- 4 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:22:06.21 ID:RP1LwhxRO
-
肌寒い秋の風に、さわさわと庭の木々が揺れていた。
坊っちゃんは肩にかける羽織の胸をきゅうと寄せ、温くなった茶をすする。
首には相変わらず、存在感の濃くはない管狐。
己の尾をきゅと噛んで、すやすや寝息を立てている。
これからの時期は有り難いなあ、と季節に合わぬ水羊羹を口に運び
ぼんやり、庭を眺めながら坊っちゃんは思った。
水羊羹を作った当人は、坊っちゃんの前で転がりながら本を読んでいる。
そして、ふと坊っちゃんは
庭の藤に蜘蛛の巣がかかっているのを見付けて、首を傾ぐ。
そう云えば、最近は会っていないなあ。
口の中でさらりと溶ける餡を味わっていると、廊下を走る音が響く。
何事かと廊下の方へ顔を向ければ、筋骨粒々な鳥人間が、ひょこりと顔を出した。
- 7 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:24:06.64 ID:RP1LwhxRO
-
( ゚∋゚)「内藤さん」
( ^ω^)「お?」
( ゚∋゚)「何やら玄関に妖怪が」
( ^ω^)「おー? ちょっと見てくるお」
( ノAヽ)「たのもー」
( ^ω^)「おー?」
( ノAヽ)「油、買うノーネ」
( ^ω^)「間に合ってるおー」
( ノAヽ)「買えなノーネ」
( ^ω^)「じゃあ交換条件」
( ノAヽ)「ノネ?」
( ^ω^)「百鬼夜行、参加しろお」
- 10 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:26:07.07 ID:RP1LwhxRO
-
( ^ω^)「ただいまだおー」
('A`)「おう、何だった…………」
( ^ω^)「何だお」
( ゚∋゚)「どうしたんですか、その大量の油」
( ^ω^)「あぶらすましに足元見られたお」
('A`)「……何だってあぶらすましが油売りに来るンだよ」
( ^ω^)「知らんお」
( ゚∋゚)「妖怪も仕事をしないと生きて行けませんからね」
('A`)「まァな」
( ^ω^)「しかし感じずには居られない矛盾」
('A`)「二年くらいはいけンな、この量だと」
( ^ω^)「腐るんじゃねえかお、この量……」
- 11 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:28:04.19 ID:RP1LwhxRO
-
( ^ω^)「さて」
('A`)「あ?」
( ^ω^)「次の妖怪に協力を仰ぎたいんだお」
('A`)「すれば良いじゃねェか」
( ^ω^)「どこに行けば良いのかお」
('A`)
( ^ω^)
('A`)「知らん」
( ^ω^)「ですよねー」
('A`)
( ^ω^)
('A`)「俺でなく、他の誰かに聞けや」
( ^ω^)「うん」
- 12 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:30:08.95 ID:RP1LwhxRO
-
さあさ お願い致しましょう。
お知恵を拝借しに向かうは、此度は巫女様じゃあ御座いやせん。
四本お腕に四本あんよ。
四つの目を持ち、鋭き角と牙を持つ。
大きなまあるい腹を持つ、黒と紫だんだら模様。
其の御姿は、宛ら毒を孕み艶やかに咲き誇る華の如く。
美しくていとおしい、我らが母なる優しいお方。
【( ^ω^)百鬼夜行のようです。】
『第五話 糸の意図』
嗚呼 麗しきは女郎蜘蛛。
我らが愛しの紫色した花魁様。
- 16 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:32:03.46 ID:RP1LwhxRO
-
くっくるに留守を任せ、坊っちゃんとどくおが外へと出た。
お屋敷の裏から東へ向かって暫く行くと、お目当ての場所がある。
そこを目指してとことこと、二人と一匹が歩き出す。
土産の菓子が詰まった重箱をぶらぶらと、坊っちゃんとどくおは並んで歩く。
角を曲がって通りを抜けて、路地へ入って柵を越え。
我らが母とも云える女の元へ、えっちらおっちら歩き行く。
( ^ω^)「毒婦の君は、お元気かおー」
('A`)「元気だろうよ、何たってあの毒婦の君だ」
( ^ω^)「相変わらず美人さんなのかおー」
('A`)「相変わらずだらしのねェ格好なんだろうな」
( ^ω^)「毒婦の君は動けないから、仕方がないお」
('A`)「雷獣公に世話されてるからなァ」
( ^ω^)「雷獣公が居ない時はどうしてるのかお」
('A`)「…………どうしてン……だろうな」
