2 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 19:41:58.52 ID:CcPdhQurO
代理有り難うございます、ちまちま投下してきます

閲覧注意

4 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 19:44:08.74 ID:CcPdhQurO

 僕の前には扉があります。
 その扉は七つ。
 扉の先には、僕の友人達。

 僕はその扉の先に居る友人達と、お話をします。

 その友人達は皆、少し、変わっています。



 それは傷だらけの少女を愛する彼だったり。

 それは双子を深く愛しすぎた彼、彼女らだったり。

 それは拘束を至福とするふたりだったり。

 それは年齢と言う大きな壁を越えてしまった彼と幼女だったり。

 それは死体となった恋人を愛する彼女と、死体になっても恋人を愛する彼だったり。

 それは人語を解する獣を愛した彼女と、その彼女を愛した獣だったり。



5 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 19:47:10.16 ID:CcPdhQurO

 彼、彼女らは僕にとって大切な友人です。
 けれど、彼らは少しだけ変わっているのです。

 何がと一概には言えない、少なくとも友人としての人柄は普通な彼らは、確かに
 確かに少し、変わっているのです。

 どうか皆さん、僕の友人達を見てください。
 聞いてください。
 感じてください。


 彼らが、どのように“変わっている”のかを。



『( ^ω^)変わった人達のようです』



6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 19:50:04.29 ID:CcPdhQurO

 僕はパイプ椅子に座っていました。
 僕の後ろと左右には白い壁、上には白い天井。電気はありませんが、とても明るい、ひどく無機質な空間です。

 ぎしり、がたり。
 パイプ椅子を軋ませながら立ち上がると、僕はのんびり歩き始めます。
 素足から伝わるはずの床の冷たさは感じず、ひどくまったいらな空気が僕を包みます。

 白い上着に白いシャツ、白いパンツを纏った僕は、ほんのり栗色をした髪以外、この白い世界に溶け込んでいる事でしょう。

 ひたひたひた。
 冷たさを感じない足音だけが、白い通路に響きます。


 少し歩き続けると、突然、開けた空間に出ました。
 左右の壁はひどく遠く、ひどく広く。
 向こう側の壁には、数字が刻み込まれた鉄の扉。

 右から1、左端に7。
 それぞれの数字が刻んである扉達は、殆んど同じ顔をして無機質に通せんぼ。

 僕は顎に手を当てて少し悩んでから、どの扉を開くか決めました。




ぷろろーぐ、おしまい。

9 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 19:53:03.65 ID:CcPdhQurO



 それは、傷付いた少女の傷を愛する男の話。

 それは、ひどく優しい男が愛する傷の話。

 それは、そんな男を愛してしまった少女の話。

 傷を嘗める舌先は、いったい何を求めているのでしょうか。



『ひとつのきずで。』



 始まりは一本の細い傷。



11 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 19:56:06.03 ID:CcPdhQurO

 扉を開けると、そこには見知った友人の姿。
 昔からの友人である男と、その恋人である少女が居ました。

 二人はパイプベッドに向かい合って座っており、男の右手には、薄い刃のカッターナイフ。
 左手には、少女の右手。


 僕はそんな二人の姿に微笑んで、そっと声をかけました。


( ^ω^)「おっおっ、相変わらず仲良しさんだお」

( ・∀・)「あ、やあ内藤、どうしたんだい?」

(#゚;;-゚)「こんにちは、内藤さん」

( ^ω^)「こんにちはだお、ちょっと遊びに来たんだけど……お邪魔かお?」

( ・∀・)「ははっ、そんな事はないよ。ね、でぃ」

(#゚;;-゚)「はい」

( ^ω^)「なら良かったお、もしお邪魔なら言ってほしいお」

( ・∀・)「本当に邪魔ならもう追い出してるさ」

(;^ω^)「お……そ、そうだおね……」


12 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 19:59:13.49 ID:CcPdhQurO

( ・∀・)「ねぇ、内藤」

( ^ω^)「お?」

( ・∀・)「君は僕が非人道的だと思うかい?」

( ^ω^)「……でぃちゃんの事、かお?」

( ・∀・)「ああ、そうだよ」

( ^ω^)「…………」

( ・∀・)「内藤?」

( ^ω^)「聞かせてもらえるかお? どうして、あんな事をしたのか」

( ・∀・)「どうして、こんな事をするのか?」

( ^ω^)「そうだお、良ければ、僕に聞かせてほしいお」

( ・∀・)「うん、うん、そうだね……うん、じゃあ、お話ししよう、かな」


15 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:03:00.64 ID:CcPdhQurO

 カッターナイフを持ったまま、彼は身体の向きを変えてベッドに腰掛けました。
 僕はベッドの向かいにあるパイプ椅子に腰掛けて、両膝に肘を乗せて彼の言葉を待ちます。

 彼はカッターの刃を見たまま目をそらさず、ゆっくり、薄い唇を開きました。



  始まりは、一本の細い傷だった。



( ・∀・)「僕はある日、彼女の手首についた傷を見つけた」


 彼と彼女は、近所の知り合いと言う薄い薄い関係でした。
 たまに顔を合わせたら挨拶をして、たいして会話もせずに別れる。
 ただの、近所の人。


( ・∀・)「それは、夕方。彼女がね、泣いていたんだ、公園で」


18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:06:05.76 ID:CcPdhQurO

 大人しくて可愛らしい彼女はまだ子供と言える年齢で、彼は大人と言える歳。
 そんな二人には大した共通点も何も無い。

 けれど、彼はある春の夕方に、公園のブランコで泣く彼女を見つけました。


( ・∀・)「汚れたセーラー服はボロボロで、彼女は俯いて唇を噛み締めていた」


 彼がどうしたのかと彼女に近寄り、顔を覗き込むと、彼女は驚いた様に顔をあげて、慌てて涙をぬぐいます。
 その涙をぬぐった時、長袖のセーラー服の、袖口から覗く

 赤い、細い、傷跡。


( ・∀・)「僕はひどく驚いて、彼女の手首を掴んでしまった」


 未だ赤い体液がぽつりと垂れるその傷に気付いた彼は、細く折れそうな白い手首を掴んで、彼女を問いただしました。

 彼女はまた、泣きそうな顔で俯いてしまいます。
 聞いても何も言わず、手首を振りほどこうともせずに俯く彼女。

 困り果てた彼は、止血のために、と
 手首の傷に、己の唇を押し当てました。


21 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:09:06.46 ID:CcPdhQurO

( ・∀・)「彼女はまた泣いてしまったけれど、彼女の血はね、とても、甘く感じたんだ」


 彼女の前に跪いて、傷に舌を這わせる彼。
 その姿に、彼女はひどく驚いて、何も言えなくなってしまいました。

 けれど

 傷を嘗められる彼女が感じた物は、言い様のない快感。
 傷を嘗める彼が感じた物は、言い様のない恍惚。


( ・∀・)「背筋がね、ぞわりとしたんだ。血の甘さと、彼女の表情に」


 背筋をぞわぞわのぼってゆく快感と恍惚、それは所謂悦楽に似た物。
 ただ体液を嘗めただけ、嘗められただけ。

 それなのに、ひどく「きもちいい」。


24 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:12:18.90 ID:CcPdhQurO

( ・∀・)「ただ顔と名前を知っているだけの彼女を、僕は、……そう、そうだ、陳腐な言い方かも知れないけれど、……運命の相手だと、感じた」


 その「きもちよさ」は、お互いの中が、少しだけ「かわっている」から。
 僕には彼らがどうかわっているのか、よくは分かりません。
 けれど、おかしいのではなく、少しかわっている事は分かります。


( ・∀・)「その日はすぐに別れたんだ、下腹の辺りが熱くなるのを必死でおさえながら、別れた」


 彼はそれから毎日、夕方になると公園に彼女の姿を探しに行きました。
 けれど彼女の姿はどこにもなく、彼は肩を落として帰宅します。

 そんな日々が一月ほど続いたある日、彼は彼女を見つけました。


( ・∀・)「久々に会った彼女はひどく窶れていた、長い袖から覗く手には、手の甲には、傷があった」


 公園の、滑り台の裏側。
 そこで膝を抱えて蹲っていた彼女に歩み寄り、彼はそっと、手を伸ばしました。


26 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:15:06.41 ID:CcPdhQurO

 顔を伏せる彼女の髪を優しく優しく撫でてやれば、彼女は驚いて顔を上げます。
 そして、驚いていたその表情は、すぐに泣きそうな顔に変化しました。


( ・∀・)「僕は驚いたよ、彼女が、本当に泣きそうな顔をするから。
      だから、僕はそっと彼女を抱き締めたんだ」


 覆い被さるようにして彼女を抱き締めた彼。
 その背中に腕を回してしゃくりあげる彼女。

 彼は彼女が泣き止むまで、何度も、何度も頭と背中を撫でていました。

 そして


( ・∀・)「僕は、彼女を連れて帰った」


 セーラー服の彼女を連れて帰った、独り暮しの彼。
 彼は彼女をベッドに座らせ、すぐに彼女の袖を捲りました。

 手首だけでなく、手の甲や腕にまで広がる細い傷。
 さかぶたも剥がれたような古い傷から、うっすらと脂肪の見える真新しい傷まで。


( ・∀・)「彼女の傷はみんな綺麗で、どうしようもないくらいに愛しくて、全ての傷に口付けて、舌を這わせた」


28 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:18:19.90 ID:CcPdhQurO

 彼女は少し困った様な、それでもどこか幸せそうな顔で、左腕の傷を嘗める彼の髪を撫でます。

 二度目になる行為、舌が蠢く行為は、二人にとっての至福。


( ・∀・)「彼女は虐められていたらしくて、弱い自分を叱る為に自分を傷付けていたらしい。
      虐めて居た人達が憎いかと聞けば、憎いのは弱い自分だけだと答える。
      そんな彼女が、僕は、好きだった」


 彼女は彼の部屋から出る事は無くなりました。
 もちろん監禁されている訳ではなく、彼女が彼の部屋から出たくない、と言ったのです。

 彼はそれを大いに喜び、必要最低限の外出以外は、ずうっと彼女の側に寄り添うようになりました。


( ・∀・)「外に出たくない、ここに居たい。
      出会ったばかりと言える男の部屋で、彼女はそう言ったんだ。
      そこらに居る尻の軽い女とは違う、もっと、切実な彼女の気持ちは、胸が締め付けられるほどに愛しくて嬉しくて」


 そして彼は

 そっとそっと、彼女の手首に傷をつけました。


31 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:21:15.34 ID:CcPdhQurO

 ( ・∀・)「僕がカッターの刃を彼女の手首に置いた時、彼女は驚かなかった。
      既に知っていた様な顔で、微笑んで、こう言ったんだ」


『私の傷と……私の事、好きになってくれて……ありがとう…………ござい、ます……』


( ・∀・)「僕は彼女を愛していた、もちろん彼女そのものも。
      そして、彼女の傷を」


 ゆっくりと描かれる赤い線、玉の様に膨らんで、ぷつりと流れる赤い体液。

 カッターを静かに置いた彼は、ゆるゆると、彼女の手首に舌を這わせて血と唾液を混ぜる様にねぶります。


( ・∀・)「ひどく神聖な儀式の様だった。彼女は幸せそうに僕を見ていて、僕も傷から彼女に視線を移して、笑った。
      幸せだった、どうしようもなく。
      だから僕はその日を境に、彼女の右手首に傷を増やしていった」


 彼は口の回りを赤く濡らして、初めて彼女の唇に、己の唇を押し当てました。
 ぬち、と唾液と血とが混ざった体液が音を立てて、二人の間で糸を引きました。


33 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:24:06.58 ID:CcPdhQurO


『私は、あなたが……好きだから……
 嘗められるのが、好き、だから…………少し痛いけど、平気、なんです……』

 ささやく様な声が、甘くて細い声が、彼の脳髄にじわりと広がって、染み込んで。


「君が好きだよ、君の全てが好きだよ、君の傷が、好きだよ……だから、どうか、傷付ける事を許して欲しい」

 低いけれど優しくて、 懺悔を孕んだ彼の声は、彼女の傷から染み入る様に、血と共に全身を駆け巡る様に。


『ごめんなさい、弱くて……ごめんなさい、悪い子で……ごめんなさい、
 私は、傷つけられて嘗められるのが、好き……ごめんなさい、ごめんなさい……』

 懺悔。


「ごめんね、こんな事をして……ごめんね、傷付けて……ごめんね、僕のエゴで……ごめんね……
 ……僕は君が好きなんだ、君の傷が、何故だか何よりも好きなんだ……ごめんね、ごめんね……」

