- 111 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:05:08 ID:vy6bFI2MO
そこは深く暗く、鬱蒼とした森の奥の奥。
ぞろりと天を睨む様に聳える、蔦を這わせた灰色の塔。
周囲には森があるだけ。
聞こえるのは夜の鳥の声に木々のざわめき。
緑と土の匂いが溢れるそこに住むのは、二人。
一人は長身細身の、暗い顔をした魔導師。
もう一人は、非常に美しく整った顔立ちの従者。
【塔のようです】
【六話 ご主人様、大概にしろ。】
そこはいつも、陰鬱とした空間に存在する。
- 112 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:06:42 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「ご主人様、お手紙が届いてます」
('A`)「届いてない日があった気がしない」
川 ゚ -゚)「こないだのスーパーゲームボーイは送り先間違えたみたいです」
('A`)「魔王軍はどこにスーパーゲームボーイを送ろうとしていたんだ」
川 ゚ -゚)「お隣さんです」
('A`)「どう言う事なの」
川 ゚ -゚)「そのお隣さんから今度は大量のへちまが届いてます」
('A`)「食えねぇ」
川 ゚ -゚)「へちま料理って無いんですかね」
('A`)「へちま水とたわししか作れる気がしない」
川 ゚ -゚)「一応食べる地域はあるみたいです」
('A`)「じゃあ料理してみるか」
- 113 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:08:06 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「しかし瓜系は足が早そうですね」
('A`)「残ったのはたわしにするよ」
川 ゚ -゚)「久々のあまり嬉しくないお野菜ですね」
('A`)「へちまを野菜と言われて沸き上がるこの違和感はどうしようもないと思う」
川 ゚ -゚)「小学生が育てるレベル」
('A`)「ところで、お隣さんはスーパーゲームボーイどうしたの?」
川 ゚ -゚)「大画面でカエルのために鐘はなるやってました」
('A`)「神ゲーか、ならしょうがない」
川 ゚ -゚)「まずお隣さんの家には普通に電気が通じてて驚きましたよ」
('A`)「だってお隣さんは普通の一軒家だし、ここ数百年前から遺棄されてた廃墟同然の塔だし」
川 ゚ -゚)「何でこんなとこ住んでるんですか、むしろなぜ住み始めたんですか」
('A`)「土地代込みで死ぬほど安かったから」
川 ゚ -゚)「ならしょうがないですね」
('A`)「な、しょうがないだろ」
- 114 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:10:12 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「そう言えばご主人様、街の魔導師が凄い勢いで手柄をあげてるみたいですよ」
('A`)「ふーん」
川 ゚ -゚)「名声に興味がないのはわかってますが、何か悔しくないですか?」
('A`)「いや別に」
川 ゚ -゚)「ご主人様より10歳も下の若造なんですよ? 前に街に行った時に見かけましたけどマジ若造」
('A`)「若さはそのまま強みにもなるからなあ」
川 ゚ -゚)「悔しくはないのですか? 嫉妬したりしないんですか?」
('A`)「非合理的」
川 ゚ -゚)「効率厨うっぜ」
('A`)「若いから名声とか地位も欲しくなるだろうし、若い芽を摘む気もないし……それに」
川 ゚ -゚)「それに?」
('A`)「腕は、間違いなく俺の方が良いから」
- 115 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:12:18 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「凄い自信ですね、珍しい」
('A`)「多少の自負は自己を保つのに必要なもんだよ、根拠もある」
川 ゚ -゚)「根拠と申しますと」
('A`)「その青年は王室専属になれと週一回通知が届く?」
川 ゚ -゚)「通知が来る頻度上がりまくってんじゃないですか、王室切羽詰まってるんですか」
('A`)「知らん、それにその青年が俺と同じ生活を出来るとも思えない」
川 ゚ -゚)「僕と二人で過ごすと言う煩悩と理性のせめぎあいが巻き起こる生活ですか」
('A`)「ここの水も火も電気も裏の畑も空気洗浄も木の手入れも塔の維持も、俺がしてる」
川 ゚ -゚)「流さないでくださいよ……と言うか、そういや全部やってるんですか?」
('A`)「うん」
川 ゚ -゚)「いつ?」
('A`)「常に」
- 116 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:15:51 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「……常に?」
('A`)「今こうして話してる間も、俺は常に魔力を放出してここを生活出来る空間にしている」
川 ゚ -゚)「ご主人様、常々思っていた上に言った事もありますが、化け物でしょうあなた」
