- 5 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 18:30:57.95 ID:zexdK/JYO
-
さあささあさあ、始まりまするは百鬼の夜行。
百の鬼を引き連れて、東の町にてどんぱち騒ぎ。
長きに渡りました妖怪集めもこれにて終わりを告げましょう。
どうぞどうぞ皆々様、此の葉が落つる月の十と六つの日の夜。
何卒何卒、最後までお付き合い頂けます様に、お願い致しまする。
やれ太鼓を叩けや笛を吹け。
これはもはやお祭りに御座います。
祭り囃子が如く鳴く、耳に優しき鈴の音ちりり。
東の坊っちゃんに西の坊っちゃん。
それらを取り巻く歪んだ家族と仲間達。
東のお坊っちゃんは甘ったれ。
しかし己の置かれた境遇と、皆を愛するお広い心をお持ちになります。
西のお坊っちゃんは不器用な男。
子供の己を飲み込んで、全てを手放し諦めた顔で笑う心の優しきお方。
因果に因果を積み重ね、蟒蛇が如く執拗に絡まり合うは二人のさだめ。
もはや和解が出来る時は遠く、全てを把握した頃には何もかもが遅すぎた。
- 7 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 18:33:35.10 ID:zexdK/JYO
-
ただ皆が大好きで。
ただ壊す事が楽しくて。
二人の根底にあるは、幸せになりたいと云うただただ純粋な祈りで御座いました。
さて此処でお一つ、長く続いた妖怪集めのお話の、お復習をしてみましょう。
先ず始めに、妖怪集めの其の理由。
東に住まうお坊っちゃんは、妖怪を愛する心の優しい男で御座います。
お坊っちゃんは血の繋がらぬ両親の元で、愛をたっぷり受けて育った甘ったれ。
同じ姓を持つは、大地主の祖父である町を作った先代九尾様のみ。
兄弟であり使用人であり親友である餓鬼より、幼い頃は酷い扱いも受けておりました。
しかし時を重ねるにつれて、餓鬼との距離も縮まりまして、それはもう仲の良い関係へと。
そして幼い時分より仲睦まじく、己の尾だと愛してやまない蟒蛇の娘。
淡く幼い恋心を抱き合っていた二人は、成長と共に其の愛を確かな物へと変えて行く。
- 11 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 18:37:22.15 ID:zexdK/JYO
- そんな、過去に苦しみはあったものの、満たされた世界で育ったお坊っちゃん。
ずうっと身近に存在していた妖怪を愛するお坊っちゃんは、
町の妖怪が人へと移り変わってしまう事に、切なく悲しく心を痛めてしまいまする。
町に住まう妖怪は、環境に従い妖怪から人間へと変わってしまう。
それはしようのない事だと理解はしているものの、痛む胸に嘘は吐けず。
ある日ある時ある座敷で、お坊っちゃんは宣言なさる。
妖怪達が消ゆる前に、艶姿を魅せつけよう。
そう、百鬼夜行を成してみせよう、と。
それからお坊っちゃんは、餓鬼を引き連れて町の中を駆け回り、百鬼夜行の手伝いを呼び掛ける。
始めこそは嫌がる者も居たけれど、皆はお坊っちゃんの誘いを受けて、首を縦に振るのです。
着々と増え行く百鬼夜行の参加者達、数多の妖怪が近く始まる夜行を思い、胸を弾ませていました。
しかしある時、町を出て、荒くれもの達が住まう西へ向かう事となりまして。
そこで知るは西の妖怪の悪行に、広い世界と苦しい現実。
東の町の狭い世界で甘やかされて育ったお坊っちゃん、彼に西の世界と云うのは衝撃的な物で。
そして西の地と、東の地にある確執、因縁、因果にさだめ。
町の外へ出たばっかりにお坊っちゃんはあらゆる苦しく悲しい現実に、巻き込まれてしまいました。
あの時に、町を出なければ何も知らず、悲しまなくて済んだのに。
- 17 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 18:40:59.34 ID:zexdK/JYO
-
気付いてしまった、いくさの狼煙。
西の妖怪が東の町に攻め込む事に、胸を痛めるばかり。
しかし幾度か後ろ向きになりながら、それでも前を向きしっかりと歩くお坊っちゃん。
目をそらしたい現実と向き合い、逃げ出したい因縁にも立ち向かい。
お坊っちゃんは真っ直ぐに、百鬼夜行と絡み合うさだめの糸をほどきながら進むだけ。
ひょんな事から出会った、一人の男。
何度も会う事で近付く其の心に、疑いはなく。
何時しか二人は、家や種族を気にせず出来た、初めての友達になりまする。
生まれて初めて己だけを見てくれた、ただ一人の友人でありました。
しかししかし其の男は、町に攻め込む西の妖怪共のお頭様。
それを知らずにお二人は、互いを心からの友だと信じておりました。
しかしそれに、先に気付くは西のお頭。
互いが敵対する同士だと知り、一方的に決別なさる。
その事に酷く傷付き悲しむお坊っちゃん。
けれどすぐに復活し、今度は元友人とも向き合います。
- 23 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 18:42:49.22 ID:zexdK/JYO
-
さて、二つ目は西と東のいくさの理由。
それは大した理由も、意味もまるで御座いません。
ただ西の悪たれ共の本能のままに、何かを壊そうとしているだけ。
西は東と違い、荒くれ悪たれ共の掃き溜め。
家も無く親も無い、満たされた環境などありはしない。
余所者から疎まれ憎まれ腫れ物扱いを受ける日々、西の妖怪は自己を求めます。
誰かを傷付ければ誰かに見られる、その幸福。
それが同時に誰かから憎まれる事だとしても、それが己の存在理由たりえるです。
西の妖怪は誰かを傷付ける事に躊躇わず、己の為にだけ生きる。
しかしそんな日々の中、一人の赤子が西のお頭として育てられる事となりました。
その子を嫌々でも育てる内に、妖怪達の胸に芽生えるはささやかな愛情。
同時に首をもたげる罪悪感は、ちゃんとした場所でちゃんと育ててあげられなかったから。
しかしその子を育てる妖怪共は、もはや西以外では生きられぬ身でありました。
もはや奴等は、今から良い妖怪として生きる事は出来ない、悪鬼が染み付いていたのです。
- 28 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 18:45:13.92 ID:zexdK/JYO
-
そうしてそれは、赤子にも受け継がれます。
成長し、立派な男へと育った彼は西のお坊っちゃん。
決して恵まれても満たされてもいない環境で、すくすくと大きくなられました。
拾われた時より決められていた、西のお頭として云う宿命。
彼はそれを嫌がる事もなく、西の妖怪達に染まりながら受け入れる。
始めは些細な事で御座いました。
好奇心や暇潰し、理由も無しに仔犬を殺し女を傷付け、蠱毒に虫を叩き込む。
そんな奴等のやる事です、何となくとしか言い様もありませぬ。
西の妖怪の誰かが、東の町の話をした。
それが誰かなのはもはや解りは致しやせん。
そして其処から、東の町に対する嫉妬がぐんぐんと大きくなり、首をもたげて花を咲かせる。
何時しか話は東の町への不満や嫉妬、あの町を壊してやろうと纏まる話。
それに対して嫌がる事もなく、それどころか楽しげに、西のお頭は頷いた。
東の町を襲うにあたり、町の様子を見に行こう。
それが一つの始まりで御座いました。
- 32 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 18:48:15.34 ID:zexdK/JYO
-
ひょんな事から出会った男。
その男と何度も巡り会う内に、西のお坊っちゃんの胸には友情と云う物が芽生えました。
生まれて初めて、己をそのまま見てくれた相手。
今まではお頭としてしか接された事が無かったお坊っちゃんにとって、それはとても幸せな事。
心を許して身を許し、東と西のお坊っちゃんは、心からの友となったのです。
壊す町を見に行ったと云うのに、友を作る。
何とも因果な事で御座りまするな。
お二人を繋ぐ糸は三本。
一本目は御友人、互いに初めての純粋なる友人でありました。
二本目は対立者、互いは対立し合う場所でのお頭様で御座います。
そうして三本目は、双子。
呪われた血か、はたまた鬼に祝福されたのか、お二人は赤子の頃に生き別れとなった双子。
嗚呼、何と哀れな事にございましょう。
初めての友人は敵であり、双子であるとは何と哀れな事でしょう。
東と西のお坊っちゃんは、その地のお頭として立つ。
それはもう、目を背ける事も逃げ出す事も許されぬ事で御座います。
- 40 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 18:51:52.90 ID:zexdK/JYO
-
さてさて、前口上が長くなってしまいました。
もう町では人は避難し、妖怪達が配置につき、迫る戦に備えております。
西の妖怪も各々の意思を持ち、もはや快楽の為だけではない戦の進軍を始めるところ。
この狐めも、実はこの戦の中にてこっそりと、此の身を投じていましてね。
さあさ、さあさあ皆々様。
此れより始まりまする鬼の行列、どうぞどうぞおめめに焼き付けて下さいませ。
( ^ω^)百鬼夜行のようです。
【最終話 百鬼夜行が夢の跡。】
それでは、どうぞ最後の幕をお楽しみ下さいませ。
- 44 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 18:54:31.86 ID:zexdK/JYO
-
(,,゚Д゚)「門に砦は置くかー!?」
( ^ω^)「手透きの奴が居てくれおー!」
|゚ノ ^∀^)「れもなは通り前の橋を守るわよー!」
(^ω^ )「頼んだおー!」
ξ゚听)ξ「私は前と同じく、東門近くの通りに居ますね」
川 ゚ -゚)「くうも一緒だ」
( ^ω^)「任せたおー! 無茶するなおー!」
(゚、゚トソン「あたしは」
(^ω^ )「寝てなさい」
(゚、゚トソン「……解った」
(^ω^ )「とにかくとそんは怪我治す事、店は任せろお」
(゚、゚トソン「おう」
- 48 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 18:56:48.80 ID:zexdK/JYO
-
(´<_` )「人間の保護は俺達に任せろ」
( ^ω^)「任せたおはいぶりっと共!」
爪'ー`)y‐「んじゃ僕はひっ捕まえた西の奴等を見張るねぇ」
(^ω^ )「油断せずにしっかり頼むお!」
(,,^Д^)「では、店や家屋の守りと見回りをします」
( ^ω^)「頼んだお! 怪我すんなお!」
从 ゚∀从「私は変わらず神社に籠るよ、ひいとは町を任せてある」
(^ω^ )「ひっきぃをよろしくお!」
ミセ*%ー゚)リ「わたしらは適当に散って守りに徹する? また北を守る?」
( ^ω^)「物凄く優秀だったから北を任せるお!」
(‘_L’)「腹が減った」
(^ω^ )「どくおー! 炊き出し配給ー!」
( ´_ゝ`)「握り飯どうぞ」
( ^ω^)「あんた何してんですかお」
- 53 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 18:59:40.16 ID:zexdK/JYO
-
( ^ω^)「空組ー! 名乗りー!」
( ´∀`)「はいモナ!」
( ‘∀‘)「はーい!」
( ゚∋゚)「此処に」
( ^ω^)「あとは天狗達、かお? ……うーん、やっぱり空ががら空きだお……」
,,,( ΦωΦ)「ならば我輩に任せるが良い、全て撃ち落としてくれよう」
(^ω^ )「おっとさん! 有り難いですお!」
( ΦωΦ)「あと、腕の立つ天狗が居る……そう云えば、貴様に会いたがっていたぞ坊主」
( ^ω^)「僕に?」
( ΦωΦ)「うむ、ほれ奴である」
N| "゚'` {"゚`lリ
( ^ω^)
N| "゚'` {"゚`lリ<やらないか
::(:゙゚'ω:゙゚)::
- 59 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:02:46.10 ID:zexdK/JYO
-
(´・ω・`)「むっきゅっきゅー、むっきゅっきゅー」
( ^Д^)「げこげこーん」
( ゚д゚ )グランバニッシュ
( ・−・ )
(´・ω・`)「むっきゅ?」
( ^Д^)「げろろん?」
( ゚д゚ )エンシェントノヴァ?
( ・−・ )
(´・ω・`)「むきゅー……」
( ^Д^)「げこー……」
( ゚д゚ )ミジンニクダケロォ……
( ・−・ )
(;TДT)「お前らー……普通にしゃべれー……」
- 65 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:05:17.70 ID:zexdK/JYO
-
(`・ω・´)「あ、文太郎文太郎」
(ヽ´ω`)「お……じっちゃん……」
(`・ω・´)「何で始まる前から憔悴してるの……」
(ヽ´ω`)「天狗が……大天狗の天狗も大天狗でしたお……」
(`・ω・´)「何その聞きたくもなかった情報……それより文太郎、僕ちょっと退くから」
( ^ω^)「お?」
(`・ω・´)「僕も歳だし、避難してる人達を守る方に回るよ」
( ^ω^)「おー……じっちゃんが居たら百人力なのに……」
(`・ω・´)「過去の力にしがみついてはいけないよ、文太郎」
( ^ω^)「お……」
(`・ω・´)「これからこの町を担うのは、君達若い者だ、そしてこれは初めの試練
だから、老兵は退く、僕らはもう過去の産物に過ぎないのだからね」
( ^ω^)「……解りましたお、僕……僕ら、頑張りますお!」
(`・ω・´)(簡単で良かった……)
- 69 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:08:25.49 ID:zexdK/JYO
-
( ^ω^)「しかし、僕らだけで大丈夫かお……少し不安だお……」
( ゚∋゚)「何を仰有います我らが主人」
ミ,,゚Д゚彡「てめぇの部下に任せられねェってのか?」
( ^ω^)「お……くっくる、ふさ……」
( ゚∋゚)「成り行きではありましたが、くっくるめはあなたの部下です」
ミ,,゚Д゚彡「嫌々ではあったがよ、お前はもう飼い主なんだよ」
( ゚∋゚)「あなたの前に立ちはだかる邪魔な壁があるならば、この拳で貫いてみせましょう」
ミ,,゚Д゚彡「もしお前に噛み付く奴が居るなら、俺様がみんな焼き殺してやるよ」
( ゚∋゚)「それが我々、あなたに飼われる者としてのつとめ」
ミ,,゚Д゚彡「信頼くらいしてみろ、間抜け面が」
( ^ω^)「二人とも……」
( ゚∋゚)「くっくるめはもう、あなたに忠誠を誓う身、あなたは刷り込みの対象です」
ミ,,゚Д゚彡「この俺様が飼われてやったんだ、最後まで責任もって飼い慣らせろよ」
( ^ω^)(こいつら可愛いなあ)
- 73 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:11:05.30 ID:zexdK/JYO
-
( ^ω^)「解ったお……なら二人には、番犬と揺りかごには、僕の屋敷を任せるお」
( ゚∋゚)「よろしいでしょう、ならば私はこのかいなで全てを眠らせる揺りかごにはなります」
ミ,,゚Д゚彡「俺は屋敷を守る番犬として、近付く馬鹿には吼えて威嚇し噛み砕く獣で居てやる」
( ゚∋゚)「命令は聞きましょう、そして全うしましょう、捨てる命は安くはなくとも」
ミ,,゚Д゚彡「俺らはもう、此処に骨を埋める覚悟を持っちまったからな、お前も覚悟しろ」
( ^ω^)「頼んだお……頼んだお、僕の可愛い家族達! 死ぬる事は許さんお!」
( ゚∋゚)「御意!」
ミ,,゚Д゚彡「任せろや!」
( ゚∋゚)(御意って云ってみたかったのよね……)
ミ,,゚Д゚彡(何でお前はそこでかっこつけて落とすんだよ……)
( ゚∋゚)(だってくっくるだし……)
ミ,,゚Д゚彡(納得出来るのが嫌だよ……)
- 78 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:13:14.82 ID:zexdK/JYO
-
( ^ω^)「うっし、二人に屋敷を任せて……後は……」
从 ゚∀从「おおい、内藤の坊っちゃん」
( ^ω^)「お、はいんの姐さん? もう引っ込んだのでは?」
从 ゚∀从「ちょっと渡す物があってね、これ」
( ^ω^)「お……? 数珠……?」
从 ゚∀从「ああ、数珠だよ」
( ^ω^)「死んだら、これで祈れと……?」
从 ゚∀从「違う違う、死ぬ気はないよ、それはお守りだ」
( ^ω^)「お守りですかお? しかしお守りは、おっかさんの扇と鈴が……」
从 ゚∀从「その二つはとても大切な物、しかしこれも役に立つさ」
( ^ω^)「おー……?」
- 82 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:17:17.18 ID:zexdK/JYO
-
从 ゚∀从「それは、君の願いを叶えるものだ」
( ^ω^)「僕の、願い?」
从 ゚∀从「そう、うちの本殿で神具として祀られていたものだ、ご利益はばっちりさ」
( ^ω^)「……解りましたお、有り難くお借りしますお」
从 ゚∀从「否、それは君にあげようね」
( ^ω^)「でも、大事な物ですお?」
从 ゚∀从「私の願いはそれを使わずに叶った、あの子は私を母と呼んだから」
( ^ω^)「お……」
从 ゚∀从「だから私は要らない、道具は使われなければ意味を為さない、だから君がお使い」
( ^ω^)「解り、ましたお」
从 ゚∀从「その代わり、無くすんじゃないよ、きっとそれはまた私の元へやって来るから」
( ^ω^)「おー?」
从 ゚∀从「それはね、今亡き神主氏がこさえた────」
- 85 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:20:20.88 ID:zexdK/JYO
-
ξ゚听)ξ「んっしょ……これで良いですかね……」
( ^ω^)「お、迎え撃つ準備かお?」
ξ゚听)ξ「あ、はい……蛇の目を使えば簡単に済むとは思うんですが、ちょっと……」
( ^ω^)「お?」
ξ゚听)ξ「あれ、使いすぎると目に良くないらしいんです……何時かは目が見えなくなる、と」
( ^ω^)「おー……それは、困るお……」
ξ゚听)ξ「それに、鏡を使われたら私に跳ね返って来ますから……蛇の目は封印します」
( ^ω^)「でも、無茶はするなお? あんな怪我はもう勘弁だお……」
ξ゚听)ξ「はい、気を付けます……内藤さんも、お気を付けて」
( ^ω^)「お、命あってこそ、だお…………命、あってこそ」
ξ゚听)ξ「……内藤さん?」
- 88 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:23:53.90 ID:zexdK/JYO
-
( ^ω^)「……命を容易く捨てる事は、誰であれ許されない事だお」
ξ゚听)ξ「そう、ですね」
( ^ω^)「…………つんは、知ってるかお? ……僕の双子を」
ξ゚听)ξ「ええ、でれから聞きました」
( ^ω^)「そうかお……僕の、兄だお……長岡は」
ξ゚听)ξ「西のお頭の方、ですよね」
( ^ω^)「お……兄は、きっと死にに来るお……」
ξ゚听)ξ「死にに……? 殺しにではなく、ですか?」
( ^ω^)「殺し合うと云っていた、けれど……兄の目は、もう死ぬ前の覚悟の目だったお」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「僕は、僕はそんな事……許さないお……」
ξ゚听)ξ「それは、何故ですか?」
( ^ω^)「……僕の、我が儘だお」
- 94 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:26:09.81 ID:zexdK/JYO
-
( ^ω^)「僕は、死を見たくない、この町で勝手に死ぬ様な事は、許さないんだお」
ξ゚听)ξ「内藤さん……」
( ^ω^)「僕の我が儘は、おっかさん譲りだおね」
ξ゚听)ξ「聞いたら怒りますよ?」
( ^ω^)「怒らないお、おっかさんは自覚してるからお」
ξ゚ー゚)ξ「……とんだわがまま親子ですね」
( ^ω^)「お……」
ξ゚ー゚)ξ「そんな親子に従うと、皆さんは決めました、私もです」
( ^ω^)「つん、」
ξ゚ー゚)ξ「最後まで、幾らでも付き合いますよ、そのわがままに
あなたには、従わせるだけの力があるんです、だから胸を張って下さい」
( ^ω^)「つ、ん……」
ξ^ー^)ξ「しっかりなさって下さい、此処では、今は、あなたがこの町の全てです」
- 98 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:29:24.04 ID:zexdK/JYO
-
( ^ω^)「僕は、これで良いのかお?」
ξ^ー^)ξ「今さら、聞く事ではないでしょう?