 懺悔。


 赦す人間は居やしないのに、二人は懺悔を繰り返す。

 そして、ひとつの結論へ。


35 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:27:02.83 ID:CcPdhQurO

 彼は彼女を抱き締めながら、そっとそっと、カッターを握って、振り上げて──────




( ・∀・)「僕の話は、これだけだよ」

( ^ω^)「どうして、そんな、」

( ・∀・)「僕は彼女を愛しすぎた、彼女は僕を愛しすぎた。
      いつかは引き裂かれるだろうと、分かっていたんだ。もちろん、いけない事だとも分かっていた」

( ^ω^)「だから……」

( ・∀・)「だから、終わらせた。あの場で終わらせるのが、幸せだと分かっていたから」

( ^ω^)「……」

( ・∀・)「非人道的だと笑ってよ、内藤。僕は今、でぃとこうしているのが、ただただ幸せなんだ」

( ^ω^)「笑わないお、罵りもしないお……幸せなのが、一番だお」

( ・∀・)「……ありがとう、内藤」

( ^ω^)「じゃあ、僕は失礼するお。お邪魔しましたお」

( ・∀・)「うん、またね─────」


38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:30:07.15 ID:CcPdhQurO

 僕は席を立ち、手を振ってから部屋を出て行きました。

 ぱたん、と扉を閉めて、ひっそり溜め息を吐きます。



僕は彼女の傷付いた笑顔が好きだった



 最後に耳に届いた、彼の言葉。

 傷、か。


 どうか、幸せに。




『ひとつのきずで。』
おしまい。

42 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:33:04.96 ID:CcPdhQurO

 ひたん。

 1と書かれた部屋から出て来た僕は、目を瞑って俯きます。

 ああ、彼は幸せなんだなあ、と。

 噛み締めるように、ゆっくりと目を開けて、隣の扉を見ました。

 左隣の扉には2。
 少しだけ移動して、ドアノブを捻ってドアを開けました。



44 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:36:08.95 ID:CcPdhQurO



 それは、双子を愛した彼らの話。

 それは、同じ顔をした二人の話。

 それは、半身に抱いた愛の話。

 彼らのひずんだ愛情は、何を求めるのでしょうか。



『ふたつのこころ。』



 始まりは、生まれ落ちた二つの心。



47 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:39:03.98 ID:CcPdhQurO

 ドアを開けた先には、1の部屋と同じベッドと椅子。
 ベッドには彼、兄が。
 椅子には彼、弟が座っていました。


( ^ω^)「兄者、お邪魔するお」

( ´_ゝ`)「あ、内藤じゃないか、どうしたんだ?」

( ^ω^)「遊びに来ましたお」

( ´_ゝ`)「野郎同士で遊ぶってもなあ……まあ良いや、座れよ。弟者、こっちに」

(´<_` )「ああ、わかった」

( ^ω^)「失礼しますお」

( ´_ゝ`)「失礼されます」(´<_` )

(;^ω^)「おー……」

( ´_ゝ`)「ははは、そんな困った顔するなよニヤケ面、まあ何もないけど寛いでくれ、茶なんか出さないけどな」

(;^ω^)「最初から期待してないお……」

( ´_ゝ`)「これは手厳しい」


48 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:42:21.14 ID:CcPdhQurO
( ´_ゝ`)「さて」

( ^ω^)「お?」

( ´_ゝ`)「話があるんじゃないのか? こんな所に来て、何もないじゃ済まさんさ」

( ^ω^)「お……」

( ´_ゝ`)「言ってみろよ内藤、聞いてやるさ」

( ^ω^)「……僕は話をしに来たんじゃなくて、話を、聞きに来たんだお」

( ´_ゝ`)「なんと、逆だったとは……しかし俺の話なんぞ楽しくも無かろうに、俺は弟者と違って話が下手だ」

( ^ω^)「それでも」

( ´_ゝ`)「なんなら弟者にタッチ……ん?」

( ^ω^)「僕は、兄者に聞きたいんだお」

( ´_ゝ`)「…………」

( ^ω^)「聞きたいんだお」

( ´_ゝ`)「……強情な奴め、しょうがないからワガママ野郎の期待に応えてやるか……さ、何を聞きたい? 恋愛遍歴か?」

( ^ω^)「んなもんどうでも良いお」

( ´_ゝ`)「ひっでぇなお前」

52 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:45:34.86 ID:CcPdhQurO

( ´_ゝ`)「じゃあ何が聞きたいんだよ……恋愛遍歴じゃないなら何だ、性癖か」

( ^ω^)「だからどうでも良い……いや、少し、良くないかも知れないお」

( ´_ゝ`)「お前に恋はしないぞ」

( ^ω^)「余計な事言ってると鼻もぐお、聞きなさいお」

( ´_ゝ`)「うわこえぇ……何だよ、言えよもう……」

( ^ω^)「どうして、あんな事をしたか」

( ´_ゝ`)「……何で、こんな事をしているか、か」

( ^ω^)「聞かせてくれる、かお?」

( ´_ゝ`)「…………良いよ、話が下手で混乱しても知らんからな。
       非人道的だって、非生産的だって、笑っても良いからな」

( ^ω^)「笑わないお、僕は、笑わないお」

( ´_ゝ`)「よく言うよニヤケ面め……」



 始まりは、すれ違う二つの心だった。



53 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:48:15.58 ID:CcPdhQurO

 彼らは双子でした。
 まるきり同じに近い身体、そしてぴったり同じ事を言い、考え、感じるその心。

 彼らは、双子でした。
 クローンの様な、存在。


( ´_ゝ`)「ええと、な……何が始まりだったのか…………いや、生まれた時からある意味、始まってた、のかな」


 兄は好奇心が旺盛で人当たりの良い、外向的な性格。
 弟は人と関わる事を避けて本の世界にのめり込む様な、内向的な性格。

 それでも二人はとても仲が良く、兄が弟を連れて遊び回っていました。
 弟はそんな兄が好きで、兄もそんな弟が好きでした。


( ´_ゝ`)「ただ、一番大きな変化があったのはー……中、いや、高……んん? ……まあ十代の半ばくらい、か……?」


 おとなしい弟を連れ回す明るい兄。
 そんな関係の二人は歳を重ねる毎に増して行く、ある違和感に気付きました。

 それは、お互いに全く恋愛話がないと言う事。

 二人は、誰かに恋をすると言う事を知りませんでした。


54 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:51:07.86 ID:CcPdhQurO

( ´_ゝ`)「いや驚いた、よくよく考えてみりゃ弟者も俺も恋愛沙汰には無縁でな。
       それを弟者に言ったらやっぱりポカンとしてさ、もうアホ面アホ面、俺も似たような顔だけど。
       それを言ってからな、なんか、こう……ぎくしゃくって言うのか、しだしてな」


 その話題を境に、二人の間に生まれた壁。
 端から見れば相変わらず、弟で遊ぶ兄、その兄に冷たく当たりながらも楽しそうな弟。
 変わらなく見えて、変わった二人。

 不思議と、違和感は膨らむばかり。


 そしてある日、夕暮れ時。
 弟の部屋に入ってきた兄に向かって、弟は兄に言いました。

『俺に構わないでくれ、関わらないでくれ』

 兄は突然の言葉に目を丸くするばかりで状況が飲み込めず、弟の言葉の冷たさと意味を理解しきれず、驚いた顔のまま弟に追い出されてしまいました。


( ´_ゝ`)「あれが高校生、くらい、か? 驚いたさ、色恋沙汰に無縁って分かった時よりも驚いた。
       今まで弟者は何だかんだ言いながら結構楽しそうにしてたんだ、それなのに、いきなりもう構うなって。
       怒るとか悲しむとかよりも、驚きのが勝ってな、何も言えなかった」


55 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:54:03.53 ID:CcPdhQurO

 翌日から、兄は弟に言われた通り、構う事を止めました。
 理由は分からないけれど、弟が言うならばしょうがない。

 兄は困った顔で、それでも笑って、弟との関わりを少しずつ断ち切って行きます。


 弟に話し掛ける事はなくなり、弟の話題を出す事もなくなり、弟と共通の趣味も手放して。
 兄はただ、弟に言われた通りに構わないように、関わらないように。
 学校で顔を合わせても、目を合わせる事は無く。


 二人の間の距離は、みるみる内に広がって行きました。


 そうなれば周囲の人間もおかしいと思い、兄にその事を問いますが、兄はただ、困った様な笑顔だけを返しました。
 何かを言うわけでもなく、ただ、困った様に細い目を更に細くして、笑っていました。


 頑なに何も答えようとしない兄の姿に諦めたのか、周囲の人間は弟の事を聞くのを止めました。


 急に遠くなった兄弟の距離。
 その大きな距離をそのままに、数年の月日が流れました。


58 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 20:57:31.48 ID:CcPdhQurO

 その数年は、弟を失ったとも言える兄にとって、苦痛の日々でした。

 毎日顔を合わせて、話して、いじくって、遊んで、笑って。
 幸せだったそれら全てを失った兄は、何を糧として生きれば良いのか分からなくなっていました。


 そうして気付く事は、兄の弟に対する依存。
 己の半身である弟が居たからこそ持てていた自己が、ゆっくりと足元から崩れて行く感覚。

 兄はそれでも以前と同じように明るく振る舞います。
 けれど兄が明るく振る舞えば振る舞うほど、その笑顔は悲しみは色濃くなるばかり。


( ´_ゝ`)「寂しかったなあ、あれは。
       俺は弟者大好き兄者って奴だからさ、弟者が、こう……側から居なくなるっての、想像すらしてなくてな。
       どうすれば良いのか分からないけど、取り敢えず笑ってた、笑ってりゃまあ良いと思ってた。
       でも結局、阿呆みたいに寂しくて、我慢するしかなくてなぁ」


 ベッドの中で一人、身を抱いて訳の分からない感情に苛まれながら枕を噛んで。
 毎晩毎晩、何がいけなかったのか、嫌われていたのかと自問自答を繰り返して。

 弟は、変わらず部屋にこもって本を読み、必要最低限の事はせず、言いもしません。
 兄と関わらなくなっただけで、弟の閉鎖された世界はさらに狭まったみたいでした。

 端から見れば明るい、当人からすれば孤独でしょうがない兄の毎日。
 その毎日に、打たれる終止符。


60 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:00:14.46 ID:CcPdhQurO

( ´_ゝ`)「でもな、俺が大学に入ってすぐの頃、これは忘れてないぞ。
       この時な、弟者が俺の部屋に来てさ、ビックリしたよそりゃあもう、何年も口をきいてなかった弟が俺の部屋に来たんだから。
       俺ビックリしてばっかりだな、ははは」


 あの日と同じ様な夕暮れ時。
 弟は兄の座る椅子の側までやって来て、項垂れていました。



『どうしたんだ? 弟者』

「ぁ、に、じゃ」

『何だ何だ、情けない声を出して』

「俺は、どう、すれば良いんだ?」

『話が全く見えん、取り敢えず座れ』

「兄者、俺は、」

『ん?』

「ぁ、あ……ああ、もう……」

『何だ気持ち悪いな……』


61 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:03:16.68 ID:CcPdhQurO

『ごめん、な、兄者』

「は?」

『ご、め……』

「何だよ気持ち悪い、気にするな気にするな」

『あ、ぁ』

「どうしたんだ弟者、お前はもっと冷静に突っ込む奴だろう? 今日は様子がおかしいぞ」

『俺は、俺は……兄者、が、兄者を、』

「俺を?」



兄者を殺したい。



『…………は?』

「どうすれば良いんだよ、どうすれば良いんだよ兄者、もう嫌だ、もう嫌なんだ!!」

『お、おい、時に落ち着け弟者、ちゃんと説明しろ。そんなに俺が嫌いなのか?』


64 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:06:27.18 ID:CcPdhQurO
『違う、違うっ!! 逆だ、逆なんだ! 俺は兄者が好きなんだ、だから殺したいんだ!!』

「お、弟者? ええと、……俺にはまだ、何が何だかよく分からないんだが……取り敢えず落ち着け、うん。
 で、あー……好きとな?」

『好きだよ、兄者が』

「あ、お、おう、俺も弟者が好きだからな、うん」

『兄弟としてではなくだ』

「……なん、と……え? あ、そ、そうなの? いいいいつから?」

『知らん、ずっと前からだ。兄者の首とか、指とか、耳とか、唇とか、鎖骨とか。好きなんだ』

「それ何てフェティシズム……」

『しょうがないだろう、好きなんだから』

「うんまあ、そうなんだけどさ……」

『なあ兄者』

「ん?」

『気持ち悪いと思うか? 双子の弟に告白されて』

「いや、別に?」

66 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:09:09.83 ID:CcPdhQurO

「……え?」

『いや、俺も弟者好きだしな』

「……だから、兄者」

『兄弟としてではなくだ』

「…………兄、者?」

『当たり前だろう、双子なんだから』

「は……はは、はははっ、なんだよ、俺がこんなに悩んで、兄者と距離を置いてた、のに」

『ははは、流石だよな俺ら』

「ああ……流石だよな、俺ら……」



 やっと一つに戻れた二人は、泣いていました。
 やっと一つになれた二人は、笑っていました。


 二人でベッドに潜り込んで、久し振りに交わす言葉は、どれも幸せに満ちていました。
 二人は笑って、幸せを言い合いました。


67 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:12:05.99 ID:CcPdhQurO


 そして兄は問いました。

「俺を殺したいのか?」


 そして弟は答えました。

『いや、今は、殺したくはない』


 またも兄は問いました。

「そうか、なら、殺してほしいか?」


 またも弟は答えました。

『ああ、兄者に、殺されたい』


 そうして兄は、静かに静かに、弟の首に手を掛けました。

 今が幸せなら、今で止まれば良い。


ぺきり。

70 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:15:16.96 ID:CcPdhQurO


( ´_ゝ`)「さ、これで話はおしまいだ、満足か?」

( ^ω^)「どうして、そんな、」

( ´_ゝ`)「俺はな、弟者な依存してたんだ。弟者もまた、俺に依存してたのかな。
       男同士の近親相姦のオチに、救いがあるわけないだろう」

( ^ω^)「だから……」

( ´_ゝ`)「だから止めたんだ。もう俺は弟者と一つになりすぎて、混ざって、俺が弟者なのか兄者なのかも分からなくなった。
       頭がおかしいんだと自分でも分かっていた、だから俺は、止めた」

