2 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:00:44.36 ID:W0iQ1d0ZO

 ぐちゃりと潰れるこの身体。
 ぐらり壊れるそのこころ。

 嗚呼、その痛みは耐え難く
 幼い身体はただただひたすら崩れゆく。

 揺さぶられながら血の音を聞く。
 ぐちゃりぐちゃりと身体は裂ける。

 余りの痛みに何度も泣いては叫び、ごめんなさいは悲鳴の如く。



     ( ^ω^)百鬼夜行のようです。

      【第三話 百折千磨その身に背負い。 前編】



 腹から引き千切られる様な痛みに、狂い、泣き叫んだ。
 ぐろりと上を向く目玉に、脳裏に浮かぶはあるじの姿。



 嗚呼 嗚呼 たす け て。

 いた い よ。


4 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:02:13.71 ID:W0iQ1d0ZO

( ^ω^)「どっくおー?」

('A`)「へいへい」

( ^ω^)「出掛けるおー」

('A`)「悪い、仕込みがあるから先行ってくれ」

( ^ω^)「お? 今度は何を作ってるんだお?」

('A`)「ちょこ饅頭」

( ^ω^)

('A`)「いや、折角だから……時期に合わせて……」

( ^ω^)「どくお」

('A`)「はい」

( ^ω^)「時期過ぎてる」

('A`)


8 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:03:36.04 ID:W0iQ1d0ZO

('A`)「…………桜餅、作るな……道明寺の」

( ^ω^)「……うん」

('A`)「……茶目っ気出すんじゃなかった……」

( ^ω^)「……うん、先週だね……」

('A`)「もう暦は春だもんな……うん……桜餅で良いよな、もう……」

( ^ω^)「…………うん」

('A`)「この饅頭、どうしようか……」

( ^ω^)「……みんなで、食べるから……」

('A`)「…………うん……」

(´・ω・`)「むきゅ」

('A`)「……しょぼんも、食えな」

(´・ω・`)「むきゅ!」

('A`)「…………行ってらっしゃい、後から追うから……」

( ^ω^)「……うん」


9 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:04:35.63 ID:W0iQ1d0ZO

 坊っちゃんは項垂れるどくおを置いて、しょぼんを首に巻き家を出た。
 庭で転がる猫と鳥に手を振って、のんびりからころ歩き出す。

 前日切り落とされた脚は、ちょっとした蝦蟇の犠牲を出したが元通り。
 ぴったりとくっつき、薄い跡を残しては居るが何ら問題はない。

 元気良く下駄をからころ、お呼ばれされた場所へと楽しげに足を向ける。


 坊っちゃんを呼んだのは、幼馴染みの可愛いあの子、蟒蛇のつん。
 黄色い巻き髪を揺らしながら坊っちゃんを待っている、そう思うだけで足取りは軽い。

 うきうきと可愛屋に向かう坊っちゃん。

 その目に、見覚えのある姿が映った。

  _
( ゚∀゚)「……やべえ、五平餅うめえ」


 それは、いつかにぶつかってしまった、一人の男。


10 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:05:02.15 ID:W0iQ1d0ZO

 先日は女を連れていたが、今日は一人らしいその男。
 屋台の前で五平餅を頬張る姿に少し悩んでから、これも何かの縁だ、と坊っちゃんは近付く。


( ^ω^)「こんにちはですお」
  _
( ゚∀゚)「ん? あ、いつぞやの」

( ^ω^)「あの時は失礼しましたお、今日はお一人ですかお?」
  _
( ゚∀゚)「おうよ、まあ気にすんな。五平餅美味くてな、また来た」

( ^ω^)「おー、そんなに美味いのですかお?」
  _
( ゚∀゚)「おうよ、お前も食ってみろ」

( ^ω^)「うちには菓子作りの無駄に上手い奴が居るから、それが作ってくれますお!」
  _
( ゚∀゚)「え、良いなそれ」

( ^ω^)「今度うちにお越しくださいお、振る舞いますおー」
  _
( ゚∀゚)

( ^ω^)「お?」


12 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:05:29.65 ID:W0iQ1d0ZO
  _
( ゚∀゚)「あ、いや……よく見ず知らずの奴を呼べると思ってよ」

