2 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:24:17 ID:keVm1sTcO


 ああ、それはきっと禁断の果実。

 僕は君の手を取ってはいけない。
 甘美な言葉に目を失い、欲望に従ってはいけないんだ。


 けれどなぜ、どうして、君は。



 君はそうも、しあわせそうに、僕にほほえみかけるの。



   【ちいさな楽園のようです】
       閲覧注意


 ああ、僕を見ないで。

 僕は醜いから、君の目を汚してしまいたくはないんだ。

3 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:25:48 ID:keVm1sTcO


 森の奥のそのまた奥に、とある男がただひとり。
 うっそう繁ったこゆい緑、ほうほう鳴くのは夜のとり。

 だあれも彼を知らなくて、だれもが彼を知っている。


 おおきな耳にながい角、森の奥に住むばけものは、人の子を拐いくってしまうよ。

 するどい爪で絡めとり、ぎらりと光る牙でかみ砕く。

 森の奥へはいっちゃ駄目だよ、ばけものにくわれてしまうから。


 だれもが口々にそう語り、だあれも森には近寄らない。

 ばけものと呼ばれる男は一人、いつもいつでもひとりぽっち。


  (ああ、僕がこんな姿だから)


 男は膝を抱えて、獣の耳を引っ張った。
 頭から生えたそれを、引きちぎろうと何度も力を込めてきた。

 だけれど耳を引っ張るたびにひどい痛みが走るから、いっつも引きちぎれずにいる。

 ながい角も折ってしまえば良いと思った。
 だけれどやっぱりとても痛んでしまうから、男は膝を抱えて涙を流す。

4 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:26:58 ID:keVm1sTcO

 村の人たちは、彼の事を知っている。
 異形のばけものだと口々に、彼に近寄ることもしない。


 村の人たちは、彼の事を知らない。
 本当はとてもとても臆病で、心優しい青年だと。


 ただ人と、すがたかたちが違うだけ。
 心はみんなと変わらない、ごくごく普通のさみしがりや。

 それなのに、だれもが彼を恐れるばかり。


  (ああ、僕が普通の姿なら)


 誰も怖がらせずに、人間として存在できたはずなのに。

 心優しい彼は、誰かを怖がらせたくないから、ひとり森の奥の奥。

5 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:28:12 ID:keVm1sTcO

  (どうして僕は、こんな姿なのだろう)


 恨むべき親の顔も知らない、誰も彼の出生を知らない。

 ただ森に住むばけものとしてしか、存在を許されていないように。
 さみしがりやの彼は、その現実を受け入れる以外の選択肢を持っていない。


  (どうして僕は、こうも臆病なのだろう)


 森の湖にでも飛び込んで、ひっそり消えてしまえば楽になれたのかも知れない。

 ただ彼はとても臆病だから、爪先を水につけただけで怖くなって逃げ出してしまう。


 それに、彼は水が好きじゃない。
 自分の姿を鏡のようにうつす、澄んだ水がおそろしい。


  (ああ、こわい、こわい、さみしいよ)


