1 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:28:31 ID:wZ10/LDc0

 世の中には、科学的に解明できない事や
  警察の介入があっても、解決できない事がある。

 そうなると当然、当人の意思でもどうする事も出来なくて
  医者も薬も、その問題をどうにか出来たりなんてしない。


 もちろんそんな事は滅多に無いと思うけど、
  私はそんな滅多にない問題と、向き合う羽目になってしまった。



【二階に誰かが住んでるようです】



 向き合うしかないこの問題に、私はどう向き合えば良いのだろう。

 解決なんてしない、どうにかなんてできない。

 私には、どうする事もできないことが、こんなにも悔しい。

2 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:29:03 ID:wZ10/LDc0

 蝉がわしゃわしゃとやかましい、暑さはますます厳しくなる日々。

 着替えとお土産と勉強道具を鞄に詰め込んだ私は、ある一軒家の前に立っていた。


 そこは慣れ親しんだ、幼馴染みである親友の家。
 家に遊びに来るのは数年振りだが、勝手知ったるもう一つのホームみたいなもの。

 なのだが、門扉の前から私の足は動かない。


 何だかチャイムを押しにくくて。
 来たよと声をかけにくくて。

 じわじわと照りつける日差しの熱で額や頬を汗に濡らしながら、眉を寄せて二回の窓を睨んでいた。


 いまいましいとすら思える、二階の窓。



 全ては、私たちが大学生になった頃から始まった。

3 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:31:22 ID:wZ10/LDc0

 親友である彼女と私が高校を卒業して、同じ大学に通える事になったのは一年前。

 その時、彼女のお父さんは転勤、お母さんがそれについていってしまった。
 なので彼女は、広い一軒家で独り暮らしを余儀なくされた。


 最初こそは快適だの寂しいだのと言ったりしていたが、数ヵ月経った頃に、彼女は妙な事を言い出した。


川 ゚ -゚)『うちに、誰か居る気がする』


 気味の悪そうな顔で呟くものだから、私は気のせいだと最初は笑っていた。

 きっと独り暮らしに少し疲れてきたんだろうと。

 けれど彼女は、ずっと家の中に何かが居ると繰り返す。

 何ヵ月経っても、まだ居る、と。


 気晴らしに遊びに行ったり、うちに泊まらせたりしていたが、
 それでも彼女は家に帰るのが憂鬱みたいで、やっぱり、何か居る、と。

4 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:32:21 ID:wZ10/LDc0

 どんな風に感じるのかを聞いてみた。
 すると彼女は、眉を寄せて口を開く。


川 ゚ -゚)『無くなるんだ、食材とか、食べ物が』

川 ゚ -゚)『消してた筈の電気がついたり、閉めた筈のドアが開いたり』

川 ゚ -゚)『それに、……二階から、音がする事もある』


 電気は消し忘れもあるだろう。
 ドアや音は、家が軋んだり蝶番が緩む事もあるだろう。

 だけど、食材が減るとはどう言う事だろう。


 独り暮らしを始めてから節約するようになった彼女が、食べたのを忘れたなんて事は無いだろう。
 しかも翌日使おうと思っていた冷蔵庫の中身や、食後に食べる筈のデザートも消えると言う。


 さすがの私も、彼女の憔悴した様子を見ると『気のせいだ』とは笑えなくなった。

5 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:35:50 ID:wZ10/LDc0

 一度警察を呼んだ事もある。

 二階に誰か居ると110をして、警察に家中をしっかり調べてもらった。

 だが二階にも、どこにも彼女以外の人間が居たと言う痕跡は出てこなかった。


 どんなに気を付けても、髪や汗といった痕跡は残ると言う。
 掃除をしたのは少し前だったのか、二階にはうっすらと埃すら積もっていて、乱れた様子もない。

 警察からは苦笑され、美人だからストーカーに悩まされているのか、と
  別の方向で心配までされて、もう要らない恥をかいた上になんの解決もしなかった。

 そう苦々しげに話す彼女の家には、やはりまだ何かが居るらしい。


 心療内科にも通った。
 幻覚やらに効くらしい薬も飲んだ。

 もちろん何も変わりはしないし。
 ただ副作用に苦しんだだけだった。


 もう彼女を見ていられなくて、私はうちにおいでと
  何度も何度も言ったけど、迷惑だからと首を縦には振ってくれなかった。

6 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:36:40 ID:wZ10/LDc0

 しかし次第に彼女の様子は変わっていった。


 いつしか怖がる素振りも見せなくなり。
 気味の悪そうな様子も無くなって。

 かわりに口からこぼれるようになったのは。


川 ゚ -゚)『上のやつマジ許さねぇ……食後に食べようと思ったしろくま食いやがった……』

川 ゚ -゚)『しかもご飯食べたら次炊かないし……麦茶飲んだら次作らないし……』

川 ゚ -゚)『勝手に牛乳とか砂糖すげー減るの!! 意味わかんなくない!?』


 愚痴だ。


 どうやら、慣れたらしい。
 二階に居る何かが冷蔵庫の中を漁ったりするのに慣れたらしい。

 幻覚だ何だと考える事を諦めて。
 二階には何かが居て勝手に物を食べると、受け入れてしまったらしい。

 心のアレ的な何かは良くなったみたいだけど、これはこれですごい心配になった。

7 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:37:24 ID:wZ10/LDc0



 そして今。
 彼女が怪奇現象に悩まされるようになって約一年。

 私は、そんな何かが居る家の前に立っているのだ。

 ただ課題やらレポートやらを一緒にやっつけようってだけ。
 久々に泊まりで、少し遊んだりしてご飯食べて勉強して寝るだけ。


 ただそれだけなのに、チャイムすら押せない。
 この家で怪奇現象が起こると散々聞かされたから正直怖い。

 でも彼女の家をそんな風に言いたくないし出来れば一人にしたくないし。

 ああでもこのまま外に居ちゃお土産のタルトがダメになっちゃう。


川 ゚ -゚)「あ、ツン居た」ガチャ

ξ;゚⊿゚)ξ「ひゃえ!?」

川 ゚ -゚)「やー上から何か音がするからもしかしたらと思ったら、暑かったっしょ、入ってー」

ξ;゚⊿゚)ξ「お、お邪魔します!」

8 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:39:47 ID:wZ10/LDc0

 突然開かれた玄関から顔を出したのは、いつも通りしゃんとした雰囲気の美人さん。

 親友に、クーに促されて玄関に一歩踏み込む。

 周囲をきょろきょろと見回しては、おっかなびっくりで靴を脱いで揃えた。


川 ゚ -゚)「はは、別に上のはキモいだけだから大丈夫だよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「う、うん……」