( ^ω^)「……」

( ´_ゝ`)「なあ内藤、俺はな…………いや、もう、良いか……」

( ^ω^)「……じゃあ、僕は失礼するお。話を聞かせてくれて有り難うだお、兄者」

( ´_ゝ`)「本当に、軽蔑も笑いもしないんだな」

( ^ω^)「当たり前だお。……じゃ、兄者、また」

( ´_ゝ`)「ああ、有り難う、内藤…………俺は─────」


ぱたん。


71 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:18:33.51 ID:CcPdhQurO



俺だって、殺したいほど、愛していた。



 扉を閉める時に聞こえたその言葉に、僕は小さく、きつく、奥歯を噛み締めました。

 ああ、彼もまた、幸せなのだなあ、と。



 背筋をぞわぞわ
 彼の言葉が、絡み付く。




『ふたつのこころ。』
おしまい。

73 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:21:11.06 ID:CcPdhQurO



 それは、誰も愛さない彼女の話。

 それは、僕の愛した彼女の話。

 それは、挟み込まれた彼女の話。

 彼女は彼女を僕から奪い、他に何を求めるのでしょうか。



『みっつのひとつ。』



 始まりは、三人の関係。



75 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:24:02.01 ID:CcPdhQurO

 ぱたん
 かちゃん。

 僕は何を考えるでもなく、ただ背筋に未だ感じるぞわぞわを持ったまま、少しだけ移動しました。

 3と書かれた扉の前に立ち、僕は深呼吸をします。

 この扉の向こうには、彼女がいるからです。


かちゃ。



77 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:27:09.42 ID:CcPdhQurO

ζ(゚ー゚*ζ「あ……内藤さん」

( ^ω^)「……デレちゃん、こんにちはだお」


 薄茶の巻き毛を揺らして僕を見る彼女は、ベッドで膝を抱えていました。
 その隣に寝転がる彼女の姉は、眠る様に目を瞑っています。

 僕はその柔らかそうな金色の巻き毛を見つめて、視線を外してドアを閉めます。


ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、どうぞ……何もありませんけど、座ってください」

( ^ω^)「……有り難う、だお」


 少し戸惑いがちに話す彼女はへなりと笑って、僕は促されるがままに椅子に座ります。

 ぎこちない笑顔。

 少し俯く彼女は、横たわる姉を見て、笑顔に含まれた戸惑いを濃くしました。


79 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:30:07.53 ID:CcPdhQurO

ζ(゚ー゚*ζ「あの、内藤さん…………どうしたんですか? ……その、いきなり……」

( ^ω^)「……話を、聞きたくて」

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

( ^ω^)「なんであんな事をしたのか……」

ζ(゚ー゚*ζ「なんで、こんな事をするのか」

( ^ω^)「聞かせてもらえる、かお?」

ζ(゚ー゚*ζ「……内藤さんもご存じの事ばかりだと、思います……それでも、よろしければ……」

( ^ω^)「…………お願い、するお」

ζ(゚ー゚*ζ「……分かりました、分かりづらいかも、知れませんが……」

( ^ω^)「それでも、お願いするお」

ζ(゚ー゚*ζ「はい……」



 始まりは、三人の関係の変化だった。



80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:33:10.02 ID:CcPdhQurO

 彼女らは双子でした。
 良く似た、可愛らしい双子でした。

 気が強く、誰に対してもはっきりと物を言うしゃんとした姉。
 少しばかり気の弱い、控えめで姉の後をついて歩く妹。

 二人には幼馴染みの男が居て、その男は姉が好きでした。
 そして、妹も姉が好きでした。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんはとても綺麗で、可愛くて、私には無い物ばかり持っていました。
      私はそんなお姉ちゃんが大好きで、尊敬していたんです」


 幼い頃から三人は良く一緒に遊び、話し、男が姉をからかい、すぐに熱くなる姉、その姉を宥める妹。

 その関係を維持したまま、時は流れて三人は高校生になります。


 それでも暫くは変わる事の無かった関係。
 歳を重ねても、いつもいつも、変わらずに居ると。
 そう、思っていたのです。


82 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:36:10.67 ID:CcPdhQurO

 けれどある日、男が姉に好きだと告白をしました。

 姉は困った顔をしましたが、照れた様に笑ってその申し出を受けたのです。


 妹がそれを知ったのは、数日後。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんに恋人が出来たと知った時は、驚きました。
      もちろん祝福をしようと思いましたけど、けど、何も言わずに恋人を作って、お姉ちゃんからは何も言わなくて……。
      何だかよく分からないけれど、凄く……寂しかったんです」


 妹は、姉と男が二人で並んで歩く姿を見ていると、どうしようもない孤独に苛まれました。

 幸せそうに笑って歩く二人が羨ましい。
 けれどその羨ましいと言う感情は、どちらに感じる物なのか。
 恋人同士と言う関係にか、姉にか、それとも、男に、か。


ζ(゚ー゚*ζ「ずっとずっと考えてました、二人が歩く後ろを、数歩引いて。お姉ちゃんの笑顔が寂しくて」


85 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:39:28.62 ID:CcPdhQurO

 そんな事ばかり考えていたある日、夜中に目の覚めた妹は何かを飲もうと部屋を出ました。
 廊下を歩いていると、姉の部屋から光が漏れている事に気付きます。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんが夜中に起きてるなんて珍しいと思って、覗いてみたんです」


 ドアの向こうには、膝を抱えて横たわる姉の姿。
 その手には何かが握られていて、妹にはそれが何か分かりませんでした。

 けれど姉が手をそっと開き、ころりと転がり落ちる小さな何か。

 それは、細く小さな指輪。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんは、指輪を何度も拾って転がしてを繰り返してました。
      私は何をしてるのかよく分からなくて、お姉ちゃんは虚ろな目をしてたから、覗くのをやめて部屋に戻ったんです」


 小さなピンクの石がついた、可愛らしい指輪。
 妹がその正体を知ったのは、翌日でした。


86 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:42:04.16 ID:CcPdhQurO

ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんの右手に、薬指に、あったんです……その、指輪が」


 指輪をつけた姉と、それを喜ぶ男。
 二人の後ろ姿に、指輪の意味が分かりました。

 あれは、男が姉に渡した物。
 つまり、二人は


ζ(゚ー゚*ζ「指輪を渡す様な関係に、なってしまったんだ、と…………それを見ていたら、なんだか胸が、気持ち悪くなりました」


 理解不能なもやもや。
 胸に抱えた暗くて重いそれをどうすれば良いのか分からなくて、妹は二人の背中から、また、離れて行きます。


 何日も、何日も
 妹の中にたまったもやもやは無くなる事は無く妹の中に存在し続けました。

 無くなるどころか肥大して行くもやもや。
 妹はすっかりふさぎこみ、姉を見る事すら躊躇う様になりました。


88 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:45:06.51 ID:CcPdhQurO

ζ(゚ー゚*ζ「それと……ああ、ある時リビングに行ったら、お姉ちゃんがソファで寝ていました」


 制服のまま横たわる姉は、しなやかな白い足を投げ出して眠っています。
 整った顔立ち、やわらかな巻き毛、長い睫毛、形の良い、唇。

 その姿はひどくひどく美しく、妹は姉の寝顔に見とれながら、少しずつ身体を動かして。

 姉に、覆い被さりました。


ζ(゚ー゚*ζ「綺麗でした……すごく、甘い匂いがして……お姉ちゃんは、きれいなんだなあ、って……」


 姉に覆い被さった妹は、躊躇う事無く、唇を重ねました。
 少し弾力のある柔らかさ、心地よさ。
 ふわりと鼻をつく姉の匂いは、とても優しくて華やかでした。


『デ、レ?』


 唇を離したその瞬間、洩れる声。


90 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:48:40.37 ID:CcPdhQurO

 姉は驚いた顔で間近にある妹の顔を見つめていました。

 その姉の表情を見た妹は、はっとして一瞬だけ身を引きましたが、不意に動きを止めて。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃん、驚いた顔も、きれい…………色んな顔が、見たくて……私は、お姉ちゃんを貪りました」


 二人以外は誰も居ない家。
 腕を押さえつけて、服を脱がせて、小さな胸を覆う下着を剥ぎ取って。
 白い太ももを撫でながらスカートの中にするすると手を入れて、下着越しに触れて。

 頬を、鎖骨をぬらりと嘗めました。
 首筋に、乳房に優しく噛み付きました。
 内腿へ、脚の付け根へ指先を動かして。

 妹はただ貪欲に姉の表情を楽しみました。
 姉の身体を犯しながら。


ζ(゚ー゚*ζ「私、気付いたんです……私が好きなのは、お姉ちゃん…………ただ、お姉ちゃんが好き……」


91 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:51:19.77 ID:CcPdhQurO

 ただただひたすらに身体を弄ばれていた姉は、ろくな抵抗も出来なくて。
 荒い息と虚ろな目を妹に向けて、問いました。


『私が、嫌い?』


ζ(゚ー゚*ζ「とんでもない、とんでもないんです。私はお姉ちゃんを嫌う様な事は絶対ありません。
      だから私は言ったんです、お姉ちゃんの薬指を噛むのをやめて」


 虚ろな目をしてぐったりとしている姉の頬に貼り付いた巻き毛を払って、妹は、にっこり。


ζ(゚ー゚*ζ「私が好きなのはお姉ちゃん、お姉ちゃんが好き、きっとずっと昔から、私はお姉ちゃんが好き、誰にも渡すものか」


 口許にだけ浮かべた笑みをそのままに、妹は姉へと告げました。
 姉の表情を見ていると、胸のもやもやは消えていった。
 姉に触れていれば消えた。


 ああ、もしかして、これは恋ですか?

 姉に抱いたこれは、恋だったのですか?


92 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:54:06.02 ID:CcPdhQurO

 翌日から、妹は己の感情を隠す事を止めました。

 姉と男が並んでいるならば、そこに割り込んで姉の手を握り。
 姉が男と出掛けて帰ってきたなら、その場で姉の服を脱がせて。

 姉に男が寄り添いあって居るのなら、
 男を殴って、姉の側から引き剥がして。

 妹の男を見る目はひどくひどく冷たくて、姉が見ていようが気にする事もなく殴って、蹴り上げて。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんの隣は渡さない、恋人だなんて許さない。
      私は、嫉妬していました。
      今まで何の躊躇いもなくお姉ちゃんの横を陣取っていた、あなたに」


 流石の男も妹がおかしいと気付いたのか、姉にその事を問いただしました。
 けれど姉は何も答えず、小さく笑って、ごめんなさい。

 それでも男は、姉を守らなければならないと言う感覚に陥りました。
 どうすれば妹は目を覚ますのか、そんな事を考える男の耳に届いた言葉。


『ねぇ、別れよう』


 姉は小さな笑顔を崩す事なく、そう、囁いて。


93 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 21:57:07.88 ID:CcPdhQurO


 『私はあなたを男として好きになれるのか分からない、それでも良いのなら、こんな中途半端な女で良いのなら、お付き合いします』


 姉が男の告白を受けた時の、言葉。
 それはあまりにも不安定で、姉はもう崩れ落ちそうなくらいで。

 にこりと笑った男は、姉の頭を撫でて頷きました。
 突然切り出された別れを、受け取って。



ζ(゚ー゚*ζ「ざまあみろ。
      真剣にそう思ったあの時の私は、最低でした……でもこれで、お姉ちゃんを私の物に出来る……その気持ちでいっぱいで……」


 それでも薬指の指輪を外さなかった、姉。
 指輪を返そうとして、男に首を振られた姉は、小さく泣いてその指輪を、薬指に。

 決して外す事のない指輪は、姉を求める妹にとってひどく邪魔な物でした。



ζ(゚ー゚*ζ「やっと解放されたのに、私のものに出来るようになったのに、あの指輪があると、あなたの顔が浮かんでくる。
      邪魔、でした」


96 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:01:00.24 ID:CcPdhQurO

 男は姉を友達として接し、妹は姉を女として接しました。

 なんともないと言う様な顔をして笑う男、ただひたすらに姉を求めて笑う妹。

 もう、限界だったのでしょう。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんの部屋に入ったら、そこにはお姉ちゃんがぶらさがっていました。
      だらん、と舌を出して、目を飛び出させて……」


 首を吊った姉を下ろした妹は、呆然として姉の姿を見詰めます。

 あんなに美しかったのに、あんなに愛らしかったのに。
 この顔は、姿は、いったい。

 変色したた姉は、ぱんぱんに膨れた顔は、どこも、美しくはありませんでした。

 妹は必死になって姉の美しい部分を探します。
 すると見つけた、一枚の紙。


97 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:03:51.62 ID:CcPdhQurO


『私はきっと、死んでいるのでしょうね
 肺の中に水がたまる様な感覚は、
 私を少しずつ少しずつ崩した。
 しょうがなかった、
 悲しかったけれどそう思います、
 愛してくれてありがとうデレ、
 世界の誰よりも大好きでした。
 内藤、ごめんね、
 いっぱい、沢山の思いをくれたのに。

 桃色の石がついた指輪、
 嬉しかった、すごく
 いいのかなこんなの貰ってって聞いたら
 優しく、内藤は私の頭を撫でたね

 最初にくれたプレゼント、
 喜んでくれたかなって聞いたね、
 嬉しかったんだ、実は、すごく
 何言ってるの、当たり前でしょ、なんて、
 来年もまた一緒に過ごそうって言ったのに。