( ^ω^)「…………さあ……」
- 18 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:34:09.99 ID:RP1LwhxRO
-
二人が口にする毒婦の君とは、ある女の通り名である。
女の肉体は半人半蜘蛛の異形であり、毒をもって己にあだなす者共を駆逐してきた。
その御姿は大層美しく、長く紫がかった黒髪を結っては狭い背中に垂らしている。
紫色の着物を好んで纏い、程好く肉付きの良い肉体を隠す。
美しく整ったかんばせに厚めの唇、二対の細く切れ長の目。
白くしなやかな手足も二対で、腰から下は毒蜘蛛その物。
人の形をした上半身は蜘蛛の胸から生え、その後ろには蜘蛛独特の大きく丸い腹。
坊っちゃんやどくおが生まれる、ずうっと前から
この町が出来るずうっと前から生きている、毒蜘蛛の化身。
しかし毒蜘蛛と云えど、人を喰ろうた事はない。
過去にはやんちゃをした事もあるが、喰らうはあだなす魑魅魍魎。
寧ろ人の役に立っていた毒婦の君だが、その分、敵も多かった。
蠱毒に突っ込まれるその前から、活動的な妖怪には嫌われていて。
彼女の夫たる雷獣公も、毒婦の君を嫌うその一人であった。
- 20 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:36:09.19 ID:RP1LwhxRO
-
しかし紆余曲折あり、毒婦の君は雷獣公と夫婦になる。
そうして更に紆余曲折あり、今に至る。
毒婦の君は人に優しく己にも優しく、あだなす者にはひたすらに厳しい。
益虫と云えども蜘蛛は蜘蛛、巣を張り巡らせて餌が掛かるのを待つ。
その餌を喰らうか否かは、毒婦の君のお心次第。
そして毒婦の君は、毒以外にも、惑わす事を得手とする。
例えば、そう。
どんなに角を曲がって通りを抜けて路地へ入ろうが、彼女の元へ辿り着けない、とか。
( ^ω^)「で、」
('A`)「見事に幻術に引っ掛かってる訳だが」
( ^ω^)「幾ら歩いても辿り着きゃあしねえお」
('A`)「普通に迷ったッてェ訳じゃ……ねェ、よな?」
( ^ω^)「それは無いお、15年は通い慣れた道だお」
('A`)「だよなァ……何処だよ、此処……」
- 23 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:38:05.35 ID:RP1LwhxRO
-
目の前には、何十と云う分かれ道。
後ろには道は無く、つい先程通ってきた筈の道は消えて、壁がある。
右を見ようが左を見ようが、ひたすらに道が続くだけで終わりは見えない。
人の気配もあやかしの気配も全く感じぬその場所で、坊っちゃんとどくおは顔を見合わせた。
( ^ω^)「毒婦の君の幻術……相変わらずだお……」
('A`)「本当に何処だよ……匂いもしねェし気配もねェ……」
( ^ω^)「まあ落ち着けお、何処かに当たりの道があるお」
('A`)「当たりッたってなァ……」
ちらりとどくおが前を向けば、そこには数十から数百へと増えた道。
毒婦の君は、どうやら意地が悪いらしい。
と云うよりは、悪戯好きか。
- 26 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:40:12.09 ID:RP1LwhxRO
-
( ^ω^)「ええと、どの道だお」
('A`)「分からん」
( ^ω^)「ちょっと神通力で分からんかお」
('A`)「ねェよ神通力、酒呑じゃあるめェし」
( ^ω^)「酒呑童子って神通力あるのかお」
('A`)「知らん」
( ^ω^)「ええ……」
('A`)「取り敢えず、どれか進まにゃどうしようもねェな」
( ^ω^)「お、帰り道も無いしお」
さて何れを進もうかと二人は腕を組み、数百から数千へと増えた道を見る。
少し頭を傾けて考えていたが、直ぐに顔を見合わせ、へらりと笑った。
分かるわけがねえ。
- 28 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:42:25.42 ID:RP1LwhxRO
-
(´-ω-`)「むきゅー……きゅー…………」
(´-ω・`)「きゅ?」
( ^ω^)「お、しょぼん起きたかお」
(´・ω・`)「むきゅん?」
('A`)「道どれか分かんねェか?」
( ^ω^)「しょぼんに何を求めてんだお」
('A`)「いや、もしかしたら分かるかと」
( ^ω^)「流石にそいつは無茶だお」
('A`)「だよなァ、上から見ても無駄だろうし、手詰まりか」
(´・ω・`)σそ「むっきゅ!」
( ^ω^)「え、分かるの?」
('A`)「嘘ン」