 ぽろぽろと涙をこぼして、抱えた膝に顔を埋める。

 ひとりぽっちは、死ぬことよりも怖いのに、死ぬこともできないなんて。

6 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:29:53 ID:keVm1sTcO


 そんな彼の住む森に迷い込んだのは、おさないおさない女の子。

 みじかい髪を揺らして、外套の裾を翻しながら森を進む。

 森の木々をきょろきょろと、周囲を眺めながら歩く少女。


ミセ*゚−゚)リ「……どこだろ、ここ」


 てっとこてっとこ、ひとりぽっち。


ミセ*゚−゚)リ「どうしよ、おつかいの途中なのにな……」


 うっかり足を踏み入れたくらいくらい森の中は、少女の方向感覚をいともたやすく奪い去る。

 そしてかわりに与えるものは、くらい森が奏でる鳥の声に木々のざわめき。
 植え付けられる闇への恐怖に、少女の足は動き続ける。

 歩いていないと森に食べられてしまいそうで、こわくて不安で心細くて、少しずつ涙がにじむ。

7 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:31:08 ID:keVm1sTcO

ミセ ゚−゚)リ「どう、しよ…………こわいや……」


 まだ十にも満たないおさない彼女に、森の闇は覆い被さる。
 頼りない手足を絡めとるように、その心を蝕む恐怖心。

 ゆっくりとした足取りから、早歩きになり、今は駆け足で森を進む。

 背中からのし掛かる闇と恐怖に、もう足は止まらない。


 けれどその足は、


ミセ;゚−゚)リ「きゃっ!?」


 木の根っこに引っ掛かり、たやすく動きを止めてしまう。

 ころんと地面に倒れた少女、その手にかけられていたかごから、果物が転がり落ちる。

 その果物の赤さが、森の闇にはよく映えて。

 急いで拾おうとするけれど、恐怖に飲まれた指先は小刻みに震え、手から逃げ出す赤い色。

8 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:32:17 ID:keVm1sTcO

ミセ;゚−゚)リ「ぁ……ま、待って……」


 ころころ、ころころ。
 拾おうとしては逃げ出して、指先が触れれば転がって。

 次第に涙が浮ぶ目尻を、こする事すら出来なくて。

  _,
ミセ ;−;)リ「…………っ、うぅー……も、やだよぉ……」


 ついに、ぽろぽろこぼれ落ちる涙。

 森はこわくて、転んだときにこさえた擦り傷はいたくて、おさない心は震えるばかり。



 それを影から眺めていた双眸は、戸惑いがちに視線をうろつかせる。

 助けてあげたいけれど、姿を見せたらもっと怖がらせてしまう。
 けれどあのままだと、彼女は森から抜けられない。


 そんなの、かわいそうだ。

10 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:33:27 ID:keVm1sTcO

 おそるおそる、影から抜け出したおおきなからだ。
 やさしくやさしく、転がる果物をすくい上げる。


 そうしてそっと、少女に手を差し出した。

  _,
ミセ ;−;)リ「っ!?」

( ´_ゝ`)「だい、じょう……ぶ……?」
  _,
ミセ ;−;)リ「ひっ、ぅ……だ、れ……!?」

( ´_ゝ`)「あ、の……森に、住んでる……怪我は、ない?」
  _,
ミセ ;−;)リ「やっ……こない、で……やだ……」


 突然現れた大柄なからだに、少女はびくりと肩を震わせ、後ずさる。

 そしておおきな男の顔を見上げて、その拒絶を色濃くした。


  (ああ、やっぱり、僕は醜いんだ)


 予想はしていた、けれど実際に感じると、拒絶は痛くて悲しいものだった。

11 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:35:34 ID:keVm1sTcO

 悲しそうに差し出した手を下ろし、地面に落ちたままのかごへ果物を戻す。

 かごを少女のそばに置いてやり、俯きがちに森の先を指差した。


( ´_ゝ`)「あっちにまっすぐ進めば、村への通りに出るから……暗いから、気を、付けてね」
  _,
ミセ ;−;)リ「…………」

( ´_ゝ`)「……ごめ、ん、ね……怖がらせて…………ごめん……」


 ぽそぽそと呟き、背中を向けて逆の方へと歩き出す男。

 その背中はひどく落ち込んだようで、のっそりとした足取りで少女から離れてゆく。


  (ああ、やっぱり、やっぱり、姿を見せるべきじゃなかったんだ)


 涙をこぼして、恐怖にひきつった少女の表情。

 あの顔を見たくなかったから、悩んでいたのに。
 勇気を出して姿を見せたりしたから、余計に彼女を怖がらせてしまった。

 かわいそうに、ただでさえ、この森の暗さは恐怖を呼び起こす。
 それなのに、そのうえに、こんなばけものを見てしまって。

12 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:38:19 ID:keVm1sTcO



 おおきな男の人が、拾ってくれたかごと果物。
 しばらく放心してから、それを胸に抱き締めた。

 あのひと、獣の耳があった。

 それに角もはえていた、ながくてねじれた二本の角が。


 あれが、あのひとが、森に住むと言うばけものなんだ。

 はやくここから抜け出さないと、はやく森から出ていかないと、きっと食べられてしまうんだ。



 少女はわらう膝を叱咤して、勢いよく、示された方向へと走り出した。

 彼の言葉を信じていいのかはわからないけれど、今は彼の言葉を信じて進むしかない。


 ばけものの言葉を本当に信じるのか、と少女の中の冷静な部分が問う。

 それに対して、恐怖に食われた彼女の心がこたえる。

  _,
ミセ ;−;)リ「今は……っはやく、森から出なきゃ……っ!」

13 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:40:22 ID:keVm1sTcO

 はやくはやく、この森から抜け出したい。
 お日様の光を全身に浴びて、胸に溜まった暗い空気を吐き出してしまいたい。

 そう走り抜ける少女の肌に、少しずつ木洩れ日がやさしく触れる。
 木々の隙間からのぞく外の世界に、やっと息苦しさが引いてゆく。


 それでもなお走り続けて、十分ほどたったころ、少女はやっと村への通りにその体を投げ出した。

 地面に転がるように森から飛び出した少女へ、大人たちは叱りつける。
 彼女の言い分も聞かずに、大人の言いつけを守れないからと叱責するばかり。

 これだから親無し子はとつらくあたられ、少女はぽろぽろ涙を流したままで、俯きながらごめんなさい。


 あんなに、こわかったのに。

 あんなに、はしったのに。


 だあれも、しんぱいしてくれない。


  (こわかったね、って……よしよししてほしかったなあ……)