あなたはあなた、あなたの信じる新たな道を進んで、真っ直ぐに」
( ^ω^)「つんは、それについてきてくれるかお? 間違いを正してくれるかお?」
ξ^ー^)ξ「もちろん、何処までもあなたと共に、そして道を間違えたのなら叱ります」
( ^ω^)「……有り難うお、つん……本当に、有り難うお」
ξ^ー^)ξ「しっかりと前を見据えて、進んで下さい、愛しい私の足」
( ^ω^)「…………解ったお、真っ直ぐに行くお! 僕の愛しい、僕だけの尾っぽ!」
ξ^ー^)ξ「ふふっ……何処までも、何処へでも……私はあなたに付き従いますからね」
( ^ω^)「共に、僕らの道を歩もうお!」
ξ^ー^)ξ「はい!」
( ^ω^)「おー! 頑張るおー!」
ξ^ー^)ξ「はい、頑張りましょう!」
- 104 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:32:40.92 ID:zexdK/JYO
-
川 ゚ -゚)「……どくお」
('A`)「うん?」
川 ゚ -゚)「くうにしてみれば、これは最初で最後だ」
('A`)「……そうだな」
川 ゚ -゚)「くうは、今しあわせだ、つんが居て、あったかい家でご飯食べて、どくおが居る」
('A`)「……」
川 ゚ -゚)「あいつらを殴らなきゃ、この幸せは壊れる……だからくうは、自分の幸せの為にたたかう」
('A`)「ああ……そうだな」
川 ゚ -゚)「くうはやっとしあわせになれた、どくおとしあわせになれたんだ……」
('A`)「……行こうぜ、くう」
川 ゚ -゚)「ああ、行くぞ、どくお……くう達のしあわせは、もう誰にも壊させはしない、絶対に!」
('A`)「おう……やるぞ、くう!」
- 111 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:35:51.31 ID:zexdK/JYO
-
( ΦωΦ)「見えるか、しゅう、空が暗い」
lw´‐ _‐ノv「ええ、しっかりと」
( ΦωΦ)「……我輩達も、これが済んだらば、退こうか」
lw´‐ _‐ノv「はいな……わっちらはもう、老いんした……お子達も、みいんな立派になりんした」
( ΦωΦ)「ああ、これもしゅうのお陰であるな」
lw´‐ _‐ノv「いいえ、いいえ……わっちは、なあんにも」
( ΦωΦ)「……今や時は若い世代の物、我輩らが出張るのは、これが最後である」
lw´‐ _‐ノv「ええ、ええ……もう、虚勢を張らずに隠居致しましょ……」
( ΦωΦ)「……しかし、それはこれが済んでから……迎え撃つぞ、妻よ」
lw´‐ _‐ノv「はいな……わっちの糸で絡め取ってやりんす、旦那様」
( ΦωΦ)「我らが子達の未来の為に!」
lw´‐ _‐ノv「参りましょう……これで最後にありんす……!」
- 117 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:39:13.99 ID:zexdK/JYO
-
('、`*川「しゃきんさん……本当に、良いの……?」
(`・ω・´)「構わないよ、ぺにさすさん」
('、`*川「だって、だってよ? ……しゃきんさんの、ご家族なのに……」
(`・ω・´)「君は、軽蔑するかい?」
('、`*川「ぇ……」
(`・ω・´)「あの子達は、もう立派に強い……だから僕は全力で、僕の愛しい人を守りたいんだ」
('、`*川「しゃきん、さん……」
(`・ω・´)「もう、この手から離れないように、ずっと君を抱いていたいんだ」
('、`*川「……わがまま、わがままな方、だわ……」
(`・ω・´)「すまない、ぺにさすさん」
('、`*川「それでも私、私あなたが愛しいから……どうか、どうか後悔だけはなさらないで……」
(`・ω・´)「ああ……もちろんだよ、これ以上、後悔は重ねたくないから」
- 126 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:42:45.69 ID:zexdK/JYO
-
( ゚∋゚)「さ、て……来ますね」
ミ,,゚Д゚彡「ああ、来やがるな」
( ゚∋゚)「……ふささん、あなたは、もう立派な飼い犬ですか?」
ミ,,゚Д゚彡「んだよ急に……お前はよ」
( ゚∋゚)「くっくるめは、立派な飼い鳥ですから」
ミ,,゚Д゚彡「…………俺様もだよ」
( ゚∋゚)「そう、ですか……じゃ、やるしかありませんね」
ミ,,゚Д゚彡「そだな、まあ先刻あの馬鹿と約束もしちまったし」
( ゚∋゚)「ふっふっふっ、素直で可愛かったですよ?」
ミ,,゚Д゚彡「勘弁しやがれ、気色の悪い……おら、外に待機すっぞ!」
( ゚∋゚)「はいはい、さあ何処からでもかかってきなさい、この筋肉達磨へと!」
ミ,,゚Д゚彡「お前さ、少し位は真面目にやろうや……」
- 136 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:45:20.93 ID:zexdK/JYO
-
从 ゚∀从「ひっきぃ、大丈夫かイ?」
(-_-)「うん……少し、耳がざわつくけど……」
从 ゚∀从「向こうの空を御覧、黒くなっているだろう……あれの所為だよ」
(-_-)「……西の、妖怪が来るんだよな……」
从 ゚∀从「嗚呼、だが気にしなくて良い、私がしっかり守ってやるさ」
(-_-)「…………」
从 ゚∀从「? ひっきぃ、?」
(-_-)「……たまには、僕にも守らせろよ…………母さん」
从 ゚∀从「ッ!」
(-_-)「僕は、見た目ほど子供じゃないんだ……成長、止まったけど……二十歳過ぎてるんだぞ」
从 ゚∀从「……嗚呼、そうだね…………でも、それはこの騒ぎが終わってからにしてくれ賜え」
(-_-)「……うん、はいん」
- 152 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:48:39.06 ID:zexdK/JYO
-
(,,゚Д゚)「しぃ! そっちは大丈夫そうか!?」
(*゚ー゚)「へぇ、問題あらへんよ! うちらだけでいけるっ!」
(,,゚Д゚)「解った! 無茶ァすんなよ!」
(*゚ー゚)「あ、ぎこ様!」
(,,゚Д゚)「んあ?」
Σ(,, (-* ),,, チュー
(,;//Д/)「お、おま……おま……っ」
(*^ー^)「えへへぇ……これ終わったら、うちをお嫁にして下さいねっ!」
(,;*゚Д゚)「あー、うー……わぁったから、無茶すんなよ!」
(*^ー^)「はーいっ!」
(,;*゚Д゚)(ちっくしょう……強かになりやがって……)
- 166 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:51:16.96 ID:zexdK/JYO
-
(#*゚∀゚)「……あいつら、いちゃつきよって……今の状況解っとんか……?」
ζ(゚ー゚*ζ「男の嫉妬はみにくいですよー」
(;*゚∀゚)「うぉっ!? ……ああ、蛇の妹か……それは色んな意味で禁句やろ」
ζ(゚ー゚*ζ「ほら、つうさんも女装してないで新しい方を探しましょ?」
(;*゚∀゚)「女装云うな! 姉様のお下がりなだけや! 何やねんお前、姉より怖いぞ!」
ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんがうぶなのと、私は奥さまの元で働いてますから……」
(*゚∀゚)「ああ……ほんならしゃあないか……」
ζ(゚ー゚*ζ「さ、嫉妬でぐろぐろしてないで! 未来へ! 彼女を作るために!」
(;*゚∀゚)「なんやその理由は嫌やけど……ま、引き摺ってもしゃあないしな」
ζ(゚ー゚*ζ「ほら頑張りましょ! ね!」
(*゚∀゚)「おうさ、行くぜぃ! あひゃひゃひゃー!」
ζ(^ー^*ζ「ひゃー!」
- 177 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:54:31.98 ID:zexdK/JYO
-
(#゚;;-゚)「たからのあにさま、診療所の戸締まりしたよぉ」
(,,^Д^)「有り難う御座います、じゃあ見回りに行きましょうか」
(#゚;;-゚)「へぇ……あにさま?」
(,,^Д^)「はい?」
(#゚;;-゚)「うち、きずだらけやけど……好きぃ?」
(,,^Д^)「? もちろん好きですよ?」
(*#゚;;-゚)「……ぇへ……うち、怖いひとに付きまとわれて、助けてくれた時から……
……ずっと、あにさまのこと、好きよぉ……?」
(,,^Д^)「でぃさん……」
(#゚;;-゚)「あにさまと一緒におるん、しあわせやから……うち、頑張るん……っ」
(,,^Д^)「そう、ですね……またでぃさんに何かあれば、このたから……命をかけてでも守ります!」
(#゚;;-゚)「ぇ……あかんよ、死んだら……」
(;,^Д^)「あ、いえその……言葉のあやと申しますか……」
(#゚;;-゚)「……ふふっ……おぉきに、あにさま……」
- 190 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 19:57:41.95 ID:zexdK/JYO
-
(゚、゚トソン「……暇だ」
( <●><●>)「おとなしくしてなさいね、とそんさん」
( ><)「お腹くぱぁするんです」
(゚、゚トソン「わぁってるよ……あー、暇……誰か火縄銃持って来ねぇかな……」
( <●><●>)「驚きのおとなしくする気のなさ」
( ><)「これには流石の僕らも驚きを隠せないんです」
(゚、゚トソン「喧しいわ、店も頼んであるしお前ら此処に居るし、全くやる事ねぇや……」
(*‘ω‘ *)「ぽ」
/ ゚、。 /
(゚、゚トソン「そんでお前らは馬鹿正直に火縄銃持ってきてくれんのな」
( <●><●>)「あーあ、だいさんとぽっぽちゃんの所為でとそんさんが腹くぱしますね」
/;゚、。 /そ
(゚ー゚トソン「だいを虐めんなっての、ほらこっちこい、繕ってやるよ…………あーあ、暇だなーったく」
- 203 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:01:01.78 ID:zexdK/JYO
-
ミセ*%ー゚)リ「北の門番! みせりちゃんさんじょーう!」
(‘_L’)「調子、乗るな」
ミセ*%ー゚)リ「うへ、冗談だよー」
(‘_L’)「……これが、最後だ……気を引き締めろ」
ミセ*%ー゚)リ「はーい!」
(´・_ゝ・`)「ふむ、意外と隙は無いんだな」
ミセ*%ー゚)リ「何しに来た」
(‘_L’)「帰れ、凄く、帰れ」
(´・_ゝ・`)「様子を見に来たんだ、未来の妻と義父の」
ミセ*%ー゚)リ
(‘_L’)
ミセ*%ー゚)リ「おやっさんすとっぴ、刀抜いちゃ駄目、それ残念な事に一応は味方なの」
(‘_L’)「殺す、絶対に、殺す、喰い殺す」
- 214 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:04:00.09 ID:zexdK/JYO
-
爪'ー`)y‐「前の同族は、大して強くも無かったからなぁ……今度はどうかなぁ……?」
⌒*リ´・-・リ「ぁ……ふぉっくすさま……」
爪'ー`)y‐「ぞくぞくするなぁ、ぞわぞわするなぁ、最後だもんなぁ……ふふふふふぅ……っ」
⌒*リ´・-・リ「ふぉっくす、さま……?」
爪'ー`)y‐「あ……りりちゃん、どしたのぉ?」
⌒*リ´・-・リ「…………ふぉっくすさま、獣の目……してます」
爪'ー`)y‐「……参ったな、見せたくないのに見られちったぁ……」
⌒*リ´・-・リ「りりは、……いつもの、ふぉっくすさまが……好きです……だから、獣にならなぃで……」
爪'ー`)y‐「…………うん、解った……りりちゃんが云うなら、僕は人のままであるからねぇ」
⌒*リ´・-・リ「……ふぉっくすさま?」
爪'ー`)y‐「ん、」
⌒*リ´・-・リ「おとなになったら……およめさんに、してくださぃね……?」
爪'ー`)y‐「……もちろん、僕だけの幼い花嫁……健やかなる時も病める時も、君だけを想い、
君だけを助け、この命ある限り、君だけを愛し続けるからねぇ……可愛いりりちゃん……」
- 230 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:07:23.42 ID:zexdK/JYO
-
(´<_` )「なぁ兄者」
( ´_ゝ`)「うん、?」
(´<_` )「俺はこの町に居着いて何年も経つ、友達だって多く居る」
( ´_ゝ`)「……俺は此処に来たばかりだけど、皆、優しくしてくれる」
(´<_` )「……守るしかないよな」
( ´_ゝ`)「ああ、もちろんだ弟者」
(´<_` )「敵にも味方にも引っ張り回されて、それでも町を守ろうとするお人好し」
( ´_ゝ`)「敵にも味方にも引っ掻き回されて……怪我だってしたのに」
(´<_` )「それでも尚、みんなを守りたいんだよな」
( ´_ゝ`)「……流石だよな、俺達」
(´<_` )「ああ、流石だよ俺達」
- 237 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:10:37.67 ID:zexdK/JYO
-
ノパ听)「きゅうときゅうと! ついに始まるぞぉお!!」
o川*゚ー゚)o「あーはいはい、静かにしとき」
ノパ听)「……」
o川*゚ー゚)o「やっぱ静かやと気色悪いな……」
ノパ听)「……な、きゅうと」
o川*゚ー゚)o「あー?」
ノパ听)「毒壺から出て数十年、かな」
o川*゚ー゚)o「…………もう、覚えとらん」
ノパ听)「ひいとは、幸せだぞ、外の世界はこんなにも輝いている」
o川*゚ー゚)o「家族もいっぱい居るし、か?」
ノパ听)「ん! ひいとは蟻んこ、一匹だけじゃ生きては行けない! だからみーんな大好きだ!!」
o川*゚ー゚)o「……うちも好きよ、みんな……これは過去の罪滅ぼし、皆をこの鎧で包み込んだる!」
- 244 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:13:37.78 ID:zexdK/JYO
-
|゚ノ ^∀^)「もれなちゃん、此処でじっとしてるのよう?」
li*^ヮ^)「うん……おとーさんおかーさん」
( ´∀`)「どうしたモナ?」
|゚ノ ^∀^)「なあに? もれなちゃん」
li*^ヮ^)「これが終わったら……一緒に、住めるよね……?」
( ´∀`)「ぁ……」
|゚ノ ^∀^)「もっちろんよう! 毎日れもなが美味しいご飯作って、一緒にお風呂も入ってあげる!」
li*^ヮ^)「ほんとっ!? ほんとにほんとっ!?」
|゚ノ ^∀^)「あったりまえでしょ? れもなは、もれなちゃんのお母さんなんだから!」
( ´∀`)「れもな……」
|゚ノ ^∀^)「だから、それまで皆とじっとしといてね? ちゃんと、迎えに来るから!」
li*^ヮ^)「うん! いいこにしてるね、おかーさん! おとーさん!」
- 249 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:16:06.17 ID:zexdK/JYO
-
(;TДT)「あ゚ー……鼻が痛いー……」
( ^Д^)「げこ、近付いてるのぉん?」
(;TДT)「うー、うーうー……西の奴等が一気にこっち来てるぞー……匂いがまぜこぜだー……」
( ^Д^)「あー、西の奴等って色んな匂いだもんねぇん」
(;TДT)「いっしょくたになると、鼻が痛くなるぞー……」
( ^Д^)「鼻がきくってのも良し悪しだねぇん……あ、そういやお姉ちゃんは?」
(;TДT)「狐が見張ってるぞー」
( ^Д^)「いや、和解したのぉん?」
(;TДT)「……うん」
( ^Д^)「……」
(;TДT)「……えぴ、挟んでも貰えなかったぞー……」
( ^Д^)「よ、よしよし……」
- 254 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:19:13.77 ID:zexdK/JYO
-
「ねぇ、まちはだいじょうぶかな?」
「大丈夫さ、坊っちゃん達が居る」
「ちょっと、たよりないけどね」
「それでも、君達も信頼してるんだろうさ?」
「まあね、わたしたちはもりをみはるよ」
「まちはよろしくね、ぼくらはもりでてがいっぱい」
「おうさおうさ、怪我しないでねちびっこ達」
「そっちこそ、ふかふか」
「もうけがすんなよーだ」
「にひひ、んっじゃね! 坊っちゃん達が待ってるさ!」
「またねー、みんなによろしくー」
「よりみちしないでよー」
- 265 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:22:32.03 ID:zexdK/JYO
-
御天道様はそろそろ姿を隠す逢魔が時、同時に訪れるは大禍時。
各々が決意を固く配置につき、大通りに立つは二人の男。
焦げ茶の羽織りに生成りの着物、ふわふわの癖毛にふやけた笑顔。
青灰色の浴衣を纏い、頭に手拭いを巻いた長髪の男は、金棒を握る。
西の空を黙って見上げる二人の内、黒髪の男が、そっと口を開いた。
('A`)「なァ、坊っちゃん」
( ^ω^)「お?」
('A`)「今だから聞くがよ……あんたは、何者なんだ? 一体、何の妖怪なんだ?」
( ^ω^)「けせらんぱさらん、だお?」
('A`)「坊っちゃん、はぐらかさないでくれ」
( ^ω^)「……まだ解らんかお?」
('A`)「んぁ……?」
- 274 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:25:27.78 ID:zexdK/JYO
-
坊っちゃんは懐から扇子を取り出し、指先で、ば、と開く。
そして口元を隠して、おっおっ、と笑ってみせた。
( ^ω^)「な、どくお」
(;'A`)「え……な、何だ?」
( ^ω^)「僕は、」
僕は、誰だお?
