- 3 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 01:48:07.95 ID:o1pnltDdO
-
涙に濡れるは鎌鼬。
怒りに燃えるは鎌鼬。
悔やみ項垂れるは鎌鼬。
その拳を受けるから。
その刃を受けるから。
どうか皆に薬をおくれ。
【( ^ω^)百鬼夜行のようです。】
『第二話 三人組之旋風 後』
泣かないで。
お願いだから。
もうやめて。
お願いだから。
鎌鼬が泣いている。
- 5 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 01:50:07.01 ID:o1pnltDdO
-
温くなった麦茶を片しながら、どくおが手当てされた指を見る。
そして薬の片付けをする狸、たからを見て、ぼんやりと口を開いた。
( A )「なァ、たからよ」
(,,^Д^)「はい?」
( A )「鎌鼬ってなァ、何なんだ」
(;,^Д^)「え、」
ふいとたからに背を向けて呟いたどくおに、たからの肩が大きく跳ねた。
びくんと音がせん勢いで肩を跳ねさせ、勢いよく後ろのどくおを振り返る。
しかしそこには、盆に湯飲みを乗せて片付けるどくおの姿。
怒りに震える鬼の顔を想像していたたからは、ほんの少しだけ胸を撫で下ろす。
思ったよりは、怒っては居ないらしい。
しかし、このどうにも云えない状況に変わりはなく。
- 7 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 01:52:12.33 ID:o1pnltDdO
-
( A )「耳な、良いんだ、俺ァよ……鎌鼬の事話してんの、聞こえてたんだ」
(;,^Д^)「あ、そ、その、あの」
( A )「何だ、云えよ」
(;,^Д^)「あ、あの、あの、その、」
( A )「云えよ、ほら、云え」
(;,^Д^)「あ、う、ぅ」
( A )「云えよ、おい、あ? 云えよ、たからよ」
前言撤回。
この鬼は、顔を見せないだけで、怒り狂っている。
その証拠に、ほら、
鬼が握る湯飲みが、罅を走らせ、びしりと鳴いた。
- 9 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 01:54:13.15 ID:o1pnltDdO
-
冷たい汗をだらだらと流して、たからがぺたんと座り込む。
どくおの背中を見つめ、顔色を無くして僅かに震える。
ああ餓鬼と云えども鬼は鬼。
その恐ろしさたるや、言葉に表せる物ではなく。
長く生きただけの化け狸が、鬼の貫禄に敵う筈がない。
背中が痛くなるほどの怒りを感じて、たからはじりと後退る。
と、愛らしい声が、獣の耳に舞い込んだ。
(#゚;;-゚)「あ……あのぅ……たからのあにさま、いてはります……?」
(;,^Д^)「っ! で、でぃさんっ!?」
('A`)「あ……?」
- 10 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 01:56:07.10 ID:o1pnltDdO
-
冷や汗を垂らすたからに声を掛けたのは、橙色のおべべの幼子で。
その容貌は未だ一桁のお子であり、長い黒髪を垂らして僅かに顔を隠している。
幼子は愛らしいお声でたからを呼んで、着物の袖を軽く噛む。
愛らしく幼い顔には無数の傷があり、
隠さず晒した獣の耳は、片方が千切れて存在しない。
そんな幼子の姿と声に、たからは更に顔色を無くしてあわてふためく。
それもその筈、このお稚児。
今しがた話題に上っていた、鎌鼬の末っ子、薬役のでぃであるのだから。
(#゚;;-゚)「あ……たからのあにさまぁ……あんね、往診にきてほしいて、連絡が……」
(;,^Д^)「わ、分かりました! 分かりましたから、でぃさんはっ!」
('A`)「ようちび、鹿の子食うか」
(#゚;;-゚)「ぁ……どくおのあにさま、おひさしゅう…………食べるぅ」
('A`)「おう、相変わらずちんまいな、ほら食え」
(#゚;;-゚)「へ、へぇ……いただきますぅ……」
- 11 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 01:58:03.87 ID:o1pnltDdO
-
縁側に立つでぃを座らせ、紙に乗せた栗鹿の子を手渡すどくお。
傷だらけのお稚児は嬉しそうに顔をほころばせ、むぐ、と菓子を頬張った。
もぐもぐ、と噛めば噛むほどに口いっぱいに広がる甘さ。
鼻に抜ける栗の優しい匂いを感じながら、程好い甘味を堪能する。
幸せそうな顔をするでぃ、それを心配そうに見守るたから。
そんな二人の間に割って入る様に、どくおがでぃの近くで腰を屈めた。
('A`)「ん、美味いか」
(*#゚;;-゚))゙「おいひー……」
('A`)「なら良かった、ところで何で辻斬りに参加してねんだ」
(;#゚;;-゚)「むぐっ!?」
(;,^Д^)「どっ、どくおさんっ!?」
ぽんぽん、とでぃの頭を軽く叩き
普段と変わらぬ口調で、さらりとでぃに問い掛ける。
それを聞いたでぃは栗鹿の子を喉に詰まらせ、たからが声を上げていた。
- 14 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:00:17.32 ID:o1pnltDdO
-
('A`)「上の二人は辻斬りしてんだろ、何でお前は参加してねェ?」