- 29 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:44:08.21 ID:RP1LwhxRO
-
目を覚ましたしょぼんが、尾の先で一つの道を指す。
道は数千から数万へと増え、早いとこ進まねば本当に手詰まりになってしまう。
慌ててその示された道の前へと立つと、薄く細い透明な何かが、きらりと見えた。
('A`)「こいつァ……」
( ^ω^)「しょぼん、でかしたお」
(*´・ω・`)=3「むきゅん」
( ^ω^)「よしよし、進むお、道がまた増えてきたお」
('A`)「おゥ、これ以上遊ばれちゃ野垂れ死んじまう」
二人と一匹が、透明にきらめく何かを頼りに歩き出す。
その糸を見逃さぬ様、手放さぬ様に急ぎ足で。
道は、もう数えきれない程に枝分かれしていた。
それは丸で、蜘蛛の巣の如く。
- 31 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:46:12.84 ID:RP1LwhxRO
-
一本だけ垂らされたそれをしっかと握る様に、
坊っちゃんとどくおは、数多に別れた道を進む。
一つの道を選び、十の道を選び、百の道を、千の道を選び、万の道を選んで進んだ。
もはや歩き疲れて両の脚が棒っきれの様に、がくがくと痛み出した頃。
二人の目の前に、一つの屋敷が姿を見せた。
一見、ただの古ぼけた、蜘蛛の巣まみれの屋敷。
けれども此処に住まうあやかしは、隠居したものの強大なる力を誇る。
ゆっくりと玄関まで歩み寄り、とんとん、戸口を叩いた。
( ^ω^)「毒婦の君、いらせられますかお、毒婦の君」
('A`)「内藤の倅と餓鬼に御座りまする、毒婦の君」
( ^ω^)「どうか御目通り願いますお、毒婦の君」
- 33 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:48:12.57 ID:RP1LwhxRO
-
畏まった言葉で挨拶をし、二人は恭しく頭を下げる。
そして少しの間を開けてから、戸が、独りでにするすると開いた。
( ^ω^)「失礼致しますお毒婦の君」
('A`)「失礼致しやす、毒婦の君」
緊張した面持ちでそう告げ、開け放たれた玄関から中へと上がり込む。
暗くくすんだ廊下をぎしぎしと、二人分の足音が通る。
廊下に面した幾つもの部屋をちらり覗くと、何処もかしこも散らかり放題。
脱ぎ散らかされた着物に帯に打ち掛けに。
投げ出された簪、飾り、千両箱。
撒き散らかされた小判も、こうなれば塵に見える。
尤も、家主にとっては価値も無い物なのだろうが。
長い廊下を真っ直ぐ真っ直ぐ歩き行き、突き当たるは一つの座敷。
半分だけ開かれた襖の隙間から、紫の襦袢が覗いていた。
- 35 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:50:03.68 ID:RP1LwhxRO
-
腰を下げて頭を下げて、失礼致しますと告げてから襖を開く。
その向こう側は、廊下や他の部屋よりも散らかった座敷。
引っくり返された箪笥やら衣紋掛けが、無惨にも散らばって居る。
そして、敷きっぱなしの赤い布団の上には、真ん丸な腹をした蜘蛛が一匹。
しかしその蜘蛛は人よりも大きく、胸からは女の上半身が生えている。
胸の付け根には人間の脚が四本、内の一本は太股の辺りで千切れてしまっていて。
二人に背を向けていた蜘蛛は、ゆっくりとこちらを向いて
顔に掛かる長い髪を白い手で払い、にっこりと微笑んでみせた。
裸の上半身は、窓から射し込む光に照らされ、白く輝いていた。
lw´‐ _‐ノv「お久しゅう、お坊っちゃん、鬼の子ちゃん」
( ^ω^)「お……毒婦の君……」
('A`)「……お久し振りに御座いやす、毒婦の君」
- 36 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:52:19.21 ID:RP1LwhxRO
-
女がしっとりとした声で囁けば、坊っちゃんとどくおはその場に座り込み
三つ指をついて頭を下げてから、しゃんと背筋を伸ばした。
( ^ω^)「相変わらず、見事な幻術に御座いましたお」
('A`)「見事に惑わされちまいやした」
lw´‐ _‐ノv「あら、あらあら、ふふふ……そう固くなるのはお止めやす」
( ^ω^)「しかし、毒婦の君」
lw´‐ _‐ノv「わっちは、しゅう、毒婦の君にありんせん」
( ^ω^)「……しゅう様、しかし僕は人間に御座いますお」
('A`)「あっしは餓鬼の畜生に御座りやす、身の程を弁えねば」
lw´‐ _‐ノv「ん、んんん、これは参りんした、わっちはお固いのはお苦手」
( ^ω^)「しゅう様、」