14 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:43:03 ID:keVm1sTcO


 『森に入るから』

 『言いつけも守らずに』

 『ばけものに食われてしまうぞ』

 『まともにおつかいものも出来ないなんて』


 大人たちにさんざん叱られたその日の夜、ベッドの中でひとりぽっち。
 今日の出来事を、頭の中でぐるぐるめぐらせる。


ミセ ゚−゚)リ(森に住んでる、おおきな人……)


 おおきな耳と、角がある、獣のような男の人。
 森の暗さがとてもこわくて、怯えていたからよくわからなかったけれど。


ミセ ゚−゚)リ(おどおどしてて、やさしい声だった)


 ためらいがちに差し出された手を、何で掴まなかったんだろう。
 かごを拾ってくれたのに、どうしてお礼を言わなかったんだろう。

 帰り道まで教えてくれた寂しそうな背中は、聞いていたばけものの影には重ならない。

15 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:44:33 ID:keVm1sTcO

 確かに、すがたかたちはこわかった。
 わたしたちと違う形をしているから、見慣れないかっこうだったから。

 でも本当に、あのひとはこわいひと?


ミセ ゚−゚)リ(…………村の大人たちの方が、こわいかも……)


 自分を見下ろす冷たい目。
 頬を張り飛ばす大きな手。

 何をしても叱られる、親がいないからだと呆れられる。

 好きで親がいないわけでは無いけれど、彼女は自分の出生を知らないし、とくに知ろうとも思わない。

 ただぼんやりと、きっとずっとこのままなんだろうな、と諦めた顔で現実を受け入れていた。

 誰にも心配されず、誰にも頭を撫でられず、ひとりぽっちで生きるのだろう。
 幼くてもなんとなく、どことなく、すべてを諦め察していた。


 ああ、ひとりぽっちはさみしいな。
 あの人も、あんな森にひとりぽっちで、さみしいのかな。

16 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:46:04 ID:keVm1sTcO


 そんな彼女を心配する、ただ一人のにんげん。


( ´_ゝ`)(ちゃんと、村まで戻れただろうか)


 ぼろけた小屋の中、床に横たわり手足をちぢこめる。

 涙をこぼす少女の顔を思い出しながら切なそうに目をつむった。


( ´_ゝ`)(怪我は、してないかな……怒られたり、してないかな……)


 僕のせいであんなに怖がらせてしまったけれど、彼女は大丈夫だろうか。

 まぶたの内側に浮かぶきれいな赤い果物。
 触れた指先にはひんやりと、けれど甘い手触りを感じた。

 怖がらせてしまったし、その拒絶はとてもとても痛くて悲しかった。

 なのに、なぜだろう。


( ´_ゝ`)(久々に、他の人を見て、声を聞いた…………なんだか、嬉しいな……)


 ひとりぽっちじゃ無い気がして、少しだけ、ほんの少しだけ、幸せな気持ちが胸をあたためた。

17 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:48:15 ID:keVm1sTcO



 ほうほう、くらい鳥の声。
 ざわざわ、くらい森のざわめき。

 その日もかわらず森にひとり、ぼんやりと木々を見上げる彼がいた。
 ただぼんやりと、考えることは先日の少女のこと。

 短い髪に、細い手足、おさなくあどけない、かあいらしい顔立ち。


( ´_ゝ`)(泣いてたけれど、あの子が笑うと、かわいいんだろうな)


 きっと花が咲いたように、木洩れ日のように、あいらしく笑うのだろうな。

 しゃくりあげる声と拒絶の言葉しか聞いていないけれど、小鳥のようにきれいな声だった。
 この森の鳥のような、重くて心を潰すような威圧感なんてない、きれいな声だ。

 もう会うことも、見かけることもないだろう。
 あんな思いをしたのだから、家族が森に踏み入ることを許さないはずだ。


 それでも、また、会えれば良いなとわずかな期待をそっといだいた。

18 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:49:06 ID:keVm1sTcO

 木肌にそっと触れて、ざらつく感触をてのひらに感じる。
 二対の獣の耳を押し当てれば、こぽこぽ、木が水を吸い上げる音。

 それがほんとうに聞こえる音なのかは、獣の耳を持つ彼にしかわからない。
 けれど彼は、その音がなんだかいのちの脈動のように感じて、無性に好きだった。


( ´_ゝ`)(ああ……生きてるんだ)


 この森は暗くて迷いやすいから、人々からは嫌われている。
 でもこの森に生きる彼は、少なくとも、森を嫌ってはいない。

 自分以外のいのちを感じることが、好きだから。
 だから木々も鳥も、風の音も、少し怖いけれど、嫌いじゃない。


 がさり。


( ´_ゝ`)!


