女の話。
それは、疑う事を知らない彼女の話。
これは、そんなあの子に語り続けた物語。
真っ白でまっさらで夢見がちな彼女は、一体何を見届けるのでしょうか。
『うそぶきいつわりぜっかをまねき。』
彼女を膝に乗せるのは、いつでも笑顔の伊達男。
- 294 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:24:08 ID:CeVsBJmM0
その女の子は、おとぎ話が大好きでした。
見たことも無いもの、聞いたことも無いものがたくさん載っている絵本が大好きでした。
小さな小さな頃から、お母さんやお父さんに読み聞かせて貰っていて。
眠る時も、暇な時も、いつだって絵本をおねだりして、読んでもらっていました。
絵本の中には、いつもお姫様や王子様、魔法使いやドラゴンが登場します。
遠い遠い異国の地、行く事の出来ない不思議な世界、様々な場所でそれらが活躍する。
女の子は、そんな世界を夢見ていました。
絵本の登場人物のように活躍したかったわけではありません。
ただ絵本の中の世界が、きっとどこかにあるのだと信じていて
いつかはそんな世界へ、行ってみたい、見てみたい、と夢見ていました。
本来なら、それは小さな小さな子どもだけの特権。
心から空想を信じて、夢見て、思いを馳せる。
何も知らない無垢な子供だけの特権です。
しかしそれが現実には起こり得ないと気付くのに、そう時間はかからない筈でした。
少し大きくなるだけで、空想は空想でしか無いのだと知ってしまう筈でした。
けれど、その女の子は、他の子達とは違ったのです。
- 295 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:24:45 ID:CeVsBJmM0
他の子供達よりも、ほんの少しだけ夢見がちだった女の子は
少し大きくなっても、まだおとぎ話の内容を信じていました。
運動はそれなりですが、お勉強はとっても得意な女の子、同い年の子の中では一番賢い。
それでも未だに、夢見がちな事を本当の事だと信じてしまう、ちょっぴり変わった女の子。
その事をお友達に言うと、いつも馬鹿にされたり、笑われたりしていました。
女の子はそれが悔しくて、嘘じゃない、本当の事だとムキになってしまいます。
するとお友達はそれを余計に面白がり、指差して笑うのです。
この子はこんなに小さな子どもみたいな事を言ってる。
大きくなったのにまだおとぎ話なんて信じてる。
そんな日々が続くものだから、女の子は自分がおかしいんだと思うようになってしまいました。
お姉さんになってもまだ絵本の内容を、おとぎ話を本当のお話だと思っている自分が、きっとおかしいのだと。
でも本当かも知れない。
絵本の中の世界はどこかにあるのかも知れない。
ううん、きっとあるはずだ。
誰にもわからないだけで、どこかにきっとあるはずだ。
自分がおかしいんだろうと思っていても
自分の中に根付いてしまった思いは消えません。
それが余計に、女の子を苦しめてしまいました。
- 296 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:25:29 ID:CeVsBJmM0
夢を見る事をやめなきゃいけない。
本当なわけがないと自分に言い聞かせなきゃいけない。
自分がおかしいんだ。
みんなと違う自分がおかしいんだ。
普通にならなきゃ。
みんなと一緒にならなきゃ。
知らない世界を夢見る事も
見えない何かに憧れる事も
もう、やめてしまわなきゃいけない。
でも、でも
もしどこかに、知らない世界があったら?
夢見た世界がどこかに広がっているとしたら?
あるかも知れない。
無いなんて、誰も証明できていない。
ある証明は出来ても、ない証明は出来ない。
それを絶対に無いだなんて根っこから否定するのは、とても乱暴だ。
おかしい自分がいや、普通じゃない自分がいや。
だけど、夢も、憧れも、思いも、捨てる事なんて出来なくて。
- 297 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:26:18 ID:CeVsBJmM0
その日も、女の子はお家で絵本を読んでいました。
もう、誰かに絵本を読んでもらわなくても、一人で、お気に入りの絵本を読むことだって出来ます。
そうすれば、誰からも怒られたり、笑われずに済むので気楽でした。
このお話は、本当にあるお話じゃない。