( ^ω^)「おー……? おかしい、ですかお?」
  _
( ゚∀゚)「いや、悪い意味で云ったんじゃねぇよ、ただ警戒心が無いと」

( ^ω^)「だって、この町の人らはみんな僕の友達ですお!」
  _
( ゚∀゚)

(;^ω^)「お、お?」
  _
( ゚∀゚)「ああ悪い、……おうよ、んじゃまた機会があったら、行かせて貰うわ」

(*^ω^)「お! お待ちしてますお!」
  _
( ゚∀゚)「…………あ、名前は?」

( ^ω^)「内藤と申しますお、その辺の人に聞いたら家の場所も一発ですお!」
  _
( ゚∀゚)「俺は長岡、じゃあ、またな」

( ^ω^)「またですおー」


13 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:06:02.44 ID:W0iQ1d0ZO

 ひらひらと手を振り、五平餅を頬張りながら立ち去る男、長岡。
 その後ろ姿を見送り、ちりちりと云う鈴の音を聞きながら、坊っちゃんも歩き出した。

 変わった出で立ちだが普通の人だなと思いつつ、坊っちゃんは長岡の姿を思い出す。


 裾の襤褸けた真っ赤な羽織に、鉄紺色の着流し。
 羽織と同じ色の帯には、鈴を付けた一本の刀。

 頭には斜めに付けた狐面、短い髪だか頬に流れる髪束は長く、右側は鈴を下げた赤い紐で飾られて。
 赤い鼻緒の下駄、左足首には髪を飾る物と同じ紐と鈴。


 派手な出で立ちだよなあと思いつつも、この町では大して気にする事でも無いとも思える。
 あやかしが多い町、派手な出で立ちの者もそれなりに居るのだ。

 少し変わってはいるが、特に気にする格好でもない。
 ただ、鈴の音が耳に馴染んで離れない、と云うだけ。


( ^ω^)「それにしても、……眉がやたらはっきりしてたお」

(´・ω・`)「むきゅ?」

( ^ω^)「いやしょぼんじゃなくてね」


16 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:08:29.47 ID:W0iQ1d0ZO
 まあ良いや、と坊っちゃんは目的の場所へと向かう。
 早く行かねば、可愛い幼馴染みのを待たせてしまう。
 そう思い、可愛屋の近くに差し掛かった時。


ミセ*/ー゚)リ「いらっしゃいませー!」

( ^ω^)「お」

ミセ*/ー゚)リ「美味しいお団子ありますよー! いらっしゃいませー!」

( ^ω^)「おー、呼び込みかおみどりちゃん」

ミセ*/ー゚)リ「あ、内藤さん!、いらっしゃいませ!」

( ^ω^)「眼帯は?」

ミセ*/ー゚)リ「無くした」

( ^ω^)「うっかりさんめ、つんは居るかお?」

ミセ*/ー゚)リ「お店に居ますよっと、んじゃ一緒に行きましょか」

( ^ω^)「呼び込みは良いのかお?」

ミセ*/ー゚)リ「喉いたいです」

( ^ω^)「そんなにしてたのかお、呼び込み……」


18 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:09:08.73 ID:W0iQ1d0ZO

 大声で客の呼び込みをしていた少女、緑の髪をしたみせり。
 みせりは坊っちゃんの姿を見つけると、疲れた様に腕を回しながら隣を歩く。

 店へ戻るついでに客を連れてきた事にする、と笑うみせりに
 坊っちゃんは少しの苦笑いを含ませて、小さな頭をぽんぽんと撫でてやった。

 みせりの齢は未だ十に行かない程度。
 それでも立派に働く彼女には、親が居ない。

 生きる為に、必死で働いて居るのだろう。
 そう思うと、つい、甘やかしてしまいたくなる。


ミセ*/ー゚)リ「お客さん連れてきましたー!」

o川*゚ー゚)o「はいお疲れ……って、坊っちゃんやないの」

( ^ω^)「こんにちはだおー、つん居るかお?」

o川*゚ー゚)o「はいはい、ちょい待ち」

ミセ*/ー゚)リ「あー疲れた……お店で愛想振り撒いてる方が楽かも……」

( ^ω^)(子供の発想じゃねえお)