 そんな彼の耳に、森以外の音が流れ込む。

19 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:50:36 ID:keVm1sTcO

 慌てて木から離れて影に身を隠し、音の正体を探して首をめぐらせた。


 少し離れた場所から、足音が聞こえる。
 ちいさく軽い足音が、草木を掻き分けてなにかを探している。

 わずかな怯えを顔に浮かべて、音の方向をじっと見つめた。
 動物の足音とは違う、人の音。

 かすかな吐息も聞こえる距離までやって来た音の正体が、草むらからひょっこりと顔を出した。


ミセ*゚−゚)リ「たしか、このへんだった……気が、するんだけどな」

( ´_ゝ`)「っ!」

ミセ*゚−゚)リ「もっと、あっちだっけな……」


 顔を見せたのは、先日の少女。
 前に見た時とかわらない、外套をすっぽり着こんだ小さなからだ。

 手にはまた、赤い果物の入ったかごが下げられている。

20 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:51:30 ID:keVm1sTcO

 なぜ、またここに居るんだろう。
 どうして、またここに来たんだろう。


 そんな思考に飲み込まれる前に、道を外れて進む少女へと手を伸ばす。


( ´_ゝ`)(ああ、そっちは、沼があるから行っちゃいけない)


 足をとられてしまうと、抜け出せなくなってしまうから。
 少女の腕を掴んで行ってはいけないと言いたかったけれど、彼の手は途中でとまり、戸惑うように下ろされる。

 また拒絶されたら、どうしよう。
 今度怖がられたら、胸がはりさけてしまいそうになるに違いない。

 これ以上嫌われたくない、怖がられたくない。

 ああでも、進んでしまう、沼に飲まれたら、彼女はもがいて苦しみ、死んでしまう。


( ´_ゝ`)(嫌われるか……見殺しに、するか…………そんな、の)


 そんなの、嫌われるより、いやだ。

21 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:53:44 ID:keVm1sTcO


ミセ*゚−゚)リ(ちゃんと、お礼しなきゃ……助けてくれたのに、逃げちゃったから……)


 こっそり再び訪れた、くらいくらい迷いの森。

 足を踏み入れるのは怖かったけれど、あの人に謝って、お礼を言いたい。

 そして彼はひとりぽっちなのか、寂しくないのか、聞いてみたい。


ミセ*゚−゚)リ(わたしみたいに、ひとりぽっちなのか)


 聞いたところで、どうするかは考えていない。

 ただ無性に彼に会いたくて、ふしぎなくらい会いたくて。


 草むらの向こうへ足を踏み出そうとした瞬間、誰かに強く、腕を引かれた。

22 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:55:20 ID:keVm1sTcO

ミセ;゚−゚)リ「っ!?」

( ´_ゝ`)「そっち、は……危ない、行っちゃ、駄目だよ……」

ミセ;゚−゚)リ「ぁ……」

( ´_ゝ`)「そのさき、は……沼だから……入ると、危ない……」


 後ろを振り返り、声を見上げて、少女は表情を固くする。

 大きな耳、長い角、その姿はばけものと呼ばれるそれだから、思わずびくりと体が跳ねた。


 でも少しだけの間を置いて、彼の顔をよくよく眺めてから、足元へ視線を下ろす。

 そこには確かに、土の地面に同化するように、沼が広がっていた。


ミセ*゚−゚)リ「…………あり、が……と」

( ´_ゝ`)「っ」

ミセ*゚−゚)リ「こないだも、帰り道……教えてくれた」

( ´_ゝ`)「それ、は」

ミセ*゚ー゚)リ「……ありがとう」

24 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:56:32 ID:keVm1sTcO

 にっこりと、ほほえんだ。


 異形のばけものに、にっこりと。


 彼は想像もしていなかった反応に、想像していたよりあいらしいほほえみに、言葉をなくしてしまった。

 ぼおっと、笑顔の少女を見下ろす。

 自分を見上げて、手を振り払わず、ほほえむ少女を。


ミセ*゚ー゚)リ「どう、したの?」

( ´_ゝ`)「ぁ、ぇ……あ、の…………僕、が……怖くは、ないの……?」

ミセ*゚ー゚)リ「こないだ、びっくりして逃げて……ごめんね」

( ´_ゝ`)「そんな、こと……そんな……僕は……」


 僕は、こんなに醜いのに。

25 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:57:44 ID:keVm1sTcO

ミセ*゚ー゚)リ「もう、大丈夫だよ、離しても」

( ´_ゝ`)「あ……ご、ごめん……」


 掴んだままだった細い腕をそっと離して、か細い腕が壊れていないか、少し心配になった。

 けれど彼女は笑顔のまま、沼から少し離れるだけ。


 この間は、あんなに怖がっていたのに。
 どうして今は、平気そうな顔を見せるのだろう。

 無理をしているのかな。
 本当は、すぐにでも逃げ出したいのかな。

 それは当然だ、こんな僕を見たのだから。


 こんな僕を、そんな目で、見上げて。

26 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 21:59:18 ID:keVm1sTcO

ミセ*゚ー゚)リ(ああ、この人)