現実じゃない、事実じゃない、ウソのお話。
そう自分に言い聞かせながら読んでいても、現実には起こり得ないお話の数々に、胸が高鳴ります。
何度も何度も読んで、擦り切れて、汚れて、ぼろぼろになってしまった絵本でも、女の子にとっては宝物。
ウソのお話だとしても、魔法や、冒険や、お姫様と王子様のお話は、こんなにわくわく出来る。
ξ*゚⊿゚)ξ(ああ、やっぱり、私このお話がすき)
ξ*゚ー゚)ξ゛(何回も何回も読んだのに、わくわくしちゃう、どうしてだろう)
ξ*゚ー゚)ξ(ウソのお話、本当じゃない、悪い魔女に呪いをかけられたお姫様はどこにもいない)
ξ*゚ー゚)ξ(わかってる、ほんとよ、これはウソなんだって、分かってるわ)
ξ*゚ー゚)ξ(でも…………でもどこかに、お姫様がいるかも知れない……王子様が、呪いを解くかも)
『嫌だわ、この子ったらまた絵本なんて読んで』
ξ゚ -゚)ξ「っ……お母さん」
- 298 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:26:42 ID:CeVsBJmM0
『そんな小さい子が読むような本ばっかり、まだ読んでるの?』
ξ゚ -゚)ξ「……読んじゃダメなの?」
『いつまでもおとぎ話ばかり読んでいないで、ちゃんとお勉強になる本を読みなさい』
ξ゚ -゚)ξ「…………ダメ、なんだ」
『大体あなた、まだおとぎ話みたいな事を信じてるんですって? そんな馬鹿な事ばっかり』
ξ゚ -゚)ξ「分かってる、わ……本当のお話じゃない、なんて……」
『当然でしょう? 馬鹿な事言わないでちょうだい、全く恥ずかしいったら無いわ』
ξ゚ -゚)ξ「……」
『ちゃんと学校でお勉強はしてるの? お友達はみんなしっかりしてるのに、あなたばっかり』
ξ゚ -゚)ξ「…………」
『聞いているの? 全くもう、本当に恥ずかしい子ね、外で絵本の話なんてしないでちょうだいね』
ξ゚ -゚)ξ「…………そんなにダメなの」
『え?』
ξ゚ -゚)ξ「おとぎ話が、そんなにダメなの?」
- 299 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:27:30 ID:CeVsBJmM0
『あのね、おとぎ話が駄目だって言ってるんじゃないの、外で恥ずかしい真似をしないでって言ってるのよ?』
ξ゚ -゚)ξ「……」
『分かったら絵本を貸しなさい、ああもうこんなに汚い、早く捨ててもらいましょう』
ξ゚ -゚)ξ
『ほら早くお勉強なさい、あなただけ遅れてたら恥ずかしいでしょう? 本当に、誰に似たのかしら』
ξ゚ -゚)ξ「ねぇ、お母さん」
『なあに?』
ξ゚ -゚)ξ「私ね、クラスで一番かしこいのよ、テストだって一番だったの」
『そんなの聞いてないわ、嘘ばっかり言わないでちょうだい』
ξ゚ -゚)ξ「…………」
『こんな絵本ばかり読んで、おとぎ話を信じて、おまけに嘘つきだなんて、みっともない』
ξ゚ -゚)ξ「お母さん」
『なに? 言いたい事があるならはっきり言いなさい』
ξ゚ -゚)ξ「お母さんにとって私って、嘘つきで恥ずかしい、みっともない子なのね」
『そう自分で思うなら、ちゃんと改めて……ちょっと! どこに行くの!?』
- 300 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:28:03 ID:CeVsBJmM0
お母さんの返事も待たずに、女の子はお家の外へ飛び出して行きました。
悲しくて悔しくて、涙がこぼれそうになったから。
きっと泣いているのを見たら、お母さんはもっと怒ってしまうから。
ちゃんとお勉強してても。
信じていると言わなくても。
一人でこっそり読んでいても。
夢を見る事も、信じる事も許されない。
絵本を読む事も、楽しむ事も認められない。
本当の事でも嘘だと言われて信じてもらえない。
恥ずかしい、出来の悪い、嘘つきで、頭の悪い子供だから。
許されない。
認められない。
信じてもらえない。
何をしていても馬鹿にされる。
私は、何を、どうして、生きればいいの。
もう何にもわかんない。
- 301 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:28:43 ID:CeVsBJmM0
私は嘘つきなの?
嘘をついた事なんて無いのに。
おとぎ話は嘘なの?
誰がそれを嘘だって証明したの?