(;#゚;;-゚)「ぐっ、けほっ、げほっ、ぇふっ」
(;,^Д^)「でぃさん、大丈夫ですかでぃさんっ!?」
('A`)「あー茶ァ飲め茶ァ」
(;#゚;;-゚)「うぐっ、ぐ、んっ、んっ……ぷは……ぉ、おおきに……」
げほげほ、と苦しそうに胸を叩くでぃに、温くなった麦茶を渡す。
たからに背中を撫でられながら、喉に詰まっていた鹿の子を茶で押し流すと、
でぃは深く息を吐いて、どくおに小さく礼を延べた。
茶碗の中を空っぽにすると、どくおにそれを返してほっと息を吐く。
冷たい茶碗を手の中でくるりと回し、どくおは再び口を開いた。
- 15 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:02:10.70 ID:o1pnltDdO
-
('A`)「で、何でだ」
(;#゚;;-゚)「ぁ、う……あの……その……」
落ち着いたでぃに、いつもと変わらぬ調子で問うた。
でぃ当人はどう思っているかは分からぬが、
端から聞いているたからにすれば、どくおのその口調が恐ろしくてしようがなくて。
('A`)「お前が居りゃあ、怪我人なんか出ないだろ」
(#゚;;-゚)「…………ごめん、なさい……」
('A`)「謝るのは俺にじゃねェ、俺には理由を寄越してくれ
じゃなきゃあよ、ちびを、ぶン殴っちまいそうで怖ェんだ」
(;,^Д^)「ど、どくおさんっ!!」
どくおの言葉に、たからが身を跳ねさせて押さえようとする。
しかしその手を軽く払いのけ、どくおの口は続けて言葉を紡ぐばかり。
- 17 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:04:13.10 ID:o1pnltDdO
-
('A`)「だからよちび、教えろ」
(#゚;;-゚)「……へぇ」
(;,^Д^)「でぃさん、無茶はっ」
('A`)「お前は黙ってろ狸」
(;,^Д^)「っ!」
しゃんと冷たく言われてしまえば、狸にはもう口出しなど出来よう筈もなく。
ただ、はらはらとしながらでぃとどくおを見守るばかり。
それを知ってか知らずか、でぃは俯きがちに、申し訳なさそうに眉を顰めていた。
そうして、小さな口が、たどたどしく言葉を選んで吐き出す。
- 18 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:06:16.87 ID:o1pnltDdO
-
(#゚;;-゚)「…………あんね、しぃちゃんが……鎌鼬を保たれへんなってるの……」
('A`)「……ああ、聞いてた」
(#゚;;-゚)「それでね、うちらの本能に従ったら、鎌鼬を保てるの……」
('A`)「ああ……それも、知ってる」
(#゚;;-゚)「せやから、しぃちゃんはうちに……鎌鼬としての仕事、しよ、て……」
('A`)「……」
(#゚;;-゚)「でもうち……嫌やったの……たからのあにさまとこで、痛がる人、よう見てたから」
('A`)「…………」
(#゚;;-゚)「怪我はなおるかもしれへんけど……痛がるのわかってたから……嫌やったの……」
- 19 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:08:05.24 ID:o1pnltDdO
-
('A`)「………………」
(#゚;;-゚)「うちが嫌がったら、止めてくれるかもって、思ったの…………でも……」
('A`)「止めずに、二人で辻斬りを始めたと」
(#゚;;-゚)「……うん…………すぐ、やめるように云おうと思ったけど……」
('A`)「会いに行きづらかったのか?」
(#゚;;-゚)「…………うん、しぃちゃんたちを、裏切ったんやもん……口、きいてくれへんと思って……」
('A`)「……で、今に至ると」
(#゚;;-゚)「……ごめんなさい……うちのせいで、みんな傷付けて……
ないとうのあにさまも、お怪我なさったて聞いて……ほんまにごめんなさい……」
(,,^Д^)「でぃさん…………」
- 20 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:10:15.03 ID:o1pnltDdO
-
('A`)「…………確かに、どれもこれも我が儘だァな」
(# ;;- )「ごめん……なさい…………」
('A`)「鎌鼬が妖怪止めたくねェってのも、ちびが薬役を嫌がったのも」
(# ;;- )「…………」
('A`)「俺が坊っちゃんを心配すんのも、みんな我が儘だ」
(,,^Д^)「どくお、さん?」
('A`)「ちび」
(#゚;;-゚)「ふ、ぇ?」
('A`)「…………一発だけ叩かせろ」
(#゚;;-゚)「っ!」
('A`)「んで、傷治して回れ」
(#゚;;-゚)「…………ぁ……」
('A`)「歯、食い縛れ」
(#゚;;-゚)「……へぇっ」
- 22 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:12:06.25 ID:o1pnltDdO
-
歯を食い縛り、強く目を瞑って、どこから訪れるかわからない痛みにでぃは備えた。
けれどその痛みは、予想だにしなかった場所、額から訪れる。
ぱちん! とどくおの指はでぃの額を弾いて、
それ以上、幼い鎌鼬を痛め付ける事をしようとはしなかった。
(;#゚;;-゚)「ぅぇっ?」