川 ゚ -゚)「……やっぱそっちに泊まる方が良かった?」

ξ゚⊿゚)ξ「だ……大丈夫! お土産!」

川 ゚ -゚)「ん、ありがとね」

ξ゚⊿゚)ξ「……うん」


 怖がったり気味悪がったり、そんなの本当はしたくない。
 クーに嫌な思いをさせるだけ、でもやっぱりちょっとこわい。

 そんな心情を分かっているのか、クーは苦笑しながら私をリビングへ通す。

 ひんやりしたエアコンの冷気が、外の暑さで火照った肌にしみた。

9 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:40:23 ID:wZ10/LDc0

ξ゚⊿゚)ξ「あー……すずしい……」

川 ゚ -゚)「お茶飲むー?」

ξ゚⊿゚)ξ「おかまいなくー」

川 ゚ -゚)「へいへい」

ξ゚⊿゚)ξ(ちゃんと綺麗にしてる……別に変な感じしないや……)

川 ゚ -゚)「あ……チッ」

ξ;゚⊿゚)ξ「え」

川 ゚ -゚)「あーごめん、お茶減ってて、見てこの量」

ξ゚⊿゚)ξ「底から5cm」

川 ゚ -゚)「上のやつマジ次作らねぇし……」

ξ;゚⊿゚)ξ(……本当に、日常の一部になってるんだ……)


 正直、私はまだ半信半疑だった。

 怪奇現象は、クーの錯覚なんじゃないか。
 根深い何かがあるんじゃないか。

 もしそうだとしても、私はクーから距離を置きたくないと。

10 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:41:26 ID:wZ10/LDc0

ξ゚⊿゚)ξ(もしかしたらノイローゼとか、そう言うのかなって思ったけど)

川 ゚ -゚)「茶菓子……確かこっちにお菓子隠したはず……」

ξ゚⊿゚)ξ(見た感じは、おかしな様子は無いんだよね……元気そうだし……)

川 ゚ -゚)「隠すとやっぱ減らんな……」

ξ゚⊿゚)ξ(……言い分を信用せずクーの精神状態を心配するのって、やっぱひどいよね……はぁ……)

川 ゚ -゚)「はいおにぎりせんべ」

ξ゚⊿゚)ξ「ありがと」

川 ゚ -゚)「お土産なんだっけ」

ξ゚⊿゚)ξ「タルト」

川 ゚ -゚)「冷蔵庫入れとこ」

ξ゚⊿゚)ξ「常温で大丈夫よ」

川 ゚ -゚)「マジか、じゃあ勉強する?」

ξ゚⊿゚)ξ「ん、パソコンちゃんと持ってきたよ」

川 ゚ -゚)「重かったろ、おつかれ」

ξ゚⊿゚)ξ「薄いからへーき」

11 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:42:40 ID:wZ10/LDc0

川 ゚ -゚)「んじゃ私も広げて……よいせ」

ξ゚⊿゚)ξ(リビングは明るいし、気味の悪さなんか無いなぁ)

川 ゚ -゚)「ノートノート」

ξ゚⊿゚)ξ(クーは元気そうだし部屋も普通そうだし……聞いてたような感じじゃないなぁ)

川 ゚ -゚)(めっちゃキョロキョロしてるな、プレーリードッグかよ)

ξ゚⊿゚)ξ(涼しくて明るくて快適……庭も綺麗にしてるしてる……クーは頑張るなぁ……)

川 ゚ -゚)(いやどっちかと言うとミーアキャットのが近いか……)ジッ

ξ゚⊿゚)ξ「なに?」

川 ゚ -゚)「ミーアキャットとプレーリードッグどっちが好き?」

ξ゚⊿゚)ξ「考えた事もない」

川 ゚ -゚)「やっぱりミーアキャットか……」

ξ゚⊿゚)ξ「なんの話なの……」

川 ゚ -゚)(猫……いや……キャバリアあたりか……)

ξ゚⊿゚)ξ(すごい見られてる……)

12 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:43:32 ID:wZ10/LDc0

川 ゚ -゚)「じゃあやろっかスパニエル」

ξ゚⊿゚)ξ「誰がコッカー・スパニエルか」

川 ゚ -゚)「そっちも似合うな」

ξ゚⊿゚)ξ「会話して」

川 ゚ -゚)「ツンはスパニエル」

ξ゚⊿゚)ξ「人間です」

川 ゚ -゚)「私は?」

ξ゚⊿゚)ξ「ロシアンブルー」

川 ゚ -゚)「やったぜ、勉強しよ」

ξ゚⊿゚)ξ「何なのあんたは……」


 普段と変わらない、日常的な軽口とじゃれあいが心地よく、私の緊張を溶かした。

 バカな事言ってないで作業しよ、とどちらともなくパソコンやノートを開いて、口を閉ざす。

13 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:43:53 ID:wZ10/LDc0

 かたかた、かちゃかちゃ。
 ぱらぱら、かりかり。

 自然と口を閉ざした私たちは、黙々と目の前の作業に集中する。
 文字を、紙を、記号を、線を、目で追いながら手を動かす。


 静かな部屋には、電化製品の駆動音。
 お互いが溢す音だけが、淡々と転がって。


 ぎしっ。


 油断しきっていた私の耳に、突然の音が降ってきた。


 みし、みし。

 ぎし。


 天井。
 いや、上の階から。

 きしむ、音。

14 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:44:44 ID:wZ10/LDc0

 音は数回だけ聞こえて、それ以降は聞こえなかった。


ξ;゚⊿゚)ξ


 それでも突然の事に、私は天井を見上げたまま固まってしまった。


川 ゚ -゚)「音だけだよ」

ξ;゚⊿゚)ξ!

川 ゚ -゚)「何もしてこないから」

ξ;゚⊿゚)ξ「う、ん……」


 意にも介さないと言った様子で、クーは平然とノートを見ている。

 私は天井から恐る恐る視線をはずし、再び目の前のパソコンに顔を向けた。


 しかしそれ以降、ほんの些細な音にもビクビクしてしまって。
 完全に集中出来なくなった私を見て、クーは困ったようにため息を吐きながら笑った。

15 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:46:27 ID:wZ10/LDc0

川 ゚ -゚)「休憩しよっか」

ξ゚⊿゚)ξ「……うん」

川 ゚ -゚)「やっぱ、落ち着かないよね」

ξ゚⊿゚)ξ「……そんなことないし」

川 ゚ -゚)「タルト食べる?」

ξ゚⊿゚)ξ「うん……食べる……」

川 ゚ -゚)「頭使ってるから糖分補給はしなきゃなー、アイスティー入れるわ」


 席を立ったクーと、向かいに残された私。

 なんだか申し訳ないやら歯がゆいやら、悔しいやらで眉間に皺が寄るのがわかる。


 やだなあ。
 クーんちを、気味悪いなんて思いたくない。

 慣れ親しんだ、よく知る家、よく知る相手なのに。
 クーの精神状態を疑いたくなんて無い。
 だからと言って、本当に何かが居るのでは無いかと思うと、怖くて怖くて。



 ふ、と。
 視界の端に、何かが映った。

16 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:47:31 ID:wZ10/LDc0

 ぱっと顔を上げたら、先程までクーに隠れていた、廊下に繋がるドア。

 そのガラスの向こうに、何か、影が動いて、消えた。


 みし。


ξ;゚⊿゚)ξ「ひ……」

川 ゚ -゚)「あー、人が来るの珍しいから見に来たのかね、ははは」

ξ;゚⊿゚)ξ「…………」

川 ゚ -゚)「……はい、アイスティー」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、り……がと……」