本当の事かも知れないのに
どこかにあるかもしれないのに。
嘘つきなんかじゃない。
私は嘘つきなんかじゃない。
ちゃんと良い子にしてる。
お勉強だってしてる。
自分の事は一人で出来る。
もう絵本の事は誰にも言ってない。
嘘なんて言ってない。
本当だって信じてる事しか言ってない。
それが駄目だって言われたからもう言わない。
それでも駄目なら何を喋ればいいの。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
大粒の涙が頬を流れて、ぽたぽたと暗い染みを残す。
- 302 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:29:19 ID:CeVsBJmM0
悲しくて、苦しくて、悔しくて、いたたまれなくて。
女の子はぽろぽろと涙をこぼしながら、お家からどんどん離れて行きました。
もうお母さんの元に戻りたくない。
お母さんは怒るし、お父さんは知らん顔。
ずっと自分を殺してきて、それでもまだ足りない。
もう嫌だ、もうこんなの嫌だ。
声を上げて泣きたくなった頃。
女の子の足が、ふと止まりました。
お家から離れたところにある林。
時々通る場所ですが、本来ならそこには、何も建っていない筈でした。
けれどその林の前に、ぽつんと小さなお家が建っていたのです。
それも、出来たばかりの新しいお家ではありません。
よく手入れの行き届いた、古いけれど、綺麗なレンガのお家です。
- 303 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:29:50 ID:CeVsBJmM0
見知らぬそのお家に、女の子は目を丸くしました。
ごしごしと目を擦って、涙が止まるのを少し待ってから、お家に近付いてみます。
ξぅ⊿゚)ξ゛(こんなところに、お家があったかしら……)
ξ゚⊿゚)ξ(あ……ドアが開いてる……)
ξ゚⊿゚)ξ(…………)
ξ゚⊿゚)ξ(どうせ、私は恥ずかしい子だもの……ちょっとだけ……)
知らない人のお家を勝手に覗くのも、勝手に入るのも悪い事。
ちゃんと分かっているけれど、いけない事だと思っているけれど。
今更怒られたって、もう知らない、そんな気持ちが湧いてしまって。
それに何だかこのお家は、まるで魔法使いでも住んでいそうな佇まいだったから。
だからつい、つい好奇心が、彼女の背中を押してしまったのです。
ξ゚⊿゚)ξ(ごめんなさい、悪い子で……)
そっと、そっと、ゆっくりと、お家の中を覗き込みました。
- 304 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:30:18 ID:CeVsBJmM0
薄暗いお家の中を照らすのは、暖炉のあたたかい灯り。
ぱちぱちと木のはぜる音が、少し埃っぽいお家の中に響いていました。
ξ゚⊿゚)ξ(火が入ってる……ってことは、お家の人が居るのね)
ξ゚⊿゚)ξ(怒られちゃう前に、早く離れなきゃ……)
ξ゚⊿゚)ξ(…………)
ξ゚⊿゚)ξ(でも、すごい……)
早く立ち去らなければと思うものの、女の子の足は動きません。
その理由は、部屋中にあふれる本の山。
机の上、壁一面の本棚、チェストの上、揺り椅子の足元。
色とりどりの、色んな材質の、様々な厚みの本が、部屋いっぱいに存在していました。
そしてその中には、見たことも無い絵本の表紙も、たくさんあって。
ξ*゚⊿゚)ξ(まるで、宝箱みたい……すごい……)
女の子は目をきらきら輝かせながら、扉の隙間からお家の中を覗いていました。
- 305 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:30:38 ID:CeVsBJmM0
ξ*゚⊿゚)ξ(すごい、すごいわ……こんなにたくさん、みんなキレイ……)
ξ*゚⊿゚)ξ(遠くて分かりにくいけど、読めるタイトルもある……いいな、すごいな……)
恥ずかしいと言われた絵本が、普通の本と隣り合わせに並んでいる。
読めないタイトルの分厚い本は、きっと大人が読む難しいものばかり。
そんな本と同じ場所に存在しているのなら、きっと、読んでも恥ずかしくないのでは。
ここでなら、好きな物を読む事を許されるのではないか。
さっきまで泣いていたのが嘘のように、目を輝かせて、わくわくを抑えられなくて。
無意識に一歩、お家の中に足を踏み入れてしまいました。
ぎしぃ。
女の子の足元から、鈍い鈍い軋音。
その音にはっと我に返った女の子は、自分がお家の中に入ってしまった事に気付きました。
慌てて出ていこうとしましたが、床とは別の音が、きぃきぃ。
暖炉の前の揺り椅子が、音を上げていました。
- 306 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:31:05 ID:CeVsBJmM0
「どちら様ですか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「っ!」
「来客の予定は無かった筈ですが、何かご用ですか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「あっ、あ、ごご、ごめんなさいっ!」
「ああ、いえいえ、怒ってはいませんよ」
さっきは気付きませんでしたが、揺り椅子には男の人が座っていました。
その男の人は、くすくすと笑いながらゆっくりと席を立ちます。
( ^ω^)「一人で本を読むのも飽きてきたところです、どうぞこちらへ」
ξ;゚⊿゚)ξ「お、怒って、ません、か?」
( ^ω^)「不法侵入を? いえいえ、開けっ放しにしていたのは僕ですから」
ξ;゚⊿゚)ξ「う……ごめんなさい、ダメだって、分かってたんだけど……」
( ^ω^)「良いから良いから、座って座って」
ξ;゚⊿゚)ξ「は、はい……」
- 307 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:31:41 ID:CeVsBJmM0
揺り椅子から立ち上がった男は、にこにこ笑顔で女の子をお家へ招き入れました。
女の子を小さな椅子に座らせると、いそいそとホットミルクとクッキーの用意をしてくれます。
その様子に、本当に怒ってはいないと思ったのか、女の子はほっと息を吐きました。