lw´‐ _‐ノv「ああ、ならばならば此れなら如何でやんしょう」
( ^ω^)「お?」
- 38 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:54:03.17 ID:RP1LwhxRO
-
lw´‐ _‐ノv「雷獣公は、今はお留守にありんす」
( ^ω^)「お」
('A`)「え」
lw´‐ _‐ノv「わっちの旦那様、ご不在にありんすよ」
( ^ω^)
('A`)
lw´‐ _‐ノv「ね?」
小指を唇に当て、首を傾けて、しんなりと微笑む毒婦の君。
それを聞いた二人はぴくりと肩を揺らし、暫くそのまま固まって
力が抜けた様に、背筋をぐんにゃりさせて畳みに額を押し付けた。
( ´ω`)「おー……雷獣公いらっしゃらんのかお……」
('A`)「肩凝った……」
lw´‐ _‐ノv「ふふふ、余程わっちの旦那様がお怖いと見える」
- 43 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:56:04.63 ID:RP1LwhxRO
-
( ^ω^)「雷獣公は怖いお」
('A`)「怖い」
lw´‐ _‐ノv「あらあら、お可哀想なわっちの旦那様」
( ^ω^)「礼儀はしっかりせにゃあ説教三昧だお……」
('A`)「何度やられた事か……」
lw´‐ _‐ノv「わっちは構わんと云うに、旦那様はお厳しくありんす
その所為で、お坊っちゃんや鬼の子ちゃんにも毒婦の君と呼ばれる始末」
( ^ω^)「しゅう様は、毒婦の君と呼ばれるのはお嫌いかお?」
lw´‐ _‐ノv「それは通り名、わっちのお名前じゃあありんせん」
('A`)「名前で呼んで欲しい、と?」
lw´‐ _‐ノv「鬼の子ちゃんは、どうお思い? お名前で呼ばれぬと云う事を」
('A`)「俺ァ鬼と呼ばれる事が多いんすよ、町にゃ珍しいモンだから」
lw´‐ _‐ノv「はあん、なあるなるほど」
- 45 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 22:58:08.83 ID:RP1LwhxRO
-
lw´‐ _‐ノv「お坊っちゃんは……」
( ^ω^)「ここ数年、名前で呼ばれた記憶がねえお」
('A`)「坊っちゃん、だからなァ」
lw´‐ _‐ノv「あとは、お大福?」
( ´ω`)「大福とか呼び名ですらねえお……」
lw´‐ _‐ノv「でも、ほうら、頬がやわこくようお伸びになりんす」
lw´‐ _‐ノvっ< ;´ω`)「伸ばさんでくれお、しゅう様……」
('A`)
lw´‐ _‐ノvっ< ;´ω` >⊂('A` )
< ;´ω` >「お前ら……」
肩の力を抜いた二人と毒婦の君、しゅうが向かい合って座る。
そして坊っちゃんの頬がやわこいだの伸びるだのと、きゃらきゃら楽しそうに笑っていた。
- 47 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:00:18.10 ID:RP1LwhxRO
-
lw´‐ _‐ノv「所でお坊っちゃんに鬼の子ちゃん、此度は如何に如何に?」
( ^ω^)「お、ちょいと相談があってお」
lw´‐ _‐ノv「百鬼夜行、かえ?」
( ^ω^)「お」
('A`)「流石は億万と糸を巡らす蜘蛛夫人、筒抜けか」
lw´‐ _‐ノv「えっへん、わっちに届かぬ言葉は、この町にゃあありゃあせん」
( ^ω^)「ぷらいばしいも糞もねえお」
lw´‐ _‐ノv「わっちもお手伝い出来るならばしやんす、けれども」
('A`)「しゅう様は、動けねェ」
lw´‐ _‐ノv「そう、わっちには脚が足りんせん、一人じゃあ歩く事もままならぬ」
( ^ω^)「お……」
lw´‐ _‐ノv「まあ、足りぬは脚だけではあらぬけれども」
- 50 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:02:46.36 ID:RP1LwhxRO
-
しゅうは己の千切れた右後ろの脚を撫でて、困った様に笑って見せた。
しかしその言葉通り、よく見れば、足りぬのは脚だけではない。
人と同じ形に生える腕とは別の、髪に隠れるもう一対の腕。
その右腕も、二の腕の辺りで千切れている。
上げた前髪に晒される額。
本来の目の上に存在する一対の目も、右が潰れて閉ざされていた。
凄惨なる傷ではあるが、どれも古傷で痛む事はない。
けれども四本の筈の脚が一本足りぬとなれば、一人ではうまく歩く事も出来ない。
腕を支えにしようにも、こちらも一本足りぬのだ。
目も一つ潰れ、前をよく見渡す事も難しい。
元より目の良くはない蜘蛛の目が足りぬのは、死活問題。