19 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:10:11.56 ID:W0iQ1d0ZO

ミセ*/ー゚)リ「内藤さん、今日はどしたんです?」

( ^ω^)「お、つんに呼ばれて……」

ミセ*/ー゚)リ「あやややー? あっつあつですねー、こんにゃろっ」

(*^ω^)「おっ……そ、そう云う訳じゃ……」

ミセ*/ー゚)リ「またまたー、良いですねー花嫁道中すぐにでも見れちゃいそ」

ヽiリ,;゚ヮ゚ノi「誰かーっ!! 食い逃げーっ!!」

ミセ#/−゚)リ「なぬ、待てくらぁぁぁぁぁぁあっ!! みせり様のあんよに敵うと思うなああああああっ!?」

ハソ; ゚−゚リ「あっ、みせりちゃん!? ちょっ、待って! お店あけちゃだめーっ!!」

ヽiリ,;゚ヮ゚ノi「みせりちゃああああん待ってー! 女の子一人は危ないよー!!」

(;^ω^)

ξ゚听)ξ「すみません内藤さん、お待たせ…………あれ、あの子達は……」

(;^ω^)σ

ξ゚听)ξ

ξ゚听)ξ「また……向こう見ずなんだから……」


21 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:10:46.98 ID:W0iQ1d0ZO

 ばたばたと賑やかしく、3人の看板娘達が食い逃げを追って走って行った。
 僕が捕まえると云う間もなく走り去った後ろ姿を見つめながら、坊っちゃんは息を吐く。

 店の奥から出てきたつんは、前掛けを外して、袖も下ろしている。
 どうやら仕事を終えたのか、小さな包みを片手に坊っちゃんの隣に座った。


ξ゚听)ξ「すみません、お呼び出ししてしまって」

( ^ω^)「良いおー、それよりどうしたんだお?」

ξ゚听)ξ「あ、んと、これ」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「二月は、お礼の気持ちを込めてお菓子を贈ると聞きましたので」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ「ええと……ばらんたいん、でしたっけ?」

( ^ω^)「ばれんたいんばれんたいん」


22 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:11:18.94 ID:W0iQ1d0ZO

ξ゚听)ξ「ですのでこれ、内藤さんに……ちょこれいとうとか云うのが、入ったので……」

( ^ω^)「つん」

ξ゚听)ξ「はい?」

( ^ω^)「有り難いけど、ばれんたいんは十四日だお」

ξ゚听)ξ

( ^ω^)「それと、ちょこを渡して好いた相手に告白する日だお」

ξ゚听)ξ

( ^ω^)「あとこれちょこじゃなくて大福」

ξ゚听)ξ

( ^ω^)

ξ寐刧)ξ

( ´ω`)