( ^ω^)「随分と本を見てましたねぇ、読むのはお好きですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「は、はい」
( ^ω^)「あーもう敬語じゃなくて良いですから、リラックスリラックス」
ξ゚⊿゚)ξ「でも……」
( ^ω^)「……本はお好き?」
ξ゚⊿゚)ξ「はぃ、ぁ…………ええ、好きよ」
( ^ω^)「おお、それは奇遇ですねぇ、僕も大好きなんですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなんで、そ、そうなの?」
( ^ω^)「ふふふ、お嬢さんはどんなお話が好きです? ドキドキするやつ? ワクワクするやつ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ど、どっちも、すき……その…………おとぎ話、みたいなのが……」
( ^ω^)「良いですよねぇおとぎ話、夢があって好きですよ」
ξ*゚⊿゚)ξ「ほ、ほんと?」
- 308 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:32:04 ID:CeVsBJmM0
( ^ω^)「ええ、だって夢があるじゃないですか? もしかしたらどこかに、本当に魔法使いが居るかも」
ξ*゚⊿゚)ξ「そうよねっ!?」
( ^ω^)「おおめっちゃ食いつく」
ξ*゚⊿゚)ξ「絵本みたいな、おとぎ話みたいな世界が、きっとどこかにあるんだって」
( ^ω^)「うんうん」
ξ*゚⊿゚)ξ「呪いをかけられたお姫様も、王子様も、魔法使いもドラゴンも、きっとどこかに居るんだって!」
( ^ω^)「うんうんうん」
ξ*゚⊿゚)ξ「私ずっとそう信じて! ……る、の……」
( ^ω^)「うん?」
ξ゚⊿゚)ξ「……ごめんなさい」
( ^ω^)「えっ何が?」
ξ゚⊿゚)ξ「こんな、おとぎ話を信じるの……バカみたいよね……」
( ^ω^)「いやいや」
ξ゚⊿゚)ξ「……もうお姉さんなのに、絵本が好きだなんて、恥ずかしいよね……」
( ^ω^)「いやいや?」
- 309 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:33:03 ID:CeVsBJmM0
ξ゚⊿゚)ξ「お母さんに、怒られたの……そんな恥ずかしいの、やめなさいって」
( ^ω^)「恥ずかしい? 何がです?」
ξ゚⊿゚)ξ「おとぎ話を信じるのも、絵本を読むのも……恥ずかしいって」
( ^ω^)「えぇ、そんな事を?」
ξ゚⊿゚)ξ「……お友達も先生も、みんな笑うの、絵本のお話を信じるのは、小さい子だけだって」
( ^ω^)「いやいや個人差あるでしょうに」
ξ゚⊿゚)ξ「信じるの、おかしいって言うから……私きっとおかしいんだって、思って……
だから私、信じてるってだれにも言わないようにしたの……普通でいようって……」
( ^ω^)「あー」
ξ;⊿゚)ξ「それにね、私……私ちゃんと、お勉強もしてるのに……良い子に、してるのに」
( ^ω^)「あーあー」
ξつ⊿;)ξ「でも、嘘つき、って、言われて……みっともないって、お母さん……
絵本なんて、みっともないって……読んじゃダメって……」
( ^ω^)「あーあーあー」
:ξ∩⊿∩)ξ:「わた、っし、そんなっ……いけないこと、した……? そんな、だめ、なの……っ?」
( ^ω^)「あーあーあーもー」
- 310 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:33:48 ID:CeVsBJmM0
:ξ∩⊿∩)ξ:「がまんしたし……いいこにしたし……ふつうに、なろうとした……うそなんていってない……」
( ^ω^)「あーよしよし、よしよし、涙の跡はそれが原因でしたか」
:ξ∩⊿∩)ξ:「うそついてないもん……うそなんていってないもん……ふつうにしてたもん……」
( ^ω^)「お嬢さん泣かないで、良い子だから泣かないで」
:ξ∩⊿∩)ξ:「うそじゃない……ほんとなのに……もうやだよぉ……」
( ^ω^)「ああ泣かないで、よしよし、よしよし、可愛いお顔が台無しですよ」
:ξ∩⊿∩)ξ:「うぅー……もうやだぁ……」
堪えてきた言葉と涙が、改めて溢れ出る。
小さな手で顔を覆い、泣きながら首を横に振る。
男の人はそんな女の子をひょいと持ち上げて膝に座らせると、頭を撫でながら背中をさすってあげました。
よしよし、よしよし。
いいこいいこ、大丈夫。
たっぷり時間をかけてそう言い続け、女の子が落ち着くのを待ちました。
優しく優しく頭を撫でて、やさしいやさしい声で慰めます。
すると女の子は、少しずつ気持ちがほぐれたのか、やっと涙が止まってくれました。
- 311 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:35:02 ID:CeVsBJmM0
ξぅ⊿゚)ξ「ぐす……ごめんなさい、私……小さい子みたいに泣いちゃって……」
( ^ω^)「良い子良い子、大丈夫ですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「……優しいのね、あなたって」
( ^ω^)「そうですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「…………私、やっぱりおかしいのかな……空想なのよね、魔法使いもドラゴンも……」
( ^ω^)「 お嬢さんは別におかしくなんて無いですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」
( ^ω^)「だってその人が何を信じるかなんて、その人の自由でしょう?」
ξ゚⊿゚)ξ「そ、そう、なの?」
( ^ω^)「そうですよ、ケーキに乗ってるイチゴをいつ食べるかってのと一緒です」
ξ゚⊿゚)ξ「? ケーキのイチゴ?」
( ^ω^)「いつ食べます?」
ξ゚⊿゚)ξ「さいご……」
( ^ω^)「僕は最初です」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなんだ……?」
- 312 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:36:13 ID:CeVsBJmM0
ξ゚⊿゚)ξ「あ、でも途中で食べる人もいるものね……好きな時に食べて良いのよね」
( ^ω^)「ね、自由ですよねいつ食べるかなんて」