('A`)「だから言っただろ、その青年には無理だって」
川 ゚ -゚)「いや、どんな修行すればそうなるんですか、気持ち悪い域ですよそれ」
('A`)「ただのガリ勉じゃないんだから、魔力の使い方くらいお手のものだよ?」
川 ゚ -゚)「いや、いや……いや」
('A`)「だから外に出たくないし、何しても疲れるしめんどくさい」
川 ゚ -゚)「最後のは間違いなくご主人様の性根が歪んでるからですが」
('A`)「お前は本当にひどいメイドだ」
川 ゚ -゚)「前にも聞きましたけど……本当に、ここ維持してたんですね」
('A`)「うん」
- 117 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:17:56 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「でもたまにシダックス行ってますよね」
('A`)「シダックスに行くのはクーが街に行ってる時だし、結界張ってるから」
川 ゚ -゚)「そうまでしてシダックス行きたいんですか」
('A`)「たまには普通の飯を食わないと死ぬ」
川 ゚ -゚)「ご主人様、お亡くなりになるご予定が迫っております」
('A`)「俺が死ぬ事を前提に話を進めようとするな」
川 ゚ -゚)「わかりました、つまりご主人様は若造に手柄を取られようが悔しくも妬きもしないと」
('A`)「うん」
川 ゚ -゚)「じゃあその若造がご主人様を嘲っていたら?」
('A`)「若いんだなあ」
川 ゚ -゚)「大人ぶって達観した様に言わないでください」
('A`)「一応は普通に大人なんだけど」
- 118 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:20:21 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「ご主人様を老いぼれに近いだのただの陰気な男だのと笑うのですよ?」
('A`)「老いぼれはひどいと思う、まだ30代だし働き盛りだし」
川 ゚ -゚)「……ソリテール家も落ちぶれたものだと、笑われても平気なんですか」
('A`)「それも事実だよ、俺が家出をしたからだ」
川 ゚ -゚)「…………気味の悪いメイドを従えている、とも、言っていました」
('A`)
川 ゚ -゚)「ご主人様は……何も、悔しくはないのですね」
('A`)「クー」
川 ゚ -゚)「はい」
('A`)「昼飯」
川 ゚ -゚)「……わかりました」
('A`)「俺、仕事あるからクーの分は待ってね」
川 ゚ -゚)「はい……」
- 119 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:22:40 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「気味悪くねーよ、くそったれ」
川 ゚ -゚)「ちょっと無表情なだけの美メイドだっつーの」
川 ゚ -゚)「ご主人様もご主人様だよ……何で平気そうな顔してんだよ」
川 ゚ -゚)「どうせ、死んでも悲しくないもんな……僕なんて」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「へちまの味噌汁……」
川 ゚ -゚)「ん……あれ、コンロに火がつかない」
川 ゚ -゚)「え、水も出ないし、冷蔵庫が常温になってる」
川 ゚ -゚)「えー、なにこれ……テンション下がるー……」
川 ゚ -゚)「ご主人様、ご主人様ー? 何かキッチン調子悪いのですがー」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「? 聞こえないのかな……ご主人様ー?」
- 120 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:24:08 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「ご主人様ー、ご主人様ー? キッチンが……」
川 ゚ -゚)「あれ……自室に居ない……って事は、地下の図書室かな」
川 ゚ -゚)「ご主人様ー?」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「何か街の方から凄い音したな今」
川 ゚ -゚)「んもー、ご主人様ー?」
('A`)「どしたー?」
川 ゚ -゚)「ああご主人様、どこに居たんですか」
('A`)「ちょっと裏の方に」
川 ゚ -゚)「何かキッチンの調子悪いんです、コンロつかなくって」
('A`)「んー、どれどれ」
川 ゚ -゚)「こっちですこっち」
- 121 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:26:31 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「あれ」
('A`)「点くよ、火」
川 ゚ -゚)「っかしいなあ……さっきまで水も出なかったのに……」
('A`)「接触悪かったんだよ、ほら戻ったんだし飯作ろう」
川 ゚ -゚)「お仕事は?」
('A`)「終わった」