24 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:12:06.52 ID:W0iQ1d0ZO

ξ寐刧)ξ「……すみません……色々と……」

( ^ω^)「ちょこと大福をどう間違えたのは気になるけど、気にしなくて良いお」

ξ寐刧)ξ「すみません……お恥ずかしいです…………ちょこをきゅうさんから分けて頂いたのに……」

( ^ω^)「きゅう姐さんが間違えたのかお……?」

ξ寐刧)ξ「いえ、きっとでれが勝手に食べました……包みの結び方がよく見たら違う……」

( ^ω^)「でれちゃん……」

ξ寐刧)ξ「戸棚の大福が無くなったと思ったら……」

( ^ω^)「でれちゃん…………意外と姑息な……」

ξ寐刧)ξ「すみません……ちゃんと躾ておきます……」

( ^ω^)「ま、まあ気にするなお、ところででれちゃんはどうだお?」

ξ寐刧)ξ「相変わらず、表には出たがりません……」


26 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:12:55.18 ID:W0iQ1d0ZO

 でれと云うのは、つんの唯一の肉親である妹の名。
 まだ十やそこらなのだが、少しばかり問題があり、表へと出たがらぬのだ。

 その問題は、蟒蛇。
 つんの様な蟒蛇の妖怪は、元の姿が人の上半身に蛇の下半身を持つもの。

 歳を重ねねば、つんの様に人の姿になる事が出来ぬのである。

 そして妹のでれは、まだ、上手く人の姿になれない。


 つんと違い、町に生まれ町で育ったでれは、己の下半身を人に見せたがらない。
 人の姿をした者ばかりが居る町で、人と違う己の姿を見せるのが嫌らしい。

 蟒蛇としての誇りを持つつんに比べれば、でれはその誇りが薄い。
 町生まれの町育ちだと、無理もない事。

 しかしそれを、つんは悲しく思うのである。


 これが時代の流れだと、思いつつも。
 どことなく、悲しくなってしまうのだ。


27 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:13:44.71 ID:W0iQ1d0ZO

 そしてつんが頭を悩ませる事が、もうひとつ。

 でれはその体のため、働きに出る事が出来ずにいる。


 蛇の尾ではうまく歩けず、狭い場所だとどうしても邪魔になってしまう。
 一度奉公に出た物の、うまく行かずものの数日で戻ってきてしまった。

 それ以来、でれは家に引きこもり、つんが一人で家計を支えている。
 知り合いの店で優しくされてはいるが、二人分の生活費を稼ぐのは、そう、簡単な事ではない。


ξ゚听)ξ「でれが体の事を気にせず働ける場所があればとは思いますが……これは、我が儘ですね」

( ^ω^)「おー……探しておこうかお?」

ξ゚听)ξ「それは内藤さんにご迷惑です、それに……町には、あまり居ないと思うんです」

( ^ω^)「……確かに、みんな人の姿はしているお」

ξ゚听)ξ「家にこもっていては、人に化ける術も上達しないのに……」

( ^ω^)「お……」


28 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:14:46.28 ID:W0iQ1d0ZO

ξ゚听)ξ「あ、そうだ」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「今日は、他にもご用があったんです。これから少しよろしいでしょうか?」

( ^ω^)「お、構わんおー」

ξ゚听)ξ「では、」

('A`)「おいーす」

ξ゚听)ξ「あ、どくおさん」

( ^ω^)「お、仕込みは終わったかお?」

('A`)「おう、持ってきた」

( ^ω^)「桜餅出来るの早くない?」

('A`)「いや、ちょこ饅頭」

( ^ω^)

('A`)


29 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:16:01.25 ID:W0iQ1d0ZO

('A`)「仕込みって云うか、蒸し上がり待ってたんだよ」

( ^ω^)

('A`)「……桜の花びら乗せて『はぁとまぁく☆』とか云わなかっただけ良いと思えよ」

( ^ω^)「それやったらビンタするわ」

('A`)

( ^ω^)「やろうとしてたな」

('A`)「ごめんなさい」

ξ゚听)ξ「……」

('A`)「ん、どうしたつん」

ξ゚听)ξ「いえ、良い匂いだと思いまして……」

('A`)「一個やるよ」

ξ*゚听)ξ


30 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:16:46.35 ID:W0iQ1d0ZO

( ^ω^)「それで、何処に行くんだお?」

ξ゚听)ξ「むぐ、わたひのともらひのところれふ」

('A`)「歩きながら食うな」

ξ゚听)ξ「むぐぐ、うぐむ、んぐ」

('A`)「半分以上丸飲みだと……」

ξ゚听)ξ「失礼しました、私の友達の所です」

( ^ω^)「お、あやかしかお?」

ξ゚听)ξ「いえ、人間です。内藤さんも知ってると思います」

( ^ω^)「おー? つんの友達で、僕も知ってる人間……」

('A`)「…………ああ、あいつか」

ξ゚听)ξ「はい、あの子です」

( ^ω^)「お?」


31 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:17:20.25 ID:W0iQ1d0ZO

('A`)「あいつらは元気か?」

ξ゚听)ξ「はい、相変わらずみたいです」

(;^ω^)「お、お?」

('A`)「まあ行ったら解る」

(;´ω`)「おー……?」


 合流したどくおと、つんと坊っちゃんはのんびりと町を行く。
 歩けば歩く程、道を選べば選ぶ程、人の気配は少なくなって行き。

 つんがどくおに貰った二つ目の饅頭を飲み込んだ頃には、人っ子一人通らぬ狭い路地。
 三人がぽつんと存在する、家屋はあれども人は住まぬ町の僻地。

 坊っちゃんは誰の元に向かっているか解らず首を傾げて居たが、
 この閑散とした通りにやっと気付いたのか、一人、納得した顔をしていた。


 そして、角を曲がろうとした時に
    ,_
  (゚Д゚#トソン「客が来ねェェェェェェェェェェェェッ!!!!」

 女の怒号が響いた。


32 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:17:43.27 ID:W0iQ1d0ZO

ξ゚听)ξ

( ^ω^)

('A`)
  ,_
(゚Д゚#トソン
  ,_
(゚Д゚;トソン

ξ゚听)ξ「……相変わらずみたいですね」

( ^ω^)「だお」

('A`)「だな」
  ,_
(゚Д゚;トソン「う、うるせぇ何だお前ら」

ξ゚听)ξ「忘れましたか? つんです」
  ,_
(゚Д゚#トソン「お前は解るわ蟒蛇」
( ^ω^)「内藤のだお、久し振りだお、とそん」

('A`)「内藤のどくおだ、忘れたか」

(゚Д゚ トソン
  ,_
(゚Д゚ トソン ?