ξ゚⊿゚)ξ「自由……」
( ^ω^)「お嬢さんは、ただ信じているだけでしょう? きっと見えないどこかに、おとぎの国があるんだって
そこに行こうとして無茶な事をしたり、あるに決まってるって誰かに押し付けたりしないでしょう?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん……小さい頃は、あるに決まってるって、おこっちゃったけど……」
( ^ω^)「そんなのノーカンですよ、それなのに、周りは『そんなものは無い』を押し付けてくるんですよね?」
ξ゚⊿゚)ξ「……うん」
( ^ω^)「何をいつ食べるかも、誰が何を好きかも、何をどう信じるかも、人の自由なんですよ
だからお嬢さんはおかしくなんてありません、自分の好きなものを信じているだけです」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
( ^ω^)「みっともないとか、恥ずかしいなんて事もありません
それに絵本なんて大人も読む事があります、恥ずかしくなんてないです」
ξ゚⊿゚)ξ「ほんと……?」
( ^ω^)「ええ、それに何ですか嘘つきって、お勉強ちゃんとするんでしょ?
クラスで一番賢くて、テストでも一番だったんでしょう? その証拠をぶつけてやれば良いんです」
- 313 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:36:37 ID:CeVsBJmM0
( ^ω^)「お嬢さんはおかしくなんてない、恥ずかしくもみっともなくもない、もちろん嘘つきじゃない」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
( ^ω^)「大丈夫です、大丈夫なんです、だから自分を無理やり押しつぶさなくて良いんですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「……おかしくない?」
( ^ω^)「おかしくない」
ξ゚⊿゚)ξ「みっともなく、ない?」
( ^ω^)「ない」
ξ゚⊿゚)ξ「おとぎ話を信じても、良いの?」
( ^ω^)「良いんですよ、だって信じたいんでしょう?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん……それは、おかしいことじゃない? 小さい子みたいって、笑われること?」
( ^ω^)「笑う人は居るでしょう、でもお嬢さんの信じたいものを信じれば良いんです」
ξ゚ー゚)ξ゛「……そっかぁ」
( ^ω^)「そうですよ」
ξ^ー^)ξ゛「…………よかったぁ」
- 314 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:37:56 ID:CeVsBJmM0
( ^ω^)「うんうん、お嬢さんは笑ってる方が可愛い」
ξ*゚⊿゚)ξ「そ、そうなの?」
( ^ω^)「そうですそうです、ほら笑って」
ξ*^ー^)ξ゛「うん」
( ^ω^)「そうだ、自己紹介が遅れましたね、僕の事はブーンと呼んで下さい」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン?」
( ^ω^)「そうそう、さっき僕もおとぎ話が好きだって言ったでしょう」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、言ってたわ」
( ^ω^)「実はね、ここだけの話なんですけど……僕はおとぎの国に行った事があるんですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ」
( ^ω^)「剣と魔法とドラゴンの世界で、冒険した事があるんです」
ξ*゚⊿゚)ξ「えっ……えっ……」
( ^ω^)「本当ですよ? 嘘じゃないです、誰かの書いた嘘のお話じゃないんですよ……僕の体験談です」
ξ*゚⊿゚)ξ「そっ、そ、そうなの? 本当のことなの? 本当にあるの?」
- 315 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:38:45 ID:CeVsBJmM0
( ^ω^)「本当ですよ、僕は嘘なんてつきません、嘘のお話なんてしませんよ」
ξ*゚⊿゚)ξ「…………」
( ^ω^)「聞きたいですか?」
ξ*゚⊿゚)ξ「うんっ!」
くるくる、きらきら、輝く瞳。
わくわく、小さな子供みたいな顔。
男の人はにっこり笑って、女の子の目を見ながら、色んなお話をしてあげました。
空を飛んで秘境に行った、ドラゴンに出会って戦った後に和解した。
大きな悪い巨人を倒して人々から英雄って呼ばれた、人魚と一緒に海を泳いだ。
大魔法使いに魔法を教えて貰った。
その魔法で人々を救った事がある。
男の人の話術は素晴らしいもので、到底真実だと思えないようなお話ですら、信じ込んでしまえるほど。
だからこそ、次々と繰り広げられる冒険譚に、女の子は目を輝かせました。
荒唐無稽とも言える冒険譚の数々に、女の子はすっかり魅了されてしまったのです。
もっともっととお話をねだり、次は次はと続きをねだって。
- 316 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:39:19 ID:CeVsBJmM0
ξ*゚⊿゚)ξ「すごい……すごいわ、みんな本当のお話だなんて……」
( ^ω^)「そうでしょうそうでしょう、本当はあるんです、本当のお話なんです、だあれも気付いてないだけで」
ξ*゚⊿゚)ξ「どうやって、どうやって行ったの? どうしたら空を飛べるの?」
( ^ω^)「ふふ、今みんな話してしまうのは惜しくないですか? もっとゆっくり、色んなお話を聞きたくないですか?」
ξ*゚⊿゚)ξ「! そっか、後のお楽しみなのね? もっともっと、色んなお話があるのね?」
( ^ω^)「そう、そうですよ、僕がどうやってそんなところに行ったのか、どうやって空を飛ぶのか
みんなみんな、ちゃんと話してあげますよ、だから待っていて下さい」
ξ*゚⊿゚)ξ「うん!」
( ^ω^)「そうだ、ねぇお嬢さん、僕とお友達になりませんか?」
ξ*゚⊿゚)ξ「お友達? もちろんだわ!」
( ^ω^)「おおレスポンスが軽快」
ξ*゚⊿゚)ξ「だって、だってこんなにたくさん、すてきなお話をしてくれるんだもの!