その一言こそが、坊っちゃんの存在、そのものであった。
(;'A`)「あ……」
(;'∀`)「は……ははっ……はははははっ!」
どくおは心底楽しそうに笑って、顔を歪めて笑って、呟く。
(;'∀`)「…………あんたは、坊っちゃんさ」
- 288 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:28:47.12 ID:zexdK/JYO
-
(;'∀`)「ああ、よく解ったよ……何で今まで解らなかったんだろうな……」
( ^ω^)「おっおっおっ」
(;'∀`)「あんたは……神様じゃねぇか……」
( ^ω^)「そいつは違うお、僕は何でも無いお」
('A`)「何でも……無い、?」
( ^ω^)「僕は僕だお、それ以上でも以下でもないお」
('A`)「けど、よ……」
( ^ω^)「僕は人間、僕は妖怪、真の姿は滑瓢
そんな名前はどうでも良いお、僕はいま、楽しいお、みんなと歩めるこの道が」
('A`)「…………そう、か」
( ^ω^)「そうだおどくお、も一度問うお……僕は誰だお?」
にこにこ顔に、ぬらりぬらりと掴み所のない性格。
本当は、誰もが見れば分かった筈。
けれど誰もが分からなかったこの男。
この男は、他でもない
- 297 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:32:58.25 ID:zexdK/JYO
-
( 'ー`)「……あんたは坊っちゃんだよ、確かに、それ以上でも以下でもねぇ……」
( ^ω^)「ん、それが正解。さあさあ西のお空が真っ暗だお! もうじき始まっちまうお!」
('A`)「来るぜ来るぜ……夜が来る……!」
( ^ω^)「さあさ、さあさあ皆の衆! 僕の声が届くかお! お日様隠れて夜が来る!!」
('A`)「ほらお日様が隠れっちまうぜ! 俺達妖怪の、一世一代の大見せ場がやって来る!!」
西からざわざわと、足音が響く。
空はもう、夕闇に染まる。
そして、声高らかに
( ^ω^)「さあささあさあ今宵こそは葉落つる月に戌の日で、刻は黄昏 逢魔が刻!!
西から東へ真っ直ぐ続くは大通り、訪れまするは溢れんばかりの悪鬼羅刹に魑魅魍魎!!
我らが町を汚さん奴ら、今こそ懲らしめ見せしめ追い払え!!
さあささあさあ暁の蛇さん戻るまで、夜が明けお日さん顔出すまで!!
さあささあさあ今ぞ今こそ真の姿を晒して見せろ、ひたすらひたすら暴れて魅せろ!!
さあ 百鬼夜行を、始めるお!!!!」
- 311 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:36:43.16 ID:zexdK/JYO
-
わっと、其処ら中で上がる歓声。
そしてついに、西の黒い海は、すぐそこまで。
準備に追われる間に、あっという間に訪れたこの夜。
これこそが終わりであり、始まりである夜の訪れ。
数多の想いが交差して、数多の因縁が糸の如く絡まり合う。
その糸を、全て断ち切る為の夜。
さあ戦おう、否、殺し合おう、否、遊ぼう。
百の鬼が行く夜に、僕らはこの命からお別れを告げる。
そして明日の朝になれば、僕らは新たな命として、人間として生まれ変わろう。
兄さん、最初で最後の大喧嘩だ。
悔いは残れども、もうやり直す事は出来ないから。
今を、今だけを、精一杯に生きよう。
精一杯。
終わりを告げて、始まりを告げる、
百鬼夜行の、はじまり はじまり。
- 315 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:38:57.31 ID:zexdK/JYO
-
|゚ノ ^∀^)「さ、て……来たわね……」
一つ目は、橋の上に立つ女。
盛岡屋うれっこ、此花花魁れもな。
桃色に鮮やかな柄の着物を纏い、黄色い髪を生暖かい風に靡かせて空を睨む。
その上空には、黒衣を纏う有翼の男。
れもなの夫であるもなーは、れもなの頭上を旋回しながら様子を見ていた。
|゚ノ ^∀^)「もなーくぅん、どぉ?」
( ´∀`)「もう波は門の外まで迫ってるモナ、町に入るのも時間次第モナ」
|゚ノ ^∀^)「ふふっ……良いわぁ、れもなが相手してあげる……もなー君と一緒にねえ」
( ´∀`)「細君と共にならば、何処までも」
くすりくすりと微笑み合う、愛し合う夫婦。
その様子は、端から見れば非常にほのぼのとした穏やかなもの。
- 318 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:40:39.57 ID:zexdK/JYO
-
しかしれもなの云う言葉の意味は、血を啜ってやろうと云う意味で。
それに対して、幾らでも血を飲ませてやると返す夫。
二人の正体を知る者からすれば、肩を竦めずには居られない状況だった。
そしてそんな中、夫婦の正体を知らぬ女の声が響く。
「────妬ましいわ、妬ましいわ、妬ましいわ……」
|゚ノ ^∀^)(……来たか)
人il.゚ヮ゚ノ人「ああ、妬ましいわ……嫉むわ嫉むわ……」
橋の足元から、ずるりと持ち上がる影。
その影は人のそれへと形を変えて、れもなの前へと俯き立つ。
影から女へと変化したそれは、水色の髪を風に遊ばせる、橋姫わむて。
変わった形の帽子を頭に乗せて、手には己の身長を越すであろう、大鎌が握られている。
く、と顔を上げたわむてはれもなを虚ろな目で睨み、微笑んだ。
- 326 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:43:29.20 ID:zexdK/JYO
-
人il.゚ヮ゚ノ人「妬ましいわ……妬ましいわ、妬ましいわ……嫉むわ嫉むわ嫉むわ……幸せな女……」
|゚ノ ^∀^)「……あれあれ、何が妬ましいのかしら?」
人il.゚ヮ゚ノ人「一人で橋を渡るあなたに分からないの? ああ妬ましいわ、恨めしいわ……
腹の底からぐちゃぐちゃにしてやりたいわ……妬ましいわ妬ましいわ……」
|゚ノ ^∀^)「ごめんなさいましね、れもな、愛しい人がいるの」
人il.゚ヮ゚ノ人「満たされた器が妬ましい、幸せな女が妬ましい、愛されるあいつが妬ましい……ッ」
|゚ノ ^∀^)「あらあら……嫉妬に狂う女に、魅力があると思うのかしら?」
人il.゚ヮ゚ノ人「愛される女に何が解るの……? 妬ましいわ妬ましいわ妬ましいわ……」
|゚ノ ^∀^)「なあに? あなたは幸せになれなかった女なのかしら?」
人il.゚ヮ゚ノ人「愛する男は他の女を今尚愛す……何度振られ様と、未だに……ッ!」
|゚ノ ^∀^)「じゃあ、振り向かせれば良いじゃない、魅力的になれば良かったじゃない?」
人il.゚ヮ゚ノ人「…………あなたに何が解るのよ、愛する男と結ばれている癖に」
|゚ノ ^∀^)「れもなだって、長い長い時を経てやっと結ばれた……あなたは努力をしたかしら?」
人il.゚ヮ゚ノ人「……煩い」
- 328 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:44:47.28 ID:zexdK/JYO
-
|゚ノ ^∀^)「努力無くして愛しい殿方を得られると思ってるの? 馬鹿じゃないの、あなた」
人il#.゚ヮ゚ノ人「煩い煩い煩いッ! あいつは未だに蜘蛛を愛してるんだもの!!
わむてになんて振り向く訳がないわ!! 何百年片想いを続けてると思ってるのよ!!」
|゚ノ ^∀^)「自分の意気地の無さを人の所為にするわけ? ……だから愛されないのよ」
人il#.゚ヮ゚ノ人「な……ッ!」
|゚ノ ^∀^)「愛する人が居るなら奪えば良い、愛されたければ己を磨けば良い
自分に靡かなかった事を後悔させる程に、良い女になれば良いでしょう」
人il#.゚ヮ゚ノ人「あんたにッ! あんたに何が解るの!? ただ幸せに生きる女に何がッ!!」
|゚ノ ^∀^)「馬鹿にしないで頂戴な、れもなだって苦労したってのよ」
人il#.゚ヮ゚ノ人「煩い煩い煩いッ! 美しい愛される女にわむての気持ちがわかるものかぁああああッ!!!!」
|゚ノ ^∀^)「解りたくもないわ、馬鹿女が…………愛されたいと、その人に云わない癖に」
人il#.゚ヮ゚ノ人「ああ、ああ、あああああッ! 恨めしい妬ましい嫉むわ嫉むわ嫉むわッ!!
死んで、死んでよッ! 死んでおしまいなさいよッ!! 死んで死んで死んで幸せな女ぁああッ!!!!」
- 332 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:46:38.43 ID:zexdK/JYO
-
ほんの些細な事であれ、己を否定する言葉は万死に値した。
それも、今まで片想いと云う不遇な己に酔っていたそれすらも馬鹿にされて。
わむては怒声を張り上げて、れもなへ鎌を掲げて走り出す。
どうせこれで終わりなんだ、今日でわむても終わるんだ。
だから、どう殺そうが殺されようがどうでも良い。
そう、振り下ろした鎌は。
れもなの、木の根へ形を変えた左手に、がっちりと受け止められた。
|゚ノ ∀ )「いやあよ、ねえ、もなーくぅん……やっとやっと巡り会えたのよ……
死んでたまるものですか……だあれが死ぬものですか……っふふふふ」
人il#.゚ヮ゚ノ人「また引き裂いてやるわよ、今度は彼岸へ叩き落としてやる!! この橋姫わむて様がねぇ!!」
|゚ノ ∀ )「ふ、うふ、ふふふふふふ、引き裂けやしないわ……
……ねぇ、もなーくぅん……れもな、まだ喉が渇いてるの……
…………喉が渇いたわ、まだ足りないの……ねぇ、ねぇえ……
もっと注いで、私に飲ませて、甘いの甘いの、甘い体液……
沢山飲ませて……注いでほしいのよう、新たな果実を実のらせんばかりに甘いのが……
もなーくぅん、もなーくぅん…………っれもなの喉を潤してぇえッ!!
私の肩にとまって、愛を語って、愛しいの愛しいのようれもなだけのもなーくぅんッ!!
あっははははははははははははぁ!! あははははははははははははははははッ!!!!」
- 339 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:48:33.73 ID:zexdK/JYO
-
けたたましい笑い声。
女の嬌声。
愛に狂うとは、まさにこの事か。
突然笑い出したれもなに、わむては目を白黒させて、戸惑いを隠せずに居た。
がっちりと掴まれた鎌を必死に引き抜き、飛び退いて、目には僅かに恐怖が灯る。
この女は何なんだと、眉を寄せる。
そして未だにけらけらと笑い続けるれもなの首を狙い、鎌を振り上げた。
人il;.゚ヮ゚ノ人「なっ、な……何よ、この女ぁ……いかれてんじゃないの……?」
「橋姫わむて」
人il;.゚ヮ゚ノ人「ひっ!?」
( ´∀`)「我が妻を愚弄する事は、この烏が許さぬモナ」
人il;.゚ヮ゚ノ人「なっ……んなの……こいつらぁっ……!?」
- 344 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:50:10.38 ID:zexdK/JYO
-
突然、鎌を振り上げる背後から届く声。
右手をがしりと掴まれたわむてはそれを振り払う事も出来ず、わたわたと戸惑うばかりで。
|゚ノ ∀ )「ねぇ橋姫ちゃん?」
人il;.゚ヮ゚ノ人「ひぃっ!?」
|゚ノ ∀ )「れもな達を、この町を敵に回した事……後悔させてあげるわ……
這いつくばって地獄の焼ける土をなめた方が良いと思える程に……
あなたの中に、恐怖を注いであげるぅ……ねぇ、もなーくぅん……?」
( ´∀`)「ご随意に、モナ……愛しの細君……れもなの望みとあらば、何処までも」
人il;.゚ヮ゚ノ人「いっ、いやっ! いやぁあっ!! 嫌よいやいやこっち来ないでッ!?」
|゚ノ ∀ )「痛くはしないわあ…………あなたの体液、飲ませて貰うだけよう……?」
人il;.゚ヮ゚ノ人「やだ、やだってば来ないで! 二人がかり何て卑怯ようッ!? 」
|゚ノ ∀ )「なあに云ってるの…………れもなを、殺すんでしょう……? くすくすくす……」
人il;. ヮ ノ人「や……ぃや…………止め、ぁ、……っ」
響き渡るのは、空を引き裂かんばかりの女の悲鳴。
そして、けたたましい笑い声だった。
- 348 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:52:12.55 ID:zexdK/JYO
-
ミセ*゚ー゚)リ「どっせーやー! 北門は通らせねーぞーう!!」
(‘_L’)「調子、乗るな、白稚児」
ミセ*゚ー゚)リ「はーいおやっさーん! うりゃー!」
(‘_L’)「……全然、解って、無いな」
溜め息混じりに太刀を振るう大男、隻腕の犬神ふぃれんくと。
その視線の先には、くるくると楽しげに回るつむじ風の様な少女、犬神に遣える白稚児みせり。
ずらりと長い巨大な太刀からなるは、全てを断ち切る狂い風。
小さな二本の小刀からなるは、細切れに引き裂く遊び風。
相変わらず、鉄壁の守りを誇る北門の砦達。
安心感に安定感、取りこぼしがあれど小さな風の後ろで待ち構える風が、全てを叩き落とす。
ふと、門の外で駆け回るみせりの目に、黒以外の何かが映る。
それは、赤。
真っ赤な姿の、小鬼の姿。
- 355 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:54:40.83 ID:zexdK/JYO
-
その赤は門にそのまま突っ込むのではなく、ぴょんぴょんと大きく跳ねて、門の上へと飛び乗る。
そしてそのまま、二つの風を飛び越えて。
ミセ %−゚)リ「ッ!」
(‘_L’)「どう、した」
ミセ %−゚)リ「おやっさん! 一匹門飛び越えた! 追っ掛けるからここお願いできる!?」
(‘_L’)「任せろ、行け」
ミセ %−゚)リ「行ってくる!!」
師の了解を得て、みせりは踵を返して町の中を駆け抜ける。
ふぃれんくとの横を通り過ぎ、跳ねる赤を追い掛けて。
片方の小刀を、その背中目掛けて投げつけた。
「あぎゃっ!」
ミセ %ー゚)リ「っしゃ掠めた! 止まってなさいよ小鬼ぃっ!!」
- 366 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 20:59:14.45 ID:zexdK/JYO
- ( ゚∀メ)「あひゃー……?」
ミセ*%ー゚)リ「あひゃーじゃないっての、それ以上は行かせない……よ……?」
あれ、なんかこいつ。
見覚え、あるぞ?
ミセ*%ー゚)リ「…………あんた、どっかで会った?」
( ゚∀メ)「あひゃ」
ミセ*%ー゚)リ「ない……よね?」
奇妙な感覚に、不思議そうに首をかしげる。
しかし小鬼がみせりを邪魔者だと解ったのか、先程みせりが投げた小刀、出刃包丁を拾い上げた。
そして、そのままみせりの元へと、走る。
( ゚∀メ)「あっ……ひゃあぁ!!」
ミセ;%−゚)リ「うわっぶね! なにすんのよ!?」
( ゚∀メ)「あひゃひゃあひゃっ!!」
ミセ;%−゚)リ「あー? なに云ってるかわかんねっての!」
( ゚∀メ)「ひゃひゃーっ!!」
- 371 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:00:47.73 ID:zexdK/JYO
-
ぶんぶんと、包丁を振り回して襲い掛かる片目の赤き小鬼。
それを必死でかわすみせりは、鬱陶しそうな顔で小刀を振るう。
今度はみせりも人間じゃないのよ、と頭の片隅で思う。
しかしその意味は理解できず、少しだけ笑って‘片目’と対峙した。
刃同士をぶつけ合い、斬りかかる二人の力はまさに互角。
ぞくぞくと、奇妙な高揚感。
刃を交えるそいつとは、間違いなく初対面。
それなのに、何故だろう。
『やっと出会えた』
_,
ミセ;%ー゚)リ「良いぜぇ‘片目’……遊んでやるよぉおっ!!」
( ゚∀メ)「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃあッ!!」
楽しいじゃないか、おい。
- 381 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:02:47.48 ID:zexdK/JYO
- _,
ミセ;%ー゚)リ「わたしはもう一回死んだ身ぃ! 手足なんか、無くなったって平気なのよぉ!!」
( ゚∀メ)「あひゃひゃーっ!!」
_,
ミセ;%ー゚)リ「おらおらぁっ! 死ぬまでやるかぁっ!?」
( ゚∀メ)「あっひゃっひゃっひゃ!!」
_,
ミセ;%ー゚)リ「良いよ良いよかかってこいよ! 今度は互角だ! まぐれなんかじゃ負けねぇぞ!!」
( ゚∀メ)「ひゃーひゃひゃひゃっ!!」
かすり傷を幾つもこさえて、赤と白、否、赤と緑が交差する。
不思議だね初めて見た妖怪。
今までお前を待っていた様に、こんなにもこんなにも楽しいよ!