 すごく、優しいんだ。


 本当なら、この間に気付けたはずなのに。
 森の暗さに飲み込まれて、何もかもが怖くなっていた。

 だからこの人の、優しい顔つきに気付かなかったんだ。


 怖くないのかと尋ねる彼の方が、少女を怖がっているように見える。
 おどおどと、おろおろと、落ち着きなく少女から目をそらしては、また見てを繰り返す。

 へんなの、と少女はくすりと笑った。


ミセ*゚ー゚)リ「ねぇ、あなたは……ここに住んでるの?」

( ´_ゝ`)「あ、う、うん……」

ミセ*゚ー゚)リ「……ひとりぽっち、なの?」

( ´_ゝ`)「…………うん」

27 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:00:28 ID:keVm1sTcO

 やっぱり、ひとりぽっちなんだ。

 こんなに暗くて怖い場所に、ひとりぽっちだなんて。


ミセ*゚ー゚)リ「さみしく、ない?」

( ´_ゝ`)「……寂しい、よ」

ミセ*゚ー゚)リ「そっか……」

( ´_ゝ`)「君、は……どうして、ここに?」

ミセ*゚ー゚)リ「こないだね、ありがとうって言えなかったから」

( ´_ゝ`)「ぇ……」

ミセ*゚ー゚)リ「助けてくれたのに、言えなかったから、ごめんね」

( ´_ゝ`)「そんな、僕は、そんな」

ミセ*^ー^)リ「……ありがと」

29 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:01:54 ID:keVm1sTcO


 にっこり、ふんわり、濃くした笑顔。

 その笑顔があんまりにも明るくて、眩しくて、この森には不釣り合いで。


 僕は、なんだか、彼女が自分を見ていることが、見られていることが、急に恥ずかしくなってしまった。


( ´_ゝ`)「…………」

ミセ*゚ー゚)リ「?」

( ´_ゝ`)「森、は……危ないから……あんまり、は……その」

ミセ*゚ー゚)リ「……どうしたの?」

( ´_ゝ`)「あ、ぅ、ぁ……見な、い、で」

ミセ*゚ー゚)リ゙「?」


 顔を背ける僕を、首をかしげて覗き込む彼女。
 恥ずかしくて、情けなくて、思わず顔を覆ってしまった手が、小刻みに震えた。


 こんなきれいな笑顔に見つめられるなんて、たえられない。

 恥ずかしい、恥ずかしい、よ。

30 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:03:06 ID:keVm1sTcO

( ∩_ゝ∩)「僕を、見ないで……僕は、こんな、かっこうだから……」

ミセ*゚ー゚)リ「……ねぇ、どうしてあなたには、角があるの?」

( ∩_ゝ∩)「わか、らない……わからないよ……」

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあね、理由を見つけよう、あなたに角がある理由」

( ∩_ゝ∩)「僕の、理由……?」

ミセ*゚ー゚)リ「無意味なものって、ないと思うの、わたしがここに来たのは、あなたに会いたいから」

( ∩_ゝ∩)「…………」

ミセ*゚ー゚)リ「それと同じようにね、きっとあなたにも理由があるよ、だから見つけようよ」

( ∩_ゝ∩)「僕、の……」

ミセ*゚ー゚)リ「みんなは怖がっちゃうかもしれないけど、わたしは、怖くない」

( ∩_ゝ∩)「君は、僕が……怖く、ないの……?」

ミセ*゚ー゚)リ「怖くないよ、あなたはとっても優しいって、わかったから」

( ∩_ゝ∩)「ぅ、あ」

ミセ*^ー^)リ「……そうだ、角の理由ね、きっと森の中でもあなたを見つけやすいようにだよ」

( ∩_ゝ∩)「へ……?」

ミセ*^ー^)リ「わたしが、あなたを見つけやすいように……きっとそれが理由なんだよ」

31 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:04:06 ID:keVm1sTcO

( ∩_ゝ∩)「でも、でも、こんな、の」

ミセ*゚ー゚)リ「わたし、あなたに会いに来る」

( ∩_ゝ∩)「ぇ、」

ミセ*゚ー゚)リ「また来るよ、なんどでも、あなたに会いに来る」

( ∩_ゝ∩)「そ、な、どう、して」