私からお友だちになってって、言いたかったくらいだわ!」
( ^ω^)「おやおや、照れますね」
ξ*゚ー゚)ξ「……うふふ、自慢のお友だちが出来ちゃった、うれしいな……」
( ^ω^)「オホォ↑ 可愛い」
ξ*゚ー゚)ξ?
- 317 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:40:04 ID:CeVsBJmM0
ξ*゚⊿゚)ξ「ねぇ、ねぇ、ブーンのお話を誰かに言っても良い?」
( ^ω^)「良いですよ? どうぞ広めて下さい僕の冒険譚」
ξ*゚⊿゚)ξ「わぁ! ありがとう、みんなに自慢できちゃうわ!」
( ^ω^)「ふふ」
ξ*゚⊿゚)ξ「明日も来て良い? またお話を聞かせてくれる?」
( ^ω^)「もちろんですとも、たくさんたくさんお話してあげましょうね」
ξ*゚⊿゚)ξ「すっごくうれしい、ありがとうブーン!」
( ^ω^)「どういたしまして、可愛い可愛いお嬢さん」
それから女の子は、毎日のようにお友達のお家へ通いました。
新しいお友達は、色んなお話をしてくれます。
冒険のお話、不思議なお話、怖いお話、素敵なお話。
そのどれもがとても眩しくて、とても楽しくて、女の子はお友達のお話に夢中になりました。
お友達もまた、たくさんたくさんお話をしてくれました。
まるで現実に起きたとは思えない、空想のようなお話を。
- 318 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:40:45 ID:CeVsBJmM0
今まで、女の子は自分がおかしいのだと思っていました。
けれどお友達は、おかしくなんてない、そう言ってくれました。
お友達は色んなお話をしてくれます。
おとぎ話の世界を冒険してきたと、本当の様に喋ります。
お友達と一緒に居ると、嬉しくて、どきどきして、わくわくして、とっても楽しくて。
嫌な気持ちも、みんなみんな、どこかへ行ってしまうよう。
いつだって欲しい言葉をくれる。
いつだって楽しいお話をしてくれる。
「ブーンは、ウソなんてつかないよね?」
「吐きませんよ、最初に言ったでしょう?」
「そうよね、みんな本当のお話だものね」
「そうですそうです、僕の言う事はみぃんな真実、嘘なんて一つもありません」
にこにこ、にこにこ。
女の子を膝に乗せて、お友達はいつでもにこにこ。
- 319 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:41:25 ID:CeVsBJmM0
いつしか女の子は、お友達の言葉を全て信じるようになっていました。
嬉しい言葉、大切な言葉、伝えてくれたのは一人だけ。
その一人に、自分の全てを預けてしまったみたいに、まっすぐに信じるようになってしまいました。
お友達の言う事は間違いない。
絶対に嘘なんてつかない。
だから疑う理由もない。
夢は現実だと言ってくれた。
夢じゃないと教えてくれた。
否定もせず受け入れて、欲しいものを与えてくれて。
女の子にとって一番のお友達は、僕になりました。
僕の言葉だけを信じて、僕の言葉を一番に求めて、君は家へやって来るようになりました。
きらきらの金髪、透き通る瞳を輝かせて。
今日も君は、僕の家の扉を開く。
それを僕は受け入れる。
- 320 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:41:49 ID:CeVsBJmM0
君が欲しいお話をあげよう。
君の求める物をあげよう。
君は僕の一番のお友達だ。
僕は君の一番のお友達だ。
だから君に全てあげよう。
だから僕を全てあげよう。
君だけのお友達は、ずっとずっと君の味方をしてあげるよ。
だから僕だけを信じて、僕だけを求めるように、僕だけに笑顔を向けて。
たくさんたくさん愛でてあげるよ。
たくさんたくさん愛してあげるよ。
君が望む僕の姿を語ってあげるよ。
君が喜ぶ僕の話を語ってあげるよ。
だから
「ねぇ、ブーン」
僕は
「ブーンったら」
君を
「ねぇってば、ねぇ」
ずっと
- 321 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:42:31 ID:CeVsBJmM0
「ブーンったら!」
ξ;゚⊿゚)ξ三σ)^ω^)そ 「あひん」
ゾブゥ
σ)^ω^)「……なんですお嬢さん、今すげー良いとこだったのに」
ξ;゚⊿゚)ξσ「良いとこって……急に黙り込んじゃったじゃない」
( ^ω^)「あ、そうでした? 危ない危ない」