33 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:18:27.63 ID:W0iQ1d0ZO

ξ゚听)ξ「忘れられてますね、一応は幼馴染みなのに」

( ^ω^)「哀しいもんだお……」
  ,_
(゚Д゚ トソン「……?」

( ^ω^)「一反木綿をもみ洗い」
  ,_
(゚Д゚#トソン「てめぇか内藤おおおおおおおおッ!!」

( ^ω^)「わーい思い出したー」

('A`)「一反木綿で豆腐作り」
  ,_
(゚Д゚#トソン「どくおおおおおおおおおッ!!」

('A`)「わーい思い出したー」
  ,_
(゚Д゚#トソン「どの面下げて来やがったお前らあああああああああああッ!!!!」

ξ゚听)ξ「何をしたらその言葉で思い出せるんですか……」


34 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:18:45.92 ID:W0iQ1d0ZO
  ,_
(゚Д゚#トソン「こいつらあたしのだいで木綿豆腐作ろうとして失敗して塩揉み洗いをッ!!」

ξ゚听)ξ「で、だいは何処ですか、とそん?」
  ,_
(゚Д゚#トソン「聞けよ蛇雌ゥッ!!」

ξ゚听)ξ「飲みますよ」
  ,_
(゚Д゚;トソン「ごめん」


 下駄をすっ飛ばしながら吼えるのは、髪を短く切り揃えた年頃の娘。
 黄色の着物に赤い前掛けをしており、前掛けには都村屋の文字。

 ひょいと下駄に足を引っ掛け、とそんと呼ばれた娘は渋い顔をしつつ通りの奥へ進む。

 通りの奥にある物は、都村屋と立派な看板の掛かった店。
 町の僻地にあるとは思えぬ程に立派なそこは、掃除も行き届いており、品物も綺麗に並べられている。

 品物と云うのは、包丁から箪笥まで様々な物。
 薬もあれば着物もあり、何でも無造作に揃えられていて。

 都村屋は、雑貨屋、なのである。


35 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:19:04.31 ID:W0iQ1d0ZO
  ,_
(゚Д゚ トソン「……だい! 茶あ!」

