3 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:04:04.86 ID:6CuhDw7VO

 悪鬼羅刹の群れの中。
 頂点に立つは一人の男。

 鉄紺色の着物を纏い、肩から羽織るは襤褸けた真紅。
 斜めに被る狐面、小さな鈴を結わえて鳴らす。

 腰から下げたる一本の刀。
 ちりちり耳へと鈴の音が。



     ( ^ω^)百鬼夜行のようです。

      【十三話 百孔千瘡 弱き母。】



 複数の男の声と足音を聞き、ただぼんやりと眺める目玉。

 西の頭は眠たそうに、爪を噛んで寝転がる。


9 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:07:24.34 ID:6CuhDw7VO

 夢うつつ、暗い夢の底を漂い泳ぐ。

 ぷかりと浮かぶ夢が夢に泳いで、それを捕まえ集める。
 捕まえた夢に写るのは、どれも男の顔。

 ふやふやと大福みたいに笑う男の、様々な顔。

 楽しそうに、申し訳なさそうに、情けない顔、笑う顔、いろんな顔。

 自分へ向けられるその顔が、何だか悲しくてしょうがなかった。


 今や東の頭となったあの男。
 己の敵とも云えるその人。


 否、人ではない。
 己と同じ、妖怪だ。

 同じ。

 おなじ。


11 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:10:21.60 ID:6CuhDw7VO

 自分を友人と呼んだ、唯一の男だった。
 互いの身分も気にせずに、気楽に接する男だった。

 でも、あいつが愛する町を壊すから。


 元々あの町に行ったのは、視察だったんだ。
 町の状況を見て、どう壊してやるかを値踏みしに行ったんだ。

 思った通り、町の奴等はどいつもこいつも甘ったるい馬鹿ばかり。

 恋だの愛だのと下らん事にうつつを抜かす、ろくな奴が居ない町。
 名のある妖怪は多く居るが、ろくなものではない。


 狐の頭も狸の頭も、ろくな奴じゃない。
 町に巣食う女郎蜘蛛も、その夫の雷獣だって愚かなばかり。

 けれど様子見の為に行った一度目の進軍で、奴等がただの木偶の坊では無いと解った。

 狐も狸も犬神も、狼だって力を持つ。

 山崎だけに任せたのは、流石に分が悪かったか。


15 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:13:09.15 ID:6CuhDw7VO

 まあ、所詮は様子見だ。
 朝日も六目もわむても、覗きはしたが控えたままだった。

 次で一気に落としてやれば良い。
 あの腑抜けた町を、壊せば良い。


 泣き顔が浮かぶ。

 俺に要らないと云われた男の顔。

 子供の様に泣き叫ぶ姿が、情けなくて、哀れで、どうしようもなくて。


 胸がいたい。


 俺は、壊す為に彼処に行ったんだ。
 それなのに、何でだろう、胸が痛むのは。

 彼奴の云う話が、俺達の事だとは気付いていなかった。
 彼奴が、俺と対立する、頭だとも気付いていなかった。

 気付いていなかったんだよ、内藤。


18 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:16:09.71 ID:6CuhDw7VO

 まさかあれが、俺の一番の敵になるなんて、思ってなかったんだよ。

 あの町を狙ったのは、ただ遊びたかったからだ。
 何でもよかったんだ、満たされてる器に穴を空けてやりたかったんだ。

 西の俺達が持っていない物に満たされた場所が、妬ましくて、悔しくて。

 それだけ、だったのになあ。
 意味なんて、無いに等しかったのになあ。


  お坊っちゃん、お坊っちゃん


 あんなに、泣くなんて思ってなかったのになあ。


  起きて下さいな、お坊っちゃん


 何か、ごめんなあ、内藤、俺は、


  こんな所で眠って居られては風邪を召されてしまいます、お坊っちゃん


 うっせえな何だよもう。


20 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:19:27.19 ID:6CuhDw7VO

(#-@∀@)「起きなさいってばッ!!!!」
  _
(;゚∀゚)「おっへぇッ!?」

(-@∀@)「ああ全く、やれやれやっと起きましたね」
  _
(;゚∀゚)「お、おお……朝日かよ……何だよびっくりした……」

(-@∀@)「何だよではありませんってば、いったいぜんたい何を考えてこんな所で眠りますか」
  _
( ゚∀゚)「眠かったからだな」

(-@∀@)
  _
( ゚∀゚)

(-@∀@)「真理ですね」
  _
( ゚∀゚)「な」

(-@∀@)「しかし風邪をめされてしまいますから、ちゃんとお布団でどうぞ」
  _
( ゚∀゚)「おかんかお前は」


22 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:22:05.79 ID:6CuhDw7VO
  _
( ゚∀゚)「まあ良いか……夢見も悪かったし」