川 ゚ -゚)「タルトはーっと……」


 どうして、笑えるのだろう。

 慣れたから、受け入れたから、笑えるものなのだろうか。

 そこまで、追い詰められていたのか。

17 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:48:23 ID:wZ10/LDc0

 私は、親友が壊れてしまうまでただ見ていただけなのか。

 口ばかりで、彼女を助けられなかったのは、私のせいで。

 そんな異常を受け入れてしまうまで、私は、彼女を、クーを。


川 ゚ -゚)「タルトってこっちかよ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ゙ ハッ

川 ゚ -゚)「おおマジか……フルーツ乗ってるのだと思ったわ……一六タルトか……」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ぇと……貰い物で……」

川 ゚ -゚)「そっかー……完全にフルーツ食べる口だったわ……いやでもこれも美味しいけどなうん」

ξ;゚⊿゚)ξ「ご、ごめん……」

川 ゚ -゚)「いやいやなんもなんも、柚子あんだからフルーツっちゃフルーツだし」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

川 ゚ -゚)「どしたん? 一六タルト食べない?」

ξ゚⊿゚)ξ「食べる、けど……その……」

川 ゚ -゚)「ん?」

18 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:49:12 ID:wZ10/LDc0

ξ゚⊿゚)ξ「…………なんか……その……」

川 ゚ -゚)「スタバ行く?」

ξ゚⊿゚)ξ「いかない……あの……」

川 ゚ -゚)「ドトール行く?」

ξ゚⊿゚)ξ「行かねぇつってんだろ……」

川 ゚ -゚)「二階見てみる?」

ξ゚⊿゚)ξ「行か…………ぅ」

川 ゚ -゚)「おいで」

ξ゚⊿゚)ξ「……うん」


 何かを察したような、と言うか、全部解ったような顔で、クーは再び席を立つ。

 私もそれに続き、後ろについて廊下へ出た。


 冷気に満ちたリビングから一歩踏み出すと、むわ、とした暑苦しさが全身を包む。

 外よりはマシだが、やっぱりエアコンの無い場所は暑くて。

 ゆっくりと階段をのぼる私の頬を流れる汗は、暑さからなのか、それとも冷や汗なのか。

19 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:50:22 ID:wZ10/LDc0

 みし、みし。

 二人連れ立ってのぼると、階段は声をあげる。

 ぎし、ぎし。

 一番上まで上りきり、クーは真っ直ぐ左手のドアに向かった。


 手を伸ばして、銀色のドアノブに指先が触れる。

 そっと握り、右に回して。


 キュイン。


 妙な音が、ドアの向こうから聞こえた。


 キュイン、キュイン。

 キュイン、キュイン。

 キュイン、キュイン。

20 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:50:50 ID:wZ10/LDc0

 びくんと肩を跳ねさせる私と、ため息を吐くクー。
 なんの音かと訊ねる前に、クーはドアを開け放った。

 がちゃ、ぎぃぃ。


 開かれたドアの向こうは、雑多に箱や折りたたみコンテナが積まれていて。
 うっすらと積もった埃が舞うのが、半分ほど窓から差し込む光に照らされて見えた。

 足元を見ても、足跡なんて無い。
 箱の上を見ても、何かが触れたあとはない。


 ただ部屋の真ん中に、ぽつんと置かれたおもちゃの光線銃だけが、赤い光を放っていて。


 クーがそれを拾い上げて握ると、キュイン、と先ほどの音。
 かち、とスイッチを戻して、適当な箱の上に置いた。


川 ゚ -゚)「たまに鳴る」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、鳴るんだ……」

21 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:52:10 ID:wZ10/LDc0

川 ゚ -゚)「部屋見てみる?」

ξ;゚⊿゚)ξ「…………いい」


 窓を閉め、鍵をかけて部屋の外まで戻ってきたクーが、ドアを開けたまま私に訊ねる。

 しかしもう中に人の気配が無いことなんて分かってて、私は緩慢に首を横へ振るだけ。


川 ゚ -゚)「んー、んじゃ戻って」ギィ


 キュイン。


川 ゚ -゚)「あー……」

ξ;゚⊿゚)ξ


 ドアを閉めようとしたら、音。

 ドアを開けたら、音は止んで。

 閉めたら、キュイン、また音が。

22 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:52:41 ID:wZ10/LDc0

川 ゚ -゚)

ξ;゚⊿゚)ξ


 がちゃ、ばたん、キュイン、がちゃ、ばたん、キュイン。

 開ける、止む、閉める、鳴る、開ける、止む、閉める、鳴る。


 もはやリズミカルにすら感じる開閉と異音。

 私は次第に苛立つクーとドアを見比べながら、ただただ困惑していた。

 怪奇現象のフットワークが軽すぎる。
 おちょくってるようにしか見えない。


川#゚ -゚)

ξ;゚⊿゚)ξ


 あ、だめ。
 クーすっごいイライラしてる。

 やめて怪奇現象、クー怒るから、そろそろ怒ってるから。
 たまーに声を荒らげてキレるから。

23 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:54:09 ID:wZ10/LDc0

 ばたん。
 キュイン。


川#゚ -゚)「ィやかましいィッ!!!」バァーン!!
 ⊂彡てそ

ξ;゚⊿゚)ξそ「ヒェッ」

川#゚ -゚)「客が! 来てんの!! 課題やってんの!! 忙しいの!!! 静かにしろクソが!!!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「あわわ、どうどう、どうどう!」

川#゚ -゚)「んっだお前アレか!? お前なりの歓迎か!? 失敗してんだよ滑ってんだよ死ね!!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「や、やめたげて、宴会芸じゃないんだからやめたげて!」

川#゚ -゚)「クソ寒スベり芸ほど見てて痛々しいものはねーんだよ!! ちょっかいも行き過ぎたら万死なの!!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「許したげて、許したげて!」