その気持ちは互いが感じる、同じもの。
楽しげに笑い合い、刃を振り回して駆け回る。
互いの手に刃が握られていなければ、ただのじゃれあいにも見えたと云うのに。
一歩飛び退いたみせり。
対峙する片目。
- 386 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:04:24.60 ID:zexdK/JYO
-
突然、片目の目がかっと見開かれ、後ろと指差す。
きょとんとしたみせりが後ろを振り返ると、その瞬間、何者かに後ろ頭を殴られた。
ぐらりと揺れる視界に、近付く地面。
後ろ頭を襲う痛みに目を見開き、顔を歪めた。
みせりの目に映るのは、茶色い地面と自分を殴った西の魍魎、そして怒りに染まる片目の顔。
邪魔しやがってと叫ぶ片目が、みせりの後ろに立つ妖怪へと斬りかかる。
と、片目を片手で、誰かが制す。
( ゚∀メ)「あ、ひゃ……?」
(´・_ゝ・`)「君は、その子とやり合うべきだ」
_,
ミセ;%−゚)リ「……むじな……?」
(´・_ゝ・`)「君達は、其処で決着を付けると良い……
……門は彼奴に、その取りこぼしは……私に任せろ」
( ゚∀メ)「……あひゃ?」
- 391 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:06:51.82 ID:zexdK/JYO
- _,
ミセ;%ー゚)リ「……おっとこまえじゃん、旦那」
(´・_ゝ・`)「惚れたか」
_,
ミセ;%ー^)リ「ぜーんぜん!」
( ゚∀メ)「ひゃ?」
_,
ミセ;%ー゚)リ「ほら片目、続きだよ……後ろは任せたぜぇ旦那ぁ!」
(´・_ゝ・`)「ああ、その代わり、死にかけたら手は加える」
_,
ミセ;%ー゚)リ「誰が死ぬかよぉ! ほら行くぜ片目ぇっ!!」
( ゚∀メ)「……あっひゃっひゃっひゃ!!」
小刀を構える白稚児に、包丁を構える小鬼。
それを眺めながら、笑いながら、狢は鉛玉を撃ち飛ばす。
まるで奇妙な関係と、その状況。
しかし、其処に居る全員が笑っていた。
- 393 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:08:27.05 ID:zexdK/JYO
-
提灯掲げておっかなびっくり、町を歩く大小の人影。
前を歩くのは小さな娘、鎌鼬の末っ子でぃ。
その背中を追い掛けるのは、医者である狸のたから。
先へ先へと進むでぃを追い掛けるたからの方が、でぃよりも辺りを気にしていて。
情けないなあ、なんて心の端で思うものの、でぃはくすくすと笑うだけ。
(,,^Д^)「で、でぃさん……あんまり先に行っては……」
(#゚;;-゚)「なに云うてるの……見回りやねんから、はよ行かんと……」
(,,^Д^)「で、でも、あの、もう少しゆっくり……」
(#゚;;-゚)「んもー……んなこと云うてたら朝になってまうよぉ……まだなんも見てへんし、大丈夫よ」
(,,^Д^)「あうう……」
(#゚;;-゚)「……なんや出ても、うち守ってくれへんの?」
(,,^Д^)「まっ、守りますよ! 守ります!」
(#゚;;-゚)「ほんならはよ行こ」
(,,^Д^)「う……」
- 407 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:11:15.94 ID:zexdK/JYO
-
幼いでぃは外見よりもずっと大人びており、恐怖も感じず先に進む。
が、その小さな背中に隠れる様に歩くたからは、大きな体に似合わぬ程の臆病さ。
いつでも優しく礼儀正しく装ってはいるが、その中身はおどおどいじいじの泣き上戸で絡み上戸。
全く困ったものだと肩を竦めるでぃには気付かずに、風が立てる物音一つにも肩をびくつかせる。
いっそ、泣いてしまえば強いのになあ。
あの時、助けてくれた時も、泣き始めてから強さを見せた。
だからこの人は、本当はすごく強い人のはずなんだ。
本人は全く気付いてないし、確かにへっぴり腰で臆病だけど。
根っこにある力はお兄さんと対等に渡り合えるほど。
そしてお兄さんより臆病だからこそ、あまりあるほどの優しさを持つんだ。
本人がその強さを自覚してないから、こうなのだけれど。
(#゚;;-゚)「はー……うちがもっと、しっかりしとったらなぁ……」
(,,^Д^)「はひ?」
(;#-;;-)「なんもあらへーん……」
- 411 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:12:41.83 ID:zexdK/JYO
-
あれは何年前かな。
確か、まだ西の都近くに住んでた頃だ。
姉と兄が働きに出た時、まだ鎌鼬としての仕事が出来るほどの力を持っていなかった時。
一人でその辺をぶらぶらして、蟲のお姉さんに遊んでもらったりして、暇を潰していた。
お姉さんは、この西には怖い妖怪もたくさん居るから、遠くに行っちゃいけないよ、って。
でもその約束を破って、つい、西の森の方へと行ってしまった。
今よりずっと幼かった、今でも幼いけれど、妖怪は老いるのが遅い。
こんな格好だけれど、本当はもう人間と同じ時の流れで考えれば、二十歳をゆうに過ぎてるんだから。
幼かったからこそ、西の妖怪の怖さなんて知らなかった。
どうせ自分も妖怪だし、お仲間には優しいだろうって、あまっちょろい考えで。
でも、現実って、そんなに甘くなかったよ。
森に入ってすぐに、あっという間に、怖い人たちに囲まれてしまった。
怖い人たちの目は、うちを食料として見てた。
そして、おもちゃを見る目をしてた。
- 413 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:14:42.78 ID:zexdK/JYO
-
思い出したくもない過去に、背中がぞくりと冷たくなる。
たからのあにさまが心配そうな顔で覗き込むから、笑って答える。
この体についた傷、なぶりものにされ、傷つけられたあの時。
最初に助けてくれたのは、たからのあにさまじゃない。
『何を遊んでるんだお前らは、それはお前らのじゃねぇだろ』
なんて、尊大な態度でしゃしゃった人の顔は、今でも覚えてる。
西の妖怪の中では、かなり上位に立つ人だったから。
男の名前は、もららー。
うちを助けて、うちを殺そうとした人。
そして、うちが一番恐れる人。
忘れたくても忘れられなかった。
綺麗な男の人だった。
でも、中身が全く見えない人だった。
助けてくれたのに、怖かった。
- 417 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:16:41.20 ID:zexdK/JYO
-
ぼろぼろになったうちを拾い上げて、都の近くに放り出したあの人は、笑う。
うちを見て、うちの血を嘗めて、笑う。
『なあ、お前は助けてほしいか?』
『お前ひとりぽっちなんだろうが、寂しいんだろ?』
『俺はお前のそばに居てやるよ? なあ、嬉しいよな? この俺が居てやるんだから』
助けてくれたけど。
あの人は、話が通じない人。
うちが何を云っても、自分の良い様にしかとらえない。
どんなに嫌がっても怖がっても、それは愛情の裏返しだととらえる。
助けてくれたのは、本当に有り難かったけど。
それから、あの人は、うちにつきまとうようになった。
あねさまでも、つうちゃんでもない、うちに。
- 424 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:18:56.52 ID:zexdK/JYO
-
あねさまやつうちゃんに云えば良かったのかも知れないけど、怪我をして帰った時、ひどく心配した。
だから、これ以上は心配かけられないし、迷惑もかけられない。
うちが我慢したら良いだけだから、そう思って、毎日の様に訪れるあの人から逃げていた。
振り返れば、そこに居る。
目が覚めたら、そこに居る。
どんなとこにいても、あの人はうちを見る。
時には押さえ付けられて、乱暴もされた。
でも誰にも云えなくて、怯えながら我慢するしかなくって。
だって止めてほしくても、本当は嬉しいんだろうって、お話にならないから。
もう我慢するのも疲れた頃に、あねさまが、東へお引っ越しすると云い出した。
うちはそれに大喜びして、急いで急いで西から離れる。
これで、あの人からも離れられる。
やっと自由になれるんや。
そう思ったのは、つかの間。
- 427 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:20:15.77 ID:zexdK/JYO
-
あの人は結局、東の町にまで訪れる様になった。
わざわざまいんち遠いところからご苦労様だと、呆れるやら感心するやら恐れるやら。
しかし東の町に引っ越してから、あねさまがぎこのあにさまと、とても仲良くなられた。
つうちゃんは嫌そうにしてたけど、うちはぎこのあにさまの、弟さまである人。
たからのあにさまと、なんだか仲良しになっていった。
もう医者として診療所を構えていたたからのあにさまと、鎌鼬の末っ子。
同じ、治す立場と云うこともあってか、何だか話しやすい相手だったのだ。
だからある時、うちはたからのあにさまに、あの人の事を話した。
するとたからのあにさまは、驚いて、でも怒って、なのに悲しそうな顔をして、うちの頭を撫でた。
よく我慢しましたね。
今まで頑張りましたね。
もう大丈夫、私が守りますからね。
私がずっと、ちゃんと一緒に居ますから。
そんな言葉が本当に、本当に嬉しくて、しがみついてわんわん泣いた。
うちを抱き締めてくれる腕は、初めて感じる暖かさだった。
- 432 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:22:16.33 ID:zexdK/JYO
-
(,,^Д^)「あの……でぃさん?」
(#゚;;-゚)「ふぇ?」
(,,^Д^)「何だか、ぼんやりしてますけど……大丈夫ですか?」
(#゚;;-゚)「……うん、平気ぃ……たからのあにさま、一緒やもん」
(*,^Д^)「え……あ、いや、あはは……」
(#゚;;-゚)(…………しっかりしてたらかっこええのになぁ……)
(*,^Д^)「大丈夫ですよ、私が守りますから!」
(『もう大丈夫、私が守りますからね』)
(#゚;;-゚)「ぁ……」
(*,^Д^)「安心してくださいでぃさん! 私はずっと一緒に居ますからね!」
(『私がずっと、ちゃんと一緒に居ますから』)
(#゚;;-゚)(…………なんや、全然変わってへんわ……)
(*#゚;;-゚)(えへ……)
- 440 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:24:28.69 ID:zexdK/JYO
-
うちの元に訪れたあの人に向かって、たからのあにさまは毅然とした態度で云い放つ。
『でぃさんは嫌がってると、何で解らないんですか!? でぃさんはあなたの物ではありません!!』
その直後、物凄く簡単にぶっ飛ばされてたけど。
でもたからのあにさまは起き上がって、うちを庇って立つ。
何回ぶっ飛ばされても、何度も何度もあの人に怒鳴り付けて、うちを守ろうとしてくれて。
あんまりにも殴られるものだから、たからのあにさま泣き出しちゃって。
必死で涙を袖で拭って、それでもぼろぼろ涙を溢して。
うちはあの人が怖いやら、たからのあにさまに驚くやらで、よく聞こえてなかった。
けど、二人は何かを話していて、たからのあにさまは拳を固く握り、震わせて。
たからのあにさまは、目一杯に、何かを叫んだ。
その何かは覚えてないけど、その瞬間、そこらじゅうから鬼火が舞い上がったのは覚えてる。
その鬼火は全てあの人へと向かい、炎の塊となって、あの人を包み込んだ。
そして気が付いたら、うちとたからのあにさまは、ぎこのあにさまのお家で寝ていたと云う。
……いったい、何があったのやら。
- 447 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:26:31.01 ID:zexdK/JYO
-
(#゚;;-゚)「……たからのあにさま」
(,,^Д^)「はい?」
(#゚;;-゚)「ほんまは、強いんやろ?」
(;,^Д^)「は? ……い、いえ……強いのは私じゃなくて、兄で……」
(#゚;;-゚)「でも、鬼火ぶわーって、出しやったよ?」
(;,^Д^)「??? ……い、いつ……?」
(#゚;;-゚)「ぇ……あの、あの人と色々あった時……」
(;,^Д^)「あー……あーあー、あれか……実はその、あの時の事、ほとんど覚えて……」
(;#゚;;-゚)「なん、やと……」
(;,^Д^)「いや、その……申し訳ない……」
(;#゚;;-゚)「……わ、忘れてしもとるん……?」
(;,^Д^)「はい、実は……そうなんです……」
(;#゚;;-゚)(そら自覚できんわ……)
- 452 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:28:42.33 ID:zexdK/JYO
-
(#゚;;-゚)「そっか、忘れてるんや……」
(,,^Д^)「すみません……泣いた事は覚えてるんですが……」
(#゚;;-゚)「何でよりによってそこだけを……もうちょっと覚えとこうやぁ……」
(,,^Д^)「あの……私、泣きながら何かしたんですか?」
(#゚;;-゚)「あ、や、まぁ……その」
(,,^Д^)「兄からもよく、お前は泣き出すと手におえないって云われてて……我を失うみたいで……」
(;#゚;;-゚)「昔からなんや、それ……」
(;,^Д^)「ら、らしいです……すっくり覚えてないんですけど……」
(;#゚;;-゚)「えらい、困った癖やなぁ……うちもよぉ覚えてないから、聞きたかったのに……」
「じゃ、俺が教えてやるよ」
(#゚;;-゚)「…………ぇ?」
(;,^Д^)「なっ……あな、た……!?」
( ・∀・)「よ、久し振り獣共」
- 455 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:30:50.71 ID:zexdK/JYO
-
( ・∀・)「ッたく先刻から見て聞いてりゃべたべたべたべた鬱陶しいったらねえや」
(;,^Д^)「…………」
( ・∀・)「おい何とか云えっての、あん? この俺を馬鹿にしてんの?」
(;,^Д^)「……馬鹿になんか、してません」
( ・∀・)「ふーん、あっそ、んじゃお前があの時何てったか、教えてやろうか?」
にやにやと笑う、長髪の男。
整った顔立ちではあるものの、暗く濁った目の奥には何も見えない。
あの六目も義兄弟である男、もららー。
それは黒衣を纏い、長い髪を一つに束ねる非常に綺麗な男だった。
にやにやと笑みを一定から動かす事はせず、ただ濁った目でたからと、その影に隠れたでぃを見る。
( ・∀・)「お前はあの時さ、でぃさんは僕が守るんだって叫んでたんだよ。僕だってさ、僕、ははっ」
(,,^Д^)「……それで?」
( ・∀・)「あん……? なっんだよ、怒らないのか、つっまんねぇの」
(,,^Д^)「怒る理由が解りかねますね、それより其処を退いてください、見回りの途中ですから」
- 461 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:32:39.71 ID:zexdK/JYO
-
( ・∀・)「あー? 誰が退くかよ屑が、調子に乗るなっての豆狸」
(,,^Д^)「…………じゃ、さっさっ何処かに行って下さい」
( ・∀・)「怖いからかぁ?」
(,,^Д^)「でぃさんが怖がりますから」
( ・∀・)「てめえが怖いのをそれの所為にすんの? へー、良いご身分だなあおい」
(,,^Д^)「どうとでも、私はあなたほど心が狭くはありませんから、どうぞお好きに」
( ・∀・)「チッ……お前、ほんっとにうざったらしいな……」
(,,^Д^)「そうですか、すみません」
( ・∀・)「……苛々すんなあお前、豆狸の癖によぉ……それ俺から奪ったり、ふてぶてしかったり……」
(,,^Д^)「それ……?」
( ・∀・)「俺のなんだ、それは俺のなんだよ、なあ、狸……そのがきは俺のなんだよ」
(,,^Д^)「……でぃさんは、あなたの物ではありません、そもそも、物ではありませんから」
( ・∀・)「いいや俺の物だよ、それは俺のなんだ、それなのに、お前が横からかすめとったのさ」
(,,^Д^)「そんな事は知りません、でぃさん、診療所へ戻っておいてください」
- 467 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:34:27.42 ID:zexdK/JYO
-
( ・∀・)「あは、お前にそれが守れるかあ? 臆病者の豆狸、兄貴の後ろに隠れて泣いてろよ?
大体さあ、あの時だって……俺を退かせたのはお前じゃなくて、お前の兄貴なんだよ」
(,,^Д^)「……だと思っていましたよ、私は、傷を治すしか能の無い狸ですから」
( ・∀・)「あは、あはは、良いじゃん、物分かり良いじゃん?
じゃあさ、そこ退けよ? お前にはそれは守れないし、それは俺のだし」
(,,^Д^)「でもね…………私はもう子供ではありません、愛しい人くらい、この手で守ってみせます」
( ・∀・)「……あー? 何それ、うざったらしい、鬱陶しい、腹立つ
愛しい人とか何? お前そのちび好きなの? あは、とんだ変態だねお前」
(,,^Д^)「あなたがそれを云いますか」
( ・∀・)「あー……あーあー、確かに、そいつの処女奪ったの俺だしな」
(,,^Д^)「ッ……」
( ・∀・)「あは、あはは、信じる? 信じちゃう? お前の後ろでいやいやしてるけど?
お前そいつが綺麗な身だと思ってた? あはっ、六目にやらした奴と一緒だな、馬鹿だ」
(,,^Д^)「…………それ以上、でぃさんを侮辱するな」
( ・∀・)「あっは、泣きながら揺さぶられてたの痛かったー? なあ、良かったかあ? なあちび?」
- 474 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:36:46.56 ID:zexdK/JYO
-
(,, Д )「…………」
( ・∀・)「なあなあ? 今どんな気分なわけ? 申し訳ないけどさあ、俺のは本当なんだよね?
あいつのは口からの出任せだったけどさ? 俺は本当にそれ壊そうとしたよ?
だってさだってさ、それって俺のだよ? 壊しても良いよな? 俺のだしさ?」
(,, Д )「…………黙れ……」
( ・∀・)「……あ? なんつった、豆狸?」
(#,, Д )「黙れ外道がァアアアアアアアアアアアッ!!!!」
( ・∀・)「あはっ! あははっ! 良いじゃん良いじゃん! 怒れるじゃん豆狸!!