('A`)「よし、んじゃ行くぞ」
(,,^Д^)「どこに、ですか?」
('A`)「何とかならねェか、知恵借りに」
きょとんとした顔で額を押さえるでぃの頭を、ぐっしゃぐしゃに撫でると
どくおはよっこらせと立ち上がり、頭に巻いていた手拭いを外した。
その顔には怒りなんかは存在せず、
ただ、これから会う相手に対する嫌そうな表情だけがあった。
- 23 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:14:10.56 ID:o1pnltDdO
-
(;^ω^)「おおおおおおおおおおおおっ!!!?」
(#*゚∀゚)「逃げとんじゃあねェよ豆大福がァアッ!!」
(;^ω^)「うおおおおお! ちょ、ま、や、止めるお! つう!!」
(#*゚∀゚)「お断りッてんじゃボケがああッ!!」
盛岡屋の外へと転がる様に飛び出した坊っちゃんは、
首に巻いた管狐であるしょぼんを離さぬように、しっかと握り締めていた。
そして、そんな坊っちゃんを追って来るは鎌鼬の二番目。
赤い振り袖を振り回し、白い腕から生えた銀の刃で坊っちゃんを狙う。
娘にしては短い黒髪を振り乱し、その顔はただただ怒りに燃えるばかり。
ぎらりと刃物に似た輝きを持つその赤い双眼は、坊っちゃんを獲物として見ていた。
周りの人々を蹴飛ばして、何とか逃げようとあわあわ走る坊っちゃんを追う、つう。
その怒りの原因は恐らく、否、間違いなく、姉の涙。
- 26 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:16:05.27 ID:o1pnltDdO
-
(#*゚∀゚)「待ッてやコラァアッ!!」
(;^ω^)「おぎゃああああああああ! 待ったら死ぬおおおおおおおおお!!」
(#*゚∀゚)「当たり前じゃ殺すッ! 姉さまを泣かす奴ァ殺すッ!!」
(;^ω^)「もうやだこのしすこん!!」
腕の鎌を巧みに操り、つうは坊っちゃんの身を刻もうと狙う。
しかし坊っちゃんは、大福に似た体型で、片足が使えぬと云うのに動きが素早く
ひらりひらりと鎌をかわして、羽織の袖や裾を斬られる程度の被害で済んでいた。
それが余計に癪にさわるのか、つうは執拗に坊っちゃんを追い回す。
素早さでは誰にも負けぬ妖怪、鎌鼬。
その自尊心を傷つけられた様な気がして、苛立ちは募る一方。
逃げ足だけは早い坊っちゃんにすれば、そんな事は知ったこっちゃなく
それよりも、今現在の殺されかねないと云う恐怖から逃れる事で精一杯。
- 28 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:18:26.35 ID:o1pnltDdO
-
振り回される鎌は、時折ざしゅりと布を斬る。
けれどもその刃が血に濡れる事はなく、つうは赤い目を輝かせて歯軋りをした。
苦労をしてきた愛しの姉。
己を保てず涙する姉。
罪悪感に押し潰されそうな姉。
妹に見放されたと悲しむ姉。
幼い頃より、そんな姉を愛して生きてきた。
親の代わりに己と妹を育てる姉だけを、愛して生きてきた。
妹は可愛いし、愛している。
けれど姉に対する愛は、それとは毛色が違う。
(#*゚∀゚)「俺の姉さまを傷付ける奴ァ……俺がずぇえったい許さねェエエッ!!」
それが女に対する想いと同じとは、つう当人も気付きはしない。
- 29 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:20:07.04 ID:o1pnltDdO
-
誰よりも聡明で誰よりも愛らしくて誰よりも美しくて誰よりも誰よりも愛しくて。
その想いは真っ直ぐで、何処か破れ綻びていた。
大好きな大好きな姉さまが云うから、自分は喜んで刃の役目をした。
妹は悲しそうな顔で首を横に振ったが、妹を悪く思う事もなかった。
だってほら、本当はこれは良くない事。
頭じゃ分かるが心じゃ理解を拒絶する。
だから二番目は何も云わず、ただただ鎌鼬としてある行動を選んだ。
それもこれも、姉さまが、いとおしいから。
そうして大好きな大好きな姉さまに会いに来たら、姉さまは泣いていた。
姉さまの側にはどうにも見覚えのある男が居て。
けれどもその男が知り合いだとかそうじゃあないとかは関係なく。
ただ この男は姉さまを泣かした。
それだけで、十分だったので御座います。
- 31 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:22:17.17 ID:o1pnltDdO
-
ざん、ざん、と姉さまを泣かした男を刻む為に鎌を振るう。
しかし鎌は嘗めたくてしようのない男の血にありつく事が、なかなか出来ず。
つうは飾り気のない短い黒髪を靡かせ、
姉さまを泣かした男を、ひたすらに食い千切ろうと腕を動かした。
通行人の血を嘗める事はあっても、目的の男の血を嘗められないのでは意味が無い。
ああ、ああ腹立たしい。
この憎たらしい大福野郎を、傷付ける事すら叶わぬと云うのか。
己じゃあ、姉さまの仇を討つ事も出来ぬと云うのか。
大変利己的である思考に一分の疑いも疑問も抱かず、
つうは、右足を後ろへぐううと振り上げる。
そしてその足を、勢い良く前へと蹴り出した。
白い足から離れる、赤い鼻緒の下駄。
それは勢いよろしく、真っ直ぐに前へと飛んで行き。
ゴインッ!!