ごめんなさい、二人とも』



101 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:07:08.00 ID:CcPdhQurO

 妹は手紙を握り潰して、姉の薬指を見下ろします。
 近くにあったデザインカッターを取って、姉の薬指を、ごりごりごりぼき、ぶちん。

 他の部位よりも美しいそこを胸に抱いて、妹は姉の部屋を出て行きました。



ζ(゚ー゚*ζ「これで、おしまいです」

( ^ω^)「どうして、そんな、」

ζ(゚ー゚*ζ「綺麗なお姉ちゃんが好きでした、だからお姉ちゃんの綺麗だったところがほしかったんです。
      双子の姉を愛しちゃいけないなんて事、ありませんよね?」

( ^ω^)「だから……」

ζ(゚ー゚*ζ「だから、指を切りました。
      お姉ちゃんは綺麗でなきゃいけないから、綺麗なところを引きちぎって、胸に抱いていたんです」

( ^ω^)「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、私は」

( ^ω^)「もう……失礼、するお」


102 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:10:09.40 ID:CcPdhQurO

ζ(゚ー゚*ζ「……分かりました」

( ^ω^)「お邪魔しましたお……」

ζ(゚ー゚*ζ「……内藤さん、私は─────」




あなたを殺したい。



 ドアを閉めるより早く舞い込んだ彼女の言葉に、ドアを閉めた僕は泣き崩れました。

 どうして、どうして
 そんなに僕が嫌いだったなんて


 その場で膝を抱えて泣きじゃくる僕は、ただ嗚咽を堪えるだけで、精一杯、でした。



『みっつのひとつ。』
おしまい。

105 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:13:01.18 ID:CcPdhQurO



 それは、縛る事を喜ぶ彼の話。

 それは、縛られる事を喜ぶ彼の話。

 それは、二人が選んだ拘束の話。

 彼らは何を縛り、何に縛られ、その先の何を求めるのでしょうか。



『よっつのかせで。』



 始まりは、四つの言葉。



107 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:16:01.64 ID:CcPdhQurO


 僕は袖で涙を拭い、ぐずりと鼻水をすすってから、ひとつ咳をしました。

 のろのろと立ち上がって、目元を擦りながら少しだけの移動。

 もう考える事を止めたくて、ぼんやりした頭をそのままに、4と書かれた扉を開けました。


がちゃん、ぱたん。



109 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:19:07.94 ID:CcPdhQurO

 部屋の主はベッドの側面に立ち、ベッドに転がるその親友の髪を撫でていました。
 室内に足を踏み入れれば、こちらへ向く大きな目。

 無表情にこちらを見た彼は、少しだけ笑って、椅子を指しました。


( <●><●>)「お久しぶりです、内藤さん」

( ^ω^)「久しぶりだお、ワカッテマス」

( <●><●>)「どうぞ座って下さい、ビロードは寝ていますが」

( ^ω^)「いやいや、いきなり来て申し訳ないお。失礼しますお」

( <●><●>)「どうぞ、さて、何からお話ししましょうか」

(;^ω^)「お、お?」

( <●><●>)「話を聞きに来たんでしょう?」

(;^ω^)「そ、そうだけど……」

( <●><●>)「それくらいの事は分かってます」


111 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:22:19.98 ID:CcPdhQurO
( ^ω^)「流石はワカッテマスだお……、じゃあ、お話を聞かせてもらえるかお? 何故、あんな事をしたのか」

( <●><●>)「はい、何故こんな事をしているか、ですね」


 彼はベッドに浅く腰掛けて、横たわる親友の顔を眺めながら返事をします。
 それは昔から何ら変わらない事で、口と目が同じ物を追わないのは相変わらずでした。


( ^ω^)「聞かせて、もらえるかお?」

( <●><●>)「非人道的だと自分でも分かってます、だからどうぞ、遠慮なく言ってください」

( ^ω^)「そんな事、僕は思わないお」

( <●><●>)「……相変わらずですね」

( ^ω^)「そっちこそ」

( <●><●>)「では、ええと、何からお話ししましょうか」


 親友の髪を撫でる事を止めずに、彼は首を捻ります。
 そして、彼の横顔はゆっくりと口を開きました。



 始まりは、彼が発した四つの気持ちだった。


114 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:25:04.08 ID:CcPdhQurO

 二人の出会いは校舎裏。
 大した理由も無く虐められていた彼に声をかけた、転校生の、彼の親友となる彼。


『やめるんです! そんな事して何になるんですか!』


 歳よりも幼い顔をした、おとなしそうな彼が怒鳴った事により、男子達は驚き、悪態をついて立ち去って行きました。
 頬に擦り傷を作って座り込んでいた彼は、幼い顔をした彼を見上げて首を傾げます。


( <●><●>)「最初、驚きました。どうして彼が僕を助けたのか分からなくて……でも、彼に悪意等が無い事は、分かっていました」


 幼い顔をした彼は、彼の頬の傷を少し撫でてから、手を引いて立ち上がらせました。
 けれど彼の方が背が高く、幼い顔をした彼は立ち上がらせた事でバランスを崩して転んでしまいます。

 制服の襟元を直して、彼は少し笑って、幼い顔をした彼を立ち上がらせました。


『えへへ……』


 照れ臭そうに笑う幼い顔をした彼。

 その日から、彼と、その幼い顔をした彼は、何故か一緒に行動する事が多くなりました。


116 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:28:12.72 ID:CcPdhQurO

 最初こそ、わけも無く虐められていた彼は幼い顔をした彼を信じずに突き放していました。

 けれど幼い顔をした彼は、何度突き放されても彼の後ろをついて歩いて諦めずに話しかけ続けるのです。

 ついに根負けした彼は、幼い顔をした彼を少しずつ構う様になります。
 そこから二人の仲が良くなり、友人となるのに、時間は掛かりませんでした。


( <●><●>)「よく分かりませんが、僕とビロードは波長が合ったのでしょうか。最初は鬱陶しいだけでした、ただ気まぐれで助けたのだろうと思っていました。
       けど、彼はずっと、僕に話しかけてきて……返事をしなければ、いけないような気がして」


 幼い顔をした彼は、あっという間に彼の親友へと。


『ワカッテマス君、今日は怪我はないんですか?』

「そう毎日はしませんよ」

『なら良かったんです!』

「……ビロード」

『はい?』

「どうして、僕に話しかけてくれたんですか?」


119 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:31:35.27 ID:CcPdhQurO

 二人で昼食を摂りながら、彼は親友に問いました。
 ひどく真面目な顔をした彼に、親友は首を傾げて、俯いて、持ち上げていた箸を下ろしてしまいます。


『僕が転校生なのは、覚えてますか?』

「分かってます、半年前に転校してきました」

『僕は、前の学校と、小学生の頃に……虐められてたんです』

「…………ビロード……」

『でも、僕はお父さんの都合でここに越してきたんです、僕が虐められてた事を知る人は居なくなりました……僕を虐める人も、ここには居ません』

「……はい」

『だから、凄く楽しくて、嬉しくて……でも、また何かあるんじゃないかって、少し怖くて』

「……」

『そんな時に、ワカッテマス君が虐められてるのを見付けたんです』

「はい……」

『……前の自分と、だぶって見えたんです…………もう、虐めとか、嫌で……』


121 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:34:04.83 ID:CcPdhQurO

「それで、僕を?」

『はい、昔の自分みたいに虐められてる人を放ってなんかおけなかったんです。
 虐められるのは苦しいって僕は知ってるのに、放っておくなんて出来なかったんです』

「…………」

『……ごめんなさいなんです、こんな、理由で……』

「いえ……有り難う、ビロード」

『……そん、な、』

「中学で、初めての友達です、ビロードは……嬉しいんです、僕は」

『ぁ……僕も、初めての友達なんです……有り難うなんです、ワカッテマス君!』

「…………弁当、食べなさい」

『あ、ワカッテマス君照れてるんです! そっぽ向くのやめるんで あでっ』

「…………」

『……お箸でデコを刺さないで下さいなんです……』


123 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:37:08.21 ID:CcPdhQurO

( <●><●>)「ビロードと過ごす時間は、どうしようもなく楽しかった……どうやらビロードも楽しんでくれているみたいで、とても嬉しかったのを覚えています」


 彼と親友はいつも一緒に行動していました。
 二人が一緒に居れば彼が虐められる事も減り、彼らの色の少なかった生活はひどく色付きました。

 けれど、彼が抱く、妙な違和感。


「あ、ビロード……」

『うん、うん、そうなんです! ワカッテマス君は……あ、ワカッテマス君! どうしたんです?』

「……いえ、何でも」

『? ワカッテマス君?』

「何でもありません、大丈夫ですよビロード」

『あ、ぅ?』


 親友が他の誰かと話していると感じる、胸の違和感。
 同年代の誰かと楽しげに話す親友の姿は、何故か、見ていると苦しくなるのです。


127 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:40:03.87 ID:CcPdhQurO

 その妙な違和感は、嫉妬や、不安。


( <●><●>)「ビロードが僕の側から居なくなるんじゃないか、そう考えると沸き上がる胸の違和感に、僕は苦しみました。
       けれどこんな事をビロードに言えるわけも無くて、僕が脆弱な神経をしているだけだと、分かっていました」


 それでもぐるぐる渦巻き沸騰する様な不安や嫉妬は彼を侵し、何時でも胃を痛めている様な状態にまで。

 その頃には、彼は何と無く気付いていました。

 彼の視線が追う物に。


( <●><●>)「自覚した事はありませんでした、ただ髪や首筋が綺麗だと思うだけで。
       自覚は、していませんでした、男の彼が好きだなんて」


 同性愛なんて非生産的で不毛な物。
 気色の良い物では無い、自分には関係無い。下らない。


( <●><●>)「そう、思っていたのに」


129 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:43:16.95 ID:CcPdhQurO

 奇妙な背徳感、後ろめたさ、罪悪感、自己嫌悪、不安。

 良くない物がぐるぐるとする中、彼は自分が親友に依存しすぎていると気付きます。
 それは彼にとって、愕然とする事。


( <●><●>)「一人でも大丈夫だと思っていました、平気なんだと、誰かに依存する事なんてないと思っていました。
       なのに、僕はビロード無しでは息も出来ない様なくらいに、依存していたんです」


 追加される苛立ちに、彼は親友に冷たく当たる様になります。
 それにより覆い被さる罪悪感、罪悪感を消したくて、余計に冷たく当たる。
 どうしようもない、悪循環。


『あ、の……ワカッテマス、君』

「何ですか」

『僕は、悪い事を……その、しました、か?』


132 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:46:17.59 ID:CcPdhQurO

「さあ、」

『わっ、分かんないんです! 僕は頭が良くないから分かんないんです!
 あれをするなとか、これを見るなとか、言うなとか! 言って下さいなんです!
 悪いとこはちゃんとなおすんです、なおる様に気を付けるんです…………だから……だか、ら……』

「……ビロード、」

『だから…………一人に、しないで下さい、なんです……』

「…………ぁ……」


 涙を堪えるように、俯いて言う親友の言葉は震えていました。


( <●><●>)「頭が悪いのは、僕の方でした。
       一人になるのが嫌だと思うのは僕だけだと思って、ビロードの事を考えなくて。
       ……でも、」


 ついにぼろぼろと涙を溢す親友に抱く、溢れんばかりの罪悪感。


 そして、ひずんだ愛情。


133 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:49:15.46 ID:CcPdhQurO

( <●><●>)「もう、道徳とか、非生産的だとか、どうでも良くなりました。
       何もかも、下らないと思えました」


 彼は親友の頭を撫でて、勢い良くあげられた顔を見て、頬に流れる涙を拭って。

 唇を、奪って。



『……ぇ、』

「ビロードは何も悪くありません、悪いのは僕です」

『ワカッテマス……君?』

「……今日、帰りに、僕の家に来て下さい」


 そう告げて、彼は学校を早退し、呆然とする彼を放置して帰宅しました。

 帰宅途中に、犬の首輪と、鎖を買って。



ぴん、ぽん。
がちゃり。

136 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:52:13.59 ID:CcPdhQurO

「ああビロード、上がってください……誰も居ませんが」

『は、い……なんです』

「そこに座っていて下さい、飲み物でも持ってきます」

『い、いいんですっ……それより、あの、その……聞かせて、ほしいんです……』

「何をですか? 僕が冷たく当たった理由をですか?」

『それも、だけど……その…………』

「じゃあ、ビロード……ここに居てくれませんか?」

『? 良いですよ?』

「ずっと、居てくれませんか?」

『……ぇ、?』

「ここに、ずっと、ずっと、」

『ワカッテマス……君?』

「僕の、側、に」

『ぁ…………あは、分かり、ました……側に、居ます』


137 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:55:12.20 ID:CcPdhQurO

「良いんですか?」

『はい、なんです……それが、ワカッテマス君の……返事、なら……』


 かちゃり、はめられた首輪から、ベッドに繋がる長い鎖。


「僕以外、何も見ないで下さい」

『はいなんです』


 数日が経った、彼らは何故か幸せそうだった。


「何も、考えないで下さい」

『はいなんです』


 数週間が経った、彼らは変わらず幸せそうだった。


139 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:58:04.60 ID:CcPdhQurO

「何も、言わないで下さい」

 こくり。


 数ヵ月が経った、親友の食欲が急激に減った。


「僕は、君が好きです」

 こくり。


 半年が経った、親友はいつの間にか彼を想うようになっていた。


「君は、僕が嫌いですか?」
 ふるふる。


 更に数ヵ月が経った、親友は痩せ細り、歩くこともままならなくなった。


142 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 22:58:55.93 ID:CcPdhQurO