ξ゚听)ξ「とそん……」
  ,_
(゚、゚ トソン「んだよ」

ξ゚听)ξ「男らしいどすね」
  ,_
(゚Д゚#トソン「とっ散らかすぞ」

ξ゚听)ξ「十六の女の子でしょう、口が汚いですよ?」
  ,_
(゚Д゚#トソン「うっせぇ、こちとら女手一つで店やってんだよ」

( ^ω^)「お客来ないけど?」
  ,_
( Д #トソン ミシリ

( 寃ヨ)キャー

ξ゚听)ξ「……」

('A`)「……」


37 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:19:57.04 ID:W0iQ1d0ZO

 このとそんと云う娘は、坊っちゃんの幼馴染みの一人である。
 昔はよく、とそんの家の者で遊んでは、とそんとその祖父に叱られたもの。

 しかし、それも十年近く昔の話。

 とそんの祖父が病に倒れ亡くなってから、とそんは遊ぶ事を止めた。

 それ以来会っていなかった坊っちゃんとどくお。
 とそんは祖父に代わり、店を切り盛りする様になった故、邪魔になると会えずにいた。

 だがつんは、それ以降も変わらずとそんに会いに足を運ぶ。
 ここが男女の違いか、一人になったとそんが寂しい思いをせぬ様に、せっせと通っていたのである。


 祖父と違い、とそんは商売が上手くはない。
 男勝りな言葉遣いに、ぶっきらぼうなその態度。

 商売に向く性格では無いが、生きる為、祖父の遺した店を守る為に必死で店を支え続けた。
 その結果、何とか店は残っているが、客はめっそと来ない状況でも。

 泣きたくとも堪え、辞めたくとも堪え、ただただ一人で、幼子が店を支えていた。
 その幼子を支えていたのは、つんだけでは、ない。


38 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:20:57.32 ID:W0iQ1d0ZO

( ><)「あっ、お客さんなんです!」

(*‘ω‘ *)「ぽ!」

(゚、゚トソン「お前らはスッ込んでろ」

( ><)「でもお客さんなんです?」

( <●><●>)「久々にお友だちが訪ねてきて内心とても嬉しいのは解ってます」
  ,_
(゚Д゚#トソン「やかまっしゃあ! スッ込んどけ妖怪共がぁっ!!」

/;゚、。 /
  ,_
(゚Д゚;トソン「あ…………だ、だいはスッ込まなくて良い……」

( <●><●>)「都村さんがだいさんにだけ甘いのも解ってます」
  ,_
(゚Д゚#トソン

( <●><●>)「おお、怖い怖い」
  ,_
(゚Д゚#トソン「右から家鳴り、目々連、座敷わらし、部屋に戻ってろ」


40 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:22:02.58 ID:W0iQ1d0ZO
 とそんの家、店には、多くのあやかしが住み着いている。

 それも、今は亡きとそんの祖父の人柄のお陰。
 とそんと違い、優しくおおらかで懐の広い、良い翁であったとそんの祖父。

 その祖父を慕って住み着いたあやかし共は、とそんの家族として、今なお住み着いているのだ。

 もっとも、座敷わらしがなかなか仕事をしてくれないが故に、客が来ないのだが。


ξ゚听)ξ「相変わらず賑やかですね」

(゚、゚トソン「ったく、うっせぇ連中だ」

ξ゚听)ξ「嬉しいくせに」
  ,_
(゚、゚#トソン

/ ゚、。 /葡゙

ξ゚听)ξ「あ、だい、有り難う御座います」

( ^ω^)「お、久し振りだおだい」

/ ゚、。 /ノ

('A`)「お前も元気そうだな」

/ ゚、。 /ノシ ピチピチ

41 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:23:11.61 ID:W0iQ1d0ZO

(゚、゚トソン「だいに触んな、また破る気か」

( ^ω^)「流石にもうそんな子供じゃねえお……」

(-、-トソン「うっせぇ、だい戻ってろ」

/ ゚、。 /゙

('A`)「……過保護だなお前も、昔の事なら菓子折り持って詫びに来ただろ」
 ,,_
(-、- トソン「あたしの口には入らなかったんでね」

('A`)「そりゃお前んとこの妖怪の仕業だろ……」
  ,_
(-、゚ トソン「うるせぇな、何の用だよぞろぞろと」

ξ゚听)ξ「百鬼夜行のお手伝いをお願いしに」
  ,_
(゚、゚トソン「あたしは人間だ」

ξ゚听)ξ「解ってますよ、私達は」

( <●><●>)「僕らに言いに来たのも解ってます」
  ,_
(゚皿゚#トソン

(<●><●> )))「おお、怖い怖い、顔が」


43 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:23:32.97 ID:W0iQ1d0ZO

( ^ω^)「手伝ってくれるかお? 憑き物達」

|<●><●>)「そう呼ばれるのは喜ばしくありませんが手伝うと云う返事を期待しているのも解ってます」

( ^ω^)「んじゃ手伝ってくれお」

|<●><●>)「僕を含め皆が手伝う気満々なのも解ってます」

( ^ω^)「要するに手伝うと」

|<●><●>)「要しなくても理解している事は解ってます」

(゚、゚トソン「てめぇらは勝手に……」

|<●><●>)「ぽっぽちゃんの機嫌を損ねると大変な事になるのも解ってます」

(゚、゚トソン「……だい」

,,/ ゚、。 /

(゚、゚トソン「てめぇも手伝うか」

/ ゚、。 /

/ ゚、。 /゙


44 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:23:48.44 ID:W0iQ1d0ZO

(゚、゚トソン「……だとよ、良かったな」

( ^ω^)「お、有り難いお!」

(゚、゚トソン「……」

ξ゚听)ξ「……だいが一人立ちした気分?」

(゚、゚トソン「うっせぇ、だいはあたしの子、あたしが作った布の妖怪だ……しょうがねぇだろ」

ξ゚听)ξ「…………」

(゚、゚トソン「……んだよ」

ξ゚听)ξ「過保護」

('A`)「過保護」

(゚、゚トソン「てめぇらが云うな」

( <●><●>)「過保護」

(゚、゚トソン「目玉突くぞ」

( <−><−>)