三□#)ω゚)そ「めそっ!!?」
坊っちゃんの頭へと、叩き込まれた。
- 33 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:24:07.52 ID:o1pnltDdO
-
:((;#)ω゚)):「ふおおおおおおおおおう……っ!!」
頭へ刺さる様にしてぶち当たった四角い下駄に、坊っちゃんは思わず頭を押さえ
かたかた小刻みに震えながら、その場にしゃがみこんでしまわれた。
予想だにしなかった痛みに襲われ、驚きと痛みの二つにより涙が滲む。
その痛がりように、つうは予想以上だと僅かに呆れた顔をした。
しかしこの機を逃す訳には行かぬ、と地を蹴り、坊っちゃんへと駆け寄る。
人々が遠巻きに見詰める中、頭を押さえて踞る坊っちゃん。
それを狙って振り上げられる、つうの刃。
白い裸足を土に汚して、つうは坊っちゃんの側まで辿り着き
銀の鎌が、渾身の力を込めて降り下ろされる。
坊っちゃんの首の後ろは、無防備に空気に晒されていた。
- 35 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:26:03.55 ID:o1pnltDdO
-
が、ぎんッ!
金属同士が擦れ合う様な音が、甲高く響いた。
降り下ろされたつうの腕は、肉を斬る感触を味わう事もなく、ぴたりと動きを止めていた。
否、止められて居るのである。
(#´・ω・`)「むぎぎぎぎぎぎぎ……ッ!!」
坊っちゃんの首から外れた、管狐によって。
(#*゚∀゚)「てッ……めぇ……ッ!!」
(#´・ω・`)「むぎぅぅぅぅぅぅぅ!!」
(#*゚∀゚)「むぎゅうちゃうわあッ! 離せや狐もどきがァアッ!!」
(#´・ω・`)「むっぎゅぅううううううッ!!」
- 37 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:28:03.83 ID:o1pnltDdO
-
管狐しょぼんの柔らかそうな口が、つうの鎌を受け止める。
がっちりと噛まれたそれに、つうは腕を押しても引いても動かす事が出来ず。
怒鳴り付けても、しょぼんは人の言葉を発しはせず、何を言っているかは分からない。
細長い、狐の襟巻きそのものと云った容貌のしょぼん。
そんな可愛いしか取り柄の無さそうな生物に、鎌鼬の鎌を止められた。
そいつはひどくひどく腹立たしく、何処か恐ろしくもあって。
(#*゚∀゚)「いいッ……加減に……せんかァアッ!!」
少しの怯えを振り払おうと、つうは腕を大きく振り回そうとした。
その瞬間。
(#´ ω `)「むぎゅうううッ!!!!」
しょぼんが一際大きく鳴いて、
ばきん、と、鎌が砕け散った。
- 41 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:30:18.28 ID:o1pnltDdO
-
(;*゚∀゚)「なっ……ぇ……?」
右腕が自由になった頃には、そこにあった筈の鎌は、見るも無惨な姿に変わっていた。
根本から噛み砕かれた銀の刃は、残った部分にも罅が入って使い物にはならない。
痛みこそは感じぬが、先程までそこにあった鋼の刃が姿を消した。
背中にぞくんと冷たい物が駆け上るのを感じて、つうはしょぼんに顔を向ける。
そこには、何時もは存在しない牙をぞろりと生やして
砕いた鎌を、ぼりぼりと租借する、愛らしい筈の管狐が居るだけで。
ぎらり、とその目が蠢いて、つうの姿を睨め付けて。
(;^ω^)「お、しょ、しょぼん!? 何があったんだお!?」
(´・ω・`)「! むっきゅ!!」
(;^ω^)「お、お? どうしたんだお……?」
自分の背中辺りで何が起きているのか、と状況を把握しきれぬ坊っちゃん。
そんな間の抜けた坊っちゃんの呼び声に、しょぼんの顔は元通り。
- 42 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:32:06.48 ID:o1pnltDdO
-
噛み砕いた鎌を嚥下し、しょぼんは坊っちゃんの頬に額を擦り付ける。
坊っちゃんは坊っちゃんで、何が起きたか分からずに、頭を押さえて首を傾げた。
その情景に、つうは血の気の引いた己の額を軽く撫でてから、ごくりと重い唾を飲んだ。
一体、先刻のは何だったのだろうか。
しょぼんの、あの眼差し。
脇腹から引き裂かれ、臓物を引き摺り出される様なあの恐怖。
あれは、本当にただの管狐か?