川#゚ -゚)「次うるさくしたら許さねぇからな!!!!」バターン!!
 ⊂彡てそ

ξ;゚⊿゚)ξ

川#゚ -゚)

ξ;゚⊿゚)ξ「おちついて?」

川 ゚ -゚)「大声出してごめん……」

24 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:55:41 ID:wZ10/LDc0

ξ;゚⊿゚)ξ「……だいたいこんな感じなの?」

川 ゚ -゚)「いやー……今日は特におはしゃぎでやがりますわ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「お、おう……普段はもっと静かなの……?」

川 ゚ -゚)「もっと静かではある……ツンが来たからってはしゃいでんじゃねーよ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「ぇえー……」

川 ゚ -゚)「はぁ……降りよ……暑いし……」

ξ;゚⊿゚)ξ「うん……」


 思ってたより元気そうだし。
 思ってたより正気っぽいし。

 こんなのが日常だったら慣れもするわ。

 そう言えば、怖がるを越えた時の人の反応は「泣く」か「怒る」か「笑う」が多いらしい。
 つまりクーは怒る側だったと言う事か。

 と言うか私も怪異に対してブチギレたクーを見てたら怖いのはどこかにいった。
 ちょっとどうでも良くなった気すらする。

25 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:56:40 ID:wZ10/LDc0

 ああもう何かこんな感じだったらそこまで心配しなくて良いのかも。

 心配の矛先がクーのストレスと血圧にシフトしたわ。


川 ゚ -゚)「まあだいたいあんな感じだから……そんなに怖くはないよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、うん……そうみたいね……」

川 ゚ -゚)「これで落ち着いて勉強できる?」

ξ゚⊿゚)ξ「……うん、できそう」

川 ゚ -゚)「馬鹿みたいだろ」

ξ゚⊿゚)ξ「……ちょっとね?」


 少しの間を置いてから、馬鹿みたい、と二人で顔を見合わせてくすくす笑う。
 私が妙に気負ったのもわかってたのか、わざと私の緊張をほぐしてくれたみたいで。

 やっぱりクーはすごいなあ。
 と思うんだけど、何でそんなクーがこんな目にあってんだろ。
 理不尽か。

26 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:57:29 ID:wZ10/LDc0

川 ゚ -゚)「あーリビングすずしー」

ξ゚⊿゚)ξ「廊下は暑いねぇ……」


 まあでも、アレが怪異かなにかなら、思ったよりも無害そうだ。
 ストレスはマッハだろうけど、そこまでは。


川 ゚ -゚)「んー、じゃあお茶して続きしよか」

ξ゚⊿゚)ξ「うん、よいしょ」

川 ゚ -゚)゙「はー全く、上のやつほんと」ペタン

川 ゚ -゚)

ξ゚⊿゚)ξ?

川 ゚ -゚)" スック

ξ゚⊿゚)ξ??


 がちゃ、ばたん。

27 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:57:53 ID:wZ10/LDc0

ξ゚⊿゚)ξ???


「タルト食ってんじゃねぇええええええええええ!!!!!」

  _,  て
ξ;゚⊿゚)ξそ


 慌てて机にあったタルトの箱を覗く。

 すると、封を切ったばかりのタルトは3切れほどが無くなっていた。

 何度数え直しても8切れしかない。
 元々は11切れだから、間違いなく、3切れが消えてる。


  _,
ξ;゚⊿゚)ξ「…………マジか……」


 いつの間に持っていったんだ。
 ついさっきまで上に居ただろうに。
 いや何が居るのかはわからないけど、何かは上に居たはずなのに。

 と言うか何で3切れも取った。
 欲張りか。
 もはや怖がるよりも感心するわ。

28 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:58:27 ID:wZ10/LDc0

 その後、どすどすと大きな音をさせて戻ってきたクーと共にお茶をして、タルトを食べて、作業に戻った。

 あの怒声以降は異音も聞こえないし、変な影も見ていない。
 快適に没頭できるのは良いが、本当にあれは何なのだろう。

 恐らく生きた何かでは無いと思う。
 だっていつの間にか消えていたタルトの事を考えると、人間にはきっと出来ないだろうし。

 かと言って幽霊が一六タルトを盗んで食べるのか。
 食材やらも減ると言うし、何で物理的に干渉してくるんだろう。

 じゃあ生物でも幽霊でもない何か?
 妖怪とか妖精とか、その手の何か?

 妖精、妖精ならいたずらっぽいのも甘いものが減るのもまだ分かるかも?
 まあ迷惑な事にかわりは無いのだけど、それでも幽霊よりはマシかなぁ。



 時おり会話を挟みつつ、淡々と作業を続けて数時間。

 外は暑さの峠を越え、太陽はゆるやかに沈み、空が夕暮れへと近付く。

 蝉の声もまばらになってきた時間帯。
 長い筈の日が傾き始めた頃に時計を見上げると、夜の七時に差し掛かろうとしていた。

29 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 01:59:23 ID:wZ10/LDc0

ξ゚⊿゚)ξ「あ、やだこんな時間」

川 ゚ -゚)「お? おぉ、マジか集中してたわ」

ξ゚⊿゚)ξ「んー……進んだ?」

川 ゚ -゚)「進んだー、おなかすいたー」

ξ゚⊿゚)ξ「んじゃご飯食べにいく?」

川 ゚ -゚)「自炊しゅるから手伝って、ご飯二人分炊いてあんの」

ξ゚⊿゚)ξ「わーい手伝う、なに作るの?」

川 ゚ -゚)「簡単なやーつ、机片しちゃって」

ξ゚⊿゚)ξ「はーい」

川 ゚ -゚)(怖がらなくなったみたいでよかった)

ξ゚⊿゚)ξ(クーの手料理とか初めてだなぁ)

川 ゚ -゚)(でも寝る時は怖がるかなぁ、壁側に寝かすか)

ξ゚⊿゚)ξ(あ、おなかすいた……)

30 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:00:19 ID:wZ10/LDc0

ξ゚⊿゚)ξ「あ、テレビつけていい?」

川 ゚ -゚)「いいよー、ニュースしてー」

ξ゚⊿゚)ξ「はーい」


 机の上に広げられたノートやら辞書やら筆記用具やらを片付けながら、テレビの電源を入れる。

 リモコンをぽちぽちとチャンネルを回して、ニュース番組で手を止めた。


 さっきまで静かだった室内に、ニュースの音楽や効果音、アナウンサーの声が広がる。

 ペンや定規を二人分のペンケースに詰め込みながら、耳でだけニュースを聞く。


『先日◎◎市で起きた強盗殺人』

『犯人は逃亡したとみられ』

『現在も行方を』


ξ゚⊿゚)ξ(怖いニュースやってる)

川 ゚ -゚)(まーだ捕まっとらんのかあれ)