そんな身でも生きられると云うのは、しゅうの夫。
雷獣公と呼ばれるあやかしが、妻を支えて来たからこそ。
その夫が不在の今、しゅうは自由に身動きが取れぬも同然であった。
- 51 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:04:26.74 ID:RP1LwhxRO
-
lw´‐ _‐ノv「この様なかたわもののわっちでは、お役には立てぬでしょう」
( ^ω^)「しゅう様……」
lw´‐ _‐ノv「旦那様が不在の時は、糸で絡めて物を引き寄せるが限界
わっちは今や、一人じゃあ生きれぬ身にありんす」
('A`)「誰か、雇ったりはしねェんですかい?」
lw´‐ _‐ノv「こおんなわっちの元に、人間もあやかしも、来るものですか
半人で半蟲、人の身を持つ者は、嫌がるのが同然にありんす」
( ´ω`)「おー…………」
( ^ω^)「お」
('A`)「あン?」
lw´‐ _‐ノv「んん?」
( ^ω^)「居るお、人の形を持たぬ娘が」
- 52 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:06:36.89 ID:RP1LwhxRO
-
lw´‐ _‐ノv「あら、あらあら、この町に人になれぬあやかしとは」
( ^ω^)「半人の半蛇、齢は七つと奉公に来るにも良いお歳」
lw´‐ _‐ノv「あらあらあら、それは」
( ^ω^)「雇う、かお?」
lw´‐ _‐ノv「……気立ては?」
( ^ω^)「良し、お顔も愛らしく心は優しい大人しい娘さんだお」
lw´‐ _‐ノv「…………ふむん、むむむん」
( ^ω^)「もし雇う気があるのなら、僕からその子にも云っておくお?」
lw´‐ _‐ノv「……よろしく、お願いしてもよござんす?」
( ^ω^)「よし来た」
('A`)「…………あァ、彼奴の妹か」
( ^ω^)「娘子に彼奴とか云わない」
('A`)「へいへい」
- 53 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:08:08.37 ID:RP1LwhxRO
-
( ^ω^)「ま、その子には帰りにでも云いに行くとして
しゅう様、お手伝い願えませんかお?」
lw´‐ _‐ノv「んん? だから、わっちは」
( ^ω^)「何もそのまま百鬼夜行に出ろとは申しませんお」
lw´‐ _‐ノv「……つまり、情報を寄越せ、と」
( ^ω^)「そう、なりますお」
lw´‐ _‐ノv「…………」
( ^ω^)「…………」
lw´‐ _‐ノv「よござんす」
( ^ω^)「お!」
lw´‐ _‐ノv「しかし、条件がありんす」
(;^ω^)「お!?」
('A`)「やっぱり、毒婦の君は甘かァねェか」
lw´‐ _‐ノv「あらん、わっちの毒は甘くってよ? お飲みになりんす?」
('A`)「死ぬでしょうが」
- 59 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:10:03.94 ID:RP1LwhxRO
-
( ^ω^)「お……条件、とは?」
lw´‐ _‐ノv「…………お腹空いた」
( ^ω^)「どくお、お土産を」
('A`)「どんぞ、おはぎでやんすよッと」
lw´‐ _‐ノv「やや、お米のお菓子」
( ^ω^)「お召し上がり下さいお」
lw´)‐ _‐ノv゙「いはひゃいへはふ」
(;^ω^)「手え早いお、しゅう様……」
lw´‐ _‐ノv「むぐんぐ、鬼の子ちゃん、お茶」
('A`)「へいへい」
( ^ω^)「ああもうしゅう様、二つ一辺には食えませんお」
('A`)「三つはもっと無理だ、しゅう様」
( ^ω^)「しゅう様、お願いですから一つずつ食べて下さいお、だから四つ持たないの」
- 63 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:12:23.33 ID:RP1LwhxRO
-
風呂敷を剥がして蓋を開け、しゅうへ差し出された重箱には、ぎっしりおはぎ。
粒を残した餡にくるまれた、半殺しの餅米の菓子。
それをひょいと白い手が掬い上げ、もぐりと口へ放り込んだ。
口いっぱいに広がる程好い弾力、甘さ、さらりと溶ける餡の優しさ。
二口三口で、手のひらに乗る大きさのおはぎを食べ終える。
三本ある手がそれぞれにおはぎを持って食おうとするが、口は一つ。
一気には食べられず、喉に詰まらせた所でどくおがお茶を持って戻ってくる。
餡と餅米を熱い茶で押し流し、余程腹が減っていたのか
しゅうは勢いを休める事もせず、ただもぐもぐと、おはぎを重箱から消して行く。
まるで、どこぞの犬の神様の様だ。