ミセ*゚ー゚)リ「その理由はね、あなたとおともだちになりたいから」

( ∩_ゝ∩)「っ!」

ミセ*^ー^)リ「……また、会いに来てもいい?」

( ∩_ゝ∩)「…………────うん……」


 手のひらごしにもわかる、彼女のかあいらしい笑顔。

 その笑顔で言われてしまえば、もう、うなずくしかなかった。

32 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:05:30 ID:keVm1sTcO



 それから彼女はほんとうに、毎日毎日会いに来た。

 この暗い森の中を、たったひとりで、てこてこと。


 危ないよ、迷ってしまうよ、獣だっているんだよ。
 また沼に足をとられる事もあるかもしれない、崖から落ちるかもしれない。

 何度も何度もそうやって、彼は彼女を突き放そうとした。

 けれど一度知ってしまった甘美な時間、彼女の笑顔に彼女の声。
 臆病者の彼は、強く彼女を突き放す事なんて、できやしなかった。


 ひとりじゃない時間は、とても嬉しくて、とても暖かくて。
 それと同時に、とても恥ずかしかった。

 あんなに明るい、幸せそうな笑顔。
 眩しくて、眩しくて、見ていられない。

 そしてそんな彼女に、見られていることがたえられない。


( ∩_ゝ∩)(僕が普通のかっこうなら、普通の人間なら、こんな、こと)

33 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:06:35 ID:keVm1sTcO

 彼女と過ごす時間は、幸せだった。

 でも彼女と過ごすたびに、自分の醜さを思い知らされた。


 もう迷う事もなく、彼の元に彼女が訪れるようになった頃には、
 彼は地面に座り込んで、常に顔を手のひらでおおうようになっていた。


 見たいけど見ていられなくて、見られたくなくて。
 大きな二対の耳だけで、彼女の音を拾っていた。

 そんな耳にも、彼女は理由をくれた。


ミセ*゚ー゚)リ「どうして、顔を隠すの?」

( ∩_ゝ∩)「はずか、しい……から」

ミセ*゚ー゚)リ「でもそれじゃ、わたしが見えないよ?」

( ∩_ゝ∩)「聞いてる、から……だい、じょうぶ……」

ミセ*゚ー゚)リ「……じゃあ、その大きな耳はわたしの声を聞くためにあるのかな」

( ∩_ゝ∩)「君、の、声を……?」

35 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:08:25 ID:keVm1sTcO

ミセ*゚ー゚)リ「だって顔を隠してたら、見えないでしょ? そのかわりにちゃんと聞こえるように大きいんだよ」

( ∩_ゝ∩)「そ、か……そっか……」


 彼女がくれた理由は、彼女の声を聞いても良いという事だと思った。

 こんなに醜い僕でも、彼女のきれいな声を聞いても良いんだと。

 そんなことを口にしたら、彼女は戸惑うように笑うのだろうけれど。
 その笑顔すらもあいらしくてきれいなのだろうと考えて、少し口にしてみたいなとも思った。


 ─── この角は君が見つけやすいように?

 ─── そのおおきな耳は、わたしの声を聞くために

 ─── じゃあこの獣のような足は?

 ─── はだしで歩いても怪我しないでしょ?

 ─── なら、この尻尾は?

 ─── こうしてふかふかすると、とってもきもちいいからだよ

 ─── だったら、この鋭い爪は?

 ─── きっとわたしが危ない時に、助けられるように

36 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:10:09 ID:keVm1sTcO



 かわいい彼女は、醜い僕に理由をくれる。

 その理由ひとつひとつは、すべてが彼女のためだった。


 ああ、なら、きっと。


( ´_ゝ`)(僕が生きる理由は、すべて彼女のためにあるんだ)


 だから、そう、きっと。


( ´_ゝ`)(僕がこの姿にうまれたのも、彼女に出会うためなんだ)


 僕はやっと、はじめて、ついに、生きることにしあわせを見出だせた。


( ´_ゝ`)(どうしよう、僕は、今、とてもとても、幸せだ)