「ビロード、僕を愛してくれますか?」

 こく、り。


 一年が過ぎた、彼らは盲目的な愛を覚えた。


「ビロード、僕は君を愛しています」




 更に数ヵ月が経った、親友は動かなくなった。

 更に数ヵ月が経った、彼はいつまでも親友に寄り添って眠っていた。

 更に数ヵ月が経った、生きているのか死んでいるのかも分からなくなった。

 更に数ヵ月が経った、それでも彼は幸せだった。

 更に数ヵ月が経った、外が騒がしくなった、それでも彼は親友に寄り添って眠った。


145 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:02:02.01 ID:CcPdhQurO



( <●><●>)「これで、話は終わりなんです」

( ^ω^)「どうして、そんな、」

( <●><●>)「お互いに初めての友達でした、友達と言う区切りが何処までなのか、僕には分かりませんでした。
       どれだけの事を友達に求めて良いのか、分かりませんでした……それは、お互いが、でした」

( ^ω^)「だから……」

( <●><●>)「だから、彼を縛りました、僕だけの友達であってほしくて。
       お互いに傷があって、お互いが初めてで、何も分からなくて……友情も愛情も、分からなくなったんです。
       もう、お互いがお互いを盲目的に愛するようになって、それでも、……」

( ^ω^)「……」

( <●><●>)「良い事だとは思いませんでした……寧ろ、悪い事だと思いました。
       それでも……僕は、ビロードを愛してしまったんです……何度も、何度も……ビロードは、僕に縛られる事が、好きだって……」

( ^ω^)「ワカッテマス……」

( <●><●>)「……すみません、こんな話を長々と」

( ^ω^)「ううん、有り難うだお……話を聞かせてくれて……それじゃあ、失礼するお」

( <●><●>)「はい、内藤さん…………僕らは─────」


146 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:06:08.86 ID:CcPdhQurO



無知だったんですね。



 ぱたん、と扉を閉めた僕は、ドアにもたれ掛かって天井を仰ぎました。


 無知の愛とは、こんなにも恐ろしくて、まっすぐで、それは恋ではないと言うのに。

 それでも、幸せそうで。


 良く分からない、羨ましいような、恐ろしい様な感情を仕舞い込むように、僕は瞼を閉ざしました。




『よっつのかせで。』
おしまい。

148 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:09:24.44 ID:CcPdhQurO



 それは、幼い彼女を愛した男の話。

 それは、男を愛した幼い彼女の話。

 それは、ひどく離れた二人の歳の話。

 いったい彼は幼い彼女にとの間に何を求めるのでしょうか。



『いつつでたりず。』



 始まりは、五つの笑顔。



150 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:12:35.83 ID:CcPdhQurO

 僕は目を開き、首の向きを戻して前を見ました。

 ただただ広い白の空間は、彼らの無知を思わせます。


 背中にぞくりとした冷たい何かを感じて、少しだけ移動し、5と書かれた扉を開けました。


 扉の向こうには、幼い女の子を抱いて部屋を彷徨く男の姿。

 僕は友人である彼に声をかけながら、部屋に入って扉を閉めました。



152 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:15:22.50 ID:CcPdhQurO

( ^ω^)「失礼しますお」

(,,゚Д゚)「ん? おう、内藤じゃねぇか」

( ^ω^)「久しぶりですおーギコさん」

(,,゚Д゚)「敬語とさん付け止めろっつったじゃねぇか、変わんねぇなお前は」

(;^ω^)「お、す、すみませんお」

(,,゚Д゚)「ほら座れよ、俺は立ったままだけど気にすんな」

( ^ω^)「はいですお」

(,,゚Д゚)「しぃがぐずってな、ほらしぃ、泣くなよ」

(*;−;)『うー……』

(,,゚Д゚)「全く、すぐ泣くなぁしぃは」

( ^ω^)「ギコさん」

(,,゚Д゚)「あー?」

( ^ω^)「ええと……もしよろしければ、聞かせて貰えません、かお?」

(,,゚Д゚)「あん?」


154 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:18:37.01 ID:CcPdhQurO

( ^ω^)「何で、あんな事をしたのか……ですお」

(,,゚Д゚)「……何でこんな事をしているか、か?」

( ^ω^)「……はい、ですお」

(,,゚Д゚)「…………分かった、このままで良いなら、話す」

( ^ω^)「ありがとう、ございますお」

(,,゚Д゚)「非人道的だとか、異常だとか、思って構わねぇからな」

( ^ω^)「思いませんお、そんな事」

(,,゚Д゚)「そ、か……有り難うよ、内藤」


 彼は幼い彼女を抱いて、立ったまま少しだけ笑いました。
 どこか自嘲的なその笑顔は何だか悲しくて、僕は、思わず目を背けます。

 幼い彼女の背中をとんとんと叩きながら、彼は何から言うべきか悩んでいる様でした。



 始まりは、五つの彼女の笑顔だった。



159 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:21:24.58 ID:CcPdhQurO

 それは、彼の兄夫婦の娘が生まれた時の事。
 まだ少し若かった彼は、共働きで忙しい兄夫婦に娘を預けられる事が少なくありませんでした。

 最初は大変だったおしめの交換も、ミルクの作り方も、あやし方も抱き方も、兄より上手くなるのにそう時間はかかりませんでした。
 生まれた時から知るその娘を妹の様に可愛がる彼の姿は、兄夫婦から見てとても微笑ましく、とても安心感のある姿でした。

 初めて寝返りをうったのも、はいはいをしたのも、立ったのも、歩いたのも、喋ったのも、全て彼が見てしまいましたが。
 それでも、その全てを見事にビデオに納めた彼は、親では無いのに親バカだったのでしょう。


(,,゚Д゚)「生まれたばっかのしぃは可愛くってな、俺の指を握って寝たりして、本当の妹みたいだった」


 娘が歩いて喋るようになってから、彼に手を引かれて出掛けたり、家の中でおままごとなどをして遊ぶ様になりました。

 自分を妻、彼を夫として振る舞わせるおままごとはひどく気に入ったのか、頻繁に、彼に遊ぼう遊ぼうと誘いました。


『ギコおじちゃん、おままごとしよう?』

「おじ……お兄ちゃんな、お兄ちゃん」

『ギコおにいちゃん、あそぼー』

「おう、おままごとだな」


162 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:26:00.59 ID:CcPdhQurO
『うんっ、ギコおにいちゃんはだんなさまね?』

「はいよ、しぃは嫁さんか?」

『えへへ、ギコおにいちゃんのおよめさーん』

「可愛い嫁貰ったなぁおい俺」


 娘は彼によくなつき、遊び、勉強をし、めきめきと賢くなって行きました。
 彼が遊びを交えて文字や数字を教え、簡単な足し算等を教えてみせれば、娘は一つ二つ上の年齢の子供が習う様な事を覚えて見せました。

 それには兄夫婦も驚き、喜ぶ反面、少し寂しそうでもあります。

 本来、両親が見て、聞いて、感じて、教える筈の事。
 それらを全て奪っている事に気付いた彼は、娘に何かを教える事を止めました。


(,,゚Д゚)「しぃは俺や兄貴達が思っていたよりもずっと頭が良くて、何でも吸収しちまうんだ。
     俺が冗談で教えた文字も、数字も、アルファベットまでも覚えちまった。
     しぃが賢くなればなるほど嬉しかった、でも、申し訳なかった」


 四つになった娘は歳のわりにひどく落ち着いていて、余り子供らしいとは言えませんでした。
 勿論子供らしく遊び、笑い、泣くのですが、どこか大人びた顔をする時があり、思考も早熟と言えるほど冷静でした。

163 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:29:36.97 ID:CcPdhQurO

 兄夫婦が喧嘩をすれば、自然に間に割って入って仲裁し。

 娘に聞かせづらい話をしたそうであれば、察して部屋を出て行く。

 包丁こそ握らないけれど、進んで台所に立ち、手伝う。

 部屋を散らかす事無く、読んだ本や遊んだ玩具は全て元の位置に戻す。


 言葉も多少は辿々しくはありましたが、程無くしてしっかりとした言葉遣いになりました。
 そんな四歳児とは思えない娘の姿に、兄夫婦は少しだけ、不安になります。


(,,゚Д゚)「しぃは普通の子なんだろうか、って……妙な不安があったんだ。みんなに。
     俺は少し後悔した、冗談半分でいろんな事、教えるんじゃなかったって。
     ……怖くなったよ、しぃの異常な成長速度が……」


 全員が抱いた漠然とした不安を知ってか知らずか、娘の成長は衰える事はありませんでした。

 悪戯をする事も無く、自分の事を自分で殆んど出来るようになり。
 娘はすくすくと、元気に、妙なくらいに賢く育つばかり。


164 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:32:24.26 ID:CcPdhQurO

 そしてある日、娘が言いました。


『ギコおにいちゃん』

「何だ? しぃ」

『わたしが、きもちわるい?』

「何、を」

『わたしがなにかすれば、いえば、おとうさんもおかあさんも、ギコおにいちゃんも、こまったかおをするよ』

「あ、……しぃ、」

『わたしは、そんなに、へんなのかな』

「そんな、事、」

『そんなに、きもちわるいのかな』

「違う、違う、しぃ」

『……わたしは……おかしいの、かな……』

「し、ぃ」


168 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:35:03.57 ID:CcPdhQurO

(,,゚Д゚)「はっきり、そんな事ねぇって言ってやれなくて、悔しかった。
     俺は、何でしぃを傷付けてんだって、腹が立った」


 娘に言われた事を兄夫婦に言うかどうするか二晩悩み、彼は打ち明ける事にしました。


(,,゚Д゚)「その事を兄貴達に言って、余計な事してきた事を謝ったんだ。
     兄貴達は泣いて、俺は悪くない、悪いのはろくに構わなかった自分達だって泣いて、謝って。
     余計に、悔しくなった」


 兄夫婦は娘を腫れ物の様に扱う事を止め、普通の子供と同じ扱う様になりました。
 彼もまた、構いすぎず、けれど突き放す訳でもなく、叔父としての立場を崩さない様になりました。

 それ以来、娘はああいった大人びた発言をする事は無くなり、子供らしく振る舞うようになったのです。


(,,゚Д゚)「普通の筈だった、ワガママ言ったり誰かを困らせるのが普通の筈だった。
     なのに、違和感を感じるんだ……無理に子供っぽくしてるみてぇでさ……何か、悲しくてよ」


170 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:38:15.74 ID:CcPdhQurO

 そして、娘は五つの誕生日を迎えました。
 相変わらず、子供らしく振る舞ったまま。


『ねぇギコおにいちゃん、いっしょにおふろいこー?』

「え゙、あ、や、あ、うん、まあ」

『……いや?』

「や、ぁ、嫌じゃねぇよ、うん、パパやママとじゃなくて良いのか? 本来はパパやママと入るもんだぞ?」

『おとうさんとはおとといはいったし、おかあさんとはきのうはいったもん』

「あ、そ、そうか……じゃあパパとママに俺と入るって言ってきな?」

『はーいっ』


 ぱたぱたぱた、軽く駆けて行く白いワンピース。
 小さな背中は、間違いなく幼い、幼女と言える歳の物。


『いってきたよー』

「おう、はえーなおい。パパとママは何か言ってたか?か」


173 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:41:17.90 ID:CcPdhQurO

『えっとね、かたまでつかりなさいって』

「うんうん」

『あとね、のぼせないようにしなさいって』

「うんうん」

『でね、おとうさんが「しぃに手ぇ出したらブチ殺すって言っといてねー」って』

「出すかァッ!!」

『あははっ、ねぇギコおにいちゃん、おふろいこっ』

「お、おう!」


 彼の手を引いて脱衣所に走る娘、引っ張られながらよたよたと小走りをする彼。

 その姿は、ひどく微笑ましい物でした。


177 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:44:03.59 ID:CcPdhQurO

 脱衣所で先に服を脱ぎ、風呂場へと駆け込む娘。
 彼はその後ろ姿を見ながら、肩を竦めて小さく苦笑い。
 彼は少し遅れて服を脱ぎ、腰にタオルを巻いて風呂場へと足を踏み入れました。

 そして、目を見張りました。


(,,゚Д゚)「久し振りに一緒に風呂入って、分かった。
     しぃは、ただ子供っぽく装ってただけなんだって」


 シャワーを浴びる、そのしなりとした腰のラインが。
 濡れた長い髪が張り付く背中が、肩胛骨が、細く頼り無い手足が。

 言い様の無い、色気を放っていました。


(,,゚Д゚)「あいつは五歳児の雰囲気じゃなかった、いや、寧ろ、人間なのかすら分からなくなるくらいで。
     陳腐な言い方だと思うけどよ、こう、人間離れした美しさだったんだ」


 彼が入ってきた事に気付き、視線だけでそちらを見る目付きは、最早幼女の物とは思えませんでした。
 流れるようなその目付きに息が止まった彼を見て、娘はしんなりと笑って手招きをします。


『ギコおにいちゃん、あびないの?』


179 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:47:21.15 ID:CcPdhQurO

 こちらを向いた身体。
 平らな胸に、ふっくらとした丸みのある腹部。
 狭い肩幅、するりとした肩、大した括れの無い腰。
 それらは全て、幼女特有の物。
 なのに、それなのに、娘が醸し出す雰囲気は、明らかに異様で。


(,,゚Д゚)「何て言うんだろうなぁ……小せぇ身体なのに、雰囲気だけ大人の女みてぇでよ。
     不似合いな筈なのに、アンバランスな筈なのに、やたらと相性が良い、みてぇな感じで」