川 ゚ -゚)「どんな仕事だったんですか、毛布の裾が焦げてますよ」
('A`)「ローブって言って、良いからほら、腹減ったよ」
川 ゚ -゚)「はいはい、全くご主人様は」
('A`)「へちまの味噌炒めのレシピあったから作ってみるかー」
川 ゚ -゚)「何か不思議ですね、へちま食べるって」
('A`)「だなあ、食べ物のイメージが無い」
川 ゚ -゚)「ですねえ」
- 122 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:28:46 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「何か街の方が賑やかですね」
('A`)「爆弾テロか何かがあったらしいよ」
川 ゚ -゚)「マジですか、魔王軍でも来ちゃったんですかね」
('A`)「いや、お礼参りらしい」
川 ゚ -゚)「ヤンキーじゃないんですから……」
('A`)「久々だなあ自分で攻撃魔法放ったの」
川 ゚ -゚)「はい?」
('A`)「何でもない、腹減った」
川 ゚ -゚)「はいはい、今作ってますよ」
('A`)「怪我はさせてないし良いよね?」
川 ゚ -゚)「何がですか?」
('A`)「いや、何となく」
川 ゚ -゚)「? まあ良いや、それよりご主人様は何を作るんですか、味噌炒めですか」
('A`)「グラタン」
川 ゚ -゚)「グラタンに固執しすぎでしょうご主人様、何がそこまでご主人様を掻き立てるんですか」
- 123 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:30:27 ID:vy6bFI2MO
('A`)
『よう若造、君が最近有名になった魔導師か』
『はぁ? 誰だよおっさん』
『ドクオ・ソリテール、うちのメイドを蔑ろにして良いのは俺だけなんだよね』
『は? 何言って、』
『ついでに現実も思い知らせてあげよう、なあにちょっと熱いだけだよ』
『ドクオってあのドクオかよ、老いぼれは引っ込んで』
『時は来た 許されざる者の頭上に星砕け 降り注げ』
『えっ』
『じゃ、帰るわ』
『ちょっ』
('A`)
('A`)「疲れた」
- 124 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:32:11 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「出来ましたよご主人様」
('A`)「俺も出来た」
川 ゚ -゚)「んじゃ食べましょうか」
('A`)「メテオはやり過ぎたかなあ」
川 ゚ -゚)「何の話ですか」
('A`)「腹減った、食おう」
川 ゚ -゚)「はいはい」
('A`)「嫉妬されてたのかなあ」
川 ゚ -゚)「ご主人様、どの面下げて」
('A`)「お前はひどい、間違いなくひどい」
川 ゚ -゚)「その面下げて嫉妬とか」
('A`)「俺もなかなか堪え性がない」
川 ゚ -゚)「ご主人様、独り言が大きくはありませんか」
- 125 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:34:29 ID:vy6bFI2MO
('A`)「この味噌汁すごく前衛的な味がする」
川 ゚ -゚)「こっちは割と普通に美味しいです、ホワイトソースは万能」
('A`)「ある種の独占欲かな」
川 ゚ -゚)「会話のキャッチボールしませんか」
('A`)「味噌汁に脳がやられてるから無理だ」
川 ゚ -゚)「僕の味噌汁で世界を狙えるレベル」
('A`)「お前が魔王なんじゃないのか」
川 ゚ -゚)「世界の半分あげましょうか」
('A`)「めんどくさいからいらない」
川 ゚ -゚)「無欲すぎます」
('A`)「だって間違いなく管理がめんどくさい」
川 ゚ -゚)「まあ確かに」
- 126 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:36:13 ID:vy6bFI2MO
('A`)「クー」
川 ゚ -゚)「はい」
('A`)「今日は一緒に風呂に入ろうか」
川 ゚ -゚)
('A`)
川 ゚ -゚)「心から気持ち悪い」
('A`)「自分でもそう思った」
川 ゚ -゚)「親子ほど歳が離れてるのに引きますわ」
('A`)「いや変な意味じゃないよ」
川 ゚ -゚)「それでも引きますから」
('A`)「さすがに自己弁護がしづらい」
川 ゚ -゚)「どういった風の吹き回しですか気持ち悪い」
('A`)「気持ち悪いが語尾みたいに言うのやめて」
- 127 名も無きAAのようです 2011/11/05(土) 21:38:08 ID:vy6bFI2MO
川 ゚ -゚)「一緒にお風呂に入りたいんですか」
('A`)「いや、うん、忘れて」
川 ゚ -゚)「無理です気持ち悪い」
('A`)「本当ごめんもうやめて」
川 ゚ -゚)「若さ故の過ちですか」
('A`)「うん」
川 ゚ -゚)「若くありませんよね」
('A`)「言われると思った」
川 ゚ -゚)「一緒に入ったあとでお風呂掃除してくださいね」
('A`)「いつも俺が洗ってるけど」
川 ゚ -゚)「だから一緒に入るって事ですよ、言わせないでください気持ち悪い」
('A`)「えっ?」
川 ゚ -゚)「ほらさっさと食べる」
('A`)「あ、はい」
【六話 おわり】