食べ方はずっと綺麗だけれど、と二人は笑い、
無心におはぎを食べるしゅうを、ぼんやりと見ていた。
三段重ねの重箱は、もう二段が空っぽだった。
- 66 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:15:08.74 ID:RP1LwhxRO
- 上品でありながらもがつがつと、三段分のおはぎを平らげるしゅう。
手やら頬に付いた餡を丁寧に拭って嘗めてから、お茶をすすって息を吐く。
お腹一杯と微笑んで、ぺこり、頭を下げた。
lw´‐ _‐ノv「美味しゅう御座いました」
(*^ω^)
('A`)「お粗末様でやんした」
lw´‐ _‐ノv「でも、旦那様に比べれば未だ未だ」
( ´ω`)
('A`)「菓子の師匠にそうそう勝てますかい」
lw´‐ _‐ノv「旦那様のお米のお菓子は、天下一品でありんす」
('A`)「どうやったら、ああ迄も美味くなるンすかねェ……」
lw´‐ _‐ノv「食べる人への愛情」
('A`)
lw´‐ _‐ノv
( ^ω^)「重箱の隅に残った餡うめえお」
- 67 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:16:32.33 ID:RP1LwhxRO
-
重箱にこびりついた餡を指で掬って嘗める坊っちゃん。
それを見て、どくおとしゅうが首を傾げて少しだけ笑った。
('A`)「なるほど」
lw´‐ _‐ノv「ね」
('A`)「つまり、雷獣公の菓子が美味いのは、しゅう様に食わす為だからか」
lw´‐ _‐ノv「そして、皆へは愛のお裾分け」
('A`)「聞くだけで腹一杯だ」
lw´‐ _‐ノv「ふふふ、お坊ちゃんには伝わってる様で」
('A`)「うっせェ」
行儀が悪いと坊っちゃんの頭をはたき、空の重箱に蓋をする。
そして肩を竦めて、てきぱきと重箱を風呂敷に包んだ。
良くは分からんが、美味いと云われるのは嬉しい物だ。
- 70 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:18:36.41 ID:RP1LwhxRO
-
( ^ω^)「さて、しゅう様」
lw´‐ _‐ノv「はいな」
( ^ω^)「よろしければ、お手伝いを」
lw´‐ _‐ノv「よござんすよ」
( ^ω^)「お」
lw´‐ _‐ノv「手が詰まればわっちの所へおいでなさいな、糸で導き致しましょ」
( ^ω^)「有り難う御座いますお、しゅう様!」
lw´‐ _‐ノv「その代わり」
(;^ω^)「も、もうおはぎ無いお……?」
lw´‐ _‐ノv「いないな、おはぎじゃあありんせん、わっちが求めるは愛しきお方」
('A`)「雷獣公?」
lw´‐ _‐ノv「そ」
('A`)「を、どうしろと?」
lw´‐ _‐ノv「そろそろ一人は、寂しく思いまする」
- 72 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:20:18.26 ID:RP1LwhxRO
-
( ^ω^)「……連れて来い、と」
('A`)「何ちゅう我儘女王様だ」
lw´‐ _‐ノv「てへ」
( ^ω^)「…………分かりましたお、何処にいらっしゃるんですお?」
lw´‐ _‐ノv「お山の上に」
( ^ω^)「お山?」
lw´‐ _‐ノv「裏のお山の天辺に」
( ^ω^)
('A`)
lw´‐ _‐ノv
( ^ω^)「明日でも良い?」
lw´‐ _‐ノv「うん」
- 74 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:22:10.46 ID:RP1LwhxRO
-
( ^ω^)「流石にもう脚ががくがくだお、歩き疲れたお」
('A`)「俺も、今から山登りとなったらどうなるかと」
lw´‐ _‐ノv「あらあら、何故にそんなにお疲れ?」
( ^ω^)
('A`)
lw´‐ _‐ノv「乗り物呼んで差し上げる故、怒らんで下さいましな」
( ^ω^)「うむ」
lw´‐ _‐ノv「一人だと寂しいのだもの、悪戯したくて」
('A`)「下手すりゃ野垂れ死にでやんすよ」
lw´‐ _‐ノv「その前に、ちゃんと引き上げるから大丈夫」
( ^ω^)「そう云う問題じゃねえお」
lw´‐ _‐ノv「てへ」
- 77 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:24:13.50 ID:RP1LwhxRO
-
( ^ω^)「さて、そんじゃあそろそろおいとまするお」
lw´‐ _‐ノv「あら、もうお帰り?」
( ^ω^)「お稚児さんには話しておくから、寂しがるなおしゅう様」