ほらもっと怒れよ! それは俺に汚された後だしその傷の内、幾つ俺がつけたと思う!?」
(#,, Д )「黙れ黙れ黙れぇえッ!! それ以上でぃさんを侮辱するなぁああああぁああああッ!!!!」
( ・∀・)「あっは、怒っても怒る理由はそれを侮辱するからなんだ? じゃあもっと云おうか?」
(#,, Д )「それ以上でぃさんを侮辱するならッ!! その口を引き裂いてでも止めてやるッ!!!!」
( ・∀・)「あは、やってみろよお豆狸! 良いじゃん良いじゃん、楽しいじゃん!?
じゃあ俺はお前ブッ潰してからさ!! あのちびをまたブッ壊してやるからさぁああああッ!!!!」
(#,, Д )「やらせるかぁああぁあああああああああああああッ!!!!」
- 481 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:38:33.39 ID:zexdK/JYO
- 珍しく、怒りに燃える狸のたから。
地を蹴って、固く握った拳を振り上げる。
それを心から楽しそうに笑い、挑発するもららー。
たからの拳を軽く受け流して、その腹へと膝を叩き込む。
げふ、と息を吐くも、すぐに体勢を建て直してもららーを睨んだ。
けれどもららーはそれすらも、けらけらと笑って見るばかり。
二人から離れた場所で、己の肩を抱いて震えるのは、幼い鎌鼬。
思い出したくもない過去を抉られ、その痛みに涙を浮かべる。
だが、自分の事で怒り狂うたからの姿が、嬉しいのに悲しくて。
(#,, Д )「でぃさんを……でぃさんをこれ以上、傷付けるな……ッ!!」
( ・∀・)「あー? 既に傷物だぜそれ? 今さらだろ? もうぼろぼろじゃん?」
(#,, Д )「煩い煩いッ! お前なんかに……お前なんかに、でぃさんは汚させないッ!!」
( ・∀・)「だーからさあ? ……もう汚れてんの、それ、解んないの? 馬鹿じゃん?」
(#,, Д )「それは所詮過去でしかないッ!!
今のでぃさんは……ッ今のでぃさんは! 私のものだぁあああっ!!」
(#゚;;-゚)「ッ!」
- 491 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:40:55.76 ID:zexdK/JYO
-
( ・∀・)「……へーえ、お前、あれは物じゃないつってたのに? つか、俺のだって」
(#゚;;-゚)「うちは」
( ・∀・)「…………あ?」
(#゚;;-゚)「うちは、あんたなんか、だいっきらいや」
( ・∀・)「……へえ」
(#゚;;-゚)「うちは、たからのあにさまのものや、あんたのもんやない」
( ・∀・)「たからのあにさま、ねえ……この弱虫泣き虫根性無しが、そんなに良いの?」
(#゚;;-゚)「泣き虫でも弱虫でも、あんたよりずっとずっと優しい」
( ・∀・)「それが何になるの? あ、優しくやってほしかったの? じゃあ云えば良かったのに」
(#゚;;-゚)「たからのあにさまは、あんたより、ずっとずっとずうっと……ええ男やよ」
( ・∀・)「……へーえ……ふーん…………苛つくなあ、どいつもこいつも……」
(#゚;;-゚)「……もっかいだけ云うたる…………うちは、あんたなんかッ! だいっきらいやっ!!」
( ・∀・)「…………」
- 497 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:42:22.74 ID:zexdK/JYO
-
(#,, Д )「……でぃ、さん」
(#゚;;-゚)「うちのために、怒ってくれて……おおきに、あにさま」
(#,, Д )「……」
(#゚;;-゚)「うちは、あなたのもの、他の誰でもない、たからのあにさまのものや」
(#,, Д )「でぃさん、私は……」
( ・∀・)「も、良いや」
(#゚;;-゚)「……」
( ・∀・)「二人とも、殺せば良いや、それからちびを犯せば良いし、だから死ねって、な?」
(#゚;;-゚)「誰があんたの…………ぇ?」
でぃの腹に、何かが叩き付けられた。
その衝撃に目を見開き、恐る恐る、腹を見下ろす。
すると其処には、一本の刀が、深々と突き刺さっていて。
- 507 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:44:20.14 ID:zexdK/JYO
-
(#゚;;-゚)「ぁ……ぐ、ぅあ……」
こぷりと血を吐き、体が前のめりに崩れ落ちる。
倒れまいと必死に足を踏ん張り、何とか膝立ちの状態を保つと、自分の腹に刺さる刀を握った。
お腹が熱い。
熱くて痛い。
冷たい汗が背中を伝い、目の前が歪んだ。
大丈夫、大丈夫、妖怪だから、簡単には死なない、大丈夫。
でも、いたい、痛みは強い、鎌鼬の軟膏は、着物の袂にある、早く引き抜いて、塗れば。
痛みに咳き込み、何かを叫ぶたからの声が遠い。
それに混じって、めきめきと、変な音がする。
音の方へと、痛みに歪む顔を向けた。
そこには、そこには、ああ。
( ・∀ ∀・)
本来の姿に、形を変える、もららーの姿。
- 515 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:46:42.22 ID:zexdK/JYO
-
四本の腕に、二つの顔。
奇形と云うに相応しいその姿は、両面宿儺のもららー。
ああ、刀は、彼が放ったのか。
そう思うが早いか、もららーが動くのが早いか。
でぃの体は、もららーの手により、軽々と持ち上げられていた。
( ・∀ ∀・)「お前がさ、ちゃんと俺を見れば良かったのにな、そしたらこんな目に会わなかった」
(# ;;- )「あっ……が、……っ」
( ・∀ ∀・)「お前が俺を怒らせちゃうから、嫌いなんて云うから、二人とも死ぬんだよ」
(# ;;- )「ぐ、ぇ……っ……」
( ・∀ ∀・)「なあ、なあ? ……俺のこと、好き? なあ、なあ、なあ?」
(# ;;- )「…………」
( ・∀ ∀・)「なあ、好きだよな? なあ?」
(# ;;- )「……だいっ……きらい…………あんたなんか……」
( ・∀ ∀・)「…………あっそ、んじゃ、殺してから犯す」
- 518 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:48:22.68 ID:zexdK/JYO
-
(;, Д )「でぃ……さん……」
( ・∀ ∀・)「そこで見てろ、豆狸、お前の愛する人を殺すよ?」
(;, Д )「め…………や、め……やめろおおぉおおおおぉおぉぉおッ!!」
( ・∀ ∀・)「誰が、止めてやるかよ、俺を嫌う奴は、みんなみんな死ねば良いんだ
だからこいつも殺すし、お前も殺す、俺を否定するやつは、みいんな殺してやるよ」
(;, Д )「でぃさんは……っでぃさんはぁあっ!!」
(,,;Д;)「僕がッ!! 守るんだぁああああぁああああああああああああああッ!!!!」
( ・∀ ∀・)「ッ!」
大粒の涙がぼろぼろと、たからの目からこぼれ落ちる。
その涙は地面に落ちる直前に、ぽ、と鬼火へと姿を変えて。
大量の鬼火が、ぶわりと舞い上がる様に、たからから放たれた。
- 533 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:51:16.22 ID:zexdK/JYO
-
もららーを襲う、炎の塊。
咄嗟に鬼火から身を守ろうとでぃを前へと突き出すが、
鬼火はでぃを通過して、もららーだけを包み込んだ。
炎に包まれるもららー。
それでも尚、涙を流すだけ生まれ、溢れ返る鬼火。
体を包む炎に吼えるもららーの隙をついて、でぃが手から逃れ、腹から刀を引き抜いた。
そしてその刀を、もららーの腹へと、深々と突き刺す。
(# ;;- )「あんたなんか……あんたなんかっ! だいっきらいやぁああっ!!」
目一杯ひねり出した声。
精一杯の抵抗に、両面宿儺は血を吐く。
その場に転がり、のたうち回る哀れな姿を一瞥し、ふらふらとたからの元へと走った。
- 536 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:53:33.07 ID:zexdK/JYO
- (#゚;;-゚)「あにさま……ったからのあにさまっ!」
(,,;Д;)「でぃっ……さん……! でぃさん……っ!!」
(#゚;;-゚)「大丈夫、大丈夫やから……うち、簡単には死なへんから……もう、泣かんで……」
(,,;Д;)「ごめんなさい……っまた、また……でぃさん、傷……っ!」
(#゚;;-゚)「平気、平気やから……大丈夫やから……泣かんといて……」
泣きじゃくるたからを抱き締めて、頭を撫でる。
どちらが子供か解らぬその光景、たからはでぃに腕を回し、しがみついて涙をこぼす。
大丈夫、大丈夫、繰り返しながら血を吐いて、たからを強く抱き締めた。
それに応えるように、たからもでぃを抱く腕に力を込める。
ああ、この人は、怒りに流す涙を鬼火に変えるのか。
そして、それを制御出来ない。
だからこの人のお兄さんは、手におえないと云うのだろう。
一度泣き始めたらなかなか止まらないから、気絶なんかをさせて止めていたんだな。
やっぱり、あなたは強いよ、あにさま。
でぃを、守ってくれたよ。
だから、だから、
- 542 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:55:25.51 ID:zexdK/JYO
-
(# ∀ ∀ )「そう簡単に……終わらせるかよぉおおおおぉおおおッ!!!!」
(;#゚;;-゚)「ッ! まだ、生きて……ッ!?」
(# ∀ ∀ )「糞が、糞が、糞がぁああっ!! 両面宿儺を簡単に殺せるかぁあああああッ!!」
(;#゚;;-゚)「まだ、薬塗ってへんのに……ったからのあにさま、逃げよ……っ!」
(,,;Д;)「ぁ……っ、ああ……っ!」
(;#゚;;-゚)「あかん……まだ正気に戻ってへん……ど、しよ……」
(# ∀ ∀ )「其処に固まってろ獣共ぉ……なぶり殺してやるよぉおおおおおッ!!!!」
四本の腕を伸ばし、全身に火傷を負いながら、こちらへと歩み寄る両面宿儺。
その顔は、綺麗だった顔立ちの面影はなく、無惨に焼け爛れている。
たからは動けず、でぃは傷を負い、元より戦う術など持たない。
万事休すかと目を瞑り、たからを抱いたまま身を固くした。
その時、何かが落ちる音を聞いた。
- 549 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:56:46.05 ID:zexdK/JYO
-
少し待っても、もららーの近付く気配を感じない。
罠かと思いつつも、恐る恐る瞼を持ち上げる。
すると、そこに広がる光景は。
(*゚−゚)「……それ以上、妹を怖がらせたら承知せぇへんよ」
(#*゚∀゚)「ようやってくれたな、くそったれが……」
両面宿儺の、切り落とされた腕。
そして、愛しい愛しい、我が家族。
(#゚;;-゚)「あね……さま…………つうちゃん……?」
(*゚ー゚)「よう頑張ったね、でぃちゃん」
(*゚∀゚)「そこの腰抜けも、ようやったやないか」
- 553 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 21:58:29.79 ID:zexdK/JYO
-
(#゚;;-゚)「助けに、来て……?」
(*゚ー゚)「たからさんの声、聞こえたから」
(*゚∀゚)「行くしかないやろ、妹の危機や」
(# ;;- )「あねさま……つうちゃん……っ!」
(*゚−゚)「泣くのは後にし、今ははよ薬塗って、たからさんを正気に戻し!」
(*゚∀゚)「それまで、俺らがこいつを切り刻んだるわ!」
(つ;;- )「うん……うんっ!」
(*゚ー゚)「ええ子、…………行くよ、つうちゃん!!」
(*゚∀゚)「おうさぁ! あねさまァッ!!」
たん、と風の様に飛び上がる鎌鼬。
姉は鈍器の如く変化した尾を用いて、がら空きの足元を狙う。
そして転ばされたそれに、兄の鎌が襲い掛かる。
- 560 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:00:18.98 ID:zexdK/JYO
-
転ばせて、斬り付け、また転ばせて、斬り付けて。
薬役の居ない鎌鼬、最後の大仕事。
それは家族を守る為の、戦いと云う名の一方的な暴力。
しかしそれに、躊躇う事はしない。
こいつが、可愛い妹を散々傷付けた張本人なのだから、誰が手加減などするものか。
気付いていないと思ったのだろう。
けれど、気付いていても、云えるわけがなかった。
だから、今こそ
(#*゚−゚)「でぃちゃんを傷付けたその罪を…………彼岸の底で悔いるがええッ!!」
(#*゚∀゚)「俺らの可愛い家族をようも傷付けたなぁ……楽に死ねる思うなやぁああッ!!」
全ての怒りを、ぶつけにぶつけてやろうではないか。
- 569 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:02:28.78 ID:zexdK/JYO
-
(,,゚Д゚)「おい、おいちび」
(#゚;;-゚)「ぁ……ぎこさま……」
(,,゚Д゚)「それ、また泣いたのか……ったく、ほれ貸せ、泣き止ませる」
(#゚;;-゚)「う、うん……」
(,,゚Д゚)「そいっ」
(,,;Д;)「もるすぁっ!?」
(,,゚Д゚)「ほれ、泣き止んだぞ」
(;#゚;;-゚)「き、気絶やん……」
(,,゚Д゚)「これが手っ取り早いんだよ、おい手前ら! 殺したら内藤のがきに怒られるぞ!」
(*゚−゚)「せやけど……殺さな気ぃ済まん……」
(,,゚Д゚)「意外と云うな手前……まあほら、そんな時ャあれだ」
(*゚∀゚)「あれ?」
(,,゚Д゚)「死ぬよりも、恐ろしい目に会わせてやりゃあ良いんだよ」
(;#゚;;-゚)「ぎこさま……」
- 576 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:04:03.54 ID:zexdK/JYO
-
(,,゚Д゚)「もうずたぼろじゃねェか、後は儂に任せろ、こいつらを頼むぞ」
(*゚−゚)「むー……わかった……」
(,,゚Д゚)「よしよし、おい両面宿儺、こっちこい」
(#メ)∀ メメ∀(#)「ぁ……?」
(,,゚Д゚)「儂が、この世の地獄を見せてやる…………狸の大将を舐めんなよ」
(#メ)∀ メメ∀(#)「ぇ……ぁ゙」
「おら死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「結局かよぉおおおおおおおおおおお!!?」
(#゚;;-゚)「……たーまやー」
(,,^Д^)「う、ううん……」
(#゚;;-゚)「あ、たからのあにさま起きた」
- 583 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:06:13.52 ID:zexdK/JYO
-
(,,^Д^)「私は……?」
(#゚;;-゚)「あの人、やっつけたんよ」
(,,^Д^)「兄がやっつけてる様に見えますけど……」
(#゚;;-゚)「でも、守ってくれた……おおきに、あにさま」
(*,,^Д^)「あ…………え、えへ」
(*゚∀゚)(……もうええわ)
(*゚ー゚)(お邪魔したら、悪いかな?)
(*゚∀゚)(知らん、もういこか)
(*^ー^)(うふふ……荷担しよかな、ぎこ様に)
(;*゚∀゚)(あねさま……)
(#゚;;-゚)「あねさま、つうちゃん……ここはぎこ様に任せて、行こう?」
(*゚ー゚)「せやね、いこっか」
(*゚∀゚)「それ頼んだぞー」
(,,^Д^)(なんか、よく解んない内に終わった気が……)
- 587 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:08:28.57 ID:zexdK/JYO
-
(´<_`#)「ぅおらぁああああ!!」
∬´_ゝ`)「よっ、膝折りっと」
l从・∀・ノ!リ人「えたーなるふぉーすぶりざーどなのじゃー!」
(;´_ゝ`)「妹者……それ、死ぬから……」
l从・∀・ノ!リ人「死なないのじゃ! たぶん!」
(;´_ゝ`)「たぶん……」
∬´_ゝ`)「えたーなるふぉーすぶりざーど、か……そう云えば、蟻ちゃん大丈夫かしら」
(´<_` )「ひいとか? あれはまあ大丈夫だろ」
∬´_ゝ`)「だろうけどね、力加減出来るかって事で」
(´<_` )「あー……勢い余って殺しそうだしな……」
( ´_ゝ`)「しかし、殴っても殴っても沸いてくるな……」
(´<_` )「兄者は加減し過ぎだ」
- 594 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:10:06.74 ID:zexdK/JYO
-
l从・∀・ノ!リ人「姉者、蟻さん心配なのじゃ?」
∬´_ゝ`)「ええ、良い子だからね」
l从・∀・ノ!リ人「んー……妹者もぺにさすおねーさま心配なのじゃー……」
∬´_ゝ`)「ああ、鬼の人ね、優しいんだっけ?」
l从・∀・ノ!リ人「ん! すっごく優しいのじゃ! いじめられてないか心配なのじゃ!」
∬´_ゝ`)「大丈夫よ、あの人には旦那さんも居るから」
l从・д・ノ!リ人「なら良いんだけどー……怖がりさんだから心配なのじゃー……」
∬´_ゝ`)「これが終わったら見に行けば良いわ、ね?」
l从・∀・ノ!リ人「うんなのじゃー!」
( ´_ゝ`)「…………」
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者、どーしたのじゃー?」
( ´_ゝ`)「あ、うん……ちょっと……」
∬´_ゝ`)「誰か心配な人でも居るの?」
- 601 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:12:08.71 ID:zexdK/JYO
-
( ´_ゝ`)「ああ……ちょっと、な……」
∬´_ゝ`)「父者と母者なら元気そうに向こうで暴れてるわよ」
(;´_ゝ`)「いや、それは心配してない……」
∬´_ゝ`)「おじ様も元気そうだし、末者なら南で見てもらってるわよ」
(;´_ゝ`)「いや、それも心配してない……」
∬´_ゝ`)「じゃあ何が心配なのよ?」
( ´_ゝ`)「……いや、あの……よく泣くから……」
∬´_ゝ`)「彼女でも出来たの?」
( ´_ゝ`)「彼女は居ないけど……うん……」
∬´_ゝ`)「何よ気持ち悪いわね……片想い?」
( ´_ゝ`)「なの、かな…………男だけど……」
∬´_ゝ`)
( ´_ゝ`)
- 610 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:14:16.12 ID:zexdK/JYO
-
∬´_ゝ`)「大丈夫、私はそう云うのにまあまあ寛容だから……」
(;´_ゝ`)「……あの、勘違いしてないか……?」
∬´_ゝ`)「年頃の男子には、まあよくある事だろうし……」
(;´_ゝ`)「と、年頃でもないけど……別に男色ではないぞ……?」
∬´_ゝ`)「何だ違うの?」
(;´_ゝ`)「弟を勝手に男色にしないでくれ……友達的な、あれだから……」
∬´_ゝ`)「ふーん、まあ心配なら後で見てらっしゃいな」
( ´_ゝ`)「ああ……そうする」
∬´_ゝ`)「私も蟻ちゃん見に行こうかしら、あの子と相性良いのよね」
( ´_ゝ`)「姉者も、友達か……」
∬´_ゝ`)「ま、そんな感じね」
( ´_ゝ`)「そっか……大事にしろよ、姉者」
∬´_ゝ`)「云われなくても」
- 618 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:16:35.20 ID:zexdK/JYO
-
(´<_` )(みんな心配な人が居るんだな……まあ、俺も……)
(´<_` )
(´<_` )(俺も……俺…………も……?)