31 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:00:51 ID:wZ10/LDc0

『犯人の男は痩せ型で』

『身長は180cm前後』

『右の頬に傷が』


ξ゚⊿゚)ξ(あ、クーの修正ペンかわいい)

川 ゚ -゚)(おーおー犯人顔バレてんじゃん、はよ捕まれ)

ξ゚⊿゚)ξ(ペンケース立つやつだ、いいなー)

川 ゚ -゚)(つか近いなこれ、やーだなぁツン一人で帰らせらんないわ)


 きぃ。


ξ゚⊿゚)ξ「あ」

川 ゚ -゚)「冷房入ってるから開けたらすぐ閉めろ」


 ぱたん。


ξ゚⊿゚)ξ(素直だ……)

川 ゚ -゚)(さっきのまだ効いてるな)

32 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:01:20 ID:wZ10/LDc0

ξ゚⊿゚)ξ「片付けたよー、なに作るの?」

川 ゚ -゚)「はい台拭き」

ξ゚⊿゚)ξ「机拭いてくる……」

川 ゚ -゚)(ツンは料理しない子だからなー、冷蔵庫の食材で適当に作ろ)

ξ゚⊿゚)ξ゙ ゴシゴシ

川 ゚ -゚)(好き嫌いはないはず……ピーマンとナス……豚肉で味噌炒め……)

ξ゚⊿゚)ξ「拭いた!」

川 ゚ -゚)「テレビの音あげてー」

ξ゚⊿゚)ξ「あい……」

川 ゚ -゚)(味噌汁はあぶらげと……ネギあったかな)

ξ゚⊿゚)ξ「音あげた!」

川 ゚ -゚)「エアコンの温度ひとつあげてー」

ξ゚⊿゚)ξ「ウィス……」

川 ゚ -゚)(たのしい)

33 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:02:08 ID:wZ10/LDc0

ξ゚⊿゚)ξ「温度あげた!」

川 ゚ -゚)「なーツン」

ξ゚⊿゚)ξ「なに?」

川 ゚ -゚)「ありがとね」

ξ゚⊿゚)ξ「何が?」

川 ゚ -゚)「ずっとさぁ、私のこと気にかけてくれてたっしょ」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

川 ゚ -゚)「キチガイ扱いもしないでさー、ちゃんと話聞いてくれてさぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「うん……」

川 ゚ -゚)「普通なら頭がおかしい病院行けって切り捨てるだろうに、ツンは家に泊まりに来いって何度もさー」

ξ゚⊿゚)ξ「……心配だったし」

川 ゚ -゚)「ありがとね」

ξ゚⊿゚)ξ「なんもだし……」

34 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:03:12 ID:wZ10/LDc0

ξ゚⊿゚)ξ「……私ね」

川 ゚ -゚)「ん」

ξ゚⊿゚)ξ「クーが、壊れちゃったと思った」

川 ゚ -゚)「せやろな」

ξ゚⊿゚)ξ「私がね、ちゃんと話を聞いたり、少し無理にでもうちに泊まらせるべきだと思った」

川 ゚ -゚)「うん」

ξ゚⊿゚)ξ「でも、マジであの、なんか、なんかいるし」

川 ゚ -゚)「居るんだよこれが」

ξ゚⊿゚)ξ「ストレスとか心労で壊れちゃったのかなとか思ってね、ごめんね」

川 ゚ -゚)「いやそれが正常な判断だよ」

ξ゚⊿゚)ξ「でも……」

川 ゚ -゚)「いやほんと誰も思わねぇよマジに何か居るって……即納得したらむしろ引くよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「う、うんまぁ……まぁ……確かに……」

35 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:04:05 ID:wZ10/LDc0

川 ゚ -゚)「ツンが愚痴とか聞いてくれてさ、警察に相談も一応病院もって調べてくれてさ」

ξ゚⊿゚)ξ「行動したのはクーだし……」

川 ゚ -゚)「そうだけど、ツンが居たから」


 みしっ。


川 ゚ -゚)

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)「空気読めよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「ノーカン……ノーカンだから……」

川 ゚ -゚)「もういいや……ごはんしよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「手伝う!」

川 ゚ -゚)「座っとけ……」

ξ゚⊿゚)ξ「かたくなに台所に立たせない……!!」

川 ゚ -゚)「ツン料理しねーじゃん……」

ξ゚⊿゚)ξ「じ、実家暮らしなんだもん……」

36 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:05:01 ID:wZ10/LDc0

川 ゚ -゚)「もう出来るからお茶碗とお箸とコップもってって」

ξ゚⊿゚)ξ「あい」

川 ゚ -゚)「ご飯よそって」

ξ゚⊿゚)ξ「どれくらい?」

川 ゚ -゚)「そこそこ」

ξ゚⊿゚)ξ「そこそこ……」カチャ

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)?

ξ゚⊿゚)ξ「そこそこしかない」

川 ゚ -゚)

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)「みして」

ξ゚⊿゚)ξ「あい」

川 ゚ -゚)

ξ゚⊿゚)ξ

37 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:06:06 ID:wZ10/LDc0

「勝手に飯食ってんじゃねーぞクルルァァア!!!!!!!」


ξ;-⊿-)ξ゙

,,川#゚ -゚)「冷凍ご飯あるからあたためて」

ξ゚⊿゚)ξ「はーぁい」

川 ゚ -゚)「上のやつ食ってばっかじゃねーの……自分の食う分は自分でどうにかしろよな……」

ξ゚⊿゚)ξ「んな怪奇現象に無茶な」

川 ゚ -゚)「ったく……はいできた」

ξ゚⊿゚)ξ「クーは料理上手ねぇ」

川 ゚ -゚)「一年やったら慣れたよ」

ξ゚⊿゚)ξ「ふむぅ……取り敢えず食べよっか」

川 ゚ -゚)「ん、いただきまーす」

ξ゚⊿゚)ξ「いただきまーす」

38 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:08:10 ID:wZ10/LDc0



 夕飯を二人で食べて、食後にタルトをまた食べて、お風呂に入って。

 時おり異音や視線を感じながらも、クーが寝室にしている仏間に布団を並べてはしゃいでいた。

 泊まりで遊んだり話したりするなんて久々で、いつもより夜更かしをしちゃって。

 明かりを落とした和室に二人、いつまでも今年の夏の予定を話し合った。


 今年も一緒に海に行こう。
 車を借りて遊びに行こう。
 肝試しはもう良いけど。
 新しい水着を買って。
 就職活動もしなきゃ。
 金麦のCMごっことかしたい。
 マニアックすぎない。
 上の人ってメリットは無いの?
 虫とか見なくなった。
 えぇ……。