 彼はぎこちなく頷いて、娘を座らせてから自分もシャワーを浴びました。
 ちらりと足元を見れば、彼を見上げる娘と目が合い、慌てて顔を背ける。

 シャワーを浴び終えた彼は、恐る恐る娘の身体を洗い、頭を洗ってから湯船に浸からせました。


『ギコおにいちゃん、せなか、ながそっか?』

「い、や……大丈夫だ、有り難うよ」

『……そっか』


 娘を見ないように、出来るだけ触れないように、何も考えないように、乱暴に自分の身体と頭を洗う彼の心臓は、いやと言うほどに喧しくて。


182 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:50:27.62 ID:CcPdhQurO
 ざぷ、と湯船に浸かった彼は娘から出来るだけ離れる様にと身を縮めていました。
 そんな彼を見た娘が、笑って彼を見上げます。


『ギコおにいちゃん』

「お、おう?」

『わたしね、ギコおにいちゃんのおよめさんになりたい』

「じゃあ、また、おままごとでもするか?」

『そうじゃないの』

「あ、……?」

『そうじゃないの、わたしは、ギコおにいちゃんのおよめさんになりたい』

「…………し、ぃ?」

『わたしが、きらい? こわい? きもちわるい?』

「そんな、事、ねぇよ」

『……じゃあ、どうしてはなれるの? わたしをみないの? めをそらすの?』
「それ、は、その」

『…………わたしは、ギコおにいちゃんがすきだよ』

183 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:53:11.30 ID:CcPdhQurO

 数日後、彼は娘を独り暮らしの家に連れてきました。

 あの、どうしようもない程に艶のある目が、言葉が、雰囲気が。
 彼の脳裏に焼き付いて、離れないのです。

 いやと言う程に脳内で再生される娘の言葉は彼を揺さぶり、理性を、ゆっくり、ゆっくり、へし折る様に。


(,,゚Д゚)「俺はおかしくなったのか、最初っからおかしかったのか分からねぇ。
     でも、しぃに好きだって言われて、確信した」


 彼は、あの娘に一目惚れをしました。
 五つやそこらでも埋まらない歳の差。
 けれど、あの早熟な娘の精神年齢と言う物は、もう、子供と言える歳では無くなりつつあるのかも知れません。


『ギコおにいちゃん、きょうはおとまりだね』

「……ああ、そうだな、しぃ」

『いっしょにおふろにはいろうね、ギコおにいちゃん』

「ああ、…………今日だけでなく、ずっと泊まってけよ、しぃ……?」


186 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:56:12.94 ID:CcPdhQurO

 どこか濁った目をして笑う彼に、娘は微笑みを返しました。
 喜んでいるのか、哀れんでいるのか、その微笑みは、何だかひどく悲しく見えたのです。


「しぃ、そろそろ風呂に入ろうか」

『うんっ、まっててー、いまおもちゃだすからっ』

「平仮名のオモチャか、好きだなぁそれ」

『うん、だいすき』


 ぞくり。

 娘は家から持ってきた、あいうえおの形をしたお湯に浮かぶ玩具を胸に抱いて、狭い脱衣所へと向かいました。
 台所で何かを手にした後、ゆっくりと脱衣所に入った彼は、もう先に入ったらしい娘の姿を思いながら、服を着たまま風呂場へと。

 娘は白い裸体を晒しながら、バスタブに張られた水に平仮名を浮かべ、こちらを向きます。


 また、艶のある笑顔で。


189 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/24(水) 23:59:09.16 ID:CcPdhQurO

「……しぃ」

『ギコおにいちゃん、……わたしのこと、すき、?』

「ああ、愛してるともさ、しぃ」

『…………あはぁ……うれしいな、ギコおにいちゃん』

「でもな、しぃ、しぃ」

『……ギコおにいちゃん』

「俺は、もう、駄目なんだ」

『ん……』

「しぃの身体が大人になるまで、我慢は出来ない」

『うん、』

「けど、しぃを傷付けたくはない」

『うん』

「苦しいの……我慢、出来るか?」

『うん、ギコおにいちゃん』


195 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:02:10.84 ID:CcPdhQurO

 ばしゃん。

 幼い裸体を水に押し込み、顔を上げられないように、首を押さえつけて。


 ぱくぱく。

 水の中で口の開閉を繰り返す娘は、空気を吐き出しながら真っ直ぐに彼を見つめていました。


 こぽん。

 暫くして、一際大きな泡を吐き出した娘は動かなくなりました。


 それでももう暫く水の中に娘を浸け続けてから、ざばりと引き上げました。
 ぐったりとして重くなった娘は、青い顔をしているにも拘わらず、微笑んでいて。

 彼は濡れる事を気にもせず、娘を抱き締めて顔に掛かる髪を払い、優しく優しく、唇を重ねました。
 冷たくて少し固くなった小さな唇が悲しくて、彼はふと水に浮かぶ平仮名を見ました。



そこには、五つのひらがな。


201 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:04:24.84 ID:vLZM/8dRO

『およめさん』


 ゆらゆらと浮かぶその文字を見ると、彼は涙を溢して娘を片手で抱き。

 台所で持ってきた物を、己の腹部に向けて─────




(,,゚Д゚)「俺の話は、これでおしまいだ」

( ^ω^)「どうして、そんな、」

(,,゚Д゚)「しぃを無理矢理犯すなんざ出来なかった、でも、我慢も出来なかった」

( ^ω^)「だから……」

(,,゚Д゚)「だから、沈めた。
     しぃを水に沈めて、俺の腹に包丁の刃を沈めて、これ以上は傷付けないようにしたかった」

( ^ω^)「……」

(,,゚Д゚)「一目惚れなんざ初めてだった、あんな目を見たのは、初めてだった。
     俺は…………ああ、悪ぃ、下らねぇ事ベラベラと」


206 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:06:58.52 ID:vLZM/8dRO

( ^ω^)「いえ……聞かせてくれて、有り難うございましたお」

(,,゚Д゚)「悪いな、こんな話で……いっそ蔑めよな、この変態がってよ」

( ^ω^)「そんな事言いませんお、言えませんお……じゃあ、僕は失礼しますお」

(,,゚Д゚)「ったく、逆につれぇよ……ああ、またな内藤」

( ^ω^)「はいですお」

(,,゚Д゚)「……なあ、内藤……もしかしたら俺は─────」



ある意味、弄ばれてたのかもな。



 彼は己の腹の傷跡を撫でながら、僕に背を向けて言いました。



209 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:08:43.69 ID:vLZM/8dRO


 言葉の途中でぱたん、とドアを閉めた僕は、閉じたドアに額を押し付けて項垂れます。

 彼は、ひどくひどく、純粋だったのかもしれない。

 それでも幸せそうに部屋の中をうろつく彼の姿を思い出して、僕は息を吐いて肩を落としました。




『いつつでたりず。』
おしまい。

213 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:11:38.66 ID:vLZM/8dRO



 それは、獣が愛した彼女の話。

 それは、獣を愛した彼女の話。

 それは、金の目を持つ獣の話。

 その獣を抱く不思議な彼女は、いったい何を求めるのでしょうか。



『むっつのめだま。』



 始まりは、六つの頃に。



222 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:13:34.23 ID:vLZM/8dRO


 僕はそっと顔を上げて扉から離れ、幼い彼女を思い浮かべました。

 ふう、と小さなため息をひっそり。


かちゃ、ぱたん。


 少しの移動、6と書かれたドアを開けて、僕は室内へするりと入り込みました。



224 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:15:18.53 ID:vLZM/8dRO

 部屋に入り、その部屋の主人を探してきょろきょろした僕の目に入ったのは、地べたに足を投げ出して座る少女でした。
 猫らしき大きなぬいぐるみを抱き締める少女は、ちらりと僕を見て、


lw´‐ _‐ノv「ね……ぇ」

( ^ω^)「お? 何だお、シューちゃん?」

lw´‐ _‐ノv「ぁ…………あ、……あーもろーにさーた……わてぃそーろか、がーたなー……」

( ^ω^)「お、?」


 口許をぬいぐるみの頭で隠したまま、少女は僕を見ながら言葉にすらなっていない歌を歌い始めました。
 平仮名の繋がり、よく分からないその歌は細かく上下し、細く高い声音に合わせて震える様に、僕の脳髄へと入り込むみたいに。


lw´‐ _‐ノv「あーもりーいあー……わかーてぃーそろーかー…………がーたーなー……」

( ^ω^)「シュー、ちゃ……」

lw´‐ _‐ノv「あー……たなあてぃーそろー、こーわもーろにーさーた……うぇーえーん」

lw´‐ _‐ノv「えーてぃせーあけーてぃせー……あけーてぃせーあこわーも……ろーにさーたうぉーわーも…………」

lw´‐ _‐ノv「れーてぃせーあ…………こーわーもれーてぃーせ……あーけてぃーせあーかあー……」


226 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:18:02.16 ID:vLZM/8dRO

( ^ω^)「シュー……ちゃん、」

lw´‐ _‐ノv「……ようこそ、ブーン」

( ^ω^)「お邪魔、しますお……」

lw´‐ _‐ノv「あい、」


 彼女は地べたに座ったまま椅子を指差して、僕に座る様に促しました。
 かたん、と椅子に座った僕は彼女を見下ろして目を細めます。

 茶と黄を混ぜた様な色のぬいぐるみは継ぎ接ぎで、大きな縫い跡が幾つもあります。
 目らしい金色のボタンは左側がこぼれ落ちて糸にぶら下がり、右手がほつれてぶら下がっているぬいぐるみのあちらこちらにボタンが縫い付けられています。

 愛らしいとは決して言えない、大きな口のぬいぐるみ。
 それをいとおしそうに抱く彼女は、僕をちらりと見上げました。


lw´‐ _‐ノv「ご用、は?」


228 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:20:30.18 ID:vLZM/8dRO

( ^ω^)「お……お話を聞かせて貰いたくて来たんだお」


 僕の従妹であり友人である少女は、ぎちりとぬいぐるみを強く抱き締めて俯き、右目をぬいぐるみの影から覗かせて、頷きました。


( ^ω^)「何で、あんな事をしたのか」

lw´‐ _‐ノv「どうして……こんな事、するのか」

( ^ω^)「聞かせて、貰えるかお?」

lw´‐ _‐ノv「……うん、良いよ……」

( ^ω^)「有り難うだお、シューちゃん」

lw´‐ _‐ノv「悪い子だって、思われても、しょうがない」

( ^ω^)「思わないお、そんな事」

lw´‐ _‐ノv「……ふ、うふ、ふふ……そぉ、……そぉなの…………」



 始まりは、彼がやって来た六つの時。



231 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:22:21.10 ID:vLZM/8dRO

 彼女は昔から少し変わっていて、動物と少し意思の疎通が出来る事がありました。
 何を思っているのか、何をしたいのか、何を言いたいのか。
 それらが少しだけ分かる、子供特有の第六感に似たものを持っていた彼女。

 それでも何を考えているのか、全てが分かる訳ではありません。
 会話が出来る訳でも無いので、ちゃんとした意思の疎通が出来ませんでした。

 ただ、何を食べたいか、何が嫌か、何を伝えたいか。
 それらが少しだけ分かる、それだけ。


 けれどある日、父親が彼女の元に一匹の猫を連れて帰ってみせれば、彼女はある事でひどく驚きました。


lw´‐ _‐ノv「あの子は……賢くって、他の猫や犬よりも賢くって、私の言う事も……ちゃんと理解した……」


 茶色の様な黄色の様な、光の加減で金色にも見える変わった毛色の猫。
 両目を上下から挟む様に、縦の黒いラインが入った猫。
 緑がかった金色の目を爛々とさせて、その猫は彼女の膝に乗りました。

 彼女が慣れた手付きで猫の顎を撫でてやれば、猫はぐるぐる喉を鳴らします。


233 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:24:10.65 ID:vLZM/8dRO

『おい、娘』

「……ぇ」

『ほう、我輩の言う事が分かるか、妙な人間め』

「あなた、が……みょう」

『失敬な小娘である……まあ良い、今日から貴様が我輩の主人と言う事なのだな』

「う、ん」

『ふん、精々我輩の主人として恥じん様に振る舞う事だ』


 子猫と言うほど小さくは無かった猫は、彼女と初めて会話が出来た猫でした。
 今まで猫の言葉が分かると言うほどでも無かった彼女は、目を真ん丸にしてその金の猫を見つめます。

 尻尾でぱたん、と彼女の膝を叩いた猫は複雑そうな顔で、再び彼女に話しかけました。


235 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:26:45.35 ID:vLZM/8dRO

『おい、小娘』

「シュー……」

『……シュー、我輩の名前を決めんか』

「お名、前……」

『……』

「ロマネスク、」

『ほう、悪くは無い』

「杉浦、ロマネスク」

『その杉浦はどこから来た……』


 どこか呆れた顔の猫は、にゃあんと鳴いて彼女の頬を嘗めました。


lw´‐ _‐ノv「ロマは……自分が、他の猫より賢いの……気付いて、なかった……。
       金色で、きらきらで、柔らかくて、暖かい……私はロマ以外の猫と、お話しできなかったけど…………ロマとだけは、何でか、お話しできた……」


237 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:28:19.65 ID:vLZM/8dRO

 外交的とは言えない性格の彼女に友達は少なく、たまに来る従兄と遊ぶ程度。
 そんな彼女の元にやって来た、彼女と話せる猫。

 彼女はいつでも側に居てくれる猫が大好きになり、猫もまた、少し変わった主人をいつの間にか好きになっていました。


「ロマ……」

『何だ、シュー』

「お腹……ふかふかぁ」

『止めんか! 撫でん、こら、あ、うぉわわわ』

「……うふふ」

『この、小、娘め……!』


 最初こそツンツンしていた猫は少しずつ、自分をよく構う彼女に警戒心を解く様になり、いつの間にやら腹を向けて眠るようにまでなりました。
 その白く柔らかい腹部をふさふさと撫でる彼女は、以前に比べれば数段明るくなりました。