あの口には、もう、牙なんて存在しない。
柔らかい物しか食べられなさそうな、甘ったれな愛玩動物の姿。
ぎり、と奥歯を噛み締めて、拳を強く握る。
そして恐怖を弾き飛ばそうと、つうは坊っちゃんの顔面ごと、管狐を蹴り上げた。
坊っちゃんの頬に叩き込まれる白い足に、蹴り飛ばされた管狐。
ぽん、と飛んで行った管狐からは、もうあの恐怖なぞは感じなかった。
- 44 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:34:06.45 ID:o1pnltDdO
-
顔を蹴られて倒れ込んだ坊っちゃんだったが、
しょぼんが離れた場所でむきゅうと鳴くのを聞き、慌てて身を起こす。
そして地面に手をついたまま、きょろきょろと辺りを見回し、しょぼんを探した。
しょぼんは雑貨屋の戸に当たって落ち、地面に転がっている。
全身を強く打ったらしいが、どうやら息はあるらしい。
もふもふとした細長い体が、呼吸に合わせて僅かに上下するのを見て、坊っちゃんは声を上げた。
(;#)ω^)「しょ、しょぼんっ! 大丈夫かお……おっ!?」
(;*゚∀゚)「あ……あっひゃひゃひゃひゃッ!! 俺に勝てるとでも思たかァ!!?」
離れた場所に倒れるしょぼんに向けて、坊っちゃんが叫ぶ。
その後ろから、げし、と背中を踏みつけ、つうが高らかに笑って見せた。
その頬には先程の冷や汗が残っていて、言葉の節々には強がりが見え隠れ。
笑い声はもはや嘲笑ではなく、なんとか己を奮い起たせようと言い聞かせているに等しかった。
- 46 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:36:06.91 ID:o1pnltDdO
-
坊っちゃんの背中をごりごりと、細い足が踏みにじる。
ぐえと小さく鳴いた坊っちゃんは、困り果てた顔をしていた。
すると、そんな二人の元へ甲高い声が届く。
(;*゚−゚)「つっ……つうちゃん! 内藤さまッ!」
(;^ω^)「おー……しぃ……」
(*゚∀゚)「姉さまっ!」
下駄をからこら駆け寄ってきた可愛らしきは鎌鼬、長女のしぃ。
その姿に坊っちゃんは助けを求める視線を送り、つうは嬉しそうな顔をする。
坊っちゃんが地面に崩れ落ち、つうがその背を踏みつける
そんな光景を目の当たりにしたしぃは、さっと顔色を無くしてつうの腕を掴んだ。
(;*゚−゚)「つうちゃんお願いやから止めてっ! 内藤さまは何もしとらへんよっ!?」
(*゚∀゚)「んァ? ンな訳あらへんやろ、姉さま」
(;*゚−゚)「ほんまやのっ! ほんまやからっ!!」
- 48 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:38:07.05 ID:o1pnltDdO
-
(*゚∀゚)「…………まァた姉さまはそうやってやあ、人を庇ってやァ?」
(;*゚−゚)「違っ、違うの! ほんまに何もっ!!」
(*゚∀゚)「じゃあ、何で泣いとったんや」
(;*゚−゚)「そっ、れ……は、その……」
そんな事、云えるものか。
つうに後ろめたい事は無くとも、それは何故だか云いづらく
赤い振り袖をきゅうと握って、しぃは俯いてしまわれた。
かくりと項垂れる姉さまの、白い首筋がいとおしい。
つうはそんな事をぽつりと思い、小さく小さく息を吐き
両手で掴まれた右腕に力を込めて、姉さまの手を弾く。
そして左の袖を持ち上げて、銀の刃を露にさせた。
(*゚∀゚)「殺すよ、姉さま泣かす奴は、誰であろうと俺は殺すよ」
しゃんとした強い言葉は、今度は姉に言い聞かせるそれに近かった。
- 50 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:40:07.07 ID:o1pnltDdO
-
どん、と腕を離されたしぃが、つうの手により突き飛ばされる。
つうは空いた右手で坊っちゃんの襟首を掴んで立たせ、
その手を前に持って行き、首を片手で絞め上げた。
ぐう、と絞まる喉から滲み出た低い悲鳴。
右手で坊っちゃんを絞め上げ、左手の刃を構え、今度こそはと睨み付ける。
それが結果として姉さまを悲しませる事になるとは、理解しては居る。
けれども、このままじゃあ腹の虫が収まる事はありはしない。
だから、さあ、
今からこいつの首を、刎ね飛ばしてやる。
二人から離れた位置に倒れたしぃが、慌てて顔を上げた。
そこに広がる光景は、
可愛い子供も同然の坊っちゃんが、可愛いきょうだいに殺されようとしている所で。
(;* − )「つうちゃん止めてぇええええええええっ!!」
しぃの着物の裾から、先端が棍棒の形をした尾がずるりと伸び
己のきょうだいを止めるため、身を起こして地を蹴った。
- 52 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:42:12.01 ID:o1pnltDdO
-
振り上げられたつうの腕、振り上げられたしぃの尾。
どちらが先に、その目標に当たるかと云う時に
ひゅおんと風を裂きながら、何かが、駆けるしぃの横を通り過ぎた。
(;* ∀ )「あッ、ぎゃあッ!?」
しぃを追い抜いたその何かが、どすんとつうの横腹にめり込み
軽い体は坊っちゃんを離して、吹き飛ばされてしまった。