(-@∀@)「おやおやおや、どんな夢をご覧になりました?」
  _
( ゚∀゚)「あー……こないだのあれ」

(-@∀@)「ああ、東のお坊っちゃんを泣かせた」
  _
( ゚∀゚)「うっせ」

(-@∀@)「全くやれやれ何を気になさいますか、初めから解っていた事でしょうに」
  _
( ゚∀゚)「まあ、そうだけどよ」

(-@∀@)「同情でもなさいます?」
  _
( ゚∀゚)「……知らね」

(-@∀@)「あなた様は我ら西のお頭、揺らぎを見せてはなりませんよ」
  _
( ゚∀゚)「わあってるよ……」

(-@∀@)「……」


26 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:25:39.84 ID:6CuhDw7VO
  _
( ゚∀゚)「わあってるけど……よ」

(-@∀@)「まあ、揺らぎもしますか」
  _
( ゚∀゚)「……だって、あれ……あれ、だろ? 俺の……」

(-@∀@)「ええ、あなた様の」
  _
( ゚∀゚)「…………俺の」


 双子の、弟。

  _
( -∀-)「……嘘みてぇだな」

(-@∀@)「事実ですがね」
  _
( ゚∀゚)「間違いは、無いのか?」

(-@∀@)「恐らくは」
  _
( ゚∀゚)「…………顔、似てないな」

(-@∀@)「似るばかりが血族ではありませんとも、しかししかし、あれは持っていました」


30 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:28:20.10 ID:6CuhDw7VO
  _
( ゚∀゚)「……鈴、かぁ……」