lw´‐ _‐ノv「……はいなあ」
('A`)「それじゃ、失礼致しやす」
( ^ω^)「また来るお、しゅう様」
lw´‐ _‐ノv「あ、ちょいとお待ちあれ」
( ^ω^)「お?」
のっこい、と立ち上がる二人を手のひらで制して、
しゅうは三本の腕をくるくると、何かを巻き取る様な動作を見せる。
二人が首を傾げて居ると、外から何やら、大きな物音。
それを聞いたしゅうはにっこりと笑って、二人に頭を下げた。
- 80 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:26:15.02 ID:RP1LwhxRO
-
lw´‐ _‐ノv「またのお越しを、お坊っちゃん、鬼の子ちゃん」
( ^ω^)「? またお、しゅう様」
('A`)「また」
不思議そうに首を傾げる坊っちゃんは、不思議そうな顔のまま、座敷を出る。
そして来た時と同じ様に、散らかり放題の長い廊下を歩いて玄関へと。
閉ざされていた戸を己の手で開き、外へ出た。
ひやりとした風を頬に感じて羽織の前を手で寄せると、脇の方で何やら物音。
ちらりとそちらへ顔を向ければ
ミ;,゚Д゚彡「な、何だァ!? ここどこだァ!?」
そこには、蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされた火車が、転がっていた。
- 83 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:28:14.42 ID:RP1LwhxRO
-
( ^ω^)「……ああ、これを引き寄せてたのかお」
('A`)「……みてェだな」
ミ;,゚Д゚彡「ンだよ! どう云う事だよ!? 俺様は庭で寝てた筈だぞ!?」
( ^ω^)「うん、まあ」
('A`)「まあ、なんだ」
ミ;,゚Д゚彡?
( ^ω^)「火車、猫車に変体しろお」
ミ;,゚Д゚彡「はァ!?」
('A`)「乗り物専属契約だろが」
ミ;,゚Д゚彡「そ、そうだけど訳わかんねェ!!」
( ^ω^)「つべこべ云うなお、道案内はするから乗せろお」
('A`)「さっさとしろや、耳もいじめェぞ」
ミ;,゚Д゚彡「理ッ不尽ッ!!」
- 87 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:30:18.16 ID:RP1LwhxRO
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派手な猫車に変貌を遂げた火車に乗り、坊っちゃんとどくおは来た道を戻って行く。
行きはああも苦労したと云うのに、帰りは幻術が解けて何時も通りの道であった。
路地を抜けて角を曲がって、通りを進んで脇の道へ。
それを数回繰り返せば、もう迷い様のない大きな通りに出ていた。
猫車を押す自称犬の猫は、膨れっ面で駆け抜ける。
と、坊っちゃんがある事に気付き、火車の頭をはたいて猫車を止めさせた。
ミ,,゚Д゚彡「いっでぇ! ……ンだよ今度は!?」
( ^ω^)「ちょいと降りるお、可愛屋に用があるんだお」
ミ,,゚Д゚彡「はァ? 何でだよ?」
('A`)「ああ、あの件か」
( ^ω^)「お」
ミ,,゚Д゚彡「何の話だ?」
('A`)「お前にゃ関係ねェ」
ミ,,゚Д゚彡
- 89 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:32:19.85 ID:RP1LwhxRO
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甘味処可愛屋の前でどっこいしょーいち、等と云いながら坊っちゃんが降りる。
そして店の前で、中を覗いて目当ての人物を探す。
すると目的の人物は思いの外簡単に見付かり、向こうも坊っちゃんに気付いたらしく。
とことこと可愛らしい下駄を鳴らして、坊っちゃんの前へとやって来た。
ξ゚听)ξ「いらっしゃいまし、内藤さん」
( ^ω^)「お、すまんお、今日は客じゃあねえんだお」
ξ゚听)ξ「では、どの様なご用で?」
( ^ω^)「つんに朗報だお」
ξ゚听)ξ「朗報、ですか?」
( ^ω^)「でれちゃんの働き先、めっけたお」
ξ゚听)ξ「ぇ……」
- 91 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:34:34.45 ID:RP1LwhxRO
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( ^ω^)「勝手に話を進めて申し訳無いお、でも折角だったから、つい」