 日付が変わるまで話して。
 日付が変わっても話して。

 最終的に私たちの頭からは、すっかり上のひとのことなんて抜けていて。

 平穏そのものみたいなその時間が、あんまり心地よくて。


 みし。

39 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:08:59 ID:wZ10/LDc0

 ぎし。
 ぎし。

 かたん。


川 - -)スースー

ξ-⊿-)ξクークー

)゙

川 - -)スースー

ξ-~-)ξムニャムニャ

ω )゙



 喋り疲れたのか、緊張から疲れが来たのか、私はいつの間にか寝入っていたらしい。

40 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:09:37 ID:wZ10/LDc0

 ふ、と途切れた眠り。
 薄くまぶたを持ち上げて、ぼんやりとした暗がりを見上げる。

 見覚えのない天井。
 おぼろげにしか覚醒していない意識は、まだほとんどが夢の中。


 ああどこだっけ。
 ねむい。

 このひとだれだろ。
 おとうさんかな。

 だれか、わたしをみおろしてる。
 かおを、のぞきこんで。


ξ-⊿-)ξ「んー……」


 伸びまじりに目をこすり、あくびをひとつ。

 いつもよりぼやける視界からして、どうやらコンタクトだけは外して寝たらしい。
 寝るときはちゃんとはずすと言う習慣の賜物か。

 それでも先程よりははっきりした視界、けれど、そこには誰も立っていなかった。

41 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:10:30 ID:wZ10/LDc0

 影を見間違えたのかな。
 なんか、誰かが立ってる気がしたんだけど。

 でも私は壁側に寝てるし、すぐ隣にはクーが寝てるし。
 枕元には着替えやらが置いてあるし、足元に人が立ってもこの角度からじゃよく見えない。


 夢でも見たのかな。

 頭の中がまだ眠気と夢心地でぽわぽわしていて、奇妙な感覚よりもまどろみの方が強い。

 私は再びお布団をかぶり直して、眠りの続きに落ちようとした。


 しかし、中途半端に目覚めたせいか、目を閉じていてもなかなか意識が溶けて行かない。

 それどころか、じわじわと意識がはっきりして行く。

 夜間モードのエアコンのそよ風と稼働音。
 隣で眠るクーの寝息と衣擦れの音。
 家の外からは虫と牛蛙の鳴き声。

 肌に触れる客用布団の感触。
 そば殻の枕のかたさ。
 ほどいた髪を軽く引っ張る誰かの手。

42 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:11:05 ID:wZ10/LDc0

ξ゚⊿゚)ξパチ

ξ゚⊿゚)ξ゙ ?


 髪に指を絡ませるように、誰かの手を感じた。
 でもまぶたを持ち上げて、寝転がったまま視線を動かしても何もいない。

 上の人かな。
 寝てる時のいたずらは怖いからやだな。


ξ-o-)ξ~ ファ

ξ-~-)ξ ムニャ…


 もう一度眠ろう。

 とは思ってるんだけど、何だか髪をいじられた事で目が冴えてしまったらしい。

 目を閉じて転がっていても、先程までのまどろみはもう遠い。

 頭の前の方がもやもやしはじめた、こうなるとリセットしないと眠れそうにないなあ。

43 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:12:29 ID:wZ10/LDc0
  _,
ξ- -)ξ゙ ムー


 しょうがない、一回トイレにでも行ってリセットしよう。

 お布団踏むのはやだけど、クーを跨ぐわけにもいかないから迂回して。


 少しだけ開いている襖に手をかけて、音がしないようにゆっくりと開く。

 廊下から流れ込む、夜半にも続く暑さ。
 むわ、とした熱気と共に、闇に目が慣れてもなお暗い、廊下へと繋がる口。


 目を凝らしてみても、細めても、闇に沈む廊下の向こうがよく見えない。
 コンタクトを外しているからか、余計に前がよく見えない。

 しかも上の人がその辺にいるかもしれない。
 見えるのか見えないのかわからないけど物理干渉してくる何かがいるかもしれない。

44 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:14:29 ID:wZ10/LDc0

 こわい。

 暗いのがこわい。

 えたいのしれないものがこわい。

 どうしよう、こわい。

 こわいと思ったらすっごいトイレいきたくなってきた。

 どうしよう。

 どどどうしよう、この歳になって怖いからトイレついてきてなんて言えない。

 恥ずかしいし黒歴史になるしきっと今後死ぬまで事あるごとにつつかれる。

 でもこわい。
 廊下に一歩踏み出せない。

 と言うか何か奥の方からごそごそ音がする。
 絶対なんかいる。

 いやむしろなんか居るならクー起こして現行犯で捕まえるべきか。


 よしなら起こしても問題ないな!!

45 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:19:37 ID:wZ10/LDc0

ξ゚⊿゚)ξづ「クーおきて、おきて」

川ぅ -゚)「んー……トイレかー……?」

ξ゚⊿゚)ξ「うん、いや違うそうじゃないリビングの方から音がするから今なら現行犯でいけるんじゃないかって思ってそれだけですほんと」

川 ゚ -゚)「はいはい……手は繋ぐか……」

ξ゚⊿゚)ξ「違うからトイレいくのこわいとかじゃないから」

川 ゚ -゚)「わかったわかった……廊下の電気すぐそこだよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「寝てるのに電気つけるのもあれだし……襖閉めてから電気つけて目の前になんかいたらやだし……」

川 ゚ -゚)(こわいんじゃねーか)

ξ゚⊿゚)ξ「それにこれ以上目が覚めるのもアレだから……」

川 ゚ -゚)「んー、ほら行くよ……エアコンあるから襖閉めて……」

ξ゚⊿゚)ξ「あひぃ……」

川 -o-)~ ファァ…

ξ゚⊿゚)ξ「お、音立てないでね? ほらバレないように近づいた方が」

川 ゚ -゚)「わかったからはよいけ……」

ξ゚⊿゚)ξ「うひぃ……」

46 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:20:34 ID:wZ10/LDc0

 足音をたてないように、ひっそり、こっそり。

 きし、きし。

 クーの手を掴んだまま廊下をゆっくりと進む。

 トイレの前を一旦通りすぎ、近付くにつれて、リビングの方から聞こえる音は明瞭になる。


 何かを探すように、音を立てないようにと動く音。

 リビングのドアを目の前にしたあたりで、クーも目が覚めたのか、背筋を伸ばして唇を噛んでいた。
 こうやって何かを探るような音を聞くのは初めてらしく、少し緊張しているみたいで。


ξ゚⊿゚)ξ「電気、つけるから」ヒソ

川 ゚ -゚)「うん、わかった」ヒソ


 音の出ないようドアをあけて。

 手探りで壁にあるスイッチを探して。


 パチン。


 暗さに慣れていた目が、蛍光灯の明るさに潰される。

47 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:22:01 ID:wZ10/LDc0

 それは中に居た何かもそうだったらしく、くぐもった声が聞こえた。

 私は目をごしごしこすり、ぼんやりと見える人影に向かって人差し指を突き付ける。


ξぅ⊿゚)ξσ「く、クーが迷惑してるから! そう言うのやめてください!」

(メ゚д゚ )!?