ξ゚⊿゚)ξ「それに、なあにこのお話、ブーンと私の事じゃない」
( ^ω^)「ええまあ、久々に思い出を反芻してみたんですがね」
ξ゚⊿゚)ξ「もー……でもこうしてお話にすると、不思議な感じね」
( ^ω^)「そ? お嬢さんはいつでも可愛いお姫様ですけど」
ξ゚⊿゚)ξ「すぐそうやってー……」
( ^ω^)「お嬢さんはお姫様なんですよ、僕だけのお姫様、笑顔が誰よりも可愛いんですから」
ξ*゚⊿゚)ξ「や、やめてよ、恥ずかしいったら」
( ^ω^)「しかも良い匂いがする」スゥゥゥゥ
ξ゚⊿゚)ξ「それはちょっと気持ち悪いわ」
( ^ω^)
- 322 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:43:22 ID:CeVsBJmM0
ξ゚⊿゚)ξ「…………ねぇブーン、改めてね、聞いてみたいの」
( ^ω^)「はいはい?」
ξ゚⊿゚)ξ「私のこと、答えてくれる?」
( ^ω^)「……ええ、もちろん」
君の求める言葉をあげよう。
ξ゚⊿゚)ξ「……おとぎ話をみんなは空想だって言うけど、私はウソだと思えないの、これはおかしなこと?」
( ^ω^)「いいえ全然? 素敵な事じゃないですか」
正面から全て肯定しよう。
ξ゚⊿゚)ξ「夢見ちゃうの、ブーンが話すような世界が見てみたいの、どこかにあるって信じてるの」
( ^ω^)「ありますともありますとも、お嬢さんが信じてくれるならきっといつか行けますとも」
ああ、可愛いなあ。
ξ゚⊿゚)ξ「でもみんな笑うの、騙されてる、バカだって、私そんなにおかしいのかなって」
( ^ω^)「人を嘲笑うような魂はいずれ食ってやりますよ、お嬢さんはおかしくなんてありません」
可哀想なものは、可愛いなあ。
- 323 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:43:53 ID:CeVsBJmM0
ξ゚ー゚)ξ「……」
( ^ω^)「納得できました?」
ξ゚ー゚)ξ「うん、ありがとう、ブーン」
( ^ω^)「どういたしまして、お姫様」
お嬢さんは満足したような、納得したような、やっとふわふわした状態から着地したような顔。
僕の頬を優しくつついて、にっこり笑って、口を開く。
ξ*゚ー゚)ξ「私、ひとりじめでも良いわ」
ああ、やっと
ξ*^ー^)ξ゛「ブーンと一緒なら、私きっと、今以上に幸せになれるもの」
ついに
- 324 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:44:46 ID:CeVsBJmM0
ξ*゚ー゚)ξ「そのかわりね、そのかわりねブーン」
君は
ξ*゚ー゚)ξ「尽きちゃったって言ったけど、これからも、いっぱいいっぱいお話して、たくさんブーンのお話聞かせて」
僕以外の全てを、捨てた
( ^ω^)「────ええ、もちろん、……飽きるまで、話して聞かせてあげますから」
ξ*^ー^)ξ「ふふ、楽しみ」
まるで小さな小さな子供のように、僕だけのお姫様は笑う。
僕に頬ずりをして、つついて、じゃれついて、幸せそうに彼女は笑う。
腕にもじゃれ付くものだから、僕の手から、白い表紙の本が滑り落ちる。
ばさりと開いたまま落ちた本のページは、白紙だった。
- 325 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:45:21 ID:CeVsBJmM0
ある子供は求めました。
『くるしむひとをすくってあげたい』
ある子供は求めました。
『ただただふかくふかくねむりたい』
ある子供は求めました。
『のどがかわいたおみずをのみたい』
ある子供は求めました。
『ほんとはあのこをひとりじめしたい』
ある子供は求めました。
『あれもこれもみんなたべたい』
ある子供は求めました
『やわらかなはだにふれてみたい』
ある子供は求めました。
『むねがざわめくりゆうをしりたい』
そして ある子供は求めました。
『ゆめのおはなしほんとのおはなし しんじていたいのきかせてほしい』
だから与えた。
彼らは与えた。
僕らは与えた。
求められたから与えたのだ。
- 328 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:48:42 ID:CeVsBJmM0
彼ら、彼女らは
僕らは 求められた物を与えた。
苦しむ人を救う術を。
(ああせんせいのためならわたしなんだってできます)
深い深い眠りを。
(もうつかれたからねむりたいんだよおこさないで)