 猫が彼女の側に寄り添う様になってから、あっという間に時は流れて行きます。


238 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:31:14.25 ID:vLZM/8dRO
 お気に入りのクッションの上で丸くなる猫。
 その背中を撫でて頬擦りをする彼女。

 尻尾を彼女の手首に巻き付けて喉を鳴らす猫を抱き上げ。
 ちょん、と口付け。


『何をするのだ、貴様は』

「……可愛い、ロマ」

『……』

「照れ屋さん……ふふっ」

『このバカ娘めが』

「それでも、嫌がらない……」

『うっさい』

「ロマ、可愛いロマ」

『何だ……』

「……うふふ、ふふ」

『変な主人を持った物である……』

240 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:33:11.75 ID:vLZM/8dRO

 彼女は彼女と同じくらいの大きさをした、猫によく似たぬいぐるみを母に作って貰い、よく猫とぬいぐるみを一緒に抱き締めて眠っていました。
 猫は一緒に眠る事を嫌がりましたが、何度も彼女が寝ている猫をベッドに引きずり込んでいれば、渋々一緒に眠る様になりました。

 一人と一匹は、まるで人間同士の様に仲良し。


lw´‐ _‐ノv「言葉はきついのに、優しくて……寝る時も、ご飯の時も、お風呂の時も、遊ぶ時も……ずうっと……一緒」


 けれど猫がやって来て数年が経ったある夏の日

 猫が居なくなりました。


 彼女は猫が好きな玩具を揺らしたり鳴らしたりしながら、ゴミ箱の中やベッドの下、本棚の上、物置の中、家中を探し回りました。
 今まで黙って居なくなる様な事はありませんでした、なのに突然居なくなって、少女は混乱して涙声で猫の名前をを呼びながら家の中を走り回ります。


「ロマぁっ、ロマぁああっ! どこ……っ、ロマぁっ!!」


 熱帯夜、彼女は家を飛び出して泣き叫ぶ様に猫を呼び、町の至るところを探しました。
 それでも見つからない猫に、ワンピースを翻して走り、猫を呼び続ける彼女。


 そして見るに見かねた父親に連れて帰られた彼女は、翌日、ある事件を知ります。
 ここ数日、何匹もの猫が惨殺されている事を。


244 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:35:27.23 ID:vLZM/8dRO

 地元のニュースでそれを知った彼女は、背負いかけていたランドセルを投げ捨てて、靴も履かずに外へと。

 毎日、毎日、昼夜問わず一日中、暑い中を走り続けて、猫を叫び続けて。
 喉がかれても、裸足の爪先から血が出ても、彼女は猫を探す事を止めませんでした。


 けれどそんな日々が一週間以上過ぎたある日、空き地の片隅に落ちていたビニール袋。

 何となくそれを蹴飛ばした彼女が目にした物は、猫の、顔。


lw´‐ _‐ノv「ロマは……小さい袋に詰め込まれて……苦しそうにしてて…………だから、出してあげた、の」


 ぶわり、溢れる腐敗臭。
 そっと袋から猫を地面に出してやり、震える両手で抱き上げると


 ぼとり。

 ぐずぐずの猫の右前足が、千切れて落ちました。


248 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:37:53.00 ID:vLZM/8dRO

 金色だった目はひどくくすみ、左目は潰れ、ウジがぼたりと。
 何とか残っていた右目は、必死で彼女を見ようとする様に原型を保っています。

 彼女はわいたウジをぷちりぷちりと潰して、みんな綺麗に居なくなった頃、ぐちゃりとした猫を抱いて帰宅しました。


lw´‐ _‐ノv「お家には誰も居なかったから……ロマを綺麗にして、新しい袋に入れて……リボンをつけて、大事に……大事に…………」


 やっと猫を見つけた彼女は、複雑な気持ちでした。

 猫は戻ってきた、なのに、目が、足が、声が、無い。


lw´‐ _‐ノv「ロマが居ない……居なくなった……? ううん、居る……でも足りない、ロマが欠落した…………。
       そうだ、ロマを探そう……ロマと同じ…………金色の、猫……」


 鞄にビニールの袋を忍ばせて町を歩く彼女が目で追う物は、猫に似た毛色の猫。

 あの日以来喋らなくなってしまった猫。
 きっと欠落したから喋らない。
 ならば欠落した部分に合う物を探して、渡そう。

 そうすれば、猫はきっと喋ってくれる。
 また、呆れたみたいに、笑って。


249 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:40:07.16 ID:vLZM/8dRO

 似た毛色、似た目の色、似た声音の猫を見つければ、彼女は巧みに呼び寄せます。
 そして少し気を許したその瞬間、声も上げられない位に強く、首を絞めました。

 抵抗する猫の爪で手や頬が傷だらけになっても気にする事は無く、彼女はぷちりと片目を潰したその死骸を部屋へと持ち帰りました。

 腐敗の進んだ猫の死骸と新しい猫の死骸、針と糸で繋ぎ合わせて、袋へと。


 それでも、猫は喋らない。


lw´‐ _‐ノv「まだ足りない…………だから、ロマを探したよ……ロマを思い出させる猫を…………探して……持ってかえって、ロマにあげた……」


 猫の首を絞めていると、時々人に見つかりかけました。
 それでも何とか猫を持って帰る彼女の手は目も当てられない程にずたぼろで。

 足りない前足と、足りない目玉。
 新しい死骸は前足が一本しか無く、目も片方が潰れています。

 両方あっては邪魔になる、足りないのは右足と左目。


251 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:42:08.71 ID:vLZM/8dRO


『シュー』

「ロ、マ……?」

『何だ、シュー』

「ぁ、あ……ロマ……っ」

『泣くな、泣くなよシュー』

「ロマ……ロマ、私の、ロマ……」

『シュー、』

「ロマと、お話……嬉しい、な……」

『……シュー』

「ロマ、……ロマぁ…………」



 猫はもう、喋らないのに。


254 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:44:15.84 ID:vLZM/8dRO

 くちゃくちゃに繋ぎ合わされた猫に話し掛ける彼女は、ほんのりとだけ笑って、猫に口付けます。

 濁って落ち窪んだ猫の右目はもうどろどろで、それでも、何かを訴える様に、彼女を見つめています。



我輩はもう死んでるんだよ、シュー



 伝えたいのに伝えられない猫の言葉に気付く事は無く、気付きたく無くて。

 彼女はただ幸せそうに、継ぎ接ぎの猫を抱き締めました。


256 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:46:18.92 ID:vLZM/8dRO

lw´‐ _‐ノv「おし、まい……」

( ^ω^)「どうして、そんな、」

lw´‐ _‐ノv「それを……あなたが、聞く、の?」

( ^ω^)「ぇ、あ、」

lw´‐ _‐ノv「…………ロマは、私を、愛してくれた……私も、ロマを愛してた…………それ、だけ」

( ^ω^)「だから……」

lw´‐ _‐ノv「……だから、猫の身体を集めたの…………ロマが欠落してるのは、嫌だった、から……。
       悪い子、でしょ…………ねぇ、悪い、人」

( ^ω^)「お……」

lw´‐ _‐ノv「…………」


 彼女は虚ろな目で僕を見上げながら立ち上がり、ぬいぐるみに回していた腕を、するりと下げて。


258 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:48:41.07 ID:vLZM/8dRO

「あーもろーにさーた、わてぃそーろか、がーたなー」

 彼女が一歩、こちらへ。

「あーもりーいあー、わかーてぃーそろーかー、がーたーなー」

 じとりとした眼差しで。

「あーたなあてぃーそろー、こーわもーろにーさーたうぇーえーん」

 僕を、見上げて。

「えーてぃせーあけーてぃせー、あけーてぃせーあこわーも、ろーにさーたうぉーわーも」

 ぬいぐるみで口許を隠しながら。

「れーてぃせーあ、こーわーもれーてぃーせ、あーけてぃーせあーかあー……ねぇ─────」


 入ってきた時よりもしっかりとした声音で歌う彼女が、六つの金色のボタンが縫い付けられた大きなぬいぐるみ
 その腹部につけられたジッパーを、下ろして。


 どちゃり。


「ぁ……あああああっ! ああああああああっ!!」

260 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:50:49.99 ID:vLZM/8dRO

 こちらに向かって歩いてきていた彼女から離れたくて、何かを見たくなくて。
 僕は椅子から立ち上がり、慌てて部屋から飛び出して行きました。

 最後にぽつりとだけ聞こえた彼女の囁きが、僕の耳にこびりついて、離れない。

 力一杯に閉めたドアにすがる様に崩れ落ちて、嗚咽を堪える事も出来ずに、泣いて。



一人は嫌だったのに



 ああ、あああああ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 僕は譫言の様に呟いて、泣き続けました。


 君の猫を殺したのは僕なんだ。




『むっつのめだま。』
おしまい。

265 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:52:36.53 ID:vLZM/8dRO



 それは、とある恋人の話。

 それは、死んだ恋人の話。

 それは、その恋人の話。

 彼女は死んだ恋人の頭を抱き締めて、何を求めるのでしょうか。



『ななつばらばら。』



 始まりは、七つの鍵。



268 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:54:53.17 ID:vLZM/8dRO

 ぜえ、ぜえ。
 息を荒くして、しゃくりあげながら僕は立ち上がり、袖を涙でぐちゃぐちゃにしながら次の扉の前へと。

 けほ、と一つ咳をして鼻水をすすってから、そのドアを開けました。


川 ゚ -゚)「む、内藤か」

( ;ω;)「ひざ、じ、ぶり……だお……」

川;゚ -゚)「どうした内藤、何故泣いている?」

( ;ω;)「ぁ、……あっ……僕、が……悪……っ」

川;゚ -゚)「先ずは泣き止め、ほら椅子に座れ」

( ;ω;)「ぁあ……ああああ…………」

川;゚ -゚)「落ち着け内藤、ただ泣かれていては私だって困るんだぞ」

( ;ω;)「ごめ、ざ……ごめん、なざ、ぃ…………」

川;゚ -゚)「ああもう、今のは私が悪かった、だから泣くな内藤」


270 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:56:11.55 ID:vLZM/8dRO

 幼馴染みであり、友人であり、親友の恋人でもある彼女に背中を擦って貰いながら、僕は必死に込み上げる涙を止めようとしていました。

 たっぷりの時間をかけて止まった涙の所為で彼女は少し疲れたらしく、ベッドに腰かけて僕を覗き込んでいます。

 ぐじ、と涙を拭ってから数回咳をして、彼女に笑いかけました。


( ^ω^)「ごめんだお、もう大丈夫だお」

川 ゚ -゚)「ああ泣き止んだか、いきなり入ってきて泣かれたから驚いた」

(;^ω^)「ご、ごめんなさいお……遅くなったけど、お邪魔しますお」

川 ゚ -゚)「ようこそ、何もない部屋だがな。で、何の用だ?」

( ^ω^)「お……」

川 ゚ -゚)「ただ遊びに来たと言う訳じゃ無いんだろう、ここにドクオそのものは居ないぞ」

( ^ω^)「お、ドクオは、」

川 ゚ -゚)「私が食った、お前を知ってるだろう」


273 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 00:58:18.98 ID:vLZM/8dRO

( ^ω^)「……知ってるお、その事をちゃんと聞きたくて、来たんだお」

川 ゚ -゚)「なるほどな、お前はドクオの親友だった……とは言っても隠す事も無いし言い忘れた事も大して無い、お前が知る事ばかりだ」

( ^ω^)「それでも……聞かせて、もらえるかお?」

川 ゚ -゚)「ああ、分かった。道徳的にも人道的にも最低な行為だと分かっているんだがな、」

( ^ω^)「笑いも罵りも蔑みもしないお」

川 ゚ -゚)「当たり前だ猫殺し、お前に言われる筋合いは無い」

( ;ω;)「お……っ」

川;゚ -゚)「おい、その事で泣いてたのか? ああ悪かった悪かった、もう言わないから泣くなよ」

( ぅω;)「ごめんお……気にしないで欲しいお……」

川;゚ -゚)「気にするのが普通だ馬鹿め、ええい、もう話を始めるぞ」

( ぅω;)「お願いするお……クーとなら、僕も緊張せずに話せるお……」

川;゚ -゚)「ああそうかい。ええとだな、アレはドクオが引きこもってた中学時代か」


276 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:01:14.07 ID:vLZM/8dRO

( ^ω^)「ぐずっ……クーがドクオと付き合うようになった理由かお?」

川 ゚ -゚)「お、泣き止んだな。
     そうだ、誰も信じられないんだーとか言って部屋に七つも鍵をかけて引きこもっていた典型的な中二病だったあの頃だ」

(;^ω^)「その通りだけど何かひでぇお……確かそこに、クーがドアぶち破って入ったんだったかお?」

川 ゚ -゚)「事実だ。ああ、自慰中だったから泣いていたが気にせずにぶん殴ったがな」

(;^ω^)「小さい時から変わんないおね……そう言う傍若無人なとこ……」

川 ゚ -゚)「お前のにやけ面もドクオのマイナス思考も小さい頃から変わらんが」

(;^ω^)「地顔に文句言うなお……」

川 ゚ -゚)「小さい頃から何でこいつらと遊んでたんだろうな、私は。でだ、」

( ^ω^)「ひでぇ言葉が聞こえた気がするお……」

川 ゚ -゚)「でだ、」

( ^ω^)「はい」


280 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:03:26.97 ID:vLZM/8dRO

川 ゚ -゚)「何か知らんがドクオが好きだったんだ、私は」

( ^ω^)「はい」

川 ゚ -゚)「まあ顔は程ほどだったしマイナス思考もあいまって『私が何とかしなきゃっ☆』って思ったんだろうな、スイーツ(笑)」

( ^ω^)「自分で言うなお自分で」

川 ゚ -゚)「まあ好きだったからかは知らんが、ドクオ社会適合者計画を一人で立ち上げた私はドクオに決死の告白をした」

( ^ω^)「『私と付き合え愚図め』が告白かお」

川 ゚ -゚)「何で知ってる」

( ^ω^)「ドクオに聞いたお」

川 ゚ -゚)「これは酷い、下半身裸だった癖にあいつめ」

( ^ω^)「それはクーの入ったタイミングが悪かったんだお」

川 ゚ -゚)「取り敢えず二次元から三次元の私に意識を向かせようと服を脱ごうとしたら泣きながら土下座しだしたんだけど」

( ^ω^)「お前は何をしてるんだお」


282 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:05:47.77 ID:vLZM/8dRO

川 ゚ -゚)「いや、セクシービーム出るかと思って。
     ま、何はともあれ私はあの童貞と付き合う事になった」

( ^ω^)「押しきる形で?」

川 ゚ -゚)「ああそうだよ煩いわ白豚」

( ^ω^)「ひっでぇ。で?」

川 ゚ -゚)「で、まあ普通のアベックらしい事をしたくて街に連れていって服を買ったりしてな」

( ^ω^)「涙目のドクオが安易に想像できるお」

川 ゚ -゚)「その通り涙目だったよ煩いなもう。
     でー……ああ、だらだら付き合ってたら中学卒業してたな」

( ^ω^)「そういや高校生になった時、僕にも彼女ができたお」

川 ゚ -゚)「黙れ振られた癖に。高校に入って暫くした頃に、私の処女をドクオに捧げたな」

( ;ω;)