ξぅ⊿゚)ξ「よ、夜中にごそごそしたり! うるさくしたりものとったり! 迷惑だから!」

(メ゚д゚ )「……チッ」


 よく見えないけど、男の人が立ち上がってこちらを見ている。

 まさか人だったとは。
 てっきり妖精か何かだと思ったのに。

 と言うか私これからどうしよう。
 寝ぼけてたからノープランで動いてしまった。

 敵意が無いとも限らないのに。
 もし襲われたらどうしよう。

48 ◆XuvvuSgErk[sage] 2017/08/19(土) 02:25:27 ID:wZ10/LDc0

 誰だかわからないけどその人は、何かを持ってこっちに近付いてくる。

 私はとっさに身構えたが、それより早く、少し上からクーの小さな呟きがこぼれた。


川 ゚ -゚)「……180cm前後」

ξ゚⊿゚)ξ「う?」

川 ゚ -゚)「痩せ型……」

ξ゚⊿゚)ξ「クー?」

川;゚ -゚)づ「ツンこっち来い!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ぅえっ!?」


 ぐい、と力任せに引っ張られた腕。

 焦った様子で駆け出すクーと、こちらへ走り出した誰かを交互に見る。

 知らない誰かの手に握られたそれは、蛍光灯の光を反射して、ぎらぎら。


 あ、これ。
 だめなやつ。

49 ◆XuvvuSgErk[sage] 2017/08/19(土) 02:27:42 ID:wZ10/LDc0

 クーに引っ張られるがまま、私はトイレに放り込まれた。

 がちゃ、ばたん! と大きな音を立てて閉じられたドア、がちゃんとかけられた鍵。


 クーは便器の蓋の上に座り込んだ私をかばうように、ドアノブを強く押さえていた。


ξ;゚⊿゚)ξ「な、なに? なに? 上の人、じゃ、ないの?」

川;゚ -゚)「わからんよ! でもアレは」


 どんっ!!


ξ;゚⊿゚)ξ「ひっ」

川;゚ -゚)「!!」


 どんどん、ばんばん。
 力一杯に叩かれるドア。

 ガチャガチャ、ガチャガチャ。
 外から乱暴に回されるドアノブ。

 がんがん、ごとごと。
 何か固いもので、ドアノブを叩いている。

50 ◆XuvvuSgErk[sage] 2017/08/19(土) 02:29:47 ID:wZ10/LDc0

ξ;゚⊿゚)ξ「や、やだ、やだやだ……なに、だれなの……?」

川;゚ -゚)「ニュースでやってたろ! 犯人! 強盗殺人の!」

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、えっ、じゃあ犯人が、上の人なの? ずっと居たの?」

川;゚ -゚)「わっかんないよ! でもそこに居るのは犯人だよ!!」


「出てこいオラァ!!」


ξ;゚⊿゚)ξ「ひぃっ!」

川;゚ -゚)「ツン、ツン携帯は? 持ってない?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ま、枕元に置いてきたっ、だって必要って、思わなくってっ」

川;゚ -゚)「あーまぁそりゃそうだ、ど、どうしよう、どうしよう、外に叫べば誰かくるかな」

ξ;゚⊿゚)ξ「た、助けてー!! 誰かー!!」

川;゚ -゚)「誰かーっ!!」


バァンッ!!!


ξ;゚⊿゚)ξ「きゃあぁっ!」

川;゚ -゚)「っ!!」

51 ◆XuvvuSgErk[sage] 2017/08/19(土) 02:30:43 ID:wZ10/LDc0

ξ;゚⊿゚)ξ「わ、私のせい? 電気つけて、余計な事したから?」

川;゚ -゚)「でも包丁持ってたよ、最初からたぶん殺すつもりだったんだよ」


 ガチャガチャガチャガチャ。


ξ;゚⊿゚)ξ「ごめ、ごめんね、クーごめんね、私のせいで、」

川;゚ -゚)「ちが、ちがうよ、ツン悪くないから、大丈夫、だよ、大、大丈夫、だか、らっ」


 ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。


ξ;∩⊿∩)ξ「ぅ、うう、ごめ、クーごめ、ね」

川;゚ -゚)「やめ、やめろよ、泣くなよ、謝るなよぉ、ツンは、悪くないから、ツン、」



 ぎしぃ。



川;゚ -゚)!!

52 ◆XuvvuSgErk[sage] 2017/08/19(土) 02:31:09 ID:wZ10/LDc0

 みし。

 みし。

 ぎしぃ。

 ぎしぃ。


 ずる  ごとん。


川;゚ -゚)(上の、人?)


「あ? 何」


 ごり。


「あ゙」


 めきめき。


「ぁ゙、あ゙あ゙あああ!!!?」


 ぼきん。

53 ◆XuvvuSgErk[sage] 2017/08/19(土) 02:32:05 ID:wZ10/LDc0

ξ;゚⊿゚)ξ「な、に? なに、が」

川;゚ -゚)「き、聞くな、やめとけ、聞くなツン」

ξ;゚⊿゚)ξ「で、でも何が、外? どうし、」


 『ごは ン  ごハん』


ξ;゚⊿゚)ξ「…………へ……?」

川;゚ -゚)「…………」


 『ワル い ゴはん わルい ご はン』


ξ;゚⊿゚)ξ「…………」

川;゚ -゚)「…………」


 子供のような、高い声。

 気味の悪い響きを連れて、聞いた事の無い声が、ドアの向こうから耳へと届く。

54 ◆XuvvuSgErk[sage] 2017/08/19(土) 02:32:27 ID:wZ10/LDc0

 あれだけ力を込めて叩かれていたドアは、今は静かになっていた。

 ドア越しでも肌に刺さるような悪意と殺意に身を震わせていた私たちは、抱き合いながら顔色を無くす。


 この厚くはない板の向こう側で、今何が起きているのだろう。

 男の人の喉は、濁った悲鳴を吐き出すばかり。

 ごはんごはんと繰り返す甲高い声と、何か、とても嫌な音。


 どたどた、暴れる何か。
 ぱきぱき、軋む何か。

 クーに頭を抱えるように抱き締められて。
 私はクーの身体にしがみついて。

 二人して声を出す事も出来ず、ただ見開いた目でドアを見詰めて震えるだけ。

 それでもなお、外で音は止まない。
 何かが何かを壊すような音が続いてる。

55 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:34:06 ID:wZ10/LDc0

「あああああッ!! ああああああああッ!? ひっ、ぃ、ぎゃあぁあああああッッ!!?」


 ずる。
 ずる。

 ぽきぽき。


「来んな! 来んなよぉ!! 何だよ、何、」


 ぐちゅ。


「ぁ゙   ぐ、ぇ゙」


 ぽたぽた。

 ぶち。


「助、ぅ゙ ぐ、ぶ   ぁ゙っ」


 ごとり。

56 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:34:41 ID:wZ10/LDc0

ξ; ⊿ )ξ

川; - )