ξ゚听)ξ「い、いえ! 何処でしょうっ? 半身が蛇でも、問題無いんですかっ?」
( ^ω^)「おっおっ、そっちが良ければ明日にでもって具合だお」
ξ゚听)ξ「ふぁ……よ、良かったぁ……」
( ^ω^)「おー、よしよしお」
ξ*´兪)ξ「うひぇぉ」
( ^ω^)「毒婦の君って、知ってるかお?」
ξ*´兪)ξ「は、はひ……町の妖怪の母たる偉大なお方とお聞きしまぅ……」
( ^ω^)「その毒婦の君の所がでれちゃんの奉公先だお」
ξ;゚听)ξ「うひぇっ!?」
( ^ω^)「お?」
- 94 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:36:28.42 ID:RP1LwhxRO
-
ξ;゚听)ξ「そ、そんなご高名なお方の所にでれが!?」
( ^ω^)「お」
ξ;゚听)ξ「そそ、そんな、でれがもし粗相をしてしまったら……」
( ^ω^)「大丈夫だお、毒婦の君は話せば軽くて優しいお方だお、適当だし」
ξ;゚听)ξ「ど、毒婦の君は……?」
( ^ω^)「今はご不在の、毒婦の君の旦那様は怒ると怖いお」
ξ;゚听)ξ「毒婦の君の旦那様って……」
( ^ω^)「雷獣公」
ξ; )ξそ「雷獣公ぉおっ!?」
( ^ω^)「そういや有名だったかお、雷獣公」
ξ;゚听)ξ「有名云々じゃありませんっ! 雷獣公のお通りになった跡には何も残らぬと云いますよ!?」
( ^ω^)「おー、そういやそんな話しもあったお」
ξ;゚听)ξ「暴れ焼け野原となった跡地に出来たのがこの町でしょうっ!?」
( ^ω^)「ええ、雷獣公すげえ」
- 97 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:38:21.08 ID:RP1LwhxRO
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ξ;゚听)ξ「そそそそその様なお方の所にでれが行ったらごごごご迷惑なのでははははは」
( ^ω^)「落ち着けおー落ち着けおー、よしよし」
ξ*´兪)ξ「あひょぅ」
( ^ω^)「それらは昔の話だお、狐の大将すら生まれる前の話だお」
ξ*´兪)ξ「でで、でも……」
( ^ω^)「今は隠居してるし、近所の厳しい雷親父みてえなもんだお」
ξ*´兪)ξ「色んな意味で雷親父じゃないでひゅか……」
( ^ω^)「おっおっ、そんなに怖い相手じゃあねえお、心配するなお」
ξ*´兪)ξ「で、でも、怖いって先刻ぃ……」
( ^ω^)「それは怒るとだお、でれちゃんは未だ小さいし気立ても良い子だお?」
ξ*´兪)ξ「うひゃぉぅ……」
( ^ω^)「大丈夫だお、でれちゃんならしっかりやれるお、何たってつんの妹だお」
ξ*´兪)ξ「か……過大評価でひゅ……」
- 102 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:40:33.96 ID:RP1LwhxRO
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( ^ω^)「だからほら、そう気負わずに受けてみるお」
ξ*´兪)ξ「わ、わかりまひゅた……あとあの……頭なでないで……」
( ^ω^)「つんは可愛いおー、ぐりぐり」
ξ*´兪)ξ「ひゃぇうぉぁ……やや、やめれ……恥ずかしいでしゅ……」
( 'A`)
ミ,,゚Д゚彡
ξ;゚听)ξ「ややや止めろこの豆大福が触るなァアッ!!」
(;#)ω`)そ「おげぁっ!?」
('A`)「何時まで遊んでンだお前らは」
ミ,,゚Д゚彡「何だ、つがいかお前ら」
ξ;゚听)ξ「ちち違います済みません失礼します猫畜生ッ!!」
ミ;,゚Д゚彡「猫畜生ッ!?」
('A`)「転ぶなよー」
- 105 ◆XCE/Wako2nqi 2009/10/06(火) 23:42:27.48 ID:RP1LwhxRO
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坊っちゃんの顔面を平手打ちするや否や、つんは変な汗を流しながら店へと戻って行った。
それを見送るどくおは、猫車の上へ項垂れる坊っちゃんを乗せる。
火車に出せと小さく云うと、走り出した猫車の上で、風を感じながら空を見上げた。
高くなった空に浮かぶ白い雲から、首を巡らせて山の方へ顔を向ける。
町の端から行ける山、その山頂にある赤い鳥居がうっすらと見える。
明日にでも、あそこまで行くのか。
そう考えると、僅かに気が重くなった。
生え際の小さな角を指で撫で、俯く坊っちゃんへ目をやる。
似てきたなあ、親父さんに。
小さく肩を竦めて笑い、空の重箱を抱き締めた。
『残り 八十匹』
おしまい。