45 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:25:07.01 ID:W0iQ1d0ZO

( ^ω^)「しかし、つんのお陰で百鬼夜行の手伝いも増えたし、とそんに会えたし良かったお」

ξ゚听)ξ「あ」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「とそん、妖怪の噂をお知りなんですよね?」

(゚、゚トソン「あん? 犬神御仁と狢の野郎か?」

ξ゚听)ξ「そう、その噂をお聞かせ願えませんか?」

(゚、゚トソン「何でまた……ああ、百鬼夜行の手伝い増やす為か」

ξ゚听)ξ「はい」

(゚、゚トソン「百鬼夜行の理由は何となく解るし……まあ良い、話してやらぁ」

( ^ω^)「お!」

ξ゚听)ξ「有り難う御座います」


46 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:26:14.43 ID:W0iQ1d0ZO

( <●><●>)「この店の裏に、連れ込み茶屋があります」

( ><)「ここ最近、毎晩そこにお客が入るんです!」

( <●><●>)「そのお客は幼い娘を連れています」

( ><)「そしてその二人が入ってすぐ、耳を覆いたくなる様な泣き叫ぶ声が!」

( <●><●>)「その娘を連れてくるのが、狢の男だと云う」

( ><)「その連れてこられる娘が、犬神御仁の家来だと云う」

( <●><●>)「此処までは解ってます」

( ><)「でもこの目で見てないから真偽は解んないんです!」

('A`)

('A`)「取り敢えず、俺が持ってきた饅頭かっ食らいながら
      とそんの言葉を奪うのは止めろ、とそんの顔が怖い」
  ,_
( 皿 #トソン

( <●><●>)「あら怖い」

( ><)「怖いんです!」


47 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:27:41.69 ID:W0iQ1d0ZO
  ,_
(゚、゚#トソン「てめぇらは……いちいち……」

( <●><●>)「まあまあ、早く話が済んで良かった」
  ,_
( 、 #トソン

(;^ω^)「そ、それで……その、あの」

ξ゚听)ξ「取り敢えず、犬神御仁か狢さんにお話を伺いに言っては?」

(;^ω^)「ええ……この話でどんな話をしに行けと……」

ξ゚听)ξ「…………さぁ……?」

(;´ω`)「…………」

(゚、゚トソン「……まぁ、適当に百鬼夜行手伝えって云いに行けよ」

( ^ω^)「お、でも狢って……?」

(゚、゚トソン「盛岡屋の店主だよ」

(  ω ) 三 ^ ^


49 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:28:25.03 ID:W0iQ1d0ZO

(;^ω^)「もっもも盛岡屋の旦那が!? 人間じゃなかったのかお!?」

(゚、゚トソン「あいつは人間に化けるのが上手いんだよ、狢は『よくわからないもの』だしな」

(;^ω^)「つまり、盛岡屋の旦那は正体不明の狢……?」

(゚、゚トソン「正体は狢だけどな、あいつの存在が『よくわからないもの』なんだよ」

(;^ω^)「おー……そんな人が、何故にぺど……」

(゚、゚トソン「犬神御仁の家来ってのは解ってんのか」

( ^ω^)「お? しらちご、ってやつだお?」

(゚、゚トソン「その白稚児、てめぇらも知ってる奴だ」

ξ゚听)ξ「私も、ですか?」

(゚、゚トソン「てめぇは仕事仲間だ」

ξ;゚听)ξ!?


50 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:29:21.36 ID:W0iQ1d0ZO

(;^ω^)「そ、そんなの居るのかお? つん……」

ξ;゚听)ξ「わ、解りません……なちさん、すぱむさん……は、雨女に濡女……」

(゚、゚トソン「もう一人、仲良いの居るだろ」

('A`)「…………みどり、か」

ξ;゚听)ξ!!