(-@∀@)「はい、あなた様が持つその小鈴、それはあなた様が生まれた頃から持つ物」
  _
( ゚∀゚)「生まれた頃つっても、赤子の俺を拾っただけだろ、お前」

(-@∀@)「それでもです、全く同じ鈴など今まで見た事はありません」
  _
( ゚∀゚)「それだけ……だろ、手掛かりなんて」

(-@∀@)「それでも、です」
  _
( ゚∀゚)「…………双子かぁ」

(-@∀@)「双子です」
  _
( ゚∀゚)「……」

(-@∀@)「その鈴は、ただの鈴ではありませんお坊っちゃん」
  _
( ゚∀゚)「俺が持たなきゃ、鳴らないんだよな」

(-@∀@)「ええ、同じ鈴を持つあれが、鈴を鳴らしたのです」
  _
( ゚∀゚)「…………あー……めんどくっせ……」


33 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:31:22.64 ID:6CuhDw7VO

(-@∀@)「その鈴が鳴るはあなた様と繋がりがある証、しかししかし、だからと同情なさいません様に」
  _
( ゚∀゚)「んー……」


 双子。
 同じ血の流れる、全く似ていない男。

 まるで悪い冗談の様だと、長岡は息を吐く。

 唯一、友達だと云った男。
 それは、自分との唯一の繋がりを持つらしく。


 進軍を行ったのは、それを知った直後。

 未だ混乱する頭と折り合いをつける事も叶わず。
 友と思っていた相手に、肉親らしき相手と、決別せざるを得なくて。

 あんな、酷い方法で繋がりを絶った。

 どうしようもないと、思いながら。
 それでも、本当にどうしようもなくて。

 だから妙に、胸が痛む。


35 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:34:10.03 ID:6CuhDw7VO

 本当なら、もっとやんわりと絶ちたかった。


,,(-@∀@) ウロウロ


 けれど、そんな間は無かった。


(@∀@-),, ウロウロ


 それに、やんわりとでは、自分も納得は出来なかっただろう。


ミ(-@∀@) ゴソゴソ


 まあ、今でも納得は出来ていないのだが。


(@∀@-)⌒ ガサガサ

  _
(;゚∀゚)「落ち着けよ鬱陶しいな……何かあったのかよ?」


39 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:37:37.08 ID:6CuhDw7VO

(-@∀@)「あ、いえちょっと……わた、……山崎が、見当たらなくて」
  _
(;゚∀゚)「渉が? こないだの騒ぎで捕まったか?」

(-@∀@)「んー……その可能性も、なきにしもあらず……」
  _
( ゚∀゚)「……」

(-@∀@)「んー……んー……」
  _
( ゚∀゚)「仲良いもんな、渉と」

(-@∀@)「あ、や、ただ僕の部下ですから、不始末は僕の責任になりますので」
  _
( ゚∀゚)「はいはい」

(-@∀@)「んー…………んー……」
  _
( ゚∀゚)「……」


 こいつも、何だかんだで、色々と気にしているのだろうか。


42 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:41:16.51 ID:6CuhDw7VO

 町でも他所でもこの地でも、鬼畜と呼ばれる蝙蝠朝日。

 小柄で眼鏡で煩くて、鬱陶しいけど親代り。

 己らの欲望に従順で、その為なら何でも出来る。
 人や妖怪を殺す事も、何かを傷付け壊す事に躊躇いなんて持ちやしない。

 こいつらは、どうしようもない外道だ。

 そして、その上に立つ俺もまた、外道でしかない。


(…∀…)「朝日」

(-@∀@)「あ、六目」

(…∀…)「東からの客だ」

(-@∀@)「おやおやおや、どうします? お坊っちゃん」
  _
( ゚∀゚)「今日はほっとけ」

(-@∀@)「だ、そうで」

(…∀…)「はいはい……放置、な」


45 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:44:05.85 ID:6CuhDw7VO

 ああ、俺は少し、町に行き過ぎたんだろうか。

 人間に、近くなってしまった。


 今までみたいに、自分の為に、暇を潰す為に暴れていればよかったのに。

 町に行き過ぎて、あいつと関わり過ぎてしまって。
 人みたいな、妙に甘ったるい思考をこの頭に入れてしまって。

 ああ、ああ、もう。

 どうすれば良いんだよ俺は。
 ともだちを、傷付けるだけでも、頭が痛いのに、重いのに。


 双子だなんて、信じてしまったら。

 俺は、もう、どうすれば、


  「誰も居ないお……?」


 あ、


48 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:46:50.29 ID:6CuhDw7VO

 己が寝そべる木の下を、男達が通る。
 その中から聞こえる声に、長岡は肩を揺らして耳を澄ませる。


  「これもじっちゃんぱわーですかお?」

  「いや知らないけど」


 小さく、じじいと呟く声が聞こえた。

 相変わらず、ふやふやと笑っている。
 あんなに泣かせたと云うのに、まるで平気そうに。

 まあ、あれから数日経った。
 取り乱していたあいつも、流石に落ち着くだろう。


 でも、何だろう。

 もやもやする。

 胸の奥が、ずんと重い。


49 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:49:16.08 ID:6CuhDw7VO

 いつも通り、自分と決別する前と変わらない、内藤。
 ふやふやと笑って、阿呆みたいにほんわかした声。

 その隣を歩くのは、浴衣姿の餓鬼。
 見た事は無いが、話に聞いた。

 幼い頃からずっと一緒の家族だと、自慢げに話していた。

 前を歩くのは、白衣の男。
 内藤が呼ぶに、あれは内藤の祖父らしい。随分と若いが。

 後ろを歩く見覚えのある顔。
 あれは、いつかに捕まえた烏天狗の兄弟か。


 皆、仲が良さそうに、歩いている。

 本当なら、少し前なら、俺もあの中に居たのかな。


 吐き気が襲う。

 気持ちが悪い。


 嫉妬か、これは。


51 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:52:30.12 ID:6CuhDw7VO

 自分も混ざりたかった。
 友達として、立っていたかった。
 あいつの家族や友人とも、仲良く、したかった、のに。

 ああ、あいつは俺に無い物ばかり持つ。
 友人も、家族も、朗らかに笑う事も。

 どれもどれも、俺には無い物ばかり。


 朝日やわむては、俺を拾った。
 赤子の俺を広い、育ててくれた、親代り。

 けど、あいつらは俺に親と呼ばせてはくれなかったんだ。

 初めから、西の頭にするために育てていたから。


 俺には、親が居ない。
 あいつには、血の繋がりはなくとも、親が居る。

 俺には、家族が居ない。
 あいつは、町の奴等が皆、家族だと云う。

 俺には、友人が居ない。
 あいつには、親しい友が嫌と云う程に居る。


55 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:55:15.37 ID:6CuhDw7VO

 親は居ない。

 俺を頭として見る西の奴等は、俺の家族にはなりたがらない。
 友人にもまた、なりはしない。

 俺は、何も無いんだな。
 親も家族も友人も、大きな屋敷も思い人も、なあんにもない。


 あーあ。

 双子だってんなら、何で、こうも差がついてしまったのか。

 不公平だよ、神様よ。

 俺だって、あったかい家族に囲まれて、友達つくって、生きたかったよ。


 でも、もう無理なんだよ。
 無理なんだよ。


 だって俺、西の頭だし。


58 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 21:58:17.34 ID:6CuhDw7VO

 西の頭として、東の町を襲おうと決めた。
 朝日からの入れ知恵ではあるが、俺がそれを決めたから。

 西の奴等の上に立つんだからさ。
 今さらさ、撤回とか、出来ないわけよ。


 暴れたい奴がいっぱい居るんだ、西には。
 俺みたいに、わむてや朝日みたいに、嫉妬する奴も少なくない。

 だからもう、俺、今さらどうにも出来ないよ。


 ああもう、もう!
 町になんか行くんじゃなかった!