 『も ゥ  へィ き だォ』


 ずる、ずる、ずる。

 ごとん、ごとん。



 トイレの前から、生き物の気配が消えた。

 静かになった廊下に、クーはハッとした顔でドアノブを掴んで、ゆっくり捻る。

 私を抱える腕に力がこもるが、ゆっくりゆっくりと開かれたドアの向こうには、何も居やしなかった。


 床が濡れていたり、何か落ちていたりと言う事もなく。

 ただ敷いてあったマットが、引きずったような形によれていただけ。

57 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:35:18 ID:wZ10/LDc0

 お互いに支え合うようにして、ふらふらとトイレを出る。

 そして階段を、下からそっと覗いてみると
 例の部屋の中に引きずり込まれて行く、ぴくりともしない男の足が見えた。



 それから私たちは夜が明けるまで、煌々と明かりを灯したリビングで膝を抱えて過ごした。

 ぽつ、ぽつ、と言葉を転がしながら、空が白むまで待ち続けて
 先程までの出来事が、現実だと受け止めきれなくて。


 あの犯人の人、どうなったんだろう。
 ごはんに、なったんじゃないかな。

 上の人って、いったい何なんだろう。
 わかんない、少なくとも人間じゃないと思う。

 上、見に行く?
 行きたくない、けど。




 日が高くなってから、目の下にくっきりとくまを作った私たちは、例の部屋のドアを開けた。

 部屋には何の異常もなく、昨日と変わらずうっすらと埃が積もっているだけ。

 けれど部屋の入り口にだけ、擦ったようなあとがあって。
 それともうひとつ、窓が半分ほど開いていた。

 私たちは天井を見上げる事はなく、ドアを閉めた。


 背後で、キュイン、と一度だけ音がした。

58 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:36:20 ID:wZ10/LDc0





 数日後。



ξ゚⊿゚)ξ「あれからどう?」

川 ゚ -゚)「んー、そんなに変わらない」

ξ゚⊿゚)ξ「警察とかは?」

川 ゚ -゚)「何か、家の外にあの騒ぎ全然聞こえてなかったみたい」

ξ゚⊿゚)ξ「…………あのさ、ニュース見た?」

川 ゚ -゚)「……うん……」

ξ゚⊿゚)ξ「犯人の人……頬に傷のある……」

川 ゚ -゚)「うん……」


 あの夜から数日。

 近所のゴミ捨て場に、くだんの犯人の頭部が、空っぽの状態で見付かった。

59 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:36:43 ID:wZ10/LDc0

 無理矢理引きちぎられたような断面で、目も舌も無く、脳も入っていない。
 苦悶の表情を浮かべたその頭部は、まるで普通のゴミのように、ネットをかけて置いてあったらしい。


 ゴミ捨ての犯人はいまだ見つかっていない、と連日ニュースで耳にする。

 当然だ、見つかるはずもないだろうし、きっと何の痕跡も残っては居ないのだろう。

 恐らく今後その犯人は決して見つからないし、どこで頭部を引きちぎられたのかもわからない。

 あんな事を誰に言っても信用はされない。
 それどころか、訴えたこちらが異常者か容疑者扱いされるだけだ。


 だから私たちは、口を閉ざした。
 誰にも言わず、秘匿を貫くしかなかった。


川 ゚ -゚)「あの、さ」

ξ゚⊿゚)ξ「うん?」

川 ゚ -゚)「他のニュース、見た?」

ξ゚⊿゚)ξ「他の?」

川 ゚ -゚)「同じような、強盗とかの犯人のさ、目撃証言」

ξ゚⊿゚)ξ「あぁ……何だっけ」

60 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:37:03 ID:wZ10/LDc0

川 ゚ -゚)「目撃されたの、この近所、なんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

川 ゚ -゚)「私、思うんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「な、に?」

川 ゚ -゚)「窓さ、開いてたじゃん」

ξ゚⊿゚)ξ「うん」

川 ゚ -゚)「あれ、勝手に開くんだ、たぶん上の人が開けるんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「うん」

川 ゚ -゚)「あの、あれ、…………あれ、上の人が、招いたのかな、って」

ξ゚⊿゚)ξ「……へ、」

川 ゚ -゚)「上の人にさ、飯食うなって怒ってたからさ、自分で、さ」

ξ゚⊿゚)ξ「……蜘蛛の巣みたいに、餌がかかるように、してたって事……?」

川 ゚ -゚)「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

61 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:37:27 ID:wZ10/LDc0

川 ゚ -゚)「あの家が、私の家だとは、わかってるんだと思う」

ξ゚⊿゚)ξ「う、ん」

川 ゚ -゚)「あの部屋を巣にして、家の中をパトロールして、安全、保ってるのかも」

ξ゚⊿゚)ξ「子供の声、だったよね」

川 ゚ -゚)「だから甘いもの、好きなのかな」

ξ゚⊿゚)ξ「……もう、平気って、言ってた」

川 ゚ -゚)「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「どう言う意味だったのか、もう、わかんないよ……」

川 ゚ -゚)「…………父さんと母さん、今度、一旦戻ってくるんだ」

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)「食べない、よね?」

ξ゚⊿゚)ξ「…………私、その日、泊まる……」

川 ゚ -゚)「……うん」

62 ◆XuvvuSgErk 2017/08/19(土) 02:38:06 ID:wZ10/LDc0




 世の中には、科学的に解明できない事や
  警察の介入があっても、解決できない事がある。

 そうなると当然、当人の意思でもどうする事も出来なくて
  医者も薬も、その問題をどうにか出来たりなんてしない。

 もちろんそんな事は滅多に無いと思うけど、
  私はそんな滅多にない問題と、向き合う羽目になってしまった。


 向き合うしかないこの問題に、私はどう向き合えば良いのだろう。

 解決なんてしない、どうにかなんてできない。

 私には、どうする事もできない。

 得体の知れないものなんて、どうしようもない。



 解決なんて、出来やしない。

 この異常の終わりなんて訪れない。



 私達は何も出来ないまま、二階に巣食う不穏な存在に、ただ怯えながら過ごすしか無かった。



 おわり。

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