(´<_` )(心配な人……内藤辺りは大丈夫だろうし……毒婦の君も大丈夫だろうし……)
(´<_` )
(<_宦@)
(<_宦@)(心配な人……いねぇ……)
( ´_ゝ`)「弟者、どうした……?」
:(<_宦@):「ちくしょおおおおおおおおお!!!!」
(;´_ゝ`)!?
:(<_宦@):「どうせ俺はろんりねすじゃあああああああああああ!!!!」
(;´_ゝ`)「お、弟者? 弟者!?」
:⊂(;<_;⊂):三=-「うおおおおおおみんな砕け散れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
(;´_ゝ`)「弟者! さいこくらっしゃーするな!! 弟者あああああああ!!?」
- 625 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:18:58.32 ID:zexdK/JYO
-
-=三ノハ#゚听)⊃「ちぇすとぉおおおおおおお!!」
ノハ#゚听)宦uまだまだああああああああ!!」
ノハ#゚听)「そいやあああああああああ!!」
町の中、襲い掛かる妖怪を千切っては投げ千切っては投げる小さな妖怪。
その姿は小柄な小娘、赤い髪をした黒衣を纏う小さな怪力、蟻のひいと。
ひいとはその辺に落ちていた柱程もある木材を拾い上げ、それを振り回して妖怪共を薙ぎ倒す。
時にはそれを投げ付けて、飛び付いて、殴り飛ばして踏みつける。
小さな体からは想像も出来ない怪力ひいとの拳は、くろがねの板すらもを容易く貫く。
予想だにしない脅威に妖怪共が逃げる隙を与えずに、ひいとはそれらを次々に薙ぎ倒すばかり。
- 629 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:20:33.13 ID:zexdK/JYO
-
ノハ#゚听)「おねーさまがこさえたこの町をぉ!! 荒らす事は!! このひいとが許さん!!!!」
「おねーさま……って、まだそう呼んでんのか」
ノハ#゚听)「何奴!! しね!!」
(…∀…)「いや待て、いきなり死を願うな」
ノパ听)「…………六目……だと……?」
(…∀…)「おう、覚えてたのか蟻ん」
ノハ#゚听)「しね!!!!」
(;…∀…)「お前さ……話くらい聞けよ……」
ノハ#゚听)「うっさいだまれ!! お前の所為でおねーさまがどれだけ悲しんだ事か!!」
(…∀…)「……ふん、お前もおねーさま至上主義かよ」
ノハ#゚听)「しね!!!!」
(;…∀…)「脊髄反射で死ねって云うなや……」
- 640 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:22:37.30 ID:zexdK/JYO
-
ノパ听)「だいたい何しに来たお前、帰れ」
(…∀…)「何って、町をぶっ壊しに来たんだよ」
ノハ#゚听)「帰れ!! 馬鹿!!」
(;…∀…)「語彙が貧相すぎるだろ、お前……」
ノハ#゚听)「ひいとはな!! お前が嫌いだ!!、普通に嫌いだ!!」
(;…∀…)「ああ、うん……いっそ清々しいけど……」
ノハ#゚听)「だから帰れ!! あるいはしね!!」
(;…∀…)「あー……もう、めんどくせえなお前……」
ノハ#゚听)「お前のがめんどくさいよ!! どーてー!!」
(;…∀…)「そんな言葉どこで覚えたんだよ……」
ノハ#゚听)「きゅうとが云ってた!!」
(#…∀…)(あのアマ……)
- 646 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:24:28.30 ID:zexdK/JYO
-
(…∀…)「あーとにかく、俺は町を壊す」
ノハ#゚听)「何で!!」
(…∀…)「あの女を苦しめたいから」
ノハ#゚听)「くっだらねぇ!!」
(…∀…)「……あのな、ずんばらばっさり云うの止めろ、論破に近いからそれ」
ノハ#゚听)「お前! 自分が幸せじゃないからとか云ってるがな!!
幸せになる努力もせずに!! なれるかそんなもん!!!!」
(…∀…)「…………あーもう、うっせうっせ、黙ってろ蟻ころが」
ノハ#゚听)「黙るのはお前だ!! ひいとが此処に居る限り、お前の好きになんぞさせるかああああ!!!!」
(…∀…)「はん、なら俺を止めてみやがれ蟻ころが!
この土蜘蛛六目様が、お前みてえなちびにやられるかよぉ!!」
ノパ听)「…………あ?」
(…∀…)「あん? ……んだよ」
- 653 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:26:32.90 ID:zexdK/JYO
-
ノパ听)「お前ごときが、蜘蛛だと……? 土蜘蛛様だと……?
…………笑わせてくれるじゃないかよ……六目……」
(…∀…)「……あ? 何言ってんだ、蟻ころが」
ノハ#゚听)「蜘蛛はな、蜘蛛を名乗って良いのはな……
ッ高潔なる我らがおねーさま!!
しゅうおねーさまだけなんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
(;…∀…)「な、っんだそれ!?」
ノハ#゚听)「おねーさまの義妹たるこのひいとを前にして!!
よくまあ蜘蛛だと名乗れるな貴様ああああああああ!!
良い度胸だ良い根性だ覚悟は良いな蜘蛛もどきがあああああああああああ!!!!
あたしが!! 貴様を!! 噛み砕ああああああああああああああああああああく!!!!」
(;…∀…)「おいちょっと待て! 待てよおい! 何だその理屈は!?」
ノハ#゚听)「ぅお前があああああああああああああああ!!
蜘蛛などとおおおおおおおおおおおおおおおお!!
認めるものかあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
(;…∀…)「だわぁあっ!? おい止めろ馬鹿が! あぶねぇよ!!」
- 659 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:28:14.49 ID:zexdK/JYO
-
ノハ#゚听)「おねーさまを傷付けたお前なんぞが蜘蛛なわけあるかああああああああッ!!!!」
(;…∀…)「だから! んっだよその理屈!? 危ないってこっち来んな! お前の拳はやべぇよ!!」
ノハ#゚听)「このひいとがあああああああああああ!! お前を噛み砕ああああああああくッ!!!!」
(;…∀…)「わ、た、わたたっ……別に良いだろあんな女! 何がそこまで良いんだよ!?」
ノハ#゚听)「姉様を愚弄するとは笑止千万!! と云うかお前が云うかああああああああ!!!!」
(;…∀…)「ぎゃーっ!! お前の拳は流石の俺でも受け止められないんだよ!!」
ノハ#゚听)「じゃあ食らってろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
(;…∀…)「嫌に決まってるだろうがああああ!!」
ノハ#゚听)「ちょこまかと避けるなああああああ!! ちょこざいなああああああああ!!!!」
(;…∀…)「逃げるのは腹立つけ、どっ! 逃げるしかねぇぞこれ!!」
ノパ听)「逃がすかよ」
(;…∀…)「え゙」
- 667 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:30:11.10 ID:zexdK/JYO
-
ぴたりと動きを止めたひいとは、冷たく云い放ち、腹を押さえてその場で膝をつく。
突然の事に戸惑う六目は、仮面をずらして警戒する様にひいとを見る。
と、ひいとの体が、大きく波打った。
ノハ )「ごっ……ぶ……ぉ、ぐぼっぅ……」
(;…∀…)「え……ぇ?」
ノハ )「おぶっ……ぅ゙……げぼろぉぉぉぉぉぉぉ……」
(;…∀…)「吐いた!?」
ノハ )「ぇっ……げぼっ……ごぼろぼぼぼぼぼぼ……ぉ」
(;…∀…)「お、おいおい……何だ急…………に……?」
ノハ )「…………逃げ損ねたな……馬鹿めが……」
(;…∀…)「な……な、うおわぁあああああああっ!?」
ノハ ー )「そいつにまとわりつけ…………ひいとの可愛い、子供達……!!」
- 674 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:32:18.03 ID:zexdK/JYO
-
体をくの字に曲げたひいとが、口からびちゃびちゃと何かを吐き出した。
それは一見、ただの嘔吐物。
しかし吐いた物をよく見れば、それはうぞうぞと、丸く小さい何かが蠢いていて。
その正体に気付いた時には既に遅く、六目は背を向ける暇もなく
嘔吐物から孵った大量の蟻に、飛び掛かられた後であった。
足の先から侵食される様に、蟻が体を上って行く。
肌に噛み付くそれを払えども払えども、蟻の数が減る事はない。
それどころか、ひいとが何かを吐き出す度に蟻は増える。
予想もしていなかった恐怖と嫌悪感に、六目は思わず悲鳴を上げた。
そう、ひいとの先程の行動は、産卵。
卵を口から吐き出して、新たな蟻を産み出す女王蟻。
それが、可愛らしいひいとの、もうひとつの顔でもあった。
- 682 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:34:38.95 ID:zexdK/JYO
-
ノハ ー )「喰らい尽くすなよ、我が子達……殺したら、怒られるからな……」
(;…∀…)「おい、おい! 何だよこれ!?」
ノハ ー )「ひいとは蟻を統べる妖怪……蟻の卵を孵化寸前まで、腹の中で育てる」
(;…∀…)「ぎゃあああああっ! 本気で気持ち悪ぃいいッ!!」
ノハ ー )「蟲仲間だろうが…………仲良く……しようぜぇええええええッ!!!!」
蟻の大群に押さえ付けられた六目の目の前で、今度はひいとの背中が大きく蠢いた。
黒い装束の背中が裂け、薄く白い背中に亀裂が走る。
そこから、めきめきと蟲の足が飛び出して。
まるで蝉や蝶が脱皮をする様に、ひいとの小さな体を巻き込み、姿を見せる巨大な蟲。
ノハ# )「毒壺の底よりも苦しい地獄を、お前に見せてやるよ……
この、ひいとがなああああああああああああああああああッ!!!!」
ひいとの頭を持ち、家屋をも越す巨大な蟻が、咆哮を轟かせた。
- 684 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:36:19.08 ID:zexdK/JYO
-
( ^Д^)「……」
( ゚д゚ )
( ・−・ )
( ^Д^)「……ねぇ、何か喋ってよ……」
( ゚д゚ )
( ・−・ )
( ^Д^)「……」
( ゚д゚ )
( ・−・ )
( ^Д^)「つか、君……くだん? いつからそこに居たの……?」
( ゚д゚ )
( ・−・ )
( ^Д^)「……」
- 689 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:38:31.83 ID:zexdK/JYO
-
( ^Д^)「……あの…………」
( ゚д゚ )
( ・−・ )
( ^Д^)「……」
( ゚д゚ )
( ・−・ )
( 寇D)「二人して……こっち見ないで……」
( ゚д゚ )
( ・−・ )
( 寇D)「もうやだこの子ら……南に誰も来ないし……暇だし……怖いしぃ……」
- 699 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:40:32.47 ID:zexdK/JYO
-
( 寇D)シクシク
( ゚д゚ )
( ・−・ )
( 寇D^)チラッ
( ゚Д゚ )クワッ
(;^Д^)「ひっ!」
( ゚д゚ )モンクアンナラ ハタラケヨ
(;^Д^)「喋った……んまあそうだけどぉん……」
( ゚д゚ )
( ・−・ )
(;^Д^)「あの……あんま、こっち見ないで……」
( ゚д゚ )
( ・−・ )
(;^Д^)(もうやだこの空間……)
- 705 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:42:32.32 ID:zexdK/JYO
-
しゃん。
鉾に結われた鈴が、振り回される度に声を上げる。
朱塗りの鉾に銀の刀身、金の鈴、それを握るは赤毛の巫女。
巫女は境内と云う結界の中で、外を睨み冷たい汗を流していた。
从;゚∀从「はン……ひいとを町に行かせたのは、間違いだったかな……?」
四角く存在する結界。
その外には、びっしりと隙間なく蔓延る魑魅魍魎。
神社の結界を破ろうと、壁を殴る様に魍魎共は蠢いている。
この量が、一気に押し寄せれば流石のはいんも命が危ない。
不死と呼ばれる巫女も、体を壊されてしまえば命は落とす。
しかしこの量、今さら退く事はしないだろうし、こちらから駆除も出来ぬ。
結界の外に出てしまえば、たちまち喰い殺されよう。
耐えるしかない、結界を守り耐えるしか。
- 712 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:45:16.37 ID:zexdK/JYO
- 前は大した量は来なかった。
なのにまさか、今度はこんなに押し寄せるとは。
何だって神社に山ほど来るんだ、踏み入れないのだから町へと降りていろ。
そうすれば、ひいともしゅうも、みんな居るのに。
从 ゚∀从「……しゅう…………すまなかった、悪く云って」
ぽつり、結界を守る為に鉾を振る巫女はいんが呟く。
从 -∀从「母は、偉大だ……しゅう…………私は君の様になれただろうか」
母に固執する親友、しゅうとの記憶が走馬灯の様に駆け抜ける。
走馬灯は縁起が悪いな、なんて笑うけれど、結界を圧されている今、無理もない事で。
楽しかった思い出。
ひっきぃと、ひいとと、しゅうと、みんなとの思い出。
ああ、意外と満たされた糞みたいに長い人生だったじゃあないか。
これなら、そんなに悔いは───
「あはぁははぁ」
- 714 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:46:11.05 ID:zexdK/JYO
-
从;゚∀从「ッ!?」
「しゅうおねぇさまぁ……おねぇさまはどこぉ……?」
从;゚∀从「まさか……お前ッ!」
川 ゚ 々゚)「くるうはここよぉおねぇさまぁ……抱き締めてぇ……頭を撫でてぇ……」
从;゚∀从「蛞蝓、くるう……クソッ、これ相手じゃ結界なんて……ッ!」
川 ゚ 々゚)「ねぇ……おねぇさま、しらなぁい……? くるうがね、くるうが嘗め溶かすのぉ……」
从;゚∀从「は、知っていても教えるものかよ……
それよりも、神社は妖怪が入る場じゃあない、早急に立ち去るが良い」
川 ゚ 々゚)「……」
从;゚∀从「……? おい、蛞蝓……」
川 ゚ 々゚)「おねぇさま、知ってるのねぇ……?」
从;゚∀从「は、?」
川 ゚ 々゚)「教えてぇ教えてよぉお……? おねぇさまの居場所ぉ……」
从;゚∀从「いや……だから……」
- 723 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:48:06.24 ID:zexdK/JYO
-
木の枝から境内へ、べちゃりと飛び降りたのは練色の髪をした女。
頭を傾けあはあはと笑う、少女の容貌を持つそれは、神社の結界など無い様に振る舞う。
狂人くるうと呼ばれても、妖怪としての力は大した物。
はいん一人が急拵えで張った結界など、物ともせずに通り抜けてしまう。
これは不味い奴が来たな、とはいんは苦く笑う。
蛞蝓くるうは、蟻のひいとよりも話が全く通じない。
人の話など、全く聞きもしないのだ。
ただへらへらあはあはと笑い、気紛れに相手を毒で溶かす。
何を考えているか解らないくるうは、余裕がない時には厄介な相手だった。
しかし、こいつには敵意が余り無い。
西の妖怪にしては珍しく、自分から人へと襲い掛かる事はしない。
それだけが救いか。
从 ゚∀从「……しゅいは此処には居ない、出て行きなさい」
川 ゚ 々゚)「居ない、のぉ……?」
- 728 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:50:33.21 ID:zexdK/JYO
-
从 ゚∀从「居ない、ご覧の通りさ、此処には私達しか居ない」
川 ゚ 々゚)「そぉ……そぉなの……」
从 ゚∀从「嗚呼、だから早く……ッ!?」
川 ゚ 々゚)「……居ないならぁ……呼んで、くれるわよねぇ……?」
あちらへ行けと鉾を向けるはいんに近付き、そっと、その袖を掴んだ。
すると、ぬちゃ、と嫌な音をさせて握られた袖は煙を上げて、蟲に喰われた様に穴が開いた。
しぅしぅと細い煙を上げながら、溶かされる袖にはいんの目が見開かれる。
はっとした顔でくるうを見れば、其処には先程よりも笑みを濃くしたくるうが、こちらを見ていて。
川 ゚ 々゚)「呼んでぇ……くれるわよねぇ……?」
从;゚∀从「……離し賜え、装束が汚れる」
川 ゚ 々゚)「呼んでくれないのぉ……? くるうのお願い、きいてくれないのぉ……?」
从;゚∀从「きく理由が、無いのだがね」
- 734 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:52:48.27 ID:zexdK/JYO
-
川 ゚ 々゚)「呼ばないとぉ……食べちゃうわよぉ……?」
从;゚∀从「呼んでも、食べるのだろう?」
川 ゚ 々゚)「あはぁは……おねぇさま……とろかせて食べてあげるのぉ……あははぁはあは……」
从;゚∀从「ならば、呼べないな」
川 ゚ 々゚)「……どぉしてぇ? あなた、おねぇさまに嫉妬してるんでしょう……?」
从 ゚∀从「…………それは、もう過去だ、奴は私の親友だ、死にに来いとは云えん」
川 ゚ 々゚)「そぉ…………ふぅん……」
从 ゚∀从「だから、早く」
川 々 )「じゃあねぇ…………あなたを食べて……呼んであげるわぁ……!!」
从;゚∀从「な……あああああッ!?」
川 々 )「おねぇさまぁおねぇさまぁおねぇさまぁ! あはぁはははぁはははっ!!