 そうしたら、こんなに苛々しなくて済んだのに!


60 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:01:13.90 ID:6CuhDw7VO
  _,
( -∀-)


 俺は、西の妖怪の頂点に立つ、長岡。
 誰よりも、何よりも強い、妖怪様だ。

 俺の甘ったるい気持ちなんぞで揺らいでは、他の奴等に示しがつかない。
 ただただ、町を壊す事に集中すれば良いんだよ。

 俺は妖怪、強い妖怪。
 双子なんて、知りはしない。

 双子、なんて、

  _
( ゚∀゚)


 待てよ。

 俺が妖怪って事は、あいつも妖怪なんだよな。


63 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:04:03.19 ID:6CuhDw7VO

 俺は妖怪だけど、実際は、未だ力を出す事が出来ないでいる。

 お飾りなだけの頭でしか、ない。

 じゃあ、あいつはどうだろう。
 双子の弟とやらは、妖怪としての力を出せているのだろうか。

  _
( ゚∀゚)(…………あいつの、力……)


 隣に居たら、何故だか楽しかった。
 初めて出来た友達だから、そう思っただけだろうけど。

 それが、あいつの力による物だとしたら?

 ふやふや笑う顔とか、声とか、友達として、ただ、それが、


 それ、が、

  _
(  ∀ )「…………ふざっけんな……よ」


 あいつ、もしかして、もう、
 妖怪としての力を、知らずの内に、出してたのか。


65 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:07:08.15 ID:6CuhDw7VO

 幸せを、与える力。
 あからさまな幸ではなく、ささやかに、けれどずっと与えられる幸。

 それはもしかして、俺が甘ったれになった、理由のひとつなんじゃないか?


 最初は様子見に町へ行った、わむてと二人で。
 その次は、菓子食いたさに一人で行った。

 で、その次からは。

 友達に、会いに。


 腹が立つ。
 苛々する。

 あいつの力の所為で、俺がこうなってしまった事に。
 あいつの所為で、俺がこうなってしまった事に。

 俺の所為で、俺がこうなってしまった事に。

 俺が持てない、出せない力を、あいつが出せる事に。


68 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:10:08.87 ID:6CuhDw7VO


(-@∀@)「……わむて」

人il.゚ヮ゚ノ人「はいはい、ここに」

(-@∀@)「……」

人il.゚ヮ゚ノ人「? どうしたの、朝日?」

(-@∀@)「あなたは、お坊っちゃんの母です」

人il.゚ヮ゚ノ人「…………そうよ、わむてはお坊っちゃんの母、……他の誰かにも云えないけど」

(-@∀@)「あなたは、血の繋がらないお坊っちゃんを、愛してます?」

人il.゚ヮ゚ノ人「……何よ、急に愛だなんて、きもちわるい」

(-@∀@)「答えて下さい」

人il.゚ヮ゚ノ人「…………」

(-@∀@)「あなたは、お坊っちゃんを、愛してます?」

人il.゚ヮ゚ノ人「……愛してます、血の繋がらない母として」


70 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:13:07.80 ID:6CuhDw7VO

(-@∀@)「あなたが町を襲いたがる理由のひとつは、それ、でしょ?」

人il.゚ヮ゚ノ人「……何なのよう、朝日……」

(-@∀@)「……僕は、あの子の親に、なれてます?」

人il.゚ヮ゚ノ人「……」

(-@∀@)「僕は、役に立ててます?」

人il.゚ヮ゚ノ人「あさひ……」

(-@∀@)「僕はね、僕が好きです、だから僕を見てもらいたい、だから町を襲います
      でもね、それだけじゃあない、それだけじゃあないんです、その理由をあなたは知る」