 雛のすりこみのように、彼女の存在をもとめてしまう。

37 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:11:55 ID:keVm1sTcO


 幼い彼女は何もむつかしく考えず、思い付くままに彼に理由を渡した。
 それらがすべて、自分のためになる理由。

 少しだけ、ひとりじめし過ぎたかなとは思ったけれど。

 彼が彼女に、すりこみのように依存するのと同じように。
 彼女もまた、無垢で優しい彼の存在に依存した。


 ふたりの雛が互いにすりこみ、互いの存在がなければ、息をすることも出来なくなるみたいに。

 暗い暗い森の奥の奥、幸せそうに雛たちは言葉をかわし続ける。


 それが愛だとか恋だとか、そんなことはどうでもよかった。
 どちらも、そんなことは考えもしなかった。

 お互いはおともだちであり、それ以上でも以下でもない。

 そのおともだちという存在に、互いのたましいを預けあうように依存しながら。


 ひとりぽっちのふたりぽっち。

 幸せそうに笑う彼女と、恥ずかしそうにうつむく彼。

38 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:13:24 ID:keVm1sTcO

 でも彼は、幸せであるにもかかわらず、いまだに顔をてのひらでおおう。

 たくさんの理由はもらったけれど、やっぱり自分の姿が恥ずかしい。

 座り込む彼に、彼女はいくどとなく手を差し伸べた。
 けれどその手をとる勇気は、まだ持てない。

 彼女に見られることは恥ずかしくて、彼女のきれいな目を汚してしまうことが怖くて。


( ´_ゝ`)(彼女の手を、とってはいけない気がする、彼女を独占しちゃ、駄目な気がする)


 臆病者がいだく、かけらのような理性。

 彼女の手をとることは、どちらかの今までが壊れてしまうこと。

 森に生きてきた彼の今まで。
 村で生きてきた彼女の今まで。

 どちらが壊れてしまうのかわからなくて。
 ばけものはばけものとして、彼女は人間として生きるべきだと、かけらがささやく。


 そのかけらを飲み込むのは、喉が痛くなってしまうから、やっぱり臆病者の彼は膝を抱えた。

39 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:14:45 ID:keVm1sTcO



 毎日毎日、森に入ってゆく少女。

 それをいぶかしむ村の人々に、ついに少女は捕まり詰問された。


 『毎日働きもせずどこに行くのか』

 『まさかばけものと会っているのか』

 『お前もばけものに食われてしまうぞ』


 (ちがう、ちがう、彼はそんな事はしないよ)


 『今まで良くしてやっていたのに』

 『この恩知らず、ばけものにみいられたお前もばけものだ』

 『もっと早くに、ばけものを殺すべきだったんだ』


 (やめて、やめて、彼にひどいことをしないで、あんなに優しいひとなのに)

41 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:16:18 ID:keVm1sTcO

 少女を問い詰め、なじり、何度もぶった村人たち。
 彼らは森へ、ばけものを狩りに行くと言い出した。

 そんなことはしないで、やめてあげてとすがる少女をまたぶって、村人たちは猟銃を手に取る。


ミセ; − )リ(どうしよう、どうしよう、わたしが森に行ってたから)


 わたしのせいで、彼が殺されてしまうかもしれない。


 痛むからだを引きずって、少女は森に入っていった村人たちを追いかける。

 手にはいつもの果物のつまったかごを下げて、とたとた森を走っていった。


 彼がいなくなったら、わたしの生きる理由もなくなってしまう。

 彼に理由をあげるたびに、それがわたしの生きる理由になった。

 ひとりぽっちで寂しくて、誰からも優しくされたことなんてなかった。

 そんなわたしに優しさをくれたのは、ゆいいつ彼だけなのに。


 わたしの、彼の今を、これからを、壊さないで。

42 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:17:38 ID:keVm1sTcO


 そんなことはつゆしらず、彼はいつも森の中。

 彼女が訪れることを心待ちにして、まだかまだかと耳を動かす。

 今日は、どんな話をしよう。
 どんな理由をくれるのだろう。

 話し疲れた彼女がうたた寝しても良いように、今日は尻尾の毛並みもととのえた。
 きっとふかふか、気持ち良さそうに撫でてくれるはずだ。

 そしてうとうと眠った時にだけ、顔をおおう手をどかして、彼女の寝顔を眺められる。

 きっと、幸せそうにほほえみながら眠ってる。
 その寝顔を見つめると、僕は、きっと、彼女の手をとる勇気が出せるに違いない。


 しあわせな情景を心にえがき、彼は少しだけほほえんだ。

 その笑顔もまた、とてもとても幸せそうで。


 だから彼は、耳に届いた足音が、彼女のものではないことに、気付かなかった。

44 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:19:40 ID:keVm1sTcO

 がさがさと揺れる草むらの音に、耳を立てて振り返る。

 いつもの彼女の笑顔を期待して、幸せそうに振り返る。


 けれど彼の目の前に突き出されたのは、冷たい銃口だった。


 誰が何をしているのか、思考が追い付かない。
 ただ引き金にかけられた指と、彼女の悲鳴に目を見開いた。



 ぱん、と、思っていたよりも軽い音。

 そして噴き出す熱いなにかと、悲痛な叫び声。

 続いて訪れる痛みは、不思議とつめたくて、彼はぼんやりと倒れ込む。


 真っ赤にそまった世界のなかで、彼女の泣き顔が見えた。

46 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:21:19 ID:keVm1sTcO



 ─── この角は君が見つけやすいように


 大人たちの背中に邪魔されて、彼女はそれを見つけられなかった。


 ─── そのおおきな耳は、わたしの声を聞くために


 大切なときに、彼女の声を聞くことができなかった。


 ─── この獣のような足は


 突然のことに、動きをとめたやくたたずな足。


 ─── なら、この尻尾は


 ああ、きれいに手入れをしてきたのに、もうべたべたに汚れている。

47 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:22:32 ID:keVm1sTcO



 ─── だったら、この鋭い爪は?