あなたのお友だちぃ! くるうが食べてあげるぅ!! 放っておけるかしらぁあっ!?」
- 739 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:54:33.95 ID:zexdK/JYO
- ごめん 閲覧注意わすれてた
- 745 ◆XCE/Wako2nqi[ゴメンネ!] 2010/08/15(日) 22:56:11.63 ID:zexdK/JYO
-
鉾を持つ手を両手で掴み、皮膚が煙を上げて、穴が開く痛みにはいんが悲鳴を上げた。
悲鳴を聞くくるうは楽しそうにけたけたと笑って、鉾を取り落としたはいんを抱きすくめる。
べっちゃりとまとわりつく蛞蝓の毒を持つ粘液が、装束をとろかせる。
そして装束と云う薄い壁を失った皮膚が、じゅわじゅわと泡立つ様に穴ぼこだらけになり。
溶け裂けた皮膚から血が滲み、白く溶け残った装束を赤く濡らす。
生きたまま消化される様な、熱さと痛み。
長く生きてきた中で、生まれて初めて味わう痛みだった。
ぶんぶんと頭を左右に振って、獣の様に喉から悲鳴を捻り出す。
くるうはただ、抱き締めただけ。
ただそれだけの事なのに、二の腕の皮膚が、肉が溶けて骨が覗く。
甘く見すぎていた。
この蛞蝓は、敵意は少ないと。
嗚呼、慢心だ。
見開かれた目玉すらも溶けてしまいそうだ。
こいつの毒は、毒は、嗚呼、あああああ。
- 756 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 22:58:28.15 ID:zexdK/JYO
-
从; Д从「あ゙ぁああああああああッ!! うわぁ゙あ゙ああああああああああああッ!!!!」
川 ゚ 々゚)「あははぁはあは! 美味しそぉ美味しそぉ!! 巫女ちゃん美味しそぉお!!」
从; Д从「はな、せぇえぇえええぇええええッ!! がっぁあぁああああああああッ!!!!」
川 ゚ 々゚)「離したら呼んでくれるぅ!? 呼んでくれるのぉ!? おねぇさまぁあああ!!」
从; Д从「誰、がッ!! 呼ぶものかぁあああああああああッ!!!!」
左腕が、骨だけになる。
血も流れない。
背中の薄い肉が溶けて、か細い背骨が覗く。
腹からは肋骨が姿を見せる。
内臓も溶けて行く。
ぼたぼたと溶けた体が、地面に落ちる。
けれど溶け出た体に比べれば、落ちた物は少ない。
嗚呼、くるうの肌色が、良くなっている。
そうか、これは、
捕食行為、なの、か。
- 761 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:00:23.91 ID:zexdK/JYO
-
体が無くなって行く。
死は遠い、なのに体が喰われて行く。
嗚呼、死んでしまうのか。
死とは、こんなに悲惨な物なのか。
生きたまま、身体を喰われる苦しみ。
消化される、生きたまま消化されてしまう、骨も残らない程に。
くそ、くそ、くそ。
何が母だ、何が嫉妬だ。
こんなに容易く死ぬだなんて、聞いていないぞ。
私は未だ、しゅうに謝ってもいないのに、母になれたと云っていないのに。
母に、私は母になったのに。
ひっきぃの母に、やっと、なれたのに。
母と、呼んで貰えたのに。
ひっきぃ、私の息子、私の、ひっきぃ。
- 769 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:02:49.89 ID:zexdK/JYO
-
このまま私が死ねば、結界は消える。
そうなれば、本殿に避難させたひっきぃも喰われる。
そんな事、そんな事ゆるすものか。
ゆるす、ものか。
私は、母なんだ。
「母さんを離せぇええええええええッ!!!!」
あ、あ
ひっきぃ。
私を母と、認めて、
ばさりと、何かが投げ付けられた。
それは粉の様で、けれど粒子が粗くて、皮膚に突き刺さる様な痛みを呼んだ。
けれどそれと同時に、くるうの、獣の様な悲鳴が境内に響き渡ったた
- 778 ◆XCE/Wako2nqi[渡ったた(笑)] 2010/08/15(日) 23:04:42.09 ID:zexdK/JYO
-
(;-_-)「母さん! 母さん、母さんッ!!」
从; Д从「ぁ、あ゙……ひ、き……?」
(;-_-)「母さんっ! 死なないでよ、死ぬなよ母さんッ!!」
从; ∀从「ひっ……きぃ……何で、外……」
くるうが離れたはいんに、幼い少年が駆け寄り肩を揺する。
手のひらにずるりと溶けた皮膚が張り付いて、目に涙が浮かぶ。
母を捕食する、ばけもの。
もう、半分以上を消化された母。
そんな二人へと、ひっきぃは浄められた塩を叩き付けたのだ。
異様な迄の母の悲鳴に、もう隠れている事は出来なかった。
だから本殿に祀られていた塩を持って、外へと飛び出した。
自分を守る母の腹から、母を守るために飛び出して。
- 784 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:06:22.82 ID:zexdK/JYO
-
(;-_-)「死ぬなよ、死ぬなよ母さんッ!! 僕をおいて逝くなよッ!!」
从; ∀从「ひっきぃ……は、はははっ……あは……」
(;-_-)「母さん……ねぇ母さん、母さんッ!!」
やっと君に母と、呼んでもらえた。
もっと、もっと呼んで。
私を母と、呼んで。
そうしたら、私は、
「よう、やりんした、はいん」
親友の様な、偉大な母に、なれるから─────
- 792 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:08:14.51 ID:zexdK/JYO
-
从; ∀从「ぁ…………しゅ、う……?」
lw´‘ -‘ノv「ようやりんした、わっちの親友」
从; ∀从「な、あ……しゅう……私は、私は……立派に……母に、」
lw´‘ -‘ノv「ぬしさまはもう、その子の母、そしてその子は、ぬしさまの息子」
从; ∀从「は、あは……やった…………やっと、認めて、もらったよ……しゅう……」
lw´‘ -‘ノv「今は、その子の腕の中でお眠りやんせ…………わっちが、あの子を……叩き伏せるッ!!」
怒りに燃える、町の母。
偉大なる母、毒婦の君たる女郎蜘蛛。
その姿は幼い小蜘蛛のそれだけれど、燃ゆる怒りは毒婦の君のそれ。
裾の短い黒の振り袖を纏う、幼き女郎蜘蛛は、親友の無惨な姿に怒りに溺れた。
lw´‘ -‘ノv「おいで、くるう…………わっちは此処よ」
川 々 )「あはぁ……おねぇさまぁ……おねぇさまぁ……やっと会えたぁあ……!!」
- 798 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:10:21.49 ID:zexdK/JYO
-
lw´‘ -‘ノv「……わっちは、怒っておりんす、くるう……何故か、解る?」
川 々 )「迎えに来るのが、遅かったからよねぇ……? 今まで獣に囚われてたのよねぇ……?」
lw´‘ -‘ノv「…………おまえは、愚かね……くるう」
川 々 )「どぉしてぇ? 遅くなったからぁ? そんなに、怒ってるのぉ?
ごめんさぁいおねぇさまぁ……くるう、なかなか見付けられなかったのぉ……」
lw´‘ -‘ノv「……おまえは、可愛い妹……だった」
川 々 )「だ……った……?」
lw#´‘ -‘ノv「…………今は、おまえは敵でしかない……はいんよりも凄惨な地獄を見ろ……ッ!!」
川 々 )「どぉ、してぇ……? どぉして、どぉしてなのぉ!?
くるうは、こんなに愛してるのにぃ!! おねぇさまの為にぃ!!」
lw#´‘ -‘ノv「おまえの愛など要らないッ!! おまえの気持ちなど要らないッ!!
わっちの親友を喰らうお前などッ!! わっちは欲していないッ!!!!」
川 々 )「そんなっ、そんなぁあっ! くるうはおねぇさまだけを愛してるのにぃいッ!!」
lw#´‘ -‘ノv「押し付けられる愛に幸せなどが宿るものかッ!!
おまえの愛はただの利己でしかない、おまえはわっちの敵だぁああああッ!!!!」
- 804 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:12:14.46 ID:zexdK/JYO
-
たん、と地を蹴る幼い女郎蜘蛛。
愛を否定され悲しみにうちひしがれる蛞蝓へと、その小さな拳を叩き付けた。
幼いと云えど、それはあの女郎蜘蛛の拳。
右頬へとめり込んだ拳により、くるうの体が吹き飛ばされる。
その身体を吐き出す糸で絡めとり、押さえ付けては蹴り上げた。
かたわでない幼い体。
そして、あの穏やかな女郎蜘蛛からは想像も出来ない、怒りに満ちた攻撃。
驚きと戸惑いを隠せぬ蛞蝓は涙を溢して、血と愛の言葉を吐き続ける。
川 々 )「くるうはおねぇさまを愛してるのにぃ! おねぇさまだけを愛してるのにぃ!!」
lw#´‘ -‘ノv「その愛を振りかざすだけで通じると思いんすか!?
わっちへの愛を免罪符に全てが許されるとでも思いんすか!?」
川 々 )「知らない知らないぃいっ! ただおねぇさまが好きなのよぉおお!!」
lw#´‘ -‘ノv「わっちが好きだから!? だからなに!? だからはいんを喰ったの!!?
わっちを愛すればはいんを殺しても嫌われないとでも思ったの!!?
そんなものを愛とは呼ばない!! それはただのわがままでしかない!!
愛しているから誰かを殺して良いわけがないと!! 何故に解らないのかッ!!?」
- 808 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:14:13.76 ID:zexdK/JYO
-
川 々 )「そんなっ、そんなの知らないよぉおっ!! くるうは、くるうはぁあああっ!!」
lw#´‘ -‘ノv「黙れ黙れッ!! もうおまえはくるうじゃないッ!!
わっちが可愛がったくるうはそんなに腐った性根じゃないッ!!
おまえはもうあの頃のくるうじゃない!! わっちはもうあの頃のわっちじゃないッ!!」
川 々 )「くるうは変わってないものぉ!! くるうはずっとおねぇさまを愛してる!!
毒の壺に入る様にしたのはくるうよぉ!! くるうはずっと変わってないよぉお!!」
lw#´‘ -‘ノv「…………おまえは、わっちの妹じゃない」
川 々 )「へ……」
lw#´‘ -‘ノv「嘘を吐くなら、最後まで吐き通せ……口を閉ざすなら最後まで閉ざせ
真実を、わっちに伝えるな……その真実により、わっちはおまえを殺す事になる」
川 々 )「おねぇ……さま…………くるうのこと……きらいに、なったの……?」
lw#´‘ -‘ノv「おまえが、嘘を吐き通していれば愛したままだった……
けれど真実を吐いたおまえを……わっちはもう愛せないッ!!!!」
川 々 )「ぁ……おねぇ……さま……」
lw#´‘ -‘ノv「さようなら、わっちの愛したくるう
そして地獄を見に行け、わっちが憎むくるう」
- 812 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:16:14.34 ID:zexdK/JYO
-
糸から産み出された分身は、本体よりも頭も幼い。
その幼さ故に、飲み込み続けた怒りを放出させる。
これは、しゅうの中の幼いしゅう。
感情的でわがままで、理性で押さえられない怒りを持つ。
怒り狂うしゅうに、首を締め上げられるくるう。
その手を毒で溶かしても、女郎蜘蛛の糸はそれを許さない。
どれだけ溶かしても、壊しても、女郎蜘蛛は糸を吐く。
その糸により、幼いしゅうの体が消える事はない。
消えた所で、新たな分身が訪れるだけ。
信じていた、愛していた、可愛い可愛い妹分。
その妹分が、あの地獄を繰り広げた張本人。
その事実に、怒り狂わぬほど、このしゅうは大人ではなかった。
裏切りと云う現実は、確かに、其処にあるのだから。
- 816 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:18:12.36 ID:zexdK/JYO
-
川 々 )「おねぇさま……くるう……おねぇさまと、一緒にいたかったのぉ……
おねぇさまと一緒に……おねぇさまを……愛してるからぁ……だからぁ……」
lw#´‘ -‘ノv「だから、仲間を殺したの?」
川 々 )「仲間なんて、いないよぉ……いらないよぉ……
気味悪がられるくるうを愛してくれたぁ…………そんな、おねぇさまが居るだけで……」
lw#´‘ -‘ノv「わっちは、仲間もみな、愛しておりんした」
川 々 )「だから、だからぁ……独り占めしたかったのぉ…………くるうだけ見てほしかったのぉ……」
lw#´‘ -‘ノv「……それを知られてなお、愛されると思っていたの?」
川 々 )「おねぇさまなら……おねぇさまなら、みぃんな……愛してくれるってぇ……」
lw#´‘ -‘ノv「…………わっちは、そこまで、心は広くない……」
川 々 )「おねぇ、さまぁ…………くるう……」
lw#´‘ -‘ノv「同族殺しは、最大の罪……それを知らぬと云いんすか」
川 々 )「ぁ……は…………あはぁはは……はは……」
- 822 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:20:14.97 ID:zexdK/JYO
-
虚ろな目に涙が浮かび、はらはらとこぼれ落ちる。
無条件で愛してくれた。
無条件で愛してくれると思ってた。
皆から気味悪がられる自分を、優しく受け入れてくれた。
蛞蝓と云うものを、全てをとろかす毒を受け入れてくれた。
だから嬉しくて、嬉しくて、愛しくて。
独り占めして、食べてしまいたいくらい愛しくて。
でも、怒られちゃった。
嫌われちゃった。
こんなに愛しいのに、今でも愛しいのに。
嫌われ、ちゃった。
もう、生きる理由が、見えなくなっちゃった。
- 827 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:22:28.16 ID:zexdK/JYO
-
川 々 )「おねぇ……さまぁ……」
ごめん、なさい。
その呟きが、届いたのか、届いていないのかは解らない。
けれど身体を押さえ込む糸が、はらりとほどけた。
悲しそうに、泣きそうな顔で幼いおねぇさまがこちらを見る。
ああおねぇさま、そんな顔をしないで。
くるうが悪い子だったのね、泣かせてしまったのね。
ほんとに、ほんとに愛してるだけなの。
あなたの全てが愛しいだけなの。
その濃い紫の髪、美しいかんばせ、白い肌。
優しい言葉、穏やかな物腰、抱き締めてくれる四本の腕。
やわらかな身体、すべやかな脚、みんなみんな愛しくて。
あなたを想って、何度この身を慰めたか解らない。
あなたの名を呼んで、呼ばれる事を求めて枕を噛んだ。
- 832 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:24:19.71 ID:zexdK/JYO
-
ただひたすら、ひたすらに、あなたが欲しかった。
わたしだけを見てほしい、それをずっと望んでいた。
何年も、何十年も、あなただけが欲しかったの。
あなたがあの黒い獣を愛するより、ずっと早く、土蜘蛛があなたを求めるよりも早く。
あなただけを、見ていたの。
皆は狂人と呼んだ。
それを、自覚もしていた。
でもそんなの、どうでも良いくらい、愛してる。
今でも、あなたに睨まれながらも、今でも愛してるの。
あなたに、見てもらえる。
あなたに、思ってもらえる。
今のあなたには、わたしが満ちている。
幸せなの、わたし、すごく、幸せなの。
ごめんなさい、おねぇさま、ごめんなさい、わたし、幸せなの。
- 837 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:26:14.59 ID:zexdK/JYO
-
「くるう……おまえを、殺したくないよ……」
おねぇさま。
「だって、可愛い妹なんだよ……可愛いのよ……」
ああ、おねぇさま。
「どうして……どうしておまえを殺さなきゃいけないのよぉ……」
だめよ、おねぇさま、泣いちゃだめ。
「くるう、くるう……どうして…………っどうしてなのよおおおぉっ!!」
泣いたら、そのからだ、壊れちゃうから。
おねがいおねぇさま、泣かないで、泣かないで、ねぇ、泣かないでぇ……。
- 845 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:28:28.32 ID:zexdK/JYO
-
( ΦωΦ)「しゅう、止まれ」
lw´; -;ノv「だんな……さまぁ……」
( ΦωΦ)「殺生をしてはならぬ、そう、云われたであろう」
lw´; -;ノv「だって、だってぇえっ……はいん、が……くるうがぁっ!」
( ΦωΦ)「ならぬ、殺してはならぬ」
lw´; -;ノv「どうすれば良いのぉっ!? わっちどうすれば良いのっ!? わかんないよぉおっ!!」
( ΦωΦ)「泣くな、泣くなしゅう、お前が壊れてしまう」
lw´; -;ノv「ふ、ぅ……うわぁああああああああんっ!! うぁああああああぁああああんっ!!」
川 ゚ 々゚)「……らいじゅう、さまぁ……」
( ΦωΦ)「何だ、妻の妹よ」
川 ゚ 々゚)「……おねぇさま……愛してるのぉ……?」
( ΦωΦ)「ああ、空よりも海よりも大地よりも、広く大きく、愛している」
川 ゚ 々゚)「…………そ、かぁ……そっかぁ……」
- 851 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:30:48.49 ID:zexdK/JYO
-
川 ゚ 々゚)「じゃあ……おねぇさま、任せるからぁ……」
( ΦωΦ)「ああ、任せろ」
川 ゚ 々゚)「だからぁ……くるうを、殺してぇ……?」
( ΦωΦ)「……」
川 々 )「おねぇさまを泣かせたくるうを……殺してぇ……」
( ΦωΦ)「ならぬ」
川 々 )「どぉ……してぇ……? おねぇさまを、泣かせたのにぃ……怒らないのぉ……?」
( ΦωΦ)「怒らぬ訳ではない、しかし、貴様は余りにも憐れ過ぎる」
川 々 )「でも、でもぉ……くるうもう……生きてる意味、ないよぉ……」
( ΦωΦ)「安易に死を望むな、貴様は償うべき罪を背負う
それは貴様の死一つ如きで償える物ではない、故に、死ぬな」
川 々 )「生きて、償えって……云うのぉ……?」
( ΦωΦ)「それが、貴様への罰、嫌われども、蔑まれども、生きろ
生き続けて罪を償え、嫌と云う程に生きろ、さすればいずれは終わろう」
川 々 )「…………」
- 855 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:32:27.91 ID:zexdK/JYO
-
( ΦωΦ)「同族を殺し、しゅうを傷付け、皆を傷付けた
貴様の罪は重い、簡単に死ぬる事など、我輩が許さぬ」
川 々 )「らいじゅう……さまぁ……」
( ΦωΦ)「我輩が、貴様が罪を償う事を見届ける、生きろ愚かな蛞蝓よ」
ああ、この人は。
この人は、わたしが生きる理由をくれた。
この人は、偉大なんだ。
おねぇさまが母なら、この人は父。
わたしの罪を、この人だけが、許してくれると云っている。
素敵な方に、愛されたんだね、おねぇさま。
こんな人だから、あなたは愛したんだね、おねぇさま。
くるうが、引き裂けるわけが、ないやぁ。
- 862 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:34:27.22 ID:zexdK/JYO
-
川 ゚ 々゚)「……くるう、生きて、償う……だから、見ててぇ……だんなさまぁ」
( ΦωΦ)「ああ、そうしろ」
川 ゚ 々゚)「…………ありがとぉ……」
( ΦωΦ)「何の事やら、な…………巫女よ、無事か」
从;゚∀从「無事に、見えるかイ……?」
( ΦωΦ)「否、しかし貴様は簡単には死ぬまい」
从;゚∀从「はは……確かに、ね……暫くすれば、治ってしまうさ……」
( ΦωΦ)「ふむ、ならばこの魑魅魍魎は我輩が片付けようぞ…………おい、小わっぱ」
(;-_-)「っ! は、ひ……!?」
( ΦωΦ)「我輩を恐れるでない、……良い母を持ったな」
(;-_-)「……はいっ」
( ΦωΦ)「…………」
- 867 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:36:16.48 ID:zexdK/JYO
- ( ΦωΦ)「しゅう、大丈夫か」
lw´; -;ノv「……はい」
( ΦωΦ)「ふっ…………強く、立派な子を産んだな……しゅう」
lw´; -;ノv「…………はい、な」
( ΦωΦ)「さて、と……蠅共を撃ち落としていて遅れたが……あとは我輩に任せるが良い
さあ、我輩こそが町の父たる雷獣、杉浦であるッ!!