人il.゚ヮ゚ノ人「……妬ましいから」

(-@∀@)「そう、此処に、僕らに、そしてあの子に無い物が、妬ましい」

人il.゚ヮ゚ノ人「…………あの子を、満たしてあげたかった……親として」

(-@∀@)「僕にだって……情くらい、あるんですよね……」

人il.゚ヮ゚ノ人「知ってるわよ……どれだけ長い付き合いだと、思ってるのよ」

(-@∀@)「……」


72 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:16:09.42 ID:6CuhDw7VO

人il.゚ヮ゚ノ人「あの子の為に、お坊っちゃんの為に、もっと良い場所で育ててあげたかった」

(-@∀@)「でも、あの子を拾った時には、もう此処以外で僕らは生きられなかった」

人il.゚ヮ゚ノ人「だってわむて達はこの掃き溜めに生まれて、この掃き溜めで育った」

(-@∀@)「外の世界で生きる術なんて、知っていても、もう無駄だった」

人il.゚ヮ゚ノ人「この本能に従う生き方を、長く続けてしまったもの、今さら改心なんて出来ないわ」

(-@∀@)「……その、改心出来る時は、あったのでしょうかね」

人il.゚ヮ゚ノ人「……あったかもね」

(-@∀@)「…………ま、もう遅いですけど」

人il.゚ヮ゚ノ人「ま、ね……遅いわね……みぃんな」

(-@∀@)「……先代氏が、戻ってきた様ですね」

人il.゚ヮ゚ノ人「先代って……狐のしゃきん様っ?」

(-@∀@)「ええ、先日の騒ぎの最中に戻ってらした様で」

人il.゚ヮ゚ノ人「わっ、わっ……しゃきん様戻って来たんだ……っ! すっごいひさしぶり……!」


74 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:19:00.99 ID:6CuhDw7VO

(-@∀@)「……懐かしいですね、わむてはあの方が好きでしたし」

人il.゚ヮ゚ノ人「あの人は優しかったもの、気まぐれで訪れただけでも、わむて達に優しかった」

(-@∀@)「随分と昔の話ですがね、僕らも若かった」

人il.゚ヮ゚ノ人「……」

(-@∀@)「……改心の時、だったのかも知れませんねぇ」

人il.゚ヮ゚ノ人「やめてよ、もう昔のことでしょ」

(-@∀@)「ま、そうですね……後悔しても意味はなあんにもありません」

人il.゚ヮ゚ノ人「…………はーぁ……やんなっちゃうな」

(-@∀@)「同感ですねぇ」

人il.゚ヮ゚ノ人「あんたが言い出したんでしょうに」

(-@∀@)「おやおやおや……いえね、ただ少し、うん……」

人il.゚ヮ゚ノ人「……はっきりなさいよ、わむて達の仲よ、隠し事はなしでしょ?」

(-@∀@)「……です、ね」


78 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:22:21.78 ID:6CuhDw7VO

 理由も意味も、大して必要はない。
 したい事をしたい様に、したいだけする。

 未だ若かった朝日達の元へ、先代が訪れた時には、もうその形は出来上がっていた。

 どうしようもない孤独を、様々な暴力で埋めるだけの日々。
 それ以外を教えてくれる人も、正す人も居なかった。

 先代様は、そんな朝日達を正そうとはした。
 その甲斐もあってか、なつかれる事もあった。


 けれど、改心させるには程遠く。
 寧ろ、逆に苦しませるだけに終わったのである。

 半端に植え込まれた、罪悪感。
 それに気付いて居ながらも見て見ぬ振りをしてきたのに、押し付けてしまったから。

 わむても、朝日も、その仲間も。
 中途半端に、罪悪感を感じて板挟み。


 外に出すには遅すぎて、成敗するには早すぎて。

 程無くして、先代様は西を去った。


81 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:25:53.80 ID:6CuhDw7VO

 それから随分と時を過ごし、朝日の仲間も減ってしまった。
 自分たちをまとめていた妖怪も早くに死に、朝日がそこへ代わりに立っていた。

 しかし朝日は、己の力の弱さを自覚している。
 否、広く見れば十分に力はあった。

 だが、西の荒くれ共をまとめる力では、ありはしなかったのだ。


 下の者をまとめる事が重荷となり、疲れはてた朝日が見付けたのは、一人の赤子。
 三つの鈴を持つ、生まれたばかりの幼いその子。

 その子は、赤子ながらも強い力を秘めている事が手に取る様に解った。
 この子が育てば、きっと自分よりも強く、気高く、凛々しく西の妖怪を統べられる。

 何故だか今でも解らない。
 それでもそう、思ったのだ。


 おぎゃあおぎゃあと泣く赤子を抱き上げて、頬を撫でてみた。

 擽ったそうに身を捩り、赤子はすぐに笑顔になった。


 ああ、かわいいな。

 そう思ったのが、正しいのか間違いだったのか。

84 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:28:14.32 ID:6CuhDw7VO

 朝日は赤子を連れて帰り、近しい仲間達にだけ、その子を見せた。

 紅一点であるわむても、はじめは乗り気ではなかった六目も、気にせず赤子に構う山崎も。