喉を潤す一杯の水を。
(ほしぃのたからものもっとちょうだいくぅにちょうだぃ)
独占できる何かを。
(いいだろもうたえてきたんだもうだれにもわたさない)
胃袋を満たす物を。
(いいこにしてきただからいいよねたべてもいいよね)
柔らかな女の肌を。
(よごれてしまったおかしてしまったつみはきえないあらがえない)
忘れていた感情を。
(ふざけるなよちくしょうこんなものおもいださせやがって)
『嘘』をつかないこの僕を。
彼らが求めた そうだろう
少女は何を求めた
少年は何を求めた
君は何を求めた
優しい優しい本当の嘘のお話だろう
- 326 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:46:46 ID:CeVsBJmM0
君は僕を疑わない
『女の子のお母さんはどうして居なくなったの?』
『女の子より大切なものが出来たんですよ』
(本当は誠実そうな大男が連れ去った、可愛い女の子が一人ぼっちになるように
そうすれば依存の対象に滑り込める、自分の物にしてしまえる)
僕の言葉が君の真実
『お父さんはどうして急に帰ってきたの?』
『きっと学校から呼び出されたんじゃないですか?』
(本当は痩せた男が電話で呼んだ、あなたの息子さんはこんなに不良ですよと
そうすれば少年を怒りに帰ってくる、帰ってきたら他のゴミの様に捨ててしまえる)
だから嘘は存在しない
『この子はどうして壊れたままで生まれてきたの?』
『神様の手違いで少しいびつになってしまったんです』
(本当は大きな身体の化け物が、妊婦を階段から蹴り落としたんだ
理由は僕にもわからない、けれど邪魔なものをまとめて処分出来る)
- 327 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:47:55 ID:CeVsBJmM0
君が欲しがるなら
『女の子は何で部屋の前に居たのかしら』
『あんなに大きな声で叫んでいたから様子を見に来たのでは?』
(本当は親友が呼んでおいた、彼女に興味なんてありはしない
それどころか見せびらかしたかったんだ、彼は自分の物だと誇示したかった)
嘘は真に姿を変える
『それにして、お母さんはどうして質素な生活を?』
『お母さんもきっとそう育てられたんでしょうね』
(本当は不気味な紳士が教えた、質素な生活こそが美徳なのだと洗脳するように
娘が美味しいものに焦がれるように、そして味を染み込ませた)
例え他者の認識する真実とは違っても
『でも、どうして悪魔祓いまで? そんなに大変な事だったの?』
『苦しそうな声って書いてたでしょう、だから悪魔が苦しめてると思ったんですよ』
(本当は黒衣の女が囁いた、シスターと姦通していた神父のように、少年には悪魔が憑いていると
何故かって? 所詮は聖職者も肉の塊、幼い子どもの純潔すらも守れないと笑うだけ)
君は僕を信じるから
『みんなひどいのね、お友達にあんな事を言うなんて』
『みんなついやり過ぎたんでしょうね、大丈夫ですよ、きっと本当は優しい筈です』
(本当は一角を持つ女がそう仕向けた、少年をもっと追い詰めるように
彼らの耳元で嗜虐心を煽った、その結果に訪れる憤怒こそが最高の娯楽)
- 329 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:49:04 ID:CeVsBJmM0
好青年の皮を被ったろくでなしは
信仰対象を得た少女と共に末永く幸せに暮らしている。
無害な顔したくそったれは
泥のように眠る少年を甲斐甲斐しく世話している。
何も考えずに動く木偶の坊は
今日も幸せそうにくらくらと笑う少女を抱えて何かを与える。
嫉妬深い自己愛クソ男は
いつまでもいつまでも親友の心の中に住み着き続ける。
悪食野郎のいかれ野郎は
可愛い可愛い捕食者の食材として身体中を齧られてる。
ガキの見た目のあばずれ女は
時折姿を変えては朝も夜も無くベッドで揺れたり揺らされたり。
澄ました面したド畜生は
こっぴどく叱られた少年の怒りを一身に受けながら笑っている。
そしてこの、にこにこ笑顔の伊達男様は
僕だけの可愛いお姫様に、怒られたりつつかれたりしながら、今日も彼女の笑顔を眺めて生きている。
こうして子供と悪魔は二人きり
いつまでも、いつまでも
きっと 幸せに暮らしましたとさ
おしまい。
- 330 名無しさん[sage] 2018/03/26(月) 00:49:32 ID:CeVsBJmM0
そして彼女は堕ちたのだ
虚偽と真実の狭間へと
そして偽りの言葉を吐き出す
語り部の手中へと堕ちたのだ