重々しい打撃音、重苦しい金属の塊が叩き込まれた事により
つうは地面に倒れ転がり、かは、と息を吐く。
予想だにしなかった痛みと重さ、肺から抜けた酸素の息苦しさ。
くらくらと回る視界の端に入るのは、地に突き刺さる、刺を持つ鉛色の金棒。
突然の事にぽかんとするしぃは足を止めて、のったりと己を追い越す男を呆然と目で追い。
男が黒髪をがしがしと掻きながら、口を開くのを見つめていた。
「おいおい、人様の話はァよ、ちゃんと聞くもんだぜ、クソガキ」
- 55 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:44:09.69 ID:o1pnltDdO
-
男は持ち手に黒い布を巻いた金棒をひょいと拾い上げ、つうの頭を爪先で小突く。
そして絞められていた首を押さえて、げほげほと咳き込む坊っちゃんの前にしゃがみこみ
癖のある茶の髪を、ぐっしゃぐっしゃとかき混ぜた。
「大丈夫か、坊っちゃん」
(;^ω^)「お……げほ、えほっ……ど……どくお……?」
('A`)「おう、怪我ァねェか?」
(;^ω^)「だ……大丈夫だお……」
('A`)「嘘吐け、何処が大丈夫だッてンだよ」
阿呆が、と苦い顔で吐き捨てる男、どくお。
金棒を肩を担いで坊っちゃんを立たせると、その着物に付いた汚れを払った。
手拭いを外した状態ではあるが、生え際にある筈の角は髪に隠されている。
どうやら、どくおは余り、怒っている訳では無いらしく。
坊っちゃんはほっと、安堵の息を吐いた。
- 56 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:46:15.46 ID:o1pnltDdO
-
(#'A`)「ッたく、何してんだお前は」
(;^ω^)「ご、ごめんお……」
(#'A`)「つうか大体何だって葬式行ってボロボロになってンだ!」
(;^ω^)「お、お?」
(#'A`)
(#゚A゚)「よく見たら喪服じゃねぇえええええええッ!!!!」
(;^ω^)「えぇぇ気付いてなかったのかおっ!?」
(#゚A゚)「気付くかボケェエエエエエッ!!」
(;^ω^)「ひぃっ! でもその点はどくおのボケの所為だおっ!?」
(#゚A゚)
( 'A`)「まあ確かに」
( ^ω^)「やだ素直」
(#゚A゚)「でもふざけンなァアアアアアアアアアアッ!!」
(;^ω^)「ごめんなさいっ!?」
- 60 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:48:13.42 ID:o1pnltDdO
-
( ^ω^)「あれ、でもどくお」
('A`)「あン?」
( ^ω^)「家に妖怪送ったの、知らないのかお?」
('A`)「ああ、入れ違いになったンじゃあねェか?」
( ^ω^)「なるほど」
('A`)「誰が世話すんだその妖怪はァよ」
( ^ω^)「ごめんなさい」
('A`)「あとお前、脚それなのに走れンのか」
( ^ω^)「火事場の何とかってやつですお」
('A`)「血ィ出てンぞ」
( ^ω^)「ごめんなさい」
- 61 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:50:11.94 ID:o1pnltDdO
-
坊っちゃんとどくおがほのぼのと話す側までやって来たしぃが、
申し訳なさそうな顔をしてつうを立たせ、二人に向けて頭を下げた。
(*゚−゚)「あ、の……」
('A`)「ン?」
(*゚−゚)「ほんまに……申し訳御座いませんでした……」
('A`)「あー……」
(*゚−゚)「私の所為で……ご迷惑お掛けしまして……」
( ^ω^)「お……どくお、」
('A`)「まァ、気にすんなや」
( ^ω^)「え?」
('A`)「ンだよ、俺が許さねェと思ってたのかよ」
( ^ω^)(うん)
('A`)「何か無性に殴りてェ」
- 63 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:52:21.50 ID:o1pnltDdO
-
(*゚−゚)「せやけど、あの、でも」
('A`)「良いから、おいチビ、こっち来い」
(*゚−゚)「へ、?」
頭を下げたまま謝罪をするしぃから顔を反らし、どくおは盛岡屋の影に向かって手招きをする。
チビ、と呼ばれたそれはおずおずと姿を現し、
疑問符を頭に浮かべたしぃの元へ、とことこ、とやって来た。
それは幼い、黒髪のお稚児で。
大きな薬壺を抱いて、居づらそうに俯いていた。
(#゚;;-゚)「……しぃちゃん、つうちゃん……」
(*゚−゚)「でぃ……ちゃん……?」
(#゚;;-゚)「うん、でぃ……あんね、うち……ごめん、なさい……」
(*゚−゚)「へ……何で、謝るん……?」
- 65 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:54:31.23 ID:o1pnltDdO
-
(#゚;;-゚)「だって、うちが嫌がったから……しぃちゃん、傷つけたんよ……」
(*゚−゚)「ぁ…………ええんよ、そんなん……ええんよ、?」
(#゚;;-゚)「でも、ぅ……つうちゃん……怒って、へん?」
(;*゚∀゚)「へ? な、何でや?」