 皆が、その子をかあいらしいと思ってしまった。


 それから、四人が共同して、赤子を己らの頭にすべく育て始める。

 不馴れな事ばかりだった。
 誰も、相手も子供も居ない身。

 それでも根気よく、赤子を育て続けた。
 ゆがんで、ひずんで、やぶれほころびた様な育て方でも。

 赤子の親として、不器用な愛情を注いでいた。
 注ぎに注ぎ、人と同じ早さで、赤子はすくすくと成長する。


 その結果に出来上がったものが、あの、長岡。

 不器用で、何処か無知で、子供らしい。
 それなのに、妖怪を惹き付ける花を持つ男に育った。


89 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:31:12.03 ID:6CuhDw7VO

(-@∀@)「……よく、僕らがあんなに素直な子を育てられましたよね」

人il.゚ヮ゚ノ人「自分で云わないでよ……同感だけど」

(-@∀@)「あの子を拾った時、あの子は鈴を持っていました、そして傍らには、一本の刀」

人il.゚ヮ゚ノ人「誰が置いたのか、未だにわからないのよね」

(-@∀@)「解ったところで、もう何の意味もありませんがね」

人il.゚ヮ゚ノ人「……あさひのそう云う話し方、嫌いよ」

(-@∀@)「それはそれは申し訳ない」

人il.゚ヮ゚ノ人「わむて……本当は、お坊っちゃんの母としてちゃんとしたいわ」

(-@∀@)「叶わないと解っていながら願いますか」

人il.゚ヮ゚ノ人「良いじゃないのよう……少しくらい、願っても」

(-@∀@)「そう、ですねぇ」

人il.゚ヮ゚ノ人「それより良いの? からすちゃん、行っちゃうわよ」

(-@∀@)「もう良いです、働きはしましたし」

人il.゚ヮ゚ノ人「ふーん……」


92 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:34:25.37 ID:6CuhDw7VO

(-@∀@)「わむてこそ、鬼が逃げますよ?」

人il.゚ヮ゚ノ人「良いのよもう、……飽きたもの」

(-@∀@)「ふうん」

人il.゚ヮ゚ノ人「……わむて、あの子達をおちょくってくるわ」

(-@∀@)「放置しろ、との事ですが?」

人il.゚ヮ゚ノ人「良いじゃないの、おちょくるだけだもの」

(-@∀@)「はいはい、行ってらっしゃいな」

人il.゚ヮ゚ノ人「行ってきまあす」

(-@∀@)「…………はぁ」


 柄にもない、妙な気分。

 お坊っちゃんの事となると、どうしても気分が滅入る。
 自分がもっとああしてやれば、こうしてやれば、と普段は存在しない後悔が積もる。

 もう後悔したところで意味なぞないと解っていても、悲しそうな背中に、胸がちくり。


95 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:37:34.41 ID:6CuhDw7VO

 老いたものだと自嘲する。

 若い頃は、もっと自分本意だったのに。
 血の繋がらぬ子を育てたが故に、優先順位が変わってしまった。

 ああもう全くやれやれ。
 どうしようもありはしない。


 せめて、普通に育ててあげれば良かったのだろうか。
 だが拾った理由が理由、はじめは己のために拾ったのだから。

 今さら、何を思えと云うのだろう。


(-@∀@)「……貞子」

 「はひっ!?」

(-@∀@)「居るのは解ってますから、出てらっしゃい」

川; д川「ご、ごめんなさい朝日さま……その、盗み聞きするつもりは……」

(-@∀@)「別に良いですよ、どうでも……それより」

川д川「は、はい?」


97 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:40:39.64 ID:6CuhDw7VO

(-@∀@)「僕らじゃ駄目ですから、お坊っちゃんの側に」

川д川「い……良いん、ですかぁ……?」

(-@∀@)「良くなきゃ云いません」

川д川「は、はい……」

(-@∀@)「……良いですねえ猫は……愛玩動物で」

川д川「はぁ……そ、それじゃ、失礼しますぅ……」

(-@∀@)「はいはいはい」


 とことこと、木に寝そべる長岡の元へ黒猫が行く。

 その後ろ姿を見て、朝日は溜め息混じりに眼鏡を外し、目元を押さえた。


( 宦ヘ )「はーぁ……柄でもない」


 悪人は大人しく、悪たれ気取っとけば良いのにね。


100 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:43:44.09 ID:6CuhDw7VO


川д川「な、長岡さま……?」
  _
( ゚∀゚)「んぁ……ああ、貞子か」

川д川「そ、その……どうか、なさいました……?」
  _
( ゚∀゚)「……いや、何でもねぇよ」

川д川「……そう、ですか」
  _
( ゚∀゚)「……」

川д川「……」
  _
( ゚∀゚)「貞子はよぉ」

川д川「はい?」
  _
( ゚∀゚)「俺の事は、好きか?」

川* д川「えっ……あ、あの……その……それはぁ……」
  _
( ゚∀゚)「嫌いか? この、お飾り大将が」

川; д川「そ、そんなことっ!」
  _
( ゚∀゚)「…………そっか」