川 ゚ -゚)「この童貞め。
     お互い初めてだからまあ下手くそ下手くそ、キスしたら歯が当たって悶絶する始末」


285 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:07:28.16 ID:vLZM/8dRO

( ;ω;)「ドクオがリア充に……」

川 ゚ -゚)「ひがむな童貞。
     ま、何だかんだでドクオも私を好きになってくれたみたいでな、高校生活の間に夜の営みも多少は上手くなった」

( ^ω^)「夜の営み言うなお」

川 ゚ -゚)「セクロ「シャラップ!」(^ω^#)

川 ゚ -゚)「煩い男だ……んで高校を卒業した私達は同じ大学に行こうと思ったんだがな」

( ^ω^)「……ドクオ、大学落ちちゃったんだお……」

川 ゚ -゚)「ああ……その事で凹んで凹んで、私に会わせる顔が無いとか言ってまた引きこもる様になりくさってな」

( ^ω^)「僕も何とか元気になるように、立ち直れるように何度も会いに行ったお……」

川 ゚ -゚)「それでも、会わなかっただろう」

( ´ω`)

川 ゚ -゚)「私とは会ったがな」

( ´ω`)「うわ自慢気だお……」

川 ゚ -゚)「フッフーン」


287 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:10:09.57 ID:vLZM/8dRO

川 ゚ -゚)「まあお前らがどんなに頑張っても会えなかったドクオに会って?
     ぶん殴って話してヤッて立ち直らせたりしましたけど? みたいな?」

( ´ω`)「うわあ良い話の筈なのに妙にうっぜぇお……」

川 ゚ -゚)「ハッハーン」

( ^ω^)「で?」

川 ゚ -゚)「流しやがった。で、まあその頃には私も普通にドクオが好きでな、結構真剣だったよ。
     お前がそんなでも私はお前が好きなんだ、お前も少しでも私が好きなら本気を見せろと」

( ^ω^)「男らしいお……」

川 ゚ -゚)「ドクオがまた泣いてな、もう気持ち悪いくらいに泣いてな。
     私も少し泣いて、あいつ私がドクオを嫌いになったんじゃないかと思ってたらしくて、涙引っ込めてぶん殴った」

( ^ω^)「ドクオ……」

川 ゚ -゚)「大学なんか私からしてみればどうでも良いんだ、大学よりもドクオが大事だった。
     でもな、どうしても大学に行ってたら忙しくなるだろう」

( ^ω^)「なるお、僕も地味に忙しかったお」


290 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:12:19.51 ID:vLZM/8dRO

川 ゚ -゚)「そうしたら、なかなかドクオにも会えなくてな」

( ^ω^)「おー……」

川 ゚ -゚)「そんな時にドクオのマイナス思考が炸裂して、メンヘラ炸裂で。
     あいつ、自殺しやがりました」

( ´ω`)「お……ドク、オ…………」

川 ゚ -゚)「独り暮らし始めてたから、たまには料理でもしに行こうと思ったら、風呂場で冷たくなってるんだ、ドクオ」

( ´ω`)「…………」

川 ゚ -゚)「どんなに話しかけても、殴ってもキスしても起きなくて、悲しくなってな。
     風呂桶に張った水が真っ赤になっていて、ドクオの千切れそうなくらいに深く切られた傷からは、もう血も出なくなってた」

( ;ω;)「……お、ぉ……」

川 ゚ -゚)「ああ悪い、お前はドクオの親友だからな……泣くなよ、内藤」

( ぅω;)「ごめんお、大丈夫だから、続けてくれお……」

川 ゚ -゚)「ああ、分かった。
     部屋に行くのが遅かったんだな、もう死んで一日くらい経ってるみたいだった。冬だった事もあって、身体はかちこちになってて」


292 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:15:06.49 ID:vLZM/8dRO

川 ゚ -゚)「でも、真っ白な顔をしたドクオは綺麗だった。
     私はドクオをマットに寝かせてな、台所から包丁を持ってきた」

( ぅω;)「おー……」

川 ゚ -゚)「綺麗だったから、腐らせたくはなかった。このまま燃やして灰になんかさせてたまるか。
     そんな事をさせるくらいなら、切り刻んで煮込んで食って私の血肉にしてやる」

( ^ω^)「……クー、」

川 ゚ -゚)「大変だった、かちかちになってるし男の身体だ、包丁を温めながらせっせと解体作業」

( ^ω^)「クー、そんなに力は強くないから大変そうだお……」

川 ゚ -゚)「手伝って欲しいくらいだったよ。
     でも何とかばらばらにして、手足と頭、胴体を上半身と下半身にばらばらに。
     内臓を綺麗にして、肉を削いで、頭だけは冷凍庫に仕舞って……寸胴鍋買ってきた」

(;^ω^)「寸胴て……」

川 ゚ -゚)「しょうがないだろ、大きくないと煮込みきれない」

( ^ω^)「少しずつ料理に使えば良かったんじゃないのかお?」


298 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:17:16.69 ID:vLZM/8dRO

川 ゚ -゚)「……」

( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「うっさいhageろ」

( ^ω^)「これはひどい」

川#゚ -゚)「い、一気に煮込みたかったの! 煮込みたかったの!」

( ^ω^)「はいはい、で?」

川#゚ -゚)「じっくりことこと煮込んで食った! 終わり!」

( ^ω^)「キレんなお……」

川#゚ -゚)「黙れ白豚! ドクオアタック!」


川#゚ -゚)ノシ 三( 'A`) )ω゚)ボゴォ!


304 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:19:37.67 ID:vLZM/8dRO


( #)ω^)「ドクオの頭を投げるなお……」

川#゚ -゚)「うっさい馬鹿! うっさい馬鹿! 死ね! hageろ!」

川#゚ -゚)つ'A`)「そうだーhageろhageろー」

( #)ω^)「腹話術すんなお……」

川 ゚ -゚)つ'A`)「まあ何はともあれ」

( ^ω^)「ドクオ置きなさいお」

∩ 'A`)∩
川 ゚ -゚)「でだ」

( ^ω^)「頭に乗せない」

( 'A`)
川 ゚ -゚)「まあ、今もドクオは私の中で生きてるとでも言うのか、結構な、幸せだ」

( ^ω^)「……お」

( 'A`)
川 ゚ -゚)「心残りは煮込んだドクオの骨でダシを取れなかった事か、まあ……もう部屋には戻れないからな」


308 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:21:36.36 ID:vLZM/8dRO

( 'A`)
川 ゚ -゚)「こんな話だったが、少しは楽しめたか? いちいち突っ込みを入れられたが」

( ^ω^)「有り難うだお、こんなに会話をしたのは久し振りだお」

( 'A`)
川 ゚ -゚)「私もさ、楽しかった」

( ^ω^)「クーには、どうしてとか聞かなくても分かるから……少し、気楽だったお」

( 'A`)
川 ゚ -゚)「お前も私もドクオも、幼稚園の頃からずっと一緒だったんだ……今さらどうしてとか、要らないさ」

( ^ω^)「そうだおね、……それじゃあ、僕はそろそろ失礼するお」

( '∀`)
川 ゚ -゚)「ああ、またな白豚、遊びに来いよ」

( ^ω^)「お前時々ドクオが乗り移ってないかお?」

( 'A`)、
川 ゚ -゚)「変な事を言うな、お前は」

( ^ω^)「えええ……」


314 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:24:41.79 ID:vLZM/8dRO

( 'A`)
川 ゚ -゚)「少し話し疲れたな、私は寝る」

( ^ω^)「分かったお、お邪魔しましたおー」

( '∀`)ノシ
川 ゚ -゚)「……内藤、私は─────」


ぱたん。



良い彼女だったのだろうか。



 僕は、とても良い彼女だったと思うよ、クー。




『ななつばらばら。』
おしまい。

319 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:27:01.73 ID:vLZM/8dRO

 みんなから話を聞き終えた僕は、今まで入っていった部屋の前を通りながら、向こう側の壁を目指します。


 七つの部位。

 六つの死骸。

 五つの文字。

 四つの言葉。

 三つの心臓。

 二つの身体。

 一つの傷跡。


 扉の前を通り過ぎ、更に歩き続けると、壁にある一つの扉が見えました。

 数字は、無い。



『むすうのざんげ。』


321 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:29:20.77 ID:vLZM/8dRO

(゚、゚トソン「内藤さん」

( ^ω^)「……お?」

(゚、゚トソン「部屋から出てはいけませんよ、さあ、戻って下さい」

( ^ω^)「お、分かりましたお、御免なさいですお」

(゚、゚トソン「では、お休みなさい、内藤さん」

( ^ω^)「はいですお」


 どこからか現れた白い服を着た女性に促されるまま、僕は0と書かれた部屋へと入って行きます。

 きぃ、ぱたん。


ξ゚听)ξ『お帰りなさい、ブーン』

( ^ω^)「ただいまだお、ツン」


 ベッドに腰かける彼女は、巻き毛を揺らして笑っていました。


325 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:31:52.13 ID:vLZM/8dRO
( ^ω^)「ツン」

ξ゚听)ξ『なあに?』

( ^ω^)「僕の事、嫌いかお?」

ξ゚听)ξ『嫌いじゃないわ、大好きよ』

( ^ω^)「有り難う、だお」

ξ゚听)ξ『ブーンは私の事、嫌い?』

( ^ω^)「大好きだお」

ξ゚听)ξ『ありがとう、ブーン』

( ^ω^)「…………」

ξ゚听)ξ『どうしたの?』

( ^ω^)「何でもない……何でもないお、ツン」

ξ゚听)ξ『そっ、か……』

( ^ω^)「僕は、……僕、は、」



 僕は、彼女を抱き締めて、

327 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:33:16.53 ID:vLZM/8dRO


 少女を監禁し、首を切って殺害した男の傍らには、少女の人形。

 双子の弟の首を絞め、死体をベッドに寝かせて死姦した男の傍らには、弟の人形。

 双子の姉を自殺に追い込み、薬指を切り取って持ち歩いていた女の傍らには、姉の人形。

 親友を監禁して餓死させた男の傍らには、親友の人形。

 幼い少女を誘拐し、風呂場で溺死させた男の傍らには、少女の人形。

 五匹の猫を殺し、その死体をぬいぐるみの中に詰め込んで抱いていた少女の傍らには、猫の人形。

 自殺した恋人の死体をばらばらにして煮込み、食した女の傍らには、男の頭だけの人形。


 そして、恋人を失ったそのショックや怒りや悲しみをぶつける為に数多くの猫を殺した僕の傍らには、恋人の人形。


 本人にしか聞こえない声を聞きながら
 僕らは懺悔する。


329 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/09/25(木) 01:35:02.54 ID:vLZM/8dRO

『ごめんなさい、傷つけられる事を喜んでしまって』
 「ごめんなさい、傷付ける事を喜んでしまって」

「『ごめんなさい、双子の兄弟を愛してしまって』」

『ごめんなさい、誰かに愛される事が耐えられなくて』

『ごめんなさい、拘束される事で愛してしまって』
 「ごめんなさい、拘束する事で愛してしまって」

『ごめんなさい、おとなのひとをあいしてしまって』
 「ごめんなさい、幼い彼女を愛してしまって」

『ごめんなさい、我輩はどこにも居ないのだと伝えられなくて』
 「ごめんなさい、たくさんたくさん殺してしまって」

『ごめんなさい、君を置いて死んでしまって』
 「ごめんなさい、死んだあなたを食べてしまって」


ごめんなさい、こんなに狂ってしまって
ごめんなさい、君達を傷つけてしまって


 僕は病室のベッドに横たわり、目を瞑りました。
 この幸せな夢が、覚めないように。

おわり。

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