(#゚;;-゚)「だって……しぃちゃん傷つけたから……」
(;*゚∀゚)「お、怒るかい、そんなもんッ!」
(#゚;;-゚)「ほんま……?」
(;*゚∀゚)「あ、当たり前やろ! 何で妹に怒らないかんのやッ!?」
(#゚;;-゚)「ふぇ……おおきに、つうちゃん……」
自分をぶち飛ばしたどくおに、どう仕返しをするかと考えていたつうにすれば、
でぃの謝罪は突然で、仕返しを企てていた事も忘れ、毒気を抜かれてしまった。
申し訳なさそうにぽそぽそ謝罪を繰り返す妹に、姉への物とは違うが、愛を持っている。
何処か破綻しているつうではあるが、妹は可愛くてしょうがない存在で。
- 68 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 02:57:18.61 ID:o1pnltDdO
-
今にも泣きそうなでぃを前にすると、つい先程まで抱いていた怒りが姿を潜める。
何とかでぃを泣かすまいとつうはしゃがみこみ、頭や頬を撫でて
気にするな気にするな、悪いのは俺だよ、と繰り返していた。
それを見たしぃは、ほっと息を吐いてどくおに向き直る。
と、その目の前に、数珠が突き付けられた。
(*゚−゚)「? これ、は?」
('A`)「お前らが、あやかしで居られる術がある」
(*゚−゚)「っ!」
('A`)「聞くか?」
(*゚−゚)「は、はいっ! 是非っ!!」
('A`)「その代わり、あやかしとしての自尊心は潰されンぞ」
(*゚−゚)「…………うちは、構いません」
('A`)「……そう、か」
- 69 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 03:00:10.54 ID:o1pnltDdO
-
('A`)「何、簡単な事だ」
(*゚−゚)「……」
('A`)「お前らが、坊っちゃんに従えば良い」
(*゚−゚)「っ!!」
(;^ω^)「ど、どくお!? 何云ってんだお!?」
('A`)「しょうがねェだろ、他に手はねェンだよ」
(;^ω^)「だ……だからって、従うとか、そんな、」
(*゚−゚)「分かりました、その方法なら、私は喜んで」
(;^ω^)「しぃっ!?」
(*゚ー゚)「私は、内藤さまなら従うに相応しいお方やと思いますわ」
(;^ω^)「い、いや、でも、あの……つうとでぃは……」
(#゚;;-゚)「うちは、かまへんって思って……ここまで来たんよ……?」
(;^ω^)「え、」
- 72 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 03:02:11.67 ID:o1pnltDdO
-
(;^ω^)「だ、大体何だって従うとかそんな事になるんだお!? 何で、」
('A`)「妖怪として誰かに従えば、妖怪は保てンだよ」
(;^ω^)「お……ど、どくおはどうなんだお!? 人間になろうとしてるお!?」
('A`)「俺は自ら人間なろうとしてるからだ」
(;^ω^)「そ、そんなあ……」
(#゚;;-゚)「内藤のあにさまは……うちら従えるん、嫌なん?」
(;^ω^)「や、あ、あの……嫌と云うか……その……」
(#゚;;-゚)「ほんなら、何で?」
(;´ω`)「……僕は、妖怪と対等でありたいんだお…………だから、従うとかは……」
('A`)「このままだと、こいつらは余計に苦しむ訳だが」
(;´ω`)「おー……」
('A`)「妖怪好きが、妖怪を苦しめるたァな」
(;´ω`)「……どくお……意地が悪いお…………」
('A`)「心配させッからだ」
- 74 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 03:04:32.24 ID:o1pnltDdO
-
(;´ω`)「……そんな事言ったら、百鬼夜行せんでも良くなるお」
('A`)「阿呆、普通あやかしが人間なんぞに従うか」
(;´ω`)「でもー……」
('A`)「今回くらいしか通用しねェ手だ、さあ、どうする」
(;´ω`)「お……」
('A`)「選べ、とっとと」
(;´ω`)「…………分かったお、しぃ達を従えるお……」
('A`)「はい良く云った、従える為の契りは明日、神社でだ」
(;´ω`)「神社……? はいんの姐様の……?」
('A`)「ああ、これもあいつの入れ知恵だ」
(;´ω`)「…………お……結局その数珠何なんだお……」
- 75 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 03:06:27.50 ID:o1pnltDdO
-
がっくり、と項垂れる坊っちゃん。
妖怪は好きだが支配したい訳ではない、友人、家族の様な存在でありたい。
そう思う気持ちに変わりはないが、妖怪を愛するなれば、その姿を保たせてやりたい。
そんな思いに挟まれて、坊っちゃんは力無く頷く事しか出来なかった。
(#゚;;-゚)「ね、つうちゃん」
(*゚∀゚)「え?」
(#゚;;-゚)「つうちゃんも、従うんよね?」
(*゚∀゚)「え゙」
(#゚;;-゚)「……ちやう、の……?」
(;*゚∀゚)「あ、や、し、従う! 従うよ!?」
(#゚;;-゚)「わ……ほんなら、一緒やね……」
(;*゚∀゚)「おう! おうさ!!」
(;´ω`)「つう、無理は……」