102 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:46:14.19 ID:6CuhDw7VO

川д川「……貞子は、長岡さまのこと……その……お慕い申してます」
  _
( ゚∀゚)「……ありがとよ」

川д川「長岡さま……やっぱり、変です……」
  _
( ゚∀゚)「……貞子」

川д川「は、い?」
  _
( ゚∀゚)「前髪上げろよ」

川; д川「え」
  _
( ゚∀゚)「ほら上げろ、ほら」

川; д川「あ、あの、わ、わわわ」
  _
( ゚∀゚)「うおりゃ」

从;'д'从「わっ」
  _
( ゚∀゚)「うん、その方が似合うな」


106 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:49:16.60 ID:6CuhDw7VO

从;'д'从「そ、そうですか……? あの、目が小さいの、好きじゃないんです……けど」
  _
( ゚∀゚)「前髪上げてる方が可愛いぞ」

从*'ー'从「ぇ……えへ、ありがとう、ございます……」
  _
( ゚∀゚)「ん」

从*'ー'从「……長岡さま」
  _
( ゚∀゚)「ん?」

从*'ー'从「好きな方は、いますか?」
  _
(;゚∀゚)「……なに、急にがあるずとおく……?」

从;'ー'从「あ、いぇ、その……町に、よく行ってらっしゃったから……その」
  _
( ゚∀゚)「あー……いや、野郎だよ」

从'д'从

从 'д'从

从'д' 从

从'д'从


110 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:52:04.90 ID:6CuhDw7VO
  _
(;゚∀゚)「……何か勘違いしてない……?」

从;'д'从「……男の人……盲点だった……」
  _
(;゚∀゚)「いや、あの、貞子? 別に男色じゃないよ?」

从;'д'从「男……どれだろう……女の人しか見てなかった……」
  _
(;゚∀゚)「貞子ー……さだにゃーん……?」

从;'д'从「狐……? 狸……? それとも人間……?」
  _
(;゚∀゚)「……貞子」

从;'д'从「はひ?」
  _
(;゚∀゚)「俺は乳のでかい女が好きだ」

从;'д'从

从*'ー'从「あ、そっか」
  _
( ゚∀゚)「これで納得されるのもなあ……」


115 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:55:17.34 ID:6CuhDw7VO

从'ー'从「……誰に、会いに?」
  _
( ゚∀゚)「んー……元友達」

从'ー'从「あ、お友達でしたかぁ……あれ、でも……」
  _
( ゚∀゚)「うん……こないだのあれでな、決別した」

从'ー'从「長岡さま……」
  _
( ゚∀゚)「……」

从'ー'从「……私には、友達はいません……だからよくは解りませんけど……」
  _
( ゚∀゚)「……」

从'ー'从「長岡さまは……納得、されましたか……?」
  _
( ゚∀゚)「……うんにゃ」

从'ー'从「納得されずに……決別、なさったんですかぁ?」
  _
( ゚∀゚)「うん……しなきゃ、駄目だったからよ」


119 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 22:58:13.92 ID:6CuhDw7VO

从'ー'从「……お友達のこと、好きでしたか?」
  _
( ゚∀゚)「うん……初めての友達だったからよ」

从'ー'从「それでも、決別、なさったんですね」
  _
( ゚∀゚)「……うん、それが、東の頭だったから」

从'ー'从「…………お友達は、大事にした方が良いけど……それじゃ難しいですね」
  _
( ゚∀゚)「んー……面倒だよなあ」

从'ー'从「立場上、どうしようも……ないですね」
  _
( ゚∀゚)「そうなんだよなあ……こうなるって解っちゃ居たけどよ」

从'ー'从「東の町じゃ、ね……ううん……」
  _
( ゚∀゚)「まあ、もう済んじまった事だよ」

从'ー'从「仲直りも難しいですねぇ……」
  _
( ゚∀゚)「なー……」


122 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 23:01:27.43 ID:6CuhDw7VO
  _
( ゚∀゚)「しかもそれがな、双子の弟らしいんだよ」

从'ー'从「…………漫画みたいですね」
  _
( ゚∀゚)「云うな」

从'ー'从「呪われた双子の血、とかどうですかぁ?」
  _
( ゚∀゚)「邪気眼かよ……」

从'ー'从「あながち間違ってもないような……」
  _
( ゚∀゚)「云うな……」

从'ー'从「今度の戦では、長岡さまも出るんですよね?
      ……どう、なさるんですか?」
  _
( ゚∀゚)「……どう、しようもねえなあ」

从'ー'从「板挟みですねぇ……」
  _
( ゚∀゚)「板挟みだなあ……」

从'ー'从「ちょっとかっこいいですね、苦悩する敵役って」
  _
( ゚∀゚)「云うなよ、ちょっと思ったから」


125 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 23:04:41.22 ID:6CuhDw7VO