この雷から逃れられるなら逃げてみよッ!! 雷獣帝とは我輩の事であるぞォッ!!!!」
だん、と地を踏みつけて獣が吼える。
空を引き裂く様な咆哮は、雷を引き連れて地面を抉る。
その胸に燃える思いは、死んだ我が子へ対する愛情。
鎖骨に刻まれた、蜘蛛の形の痣。
忘れた事など一度もない、ただ一人の実の子。
その痣は、巫女と云う新たな母を抱き締める息子の鎖骨を、飾っていた。
己の危険も顧みず、母を助けるその息子。
嗚呼、何と立派な息子であろうか!! 立派なややこであったな、妻よ!!
- 905 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:50:50.13 ID:zexdK/JYO
-
(`・ω・´)「んー……」
('、`*川「……しゃきんさん」
(`・ω・´)「んー……んー……」
('、`*川「しゃきんさんったら」
(`・ω・´)「ん、あ、ああ……何だい? ぺにさすさん」
('、`*川「もう、外ばかり気にして……」
(`・ω・´)「ああ、すまない……」
('、`*川「……気になるなら、気になるならお外へ出てはどうかしら?」
(`・ω・´)「いや、しかし……僕は前線を退いた身さ……」
('、`*川「もう……そんなに外を気にするなら、行ってもよろしいじゃない?」
(`・ω・´)「……僕は、君を付きっきりで守ると決めたから」
- 911 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:52:32.50 ID:zexdK/JYO
-
('、`*川「あら、私は少しくらい、少しくらいは一人でも大丈夫だわ?」
(`・ω・´)「だが、しかし……」
('、`*川「私の好きなしゃきんさんは、悔いを残したりしないわ」
(`・ω・´)「……」
('、`*川「私は大丈夫……大丈夫だから、どうか、どうかね、
……あなたの最後の晴れ舞台を、私に見せて下さらない……?」
(`・ω・´)「ぺにさす、さん……」
('、`*川「私、あなたが戦うところを見た事がないの……だから、だから最後に見せて下さらない?」
(`・ω・´)「…………有り難う、ぺにさすさん」
('、`*川「ふふっ、どうして……どうしてお礼を云うのかしら?」
(`・ω・´)「……行っても、良いのかい?」
('、`*川「ええ、ええ……もちろん」
- 916 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:54:23.30 ID:zexdK/JYO
-
('、`*川「私だって、私だって妖怪よ? それも鬼なの……
だからどうか、どうかね、此処は……私に任せて?」
(`・ω・´)「…………解った」
('、`*川「ええ、行ってらして……此処の人達は、私が守るわ
でも、でもねしゃきんさん…………必ず、帰ってらしてね……?」
(`・ω・´)「もちろん、もちろんだよぺにさすさん……僕はもう君を離さない
……有り難う、行って来るよ、ぺにさすさん!」
('、`*川「行ってらっしゃい……行ってらっしゃいだわ、……帰って、来るんだもの……」
盛岡屋から、獣の姿で飛び出す先代九尾様。
その妻である鬼の女は、それに続いてこっそりと外へ出る。
つんと尖った角に白い着物、流れる黒髪が美しい女。
女が外に出て、睨む先には押し寄せる西の妖怪。
この盛岡屋は、人間が多く避難している。
それを知るからこそ、一挙に押し寄せたのだろう。
('、`*川「ふふっ……私だって、私だって……何も出来ないわけじゃないわ……!」
- 920 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:56:10.99 ID:zexdK/JYO
-
押し寄せる大群に、ぺにさすはにっこりと笑った。
あの餓えたお姫さまの様に強くはない。
でもね、全く力が無いわけではないのよ。
だって私は、あの西で、道具として使われていたんだもの。
道具として使えると云う事は、それなりには力があると云う事。
町の方々を傷付けた罪、これで少しだけでも償いたい。
この身を呈して守る事で、少しでも。
('、`*川「おいでなさい、おいでなさいな…………鬼の女を、甘く見ないでっ!!」
逃げないわ、守られるだけじゃないわ。
あの方が守るために、走って行ったのよ。
私が何もせず、指を銜えて見ているだけなわけ、ないじゃない。
そんなの、誰よりも、私が、許さないわ。
だから
('、`#川「私は、この町に住まう鬼!! 此処を崩したければ、私を殺しと御覧なさいっ!!!!」
- 926 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/15(日) 23:58:29.05 ID:zexdK/JYO
-
ミ,,゚Д゚彡「おーおー、来たなァ色々と」
( ゚∋゚)「色んな場所で色んな声上げてますねぇ、叫んだり泣いたり」
ミ,,゚Д゚彡「此処は比較的静かだけどな」
(´・ω・`)「むきゅ」
ミ,,゚Д゚彡
( ゚∋゚)
(´・ω・`)
ミ,,゚Д゚彡「お前、何で此処に居んの」
(´・ω・`)「むきゅー……」
( ゚∋゚)「百鬼夜行開始に間に合わなかった……?」
(´・ω・`)「むひぃ」
( ゚∋゚)「まあ、あれ逃したら今さら行きづらいですからねぇ……」
ミ,,゚Д゚彡「何してたんだよお前……」
- 930 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/16(月) 00:00:04.25 ID:NjqtsWGoO
-
( ゚∋゚)「何か駄弁ってたらしいですね」
ミ,,゚Д゚彡「そらお前が悪いわ」
(´・ω・`)「むひょー」
( ゚∋゚)「みんな持ち場についてるけど、自分には持ち場がない……って」
ミ,,゚Д゚彡「そりゃお前、しょうがねぇよ……にょろにょろだし」
(´・ω・`)「むっきゅ」
( ゚∋゚)「此処は私達が二人がかりですからねぇ……」
ミ,,゚Д゚彡「もう手は要らねぇな……」
(´・ω・`)ショボン
( ゚∋゚)「御主人……は、そろそろ忙しいでしょうし……」
ミ,,゚Д゚彡「……まあ、適当にその変の妖怪喰って来るか?」
(´・ω・`)「むきゅん……」
- 936 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/16(月) 00:02:12.41 ID:NjqtsWGoO
-
( ゚∋゚)「ま、何か仕事探してみて下さい、此処は私達に任せて」
(´・ω・`)ノシ「むきゅー」
ミ,,゚Д゚彡「頑張れよー」
( ゚∋゚)「……暇そうでしたね」
ミ,,゚Д゚彡「他所入っても、邪魔になるしな……」
( ゚∋゚)「此処を一緒に守れば良かったんでしょうけど……一杯ですからね」
ミ,,゚Д゚彡「二人だからなァ、余るくらいだ」
( ゚∋゚)「じゃんけんでお茶淹れませんか」
ミ,,゚Д゚彡「俺に茶あ淹れさせたらとんでもない味になるぞ」
( ゚∋゚)「もう茶筒の中身を全部急須には入れないで下さいね」
ミ,,゚Д゚彡「半分にまけてやるよ」
( ゚∋゚)「多い多い」
- 939 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/16(月) 00:04:19.89 ID:NjqtsWGoO
- ミ,,゚Д゚彡「もう諦めてお前が淹れろよ……」
( ゚∋゚)「良いではありませんか、たまにはさぼっても」
ミ,,゚Д゚彡「さぼるなよ」
( ^^)「仲良いですね」
( ゚∋゚)「まあ何だかんだで一緒に住んでますしねぇ」
ミ,,゚Д゚彡「結構経つしな」
( ゚∋゚)「ま、愛玩動物ですが」
( ^^)「愛玩動物にしてはおっきいですね」
ミ,,゚Д゚彡「まっちょな愛玩動物とか嫌だな……」
( ゚∋゚)「あなただってぷちまっちょでしょうが」
ミ,,゚Д゚彡「普段は犬だから」
( ^^)「猫のくせに」
ミ,,゚Д゚彡「犬だよ犬」
( ゚∋゚)「ところであなたはどちら様?」
( ^^)「あ、西の牛鬼です」
- 946 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/16(月) 00:06:06.93 ID:NjqtsWGoO
-
( ゚∋゚)「あー牛鬼さんね、お茶飲みます?」
ミ,,゚Д゚彡「ああ牛鬼か、茶あいれてこいよ鳥」
( ^^)「あ、お構い無く」
( ゚∋゚)
ミ,,゚Д゚彡
( ^^)
ミ;,゚Д゚彡「敵襲ーッ! 敵襲ゥウーッ!!」
( ゚∋゚)「一休ーっ! 一休ゥウーッ!!」
メコシ ミ,,゚Д゚彡づ)∋゚) アアン
( ^^)「楽しそうですねー」
ミ;,゚Д゚彡「お前も穏やかに茶あすすってんな! 何なんだよ!!」
( ^^)「どもども牛鬼です、殺しに来ました」
ミ;,゚Д゚彡「解りやすく敵じゃねぇか!!」
- 952 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/16(月) 00:08:04.65 ID:NjqtsWGoO
-
( ゚∋゚)「ふっ……此処に来たのが運の尽き……しりあすれると思わないで下さいよ……!!」
ミ;,゚Д゚彡「しりあすれよ!! やる気ねェのかよ!!」
( ゚∋゚)「ボケる気はあります!!」
ミ;,゚Д゚彡「このすっとこどっこいがァアッ!!」
( ^^)「えーと……殺して良いです?」
ミ゚Д゚,;彡「お前も空気くらい読めよッ!!」
( ^^)「え、やだやだ」
ミ゚Д゚,;彡「腹が立つッ!!」
( ゚∋゚)「やだやだ」
ミ;,゚Д゚彡「どつくぞッ!!」
( ^^)「この人こわいですね」
( ゚∋゚)「そうなんですよ、怖いんです」
ミ#,゚Д゚彡(誰かだいそん持ってこい……)
- 959 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/16(月) 00:10:36.46 ID:NjqtsWGoO
-
( ゚∋゚)「ま、ボケるのはこれくらいにしまして……ご用を一応聞きましょうか」
( ^^)「先刻も云いましたが、殺しに来ましたです」
( ゚∋゚)「して、その理由は?」
( ^^)「秘密ですです」
( ゚∋゚)「ふむ、理由も解らず殺されるわけにはいきませんね」
ミ,,゚Д゚彡「まず、誰が死ぬかよ」
( ^^)「困りましたねー、殺さなきゃなんですが」
( ゚∋゚)「だから、理由は?」
( ^^)「聞き返しますが、どうしてあなた達は此処を守ります?」
( ゚∋゚)「忠誠心です」
( ^^)「……ふうん」
( ゚∋゚)「馬鹿らしいと笑いますか? 西の方には、解らぬ理由でしょうか?」
( ^^)「……じゃあ、解らないと云いましょうか」
- 963 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/16(月) 00:12:13.11 ID:NjqtsWGoO
-
( ゚∋゚)「ふむ、ではあなたには忠誠心は無いと?」
( ^^)「無い、と云っておきます」
( ゚∋゚)「では忠誠心無きあなたに、我らが打ち倒せるとお思いですか」
( ^^)「……忠誠心、ね……面白い事言いますね、そんなものが何になります?」
ミ,,゚Д゚彡「てめえらみてえに、心が貧しくはならねえな」
( ^^)「火車……、町の外に生まれ育った者が町で尻尾を振るなんて笑わせますね」
ミ,,゚Д゚彡「関係ねえな、俺は今、町のモンだ」
( ^^)「良いですよ、じゃあ僕が猫と鳥を食い尽くしてあげますね」
ミ,,゚Д゚彡「掛かって来いや、主無き畜生が」
( ゚∋゚)「忠実なるしもべたる私達が、お相手しましょう」
ミ,,゚Д゚彡「行くぞ黒鳥、ぶちかます!!」
( ゚∋゚)「ええ、火車ふささん、哀れな彼に引導を渡して差し上げましょう!!」
( ^^)「……あは」
- 972 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/16(月) 00:14:56.40 ID:NjqtsWGoO
-
濃い桃色の髪を揺らして、牛鬼が二人から離れる。
忠誠心はない。
それは、まるっきりの嘘。
けれど此処でそんな事を云っても、面倒臭いだけ。
忠誠心が無ければ、思いや理由がなければ、こんな所には来ていない。
だがそれに思いを馳せれば、戦う意志が揺らいでしまう。
可愛い息子であり、お頭である彼の為に戦う。
それはきっと彼らも同じだと解っているから、邪魔っけな言葉は飲み込む。
少しでも、彼の為に立ち回る。
それだけ、自分だけが解っていれば良い。
無駄な事は云わず、考えないで。
( ^^)「行きますですよ……牛鬼の恐ろしさ、見せてあげますっ!!」
悪者に、徹すれば良いんだ。
- 977 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/16(月) 00:16:43.86 ID:NjqtsWGoO
-
長い袖に隠された腕をぶんと振るい、刃の様な空気を飛ばす。
その空気を火車が軽く避け、陰摩羅鬼は正面から受け止めて弾いた。
ちっとは避けろよと呆れた顔で呟くも、火車は気にせずに巨大な車輪を呼び出す。
炎を纏うそれに飛び乗ると、数秒ほど空転した後に、牛鬼へと勢い任せに突っ込んだ。
己へと突っ込む巨大な火車を牛鬼は両腕で受け止め、弾く。
しかし構わずに何度もこちらへ特攻する火車に舌を打つと、地面へ爪を立てて地を抉った。
抉られた地面にはまった火車はその場でぎゃりぎゃりと回転し、前へ進みはしない。
するとふさは車輪から飛び降り、爪を伸ばして牛鬼に飛び掛かる。
避けようと腕を上げた牛鬼の背後に回るのは、黒い影。
牛鬼をがしりと羽交い締めにする、陰摩羅鬼の強靭な腕。
突然押さえ付けられた体に、振りほどく暇も与えず、ふさの爪が牛鬼を襲った。
- 983 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/16(月) 00:18:36.75 ID:NjqtsWGoO
-
( ^^)「ちっ……鬱陶しい……なあっ!」
( ゚∋゚)「ぐっ! ……その様な細い腕で、私を倒せるものですかっ!!」
ミ,,゚Д゚彡「オラァッ! 押さえとけよくっくるゥッ!!」
( ^^)「だ、うわっ!?」
ミ,,゚Д゚彡「火車の炎を食らえやぁああッ!!」
( ゚∋゚)「あつつつつつつッ!!」
ミ,,゚Д゚彡「うっせェ我慢してろッ!!」
( ゚∋゚)「焼き鳥になりますから! 美味しそうですから!!」
ミ#,゚Д゚彡「間違いなく不味いから安心しろよッ!!」
炎を纏わせた小さな車輪を幾つも呼び、牛鬼を押さえるくっくるを巻き込んで走らせる。
円形に走る車輪により、その内側はみるみるうちに炎に包まれ、そこだけが火の海と化す。
一緒に炎に飲み込まれたくっくるは声を上げるが、大して苦しそうではない。
しかし足元の炎に近い牛鬼は、わあわあと悲鳴を上げてもがくばかり。
- 992 ◆XCE/Wako2nqi 2010/08/16(月) 00:20:41.63 ID:NjqtsWGoO
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ミ,,゚Д゚彡「んっだァ……? お前、牛鬼の癖に思ったよりよえーな……」
(; ^^)「あ、つ……あっつ! あっつい! こっちは未だ傷も癒えてないんですよう!!」
( ゚∋゚)「ああ、手負いでしたか」
(; ^^)「先代様、手加減しないから年寄りの冷や水で……って熱い熱い!!」
( ゚∋゚)「良いですよふささん、効いてます」
(; ^^)「何で平気なんですかあんたぁっ!!」
( ゚∋゚)「くっくるですからね、尾羽根が燃えてて臀部辺りがかなり危険ですが」
ミ,,゚Д゚彡「あと一時間くらいそのまま燃えるか?」
(; ^^)「やー! 離してくださいーっ!!」
( ゚∋゚)「ふささんの私を蔑ろにする気持ち、びんびん伝わりますね。臀部熱い臀部」
(; ^^)「だから何で平気そうなんですかあーっ!!」
ミ,,゚Д゚彡「それだからしょうがねェよ、前に店憑き共とやったんだろ、それと似たようなもんだ」
(; ^^)「ただのしりあすくらっしゃーじゃないですかーっ!!」