(;*゚∀゚)「し、しとらんよ!?」
- 76 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 03:08:14.40 ID:o1pnltDdO
-
蟠りが消えた訳ではないが、何とか場が丸く収まった。
坊っちゃんとつうは項垂れ、しぃとどくおは少しばかり困った顔。
そんな中で、でぃがぽつりと口を開いた。
(#゚;;-゚)「……どくおのあにさま、ないとうのあにさま」
('A`)「ん?」
( ^ω^)「お?」
(#゚;;-゚)「うちね……怪我した人たちのとこいって……謝って、怪我治してくる……」
('A`)「……おう、そうしな」
(*゚∀゚)「…………俺も付き合う、斬ったん俺やし……」
(*゚−゚)「そ、それやったら私も……転ばしたん、私やから……」
(#゚;;-゚)「つうちゃん……しぃちゃん……」
- 78 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 03:10:04.17 ID:o1pnltDdO
-
( ^ω^)「でも大人数で行くと向こうも困るお、それにしぃは仕事もあるお?」
(*゚−゚)「あぅ……」
('A`)「クソガキも止めとけ、代わりにしっかり働け」
(*゚∀゚)「うー……」
(#゚;;-゚)「仕事せんかったうちが悪いの……せやから、うちが行くんよ」
(*゚ー゚)「でぃちゃん……」
(#゚;;-゚)「ごめんね、しぃちゃん……つうちゃん……」
(*゚ー゚)「ううん、私こそごめんね……」
(*゚∀゚)「あひゃー……ごめんな、……うん」
(*゚ー゚)「内藤さま、どくおさま、ご迷惑お掛けして、申し訳御座いませんでした」
( ^ω^)「お、気にしてないお?」
('A`)「別に、怪我が治りゃ良いし」
(*゚ー゚)「……ほんに、おおきにっ! ありがとう御座いましたっ!」
- 81 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 03:12:10.79 ID:o1pnltDdO
-
深く深く頭を下げるしぃに続いて、でぃとつうも頭を下げる。
ああ、やっと何とかなった。
そう疲れた様に坊っちゃんは笑って、でぃに脚の傷へ薬を塗って貰い、
坊っちゃんとどくおは三人に別れを告げて、のんびりと帰路に就く事にした。
目の覚めたしょぼんがむきゅむきゅと坊っちゃんの首に絡み付き、
何時もの二人と一匹の姿に元通り、ゆっくり来た道を戻って行く。
盛岡屋の影からこっそりこちらを覗く二匹の狸には、気付かぬ振りで。
('A`)「あー……ッたく、疲れた」
( ^ω^)「おー……でも、何とかなって良かったお」
('A`)「まァな」
( ^ω^)「……ごめんおどくお」
('A`)「そう思うなら心配かけンな」
( ^ω^)「お……」
- 83 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 03:14:18.44 ID:o1pnltDdO
-
('A`)「ま、帰ったらアレだ、鹿の子食え」
( ^ω^)「頂くお」
('A`)「茶ァ、淹れてやっからよ」
( ^ω^)「煎茶で頼むお」
('A`)「おう」
( ^ω^)「明日は水饅頭が食いたいお」
('A`)「そろそろ秋だぞ」
( ^ω^)「まだまだ暑いお」
('A`)「まァな」
( ^ω^)「お」
(´・ω・`)「むきゅ」
( ^ω^)「お?」
- 87 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 03:16:07.48 ID:o1pnltDdO
-
( ^ω^)「どうしたんだお? しょぼん」
(´・ω・`)「むきゅっきゅ」
('A`)「大福食いてェンだろ」
( ^ω^)「お、家にいっぱいあるから食えお」
(´・ω・`)「むっきゅー」
ああ、すっかりいつも通り。
どくおの機嫌も良くなったらしく、これで一安心。
下駄をからころ、草履をざりざり、二人と一匹はお屋敷へと戻って行く。
日が傾き、辺りはすっかり夕焼け真っ赤。
のんびりのったり、どこかぼんやりとした緩い時間だけが流れていた。
- 88 ◆XCE/Wako2nqi 2009/09/13(日) 03:18:05.30 ID:o1pnltDdO
- ( ^ω^)「はー、ただいまだおー…………お……?」
のんびりと戻ってきた我が家に、坊っちゃんが帰宅の挨拶を口にする。
が、その言葉は何故か、疑問を抱いて閉じられて。
どうしたのかとどくおが玄関からお屋敷に足を踏み入れると、その足がぴたりと止まった。
ミ,,゚Д゚彡「あ、おけーり」
( ゚∋゚)「お帰りなさい、内藤様」
部屋には二匹の妖怪が居て、机にあった大福や鹿の子は食い荒らされた後。
茶は零れ、湯飲みは割れ、整理されていた本やら何やらが撒き散らかされていて。
見るも無惨なまでに散らかされた部屋の姿に、坊っちゃんは笑顔のままで顔色を無くした。
そして隣に立つどくおは、
(#゚A゚)「ぅオお前ら死ねやァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
ミ;,゚Д゚彡「うぎゃあああああああああッ!?」
『残 八十四匹』
おわり。