 彼女を傷つけるもの、みんな、みんな、引き裂くために存在するんだ。



 ふと意識を取り戻した彼が、ゆっくり体を持ち上げる。

 目にうつるのは、背中を向けた村人と、銃口を突きつけられて泣きじゃくる彼女。


 彼はためらうこともせず、村人の背中に飛び掛かり。

 その手をはじめて、血に染めた。


 べっとりと赤くそまった彼に、村人たちは恐怖の悲鳴をあげる。
 そのひきつった表情は、見ていて心がちくりとも痛まない。

 ただこんなかっこうになってしまったから、きっと彼女も怖がるだろうと、胸が切なくうずいた。

 でも今は、それよりも、彼女を傷つけようとするものを、壊さなければいけない。


 壊さなければ、いけないんだ。

49 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:23:58 ID:keVm1sTcO

 村人たちへ襲いかかる鋭い爪、それから逃げる村人たち。

 けれどそのなかの一人が、怯えながらも、彼の背中に近付いて、銃を構える。


 彼は背後に気付かず、ただ目の前のものを壊していた。

 だから彼女はかごの中に手を入れて、小さな小さな刃物を抜き取り。



( ´_ゝ`)「っ…………?」

ミセ*゚ー゚)リ「……大丈夫?」


 にっこりと、血に染まった笑顔を浮かべた。


 その手に握られた、赤くしたたる小さな果物ナイフ。

 足元に転がる村人と彼女を見比べて、彼もにっこりほほえんだ。


( ´_ゝ`)「君は、怪我は、ない?」

ミセ*^ー^)リ「わたしは、大丈夫だよ」

52 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:25:29 ID:keVm1sTcO

 真っ赤に染まったお互いが、にっこり互いにほほえみかける。

 その笑顔はとてもとても幸せそうで、とてもとても晴れやかで。

 逃げ出した生き残りの背中へ、拾った銃を向けて引き金を引くことにも、ためらいを見せなかった。



 静かになった森の中、二人は湖で汚れを落とす。

 肩をかすった彼の傷は、大したものではなく、手当てをすれば問題はない。
 心配そうに見つめる彼女の頭を、ちまみれの手で優しく撫でた。

 その優しい感触とあたたかさが嬉しくて、彼女はとびきり幸せそうに笑っていた。


ミセ*゚ー゚)リ「ごめんね、わたしのせいで、怪我させちゃって」

( ´_ゝ`)「ううん、僕が、君を守れたはずなのに」

ミセ*゚ー゚)リ「もう、大丈夫だよ」

( ´_ゝ`)「うん、大丈夫だね」

53 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:26:49 ID:keVm1sTcO

 にっこり、ふんわり、笑顔のふたり。

 暗い暗い森の中、ふたりはただ幸せそうに、幸せそうに、寄り添って。



 (ああ、それはきっと禁断の果実)


 彼女という、あまやかな果実


 (僕は君の手を取ってはいけない)


 彼女を壊してしまうことを、恐れていた


 (甘美な言葉に目を失い、欲望に従ってはいけないんだ)


 けれどもう、大丈夫

 だって僕らのいままでは、もう壊れてしまったから。

 これからが、ここから始まるんだ。


 だから、

54 名も無きAAのようです 2012/11/22(木) 22:28:10 ID:keVm1sTcO

ミセ*゚ー゚)リ「ねぇ、行こう?」

( ´_ゝ`)「うん、行こう」


 彼は彼女の手をとって。
 彼女は彼の手を握って。


 ふたりはのんびり、ゆっくりと、森の奥へと進んでいった。

 踏み出した足の着地点は、底無し沼か、ただの地面か。

 それはだれにもわからなくて、ふたりは何も考えない。



 一人の少女とひとりのばけもの。

 ふたりのにんげんにとって、互いの存在する場所こそが楽園でしかなかった。

 はじまりの男も女もいない、蛇と果実だけの楽園。

 そこには罪も罰も、存在なんてするはずがない。

 ただふたりは、幸せそうにほほえんで、ずうっと寄り添い森の中。

 ふたりのおわりは、きっとどこにも存在しない。


 そこが、ちいさな楽園だから。


おしまい。

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