从'ー'从「……長岡さまの敵なら、貞子はみんな、かみ殺します」
  _
( ゚∀゚)「……貞子」

从'ー'从「だって、貞子は長岡さまに拾われた、飼い猫ですから」
  _
( ゚∀゚)「本当に、ただ拾っただけだがよ」

从'ー'从「家族もいない貞子を拾ってくれたのは、長岡さまです」
  _
( ゚∀゚)「……」

从'ー'从「猫と云えど、飼い猫は恩を忘れません」
  _
( ゚∀゚)「……可愛いなあお前は」

从*'ー'从「え、えへ……だから貞子は、長岡さまのためなら頑張りますからぁ……」
  _
( ゚∀゚)「ありがとよ、貞子……でも無理すんなよ」

从*^ー^从「はいっ……長岡さまっ」


127 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 23:07:33.85 ID:6CuhDw7VO

从*'ー'从「……長岡さまは、お優しいですぅ……」
  _
( ゚∀゚)「んな事ねえよ」

从*'ー'从「でも、強くてお優しい、素敵な方です」
  _
( ゚∀゚)「…………俺は強くないよ」

从'ー'从「へ?」
  _
( ゚∀゚)「だってよ、妖怪としての力もねえしよ」

从'ー'从「長岡さまの、お力……」
  _
( ゚∀゚)「……双子の弟は、力を出せてんのになあ……」

从'ー'从「嫉妬……なさいますか?」
  _
( ゚∀゚)「……うん」

从'ー'从「力……出せてると、思うけどなぁ」
  _
( ゚∀゚)「ん?」

从'ー'从「何でもないです……貞子は、長岡さまに従うだけです」


129 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 23:10:20.53 ID:6CuhDw7VO

 優しい優しい長岡さま。
 このやせっぽっちの野良猫を拾って下さったお優しい方。

 にーにー泣いてる私を拾って下さった方。
 そんな私を優しく抱き締めて下さった方。

 たとえそれが気まぐれだろうと、私はそのご恩を忘れません。
 私の支えになって下さった、私の全てになって下さったのだから。


 長岡さまの苦悩は、私にも分けてほしい。
 それで長岡さまが楽になれるのなら、私は何でもしますから。

 あなたの代わりに、あなたが壊しにくいものも壊します。

 あの町も、あなたの好きな人も。
 あなたの好きな人を守る人も、私がかみ殺しますから。


 これが飼い主に対する愛情か。
 それとも恋とやらなのかは解りません。


 それでも、みんな、かみ殺します。


135 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 23:13:33.05 ID:6CuhDw7VO

 貞子は、素直だなあ。
 前髪を上げたがらないのが難点だけど、こんな俺を慕ってくれる。

 こんな、嫉妬にまみれた野郎を。


 ああ、もう妬ましい。

 満たされた豪奢な器。
 そこに漂う双子の弟。

 俺が持てない力を持つ。
 あの元友人が、双子の弟が。

 妬ましくて妬ましくて、しょうがないよ。


 俺は西の頭。
 あいつは東の頭。

 余りに違う、その差。
 大きすぎる、深すぎる溝が、そこにはあってしまったんだ。

 気付きたくなかった。
 気付いてしまった。

 もう、後戻りは出来ないね。


137 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 23:16:11.99 ID:6CuhDw7VO
  _
( ゚∀゚)「さ、ってと」

从'ー'从「長岡さま?」
  _
( ゚∀゚)「次の進軍の準備、しますかね」

从'ー'从「あ……はいっ」
  _
( ゚∀゚)「俺は次で、元友達を殺す」

从'ー'从「……」
  _
( ゚∀゚)「貞子は、その邪魔になる奴を何とかしてくれ」

从'ー'从「……はいっ」
  _
( ゚∀゚)「よし……次が本番だ! 一丁やるぞっ!」

从'ー'从「はい、長岡さま!」
  _
( ゚∀゚)「覚悟してろよ……文太郎、今度は本当に壊してやるよ」

从'ー'从「……長岡さま、後悔、なさらないでね?」
  _
( ゚∀゚)「無茶云うねえお前……」

从*^ー^从「えへへ……貞子も頑張りますねっ!」


139 ◆XCE/Wako2nqi 2010/07/11(日) 23:19:44.17 ID:6CuhDw7VO


 恋に焦がれて嫉妬に燃えて。
 妖怪共は東西変わらず想いに燃ゆる。

 人を想い、妖怪を想う。

 何かを想うその魂が、全てを突き動かす力である。


 恋多き妖怪共。
 幸多からん事を、切に祈る。

 それがどの様な結果を産むかは、未だ解らずとも。

 すべてが想いによるものだから。



 『十三話前編 おわり。』


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