(;^ω^)「み……みどりちゃんが……」

(゚、゚トソン「んだよ、白稚児だって知って幻滅か?」

(;寃ヨ)「みどりちゃんが……そんな、盛岡屋の旦那に酷い事を……?」

ξ;寐刧)ξ「知りませんでした……最近遅刻が多いのは、そんな理由……?」

(゚、゚トソン「ああそっち」

ξ;寐刧)ξ「ずっと一緒に働いているのに、辛い目に会ってると気付けないなんて……
      そんな……みせりちゃん…………毎晩、酷い目に会ってるなんて……」

(;寃ヨ)「さっき会ったけど、そんな……そんな……」

(゚、゚;トソン(めんどくせぇこいつら……)


51 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:29:51.14 ID:W0iQ1d0ZO

('A`)「まあ、それは個人的な事情があるのかも知れねェだろ」

(゚、゚トソン「白稚児が狢に犯されてようが、あたしには関係ねぇしな」

('A`)「……」

(゚、゚トソン「冷たいだろ」

('A`)「ああ」

(゚、゚トソン「あたしはこんな奴だ、昔から、昔からな」

('A`)「……はいはい」

(゚、゚トソン「それより内藤のとつん、てめぇも気を付けろよ」

(;^ω^)「ケツを!?」

(゚、゚;トソン「違うわド阿呆、最近は夜道に襲われる事件が多いんだよ」

( ^ω^)「お? 鎌鼬なら、もう何とかなったお?」

(゚、゚トソン「鎌鼬だけが辻斬りだと思うな、平和な町に全く悪人がいねぇと思うなよ」

( ^ω^)「お……」


52 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:30:31.81 ID:W0iQ1d0ZO

(゚、゚トソン「あたしはだい達が居るから良いけどな、てめぇはたまに一人で出歩くだろ」

( ^ω^)「……だお、一人で出歩いてて、足落っことしたお」

(゚、゚トソン「知ってる、間抜け」

( ´ω`)

(゚、゚トソン「良いから次は狢にでも会いに行くんだな、あたしが教えれる情報はこんだけだ」

( ^ω^)「お……有り難うだお、とそん」

(゚、゚トソン「ごせんえん」

(;^ω^)「がめつっ!?」

(゚、゚トソン「こちとら明日食う分も困るくらいなんだよ、情報も品物だ」

(;^ω^)「い、今手持ちが……」

('A`)「じゃあよ、金の代わりに」

(゚、゚トソン「命置いてくか?」

(;'A`)「怖いわ、飯食いに来いよ」

(゚、゚トソン


53 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:30:52.86 ID:W0iQ1d0ZO

ξ゚听)ξ「それが良いですね、だい達を連れて行っては?」

(゚、゚トソン

( ^ω^)「お、んじゃあ今日はご馳走だお!」

(゚、゚トソン

('A`)「大人数だな、張り切って作るか」

(゚、゚トソン

ξ゚听)ξ「あ、なら私もお手伝いします」

(゚、゚トソン

('A`)「悪いな、なら妹も連れてこい」

(゚、゚トソン

( ^ω^)「何か云えお、とそん」

(゚、゚トソン「な、なんか」

( ^ω^)


54 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:31:11.93 ID:W0iQ1d0ZO

ξ゚听)ξ「とそん……」

(゚、゚トソン「しょ、しょうがねぇだろ……」

ξ゚听)ξ「…………ずっと、一人でしたからね」

(゚、゚トソン「一人じゃねぇよ、だいが居る」

ξ゚ー゚)ξ「……そうですね」

('A`)「ほら行くぞ、仕込みも残ってるから帰ってやらねェとな」

( ^ω^)「おっおっ、今日はごっちそーう!」

(゚、゚トソン「……」

(゚、崙ソン

(宦A崙ソン

(宦[*トソン

ξ*^ー^)ξ


56 ◆XCE/Wako2nqi 2010/02/21(日) 21:33:35.42 ID:W0iQ1d0ZO


 行きは三人、帰りは四人。

 多くのあやかし引き連れて、坊っちゃん達は並んで歩き出した。

 懐かしい顔にほだされたのか、いつもは厳しい顔のつんもとそんも、優しい顔。
 こんな気分は久々だと、とそんの目元が濡れていた。


 しかし、はしゃぐ坊っちゃんの内心は
 先程聞いた、辻斬りの話によって少々曇り気味。

 また、何か一悶着あるのだろうか。

 そう思うと、気分が何処と無く沈んでしまう。


 正体不明の胸騒ぎを飲み込んで、坊っちゃんは朗らかに笑ってみせた。



 『三話前編 おわり。』


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